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ノルディック・ウォーキングが高齢者の歩行に与える影響

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(1)理学療法学 第 44 巻第 1 号 11 ∼ 18ノルディック・ウォーキングが高齢者の歩行に与える影響 頁(2017 年). 11. 研究論文(原著). ノルディック・ウォーキングが高齢者の歩行に与える影響* 本 宮 丈 嗣 1)# 山 本 澄 子 2). 要旨 【目的】初心者・高齢者向けのディフェンシブ・スタイルのノルディック・ウォーキング(以下,NW) が高齢者の歩行に与える影響について検討する。 【方法】杖なしで自立歩行可能な高齢者 28 名を対象と し,通常歩行とディフェンシブ・スタイルの NW を三次元動作分析装置・床反力計を用いて計測した。 【結果】通常歩行と NW を比較した結果,荷重応答期の床反力鉛直方向成分は,有意差を認めなかった。 歩隔・体幹側屈振幅・身体重心左右移動振幅は,NW で有意に減少した。歩隔と身体重心左右移動振幅と の間に,正の有意な相関が認められた。 【結論】ディフェンシブ・スタイルの NW は,前額面上において 安定性の高い歩行であることが示唆された。 キーワード 高齢者,ノルディック・ウォーキング,床反力,側方安定性. ることが求められると考えられる。これらのことから,. はじめに. 高齢者が要支援状態とならないようにするためには,安.  介護保険制度において要支援者・要介護者と認定され. 全で気軽に行える方法で,関節の負担を考慮した運動を. た者は年々増加しており,要支援認定者は全国で 175 万. 習慣的に行うことが重要となると考えられる。そのひと. 1). 人といわれている 。国民生活基礎調査によると,要支. つとして近年,NW が注目されてきている。NW は通常. 援認定者の介護が必要となった原因の第 1 位が関節疾患. 歩行と比較して運動効果が高い. (20.7%) ,第 2 位が高齢による衰弱(14.1%),第 3 位が 2). 4)5). と報告されている. ことから,安全に行える方法で関節の負担を考慮した運. 。関節. 動として NW を検証することは有用であると思われる。. 疾患の原因疾患として,変形性関節症(osteoarthritis:.  NW には,歩幅が増加する・歩きやすい・疲れにくい. 骨折・転倒(11.3%)であると報告されている. 以下,OA)が挙げられる。OA には多くの因子が関与. といった特徴があり,ポールの使用方法によってアグ. しており,疾病というよりも,メカニカルストレスによ. レッシブ・スタイル(図 1a)とディフェンシブ・スタ. る臓器不全と考えられている。部分的な軟骨下骨の硬化. イル(図 1b)に分けられる。アグレッシブ・スタイル. は荷重分散の非均一化を招き,軟骨組織に歪みが生じ,. はポールを床に対して斜めに突くことで加速に利用し,. 3). 。過度なメカニカル. スポーツ性の高いものとなっている。一方,ディフェン. ストレスは OA を進行させる要因であるため,高齢者. シブ・スタイルはポールを床に垂直に突くことにより安. にはメカニカルストレスが過度にならないような対応,. 定性を重視し,ポール使用によって衝撃吸収を行い,初. つまり関節の負担を考慮した運動が重要となる。また,. 心者・高齢者・障害のある方向けとなっている。. 骨折・転倒が介護が必要となった原因の第 3 位であるこ.  NW の普及にしたがって様々な報告が行われてきてお. とから,転倒のリスクの低い安全性に配慮した運動であ. り,バイオメカニクスの手法を用いた計測もなされてき. さらに軟骨組織の破壊が進行する. *. Effect of Nordic Walking on the Gait of the Elderly 1)八千代リハビリテーション学院 (〒 276‒0031 千葉県八千代市八千代台北 11‒1‒30) Takeshi Motomiya, PT, MS: Yachiyo Rehabilitation College 2)国際医療福祉大学大学院福祉支援工学分野 Sumiko Yamamoto, Eng, PhD: Department of Assistive Technology Science, International University of Health and Welfare, Graduate School # E-mail: motomiya@yachiyo-reha.jp (受付日 2016 年 5 月 10 日/受理日 2016 年 9 月 9 日) [J-STAGE での早期公開日 2016 年 10 月 26 日]. ている。Willson ら. 6). は,若年健常成人 13 名を対象に. 通常歩行,ディフェンシブ・スタイルの NW,アグレッ シブ・スタイルの NW を計測した結果,通常歩行と比 較して NW では床反力鉛直方向成分はポールの使用方 法に限らず減少したと報告している。塩崎ら. 7). は,健. 常成人 7 名の通常歩行と NW とを比較した結果,NW で立脚期において約 2 割の床反力が減少し,免荷効果が.

