• 検索結果がありません。

なぜ英語で論文を書くのか:5 つの動機

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "なぜ英語で論文を書くのか:5 つの動機"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理学療法学 第 46 巻第 4 号 289 ∼ 293 頁(2019 なぜ英語で論文を書くのか:5 年) つの動機. 289. 講  座 シリーズ 「英語論文の執筆,投稿,受理を目指して」. 連載第 1 回 なぜ英語で論文を書くのか:5. つの動機*. Paul Andrew 1) 佐 藤 春 彦 2). はじめに. を高めようとする自己研鑽,およびそこから副次的に得 られるキャリアアップである。世界は広い。日本語の論.  仮説をもとにデータを集め,新しい知見を得たら,そ. 文だと,どうしても読者は国内にとどまってしまうが,. れを論文として公表する。論文は研究活動の証である。. 英語なら読める,という人が世界中にいるので,海外の. では,論文を日本語で書くか,英語で書くかによって,. 研究者に研究を認知してもらうことができる。少し大げ. その研究の価値は変わるのだろうか。日本語で書いた論. さにいってしまえば,英語で論文を公表した途端,その. 文の英語版を別の雑誌に投稿する,という行為は,二重. 執筆者は世界の研究者の仲間入りである。もし,論文が. 投稿にあたり厳しく戒められている。原著論文はどんな. 掲載された雑誌のインパクトファクターが高ければ,優. 言語で公表しようと出版は一度きりである。著者は,研. 秀な研究者だと高く評価され,研究職への採用,昇進な. 究成果の公表に用いる言語をひとつに絞らなければなら. どキャリアアップ,そして,研究助成金の獲得にもプラ. ない。その際,わざわざ骨が折れる英語を選択するのは. スに働くだろう。. なぜか,いま一度よく考えてみたい。.  研究成果を英語で出版するまでの道のりも研究者を鍛.  英語を使って公表したいと思う動機を当事者の立場に. える場となる。論文は投稿すれば終わりという訳ではな. なって考えてみる。博士課程の学生なら,インパクト. く,その後には厳しい論文審査が待っている。論文を審. ファクター(論文の引用度から計算された雑誌のもつ影. 査する査読者や編集者が,執筆者と同じ価値観,感受性. 響の大きさ)の高い雑誌に論文が掲載されれば,研究職. をもつとは限らない。いや,むしろ価値観が異なる者が. への公募で有利に立てる,という動機があるかもしれな. 多いだろう。そうした相手に対して,研究の価値を議論. い。あるいは,指導教員に強要されて仕方なく・・・と. し,認めてもらうにはかなりの努力を要する。ただ,そ. いう動機も,国外の研究者とコミュニケーションのきっ. うしたやりとりを通じ,研究成果の普遍性や研究成果の. かけを求める動機もあろう。. もつ意味を考え抜くことで,研究者自身も思いもしな.  いろんなタイプの研究者が様々な動機を胸に英語で論. かった新しい知見や発想を手に入れることだってある。. 文を書く。この前提のもと,考えられる動機を,「自分.  英語での論文執筆は研究者自身の英語力を向上させる. のため」, 「仲間のため」, 「人のため」, 「科学のため」, 「専. ことにもつながる。ただし,高い英語力が英語で論文を. 門家のため」といった 5 つに分けてみた。また,それぞ. 書く必須条件というわけでもない。多少まずい英文で. れに対応する形で,研究と英語にまつわる随想も記し. あっても,投稿の前に校正会社や英語のわかる人に頼ん. た。様々な動機を眺めることで,英語で論文を書く意義. で,英文がおかしくないか見てもらえばよい。むしろ,. を認め,執筆を決意するきっかけになることを願う。. ネイティブスピーカーのチェックを受ける方が一般的で. 第 1 の動機:自分のため(自己研鑽とキャリ アアップ)  第 1 の動機は自分のため,研究者としてスキルや能力. ある。英語で書くことが研究者の成長を促進するのでは なく,投稿から査読者との応答,論文の修正を経て採択 へ至るという一連のプロセスこそ,研究者を鍛えること になる。  研究をして,論文にまとめ,英文雑誌に投稿するのは,. *. Why do we write scientific papers in English? Part 1: Motivations 1)合同会社インパクト英文 Paul D. Andrew, PT, PhD: Impact Eibun 2)北里大学医療衛生学部 (〒 252‒0373 神奈川県相模原市南区北里 1‒15‒1) Haruhiko Sato, PT, PhD: Kitasato University School of Allied Health Sciences キーワード:英語論文の書き方,執筆の動機,研究者のタイプ. 時間も手間も,そしてある程度の能力も要する。英語の 雑誌は出版社も海外であることが多く,原稿の準備も国 内の雑誌との作法の違いがあり,戸惑うこともあるだろ う。でも,こうした経験は学識を高め,国内,国外を問 わず活躍する研究者へと導いてくれるものである。自己.

