トリプルスカイフック制御を用いた
セミアクティブサスペンション車両の乗り心地の研究
*
下屋 直人)勝山 悦生)
A Study of Vehicle Ride Comfort using Triple Skyhook Control for Semi-active Suspension System
Naoto Shimoya Etsuo KatsuyamaA semi-active suspension has been widely adopted to enhance vehicle performance. In order to improve occupant ride comfort and tire road holding using a semi-active suspension system, a variety of suspension control methods have also been proposed for a long time. In this paper, we configured the triple skyhook control, which features reducing sprung vibration over a wide frequency range with a simple control law, for a test vehicle equipped with a semi-active suspension system to enhance ride comfort. We confirmed that the control showed high performance to the sprung vibration suppression over a wide frequency range and its results were verified on a test vehicle.
KEY WORDS: Vibration, Ride comfort, Suspension system, Semi-active suspension, Skyhook control (B3) .まえがき 自動車のサスペンションの主な役割は外乱からばね上へ伝 達する振動を低減することであり,この振動の伝達特性はス プリングやショックアブソーバ,タイヤ諸元などの入出力間 にある様々な構成要素によって決定される.このようなハー ドウェア設計の最適化に加え,更なる性能向上や運動性能と 乗り心地の両立を目指し,サスペンション制御の研究開発が 行われている.その中でも,エネルギー消費や重量,コスト などの観点から,減衰係数を可変とするセミアクティブサス ペンションを対象とした制御が広く検討されている. セミアクティブサスペンションの乗り心地制御として,主 に1-2 Hz 付近(以後,低周波領域)にあるばね上共振周波数 での振動抑制に効果があるスカイフックダンパ制御(Skyhook Damper Control: SH)が広く知られている(1).また,人が不快 に感じる振動は4-8 Hz 付近(以後,中周波領域)に存在する といわれており(2),この周波数帯域の振動抑制を目的とした手 法(3)や,乗り心地と同時にタイヤの接地性を向上させる手法 (4)(5)などSH を拡張した制御が検討されており,これによって 更なる性能向上が可能であることが報告されている.その他 には,複数の設計要求を陽に考慮した制御系を構成するため にモデルベースド制御も盛んに検討されている.H-infinity 理 論を用いた手法のほか(6),Gain-scheduled 制御(7)やモデル予測 制御(8)により複数の設計要求を満たす制御器が導出可能であ ることが示されている.しかし,これらの制御はモデルが有 する状態量の計測または正確な推定が必要であることに *2019 年 5 月 30 日受理.2019 年 5 月 22 日自動車技術会春季 学術講演会において発表. トヨタ自動車株静岡県裾野市御宿 番地 加え,制御構造によってはチューニングパラメータの数が増 加することに注意が必要である. このような課題に対して,著者らはセンサの追加を避けか つシンプルな制御則でばね上に働く外乱を広い周波数に亘っ て低減する手法として,トリプルスカイフック制御(Triple Skyhook Control: tSH)を提案し,その有効性をフルアクティ ブサスペンション車両を用いた試験により確認した(9).本稿で は,tSH をセミアクティブサスペンションに適用し,その制御 効果を検証する.また,SH と比較をすることによって tSH の 有効性を確認する. .制御法の比較 検討用モデルの定義 Fig.1 Quarter-Car Model of a Semi-Active Suspension. セミアクティブサスペンションのクォーターカーモデルを 図1 に示す.