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66, 温水銅配管の孔食に及ぼす酸化物および各種イオンの影響 Influence of Oxide and Various Anions on Pitting Corrosion of Copper Tubes in Hot Water Hidefu

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Academic year: 2021

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(1)

温水銅配管の孔食に及ぼす酸化物および各種イオンの影響

山中秀文

1)*

,藤本貴裕

1)

,永井智之

1)

,野中英正

2)

1) 

大阪ガス株式会社

2) 

元 大阪ガス株式会社

Influence of Oxide and Various Anions on Pitting Corrosion of Copper Tubes in Hot Water

Hidefumi Yamanaka

1)*

, Takahiro Fujimoto

1)

, Tomoyuki Nagai

1)

and Hidemasa Nonaka

2)

1) Osaka Gas Co., Ltd. 2) formerly Osaka Gas Co., Ltd.

責任著者(Corresponding Author) 〒 554 0051 大阪市此花区酉島 6 19 9(6 19 9 Torishima, Konohana-ku, Osaka, 554 0051, Japan) E-mail: yamanaka@osakagas.co.jp

 Investigation to clarify the influence of various kinds of oxide deposit and anions (chloride ion, sulfate ion, and bicarbonate ion) in hot water on pitting corrosion of copper tubes was carried out. Anodic polarization and potentiostatic polarization measurements at critical pitting potential of 150 mV (SCE) using copper tube specimen with various kinds of oxide artificially deposited were made. It was found that pitting corrosion rate of the specimen was accelerated by artificial deposit of oxide and changed depending on kinds of oxide. It was also found that the anodic current in potensiostatic 1000 hour polarization was composed mainly of film formation current at the beginning of the polarization and was composed mainly of pitting corrosion current in the last stage of the polarization. In the synthetic solutions of various concentrations of chloride ion, sulfate ion and bicarbonate ion, potentiostatic polarization measurements of the specimen with CuO deposited were made. As a result, it was clearly shown that chloride ion had a more significant influence on pitting corrosion current of copper compared to sulfate ion.

 Key words : copper, pitting corrosion, typeⅡ, oxide, anion, potentiostatc polarization, pitting corrosion current, corrosiveness, index 1.緒     言 銅管は淡水環境における耐食性が優れていることか ら,給水・給湯用の配管をはじめ,熱交換器や空調用の 配管などに多く使用されている.しかしながら,使用環 境により,銅イオンの溶出(青水),局部的な腐食(孔食) および潰食(エロージョン・コロージョン)が発生するこ とが報告されている1),2).軟水を使用する温水銅配管で は,Campbell ら3)の報告により Type Ⅱに分類される孔 食が発生することが知られている.その特徴として,孔 食内部に亜酸化銅および塩化銅が存在し,その上に塩基 性硫酸銅(Cu4SO(OH)4 6 , Brochantite)が生成することが報

告されている.また,これまでの研究において,Type Ⅱ の孔食は,HCO3濃度 /SO42濃度の比が 1 以下の水質の 場合に発生しやすいこと,孔食電位である+150 mV vs. SCEを超える場合に発生すること,その電位に達するた めには水中に飽和した溶存酸素だけでなく残留塩素が必 要であること,などが明らかにされた4)6).そのほかに, 孔食の発生には銅表面における皮膜(酸化物)などが影響 することが報告されている7),8).しかしながら,それら の検討では,電位と腐食の発生の有無との関係を議論し ているものがほとんどであり,酸化物の種類による腐食 電流への影響を詳細に検討した報告は見当たらない.一 方,水質については,前述の HCO3濃度 /SO42濃度の比 が 1 以上の水質においても孔食が発生する例が報告され ている9).また,中島10)は硫酸イオンおよび塩化物イオ ンの当量濃度の和と硫酸イオン,塩化物イオンおよび炭 酸水素イオンの当量濃度の和との比と溶液の pH との関 係で Type Ⅱの孔食の発生領域を示している.しかしな がら,それぞれの成分の腐食電流への影響については明 確にされていない. 本研究では,種々の酸化物や水中の各種イオン(塩化 物イオン,硫酸イオンおよび炭酸水素イオン)が温水銅 配管における孔食の成長に与える影響を明らかにするた めに,アノードサイトを再現する簡略化した模擬実験(電 気化学実験)による検討を行った. 2.実 験 方 法 2.1 試験片および試験水 外径 12.7 mm(内径 11.4 mm)の JIS H 3300 C1220 のリ ン脱酸銅の軟質管を用い,管を長手方向に半割し,試験 面の長さが 10 mm の試験片(内面の試験面積,1.8 cm2 を作製した.試験片は,内面をエメリー紙# 800 で湿式 研磨し,アセトン中で超音波洗浄を行った後に,試験面 以外をシリコーンシーラントで被覆した(以後,研磨試 験片という). 試験水には大阪市の水道水を使用した.水道水の水質 (2014 年 7 月∼2016 年 10 月までの実験に使用した水質) を Table 1 に 示 す. ま た, マ ト ソ ン 比11)や Nakajima 第 62 回材料と環境討論会(福岡,2015 年)で発表 第 63 回材料と環境討論会(大阪,2016 年)で発表

