日本人乳がん腋窩郭清術後患者のリンパ浮腫発症率と運動開始時期の関連
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(2) 日本人乳がん術後患者のリンパ浮腫発症率と運動開始時期の関連. 19. 表 1 対象者の属性と背景因子. 年齢(歳). 早期介入群(n=57). 遅延介入群(n=57). p値. 55.5 ± 12.3(33 ‒ 84). 54.4 ± 12.3(28 ‒ 84). 0.631. 体重(kg). 56.2 ± 9.2(38.7 ‒ 74.5). 54.9 ± 9.8(35.0 ‒ 78.0). 0.463. 身長(cm). 155.7 ± 6.1(144.0 ‒ 170.0). 155.3 ± 6.6(136.1 ‒ 172.0). 0.684. Body mass index. 23.2 ± 3.8(15.9 ‒ 32.0). 22.8 ± 3.9(16.0 ‒ 32.3). 0.578. 手術日から退院までの期間(日). 10.5 ± 3.7(5.0 ‒ 19.0). 11.0 ± 2.5(7.0 ‒ 18.0). 0.394. 28(49.1). 34(59.6). 0.174. 乳房部分切除. 37(64.9). 44(77.2). 0.108. 乳房全切除. 20(35.1). 13(22.8). 術側(右) 術式. 腋窩リンパ節郭清範囲 レベルⅠ. 6(10.5). 2(3.5). レベルⅡ. 42(73.7). 46(80.7). 0.336. レベルⅢ. 9(15.8). 9(15.8). 術前化学療法. 10(17.5). 17(29.8). 0.093. 術後化学療法. 38(66.7). 40(70.2). 0.420. 放射線療法(乳房,腋窩部). 27(47.4). 30(52.6). 0.354. 3(5.3). 5(8.8). 0.358. 48(84.2). 45(78.9). 0.630. 補助療法. 放射線療法(鎖骨上窩) ホルモン療法 平均値±標準偏差(範囲)または n(%). ンパ浮腫発症率に差がなかったことを報告している。そ. すでにリンパ浮腫を発症していた者は,あらかじめ対象. のため,運動開始時期とリンパ浮腫発症の関連性につい. から除外した。本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,. ては不明な点も多く,再検討の余地がある。. 全被験者に研究内容に関する説明を書面および口頭で十. また近年,リンパ浮腫の発症リスクに人種の違いが影. 分に行い,同意書に署名を得て実施した。なお,本研究. 響することが指摘されている。たとえば,アフリカ系ア. は北福島医療センター倫理審査委員会の承認を得て実施. メリカ人女性は白人女性と比較してリンパ浮腫の発症リ. した(承認番号 67) 。. 6). 。この報告はリンパ. A 病院の標準的なリハビリテーションとして,2009 年. 浮腫の発症には人種も関与するため,リンパ浮腫の予防. に入院した乳がん術後患者に対しては術後翌日から肩の. 法や治療法の有効性を検討する際に,種々の地域や国で. 挙上練習を実施し,2013 年に入院した同患者に対しては. それぞれ検証を行うことが望ましいことを示唆するもの. 術後 7 日間の挙上制限期間を設け術後 8 日後から挙上練. である。そのため,リンパ浮腫発症に対する術後の挙上. 習を実施していた。そこで,2009 年に入院しリハビリ. 制限期間の有効性についても各国ごとに調査されること. テーションを受けた対象者 57 名を早期介入群(Early. がより望ましいと考えられる。上述の挙上制限期間の有. mobilization; 以 下,EM 群 ) ,2013 年 に 入 院 し リ ハ ビ. 効性を示した研究は海外で行われたものであり,日本人. リ テ ー シ ョ ン を 受 け た 57 名 を 遅 延 介 入 群(Delayed. を対象とした追試は行われていない。そこで本研究の目. mobilization;以下,DM 群)として,リンパ浮腫の発. 的は,運動開始遅延プログラムが日本人の乳がん術後の. 症率,ドレーン抜去期間,ドレーン排出量,漿液穿刺量,. リンパ浮腫発症率を低減させるか否かについて検証する. 肩関節の関節可動域を比較した。. ことである。. EM 群は手術翌日を術後 1 日目とし,術後 1 日目から. スクが高いことが報告されている. 対象および方法. 積極的な肩関節可動域練習を開始した。具体的な関節可 動域練習の内容は,滑車を用いた自動介助運動および自. 本研究は後方視的観察研究で,対象は早期乳がんと診. 動運動を実施し,術前と比較して肩関節屈曲可動域に. 断され,2009 年度または 2013 年度に A 病院で腋窩リ. 20 度程度の減少を認めた場合には理学療法士による肩. ンパ節郭清を含む乳がん手術を施行された女性 114 名で. 関節の徒手的な他動運動を追加して行った。運動範囲は. ある(表 1)。腋窩郭清のみを施行された者,乳房ある. 最大可動域までとし,強度は実施時に強い疼痛が生じな. いは上半身に放射線療法が施行された者,術前において. い範囲で,かつ実施後に疼痛が残らない程度として,1.