このとき,ばね上,ばね下マスの運動方程式は 以下の式(1),(2)で表される. 𝑚𝑚2𝑧𝑧2𝑠𝑠2= (𝑐𝑐𝑠𝑠𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠)(𝑧𝑧1− 𝑧𝑧2) + 𝑤𝑤 + 𝑐𝑐𝑓𝑓(𝐼𝐼)𝑠𝑠(𝑧𝑧1− 𝑧𝑧2) (1) 𝑚𝑚1𝑧𝑧1𝑠𝑠2= (𝑐𝑐𝑠𝑠𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠)(𝑧𝑧2− 𝑧𝑧1) + 𝑘𝑘𝑡𝑡(𝑧𝑧0− 𝑧𝑧1) + 𝑐𝑐𝑓𝑓(𝐼𝐼)𝑠𝑠(𝑧𝑧2− 𝑧𝑧1) (2) ここで,𝑧𝑧0, 𝑧𝑧1, 𝑧𝑧2はそれぞれ路面,ばね下,ばね上の上下変位, 𝑚𝑚1, 𝑚𝑚2はそれぞればね下,ばね上質量,𝑘𝑘𝑠𝑠, 𝑘𝑘𝑡𝑡はサスペンショ Sprung mass Unsprung mass Variable damper
研究論文 20194920ン,タイヤばね係数,𝑠𝑠はラプラス演算子,𝑤𝑤はばね上に直接 かかる外力であり,例えば横風や操舵,加減速によって重心 点にはたらく力である.本稿では路面外乱とドライバ入力に 対する応答に着目するため,以降𝑤𝑤をドライバ慣性入力と呼ぶ. また,𝑐𝑐𝑠𝑠 は制御の基準値となる減衰係数であり,本稿ではベ ース減衰と呼ぶ.𝑐𝑐𝑓𝑓(𝐼𝐼)は入力電流値𝐼𝐼により決定されるベース 減衰からの減衰係数の変化量である. 比較条件 次に,クォーターカーモデルを用いてSH と tSH の比較を行 い,セミアクティブサスペンションへの適用について考察す る.ただし,ここではボード線図にて制御効果を比較するた め,サスペンションのアクチュエータから出力される上下力 は任意の上下力𝐹𝐹𝑐𝑐(𝑠𝑠)を出力するものとする.つまり,ここで は式(1),(2)は次の式(3),(4)で表される. 𝑚𝑚2𝑧𝑧2𝑠𝑠2= (𝑐𝑐𝑠𝑠𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠)(𝑧𝑧1− 𝑧𝑧2) + 𝑤𝑤 + 𝐹𝐹𝑐𝑐(𝑠𝑠) (3) 𝑚𝑚1𝑧𝑧1𝑠𝑠2= (𝑐𝑐𝑠𝑠𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠)(𝑧𝑧2− 𝑧𝑧1) + 𝑘𝑘𝑡𝑡(𝑧𝑧0− 𝑧𝑧1) − 𝐹𝐹𝑐𝑐(𝑠𝑠) (4) またシミュレーションに用いたパラメータを表1 に示す. Table1 Simulation Parameters.
Parameters Symbol Unit Value
Sprung mass m2 kg 500
Unsprung mass m1 kg 50
Spring stiffness ks N/m 30e3
Damping coefficient cs N/(m/s) 2000
Tire stiffness kt N/m 300e3
従来制御と提案制御の比較 スカイフックダンパ制御(従来制御) SH の制御指令値を式(5)に示す.𝐷𝐷(𝑠𝑠)は式(6)に示すような 制御の応答特性を模擬したカットオフ周波数𝑓𝑓𝑙𝑙が5.0 Hz の一 次ローパスフィルタと,積分オフセット除去を想定したカッ トオフ周波数𝑓𝑓ℎが1.0 Hz の一次ハイパスフィルタの積である. 𝐹𝐹𝑐𝑐(𝑠𝑠) = −𝛽𝛽𝑐𝑐𝑠𝑠𝑧𝑧2𝑠𝑠𝐷𝐷(𝑠𝑠) (5) 𝐷𝐷(𝑠𝑠) =(𝑠𝑠 + 2𝜋𝜋𝑓𝑓2𝜋𝜋𝑓𝑓𝑙𝑙 𝑙𝑙) 𝑠𝑠 (𝑠𝑠 + 2𝜋𝜋𝑓𝑓ℎ) (6) 式(3)-(6)を用いて計算した路面変位入力に対するばね上,ば ね下加速度と,ドライバ慣性入力に対するばね上変位のボー ド線図を図2 に示す.ただしゲイン𝛽𝛽は 0.4 とした.また,路 面変位入力振幅には入力周波数𝑓𝑓の逆数である1/𝑓𝑓を掛けた. ボード線図から,SH は路面入力およびドライバ慣性入力に対 して,1 Hz 付近にあるばね上共振周波数での制振に効果的で あることが確認できる.一方で,乗員が不快に感じるといわ れる中周波振動の改善効果は見られない. この制御効果は,ばね上運動に注目することで説明できる. SH の指令値の式(5)を式(3)に代入するとばね上変位𝑧𝑧2は式(7) で表される.ただし,右辺第 1 項はばね下からの入力,第 2 項はドライバ慣性入力である. 𝑧𝑧2=𝑚𝑚 𝑐𝑐𝑠𝑠𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠 2𝑠𝑠2+ 𝑐𝑐𝑠𝑠(1 + 𝛽𝛽𝐷𝐷(𝑠𝑠))𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠𝑧𝑧1 + 1 𝑚𝑚2𝑠𝑠2+ 𝑐𝑐𝑠𝑠(1 + 𝛽𝛽𝐷𝐷(𝑠𝑠))𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠𝑤𝑤 (7) Fig.2 Effects of Skyhook Damper Control.