(2) 12. 理学療法学 第 44 巻第 1 号. が不明となっている。つまり,高齢者を対象としたディ フェンシブ・スタイルに特化した報告は見あたらない。  本研究は,高齢者を対象としたディフェンシブ・スタ イルでの NW を通常歩行と比較することにより,ディ フェンシブ・スタイルでの NW が高齢者の歩行に与え る影響を,運動学的・運動力学的に明らかにすることを 目的としている。 対象および方法 1.対象  選定基準は i)杖なしで自立歩行可能である,ii)要支 援・要介護認定を受けていない,iii)腰や股・膝関節に 図 1 NW の歩行スタイル a アグレッシブ・スタイル 前方に突くポールは,前に振り出した足と後ろ側の足の中間 に突き,斜めに突く. b ディフェンシブ・スタイル 前方に突くポールは,前に振り出した足の横に,床に垂直に 突く.. 痛みや手術等の既往のない,iv)神経学的疾患の既往の ない,v)口頭指示が理解可能である,の 5 つとした。 以上のすべての条件を満たす,65 歳以上の高齢者 28 名 を対象とした。自立歩行は,一人で外出ができることと 定義した。対象者の内訳は男性 17 名・女性 11 名であり, 年齢 72.4 ± 4.9 歳(男性 72.8 ± 4.2 歳,女性 71.7 ± 5.9 歳) , 身 長 160.1 ± 7.4 cm( 男 性 163.8 ± 5.0 cm, 女 性 154.5 ± 7.0 cm),体重 58.1 ± 8.7 kg(男性 62.9 ± 6.5 kg,女. 認められた。従来下肢疾患を有する症例では,下肢に荷. 性 50.8 ± 6.2 kg) ,BMI 22.6 ± 2.5(男性 23.5 ± 2.3,女. 重負荷がかかるため水中歩行や自転車こぎの理学療法が. 性 21.3 ± 2.4)であった。すべての対象者が NW 未経験. 推奨されてきたが,NW を用いることによっても下肢に. 者であり,歩行時に腰痛や関節痛を有していなかった。. 過剰な負担をかけることなく理学療法が行える可能性が. 本研究は八千代リハビリテーション学院の承認を得た. 8). は,健常者 5 名. 後,国際医療福祉大学倫理審査委員会(承認番号 14-Ig-. の通常歩行と NW とで床反力鉛直方向成分を比較した. 93)の承認を得て行った。対象者には方法と目的につい. 結果(第 1 峰を Fz1,第 2 峰を Fz2,両者の谷を Fz3 と. て,文書にて説明を行い,研究の参加に対する同意を得. する),Fz1 は変化なく,Fz2 は減少傾向,Fz3 は有意. て行った。. 示唆されたと報告している。福島ら. に減少したと報告している。これらの報告は,NW が通 常歩行と比較して下肢の負担を軽減するという結果と. 2.方法. なっている。. 1)計測機器・マーカー貼付.  一方で,NW が通常歩行と比較して下肢の負担を軽減.  計測は,6 台の赤外線カメラより構成される三次元動. しないという,相反する報告もなされている。Hansen. 作 解 析 装 置 VICON MX(VICON Motion Systems 社. ら. 9). は,NW の経験豊富な女性のインストラクター女. 性 7 名を対象に通常歩行と NW を比較した結果,床反. 製),および床反力計(AMTI 社製)を 1 枚使用した。 計測空間の左右方向を X 軸,前後方向を Y 軸,上下方. 力鉛直方向・前後方向ともに有意差は認められなかっ. 向を Z 軸とした。サンプリング周波数は,100 Hz とし. た。膝関節の圧縮力・剪断力に有意差はなく,NW の膝. た。対象者とポールに 14 mm の赤外線反射マーカーを. 関節負荷量の低下は認められなかったと報告している。. 貼付した。. 10). は,平均 2 年間の NW 経験を有する 15 名の.  赤外線反射マーカーの貼付部位は,頭頂部・両側頭. 成人男性を対象に通常歩行と NW で比較した結果,NW. 部・両肩峰・両上腕骨外側上顆・両橈骨茎状突起・頸切. で踵接地時の床反力が鉛直方向・前後方向ともに増大し. 痕・胸骨剣状突起・第 7 頸椎棘突起・第 10 胸椎棘突起・. たと報告している。. 両上前腸骨棘・両上後腸骨棘・両股関節(大転子から同.  しかしながら,これらの研究は対象が若年健常人や. 側の上前腸骨棘間の 1/3 の部分)・両膝関節(内側と外. NW の経験者・インストラクターなどであり,歩行速度. 側の膝関節裂隙の高さで膝蓋骨を除いた前後径中間の位. も 1.5 ∼ 2.0 m/sec など比較的速い速度での計測となっ. 置) ・両外内果・両踵骨・両第 1 中足骨骨頭・両第 5 中. ている。また Willson・Hansen 以外の報告はポールの使. 足骨骨頭・ダミーと,左右の各ポールに 2 点ずつ(杖先. 用方法が明記されておらず,アグレッシブ・スタイルで. ゴム上端・杖先ゴム上端から把持部下端の 1/2 の部分). の計測なのかディフェンシブ・スタイルでの計測なのか. とした。. Stief ら.

