人工呼吸器ガイドブック
目次
1 はじめに 2 人工呼吸器の基礎知識 ◇人工呼吸器の役割と種類 従量式人工呼吸器、従圧式人工呼吸器(バイパップ)、圧持続型人工呼吸器(シーパップ) ◇人工呼吸器の周辺機器 ◇人工呼吸器のレンタル ◇緊急時の対応 3 人工呼吸器の使用 ◇人工呼吸器が必要な状態、検査入院 ◇鼻マスクでの人工呼吸器使用 ◇気管切開での人工呼吸器使用 ◇介助者への研修 4 人工呼吸器使用者の介助 ◇吸引(サクション) ◇ガーゼ交換 ◇入浴、トイレ ◇外出 5 人工呼吸器使用者の自立生活 ◇自立生活を始めるための準備 ◇人工呼吸器Q&A 6 人工呼吸器使用者からのメッセージ ◇神奈川 吉田和弘さん ◇東京 落合勇平さん ◇京都 岡田健司さん 7 人工呼吸器用語集 8 資料1 はじめに
人工呼吸器は筋ジストロフィー、ポリオ、ALS、高位脊髄損傷、SMAなどの呼吸が困難になる障害を持つ人が 使ういわば第二の肺です。人工呼吸器を使うことによって呼吸状態が改善され、体力が回復します。 かつて人工呼吸器はレンタルではなく、自費で購入するしかありませんでした。(価格は200万円程度)今ではレ ンタルが可能で、業者のバックアッフ体制も充実し、自宅で安心して利用できるようになりました。しかし人工呼吸 器の情報が乏しく、ネガティブなイメージがあるのが現状です。 障害によっては人工呼吸器はいずれ使うことになるものです。正しい情報があれば人工呼吸器に対する恐怖感が軽 減され、人工呼吸器をスムーズに導入することができます。また自立支援を進める上でも人工呼吸器の情報提供、導 入支援はとても重要です。 このガイドブックは、実際に人工呼吸器を使用しているIL−ismの障害当事者スタッフによって作成されました。 内容は人工呼吸器の基礎的な説明から始まり、検査・入院、使用方法、人工呼吸器使用者の生活と介助、必要な準備、 工夫、人工呼吸器使用者の手記など人工呼吸器に関するさまざまな情報が掲載されています。 人工呼吸器を使う当事者はもちろんのこと支援する人、介助者などさまざまな立場の人に活用していただけたら幸 いです。またIL−ismでは随時、人工呼吸器を使用している障害当事者スタッフが電話、Eメールによる人工呼吸 器相談を受け付けています。人工呼吸器のことでご相談がありましたらどうぞご利用ください。<人工呼吸器ガイドブックのご利用に当たって>
このガイドブックは、人工呼吸器使用者によって作成されています。できるだけ正確な情報を掲載するよう こころがけていますが、医師が監修したものではないため表現等に違いがある可能性もあります。また障害や 呼吸状況によってはあてはまらない場合もあります。そのことを理解された上でご利用ください。2 人工呼吸器の基礎知識
人工呼吸器の役割と種類
人工呼吸器はレスピレーター、ベンチレーターとも呼ばれている医療機器で、筋ジストロフィー、ALS、ポリオ、 高位脊椎損傷(交通事故)などの障害で呼吸をする筋力が低下もしくは動かせなくなって自力での呼吸が困難な人が 使用します。肺の疾患で必要な場合もあります。 人工呼吸器は外の空気を取り込み、設定された量と回数で空気を肺に送るものです。酸素は必ずしも必要ではあり ません。人工呼吸器を使っても血液中の酸素濃度が低い人は酸素も使用します。 通常呼吸は鼻から空気を吸い、肺で酸素と二酸化炭素の交換を行い、口から吐き出します。人工呼吸器を使用する 場合、マスク使用または気管切開をします。 マスクは主に睡眠時に人工呼吸器を使用する際に用いられます。鼻、口、フルフェイス(顔全体)の3種類ありま すが、鼻マスクを使う人が多いようです。マスクは人工呼吸器につないで使います。メリットとしては手術をする必 要がないことです。デメリットは常時使用することに向かないことです。 気管切開は喉を手術で切開してカニューレという器具を挿入して、そこに人工呼吸器を装着して呼吸をします。カ ニューレはピアスと同様、傷口が落ち着けば痛みはありません。時々痰が出てきます。痰吸引をする場合は、カニュ ーレからカテーテル(管)を入れて行います。風邪などで痰が多い時もすぐに取れるため、窒息の危険性が低くなり ます。メリットは常時使用することができることです。デメリットは1ヵ月程度入院をして手術をする必要があるこ とです。 人工呼吸器には大きく分けると3種類あります。従量式人工呼吸器、従圧式人工呼吸器(通称バイパップ)、圧持続 型人工呼吸器(通称シーパップ)です。<従圧式人工呼吸器>