式(7)から,SH はばね上マスの運動に対する減衰付加制御であ るため,ばね上共振の制振に効果がある一方で,中周波領域 に対しては制御効果が表れないと理解できる. これに対して,図2 の実線で示すように減衰係数𝑐𝑐𝑠𝑠を下げ てSH を適用することで,広い範囲でばね上振動を低減できる. しかしその反面で,低減衰化により10 Hz 付近にあるばね下 共振でのばね下振動増大は避けられない.このため,制御サ スペンションに SH を適用する場合は乗り心地と接地性の間 に背反があり,これらの両立が難しいことがわかる.これに 対し,SH とグラウンドフック制御(4)を組み合わせ,乗り心地 と接地性の両立を狙いとした検討も行われているが(5),追加の ばね下センサが必要であるほか,依然として二つの要求には 背反がある. トリプルスカイフック制御(提案制御) ばね上情報のみを用いて乗り心地と接地性を両立させるた めには,減衰係数を下げることなく中周波領域の制振に効果 がある制御を適用する必要がある.そこで,ばね上低周波か ら中周波までの広い周波数帯域で効果がある制御として,tSH の説明をする.尚,本制御効果はフルアクティブサスペンシ ョン車両を用いた試験により確認されている(9).tSH の制御指 令値は式(8)で表される. 100 101 25 30 35 40 45 Frequency [Hz] M agni tude [dB ] PassiveSH SH(absorber-30%) 100 101 35 40 45 50 55 60 65 Frequency [Hz] M agni tude [dB ] 10-1 100 -110 -105 -100 -95 -90 -85 -80 Frequency [Hz] M agni tude [dB ] トリプルスカイフック制御を用いたセミアクティブサスペンション車両の乗り心地の研究
𝐹𝐹𝑐𝑐(𝑠𝑠) = −𝛼𝛼(𝑚𝑚2𝑠𝑠2+ 𝑐𝑐𝑠𝑠𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠)𝑧𝑧2𝐷𝐷(𝑠𝑠) (8) ここで,𝛼𝛼は tSH の制御ゲインである.この制御入力を式(3) に代入すると,ばね下からの入力およびドライバ慣性入力に 対するばね上変位は式(9)で表される. 𝑧𝑧2=1 + 𝛼𝛼𝐷𝐷(𝑠𝑠) (1 𝑚𝑚 𝑐𝑐𝑠𝑠𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠 2𝑠𝑠2+ 𝑐𝑐𝑠𝑠𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠𝑧𝑧1+ 1 𝑚𝑚2𝑠𝑠2+ 𝑐𝑐𝑠𝑠𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠𝑤𝑤) (9) 式(9)から,通過帯域内においてばね下からの入力およびド ライバ慣性入力に対するばね上の動きがtSH により 1/(1+𝛼𝛼)倍 されている.このため,本制御によりサスペンション特性を 変化させずに低-中周波振動を低減できる. tSH の制御効果を図 3 に示す.ただし,定常ゲイン 1/(1+𝛼𝛼) が0.6 となるように𝛼𝛼を与えた.その結果,路面入力やドライ バ慣性入力に対して,低周波から中周波までの幅広い帯域で ばね上振動が低減されることが確認できる.さらに,本制御 によってサスペンション特性の変更なしに乗り心地が改善さ れるため,ばね下振動が大きく悪化することはない. 以上より,セミアクティブサスペンションにおいても解析 と同様に,tSH を適用することでベース減衰を下げることなく 低周波から中周波までのばね上振動をバランスよく低減でき ると期待できる.これにより,SH と比較して乗り心地と接地 性を両立した構成が可能となる. Fig.3 Effects of Triple Skyhook Control.
