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前置詞構文と対格構文の意味と交替

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滋賀大学教育学部紀要 人文科学・社会科学 No. 52, pp. 173−181, 2002 173

前置詞構文と対格構文の意味と交替

吉 川 千鶴子

Alternation of Prepositional and Accusative Construction

Chizuko YOSHIKAWA

はじめに 英語には,類似の事象が異なる構文で表わされることがよくある。たとえば,事物の移動を表わすの に,移動を表わす自動詞と方向や着点を表わす前置詞を用いた分析的他動表現と,前置詞の意味を編 入した他動表現が存在する。 (1)a.The s七ranger came near me.   b. The stranger approached me. (2)a.Icannot get a七the book. (隠れているなどで手にすることができない)   b.Icanno七reach七he book. (手が届かない)   また、同一の動詞が前置詞構文にも他動詞構文にも用いられる場合もある。 (3)a.He escaped from七he police.(今捕まっている)警察から逃げた   b.He escaped the police. (警察の手が及ぶのを逃れた) (4)a.Tom pushed agains七七he door、(ドァを押した)   b.Tom pushed七he door.    (ドァを押し開いた)   従来の学校文法では,上のaのような前置詞構文は,前置詞句が必須部分であるにも関わらずSV 構文,bのような他動詞構文はSVOと分類し,両構文の相違・関連については,個別の説明に止まり, 総合的に関連・理論づけ,統一的な原理による説明がなされてこなかった。本稿では、構文のもつ意 味情報(項の意味役割に関する情報)と個々の動詞がもつ意味情報とが融合されて,文全体の意味を 形成するという意味合成のメカニズムを述べることにする。 1.移動表現 1.1. 移動表現とは  事物の移動を表わす移動動詞は,移動を表わす[MOVE]という基本概念に加え,どのような様態 (MANNER)で移動するかを語義として内蔵している。さらに移動する主体(Actor)/移動の原因 (Cause)と,移動の起点(Source)/経路(Path)/目標(Goa1)/着点(Affected Goal:以下Ga) のうち,いずれかを関与項とし,その関与項は,それぞれの事象に適した特定の前置詞で表示される。

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ただし,reachのように,関与項(reachの場合は,着点)を表わす前置詞(reachの場合, at)を編

入した対格動詞類もある。

 次に掲げるのが,それぞれの関与項と結びつく,移動動詞の例である。

移動位置 起  占

    ♂、、、

iSource) 経路(Pa七h) 目標(Goa1) 着点(Ga)MOVE

動詞の意味

MOVE

from/out of along/through/across 魔奄=^around/past/over to/onto/into/ ?盾 beyond 位置関係

off down/up toward at/in

様態 宰leave,

電pass, 摩cross, 皐ascend 90

零reach,

@ .

depart

fescape, exit, 零climb,寧descend 宰approach

arrlve ノenter, flee get, come roll, slide, bounce, drift, float, glide walk, run, swim, fly, jump, hoP, jo9 (*のついた動詞は通常、移動の位置を対格で示す。) 1.2. 起点からの移動  英語では「〈主体〉ガ〈起点〉カラ 離レル」意味を表す動詞類は,〈起点〉が具体的場所の場合, 通常はfromで格標示される。 (5)a.The soap slipped from my hand.   b.The passengers escaped/fled from the burning ship. ところが「記憶から消え失せる」というような結果に視点のある表現では,起点を標示する前置詞 fromを伴わない。 (6)a.1’mafraid it slipped my memory almost immediately.  (BNC)l   b.Do you remember七he woman’s name?”一”1’m sorry, it entirely escapes my        ,,    memo「y・   c.Tha七had completely escaped my memory.        コ次例の(7a)のように口から声・ため息などが漏れ出るという離脱の結果に視点があれば対格構文,       コ(7b)のように起点からの分離・移動という動作そのもの(過程)に焦点を当てて表現する場合には, 起点を表わす前置詞fromを用いた構文で表現される。 (7)a.Acry escaped her lips.   b.Aragged sigh escaped from her lips and she fiddled with her cutlery again.       (BNC) (8)a.Computer worker Fred Prassaler escaped death by seconds.   b,‘Adangerous criminal has escaped from the prison, sir,’he七〇1d us.(BNC) (8a)も死を免れたという離脱の達成結果に視点,(8b)は,脱獄という動作過程に焦点をあてた報告