(3) ノルディック・ウォーキングが高齢者の歩行に与える影響. 13. 図 2 歩行周期の決定 代表例 1 名の,1 歩行周期中の踵骨と第 1 中足骨骨頭に貼付したマーカーの高さの 軌跡を示す.①歩行周期 0%地点(IC)は床反力データを基に,床反力鉛直方向成 分が立ち上った地点とした.②非計測側のつま先離れは,静止立位時の非計測側の 第 1 中足骨骨頭に貼付したマーカーの高さを超えた地点とした.③計測側の踵離れ の地点は,静止立位時の計測側の踵骨に貼付したマーカーの高さを超えた地点とし た.④非計測側の IC は,静止立位時の非計測側の踵骨に貼付したマーカーの高さま で下降した地点とした.⑤計測側のつま先離れは,床反力データを基に,床反力鉛 直方向成分が消えた地点とした..  計測時に使用するポールは,NW 専用ポールである. した。NW を行う際の練習は,初めに何も口頭指示せず. ポータブルアルミ D フィット 3 段伸縮式(HATACHI). に歩いてもらい,前述の 4 つの条件が行える場合はその. を用いた。このポールは調節可能であり,対象者毎の身. まま計測へと移った。前述の 4 つの条件が行えているか. 長に合わせて下記のように調節を行った。計測に使用す. どうかの判断は,練習様子を筆者が目視で確認して行っ. る靴は靴底の形状や機能による影響をなくすためビニー. た。口頭指示なしで行えない場合は,デモンストレー. ルバレーシューズ(TOPVALU)に統一し,対象者毎. ションを行うとともに「ポールは軽く握って真下に突い. に最適なサイズを選択した。. てください。できるだけ下を向かず,前を向いて楽に歩. 2)計測課題. いてください。腕は意識せず,自然に振るようにしてく.  計測課題はポールなし(通常歩行)とポールあり. ださい。」と指示した。その際,踏み出した下肢と同側. (NW)の 2 条件の歩行を行った。通常歩行は 5 試行分. のポールを突いてしまう場合には,「右足を出すときは. 行った。足の床反力計測とポールの床反力計測を同時に. 左のポールを,左足を出すときは右のポールを突いてく. 行うことができなかったため,NW は足の床反力計測を. ださい」と指示を行った。計測空間を数周歩行しながら. 5 試行分,ポールの床反力計測を 5 試行分の,計 10 施. 5 分程度練習を行い,慣れたら計測へと移った。. 行行った。計測順番は,通常歩行の計測後に NW の計. 3)歩行周期の決定. 測を行う者を 14 名,NW 計測後に通常歩行の計測を行.  VICON NEXUS と Work station の動画から,対象と. う者を 14 名とした。ポールは全日本ノルディック・. する下肢の初期接地(initial contact:以下,IC)と同. ウォーキング連盟が推奨している長さを参考にして,立. 側 下 肢 の IC ま で の 1 歩 行 周 期 を 抽 出 し, 時 間 軸 を. 位で肘関節 90°屈曲位より 1 ∼ 2 cm 下げた高さで把持. 100%に正規化し,歩行の相分けを行った。歩行の相分. し,床に垂直についたときの長さとした。NW の方法は. けは,ランチョ・ロス・アミーゴ方式を採用し,荷重応. ディフェンシブ・スタイルといわれる方法で,①前方に. 答 期(loading response: 以 下,LR) , 立 脚 中 期(mid. 突くポールは床に垂直に,前足と同じ位置に突く,②. stance:以下,MSt)立脚終期(terminal stance:以下,. ポールは床に軽く置くように突く,③反対側のポールは. TSt),前遊脚期(pre-swing:以下,PSw)に分類した。. 後ろ足の横に添えるようにする,④肩の力を抜きグリッ. 相分けについては床反力計が 1 枚であるため,床反力. プは軽く握るようにして行った。. データと,踵に貼付したマーカーと第 5 中足骨に貼付し.  計測下肢は利き足(利き手側)とした。歩行条件は自. たマーカーの Z 軸の軌跡とデータを確認して同定した. 由歩行とし,通常歩行の際,対象者に「できるだけ前を 向いて,普段歩いている速さで歩いてください」と指示. (図 2)。.