(2)

Diagram10)を参考に,各種イオン(塩化物イオン,硫酸イ オンおよび炭酸水素イオン)の Type Ⅱの孔食の成長への 影響を検討するために,塩化ナトリウム,硫酸ナトリウ ム,炭酸水素ナトリウムを用いて所定の濃度(Table 2)に 調製した試験水(以後,調製水という)を使用した.各イ オンの濃度は,腐食データのバラツキを考慮し,後述す る腐食性指数(3.3.2 参照)の範囲を大きくとり,各イオン の腐食性の傾向を明確にするため,最大値を大阪市水道 水よりも 15∼35 倍程度に設定した.塩化物イオン,硫 酸イオン,炭酸水素イオンのうち,2 種の濃度を固定 し,1 種の濃度を変化させる考え方で各種イオン濃度の 組合せを選定した.なお,Table 2 の右欄の電流値につ いては後述する(3.3.1 参照). 2.2 模擬実験に用いた酸化物と酸化物の試験片への 付着のための前処理方法 銅のアノード部を再現する方法として,Type Ⅰ孔食 では,銅片に銅イオンの溜りとして丸底ガラス管を接触 させる方法が用いられている12).また,Type Ⅱの孔食 断面観察4)より,元の金属表面に相当する位置に欠陥を 有するポーラスな皮膜が存在し,その下で孔食が発生, 成長している.このように,ポーラスな皮膜が孔食の発 生,成長に重要な役割を果たしていると考えられる.本 実験では,それらを参考に種々の酸化物についてその化 学的性質を取り上げて腐食への影響を検討するために, 上述の欠陥を有するポーラスな皮膜の簡略化したモデル として酸化物の粉末を用いた.なお,実際の銅の腐食で は,各種酸化皮膜の性状や密着状況などが影響している と考えられる.しかし,銅の表面上に人工的に単一の酸 化皮膜を生成させることは困難であるため,簡略化した 模擬実験として酸化物の粉末を用いた.酸化物の粉末を Fig.1 に示すように研磨試験片の内面に人工的に付着さ せた.用いた酸化物は,酸化銅(Ⅰ)(関東化学製,平均 粒径;7.7 μm,特級),酸化銅(Ⅱ)(関東化学製,平均 粒径;12.0 μm,特級),Al2O(林純薬製,平均粒径;3 56.2 μm,CP),SiO(林純薬製,平均粒径;106.6 μm,2 特級)である.なお,各酸化物は,試験面の約 90%を覆 うように,つまり,酸化物で覆われない試験片の両端の 幅が,ほぼ一定の 1 ㎜になるように試験片表面に載せた. それぞれの酸化物の質量は,酸化銅(Ⅰ)が 0.40 g,酸化 銅(Ⅱ)が 0.25 g,SiO2が 0.2 g,Al2O3が 0.25 g であった. Table 1 Chemical compositions of tap water at Osaka city.

(3)

