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☆論 園部 213~240/園部先生

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フランスの社会的排除・

失業対策と移住女性

―― パリ市における「経済活動による社会編入支援組織

SIAE)」と移住女性アソシアシオンの連携を事例に ――

1.問題の所在 ―― 社会的排除の対策とその場,

担い手

! 近 年,日 本 で も 非 正 規・不 安 定 労 働 者 の 貧 困 や 失 業 者 の 社 会 的 排 除 (l’exclusion sociale)の問題が表面化している(岩田2008)。この言葉の誕生し たフランスを含めヨーロッパでは,すでに1970年代頃から大量失業と社会的 排除について議論が進められてきた。フランスでは70年代から経済停滞が始 まり,80年代には失業率が10パーセント前後を推移するようになり,失業の 大量化,長期化が社会問題化した。社会的排除という言葉は,この時代のフラン スで初めて用いられるようになったものである"。それとともに雇用創出と失業 者の社会編入(l’insertion sociale)のための福祉国家政策(la protection sociale) の見直しが進められてきた。 他方で80年代には,低熟練労働力として戦後,組織的に動員されてきた旧 植民地を中心とする欧州連合域外からの移住者と家族の定住も進み,欧州出身 者から見た文化的・社会的な隔たりの〈可視性〉から,その社会統合も課題と なってきた。 日本における社会的排除は,「国民」であり,かつ「男性」―― 元来,「正規 労働者」であるはずと見なされてきた ―― の労働者の大量失業が顕在化して ようやく議論されるようになってきた。他方でフランスを初めヨーロッパで は,障がい者や移住者といった社会の周縁におかれる人々の社会的排除への取 香 川 大 学 経 済 論 叢 第85巻 第4号 2013年3月 213−240

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り組みも進んでいる。特にフランスでは,深刻化する社会的排除が,移民の統 合とともに大統領選挙や国民議会議員選挙においても繰り返し主要な論点とな り,大きな議論を巻き起こしてきた!。 失業の増加と長期化にともなう社会的排除の拡大は,労働を社会参加の基盤 とし,雇用上の地位が人の社会的地位を決定するような,既存の社会統合のあ り方を再考させるようになっている。後述のようにフランスでは,政治哲学者 のアンドレ・ゴルツ(Gortz1997)やドミニック・メダ(Méda1995)らが,労 働時間の短縮,私企業における雇用労働に代わる新たな社会参加の方法といっ た失業の解消と新たな社会モデルを模索してきた。 こうした社会的・政治的議論から,1988年の社会党ロカール政権は失業者 への最低生活保障「編入最低賃金(RMI)」"を導入し,労働時間の短縮は,1997 年から2002年の社会党ジョスパン政権下,オブリ社会問題担当相により週35 時間制として実現している。 他方で1970年代から拡大してきたのが,後述のように営利を目的とした企 業ではなく,広く社会の利となる活動への参画により失業者の社会復帰を果た す,「経済活動による社会編入(l’insertion par activité économique : IAE)」また は「編入の社会的経済(l’économie sociale d’insertion)」と呼ばれる部門である。 IAE はフランスではすでに無視できない経済部門となっていて,2006年に は農業以外での賃金雇用の9.8%を占め,全国の被雇用者総数2,200万人のう ち210万人が,実に20万3千にのぼる事業体で働いている(Gaudron2006)。 「経 済 活 動 に よ る 社 会 編 入 支 援 組 織(Structures d’insertion par l’activité économique : SIAE)」と総称される事業体には,コーペラティブと呼ばれる信用 金庫から,共済組合,地域の住民グループから国際的活動まで展開する赤十字 も含めたアソシアシオン#などの形態があり,活動分野も金融から教育,医療や 保健,社会活動と幅広い。 本論で検討するのは,こうした SIAE の中でも被雇用者数が170万人と最も 多いアソシアシオンである。アソシアシオンは,近年,フランスでは雇用促進 のための重要なアクターと位置づけられている。特にパリ市の2001年以降の −214− 香川大学経済論叢 490

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社会党市政はアソシアシオン振興に力を入れており,市内各区に貸事務室と情 報交換の場を兼ねた「アソシアシオン・メゾン」を設置している。アソシアシ オンにも文化,スポーツや演劇など多様な活動を行うものが含まれるが,ここ ではとりわけ,地域の社会生活に貢献するサービス業に失業者を雇用するとと もに,必要な職業訓練やさまざまな支援を提供してその社会参加を促すことで 社会的排除の解消をめざす,連帯経済型のアソシアシオンに注目する。 ここでは,後述のように「社会問題」が山積する排除の場としての「都市政 策強化対象地区(Zone Urbaine Sensible : ZUS)」における失業・社会編入対策 の実際と,移住女性の位置づけを現地調査による具体例から検討する。移住女 性には,外国籍はもちろん,フランス国籍の人もいる。しかしいずれにしろ「国 民男性」の対局に位置し,社会の周縁に位置づけられる「社会的弱者」の最た る存在である。フランスではこのような移住女性の社会参画が,今もっとも先 鋭的な課題のひとつになっている!。その方途を検討することから,あるべき社 会の将来像を模索できるのではないか。 これまで筆者は博士論文の調査のため,おもにパリ市内の ZUS をフィール ドに,旧植民地フランス語圏西アフリカ出身の移住女性によるアソシアシオン 活動について調査を行ってきた。調査先団体のうち,2004年末から2007年ま で継続的な参与観察を行った移住女性団体 E が,SIAE のひとつ,「レジー・ ドゥ・キャルティエ(Régie de quartier,以下レジーと略)」と協力していた " 。 また2009年から行っている移住家事・介護労働者の労働条件についての調査 からも,SIAE が社会活動部門において中心的な役割を担うとともに,移住者 の社会統合の一端を担っていることがわかってきた#。本論ではこのような SIAE と移住女性によるアソシアシオンの連携の事例から,フランスの社会的排除と 失業政策における女性移住者の位置づけを考察する。 以下ではまず,フランスの「社会問題」対策がその実施の場および担い手と して地区,住民を措定しつつ,実態として移民統合政策を行ってきた経緯を概 略する。次に,パリ市内の ZUS におけるレジーと移住女性団体 E の連携の事 例から,フランスにおける社会的排除・失業対策の具体的な展開を明らかにし 491 フランスの社会的排除・失業対策と移住女性 −215−