(4) 14. 理学療法学 第 44 巻第 1 号. 表 1 歩行速度,歩幅,ケイデンス・歩隔の結果 通常歩行. NW.  . 1.28 ± 0.11. 1.28 ± 0.12. NS. 歩幅(mm):補正前. 659.4 ± 57.2. 662.7 ± 55.9. NS. 歩幅(%). 41.28 ± 3.65. 41.40 ± 3.34. NS. 歩行速度(m/s). 118.58 ± 1.43. 117.51 ± 1.62. **. 歩隔(mm):補正前. 97.3 ± 34.7. 88.7 ± 39.1. **. 歩隔(%). 6.07 ± 2.14. 5.53 ± 2.40. **. ケイデンス(steps/min). Mean ± SD NS:not significant,*:p<0.05,**:p<0.01. 4)解析方法と算出項目. いて,① NW の計測を先に行った NW・②通常歩行後.  VICON 社製の VICON Body Builder3.6.1 を用い,床. に計測を行った NW・③ NW 後に計測を行った通常歩. 反力鉛直方向成分・体幹屈伸角度・体幹側屈角度・身体. 行・④通常歩行の計測を先に行った通常歩行に分け,く. 重心(center of gravity:以下,COG)位置の項目を抽. り返しのある二元配置分散分析を行い,NW 先行群・通. 出した。体幹の座標系は第 7 頸椎棘突起・第 10 胸椎棘. 常歩行先行群の交互作用の有無を確認した。その後,床. 突起・頸切痕・剣状突起の,胸郭に貼付した 4 点のマー. 反力鉛直方向成分を除くすべてのパラメーターについ. カーから定義し,体幹屈伸角度・体幹側屈角度は,計測. て,NW と通常歩行を対応のある t 検定を用いて比較し. 空間に対する絶対空間上の角度を計算して割りだした。. た。床反力鉛直方向成分は歩行速度の影響を受けること. COG は,三次元座標データより身体を頭部・上体,左. から,歩行速度を共変量とした共分散分析を用いて比較. 右の大. した。値は平均値・(標準偏差 Standard Deviation:以. ・下. ・足部の 8 つのセグメントに分けた剛体 11). を用い. 下,SD)で示し,有意水準は 5%に設定した。パラメー. て計算を行った。次に抽出したデータを 1 歩行周期に合. ター間の相関関係を確認する際には,Pearson の積率相. わせて時間軸 100%プログラムを使用し,エクセル形式. 関係数を用いた。統計には統計学的ソフト IBM SPSS. リンクモデルを作成し,日本人の身体データ. (Microsoft 社製表計算ソフト Excel2013)に変換し,上 記項目を正規化した。正規化後の抽出データは対象者毎 に NW・通常歩行の条件別に 5 試行分を平均し,それぞ. Statistics22 を用いた。 結   果. れ を 代 表 値 と し た。 床 反 力 デ ー タ は 体 重(kg) で,. 1.計測順の影響の検討. COG 振幅は身長(mm)で正規化した。.  抽出したすべての項目において,NW 先行群と通常歩.  また,VICON 社製の VICON NEXUS と Work station. 行先行群で交互作用を認めなかった。そのため,以下で. を用い歩行速度・歩幅・ケイデンス・歩隔を算出し,5. は NW の計測を先に行った NW・通常歩行後に計測を. 試行分を平均してそれぞれを代表値とした。. 行った NW をまとめて NW,NW 後に計測を行った通.  床反力鉛直方向成分・体幹屈伸角度・体幹側屈角度・. 常歩行・通常歩行の計測を先に行った通常歩行をまとめ. COG 位置・歩行速度・歩幅・ケイデンス・歩隔は足の. て通常歩行とし,両者を比較した。. 床反力計測時のデータを採用し,ポール反力のみポール の床反力計測時のデータを採用した。. 2.NW と通常歩行の比較.  単位については,身長で補正した歩幅・歩隔・COG.  歩行速度・歩幅・ケイデンス・歩隔の結果を表 1 に示. 左右移動振幅は身長比(%),体重で補正した床反力鉛. す。歩行速度・歩幅は通常歩行と NW とで有意差を認. 直方向成分は体重比(%)で表した。. め な か っ た が, 歩 隔 は NW で 有 意 に 減 少 し た(p <.  COG 左右移動振幅と,体幹側屈角度振幅・歩隔との. 0.01)。ケイデンスは NW で有意に減少した。床反力に. 間の関係の検証を行った。方法として,各パラメーター. ついては,床反力は歩行速度の影響を受けるため,足の. での NW 平均値から通常歩行の平均値を減算し,通常. 床反力計測時とポール反力計測時の歩行速度の比較を. 歩行を基準として NW でどの程度増減したのか変化量. 行った。その結果,ポール反力の計測時と足の床反力計. を算出し,変化量から両者の相関を割りだした。. 測時の歩行速度に,差がないことを統計で確認した。. 5)統計学的処理.  対象者 28 名の通常歩行と NW の床反力鉛直方向成分.  NW 後に通常歩行の計測を行った群については,NW. の平均波形を図 3 に示す。LR ∼ MSt における床反力鉛. の即時的な効果が通常歩行計測に影響を及ぼす可能性が. 直方向成分ピーク値は,有意差は認められなかったが. あると考えられる。そのためすべてのパラメーターにつ. NW で減少傾向にあった(p = 0.063) 。また,この時期.