酸化物を試験片内面に付着させるために,研磨試験片内 面に酸化物を載せた後に水道水を 0.4 ml 滴下し,313 K, 相対湿度 95%の環境で 24 h 保持した.これにより,酸 化物はある程度締め固まり,試験片を逆さにしても酸化 物は全て落下せず,試験液中に飛散することもなかっ た.また,酸化物に覆われていない露出部の銅表面も水 道水に触れて酸化されていたため,酸化物を付着させな い試験片(ブランク)も,酸化物を付着させた試験片と同 様の表面状態にするために,酸化物を付着させる方法と 同じ処理を行った(以後,研磨固着試験片という).この 処理により,銅管の表面は酸化により僅かに褐色に変色 した. 2.3 アノード分極曲線 実機での銅の孔食は,孔食部をアノードサイト,周辺 をカソードサイトとするマクロセルを形成していると考 えられる5).そこで,マクロセルアノード電流を求める ために,空気を曝気した試験水中でのアノード分極測定 を実施した. Fig. 2に示す硬質ガラス製セパラブルフラスコに試験 水 1 l を入れ,空気で曝気(50 ml/min)し,撹拌しながら 室温から 333 K に上昇させた.その後に,上記 2.1 およ び 2.2 の試験片,照合電極,および湾曲させた対極(Pt メッシュ:20×80 ㎜,100 メッシュ)を試験水(水道水)中 に浸漬した.その後,気相中に空気を吹き込みながら, 333 Kで自然電位を 2 h 測定し,その後に 20 mV/min の 掃引速度でアノード分極測定を実施した.試験水が照合 電極の内部液で汚染されるのを抑制するために,先端に ろ紙を充てんしたルギン毛管中に試験水(333 K)を入れ, その中に Ag/AgCl /KCl (0.1 mol/ l) 電極を浸漬するダブ ルジャンクション方式を採用した.なお,電位は全て Ag/AgCl/KCl (Sat. 333 K)電極基準に換算した. 2.4 定電位保持実験および試験片の分析 大阪市水道水(琵琶湖水系)では,Type Ⅱの孔食事例 は,東京などの利根川水系に比べて少ない13)ため,孔食 の発生ではなく,孔食の成長に関する検討を行った.上 記 2.3 と同様の装置で,試験片の自然電位を測定後,試 験片を+200 mV に保持した.なお,この電位は,熱拡 散電位差14)を考慮すると,温水中における銅の孔食電位 (+150 mV vs. SCE,室温)5)とほぼ等しい電位である. 電位保持時間は 1000 h とし,その間に流れるアノード 電流を測定した.その値はカソード部の電位が+200 mV の擬似マクロセルアノード電流となる.このように,本 実験では,カソード側の反応ではなく,アノード側の反 応に注目して検討を行った. 酸化物を付着させた試験片について,定電位保持 1000 h 後に酸化物との界面の試験片表面における腐食箇所の分析 を行った.試験片を常温で乾燥後,エポキシ樹脂に包埋 し,肉厚方向に切断した.断面を# 2000 まで研磨し,腐 食減肉が起こっている部位における各元素(Cu,O,Cl,S) の分布状況を,電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用 いて分析した. 3.結果および考察 3.1 アノード分極曲線 Fig. 3に,試験水(水道水)における研磨試験片(As polished),研磨固着試験片(Without oxide)および各酸 化物を付着させた試験片のアノード分極曲線を示す.一 般に,銅管の孔食電位はカソード部の電位で表され,ア ノード部との IR 損は考慮されていない5)ため,本実験 結果においても,IR 損込みの分極測定を行った.付着さ せた酸化物によって分極挙動が異なっており,孔食電位 付近(+200 mV)のアノード電流密度の大きさは,酸化物 を付着させた試験片では CuO>Al2O3≒Cu2O>SiO2であ

り,SiO2が最も小さい値を示した.各酸化物における抵

抗値(試験片と参照電極間の抵抗であり,試験液以外に 各酸化物に試験液が含浸された状態でのイオン伝導の抵 抗 を 含 む)は,CuO が 1630 Ω,Al2O3が 2030 Ω,Cu2O

が 1670 Ω, SiO2が 6690 Ωであった.また,各酸化物に

おける IR 損は,CuO が 164 mV,Al2O3が 135 mV,Cu2O

が 99 mV, SiO2が 52 mV であり,馬場ら5)が報告してい るアノード部の電位(Cu/CuCl の平衡電位)と孔食電位(カ ソード部)との間の IR 損(約 130 mV)とオーダー的に対応 している.SiO2はほかに比べて抵抗は大きいが電流値が 小さいため,抵抗を含んだ IR 損分を考慮すると分極電位 はほかの酸化物よりも最も貴であることから,抵抗によ る IR 損を考慮しても,上記の電流の大小関係に変化はな いと考えられる.すなわち,SiO2の抵抗が大きいためにア ノード電流が小さくなっているのではない.また,研磨試 験片のアノード電流が最も大きく,研磨固着試験片のほ うが,アノード電流が抑制されていた.これは,試験前 の処理により,研磨固着試験片の銅表面にあらかじめ酸 化皮膜が形成したためであると考えられる.また,馬場 ら5)の定常分極曲線からも推定されるように,本アノー ド分極曲線のアノード電流は皮膜生成によるアノード電 流が主体であると考えられる(後述の 3.2 参照).各酸化 物を付着させた試験片において酸化物が付着していない

Fig. 1 Schematic diagram of test specimen with artificial deposit.