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つつ,移住女性らの連帯の意義を検討する。

2.フランスの社会問題対策と失業

2.1.地区が抱える問題としての社会問題

フランスでは1980年代以降に旧植民地諸国からの移住者の定住が進んだが, 移住者が直面する問題は,2000年代初頭まではより広い「社会問題(la question sociale)」の中に位置づけられてきた(D. & E. Fassin éd., 2006,園部2010)。 そして子どもの進学難,失業率の増加,貧困などの社会問題に対しては,地区 を対象とする対策が採られてきた。それは具体的には,1977年の「住居と社 会生活(Habitat et vie sociale)」と称する一連の政策に始まる。以後,ほぼ10 年毎に繰り返し発生する「暴動」により政策の見直しを迫られつつ,1988年 には「都市政策(Politique de la Ville)」と称される地区対策が確立される。 フランスの社会政策は「人」よりも「テリトリー」を対象とする。住民のエ スニシティや社会的特徴は,特別な困難としては認識されず,したがって特別 な努 力 を 払 っ て ま で 社 会 と の 差 を 埋 め る 必 要 性 も 認 め ら れ て こ な か っ た (Donzelot2003)。 Epstein(2005)は,一連の社会問題対策のアプローチの特徴を以下の三点と 考えている。第一に,地区の資源を重視する点である。例えば1980年代の「地 区社会開発(Développement social des quartiers : DSQ)」では,問題を抱えると される地区住民の資源や能力を開発し,「自己管理」を促す方針が採用された。 次に,ハンディを重視する点がある。1990年代以降,特定の地区を再開発の 優先的な対象と指定し,公共サービスの重点的な強化を行っている。最後に, 地区を危機の前兆と見なす考え方である。「都市暴動」のような事態が発生す ることを前提に,街区全体を対象とする施策を実験的に行う場を設けてきた。 ただしこの三つのアプローチは都市対策を時代別に区切るものではなく,重 点を変えつつ常にすべてが取り入れられている。例えば,後述のように2000 年代にパリ市が発起して市内に設置した「レジー・ドゥ・キャルティエ」も, 地区の住民資源を活かす方針が採用された「地区社会開発」の時代,1980年 −216− 香川大学経済論叢 492

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に地方都市で発した住民運動が発端となって全国に広まった組織である。 それでは,社会的に排除されているのは,具体的にはどのような人々なの か。先述のようにフランスでは「社会問題」の山積する「地区」を特定し,対 策をとる方針が採用されてきた。「地区」とは,失業者数や世帯収入,児童の 進学難といったさまざまな指標をもとに割り出され指定されたZUS である。 2006年の統計では,フランス全体で人口の6.8%,フランス本土でもっとも 高い割合のイル・ド・フランス首都圏では11.1%が,ZUS に居住している (Chevalier et Lebeaupin2010)。 しかしZUS とされる地区は,指定を受けたことによって「問題」を抱える 地域としてスティグマ化され,住民は就職差別を受けたり,社会で周縁化され 疎外されているという被害者意識を抱くようになっている(Simon2006b)。日 本の被差別部落が被る差別とは質的に異なり,フランスのZUS に対する差別 は,地区に高い割合で居住する外国出身者やそ!う!み!な!さ!れ!る!人々 ―― つまり 海外県出身で黒人のフランス人,アフリカ大陸の旧植民地出身のフランス国籍 者や移住後に国籍取得した人,そしてそのフランス生まれでフランス国籍の子 どもたち ―― に対する,空間的なセグリゲーションと人種差別の結果である (Avenel2006)。 かつて社会学者トゥレーヌは,社会的排除による社会の分化を〈周縁〉と〈中 心〉への分裂と分析した(Touraine1991)。こうした外国出身者への差別と相 まって,排除された〈周縁〉から社会の〈中心〉に対する不満は,時に「暴動」 として噴出してきた。2005年に全国で起こった「都市暴動」の発生地のすべ てがZUS 指定を受けた地区であったという事実も,これらの地区の社会的な 位置づけと無関係ではない(Simon2006a)。 都市政策の全体的な方針は,2003年に転換され,これ以降,物理的な再開 発を都市政策が担い,社会文化的施策を地方自治体が行うことになる。この点 については本論の考察の範囲を超えるので,以下では1980年代から1990年代 までの失業対策に焦点を絞り,サービス労働の拡大の観点から検討する。 493 フランスの社会的排除・失業対策と移住女性 −217−

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2.2.「身近なサービス」の拡大と失業対策 フ ラ ン ス で は 先 述 の よ う に1980年 代 以 降 に 失 業 率 が10%前 後 に 定 着 し,1990年から社会的排除,あるいは「社会の亀裂」といった「社会問題」に ついての議論が高まった。高度成長期の完全雇用の時代には,雇用が社会保障 の権利や年金へのアクセスのみならず,社会における個人の地位を意味してい た。雇用の地位にないことはあらゆる権利から遠ざかることを意味するが,失 業という状態がそもそも例外的であり,職業上の地位が個人のアイデンティ ティを形成していた(Paugam1996)。これに対して失業率が増加し,10人に 1人が雇用に就いていない状況は,かつての福祉国家制度の前提が崩れ去った ことを意味する。 先述の政治哲学者で,社会党のブレーンでもある Méda は『労働社会の終焉』 (1995)の中で,ワークシェアリングと労働に代わる社会参画の方途を模索し, 三つの提案を行っている。すなわち,労働への平等なアクセスを保証するこ と,労働,収入,地位や社会保障の総体の納得のいく配分を志向すること,労 働が唯一の手段でないような収入分配の「別の手段」を受け入れることである。 ワークシェアリングの実現のためのメダの具体的な提案は,「第四セクター」の 発展である。メダによればそれは「社会的に排除された人々を雇い,一般的な 利益になる報酬の少ない活動を委託する」ものだが,メダはその具体的内容に ついては展開していない。そこで次に,この「第四セクター」に相当する「身 近なサービス」の発展についての議論を検討する。 移住者の定住が進んだ1980年代以降は,産業構造の転換と雇用形態の変容 も伴った。製造業における失業の増加から,新たにサービス産業における雇用 創出が目指され,それとともに低熟練移住者の雇用構造も製造業から第三次産 業へとシフトした。

Emeと Laville(1994)および Laville(2010[2000])によれば,1960年代ま でのヨーロッパの福祉国家では,子どもや高齢者,病人の世話など社会的な課 題は「集団的な責任」,つまり社会サービスとして位置づけられてきた。しか し1970年代以降,日常生活における家事や介護などの「集団的な必要性」が,