(5) ノルディック・ウォーキングが高齢者の歩行に与える影響. 図 3 床反力鉛直方向成分の平均の比較 横軸の開始点は対象とする下肢の IC,終了点は同側の IC で あり,1 歩行周期を表している.LR ∼ MSt における床反力 鉛直方向成分がピークとなるタイミングは,ノルディック・ ウォーキング(NW)・通常歩行ともに IC から 15%の時点で あり,両者に違いはみられない.. 15. 図 5 COG 左右移動振幅の変化量と歩隔の変化量の関係 各パラメーターは,ノルディック・ウォーキング(NW)の 値から通常歩行の値を減算した増減値で算出した.. に対して,NW の屈曲角度変化は大きい傾向にあった。 体幹側屈角度の振幅は,NW で有意に減少した(p < 0.01) 。COG 左右移動振幅は NW で有意に減少した(p < 0.01) 。 3.COG 左右移動振幅と,歩隔・体幹側屈角度振幅との 関係  COG 左右移動振幅と,歩隔・体幹側屈角度振幅との 関係の結果を図 5 に示す。COG 左右移動振幅と歩隔と の関連には有意な正の相関が認められた(r = 0.708)が, 図 4 体幹屈曲角度の平均の比較 横軸の開始点は対象とする下肢の IC,終了点は同側の IC で あり,1 歩行周期を表している.図の↕は床反力鉛直方向成 分第 1 峰のタイミングである,LR ∼ MSt を示している.通 常歩行・ノルディック・ウォーキング(NW)ともに常に屈 曲位である.LR 後に体幹が屈曲していくが,通常歩行はな だらかに屈曲していくのに対して NW では屈曲角度変化が大 きい.. 体幹側屈角度振幅と COG 左右移動振幅との関連には相 関は認められなかった。 考   察  NW が下肢の負担に与える影響について,先行研究で は Willson ら Hansen ら. 6‒8). 9)10). は 負 担 を 軽 減 す る と 報 告 し て お り,. は負担を軽減しないと報告している。. これらは床反力鉛直方向成分を基に述べられている。 の床反力鉛直方向成分がピークとなるタイミングは,. NW が下肢の負担を軽減させるか否か,床反力鉛直方向. NW・通常歩行ともに IC から 15%の時点であり,両者. 成分で先行研究と比較を行った。本研究では,NW の. に違いはみられなかった。. LR ∼ MSt における床反力鉛直方向成分は通常歩行と比.  MSt ∼ TSt における床反力鉛直方向成分ピーク値(最. 較して減少したが,歩行速度を考慮すると有意差は認め. 下点)・TSt ∼ PSw における床反力鉛直方向成分ピーク. られず,Hansen ら. 値はともに有意差を認めなかった。LR ∼ MSt における. ポールの衝撃吸収作用について二宮ら. 床反力鉛直方向成分ピーク値の,通常歩行から NW の. 力は床反力の極小値をとるまでの期間では力を十分に発. 減少分は 4.70 ± 5.99%,同時期のポール反力は 4.13 ±. 揮しており,ポールの接地によって体全体が上方向に押. 2.31%と同程度の値であった。ポール反力は,足の床反. し上げられた結果,床反力が減少したと推察されると報. 力鉛直方向成分の約 1/38 程度であった。. 告している。この二宮ら.  対象者 28 名の通常歩行と NW の体幹屈曲角度の平均. ピークとなる時期が,足の床反力鉛直方向成分がピーク. 波形を図 4 に示す。LR ∼ MSt における体幹屈曲角度の. となる時期と一致しており,歩行周期 20 ∼ 30%の時期. 平均は NW で有意に屈曲した(p < 0.01) 。また,通常. となっている。これに対し本研究では,ポール反力が. 歩行・NW ともに LR で体幹が伸展方向へ動き,LR 終. ピークとなる時期は MSt(歩行周期 30%) ,足の床反力. 了時にピークとなるが屈曲位のままとなっている。その. 鉛直方向成分がピークとなる時期は LR ∼ MSt(歩行周. 後体幹は屈曲するが,通常歩行はなだらかに屈曲するの. 期 15%)であり,二宮ら. 9) 10). の報告を支持する結果となった。. 12). 12). は,ポール反. の報告では,ポール反力が. 12). の報告とは異なる結果と.