Fig. 2  Schematic diagram of experimental cell for polarization measurement.

(4)

露出部の銅表面(付着処理時に水道水に接触した)部分の 影響は研磨固着試験片のアノード電流の約 1/10(露出部 の試験片表面に対する割合は約 10 %)であり,SiO2以外 の酸化物において計測されるアノード電流は主に各酸化 物存在下での銅表面の皮膜生成電流であると考えられ る.SiO2では,露出部分の面積を考慮すると SiO2存在 下での銅表面の皮膜生成電流は非常に小さいと考えられ る.このように,各酸化物を付着させた試験片のアノー ド電流は,最小の SiO2と最大の CuO で 10 倍以上異な ることから,接触する酸化物の影響を受けていると考え られる.データ再現性を確認するために複数回の実験を 行ったが同様の傾向であった.なお,各酸化物によって アノード電流が異なり,特に SiO2がほかの酸化物と比 較してアノード電流が小さくなる要因として,イオン選 択透過性や皮膜の安定性などが考えられるが,これらに ついては今後の課題である. 3.2 定電位保持実験 3.2.1 アノード電流  Fig.4に,各酸化物を付着させた試験片を試験水(水道 水)中で+200 mV で定電位保持したときのアノード電流 の経時変化を示す.いずれの試験片のアノード電流も, 試験開始直後は大きく,時間とともに小さくなった.酸 化物を付着させた試験片の電流は,変動が見られるもの の,約 200 h 以後は,ほぼ安定した値となった.酸化物 を付着させていない試験片(研磨試験片,研磨固着試験 片)は,いずれも約 400 h 経過した時点でほぼゼロとな った.このことから,試験片の酸化物以外の露出部分お よび付着処理時の酸化皮膜のアノード電流に与える影響 は長時間側ではほとんど無視できることがわかる.いず れの試験片においても,N=3 以上の試験を実施してお り,ほぼ同様の傾向となることを確認した.このように定 電位保持することによって,約 400 h 経過時点でアノード 電流のうちの皮膜生成電流がほぼゼロとなり,それ以後は 酸化物を付着させた試験片のアノード電流は皮膜生成電 流以外の腐食(孔食)電流が主体となると考えられる(後述 の 3.2.2 参照).各試験片における 500∼1000 h のアノード 電流密度の平均値(いずれも N=3 以上)を Fig. 5 に示す. グラフ中のエラーバーはそれぞれの標準偏差値(±σ)を 示している.各試験片の電流値は,ばらつきはあるが, おおむね CuO≒Al2O3>Cu2O>SiO2>>研磨試験片≒研磨

固着試験片の順であった.酸化物の種類により孔食の成 長への影響度が異なっていると考えられる.酸化物の種

Fig. 3 Anodic polarization curves of specimens in tap water.

Fig. 4  Time dependence of anodic current density at 200 mV of pitting potential in tap water.

(a) Cu2O, CuO, As polished

(b) SiO2, Al2O3, Without Oxide

Fig. 5  Time average of anodic current density from 500 h to 1000 h polarization at 200mV in tap water.

(5)

類により影響度が異なる機構については,酸化物粒子の イオン選択透過性,水が含浸した状態における酸化物の pHやアノード部の腐食電位などが考えられるが,それら については今後の課題である. 3.2.2 断面分析 酸化物を付着させた試験片の定電位保持実験後の断面 観察結果(代表例としてアノード電流の最も大きな CuO と最も小さな SiO2)を Fig. 6 に示す.電流値が最大の CuOと最小の SiO2では,明らかに腐食の程度が異なり,