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必要を満たされていない「身近なサービス(service de proximité)」として認識 されるようになる。その背景には,第一に女性労働者の爆発的な増加,高失業 率の定着や単身世帯の増加,高齢化といった社会的・人口学的な変化がヨー ロッパレベルで起こったこと,次に性別や世代に応じた「生活の質」が求めら れるようになったことなどの社会的・政治的な要因,最後に雇用創出の必要性 という社会的・経済的な要因がある。これらの要因により,社会の再生産に必 要な日常的なケアや「快適さ」の追求といった新しいサービスの需要が生まれ たのである。 特に1980年代以降,雇用創出と上記のような「新しい需要」の社会的コスト の制御を両立するため,それまで社会サービスを担ってきたアソシアシオン部 門の役割が「再正当化」されるようになる。私企業におけるさらなる雇用創出 が見込まれなくなった結果,増加する失業と社会的排除の課題を解決するた め,アソシアシオン部門に「経済活動による雇用創出」のための積極的な役割 を担わせることになり,国家が支援して当該部門における雇用を創出すること になった。 こうして1990年代以降,フランスでは,アソシアシオン部門のさらなる促進 が新たな雇用創出の糸口と考えられるようになる。失業率の増加と長期化によ り,失業はすでに例外的な状態ではなくなり,社会的に排除された人が増加して 一定の集団を形成するようになった。排除された人や失業者は,家族や友人と の日常的な関係をも喪失する。こうした現象は「社会的価値!奪(disqualification sociale)」(Paugam1991)や「社 会 の 亀 裂(fracture sociale)」(Castel1995)と も呼ばれ,90年代のフランスでもっとも重要な社会問題となっていた。この ように社会から排除される集団の存在が明らかになった中で,「第四セクター」 に相当する「身近なサービス」が,失業者の雇用先として注目されるようになっ たのである。

3.失業者支援における SIAE の役割

社会的排除への対策として「経済活動による雇用創出」をアソシアシオン部 495 フランスの社会的排除・失業対策と移住女性 −219−

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門で進めるための具体策として,再開発や都市政策の実施,地域の日常サービ スの提供のために「住民を雇うことで,その居住地域の社会サービスを提供し つつ,雇用も創出する」方法が採られるようになる。

その鍵となるのが,失業者のための「経済活動による社会編入(L’insertion par l’activité économique : IAE)」の制度である。そして,その実施主体となる 事業体は,総称して「Structures d’insertion par l’activité économique : SIAE(経 済 活 動 に よ る 社 会 編 入 支 援 組 織)」と 呼 ば れ て い る。SIAE は「連 帯 経 済 (l’économie solidaire)」,「社会経済(l’économie sociale)」と呼ばれる非営利組 織で,営利追求型の私企業とは異なり,平等や連帯に基づく社会,自由,機会 の平等,人間のための活動,調和のとれた社会の発展などを目的に事業を展開 する!。 SIAEは,一般労働市場に直ちに参入できない人に,最長24ヶ月の短期雇用 による経済編入の機会を提供する。対象とするのは,子どもを抱えた家族,26 歳までの若年層,高齢者,障がい者,犯罪歴・売春歴のある人,暴力の被害女 性,移民・難民などである。こうした人々が一般の労働市場に直ちに参入でき ない原因となる社会的困難は,低学歴や学校教育からの脱落,移住者の場合は 出身国で十分な教育を受けていないための未就学・非識字,定住所がなく知人 宅に身を寄せるなど事実上のホームレス状態,長期失業,RMI(RSA)"受給な どさまざまだ。失業者は通常,「雇用局(Pôle Emploi)」 # に登録して失業給付 を受けながら雇用先を探すことになるが,その際の面接で「一般の労働市場に 直ちに雇用されるには困難を抱えている」という「認定(agrément)」を受け た人が SIAE の雇用の対象となる。 私企業と異なる SIAE の最大の特徴は,社会的に排除されている〈労働者〉 に,語学訓練や職業訓練など社会編入に必要な手段と機会を提供することだ。 失業が長期化した結果として陥る社会的排除は,上述のようにただ「仕事がな い」状態を意味するだけではない。多くが雇用以外にも複合的な問題 ―― 多 重債務など法的な問題,乳幼児や介護すべき家族の存在や家事と仕事の両立の 課題など ―― を抱え,その結果として社会生活上のさまざまな困難に直面し −220− 香川大学経済論叢 496

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ていることも多い。そこで住宅や保育所探し,法的問題について職員が一緒に 解決方法を考えて実行していく「社会的付き添い(l’accompagnement social)」 % を 提供して社会生活への円滑な編入を促すことも,私企業と異なる SIAE の重要 な任務である。 SIAEは下記の表1のように大きく4つの事業形態に分けられる。「社会編入 アトリエ・現場(ACI)/レジー・ドゥ・キャルティエ」,「編入仲介市民団体 (associaiton intermédiaire : AI)」,「社会編入支援企業(entreprise d’insertion : EI)」,「社会編入短期労働型企業(entreprise de travail temporaire d’insertion : ETTI)」である。各事業体は,一般労働市場から相対的にどれくらい隔たって いるかに基づいて,〈失業者=労働者〉を受け入れ対象とすることになってい る。表では便宜上,労働市場からの隔たりの度合いを,もっとも隔たりのある !から一般の労働市場にもっとも近い$まで,段階別に示してある。 まず!の「ACI/レジー・ド・キャルティエ」は,まったく働いた経験のな い人を対象に,公共住宅や企業等の清掃業に従事できるようにする。次に"の AIは,労働者に職業訓練を提供して「個人や企業のために利用できるように する」ことを目的とする。〈労働者〉は,人との対面を含まない清掃から一歩 離れて,家庭内の清掃や家事サービスなど,人に対するサービス労働に慣れる ことを目指す&。#の EI は,最低限の教育による知識や経験がある人を雇い入 れ,最後に$の ETTI は,一般労働市場にもっとも近い能力のある人を対象と する。これらの分類は実際には厳密に適用されているのではなく,目安に過ぎ

Ⅳ Entreprises de travail temporaire

d’insertion : ETTI 社会編入短期労働型企業 最も労働市場に近い人 Ⅲ Entreprises d’insertion : EI 社会編入支援企業 最低限の教育による知識が

ある人

Ⅱ Associations intermédiaires : AI 編入仲介市民団体 労働者を個人・企業のため に利用できるようにする' Ⅰ Ateliers et Chantiers d’insertion :