(3) 20. 理学療法学 第 45 巻第 1 号. 図 1 周径測定部位と上肢容積の換算 上肢を 5 つの Segment とし,各部位の周径から FRUSTUM model を用いて上肢容積を算出した. Seg = Segment. 日 20 ∼ 40 分実施した。また日常生活動作で挙上制限は. 肢を机に置いた安楽な肢位とした。リンパ浮腫発症の診. 設けなかった。一方,DM 群では術後 7 日目までは肩関. 断基準は先行研究. 節屈曲角度を 90 度以下に制限をした滑車を用いた自動. が 200 ml 以上(判断基準Ⅰ)であった場合とした。ま. 介助運動および自動運動を 1 日 20 ∼ 40 分行った。日常. た判断基準Ⅰは欧米を中心に国際的によく用いられる基. 生活動作も肩関節屈曲角度が 90 度を超えないように指. 準であるが,日本人の体格を考慮すると感度の低下が懸. 導した。術後 8 日目から EM 群と同様の肩関節可動域. 念 さ れ る た め, 本 研 究 で は,A 病 院 の 最 小 可 検 誤 差. 4). に準じ,患側と健側上肢の容積差. (MDC)である 165 ml 以上の増加(判断基準Ⅱ)につ. 練習を開始した。 また両群ともに関節可動域練習と並行して間欠的空気. いても検討した。なお,容積の測定における上肢周径計. 圧迫装置を用いた患側上肢のドレナージとリンパ浮腫予. 測については,事前に検者内および検者間信頼性につい. 防指導を実施した。間欠的空気圧迫装置を用いた患側上. て検討し,ICC(1,1)は 0.99,ICC(2,1)は 0.99 と高い信. 肢のドレナージは 20 ∼ 30 mmHg の圧力設定で 1 日 15. 頼性を確認している。周径を用いた上肢容積算出は原則. 分間 2 セット実施し,またリンパ浮腫予防指導は,入院. として入院前,退院時,術後 1 ヵ月,3 ヵ月,6 ヵ月,1. 期間中(術後約 1 週間)と外来時(術後約 1 ヵ月)に一. 年に行い,上記判断基準を超えた時点でリンパ浮腫発症. 度ずつ実施した。リンパ浮腫予防指導の内容は,安静時. と判断した。対象者の一部で術後 1 ヵ月,3 ヵ月,6 ヵ. のポジショニング指導や,著者らが作成したパンフレッ. 月の時点で測定できなかった者もいたが,術後 1 年の時. トを用いて,リンパ浮腫の病因と病態,治療方法の概要,. 点はすべての対象者で測定が可能であった。関節可動域. 肥満の予防,患側上肢の感染症予防のための注意喚起や. 測定にはゴニオメーターを使用し,自動運動による肩関. 感染症発症時の対処方法について説明した。また,日常. 節屈曲可動域を測定した。測定姿勢は,椅子座位で股関. 生活での運動療法やスキンケアなどのセルフケアの重要. 節膝関節は 90° 屈曲位,足底は床面に接した姿勢とした。. 性を説明し,未発症時期のシンプルリンパドレナージと. なお,両群とも乳がん術後リハビリテーションの経験を. 予防的な圧迫療法は情報提供に止め推奨しないことを指. 5 年以上有する理学療法士 2 名が測定および介入を実施. 導した。. した。. リンパ浮腫発症の有無を確認するための評価として. 統計処理として,EM 群と DM 群の間で背景因子(術. 周径を用いた上肢容積の算出と,肩関節機能の評価と. 式,リンパ節郭清範囲,身長,体重,BMI,術前化学療. し て 肩 関 節 屈 曲 可 動 域 測 定 を 行 っ た。 周 径 計 測 は,. 法,術後化学療法,ホルモン療法,胸部や鎖骨上窩への. hoechtmass 社製 rollfix を用い,ランドマークは手関節,. 放射線療法実施の有無)に差がないかを確認するため. 手関節より 5 cm 近位,前腕最大,肘関節,肘関節から. に, 各 背 景 因 子 に つ い て 対 応 の な い T 検 定,Mann-. 8 cm 近位,腋窩点の 6 点を打点して計測した。得られ. Whitney の U 検定,カイ二乗検定を用いた群間比較を. 7)8). を用いて上肢容積を. 行った。EM 群と DM 群のリンパ浮腫発症率については,. 算出した(図 1) 。なお,手関節より遠位に関しては容. フィッシャーの正確確率検定を用いて比較した。また,. 積算出時には除外した。測定姿勢は,椅子座位で股関節. リンパ浮腫発症の有無に介入開始時期が関連するかを確. 膝関節は 90°屈曲位,足底は床面に接した姿勢とし,上. 認するため,発症の有無(判断基準Ⅰ)を独立変数,介. た数値から FRUSTUM model.