(2) 290. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. 研鑽は英語で論文を書くことを促す強力な動機である。. 随想 1:英語力が絶対ではない. 推し進めることと同様,論文の執筆にも多くの人の協力 を要する。成果をまとめ上げることを通して,研究室メ ンバーの協調性を育み,そして,掲載された暁には,そ.  英語での論文発表が,職を獲得し,昇進にもつながる. の栄誉をともにわかち合う。若い研究者は先輩から指導. ことはわかるが,そうした個人の成長に英語力がどれだ. を受け成長し,先輩の研究者も指導を通して若手から多. け必要なのだろうか? 外国人と堂々と英語で会話でき. くのことを学んでいく。. れば,その人は立派な研究者なのだろうか? 立派な研.  研究チームで分担して執筆し,ひとつの論文にまとめ. 究者だとまず認められるべきは,その研究者の暮らす地. 上げることもあるだろう。英語力に個人差があったとし. 域,国においてではないだろうか? 英語論文を書く必. ても,内容が理解できる程度の英文になれば,後は校正. 要性がない専門分野であれば,日本語で論文を書いても. 会社の力を借りてきちんとした英語に仕上げればよい。. 個人としての成長も可能ではないだろうか?. ただし,筆頭著者や責任著者だけでなく,論文に名前を.  たとえば,英語力こそ研究者として成り上がる手段と. 連ねた共著者は全員,校正された英文が自分たちの主張. 信じる人を想定したい。 「これはまるで自分だ」という方. として間違いがないことを確認し,内容に責任を負わな. がいれば大変申し訳ない次第であるが,あくまでフィク. ければならない。こうした共同作業での論文執筆は,研. ションとして例を挙げる。このタイプの研究者は国際会. 究チームの結束を高めるとともに,メンバー個人の成長. 議で海外の研究者と英語で話すことを重要視する。著名. にもつながるものである。. な研究者と仲良くなれば,その人と一緒に写った写真を.  そうして投稿した論文が無事掲載となれば,研究チー. お土産に帰国できるし,その研究者が来日した際は,お. ムとして賞賛される。ひとたび注目が集まれば,メン. いしいごちそうで接待し,観光名所を巡りもてなし,満. バーの意欲が高まり,研究もさらに発展するという相乗. 足のうちに帰国させることもできる。そんな姿を見た人. 効果も期待できる。こうした「研究室の発展」も個人の. が, 「立派な研究者」だと信じてくれれば,こうしたこと. やる気を高めるのである。. が昇進につながることもあるだろう。ただ,そうした歓.  英文誌への論文掲載により,その研究室で行われる研. 待には,決まり切った英語の常套句を使い回せばよいだ. 究が世界中に知られるようになるので,同様の研究を進. けで,実のところそれほど高い英語力は必要としない。. める海外の研究者からも連絡が入る。それがきっかけと.  英語力を頼りに,自ら実験や調査をしなくても論文を. なって国際的な共同研究や海外留学,研修へとつながれ. 増やそうと企むことも可能かもしれない。他人の論文を. ば,英語で論文を書く必要性がますます高まるだろう。. 見てあげるということで,共著者に加えてもらうのであ. 国際的な共同研究では,チームの一人ひとりが,研究の. る。大学院生がいるなら,このやり方はとても簡単だ。. 進め方や考え方の違いを経験し,柔軟に研究を進める姿. 大学院生の研究論文の英文作成を手伝っただけの共著者. 勢を身につけるかもしれない。こうなると研究室は国際. として,有名になる幸運もつかめるかもしれない。本来,. 的な研究拠点として,さらに発展していくことになる。. 共著者は論文の内容に責任を持つ者であり,英文に責任 を持つだけの者は共著者の資格はないのだが,こうして. 随想 2:流暢な英語でなくてもよい. でも論文が増えれば,周囲にはよき指導者と映るかもし.  研究室一丸となって論文を作成することは,執筆を効. れない。. 率的に進めるとてもよい手段である。経験豊かな研究者.  以上,こんな研究者がいたらという想定で大げさに述. が若い研究者の指導にあたり英作文を手伝えば,お互い. べたが,言いたいことは,英語の能力は優れた研究者の. の理解も深まる。. 必須条件ではないことだ。英語はコミュニケーションの.  ただ,どんな研究室,研究チームであれ,そこには暗. 道具に過ぎない。研究をおろそかにするようなことがあ. 黙のルールが存在する。そのルールを決めるのは,グ. れば本末転倒である。. ループのリーダーである。リーダーの指示でインパクト. 第 2 の動機:仲間のため(研究室の発展). ファクターの高い雑誌を狙い,中身が伴わないのに粉飾 して書くようなことがあれば,データのねつ造という事.  第 2 の動機は,研究を進めた仲間のため,ともに成長. 態を招くことにもつながりかねない。あるいは,研究の. し社会に認められたいという,研究室の発展である。論. 当事者ではない者が,英語ができるという理由だけで論. 文の採択は,著者本人だけでなく,所属する研究室や所. 文を書くことがあるとすれば,流暢な英語で書かれてい. 属施設(病院や大学,研究所)にとってもうれしいこと. ても,中身が乏しいことだってある。. である。雑誌に掲載された英語論文は研究室のメンバー.  研究室の評判を高めたいから,という理由でかっこの. 一丸で取り組んだ研究成果の賜なのだろうし,所属施設. よい英語で論文を書こうとする行為は慎んだ方がよい。. の様々なサポートもあっただろう。研究プロジェクトを. 新しい知見は,それだけで報告に値するニュースであ.