ACI / La Régie de quartier

社会編入アトリエ・現場

/レジー・ド・カルチエ 働いた経験がまったくない人

表1 SIAE の名称・事業形態と想定される労働者層

レジー・ドゥ・キャルティエ事務長への聞き取り(2010年9月2日)を元に筆者作成 497 フランスの社会的排除・失業対策と移住女性 −221−

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ない。しかし総体としてSIAE は〈労働者〉の能力に応じた支援を行い,一般 労働市場への参入,つまり私企業における就労を促す仕組みになっている。 SIAE の雇用の対象となるのは,上述のようにさまざまな人々である。注目 したいのは,ここでは社会的排除は,一時的な状態を示すと見なされているこ とである。SIAE の活動を分析した『社会的支援白書』は,これらの「排除さ れた」人々を,「市民」と見なして困難の解決を目指すことを強調している (FNARS2011: 94)。つまり一般労働市場に参画できず,社会的支援を受ける からといって,「二級市民」になるわけではない。「排除された」人はあくまで も「一時的な排除」の状態にあり,抱えている課題の解決に支援を必要とする だけで,それが「市民」としての地位をゆるがすものではないと考えられてい る。つまり「社会的排除」は不変の地位を意味するのではなく,適切な支援を 受けさえすれば脱することのできる〈状態〉なのである。社会的支援の精神は, 支援を受ける人がスティグマ化されないようにすることを目指している。 上記のように失業者として雇用局に登録し,「一般企業での就労が困難であ る」と「認定」を受けた失業者は,いずれかのSIAE と契約を結んで契約職員 となる。契約職員の雇用契約は,3ヶ月以上の短期から最長24ヶ月までの「編 入短期契約CDDI」で,国が最大85%を出資する。この間に必要な職業訓練と 職員による「社会的付き添い」を受け,より安定した雇用先を探すことになる。 ひとくちに「社会的付き添い」といっても,上記のように人々の抱える問題 はさまざまで,すぐに解決できるとは限らない。また,SIAE での職業訓練が 直ちに新たな雇用に結びつくとも限らない。そこで社会的排除と闘う現場で は,行政や住民支援団体など,地域のさまざまなアクターが協同し活動してい る。 以下で注目したいのは,こうしたSIAE と移住者の関係である。SIAE は本 来,「社会問題」を担うもので,「移民統合」の機能をもつとは明示されていな い。しかし先述のように実態として,SIAE が活動する ZUS の住民には移住者 が多い。表2のように,ZUS の総人口に占める外国人と外国籍からの帰化に よるフランス人の割合は,フランス全土では27.7%,首都圏のイル・ド・フ −222− 香川大学経済論叢 498

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ランス地方では36.2%に上る。ZUS をおもな活動の舞台とする SIAE は,事 実上,移民の統合を現場で担うアクターになっているのである。 しかしSIAE の職員らは「社会問題」の専門家ではあっても,多様な出自の 移住者の文化や生活実態に精通しているとは限らず,移住者に特有の困難を把 握しているとも限らない。むしろ現場に出てはじめて,住民の文化的・社会的 背景や生活状況を知ることになる。 ではSIAE は,どのようにして移民の「統合」に対処しているのか。以下で は,パリ市内の事例から検討したい。 フランス本土全体 イル・ド・フランス ノール・パ・ド・カレ パカ ローヌ・アルプ ZUS UU* ZUS UU* ZUS UU* ZUS UU* ZUS UU*

総人口 20歳以下** 31.6 24.9 32.5 25.7 32.2 27.8 31.5 23.5 31.4 25 60歳とそれ以上** 14.8 19.8 11.6 16.6 14.3 17.1 17.7 24.6 15.7 20.5 外国人 17.5 8.2 23 13.3 9.3 4.1 16.3 6.8 20.2 8.3 帰化によるフランス人 10.2 5.9 13.2 8.7 5.4 3.3 11 5.8 12.1 6.4 家族 ひとり親世帯 25.7 15.8 24.7 16.4 25.4 16.2 27.9 15.5 22.7 14.2 一般世帯 5人以上 12.7 6.6 15.4 7.9 13.1 9.7 13.5 5.8 13.1 6.7 持ち家 20 47 19.5 44.6 23.7 49.6 22.6 51.1 21.7 48.4 主要な住居 5部屋かそれ以上 16.9 26.2 11.3 18.9 32.1 44.2 12.1 19.3 18.4 26.6 6部屋かそれ以上 4.4 10.8 2.3 7.6 13 20 2.6 6.9 4.2 10.4 住居 空き 6.7 6.3 5.6 6.3 5.4 5.2 9.3 6.5 7.4 6.4 アパルトマン 85.3 63.5 92.6 75.9 53.9 33.1 90.6 67.5 93.4 70.3 表2 ZUS と ZUS を含む都市圏における人口および住宅構成(2006年) (%) *UU は ZUS を含む都市区画の単位 **1月1日時点での年齢

出典:INSEE PREMIÈRE no.1328

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4.レジー・ドゥ・キャルティエと移住女性団体

4.1.SIAE としてのレジー・ドゥ・キャルティエ パリ市北東部で活動する SIAE,レジーは,地方自治体としてのパリ市と19 区内の5市民団体により2003年1月に設立された。先述のようにレジーは 1980年代にフランスの地方都市ルーベ Roubaix に発した「住民が地域のため に行う運動」を起源とする。独立した市民団体として全国各地に120から150 団体が活動しており,「全国ネットワーク」!を形成している。パリ市内では当該 団体が初めて設置された事業体で,事務所は市内最大規模の「低家賃住宅 (HLM)」である「パルマ団地(仮称)」にある。 この HLM は,1960年代の建設当初はガス調理器から浴槽まで近代的設備が 整う「赤じゅうたん」として知られていた"が,調査時には住民の失業率の高さ, 高齢者や RMI 受給者の住民に占める割合の高さなど数々の「社会問題」を抱 え,パリ市内にありながら,典型的な「郊外」#型の HLM として知られていた。 19区に二つある ZUS のひとつで,全17棟,住民数は7,055人(2005年時点) である。 パリ市の社会党政権が市内第一号のレジーをこの HLM に設立したのも,こ の HLM を優先的に改善しようという意思の表れである。ここでレジーは HLM 内の清掃事業を担当するとともに,住民交流などの社会関係の改善を目的に活 動している$。活動内容と設立後の事業展開をまとめると,表3のようになる。 このパリ市のレジーは,厳密には EI とアソシアシオンの二つの組織からなっ %)経済活動 緑地帯の手入れ,団地内公共スペース・周辺地区の清掃,建設作業

雇用形態:編入用期限付き契約(Contrat à durée déterminée d’insertion : CDDI) &)社会関係の活性化(2004年1月∼)

地区祭り,住民グループの受け入れ(事務所開放日),古本交換,モザイクのアトリエ ')契約職員の社会支援,識字・フランス語教育(2005年12月),職業訓練(2006年3月)