.セミアクティブサスペンションへの適用 制御系の構成 2 章では線形解析により tSH の制御効果の概要を説明した. しかし,本研究で扱うセミアクティブサスペンションの出力 はストローク速度に依存するほか,ダンパの減衰係数が制御 電流に依存するため,2 章で示した制御効果がセミアクティブ サスペンションでも表れる保証はない.そのため,セミアク ティブサスペンションを搭載した車両にtSH を適用し,実車 試験により制御効果の確認を行った.このときの制御系の構 成を図4 に示す.ただし, 𝑉𝑉𝑠𝑠はサスペンションストローク速 度,𝜙𝜙, 𝜃𝜃, 𝑧𝑧はそれぞればね上ロール角,ピッチ角,ヒーブ量, 𝑀𝑀𝑥𝑥, 𝑀𝑀𝑦𝑦, 𝐹𝐹𝑧𝑧はそれぞれ,ロールモーメント,ピッチモーメント, ヒーブ力,𝐹𝐹𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧は各輪上下力である.添え字𝑖𝑖,𝑗𝑗はそれぞれ, 前輪または後輪,左輪または右輪を表す.尚,センサ情報は 各輪のばね上に搭載した上下加速度センサ値のみを用いた.
Fig.4 Block Diagram of the Control System. ばね上三自由度運動への適用 本研究では,ばね上ロール・ピッチ・ヒーブの三自由度運 動に対してtSH を適用する.それぞれの運動が 2 次のばね・ マス・ダンパ系で近似できるため,各運動に対して本制御が 適用できる(9).重心ロール角加速度𝜙𝜙̈,ピッチ角加速度𝜃𝜃̈,ヒ ーブ加速度𝑧𝑧̈は各輪位置におけるばね上上下加速度𝑧𝑧̈2𝑧𝑧𝑧𝑧から算 出する.𝑧𝑧̈2𝑧𝑧𝑧𝑧から𝜙𝜙̈, 𝜃𝜃̈, 𝑧𝑧̈への座標変換を式(10)に示す. [𝜙𝜙̈𝜃𝜃̈ 𝑧𝑧̈ ] =12 [ 1 𝑡𝑡𝑓𝑓 − 1 𝑡𝑡𝑓𝑓 1 𝑡𝑡𝑟𝑟 − 1 𝑡𝑡𝑟𝑟 −1𝑙𝑙 −1𝑙𝑙 1𝑙𝑙 1𝑙𝑙 𝑙𝑙𝑟𝑟 𝑙𝑙 𝑙𝑙𝑟𝑟 𝑙𝑙 𝑙𝑙𝑓𝑓 𝑙𝑙 𝑙𝑙𝑓𝑓 𝑙𝑙 ] [ 𝑧𝑧̈2𝑓𝑓𝑓𝑓 𝑧𝑧̈2𝑓𝑓𝑟𝑟 𝑧𝑧̈2𝑟𝑟𝑓𝑓 𝑧𝑧̈2𝑟𝑟𝑟𝑟] (10) ここで𝑡𝑡𝑓𝑓,𝑡𝑡𝑟𝑟はそれぞれ前後輪トレッド,𝑙𝑙𝑓𝑓,𝑙𝑙𝑟𝑟はそれぞれ重 心点から前後車軸までの距離,𝑙𝑙はホイールベース,添え字𝑓𝑓𝑙𝑙, 𝑓𝑓𝑓𝑓,𝑓𝑓𝑙𝑙,𝑓𝑓𝑓𝑓はそれぞれ 左前,右前,左後,右後輪を表す. 制御では𝜙𝜙̈, 𝜃𝜃̈, 𝑧𝑧̈とその一階積分,二階積分値にフィルタ処 理をした信号をコントローラに入力する.次に計算したロー ル,ピッチ,ヒーブの変位,速度,加速度から,式(5),(8)よ り制御指令値であるロールモーメント𝑀𝑀𝑥𝑥∗,ピッチモーメント 𝑀𝑀𝑦𝑦∗,ヒーブ力𝐹𝐹𝑧𝑧∗を求める.これらの値から各輪の要求上下力 を式(13)にて計算する.ただし,逆行列の計算のために,ワー プ入力𝐹𝐹𝑤𝑤を指令値として加えている. 100 101 25 30 35 40 45 Frequency [Hz] M agni tude [dB ] PassivetSH 100 101 35 40 45 50 55 60 65 Frequency [Hz] M agni tude [dB ] 10-1 100 -110 -105 -100 -95 -90 -85 -80 Frequency [Hz] M agni tude [dB ] 㻯㼡㼞㼞㼑㼚㼠 㻹㼍㼜 㻱㼝㻚㻌㻔㻝㻜㻕 㻱㼝㻚㻌㻔㻡㻕㻘㻌㻔㻤㻕 㻿㼗㼥㼔㼛㼛㼗㻌㻯㼛㼚㼠㼞㼛㼘㼘㼑㼞 㻱㼝㻚㻌㻔㻝㻥㻕 㻿㼠㼞㼛㼗㼑㻌㼂㼑㼘㼛㼏㼕㼠㼥 㻱㼟㼠㼕㼙㼍㼠㼕㼛㼚 㻱㼝㻚㻌㻔㻝㻟㻕 㻿㼡㼟 㻲㼛㼞㼏㼑 㻯㼍㼘㼏㼡㼘㼍㼠㼕㼛㼚 㻿㼠㼍㼠㼑㻌㻯㼍㼘㼏㼡㼘㼍㼠㼕㼛㼚 㻗㻌㻲㼕㼘㼠㼑㼞㼕㼚㼓 トリプルスカイフック制御を用いたセミアクティブサスペンション車両の乗り心地の研究