(4) 日本人乳がん術後患者のリンパ浮腫発症率と運動開始時期の関連. 21. 表 2 早期介入群と遅延介入群のリンパ浮腫発症率 発症者. 未発症者. p値. 早期介入群. 5.3%(n=3). 94.7%(n=54). 0.716. 遅延介入群. 8.8%(n=5). 91.2%(n=52). 早期介入群. 5.3%(n=3). 94.7%(n=54). 遅延介入群. 14.0%(n=8). 86.0%(n=49). 判断基準Ⅰ. 判断基準Ⅱ 0.203. 表 3 判断基準Ⅰにおけるリンパ浮腫発症の有無と介入時期および BMI の関連性. 介入時期. 偏回帰係数. 有意確率. オッズ比(95%信頼区間下限 ‒ 上限). ‒ 0.565. 0.456. 0.569(0.129 ‒ 2.508) 1.040(0.868 ‒ 1.246). BMI. 0.039. 0.183. 定数. ‒ 3.251. 0.139. 表 4 判断基準Ⅰにおけるリンパ浮腫発症・未発症者の Body mass index 発症者. 未発症者. p値. 早期介入群. 24.7 ± 3.2(n=3). 23.1 ± 3.8(n=54). 0.478. 遅延介入群. 22.8 ± 3.6(n=5). 22.8 ± 4.0(n=52). 0.991. 全対象. 23.5 ± 3.4(n=8). 23.0 ± 3.9(n=106). 0.699. 平均値±標準偏差. 入 時 期(EM 群 と DM 群 ) を 従 属 変 数 と す る ロ ジ ス. 術後 1 年間のリンパ浮腫発症率は,判断基準Ⅰを用い. ティック回帰分析を行った。この際,交絡の影響を排除. た場合が EM 群 3 名(5.3%) ,DM 群 5 名(8.8%)であ. するため,リンパ浮腫発症との関連が報告されている. り,両群の間に有意差は認められなかった(表 2) 。判. Body mass index(以下,BMI)を独立変数に加えて分. 断基準Ⅱを用いた場合でも,EM 群 3 名(5.3%) ,DM. 析した。加えて,リンパ浮腫発症の有無(判断基準Ⅰ). 群 8 名(14.0%)で,有意差は認められなかった。ロジ. と BMI および介入時期との関連性を確認するために,. スティック回帰分析の結果,リンパ浮腫発症の有無と介. EM 群と DM 群のそれぞれでリンパ浮腫発症者と未発. 入開始時期が関連性を示さなかった(表 3) 。EM 群と. 症者の BMI を対応のない T 検定で比較した。ドレーン. DM 群それぞれのリンパ浮腫発症者と未発症者の BMI. 抜去期間,ドレーン排液量,漿液穿刺量を含めたドレー. を表 4 に示す。EM 群および DM 群において発症者と. ン排液量については,対応のない T 検定を用いた。EM. 未発症者の BMI の平均値は近似しており,有意差は認. 群と DM 群の関節可動域については,対応のない T 検. められなかった。. 定を用いて術前,退院時,術後 1 年の成績をそれぞれ比. ドレーンの抜去期間は EM 群 8.1 ± 3.5 日,DM 群 7.6. 較した。また術前と退院時および術後 1 年の変化量につ. ± 3.0 日であり,統計的な有意差は認められなかった。. いても,T 検定を用いて比較した。術前の段階で両群に. ドレーン排液量および漿液穿刺量を含めたドレーン排液. 有意差がみられた場合には,退院時,術後 1 年の可動域. 量はそれぞれ,EM 群 473.2 ± 337.9 ml,488.7 ± 348.4 ml,. の比較は術前の数値を共変量とした共分散分析を用い. DM 群 329.4 ± 205.1 ml,334.0 ± 206.1 ml で あ り, 統. た。 い ず れ も, 有 意 水 準 は 5 % と し, 統 計 ソ フ ト は. 計的な有意差は認められなかった。. SPSS(ver.23.0,IBM)を使用した。. 肩関節屈曲可動域は,術前,退院時,術後 1 年のすべ. 結 果. ての時期で EM 群のほうが高値であり,有意差が認め られた(表 5)。そこで退院時と術後 1 年については,. 背景因子すべての項目において,EM 群と DM 群の. 術前の成績を共変量とした共分散分析を実施した結果,. 間で有意な差を認めなかった(表 1)。. 退院時では有意差が認められたが,術後 1 年では有意差.
(5) 22. 理学療法学 第 45 巻第 1 号. 表 5 肩屈曲可動域の経過 早期介入群. 遅延介入群. p値. 術前. 177.8 ± 5.7. 174.2 ± 8.6. <0.05. 退院時 *. 172.9 ± 13.8. 153.1 ± 23.0. <0.01. 術後 1 年 *. 176.9 ± 6.9. 173.5 ± 9.3. 0.766. 術前と退院時の差. ‒ 4.9 ± 12.8. ‒ 21.1 ± 22.6. <0.01. 術前と術後 1 年の差. ‒ 0.9 ± 3.9. ‒ 0.7 ± 6.2. 0.857. * 術前の成績を共変量とした共分散分析の結果 平均値±標準偏差,単位:度. が認められなかった。変化量については,術前と退院時. 一般的に日本人の肥満度は低く,肥満傾向の患者を除い. の変化量で有意差が認められたが,術前と術後 1 年の間. て は 術 後 早 期 か ら 上 肢 の 挙 上 練 習 を 行 っ た ほ う が,. の変化量では有意差が認められなかった。. ROM 制限予防の観点から有効である可能性がある。一 方で,肥満傾向のある患者に対する運動療法の早期開始. 