表3 レジーの事業内容

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ている。EI が外部発注者との契約を得て契約職員を雇い,アソシアシオンと して職業訓練や「社会的付き添い」を行っている。だがそれぞれに職員がいる わけではなく,実態はひとつの事業体である#。地域での雇用創出の成果に対し て,2007年にパリ市から「雇用創出のパリ(Paris créateur d’emploi)」銀メダ ルを受賞している$。 レジーに雇用されて働く契約職員は,事業の拡大とともに年々増加してき た。2005年の聞き取りでは,年間累計で50人が在籍していた。この年には事 業が本格化して受け入れる契約職員,つまり〈失業者=労働者〉数が増えると ともに,契約職員の「社会的付き添い」を専門とする常勤職員が雇われた。 その職員ナタリー%への聞き取りから契約職員50人の特徴を詳しく検討し た。出身地は多様だが,50人のうち30人がフランス語に問題がある。うち4 人は会話も不可能で,ユーゴスラビアとトルコ出身者,モロッコ出身者2人で ある。また約半数は就学歴がまったくなく,フランス語教室に参加している人 は15人いる。さらに23人が定住所のない事実上のホームレスで,特にひとり 親世帯の女性が多いことが特徴である。年度末までの「付き添い」の結果,8 人が住宅を見つけることができた。 5年後の2010年度には,女性38人,男性42人,合計80人の契約職員が働 いていた。事業報告書からその特徴をまとめると,表4から表8のようにな る。表4は「取得学位」をフランスの学歴レベルにより分類したものである。 一般の労働市場への参入において基準となるのは,中等教育修了程度の CAP/ BEP を取得した「レベル!」である。だがレジーの契約職員は,これに満た ない「レベル!bis・"」,つまり中学校か小学校卒業程度が71人,88%に上っ ている。フランスの労働市場に参入し競争に打ち勝つには,中等教育を終えて いないと難しい。 表5の失業の長さをみると,1∼2年の失業者が30人,2年以上の失業者 も28人と,合わせて72.5%に上ることから分かるように,長期失業者が多い。 失業は長期化すればするほど,再び仕事を始めるのは難しくなる。 また表6からは,こうした低学歴・長期失業者の契約職員が抱える質的な困 501 フランスの社会的排除・失業対策と移住女性 −225−

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難が読み取れる。識字能力がないかフランス語に困難を持つ人が75人と,9 割以上に上ることからも分かるように,学歴の低さは,専門的な免状や資格の 有無以前に,読み書きそのものの困難を意味している。このうち,レジーの社 会的支援担当職員が実施する語学研修を受講したのは,わずかに22人であ る。外部の教室の受講者を合わせても,何らかの研修を受けたのは36人と, 半数に満たない。契約職員が研修を受けるかどうかは,教室の許容人数に左右 されるばかりでなく,義務ではないため,個人の意思や都合にもよっている。 大人が識字教室に通い続けるのは,子どもが学校に通うほどたやすいことでは ない。 筆者がボランティア講師を務めた市内の別の識字教室でも,20代から60代 までの移住女性が通っていたが,「心配事や考え事が頭から離れないから勉強 できない」,「自宅では家事に追われて宿題をする時間がない」,「なぜ今さら字 を習う必要があるか分からない」と口々に言い,学習は捗らなかった。さらに は20代で飲み込みの早かった女性も出産を期に辞めるなど,本人の意思だけ ではどうにもならない理由もあった。しかし,識字教室を受講しなければ, DILF!など学位を取得して,他の専門分野の免状や資格取得につなげることも できない。 また定住所がないなど住宅に問題を抱える人も26人と,3割以上に上って いる。そのためレジーでは,HLM 公社など外部組織との連携を強め,居住環 境を安定するための支援を行っている。パリ首都圏の住宅問題は政治問題化す るほど深刻であり,SIAE といえども単独で解決できるものではない。そのた め,ほとんどの人が公団公社などの外部機関の支援を受け,その結果,すべて の人の問題が解決している。つまり全員が住宅を見つけている。これは契約職 員としての就業が生活面での問題解決に直結した,もっともよい例として注目 できる。 行政手続き,多重債務,法的課題についても,外部組織と協力して解決につ なげている。就業のための移動手段(移動性)については,内部で解決してい る。他方,介護や育児などのために働く時間の自由が確保できない問題は,女 −226− 香川大学経済論叢 502

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性職員に多い課題であるという。こうした問題は,貧困世帯にひとり親世帯が 多い事実とも関係している。国立貧困・社会的排除監察局の報告によると,フ ランスのひとり親世帯は全世帯の21%にすぎないが,貧困世帯における割合 は35%以上に上る(ONPES2007: 72−73)。 この報告によれば,ひとり親世帯の母親は労働市場においてもっともぜい弱 で,失業や不安定雇用,SIAE などの支援型雇用にもっとも陥りやすい集団で ある。受けた教育水準が低いことや,保育所を見つけるのが困難かそもそも費 用を賄えないなどの理由で労働と家族の世話を両立できないことが,労働が不 安定になる原因でもある。ひとりで子どもを育てる母親への支援は,子どもへ の貧困の悪循環を避けるカギにもなる,極めて重要な対策だ。レジーでは,お もに外部の事業者と連携し,託児施設を見つけることで,この両立の困難を克 服させている。 最後に表8からレジーで〈労働者〉として働くようになった経緯を見ると, 雇用局や若年者用窓口など,正規のルートをたどってきた人よりも,「飛び込 み」が三分の一以上と多数を占める点が興味深い。移住者,特に女性は移住後, 家族や子どもの世話など家事労働中心の生活を送った後,初めて就労を志すも のの,雇用局での登録など手続きが分からないため,紹介や伝手をたどってレ ジーにやってくる場合も多い。正規ルートを経ないでも雇用への道が開かれる ことは重要である。調査中にこうした人がレジーに現れると,職員たちは雇用 局への登録方法を教えてレジーで働くために「認定」証をもらってくるように 伝え,それをもって雇用手続きに入る,いわば「逆ルート」を教えていた。こ うした職員との対面的な関係による「逆ルート」での雇用の存在こそが,社会 的排除の解消には大切なのである。 Vbis・Ⅵ(CAP/BEP 未満)! 71 Ⅴ(CAP/BEP 取得) 8 Ⅳ(バカロレア取得・非取得) 1 Ⅰ∼Ⅲ(バカロレア+2∼5年) 0 1年未満の失業 22 1∼2年の失業 30 2年以上の失業 28 表4 取得学位 表5 失業の長さ 503 フランスの社会的排除・失業対策と移住女性 −227−

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人数 内部 外部 内・外 支援計 非識字・外国語としてのフランス語 75 22 8 6 36 中毒 2 2 2 身体の苦痛・障がい 4 3 1 4 健康(上記以外) 10 10 10 住宅 26 2 24 26 行政手続きが必要・権利へのアクセス 15 5 10 15 移動性 8 8 8 多重債務・資金難 14 14 14 法的課題 5 3 2 5 時間の自由がない(保育・介護関係) 16 16 16 人数 26歳以下の若年者 17 26∼50歳 54 50歳以上 9 人数 雇用局 Pôle Emploi 3 若年者用窓口 Mission Locale 6 PLIE! 3 市の雇用促進団体 Maison de l’emploi 訓練機関 Organisme de formation 他の SIAE 2 飛び込み 13 県社会サービス諸担当 2 他の社会活動関係者 3 他の地元アソシアシオン 2 その他 合計 34 表6 困難の種類と支援方法 表7 年齢 表8 レジーに来た経緯 −228− 香川大学経済論叢 504