𝑭𝑭 = [𝐹𝐹𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧 𝐹𝐹𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧 𝐹𝐹𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧 𝐹𝐹𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧𝑧]𝑇𝑇 (11) 𝒖𝒖 = [𝑀𝑀𝑥𝑥 𝑀𝑀𝑦𝑦 𝐹𝐹𝑧𝑧 𝐹𝐹𝑤𝑤]𝑇𝑇 (12) 𝑭𝑭 = 𝑪𝑪−𝟏𝟏𝒖𝒖 (13) ただし,𝑪𝑪 = [ 𝑡𝑡𝑓𝑓 2 − 𝑡𝑡𝑓𝑓 2 𝑡𝑡𝑟𝑟 2 − 𝑡𝑡𝑟𝑟 2 −𝑙𝑙𝑧𝑧 −𝑙𝑙𝑧𝑧 𝑙𝑙𝑧𝑧 𝑙𝑙𝑧𝑧 1 1 1 1 1 −1 −1 1 ] (14) アクチュエータ特性 アクチュエータへの電流指令値は,ストローク速度と要求 減衰力に対する電流マップ値を入力した.試験に使用したフ ロントアクチュエータの減衰力特性を図5 に示す.ここで, ストローク速度は伸び側が正,減衰力は縮み側が正である. なお,電流指令値には最小値0.3 A,最大値 1.6 A の上下限リ ミッタを設けている. Fig.5 Damping Force of the Semi-Active Suspension (Front). ストローク速度推定手法 電流指令値を決定するためにはストローク速度情報が必要 である.このため,センサ値はばね上加速度のみ用いるとい う制約のもと,ストローク速度は以下に示す1 自由度のゲイ ンスケジュールドオブザーバを用いて推定した.以下にその 概要を示す. まず,式(1)の両辺から𝑚𝑚2𝑧𝑧1𝑠𝑠2を引くと,式(15)が得られる. 𝑚𝑚2(𝑧𝑧2− 𝑧𝑧1)𝑠𝑠2= (𝑐𝑐𝑠𝑠𝑠𝑠 + 𝑘𝑘𝑠𝑠)(𝑧𝑧1− 𝑧𝑧2) + 𝑤𝑤 + 𝑐𝑐𝑧𝑧(𝐼𝐼)𝑠𝑠(𝑧𝑧1− 𝑧𝑧2) − 𝑚𝑚2𝑧𝑧1𝑠𝑠2 (15) ここで,状態量を𝒙𝒙 = [𝑧𝑧̇2− 𝑧𝑧̇1, 𝑧𝑧2− 𝑧𝑧1]Tとすると式(15)より ばね上の状態方程式は次のように表せる. 𝒙𝒙̇ = 𝑨𝑨𝒙𝒙 + 𝑩𝑩𝑢𝑢 + 𝑮𝑮𝑤𝑤𝑑𝑑 𝑦𝑦 = 𝑪𝑪𝒙𝒙 + 𝐷𝐷𝑢𝑢 (16) 𝑨𝑨 = [− 𝑐𝑐𝑠𝑠 𝑚𝑚2 − 𝑘𝑘𝑠𝑠 𝑚𝑚2 1 0 ] , 𝑩𝑩 = [− 1 𝑚𝑚2 0 ] , 𝑮𝑮 = [−1 0 ] 𝑪𝑪 = [−𝑚𝑚𝑐𝑐𝑠𝑠 2 − 𝑘𝑘𝑠𝑠 𝑚𝑚2] , 𝐷𝐷 = − 1 𝑚𝑚2 (17) ここで,𝑢𝑢はアクチュエータが出力する上下力, 𝑦𝑦はばね上上 下加速度,𝑤𝑤𝑑𝑑はばね下からの未知加速度入力である.ただし, 今回はドライバ慣性入力を与えない条件で比較するため, 𝑤𝑤 = 0 としている.また,ダンパの減衰力特性は電流値に依 存するヒステリシス性を有するため,制御入力𝑢𝑢は油圧の一次 遅れ時定数𝑇𝑇(𝐼𝐼)を用いて次に示す𝑢𝑢ℎ𝑦𝑦𝑠𝑠に置き換えた(10). 𝑢𝑢ℎ𝑦𝑦𝑠𝑠=1 + 𝑇𝑇(𝐼𝐼)𝑠𝑠 𝑢𝑢1 (18) このパラメータ変動モデルに対して可変オブザーバゲイン 𝑳𝑳(𝐼𝐼)を求める.本研究では𝐼𝐼 = 0.3, 0.95, 1.6A のモデルに対し てそれぞれゲイン𝑳𝑳𝟎𝟎.𝟑𝟑, 𝑳𝑳𝟎𝟎.𝟗𝟗𝟗𝟗, 𝑳𝑳𝟏𝟏.𝟔𝟔を設計し,𝑳𝑳(𝐼𝐼)はこれらの線 形補間により求めた.以上より,本システムの状態は次式に て推定される. 𝒙𝒙̂̇ = 𝑨𝑨𝒙𝒙̂ + 𝑩𝑩𝑢𝑢̂ℎ𝑦𝑦𝑠𝑠+ 𝑳𝑳(𝐼𝐼)(𝑦𝑦 − 𝑪𝑪𝒙𝒙̂ − 𝐷𝐷𝑢𝑢̂ℎ𝑦𝑦𝑠𝑠) (19) ただし,𝑢𝑢ℎ𝑦𝑦𝑠𝑠は直接観測できないため,電流指令値とストロ ーク速度推定値および図 5 に示した減衰力特性マップと式 (18)から求まる減衰力入力の推定値𝑢𝑢̂ℎ𝑦𝑦𝑠𝑠に置き換えた. なお本ゲインスケジューリングについて,ダンパの減衰係 数が制御電流に対して線形と仮定すると,適切にオブザーバ ゲインを設定することでシステムが漸近安定になることが示 されている.