考 察. の是非については,本研究では明らかにできないため,. 本研究では,日本人を対象として乳がん腋窩リンパ節. さらなる新たな臨床研究により検証する必要がある。. 郭清術後における運動療法開始時期の相違が術後 1 年以. 肩関節可動域についての検討からは,運動開始を遅延. 内のリンパ浮腫発症率に与える影響について検討を行っ. させた場合,術後翌日から運動を開始するケースと比較. た。結果として,手術後 1 週間上肢の挙上を制限した群. して,術後 1 年時には差がなくなるものの,病院退院時. のリンパ浮腫発症率は,手術後翌日から運動を開始した. の段階では肩関節可動域の制限が大きくなることが示唆. 群と比較して有意な差は認められず,一方で,病院退院. された。この結果は先行研究. 時の肩関節可動域の制限が大きい結果となった。. ハビリテーションガイドライン. 本研究における対象者のリンパ浮腫発症率は,EM 群. ∼ 7 日から肩関節可動域練習を開始することは,術後 0. が 5.3%,DM 群が 8.8%(判断基準Ⅰ)であった。本研. ∼ 3 日から開始する例に比して,術後のドレナージ排液. 究と近似する時期に行われた渋谷らの調査. 9). によると,. 4). と類似する。がんのリ 2). においては,術後 5. 量や漿液腫を軽減し,術後の肩関節可動域の改善も長期. 乳房切除術またはリンパ節郭清術が行われた乳がん患者. 的には差がないことから,術後 5 ∼ 7 日経過してから積. 277 名 282 肢のうち,リンパ浮腫を発症したのは 20 名. 極的な関節可動域練習を開始することが推奨されてい. 20 肢,発症率は 7.1%であり,本研究のリンパ浮腫の発. る。しかし,さらなる検証が必要であるものの,本研究. 症率については先行研究と同等であったといえる。一. 結果が示唆するように日本人で肥満傾向のない患者につ. 方,EM 群と DM 群の比較に関して,先行研究. 3) 4). では,. いては運動開始時期がリンパ浮腫発症やドレーン抜去期. 運動開始遅延プログラムによりリンパ浮腫発症率の低減. 間などに影響しないのであれば,術後早期から肩関節運. が報告されていたが,本研究では発症率の低減は確認さ. 動を行ったほうが肩関節機能の早期回復やドレーンに関. れなかった。またロジスティック回帰分析の結果も,運. 連する感染リスクおよび創治癒遷延のリスク. 動の開始時期がリンパ浮腫の発症に強く影響しない可能. できるという面でメリットがある。筆者らの臨床経験で. 性を支持するものであった。運動開始遅延プログラムに. も,肩関節可動域を改善するために退院後に外来リハビ. よりリンパ浮腫発症率が低減したとする先行研究と結果. リテーションが必要になるケースも少なくなく,患者の. の相違が生じた理由として,対象者の肥満度の相違が関. 負担を軽減するためにも,日本人乳がん術後患者におけ. 連した可能性がある。肥満傾向の者では,脂肪細胞から. る運動開始時期とリンパ浮腫発症との関連性について継. 分泌される炎症性サイトカインやホルモンが多く分泌さ. 続的な調査が必要である。. れ. 10)11). ,それらによりリンパ管内皮細胞増殖能の低下. とリンパ管腔形成能が低下し. 12). ,肥満が上肢のリンパ. 浮腫の発症リスクとなることはすでに多くの研究から指 4). 2). を回避. 術後のドレーン抜去期間や排液量に関して,日本人を 対象とした Abe らの報告. 13). では,乳がん腋窩リンパ. 節郭清術後における運動開始遅延プログラムにより短縮. の対象者の BMI の平均が. や低減がみられることが指摘されている。しかし,本研. 28.4 と高く肥満傾向であったのに対し,本研究では 23.0. 究では運動開始遅延プログラムによって,ドレーンの抜. と低値であった。このことは,肥満傾向のない患者の場. 去期間および排液量は有意な相違は認められなかった。. 合,運動開始遅延プログラムはリンパ浮腫発症の低減に. この背景として,Abe ら. 寄与しない可能性を示唆している。特に欧米と比較して. あり,Abe らの方が乳房全切除の割合が多かったこと. 摘されているが,先行研究. 13). と比較すると術式に違いが.
(6) 日本人乳がん術後患者のリンパ浮腫発症率と運動開始時期の関連. (74%)が,結果の相違に影響した可能性が考えられる。 しかし,術後早期運動療法と術後のドレーン抜去期間等 の関連性の解釈については,それぞれの条件が大きく異 なることから,さらに適切な条件による研究,考察が必 要である。 本研究の限界として,ランダム化比較試験ではないこ とが挙げられる。また上述の通り,本研究の対象者は BMI がやや低い層であったため,BMI の高い患者にお ける運動療法開始時期がリンパ浮腫発症に与える影響の 検討は不十分である。加えて,本研究では肩関節機能の 指標として肩関節屈曲可動域しか扱うことができていな い。今後のさらなる検証が必要である。 