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4.2.女性移住者団体 E とその〈集まり〉 このレジーが活動するHLM は,アフリカ大陸出身者が多く生活しているこ とで知られる。だが事務長ソフィーによると,当初,移住者,中でもブラック・ アフリカ出身者らとはあまり接点が持てていなかった。レジーがこれらの住民 と接触するようになったきっかけは,このHLM 住民であり,自前のアソシア シオン活動を始めたマリアムとの接触である。マリアムはマリ共和国の出身 で,1993年にフランスに入国し,2001年にフランス国籍を取得した移住者で ある。移住当初は区内の移民ホームレスが集まる「占拠住宅」で生活していた が,そこで住民を助けるボランティアを始めて地域活動に関わるようになっ た。その後,当該HLM に住居を割り当てられて住民となった。 マリアムはHLM 前の市場近くに事務所を構えるレジーを見つけて「なんと なく立ち寄って」,以後,自分の女性ネットワークをまとめるアソシアシオン 活動の一環として行う相談事業を,事務所の一角で始めるようになる!。その結 果,レジーには毎週一回,地域の西アフリカ出身女性たちが通ってくるように なった。 レジーにとってマリアムの相談事業,すなわち女性たちの〈集まり〉はどの ような位置づけなのだろうか。調査開始当時は社会関係担当職員だったソフィ ー"は,HLM 住民の中でもブラック・アフリカ出身者とは接点が持てていない 自覚があったと話している。レジーの事務所開放日は,事務所の目前に13時 まで定期市が立つ日でもあり,多くの買い物客が集まってくる。10時から13 時過ぎまで,ガラス張りの玄関ホールに置かれたテーブルに集うマリアムらの 存在は,その特徴のある衣服や身なりから「可視的」な存在であり,市場から も見通すことができた。 またマリアムは「地域の女性ネットワーク」をまとめている人物として知ら れ,困っている住民に話しかけてはレジーでの〈集まり〉に来るように誘った。 そのためレジーは,次第にブラック・アフリカ出身者が出入りする場として認 識されていく。〈集まり〉の女性たちは,男女を問わず同郷者をマリアムに紹 介して支援を依頼することもあり,レジーには多くのブラック・アフリカ出身 505 フランスの社会的排除・失業対策と移住女性 −229−

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者,特にマリやセネガル出身者が出入りするようになった。マリアムが〈集ま り〉の女性を契約職員候補として紹介するようにもなり,マリアムを通じたレ ジーと団体 E の連携が定着していった。 マリアムと〈集まり〉の女性たちは,移民第一世代である。第一世代の女性 は,男性と比べてエスニシティや出身村の親族関係などにとどまりがちで,そ うした第一次的な絆を超えた「弱い紐帯」は発展しにくく,結果として受入社 会への編入も滞ると指摘されている(Hagan1998)。しかしマリアムは修士号 をもち,フランス社会のコミュニケーション様式を身につけているため,フラ ンス人の組織であるレジーとの「弱い紐帯」を取り結ぶことができた。農村出 身女性らはマリアムを介して地域社会に社会関係を発展させ,そのことがこの 第一世代女性らの社会的・経済的な編入に寄与したといえる。

5.社会編入支援と女性移住者

それでは,女性たちはどのようにレジーで働くようになったのか。また,〈労 働者〉としての女性はどのような課題を抱えているのか。ここではマリアムの 〈集まり〉のメンバーの中からレジーで働くようになった女性,そして参考例 として,メンバーと親しく〈集まり〉の議論にも加わっていた男性職員のプロ フィールを挙げる。これらの事例と先述の聞き取りから契約職員の特徴を抽出 し,労働市場への編入にどのような課題があるのかについて検討する。 〈集まり〉と関係の深い労働者たち(年齢は2005年当時) ◆アイサタ(20代後半,ソニンケ人) 1日2時間半,マリアムの居住棟の階段清掃を担当している。区内の女性用フォワイ エで息子と2人暮らしを続けて3年になる。フォワイエには台所がなく,子どもの食生 活などに不便を感じている。18区と19区の HLM に住宅を申請中で,更新書類の相談 に来た。日常生活に支障ないフランス語の会話能力がある。「自分の名前で住宅を借り, 息子を育てていきたい」。 ◆ナタ(39歳,ソニンケ人,〈集まり〉のメンバー) マリ農村部出身,2000年に初めて入国した。マリに一時帰国中,第二夫人を迎えた 夫が滞在許可証を奪い,置き去りにされる。自力で再入国後,再び同居した夫の子を出 −230− 香川大学経済論叢 506

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ここに挙げた事例では,全員が農村部の出身者で国籍はセネガル,マリだが, 民族的な帰属はソニンケ人である。全員,就学歴がまったくないか,ほとんど ない。就学歴の有無は,単に読み書きや計算の能力の有無を意味するのではな い。均質な労働力を再生産する場としての学校教育は,個人がある種のディシ プリンを習得する場である。したがって就学歴がなければ,資本主義的な社会 産するものの,家を追い出されてホームレスになった。賃貸住宅を見つけるが詐称に遭っ て退去させられ,再びホームレス化した後,4歳の娘と社会ホテルに入居する。マリア ムの紹介で契約職員として働く。就学歴はなく,挨拶程度の簡単なフランス語を理解す る。「夫を見返すため,自分で何とかして生きていきたい」。 ◆ラマタ(38歳,ソニンケ人,〈集まり〉のメンバー) モーリタニア農村部出身,1993年頃入国。2001年に夫が第二夫人を呼び寄せ,その 子2人(後4人)と同居している。育児も仕事もしていないことで〈集まり〉の女性た ちから非難/激励され,マリアムの紹介で契約職員として働くようになる。就学歴はな く,挨拶程度の簡単なフランス語を理解する。本調査後,2009年にいったんフランス 生活を切り上げてマリへ帰国したが,離婚,別の移民男性との再婚を経て2011年に再 入国し,パリ郊外に居住している。 ◆アミナタ(40歳,ソニンケ人,〈集まり〉のメンバー) モーリタニア農村部出身,1991年入国。1997年に夫と死別した後,3人の娘をフラ ンスで育てている。民間清掃会社の契約社員として郊外の企業事務所の清掃に従事して いたが,通勤に時間がかかりすぎるため,マリアムの紹介で契約職員になる。レジーで の勤務後,区内に新設された市関連施設の清掃に従事するようになる。日常生活に支障 ない程度の会話能力があるが,就学歴はなく読み書きはできない。同じモスクに通う女 性向けのアラビア語学習会の世話人をしている。 ●[参考]ユスフ(男性,40代前半,ソニンケ人,〈集まり〉メンバーとも親しい) セネガル生まれ,フランスとの二重国籍。単身出稼ぎ,区内フォワイエで生活中。2004 年度は「庭チーム」に配属され,団地の花壇に苗を植える作業を続けていた。2005年 度は「清掃チーム」で,月曜と火曜が8時から16時までの全日(休憩1時間),水曜か ら金曜は8時から正午までの半日勤務である。週26時間の勤務で月収は800∼900ユー ロ。社会保険など控除後の手取りは月680ユーロ。そのうち300ユーロをセネガルの家 族に仕送りし,自宅の建設費用などに当てている。CAF の「住宅手当(allocation de logement)」があるので,フォワイエへの家賃支払いは月100ユーロ。日常生活に支障 ないフランス語会話能力があるが「読み書きはどうでもいい」と言う。「800ユーロは 金ではない」,「この仕事は『もっと良い仕事』が見つかるまでの『緊急援助(dépannage)』」 とレジーでの勤務条件に不満を持っていた。調査中,ナタリーが支援の一環で履歴書を 企業に送り続け,夜間の地下鉄清掃員を始めてレジーを去った。 507 フランスの社会的排除・失業対策と移住女性 −231−