(3) なぜ英語で論文を書くのか:5 つの動機. 291. る。流暢な英語で本質とは違うことを長々と述べるので. わずもち続けられるかが問題となる。自分自身でやろう. はなく,たとえ成果が小さくても,誠実な態度で語るこ. と決めたことに対して,まわりの応援が得られるとは限. とを心がけるべきである。. らない。稀に親身になって助けてくれる人が現れるかも. 第 3 の動機:人のため(人類の幸福). しれないが,そうしたことは滅多に起こらない。それで も腐らず,自分で決めたことに自分で責任をもち,孤独.  第 3 の動機は,困難な課題を解決し人類に貢献したい. に耐えて研究生活を続けていくしかない。. という「人のため」を思う心である。英語で論文を書く.  この種の研究者は広く世界を見渡し仲間を探し,コ. 動機というより,単純に研究の動機ともなる。先に述べ. ミュニケーションを取らねばならない。よって,論文を. た自己研鑽や研究室の発展と違って利他的な動機なの. 書くよりも先に英語に精通する傾向が強い。. で,ここで触れておく。.  普通,難しい問題を完全に解決するまでにはかなり長.  この動機には,研究者が過去に経験したつらい出来事. い時間を要し,研究者が生きているうちに解決されるも. が根底にある場合が多い。たとえば,研究者の幼少期に,. のは少ない(天然痘の撲滅のような成功例はかなりめず. 家族が難病を患い入院した経験があったりすれば,その. らしい)。だから,難しい課題に対して臆せず取り組む. 病の克服をめざして研究に取り組むことがあるだろう。. 研究者は,解決に向けての進歩を気にかけ,少しでも新. 戦争や飢えの経験や障害をもつ家族と育つこと,そして. しい知見が得られれば,それを原著論文として報告すべ. 宗教心も「人のため」という動機の原点になる。. きである。.   「人のため」という思いに突き動かされる研究者は,.  この場合,論文の「考察」をどう書くかが重要である。. 目標が明確なので,研究にも集中して情熱をもって取り. 研究者が見つけた知見に焦点をあてるべきか,知見を元. 組む。ひとつの研究手法に固執せず,課題を解決するう. にした新しい考え(仮説)を述べるべきか,である。こ. えで必要なら,分野の垣根を越えることも厭わない。研. の点については過去の研究報告(多くは英語の)を熟読. 究手法を広く学ぶことはかなりの努力を要するが,課題. し,どう書くべきか参考にすべきだが,新しくわかった. を解決しようとする情熱の方が勝っているのである。. 知見は新たな仮説よりも価値ある知識である。正しく行.  このような研究者にとって,英語で論文を書き公表す. われた調査や方法で得られた知見は確実で揺るぎない。. る意義は,同じような情熱をもって問題解決に取り組む. 仮説は推測の域にあり,常に塗り替えられる運命にある。. 人を世界中から見つけ,つながることである。仮に,病.  小さな進歩を記述するうえで心がけたいことは,研究. 院がなく,医師も不在な僻地で育った青年を想定してみ. 者は情熱をもって取りくんだ問題を丁寧に物語ることで. よう。彼の母親は慢性閉塞性肺疾患を煩っているが,治. ある。新たにわかったことは,これまでの研究とどう違. 療のため専門家の元へ通院することが困難な状況であっ. うのか,これまでの通説がどれだけ関心を集めていたの. た。青年はやがて理学療法士となり,通院が難しい地域. か,知見は通説に沿ったものなのか,それを否定するも. に住む患者さんでも,いかに病気に対処し生活機能を維. のなのか,といった具合である。研究者は成果を単に英. 持するかということに強く興味を抱いている。そうであ. 語で書けばよいのではなく,英語で読者と交流するの. れば,理学療法の介入に関するテーマではなく,過疎地. だ,という意識をもつことが肝要である。. 域の問題,特に高齢者に焦点をあて,コストをあまりか けずにできることも念頭におき解決策を模索するはずで. 第 4 の動機:科学のため(科学的真理の探究). ある。すると,研究は医学のみならず,疫学や経済学に.  第 4 の動機は純粋に科学のため,科学的真理の探究で. 関する知識を統合したものになる。地域の特性のような. ある。真理を追い求めるが故に,英語で論文を書く必要. 点に焦点を置く研究はあまり多くないので,世界中の研. がある,という研究者の例を取り上げたい。. 究を見渡し,過疎地域でどのように慢性閉塞性肺疾患の.  真理の探究を強く指向する研究者は,好奇心が旺盛. 治療やケアを進めているかという論文を逃さずに読む。. で,熱心に観察し,解明されていない謎の答えを追い求. それを自らの地域の状況に合わせ考えを発展させていく. めるタイプである。わからないことに対する好奇心は,. 課題に取り組み論文として公表する。この研究者が実施. 利己的でも,利他的でもない。研究助成金は必要だから,. した地域に根付いた研究は,他の国の研究者の参考にも. 応募の手続きはするが,そんなことよりも研究そのもの. なる。英語論文は情報を交換する媒体として機能するの. を優先する。研究チームを大きくすることには無頓着で. である。. ある。. 随想 3:知的対話としての英語.  研究の進め方も事実に忠実であることをよしとする。 せっかく考えた仮説も集めたデータで証明されなけれ.  人のため,人類の幸福のためという大志に突き動かさ. ば,また別の仮説を考える。ひとつの仮説にしがみつこ. れて研究を行う場合,絶対に成し遂げるという気持を失. うとはしないのである。研究成果が実用的か否かという.