(6) 16. 理学療法学 第 44 巻第 1 号. 表 2 床反力鉛直方向成分・体幹側屈角度振幅・COG 左右振幅の結果 歩行周期 床反力鉛直方向成分(%)最高点. LR ∼ MSt. 通常歩行 109.56 ± 9.78. NW.  . 104.86 ± 10.74. NS. 床反力鉛直方向成分(%)最下点. MSt ∼ TSt. 73.70 ± 6.91. 72.42 ± 7.94. NS. 床反力鉛直方向成分(%)最高点. TSt ∼ PSw. 101.44 ± 7.16. 101.22 ± 7.07. NS. ポール反力:鉛直方向成分(%). LR ∼ MSt. 体幹屈曲平均角度(°). LR ∼ MSt. 4.13 ± 2.31 2.45 ± 3.75. 3.75 ± 3.67. **. 体幹側屈角度振幅(°). 4.17 ± 1.42. 3.23 ± 1.37. **. COG 左右移動振幅(%). 2.41 ± 0.74. 2.04 ± 0.82. **. Mean ± SD NS:not significant,*:p<0.05,**:p<0.01. なった。二宮ら 12)の報告では,対象者は 6 週間にわたっ. 田ら. て NW を実施しており,NW 動作に十分に習熟してい. さを直接的に表す指標となる可能性があると述べてい. るのに対し,本研究の対象者は NW 初心者である。本. る。この COG 左右移動の減少についての要因を,体幹. 研究では計測前にポール使用方法の練習を行ったが,. 側屈角度振幅・歩隔の前額面上におけるパラメーターの. ポールの使用方法を十分に習熟した状態での計測とは言. 通常歩行からの増減値で検討した。COG 左右移動振幅. い難い。そのためポール接地のタイミングのズレなどが. と,歩隔との間で正の有意な相関が示されたが,体幹側. 生じ,このような結果となったと考えられる。しかし,. 屈角度振幅には相関を認めなかった。相関を認めた歩隔. LR ∼ MSt における床反力鉛直方向成分ピーク値の通常. は通常歩行と比較して NW で有意に減少していること. 歩行から NW の減少分と,この LR ∼ MSt におけるポー. からも,COG 左右移動振幅の減少は歩隔の減少が大き. ル反力のピーク値の平均は同程度の値であった。これら. な要因であると考えられる。. のことから,本研究ではポールで床を押す力によって床.  若年者と高齢者の歩行を比較した先行研究では,高齢. 反力鉛直方向成分を減少させるが,ポールの接地タイミ. 者において有意に歩隔の増大が認められたと報告されて. ングのズレなどからポールの効果を十分に発揮できてい. いる. なかったと考えられる。. いて,高齢者は若年者と比較して身体左右動揺量が小さ.  体幹の動きについて,本研究では通常歩行・NW とも. かった。若年者は身体の左右振幅を大きくすることで狭. に IC から LR の間で体幹は屈曲位から伸展し,LR 終了. い支持基底面で足圧中心位置を巧みに調節して重心を制. 時にピークとなった。その後体幹は屈曲するが,通常歩. 御しており,一方,高齢者は加齢に伴う運動機能低下に. 行はなだらかに屈曲していくのに対して,NW の屈曲角. より身体左右動揺量が減少し,対側上肢を高く振り上げ. 度変化は大きい傾向にあった。この時期は床反力鉛直方. て調節していると報告している。そして,高齢者は歩行. 向成分 1 峰のタイミングと一致しているため,体幹屈曲. において左右動揺に耐えうる動的筋力が低下するが,歩. 角度変化が NW での床反力鉛直方向成分の減少に影響. 隔を増大させることによって対応可能であると述べてい. していることが考えられた。しかし,角度変化は 1 度未. る。つまり高齢者は運動機能低下などから生じる左右動. 満であるため,NW も通常歩行も大きな変化はないこと. 揺調節能力低下を,歩隔を増大させることによって代償. から,NW での床反力鉛直方向成分の減少の要因となる. していると考えられる。. 12). 13). は,身体重心軌跡の左右変動は,歩行の不安定. 14‒16). 。高橋ら 17) は,歩隔を増大させた歩行にお. は,多くの対象者が「NW.  本研究では,NW において COG 左右移動振幅・体幹. では姿勢がよくなる」と感想を述べていたが,計測した. 側屈角度振幅・歩隔が有意に減少し,COG 左右移動振. 結果,屈曲傾向にあると報告しており,これはポールを. 幅と歩隔は有意な正の相関が認められている。これは,. 前方に突くことで重心が前方に移動したことが原因であ. NW ではポールを突くことにより支持基底面が広がり,. ると推測されると述べている。本研究では,通常歩行と. 運動機能低下による左右動揺調節を,歩隔を増大させる. 比較して NW では常に体幹が屈曲しており,同様の結. ことによって代償する必要がなくなったことが要因であ. 果となった。本研究では体幹は胸郭で定義しており,. ると考えられる。滝澤ら. NW ではポールを前方に突くため胸郭が前傾し,そのこ. る転倒経験者・よく躓くと感じる者は,転倒未経験者・. とによって通常歩行と比較して体幹が常に屈曲位になっ. 躓くと感じない者と比較して,歩隔の増大が報告されて. たと考えられる。. いる。これらのことから,NW は通常歩行と比較して前.  COG 左右移動振幅は NW で有意に減少していた。下. 額面内での安定性の高い歩行であると示唆された。. とは考えにくい。二宮ら. 18). の研究では,高齢者におけ.