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前置詞構文と対格構文の意味と交替 175 である。  用例検索をすると,対格で表わされる起点は,(9a)のように罰・病気というような抽象的起点, fromで標示される起点は,(9b)のように具体的場所である。 (9)a.escape punishment/influenza/injury   b.escape from prison/a sinking ship/the tunnel 起点を対格(目的語)で表わす構文は,(9a)のように罰・病気等を免れるという比喩的な移動の結 果を示し,前置詞構文は(9b)のように場所からの移動・離脱を表わしている。        ロ       コ  このように見てくると,対格構文が起点からの移動の結果を,前置詞構文が過程を表わすと仮定す ることができる。  このような一般化が正しいかどうかを,以下で検証することにする。 (10) a.He escaped the police。    b.He escaped from the police. (10’) a. iHe gradually escaped the police.    b.He gradually escaped from the police. (10”)a.’He was escaping the police, but he failed.    b.He was escaping from七he police, but he failed. (10a)の場合,対格の七he policeは「警察の持つ機能=警察の追求・捜索」という比喩的意味を表わ し,「(警察に捕まらないように先手を.打って)警察の追求・捜索を逃れた」という意味であり,結果 が焦点化されている。それは,(10a)の対格構文に,過程を表わすgraduallyというような副詞句を補っ たり,進行形にしてみたりすると,(10’a),(10”a)のように「逃げ切りかけたが失敗した」という非 文になることからいえることである。それに対し,起点を前置詞fromで標示する(10b)は, the policeは具体的場所・建物を表わし,「警察の建物から逃走した。」という行為が焦点となっている。  次に場所からの離i脱を表わす1eaveとdepartを比べてみよう。 (11) a.George left the city.    b.She depar七ed from Pans today.  対格構文をとるleaveの場合,(12a)(13a)のように目標との共起が可能であることから,起点から の離脱という行為の結果に焦点があるといえる。  dppar七の場合には,(12b)(13b)にみられるように起点と結果を含意する目標と同時に共起するこ とはできない。from句によって表わされる人・場所(起点)からの離脱というプロセスが意味の焦 点となり,着点とは共起しないからである。 (12) a.John left Paris for Osaka.    b.*John departed from Paris for Osaka.      1 (13)a.He left medicine for the law. (医者をやめて弁護士になった)    b.’He departed from medicine for the law.    c.That would depart too far from the original plans. (13c)の例に見られるように, depar七が比喩的な起点と結びつくと,人・場所からの分離・逸脱とい う行為・状態に焦点がある表現となる。 (14) a.leave {school/politlcs/drinking/rnedicine}    b.depart from{one’s usual method/custom/the cus七〇mary practice/one’s phrpose/     an established rule/one’s resolution one’s word} このように見てくると,起点からの移動動詞の場合,対格構文が起点からの移動の結果を,前置詞構 文が過程に焦点を当てた構文であるという一般化は,正しいといえる。

