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Cancer 27 (2018)
書評 Book Review
松澤 圭資さんと言えば,日本甲殻類学会,日本
水産学会では大変著名な方であり,小学校,中学校
に勤務なさった経験を生かされて,長年の室戸岬周
辺での海洋生物の蒐集,調査報告においては世界的
にも知られる存在である.とりわけ特徴的と言える
ことは,本書でも詳細に述べられる,室戸岬周辺で
昭和30年代後半から盛んに運用されるようになっ
た深海刺し網漁業に注目され,土佐湾東部から紀伊
水道にかけての,多様な海洋生物について綿密な調
査を行われたこと,そのアウトリーチとして地元新
聞社ともタイアップした普及広報活動を熱心に実施
されたことが挙げられる.
本書は,あとがきにも記される通り,昭和55年1月
から昭和57年5月に朝日新聞高知版に連載された「黒
潮の仲間たち」シリーズを改めて単行本に取りまと
めたものであり,学術的な分類体系も参考にしつつ,
「背骨のない黒潮の仲間たち」を小学校高学年の生徒
を念頭にわかりやすくまとめている.一見すると種名
目録に著者の雑感が添えられた読み物と考えられが
ちであるが,同様な作業に従事しているアクアショッ
プから見るに,「背骨のないいきものたち」から,ど
のように松澤さんが「屋台骨となる金刀比羅宮を控
える,いきものたちの器である「室戸半島とその海」
を眺めたのか?」が大変わかりやすく記されており,
伊勢志摩の地を支える伊勢神宮を控える志摩半島か
ら熊野灘を概観するにあたって「黒潮の潮上の地から
の,この上ない海の教科書」と捉えることができる.
本書の紹介にあたっては,ありきたりな書誌情報
を羅列するよりは記された記述の歴史背景や,黒潮
の洗う太平洋ベルト地帯での「室戸半島のあり方」
との関連を取り上げることが重要であろう.松澤さ
んは我が国の高度経済成長期における漁業,学術の
プロモーションにあたって標本や有用情報の提供者
として「影の主役」として長らく活躍されたが,そ
のプロセスでの「生の声」が本書には随所に記され
ている.例えば,日本甲殻類学会に関連させるなら,
コウナガカムリ,ムロトホモラ,カノコマダラガニ,
ワグエビの近似種が著名な存在であるが,これらの
学術的に貴重な十脚甲殻類たちを「現場目線でどう
見たのか」が本書では単純明快に,しかし生き生き
とした迸る躍動感を以って記されている.そうした
「お神輿」にあたる存在を戴きつつ,水産重要種を
含めた普通種や希少種ながら影の薄い「黒潮の仲間
たち」にもお声かけをする,ちょうど学級委員会で
の一コマを彷彿させるようなこころ温まる配慮が随
所に施されていることも読みどころと言えよう.
昨今の「海のいきもの」を巡る書籍は美麗なカラー
画像や豪華な装丁を以って読者を惹きつける工夫が飛
躍的に進んでいるものの,いきものたちから何を見て
とり,地域社会との連関でどのような産業社会学や地
域振興との関連で書籍上梓に至ったのか,そのプロセ
スでの「豪華さと裏腹の企画の平板化」が顕著な印象
がある.そうした中で,松澤さんが昭和
29年から地
道に室戸半島において「黒潮の仲間たち」と語らいな
がら,黒潮の洗う各地の「仲間たち」と連絡を取り合
い,学術団体と言う舞台にてその一端を紹介してくだ
さったことは,改めて海洋生物学の本来あるべき姿
勢,持つべき思想について訓誡してくださっているこ
とと捉えるべきであろう.その一方で,こうした書籍
の販売戦略について松澤さんが「意外な経世済民」
を実践されていることも,注意深く本書の行間を探
れば理解できるように構成されていることも読みど
ころである.ぜひ,これから学術に関わる皆さんに
は手に取っていただき,我が国の海洋思想を知る良
き教科書として読んでいただけることを願っている.
(三重外湾漁業協同組合・
アクアショップ 夢市場…ドルフィン)
書評「黒潮の仲間たち」
松澤圭資
リーブル出版
2017年12月25日初版第1刷発行 A5版,127 pp
ISBN978-4-86338-201-5 1600円(+税)