(7) ノルディック・ウォーキングが高齢者の歩行に与える影響.  二宮ら 12)は,NW では膝の内外転モーメントは減少 する傾向にあることから,ポールには体重を支持して強 い力で制動期の下肢の負担を軽減させるような効果は少 ないが,左右の動揺を減少させるという意味では下肢の 負担を減少していると考えられると報告している。本研 究でも同様に,床反力鉛直方向成分に有意差は認めな かったが,COG 左右移動振幅・体幹側屈角度振幅は NW で有意に減少していた。このことから,本研究では NW が床反力鉛直方向成分を減少させて下肢の負担を軽 減させることは明らかにすることができなかったが,身 体の左右動揺を減少させることによって,下肢の負担を 軽減させることが可能であることが示唆された。 本研究の限界と課題  同じ歩行周期のポールにかかる床反力と足部にかかる 床反力を抽出するためには,ポールに 1 枚・足部に 1 枚 の床反力計が必要となる。本研究は床反力計 1 枚での計 測であるため,1 度の歩行計測においてポールにかかる 床反力と足部にかかる床反力を同時に計測することがで きなかった。そのため,ポールの作用による効果を正確 に検証できていないと思われる。  また,本研究の計測対象者は健常高齢者で,NW 未経 験者であった。計測前に練習を行い,慣れたら計測を開 始したが,ポールの使用方法を十分に習熟した状態で あったとは言い難い。そのため,NW のポールの使用方 法の習熟度を確認できる方法の検討が,今後必要になる と思われる。 結   論  ディフェンシブ・スタイルの NW は,下肢の負担の 軽減と,前額面上で安定した歩行の実現が示唆された。 これらのことにより,高齢者に運動方法を検討する際の 判断材料や NW 導入を勧める際の説明手段のひとつと なり,今後運動を始めようと考えている高齢者や運動初 心者,特に運動によって下肢に痛みを生じることなどに 不安を感じている者の運動機会を増加させ,彼らの健康 増進につなげることが可能であることが示された。. 17. 文  献 1)WAM NET ホームページ WAM NET.要介護(要支援) 認 定 者 数.http://www.wam.go.jp/wamappl/00youkaigo. nsf/vAllArea/201601?Open. (2016 年 4 月 20 日引用) 2)厚生労働省ホームページ 平成 25 年度国民生活基礎調査 の概況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/ k-tyosa13(2016 年 4 月 20 日引用) 3)油 谷 安 孝: メ カ ニ カ ル ス ト レ ス と 変 形 性 関 節 症.THE BONE.2000; 14: 351‒355. 4)Lejczak A, Josiak K, et al.: Nordic Walking may safety increase the intensity of exercise training in healthy subjects and in patients with chronic heart failure. Adv Clin Exp Med. 2016; 25: 145‒149. 5)富田寿人,杉山康司,他:ポール・ウォーキングが高齢者 の血圧およびエネルギー消費量に及ぼす効果.体力科學. 2000; 49: 809. 6)Willson J, Torry MR, et al.: Effects of walking poles on lower extremity gait mechanics. Med Sci Sports Exerc. 2001; 33: 142‒147. 7)塩崎 彰,石井清一,他:ノルディックウォーキングの歩 行解析.日本整形外科スポーツ医学会雑誌.2003; 23: 36. 8)福島重宣,小関和彦,他:ノルディックウォーキング時の 下肢への荷重負荷について.東日本整形災害外科学会雑 誌.2003; 15: 484 9)Hansen L, Henriksen M, et al.: Nordic Walking does not reduce the loading of the knee joint. Scand J Med Sci Sports. 