(4) 292. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. ことにも関心がなく,場合によっては「変人」に見られ. を統計学的に示したとしよう。その機序を論文の中でい. るかもしれないが,本人は周りからの評判はあまり気に. くら上手に解説しても,その主張は仮説に過ぎない。転. しないように見える。. 倒の減少という事実はとても大事だが,その結果を生じ.  この種の研究者は,役に立つということだけに研究の. させた介入について,絶対的真理のごとく説明するのは. アイデアが限定されるということを好まないのだが,だ. 避けなければならない。よい仮説は役立つが,それを崇. からといって,社会とのつながりを否定するわけではな. 拝し,これこそが真理だと売り込むようなことはするべ. い。研究に対する好奇心は,そのまま他人への好奇心に. きではない。. も通じるので,他の研究者とつながる社交性ももち合わ.  こうしたことを意識しながら論文を書くのと,そうで. せる。研究結果を報告する際は,よく同様の研究を調べ. ないのとは明らかに違う。これは,単に文法や英作文の. るだろうし,知見を広く通知し,世界中の人から意見を. 知識だけで解決する問題ではない。研究から得られた知. もらいたいと思うだろう。となると,自然に論文は英語. 見,それがどのような位置づけなのかを,過小にも,過. で書くことになる。. 大にも評価せず,論じていかなくてはならない。これが.  実は,こうした動機で書かれた論文はとてもわかりや. うまくいけば,その論文の到達点,先行研究からどこま. すい。データに対する解釈が独断的でなく,論理的に明. で進んだのかを,他の研究者に正しく伝えることがで. らかになったこと,まだ不明確なことがきちんと記述さ. きる。. れるからである。こうした論文を日本語で公表するの は,著者本人というより,社会にとって少しもったいな. 第 5 の動機:専門家のため(理学療法の発展). い。世界中に真理の探究に取り組む専門家が存在し,な.  第 5 の動機は,専門家としての責任に根ざした,専門. にが,どこまで明らかになったのか探り合っている。そ. 性と高めたいと理学療法の発展を思う動機である。理学. うした専門家どうしのコミュニケーションのためにも,. 療法に限らず,医療の現場では,治療効果が十分に証明. 英語での発表には意義がある。. されていないことも,これまで行われてきたから,ある. 随想 4:ゴールはない。到達点はある。. いは,経験上はよいと思うから,という理由で実施され ることがある。ただ,これではやはりまずいので,行っ.  真理の探究は,研究者に共通する普遍的な姿勢であ. ていることが確かに効果的かを検証する研究がなされ. る。そして,この世に絶対的な真理はないに等しいのだ. る。理学療法の学会発表の場で,このような研究を多く. から,真理の探究にゴールがあるとは考えない方がよ. 目にすることができ,理学療法士に広く共通する動機で. い。絶対と考えられる物理学だって,法則から逸脱する. ある。. ような現象が起これば変わりえる。あまりうまい例えで.  しっかりとデータを取り,自分たちの行ってきたこと. はないが,太陽が昇らない日がたった 1 日あったとしよ. がやはり効果があった,ということになれば,それを報. う。物理学者はその事実を元に,また新たな法則を考え. 告することになる。世界へアピールするとなれば,英語. なくてはならない。物理の法則であっても,修正が加わ. で論文を書くことを選ぶ。日本語で書いて公表したとす. る可能性は残されているのである。こうした「常識」の. れば,その論文が研究分野に与えるインパクトは限られ. 修正は,物理でも,化学でも,生物学でも,そして,私. たものとなるし,重要な成果をなぜ英語で公表してくれ. たちの生活でも起こり得る。そう考えると,論理的に完. なかったのかと,不満を覚える研究者は世界中にいるの. 全に証明できることなど,ないに等しいのである。. である。.  完全な証明という満足はあきらめるとしても,今現在.  もちろん,英語論文は研究費や留学資金の獲得におい. はもっとも確かで信じられるという到達点はある。物理. ても重要である。海外はなにも英語圏とは限らない。英. の法則は,その到達点にあるといえるだろう。では,理. 語を話さない国への留学においても,英語論文が重視さ. 学療法の介入効果に関する研究はどうだろう。こちら. れるのである。高いレベルの研究を行う人は,英語を通. は,さらに不確実な要素を含んでいる。「統計学的に有. じて研究者同士でやりとりをし,国際的な共同研究を推. 効性が認められた」といっても,その統計自体,「仮説. 進することが期待される。まだ若く,研究者として一流. を証明」ではなく,「仮説を棄却」すること,すなわち,. ではなくても,英語でのコミュニケーション能力は求め. 介入による効果よりも,偶然あらわれた効果が小さいと. られている。理学療法の専門性を高めたい,という動機. いう確率をもってして,「意味がある」と定義している. も,英語で論文を書く強い推進力になる。. に過ぎない。  よって,論文を書くとき,まるですべての問題が解決. 随想 5:発表だけで満足を脱し論文の投稿へ. したかのように表現することは避けた方がよい。〇〇と.  理学療法士は医師と同じくらい客観的なデータにこだ. いう介入をしたら,転倒の発生が減少した,ということ. わるきらいがあり,臨床においてもデータの収集に余念.