CuOに比べ SiO2では腐食が軽微であった.Fig. 7 に

CuOを付着させた試験片の断面元素分布結果を示す. CuOと試験片との界面では,銅管の内面側が孔食状に腐 食減肉しており,孔食内部では酸素のほかに塩化物が濃 縮していた.また,孔食上部では,銅と酸素のほかに, 硫黄が瘡蓋状に分布していた.このような腐食減肉部に おける元素の分布状況は,定性的にはほかの酸化物の試 験片でも同様に見られ,実際に温水が流れる銅配管で発 生した孔食(Type Ⅱ)の状況4)と類似していた.一方,研 磨試験片および研磨固着試験片では,孔食状の腐食減肉 はほとんど見られなかった.以上より,酸化物を付着さ せることによって,Type Ⅱの孔食の成長が促進される ことがわかった. 3.3 各種イオンの孔食電流への影響 3.3.1 塩化物イオン,硫酸イオン,炭酸水素イオンの 影響 上記 2.2 の酸化銅(Ⅱ)を表面に付着させた試験片を用 い,Table 2 で示した調製水中で 2.4 に示した定電位保持 実験を行い,アノード電流密度の 500∼1000 h の平均値を 求めた.試験後には試験片表面の状態を確認し,いずれ も腐食・孔食が発生しており,アノード電流が大きい試 験片では顕著な腐食が確認された.各調製水中での定電 位保持実験におけるアノード電流密度の平均値(Table 2, 右欄参照)と各イオン濃度(当量濃度 meq/l,以下同様)と の関係について重回帰分析15)を行った.重回帰式を 1)式 とし,目的変数(y)をアノード電流密度の平均値,説明変 数(X1∼X3) を各種イオン濃度(塩化物イオン,硫酸イオ ン,炭酸水素イオン)として,重回帰分析ソフトを用いて 重回帰分析を行った.アノード電流密度の実測値と 1)式 で与えられる予測値(目的変数)の差が最少となるように最 小 2 乗法により偏回帰係数(b0,b1,b2,b3)を求めた. y= b0 + b1・X1 + b2・X2 + b3・X3 … 1) y:目的変数,X1∼X3:説明変数,b0∼b3:偏回帰係数 その結果,アノード電流密度の推定値 iaの重回帰式 は,以下の式で表される. ia = 11.7 + 6.8・【塩化物イオン濃度】+ 1.2・【硫 酸イオン濃度】 3.8・【炭酸水素イオン濃度】 … 2) この式から,塩化物イオンと硫酸イオンはアノード電 流を増大(孔食の成長を促進)させる因子であり,炭酸水 素イオンはアノード電流を減少(孔食の成長を抑制)させ る因子であると言える.また,硫酸イオンの係数は塩化 物イオンの係数の約 0.2 倍であり,塩化物イオンのほう が孔食の成長に大きく影響することがわかった.2)式の 重回帰式によるアノード電流密度の推定値と定電位保持 実験での実測値(500∼1000 h の平均値)との関係を Fig.8 に示す(なお,図中の番号は,Table 2 の溶液条件の番号 と対応する).今回の試験濃度の範囲内においてアノー ド電流密度の推定値と実測値とがおおむね対応している ことがわかる.

︿

︿

Fig. 6  EPMA mapping results of specimen with deposit of CuO after 1000 h polarization at 200mV in tap water.

(6)

3.3.2 溶液の腐食性を表す指数の提案 TypeⅡの孔食における水質の評価指数の一つである マトソン比11)を参考に,腐食抑制因子である炭酸水素イ オンと,腐食促進因子である塩化物イオンと硫酸イオン の濃度を用いて溶液の腐食性(孔食の成長の促進性の目 安)を表す指数(X)の検討を行った.指数Xの式を 3)式 に示す. X=【塩化物イオン濃度】+A×【硫酸イオン濃度】【炭酸水素イオン濃度】 … 3) 3)式で示した指数Xと定電位保持実験でのアノード電 流密度の実測値(500∼1000 h の平均値)との相関が良く なるように係数 A を検討した.A=0.2 を仮定すると, Fig. 9に示すように,今回の試験濃度の範囲内において 腐食性指数とアノード電流密度との関係は,バラツキは あるがおおむね一つの曲線で表された(なお,図中の番 号は,Table 2 の溶液条件の番号と対応する).この硫酸 イオンの係数(0.2)は,上記 3.3.1 の結果とおおむね対応 している. なお,上記で示したように,指数 X(係数 A=0.2)は, 孔食の発生ではなく,孔食の成長の促進性の目安を表す 指数として検討したものであるが, Type Ⅱの孔食発生事 例との関係について検討を行った. 過去に報告された Type Ⅱの孔食発生事例(腐食センター ニュース No.5416))について,水質結果から指数 X を計算 し,その度数分布をとったものを Fig. 10 に示す.これよ り,孔食事例 28 件のうち,25 件(89%)が X =0.9∼1.1 以上 で発生していることがわかった.以上より,指数 X は,水 質による孔食の発生とも,ある程度相関している可能性が あることがわかる. 4.ま と め 温水銅配管における Type Ⅱの孔食の成長に関して, 各種酸化物や水中の各種イオン(塩化物イオン,硫酸イ オン,炭酸水素イオン)の影響を検討した結果,以下の 知見が得られた. (1) 銅表面に酸化物を人工的に付着させることにより, 銅のアノード分極挙動が影響を受けること,酸化物 の種類によりその影響度が異なることがわかった. (2) 銅表面に酸化物を付着させた状態で孔食電位付近に 長時間保持することにより,Type Ⅱの孔食が再現で きること,初期の皮膜生成電流が減衰して孔食電流 が現れること,孔食の成長が酸化物の影響を受けて 促進され,酸化物の種類によってその影響度が異な ることがわかった. (3) CuO を表面に付着させた定電位保持実験での長時間 後のアノード(孔食)電流に対し,塩化物イオン,硫 酸イオン,炭酸水素イオンの当量濃度で重回帰分析 を行った結果,塩化物イオンの方が硫酸イオンに比 べ,孔食電流に与える影響が大きいことが明らかに なった. (4) Type Ⅱの孔食の成長に対する水溶液の腐食性を表す 指標として,塩化物イオン,硫酸イオン,炭酸水素 イオンの当量濃度からなる新たな指数を提案した. 参 考 文 献