結 論 日本人においては,腋窩郭清を伴う乳がん術後のリン パ浮腫発症について,術後 7 日間挙上を制限した運動開 始遅延プログラムは 1 年後のリンパ浮腫発症率に寄与し ない可能性が示唆された。また,同プログラムでは退院 時の関節可動域制限が大きかったことから,術後早期か ら肩関節挙上運動を実施したほうが肩関節機能の早期回 復に有利である可能性が示唆された。 利益相反 開示すべき利益相反はない。 文 献 1)McLaughlin SA, Wright MJ, et al.: Prevalence of lymphedema in women with breast cancer 5 years after sentinel lymph node biopsy or axillary dissection: objective measurements. J Clin Oncol. 2008; 26: 5213‒5219. 2)公益社団法人日本リハビリテーション医学会:がんのリハ ビリテーションガイドライン.金原出版,2013,pp. 56‒57.. 23. 3)Lotze MT, Dunchan MA, et al.: Early versus delayed shoulder motion following axillary dissection: a randomized prospective study. Ann Sung. 1981; 193: 288‒295. 4)Todd J, Scally A, et al.: A randomized controlled trial of two programs of shoulder exercise following axillary node dissection for invasive breast cancer. Physiotherapy. 2008; 94: 265‒273. 5)Bendz I, Fagevik Olsén M, et al.: Evalution of immediate versus delayed shoulder exercises after breast cancer surgery including lymph node dissection-A randomized controlled trial. Breast. 2002; 11: 241‒248. 6)Kwan ML, Darbinian J, et al.: Risk factors for lymphedema in a prospective breast cancer survivorship study: the Pathways Study. Arch Surg. 2010; 145: 1055‒1063. 7)Sander AP, Hajer NM, et al.: Upper-extremity volume measurements in women with lymphedema: a comparison of measurements obtained via water displacement with geometrically determined volume. Phys Ther. 2002; 82: 1201‒1212. 8)Karges JR, Mark BE, et al.: Concurrent validity of upperextremity volume estimates: comparison of calculated volume derived from girth measurements and water displacement volume. Phys Ther. 2003; 83: 134‒145. 9)渋谷寿代,守山成則,他:乳癌術後続発性リンパ浮腫発症 因子についての検討.理学療法学.2012; 39(Supplement 2): 1126. 10)Rose DP, Komninou D, et al.: Obesity, adipocytokines, and insulin resistance in breast cancer. Obes Rev. 2004; 5: 153‒165. 11) Considine RV, Sinha MK, et al.: Serum immunoreactiveleptin concentrations in normal-weight and obese humans. N Engl J Med. 1996; 334: 292‒295. 12)Sato A, Kamekura R, et al.: Novel Mechanisms of Compromised Lymphatic Endothelial Cell Homeostasis in obesity: The Role of Leptin in Lymphatic Endothelial Cell Tube Formation and Proliferation. PLoS ONE. 2016; 11: e0158408. 13)Abe M, Iwase T, et al.: A randomized Controlled Trial on the Prevention of seroma after partial or Total Mastectomy and Axillary lymph node Dissection. Breast Cancer. 1998; 5: 67‒69..