適切なオブザーバゲインや安定性に関しては文 献[11]を参照されたい. .実車検証 試験条件 4 輪にセミアクティブサスペンションを搭載した車両を用 いて,実走行試験および四輪加振試験によりtSH の制御効果 を検証した.その際,パッシブサスペンションおよびSH との 比較を行った.また試験では,微小ストローク速度領域にお いてセンサノイズ等により高頻度な電流の切り替えが起こる のを避けるために,ストローク速度は以下の値とした. if |𝑉𝑉𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠 | ≤ 0.05 ∶ 𝑉𝑉𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠 = sgn(𝑉𝑉𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠 )0.05 if |𝑉𝑉𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠| > 0.05 ∶ 𝑉𝑉𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠 = 𝑉𝑉𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠𝑠 (20) 実走行試験結果 路面外乱に対するtSH の制御効果を確認するため,制御な しとSH,tSH をそれぞれ車両に適用した場合のヒーブ,ピッ チ,ロール加速度およびばね下上下加速度を Power Spectral Density (PSD)で比較した.その中で今回は凹凸のある路面を 60 km/h で走行した結果を図 6, 7 に示す.なお,縦軸は見やす さのために図6 では dB/Hz,図 7 では m/s2としている.各条 件でのベース電流は0.9 A (𝑐𝑐𝑠𝑠= 2551 N/(m/s))とした. 各運動における加速度のPSD から,SH は 2 章で説明した ばね上共振付近での制振効果が確認できる.しかし,中周波 領域に注目するとシステムの遅れや非線形性に起因して,制 御なしと比較して振動の増大が見られる.これに対してベー ス減衰を下げることで中周波振動の低減が可能だが,背反と してばね下振動が増大する.その一方で,tSH では低周波領域 の効果に加えて5-6 Hz 付近まで振動が低減されている.つま り,セミアクティブサスペンションにおいても理論通り,tSH による広い周波数での制振効果が確認できる. -0.6 -0.3 0 0.3 0.6 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000 Stroke Velocity [m/s] D am pi ng F or ce [N ] 0.3A 0.65A 0.95A 1.25A 1.6A トリプルスカイフック制御を用いたセミアクティブサスペンション車両の乗り心地の研究
Fig.6 A Comparison between the PSD of the Heave, Roll, Pitch
Acceleration for the Passive Suspension, SH and tSH.
Fig.7 A Comparison between the Unsprung Acceleration for the
Passive Suspension, SH and tSH. さらに,SH と tSH のばね下振動を比較して両者の間に大きな 相違が見られないことから,tSH は SH と比較して乗り心地と 接地性の両立を実現している. ここで,ばね上情報のみに基づいて減衰力制御を行うと, ばね下振動を増大させる場合があることに注意が必要である. また,この振動特性の変化はばね上制振制御則に依存する. Fig.8 Request Heave Force for the SH and tSH.