2008; 18: 436‒441. 10)Stief F, Kleindienst FI, et al.: Inverse Dynamic Analysis of the Lower Extremities During Nordic Walking, Walking, and Running. J Appl Biomech. 2008; 24: 351‒359. 11)岡田英孝,阿江通良,他:日本人高齢者の身体部分慣性特 性.バイオメカニズム.1996; 13: 125‒139. 12)二 宮 彰 久, 長 谷 和 徳, 他: 筋 骨 格 モ デ ル に よ る ポ ー ル ウォーキングの生体力学解析.福祉工学シンポジウム講演 論文集.2009; 197‒200. 13)下田隼人,佐藤春彦,他:身体重心の左右変動に基づく歩 行の動的安定性評価.理学療法科学.2008; 23: 55‒60. 14)芳賀信彦:歩行分析の手法と中高年者の歩行.医学のあゆ み.2011; 236: 477‒481. 15)宮 和貴,澤山純也,他:高齢者の自由歩行における着 地足の足向角および歩隔について.日本生理人類学会誌. 2007; 12: 165‒170. 16)足立和隆,岡田守彦,他:歩行速度と加齢が床反力に与 える影響について : 大洋村健康づくりプロジェクト(14) . 体力科學.1999; 48: 751. 17)高橋隆宜,山田冨美雄,他:高齢者の歩容および身体活動 量と転倒危険因子の検討.日本生理人類学会誌.2011; 16: 115‒122. 18)滝澤恵美,岩井浩一,他:転倒経験と高齢者の主観的な歩 行評価が歩行パターンに与える影響.茨城県立医療大学紀 要.2003; 8: 19‒26..

(8) 18. 理学療法学 第 44 巻第 1 号. 〈Abstract〉. Effect of Nordic Walking on the Gait of the Elderly. Takeshi MOTOMIYA, PT, MS Yachiyo Rehabilitation College Sumiko YAMAMOTO, Eng, PhD Department of Assistive Technology Science, International University of Health and Welfare, Graduate School. Purpose: To investigate the effect of defensive style Nordic walking for beginners on the gait of the elderly. Method: Twenty-eight elderly participants who could walk without any assistive devices participated in this study. Two types of gait were studied: gait without canes and gait with Nordic poles were measured by a 3D motion capture system and a force plate. Results: Comparing the gait with and without canes the vertical component of ground reaction force during loading response did not show significant difference. The step width, lateral sway of the trunk, and amplitude during lateral movement of the center of gravity were significantly decreased during gait with Nordic poles compared to gait without canes. A significant correlation was found between step width and lateral movement of the center of gravity. Conclusion: Defensive style Nordic walking increased the lateral stability of the gait of the elderly participants. Key Words: Elderly, Nordic walking, Ground reaction force, Lateral stability.

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