設定に従った2種類の圧を使って空気を送るタイプの人工呼吸器です。主にマスクで使う場合に用いられます。気 管切開には向かないようです。本体が軽量で扱いやすいのが特徴です。 食道 喉頭軟骨 声帯 カニューレ 気道 切開口 鼻マスク<従量式人工呼吸器>
設定に従った換気量(1回に送る空気の量)と回数で空気を送るタイプの人工呼吸器です。気管切開、マスクどち らの場合でも使用します。細かく換気量を設定することができるので、医師と相談して自分の状態に合った設定にで きます。従圧式に比べ本体が大型です。<圧持続型人工呼吸器>
従圧式、従量式とは違い、特殊な場合に用いられる人工呼吸器です。睡眠時に舌などで気管がふさがり一晩に何度 も無呼吸を繰り返す睡眠時無呼吸症候群解消のための人工呼吸器です。この症状になる人が最近増えているそうです。 一定の空気圧を持続的にかけ気道を広げて呼吸しやすくします。本体は従圧式と同様、小型で軽量です。従圧式・従 量式でも圧持続型モードがある機種もあります。人工呼吸器のレンタル
人工呼吸器は業者からレンタルされるものを使用します。病院の立場から見ると在宅人工呼吸療法という治療の一 環として人工呼吸器を使います。医師から指示を受けた業者がレンタル、点検などをします。人工呼吸器レンタルの 流れについて下記の図で説明します。 ※診療報酬とは 病院で診察や治療を受けると診療費がかかります。その診療費の7割∼8割程度が生活保護受給者以外の人が加入 する健康保険から病院に支払われる報酬のことです。 病院に診療報酬が支払われます。人工呼吸器本体のレンタルには基本的に自己負担はありません。ただし、消耗品 の自己負担は病院によって異なります。良心的な病院であれば無料ですが、消耗品を無料で出せば病院の収入が少な くなるため有料になります。 人工呼吸器使用者は在宅人工呼吸療法という治療を受けているため定期的に病院にいかなければならないので生活 保護受給者を除いて医療費がかかります。課税世帯で1割負担の場合、毎月12,000円かかります。緊急時の対応
緊急時の対応は業者が24時間体制で行っています。例えば人工呼吸器が故障しても(故障 はほとんどありませんが)緊急対応専用番号に電話をすれば代わりの人工呼吸器を持ってきてもらえます。業者によ って対応の方法が違う場合もあるので、確認が必要です。人工呼吸器レンタルの流れ
人工呼吸器使用者
病院
業者
医療保険支払い機関
診療報酬 の支払 明細書(レセ プト)の提出 レンタル依頼・レンタル料金支払 ・人工呼吸器レンタル ・点検 ・消耗品の供給 ・呼吸器使用の判断 ・定期的な診察 ・カニューレ交換人工呼吸器の周辺機器
☆電動痰
たん吸引器
痰を吸引するための器具です。充電式で内臓バッテリーで電源のないところでも使用できます。圧調節つまみで圧 を調節できます。日常生活用具として支給されます。医師の診断書が必要です。人工呼吸器のディーラー(業者)に 見積もりをとってもらいます。☆手動式人工呼吸器(アンビュウバッグ)
人工呼吸器の点検時、入浴時など人工呼吸器が使えない場合に使用する手動式の人工呼吸器です。日常生活用具の 対象ではないので自費で購入します。様々な価格帯の商品がありますが、8,000円程度のもので十分です。人工 呼吸器のディーラーから購入できます。☆カニューレ&スピーキングバルブ
カニューレ(気管切開チューブ)は人工呼吸器をつなぐために気管切開であけた穴に入れて使用します。2週間に 1度交換します。材質はプラスチックやシリコン製のものが多く、サイズや長さが違います。 スピーキングバルブは写真のようにカニューレにつけて使います。人工呼吸器を外した場合、カニューレから空気 が出ていくため声が出せなくなります。一方向の弁がついているスピーキングバルブを使うことでカニューレから空 スピーキン グバルブ カニューレ タンク 電源 圧調節つまみ気を吸うことができ、なおかつ空気がカニューレから出ていかないため発声ができます。医師に相談してディーラー から購入します。
☆吸引カテーテル
痰を吸引するために気管に入れる管。病院では感染の予防から使い捨てますが、自宅では使用後に洗浄し、消毒液 につけて保存し数回使用します。☆消毒綿
カテーテルの消毒に使う。カットされた綿を買い、消毒液をかけてつくります。市販品もあります。☆精製
せいせいすい水
薬局、ドラッグストアなどで販売している滅菌された水。カテーテルの洗浄や加温加湿器に使う。☆ディスポ(使い捨て)手袋 使い捨ての手袋。病院では必ず使用します。自宅でも使用する人がいます。