Fig.9 Request Current for the SH and tSH.
特に,tSH は変位・速度・加速度をフィードバックし減衰力指 令値が高頻度で切り替わるため,SH と比較してベース減衰に 対し入出力特性が変化しやすい.参考にSH と tSH のヒーブ力 指令値と,左前輪の電流指令値の比較を図8, 9 に示す.図 8 よりtSHはSHと比較して高い周波数までの振動をフィードバ ックしているため,中周波領域の制振に効果があると理解で きる.その一方で,図9 のように電流値を大きく変化させる 必要があるため,減衰力および入出力間の特性がベース減衰 に対して変化しやすい.これにより,例えば低減衰化した際 に大きく表れるばね下振動モードや,高減衰化した際のヒス テリシス性に起因する振動モードが表れやすくなる.このた め,tSH をセミアクティブサスペンションに適用する場合はば ね下特性への影響を考慮してフィルタやゲインの設計を行う 必要がある. 四輪加振試験結果 セミアクティブサスペンションは減衰力制御であるため, 低周波と中周波振動特性の間に背反が存在する.この背反を 克服し,広い周波数帯域で振動を低減することが制振制御の 目的の一つであり,各運動の低中周波振動を定量的に比較す ることは制御効果を評価する上で重要である.このため,各 条件における低中周波振動の両立度合いを評価するために, Partial Overall (POA)にて比較を行う.ここでは,ホイールベー スフィルタの影響を除いて比較するために四輪加振にて試験 を行った.各条件におけるヒーブ,ピッチ,ロール加速度の POA を図 10 に示す.横軸は低周波振動パワー,縦軸は中周 波振動パワーを表す. 100 101 -25 -20 -15 -10 -5 Frequency [Hz] A cc. H eav e P SD [d B /H z] Passive SH tSH 100 101 -25 -20 -15 -10 -5 Frequency [Hz] A cc. Pi tch P SD [d B /H z] 100 101 -25 -20 -15 -10 -5 Frequency [Hz] Ac c. R ol l P SD [ dB /Hz ] 100 101 0 1 2 3 Frequency [Hz] Verti cal Acc. at Front-l eft Wheel [m/s 2] Passive SH tSH 0 2 4 6 8 -3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 Time [s] R eq ue st H eav e F or ce [ N ] SH tSH 2 2.5 3 3.5 4 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 Time [s] R eque st C ur re nt F L [ A ] SHtSH トリプルスカイフック制御を用いたセミアクティブサスペンション車両の乗り心地の研究
Fig. 10 A Comparison between the POA of the Heave, Roll, and