(7) 24. 理学療法学 第 45 巻第 1 号. 〈Abstract〉. Relationship between Incident Rate of Lymphedema and Timing for Starting Movement Therapy in Japanese Women after Breast Cancer Surgery with Axillary Lymph Node Dissection: A Comparison between 1 and 8 Postoperative Days. Kazumi JIMBO, PT, Yuichi YAMAMOTO, PT, Masayo YAMAMOTO, PT, Ryuichi KASAHARA, PT, Ryohei JIMBO, PT, Sayaka WATANABE, PT Department of Rehabilitation, North Fukushima Medical Center Takaaki FUJITA, OT, PhD Department of Rehabilitation, Faculty of Health Sciences, Tohoku Fukushi University Mitsuhiko YASUDA, MD, PhD, Izou KIMIJIMA, MD, PhD Mammary Disease Center, North Fukushima Medical Center. Purpose: This study aimed to investigate the effect of delayed shoulder exercise program on the incidence of lymphedema in Japanese patients after breast cancer surgery. Methods: One hundred fourteen Japanese women who had undergone a surgery for breast cancer participated in this study. Fifty-seven patients started shoulder exercises on the day after operation and the other 57 patients were restricted from performing shoulder exercises for the first 7 postoperative days. The incidence of lymphedema and shoulder movement were compared between groups. Results: Lymphedema, defined by a limb volume difference of 200 ml or more, was observed in three patients (5.3%) in the early exercise group and in five patients (8.8%) in the delayed exercise group, and there were no significant differences between groups. At discharge, restricted range of motion was significantly larger in the delayed exercise group than in the early exercise group. Conclusion: Our results suggested that a program of delayed shoulder exercise did not contribute to a decrease in the incidence of lymphedema in Japanese patients after breast cancer surgery. Key Words: Rehabilitation after breast cancer surgery, Exercise program, Incidence of lymphedema, Drainage volume, Drain removal timing.
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