(5) なぜ英語で論文を書くのか:5 つの動機. 293. がない。そして,臨床で蓄えたデータを元にした,研究. 紹介した。論文を書く動機はこの中のひとつ,というよ. 発表も盛んである。ただ,残念なことに,毎年同じよう. り混在しているだろうし,ここに挙げなかった動機で突. な発表が繰り返されることも見受けられる。. き動かされることもあるだろう。「なぜ研究するの?」.  学会発表で満足してしまうから,発表がゴールだか. という問いに,明確に答えられないように,動機も複雑. ら,進歩が見えてこない。学会発表は「発表した」とい. である。ただ,無理にでも分けることで,書く動機を把. う記録は残るが,なにがわかったのか,という研究の記. 握しやすくなると考えた。. 録は残らない。研究成果は学会で発表しなくても,論文.  動機に付随する形で記した随想からは,英語で論文を. で公表されれば,その記録が明確に残る。そう考える. 書くということは,「英語を道具」としてどううまく使. と,専門家としての発展は,学会発表の会場の規模では. うかだということを感じ取っていただきたい。英語論文. なく,理学療法の論文の質と量が鍵を握るといえる。. は英語での作文能力,Writing skill に限定しがちだが,.  では,どこに論文を投稿すべきか。それは,できるだ. 英語を使うのは原稿を書くときだけでなく,査読者,編. け丁寧で公平である雑誌を選びたい。そのひとつの目安. 集者,そして,出版社と,論文の掲載まで英語でのやり. がインパクトファクターである。インパクトファクター. とりが続くのである。. の点数は業績評価にも採用されるほどで,研究者ならぜ.  英語を道具として使うと割り切れば,間違いをそう恐. ひとも高い雑誌を選びたいところではある。ただ,ここ. れることもない。道具は使えば使うほど手になじむ。英. では,名誉のためというよりも,ランクの高い雑誌ほど. 語も使えば使うほど磨きがかかる。英語で長い文章なん. 査読が丁寧だということを理由として挙げたい。たとえ. て書けないという人には,とにかく草稿を仕上げ,後は. リジェクト(不採用)と判定されたとしても,コメント. 校正会社に任せたらよい。英語の文献を読むことができ. がつけられていれば,どこが悪かったのか,どう改善す. るなら,書くことにそれほど不安をもつ心配はない。こ. ればよいのかがわかり,別の雑誌への投稿に生かすこと. のシリーズの第 2 回「苦手な英語でどう書くか」も参考. ができる。ただし,そうした雑誌ほど投稿数も多いので,. になるかもしれない。. 採択は厳しくなる。.  英語論文を読むことは書くことを助ける。その際,関.  注意すべきなのは,英文誌であっても,ほとんど審査. 