Pitch Acceleration of the Passive Suspension, and SH and tSH. ここで,各プロットはデータ測定点,各点を結ぶ曲線は測定 点に対する2 次の近似曲線である. POA より,パッシブサスペンションの減衰係数を上げるこ とで低周波振動が減少する一方,中周波振動が増大している. これに対して,SH を適用することにより中周波振動の増大を 抑制しつつ低周波振動を低減できるため,低-中周波振動の両 立度合いが向上される.しかし,SH では中周波振動の抑制効 果が得られないため,高ゲイン化による中周波振動の増大は 避けられない. 一方で,tSH を適用することにより 3 自由度の運動において 低-中周波振動特性が更に向上することが確認できる.すなわ ち,tSH により中周波振動が抑制され,SH と比較して乗り心 地向上可能であることが確認できる. .まとめ 低周波から中周波までの広い周波数領域でばね上振動の 抑制効果があるトリプルスカイフック制御をセミアクティ ブサスペンションに適用し,実車評価を行った.ヒーブ・ ピッチ・ロール加速度を比較した結果,本制御手法はスカ イフックダンパ制御と比較して高い周波数までの制振効果 が得られ,低-中周波振動特性の向上が確認された.さらに, 本手法は制御器にモデルを持たないため,パラメータ変動 に対してロバストな制御が可能であるほか,チューニング 変数が少ない,計算負荷が低い等の利点を有する.ただし 本手法は広い周波数の振動をフィードバックするため,ば ね下振動を増大させる場合がある.このため,制御ゲイン やフィルタによりこの増大を抑制する設計が必要である. 参 考 文 献
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(7) Anh-Lam Do, Olivier. S, and Luc. D: An LPV control approach for semi-active suspension control with actuator constraints, In Proceedings of the 2010 American Control Conference (2010) (8) Nguyen. M. Q, Canale. M, Sename. O, Dugard. L: A Model Predictive Control approach for semi-active suspension control problem of a full car, 2016 IEEE 55th Conference on Decision and Control (2016) (9) 勝山悦生: トリプルスカイフック制御による乗り心地の 研究-ばね上加速度,速度,変位をフィードバックしたスカ イフック制御の提案-, 自動車技術会論文集, Vol. 50, No. 1, pp. 128-133 (2019) (10) 山本彰人 ほか: セミアクティブサスペンションにおける 実用的な状態推定の検討, 自動車技術会論文集, Vol. 48, No. 3, pp. 687-692 (2017) (11) 中井英雄 ほか: 実用性を考慮したセミアクティブサスペ ンションの状態量推定, 日本機械学会(C 編) Vol. 63, No. 615, pp. 202-208 (1997) -13 -12 -11 -10 -9 -18 -16 -14 -12 -10 -8 0.5-2.5 Hz [dB] 2. 5-8. 0 H z [dB ] [Heave] Passive SH tSH -16 -15 -14 -13 -12 -11 -10 -18 -16 -14 -12 -10 -8 0.5-2.5 Hz [dB] 2. 5-8. 0 H z [dB ] [Pitch] -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -10 -8 -6 -4 -2 0 0.5-3.5 Hz [dB] 3. 5-8. 0 H z [dB ] [Roll] トリプルスカイフック制御を用いたセミアクティブサスペンション車両の乗り心地の研究