1) Y. Yamada and K. Kouno, Proc. 152ndSymposium, JSCE, pp.66-77 (2005).

2) S. Yamauchi and S. Sato, Boshoku-Gijutsu (presently Zairyo-to-Kankyo), 30 [1] p.469 (1981).

3) H. S. Campbell, Water Treatment and Examination, 20, pp11-34 (1971).

4) S. Sato, T. Minamoto, K. Seki, H. Yamamoto, Y. Yakizawa, S. Okada, S. Yamauchi, Y. Hisamitsu, I. Suzuki, T. Fujii, T. Fig. 8  Comparison between measured anodic current density

and anodic current density estimated by multiple regres-sion analysis. (* Numbers in this figure refer to numbers

of test solutions in Table 2.)

Fig. 9  Relationship between the index X and time average of an-odic current density from 500 h to 1000 h polarization at 200mV. (* Numbers in this figure refer to numbers of test

solutions in Table 2.)

Fig. 10  Occurrence distribution of pitting corrosion failures of copper tubes in hot water vs. index X.

(7)

要   旨  温水配管に使用される銅管の孔食に対して,種々の酸化物や水中の各種イオン(塩化物イオン,硫酸イ オン,炭酸水素イオン)が与える影響を明らかにするために検討を行った.  研磨した銅管に酸化物を人工的に付着させた試験片に対し,アノード分極測定および孔食電位での定電 位保持実験を行った結果,酸化物の付着により孔食電流が促進されること,酸化物の種類により孔食電流 が異なることがわかった.また,定電位保持実験におけるアノード電流は,初期では皮膜生成電流が主で あり,長時間側では主に孔食電流であることがわかった.塩化物イオン,硫酸イオン,炭酸水素イオンの 濃度を変化させた試験液で CuO を付着させた試験片の孔食電位保持実験を実施した.その結果,塩化物 イオンの方が硫酸イオンに比べ,孔食電流に与える影響が大きいことが明らかになった.  キーワード  銅,孔食,TypeⅡ,定電位保持実験,酸化物,孔食電流,陰イオン,腐食性,指標

Kodama, H. Baba and K. Nawata, Boshoku-Gijutsu (presently Zairyo-to-Kankyo), 31 [1] p.3 (1982).

5) H. Baba, T. Kodama, T. Fujii, Y. Hisamatsu and Y. Ishikawa, Boshoku-Gijutsu (presently Zairyo-to-Kankyo),

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6) H. Baba, T. Kodama, T. Fujii and Y. Hisamatsu, Boshoku-Gijutsu (presently Zairyo-to-Kankyo), 30 [3] p.161 (1981). 7) S. Komukai and K. Kasahara, Zairyo-to-Kankyo, 43 [4]

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16) H. Nakajima, Corrosion Center News, No.54, pp.15-39 (2010), 〈http://www.k0906n.sakura.ne.jp/news_code_

PDF/54003.pdf〉

(Manuscript received March 14, 2017; in final form August 2, 2017)

Table 2 Chemical compositions of test solutions.
Fig. 2   Schematic diagram of experimental cell for polarization  measurement.
Fig. 4   Time dependence of anodic current density at 200 mV of  pitting potential in tap water.
Fig. 7 Cross sectional observation of specimens after 1000 h polarization at 200 mV in tap water.
+2

参照

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