心のある分野の研究論文を,著者から話を聞くように読. なしで通るような雑誌も存在することである。極端なこ. むとよい。「行間を読む」という言葉があるが,著者の. とをいってしまえば,日本語であればどの雑誌でも不採. 呼吸を感じるように,物語を味わう。これはたやすいこ. 用になるような内容でも,英文であれば通ってしまうこ. とではないが,あなたにとって関心の高い論文であれ. ともありえる。英語雑誌だから日本の雑誌より信頼でき. ば,内容だけでなく物語性も学び取れるであろう。論文. る,ということはない。. から学ぶことが,研究のトピックについてあなた自身が.  原稿は英語で書かなければならないが,英語に自信が. 物語ることへの近道となる。物語は英語で行わなければ. ないなら,様々な方法で助けてもらったらよい。もっと. ならないが,流暢に語ることではなく,言いたいことの. も簡単な方法は,とにかく日本語で論文を書きあげて,. 本質を伝えることが大切である。言いたいことを相手に. 翻訳サービスがある会社に頼み,英語論文に直してもら. 伝えてコミュニケーションを取るキャッチボール。論文. うのである。専門分野の進歩を志す者なら,そう難しい. を読む相手は,今度はあなたの言葉を聞くことになる。. ことでもないだろう。データを集め,論文を書き,英語. あなたの話が面白ければ,相手も喜んで耳を傾けてくれ. に直し,適切な雑誌を選び投稿する。それだけで,学会. る。だから,だいじょうぶ。あなたなら書ける。. 発表で満足していた段階から一歩踏み出せる。. まとめ:だいじょうぶ。あなたなら書ける。  以上,無理を承知で英語論文を書く動機を 5 つに分け.

(6)

参照

関連したドキュメント

 1999年にアルコール依存から立ち直るための施設として中国四国地方

住所」 「氏名」 「電話番号(連絡 先)」等を明記の上、関西学院 大学教務部生涯学習課「 KG 梅田ゼミ」係(〒662‐8501西 宮 市 上ケ原 一 番 町 1 - 1 5

± KRKy-2也音洞遺跡蔚山市南区新亭洞青銅器中期松菊里炭化材Ⅱ区1住居跡,材NO1密陽大学校博物館/郭 

本     所:小美玉市上玉里 1122  ☎ 0299-37-1551 小 川 支 所:小美玉市小川 2-1 ☎ 0299-58-5102 美 野 里 支 所:小美玉市部室 1106  

 文学部では今年度から中国語学習会が 週2回、韓国朝鮮語学習会が週1回、文学

向井 康夫 : 東北大学大学院 生命科学研究科 助教 牧野 渡 : 東北大学大学院 生命科学研究科 助教 占部 城太郎 :

神戸市外国語大学 外国語学部 中国学科 北村 美月.

本市は大阪市から約 15km の大阪府北河内地域に位置し、寝屋川市、交野市、大東市、奈良県生駒 市と隣接している。平成 25 年現在の人口は