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生活に直ちに順応できるとは限らない。毎日,決められた時間に出勤する,同 じ作業を繰り返す,指示通りに働く,職場の規則を守るといった労働者として 身につけているべき行動様式は,学校教育を経ずに培うことは難しい。つまり 就学歴は,資本主義的な社会生活への適応力があるかどうかを意味し,それが ない場合,そもそも雇用労働から距離があることを意味する。 清掃は単純作業であるとはいえ,彼女たちの出身社会で行う清掃とフランス で業務として行われる清掃とは,似て非なるものである。出身社会での清掃は 庭や家屋の床を箒で掃くことを意味し,フランスでは箒や柄付きブラシが普及 しているので,移住先のアパルトマン生活でもそれまでの習慣を維持し,高価 な電気掃除機を使用しない人もいる。マリアムですら自宅に掃除機を所有して いない!。業務として行う清掃は,大型掃除機を始め,さらに多数の化学薬品の 入った洗剤を用途通りに使いこなす能力をもっていなければ務まらない。 その上,清掃業は日本でいう「きつい」,「汚い」,「危険な」いわゆる「3K 労働」であり,女性たちから見ても他に選択肢のない人が「仕方なく」従事す るものである。作業は早朝の6時から行われ,清掃担当の常勤職員も14時に は退勤する。HLM の「階段」清掃は,18階建てを2時間半で作業する,団地 内外の麻薬中毒者やホームレスによる汚物等で汚れている,薬品を使うなど, 「3K」の条件がそろっている。ナタリーによれば作業員への人種差別もあり, 若者の場合は知人からの視線を気にするなど,住民の視線や態度も,この仕事 が「できればやりたくない」と考えられる理由の一つだ。 就労目的で「移住」したユスフを除く女性たちは,フランス生活が長期化す るなかで,生活の必要性や周囲の意見から仕事を始める。民間清掃会社の勤務 者もいるが,清掃は自分にとって「これしかできない」仕事だと考えている。 清掃業に特有の就業時間も,移住女性と家族の生活に少なからぬ影響を及ぼ す。聞き取りによると,女性が早朝勤務を続けた場合,子どもが学校に行く時間 帯に朝食や身支度などの世話をする親が不在になる。その結果子どもたちは空 腹のまま,あるいは服装や身支度を整えないままで登校し,そのことが学校で 「身だしなみ」や「衛生」,受講態度などの問題として認識されることがある。 −232− 香川大学経済論叢 508

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他方で,レジーの就労支援担当の職員によると,女性は特に保育や家事,介 護のため,勤務時間に合わせた生活を送れないことが就労の妨げになる。アフ リカ大陸出身者には,子どもを保育園に預けるなどして母親としての役割を 「放棄」する,つまり育児を他者に委託することを考えられない女性も多い。 清掃業においては,早朝勤務は家庭生活の維持の妨げになる一方で,労働者と して満たさなければならない就労の第一条件でもある。 労働者たちは,契約職員として就労することで清掃業に一般的な勤務形態に 慣れ,さまざまな職業訓練を積み,就職支援を受けてめざす労働市場も清掃業 である。職業訓練は,当該業務の遂行に必要な安全,機材や洗剤の扱い,先述 のように団地内の人種差別的発言・行為への対応も含めたコンフリクト対応方 法,応急処置の仕方などについて行われている。 契約職員の大半はフランス語の課題を抱えている。安全面や労働条件・規則 の伝達のため,清掃業においてもフランス語能力の重要性が増している現状か ら,識字・フランス語教育は社会編入支援の大きな課題となっている!。だがフ ランス語の読み書きの必要性を認識していても,様々な理由で修得の機会がな い場合や,その意思がない人もいる。特に語学学習は短期的には収入に結びつ かないため,モチベーションが維持できないことが大きな問題である " 。 以上のように,契約職員たちは,出身地西アフリカの生活条件由来の就学や 識字といった課題に加え,フランス社会が抱える家族のケアと就労といった課 題にも同時に直面する。こうした複合的な課題は個人で解決できるものではな く,SIAE による継続的な支援が欠かせないのである。

6.ま

本論は,フランスの社会的排除・失業対策と女性移住者に的を絞り,フラン スの「社会問題」対策の一端を担うSIAE,レジー・ドゥ・キャルティエの事 例から,その社会編入支援の実態を分析した。最後にレジーの職員と,移民の 「統合」のための「社会・文化的仲介」を担う仲介者マリアムの地位について 考察を加えたい。 509 フランスの社会的排除・失業対策と移住女性 −233−

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調査を行ったパリ市のレジーの契約職員は多くが外国出身者だが,「失業者」 として支援を受けている。他方でレジーの常勤職員たちは,地域活性化,「社 会的付き添い」や清掃事業などを専門としていた。職員が日常の業務を経て移 住者と接し,移住者の生活習慣や考え方に触れる中で,マリアムは日常生活や 習慣の細微にわたり助言を行い,契約職員と常勤職員との誤解を解き,行き違 いを防ぐなどコミュニケーションの円滑化を担っていた。 筆者が継続的な参与観察を終えた2006年,マリアムは短期雇用契約を取得 し,3年間の任期を二度務め,地域の行政や小,中学校とも連携して住民との コミュニケーションの活性化,円滑化に貢献するようになった。だが月1,000 ユーロに満たない報酬と3年毎の契約更新という不安定な地位では,小学校か ら専門学校まで3人の子を抱えた母子世帯を支えるには十分ではない。マリア ムに限らずとも地域社会のために働きつつ,自身の生活には常に不安が付きま とうという状況に,どの仲介者も苦しんでいた。 他方で,レジーは事務所拡大・職員増を続けてきたが,マリアムが常勤職員 として雇われることはなく,あくまでも「パートナー」的な位置づけに留まっ てきた。本稿では詳述できなかったが,マリアムは自身の団体運営のため,地 区の別の住民支援組織から助言を受けていた。レジーの職員も,書類提出や会 計処理など団体運営に必要な手続きを得意としないマリアムに,常に助言を与 えている。仲介者として移住者の助言にあたるマリアムも,フランス社会から 見れば,社会編入政策の対象に過ぎないのだ。 本論で検討したSIAE,レジーはパリ市の後見のもと,地域開発と住民支援 を担っている。Laville(2010[2000])は,フランス,ベルギー,イギリスで は,公的サービスとアソシアシオン活動は,伝統的に協力関係にあると分析し ている。1980年代に国家が社会サービスの提供のためにアソシアシオンの担 う役割を承認したが,そのことは,アソシアシオンの行政の「道具化」という 結果をもたらした。 それでもフランスのSIAE は,政治的,社会的要請の高まりとともに活動を 拡大させてきている。移住者の連帯によるアソシアシオンは,そこで住民との −234− 香川大学経済論叢 510

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パイプ役を果たすものの,Laville も指摘するように,アソシアシオンに提供 される契約雇用は,最終的には安定した雇用に結びつくわけではない。今後は 移住者の統合を社会政策のひとつの柱とし,そのための社会・文化的仲介を担 う人々の雇用も,実質的な統合の推進に不可欠なものとして安定的な雇用と地 位を認めていく必要があるだろう。それは,政府が「移住者はフランスの経済 発展に欠かせない」と認める限り,採るべき施策のひとつなのではないか。

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Touraine, Alain,1991,《Face à l’exclusion,》in Citoyenneté et urbanité. Entretiens de la ville, Esprit, tome!. (1) 本論は,第6回国際社会学研究会(2011年10月22日,一橋大学)における報告をも とに,議論を大幅に発展させたものである。報告に対して主催の小井土彰宏,伊藤るり 両氏をはじめ研究会の方々から貴重なご意見を頂いた。記して感謝したい。2009年以降 の調査は,2009∼2011年度科学研究費補助金(若手研究 B)「フランス旧植民地「アフ リカ系」女性移住者の社会編入 ―― 越境する女性の地位向上戦略」(研究代表者・園部 裕子)による。 (2) フランスの社会学者で貧困研究の第一人者 Paugam は,1990年代半ばにまとめた「排 除」についての編著で,社会的排除がフランスで使用されるようになった過程を分析し ている(Paugam1996)。この言葉は,1974年に出された René Lenoir の著書『排除され た人 ―― フランス人の10人に1人 Les Exclus, un Français sur dix』に由来し,高度成 長期の富の再配分から排除された貧困層が依然として残っている現象を指していた。つ まり当時の排除は周縁的なものと位置づけられていた。80年代から続いた雇用市場の悪 化により,社会的排除は再び「編入最低賃金(RMI,委細後述)」の設立とともに議論 されるようになる。90年代以降,右派,左派ともにこの言葉を用いるようになり,不平 等や貧困だけでは説明しえない現象を示すようになった。つまり社会的排除は,もはや 労働における支配・被支配の関係やある社会階層の排除だけではなく,不安定な経済状 態がもたらす個人の不安や集団生活への関わりの希薄化,職業的アイデンティティの喪 失など,排除という状態に至るプロセスの存在を意味し,特に社会関係の破たんを強調 する概念であったために,広く用いられるようになった。 (3) 筆者は(園部1998)において,1990年代フランスの福祉国家制度と失業問題を,「社 会的排除」をめぐる1997∼98年の失業者による大規模な異議申し立て運動の事例から 考察した。アソシアシオンを通じた移住女性の社会参加についての調査は,この問題意 識の延長に位置づけられる。

(4)「編 入 最 低 賃 金(Revenue minimum d’insertion : RMI)」。2009年6月 か ら RMI や Allocation de parent isolé(ひとり親手当)などを統合する「積極的連帯賃金(Revenue de Solidarité active : RSA)」が施行されている。RSA は低所得労働者の賃金を補"するのが 趣旨で,労働市場への復帰を促すのが目的とされる。

(26)

(5)「アソシアシオン(association)」は,1901年法により,「2人以上の人が,営利を分か ち合う以外の目的で,知識と活動を継続的な仕方で共有する契約」と規定される。以下 では,表記の簡略化のため,これを「市民団体」,「団体」と呼ぶ場合がある。 (6) cf. Ministère de la Parité et de l’égalité professionnelle et Ministère de la justice2005. (7) 筆者は2006年10月から2012年5月までこの市民団体の運営委員会で会計を務め, 以後も継続的に調査を行っている。就任の経緯については園部(2010)を参照。 (8) ヨーロッパの移住家事・介護労働者について,以下の共同研究により調査を行ってい る:平成24∼26年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究 A・海外学術調査)研究 代表者・伊藤るり「EU 統合下の移住女性とケア労働 ―― 仏独伊の事例を手がかりに」 (課題番号24252003);平成21∼23年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究 A・海 外学術調査)研究代表者・伊藤るり「仏伊独における移住家事・介護労働者 ―― 就労 実態,制度,地位をめぐる交渉」(課題番号212520001)。

(9) 1980年代に作られた「社会・連帯経済 l’économie sociale et solidaire」の憲章が,現在 でも活動の基盤として参照されている(以下のホームページを参照:http : //www.lemois-ess.org/accueil/je_veux_comprendre/quest_que_leconomie_sociale_et_solidaire_/aller_plus_loin/ la_charte_de_less:2013年1月8日)。 (10) RMI の受給者は,自分の抱える課題に対して語学研修や職業訓練を紹介され,その受 講証明が受給に必要とされた。例えば,筆者がボランティア講師を務めつつ調査をした 移住者団体の識字教室には,トルコ出身のクルド人女性が通っていた。彼女は20年近 くもフランスに住んでいるが,フランス語をほとんど話せない。長年勤めていた縫製工 場が閉鎖されたため失業し,RMI を受給する条件として ANPE からフランス語研修の受 講を求められ,通っていた。語学教室の出席証明書を ANPE に定期的に提出して RMI を受給していた。

(11) 調査時は ANPE(国立雇用局)。ANPE は2008年に ASSEDIC と統合して Pôle Emploi になった。 (12)「社会的付き添い(l’accompagnement social)」は,1970∼80年代に社会活動で始まっ た「社会的な見守り(suivi social)」を起源とし,その後,公営住居申請の支援において も広まり,1988年の RMI 創設でより広い社会編入に導入されていった(Boulayoune 2012)。 (13) 従来,介護・家事労働はおもに AI など非営利団体が担ってきた。しかし2005年以 降,政府は介護・家事労働を「対人サービス(Service à la personne)」として政策的に市 場化し,民間企業の進出を促進している。AI もこれに組み込まれることになり,位置づ けが大きく変化している。筆者は仏独伊比較共同研究において「対人サービス」と移住 女性への職業訓練の実態調査を行っている。園部(2012)を参照。 (14) AI は個人宅へ労働者を派遣し,家事サービスを提供する活動が主になる。上記のよう に家事サービスは2005年のボルロー法により「Services à la personne(対人サービス)」 部門に位置づけられるようになっている。 −238− 香川大学経済論叢 514

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