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1.3. 経路の移動  経路を必須とする移動動詞の場合にも,上の一般化があてはまるであろうか。 walk, jog, rollのように,移動の様態を表わす動詞類は,移動の経路や着点を前置詞句で表わすのが 基本的である。 (15) a. Mary walked along/across a street.    b. She jogged around the lake/in the park.    c. The coin rolled across the floor. ところが,移動区間を限定すると,その区間全体をカバーするという意味を前置詞を省いた名詞の対 格(直接目的語)で表わされる。 (16) She walked the streets looking for her missing son. Quirk et al.(1985:685)2によれば,このような本来は自動詞であるはずの動詞類も,〈経路〉を表 わす前置詞を語義に取り込むと,行為の「過程」よりも,行為の完全性に視点が移行し,目的が達成 されたという意味を強調するという。(16)のwalkのように前置詞が編入されると,「行方不明の息 子を探して通り(対格名詞で表わされる限定された区間)を隈無く歩いた」という経路の全体をカバー するという結果が強調されるのである。 (17)a.She was the firs七woman七〇swimφthe Channel.(海峡を泳ぎきった)    b.She was the first woman to swim across the Channe1.(泳いで渡った) (18) a.jump the stream.    (その(障害物の)小川を跳び越える)    b.jump across the s七ream. (その小川を跳び越える) 経路を対格で表わす構文は,次の(20a)(21a)に見られるように,完結相を表わす副詞句(ex. in a few minutes)と共起するが,(20b)(21b)のように継続相を表わす副詞句(ex. for a few minutes) とでは,非文となり,共起できない。 (19) a. Laura {climbed/swam/traveled/walked/bicycled/canoed/skied/drove/     flew/paddled/rode/waltzed} the course.    b. The boulder rolled the {whole distance/course} down the hill.        (上野・影山2001:58)3 (20) a. Laura {climbed/swam/traveled/walked/bicycled} the course in a few rninutes.    b. *Laura {climbed/swam/traveled/walked/bicycled} the course for a few minutes. (21) a. The boulder rolled the {whole distance/course} down the hill in a few minutes    b. ’The boulder rolled the {whole distance/course} down the hill for a few minutes. このことからも,移動の様態を表わす移動動詞類もまた,対格構文を取る場合には移動の動きより も限定された区間域(経路)の走破・達成が焦点となっている構文であることを示している。 すなわち,通常は前置詞で標示される移動の限定区間の経路を対格で標示すると,その経路の走破・ 達成という相的意味に変化するのである。このように,対格構文が,結果め達成という構文意味をも っという一般化が移動の様態を表わす動詞類にも当てはまることがわかる。  このことは,本来移動の意味を表わす動詞類にも,当てはまる。 (22) a.John wen七across the Pacific{to Los Angeユs/to Denver via I.os Angels}.    b. John crossed the Pacific {to Los Angels/’to Denver via Los Angels}. (23) a.John wen七{from Nagoya via Tokyo/from Tokyo}across the Pacific to L.A.    b. John crossed the Pacific {*from Nagano via Tokyo /from Tokyo}.       (松本曜1997:193)4 aの前置詞構文では,経路・着点・経由点を付加することができるのに,bの対格構文では,経由点 を付加できない。このことも,以上で述べてきた対格構文の持つ意味によって説明できる。すなわち,

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前置詞構文と対格構文の意味と交替 177 経路の対格標示は,その経路の走破・達成という相州意味を持つから,その経路の外にある経由点を 新たに付け加えることはできないのである。このように,結果の達成という構文意味を対格構文がも っという一般化が,移動の様態を表わす経路指向の動詞類にも当てはまることがわかる 1.4. 着点に移動  上述の様態の移動動詞類は,動きの様態が中心的意味であり,動詞自体の語義相は,次例の(24a) のように継続相である。 (24) a. He walked along the street for/’in 30 minutes.    b. He walked to the station ’for/in 30 minutes.    c. He walked the trail to the lake ’for/in 30 minuteg... ところがbのように着点を示すto句や。のように対格をとると,完結相となる。  起点と経路を表わす前置詞句を取る移動構文の場合には,完結相を表わさないと述べてきたが,着 点への移動表現に限っては,移動の着点が前置詞で標示されていても,bに見られるように移動の結 果,着点に到着したという結果までが表現されている。  影山・由本(1997)5の分析では,英語の意味構造のレベルで次のような合成が行われるとしてい る。 〈動き(移動)〉   +    〈結果> The ball rolled. lt got to the fence.   →  The ball rolled七〇the fence. 本来は移動の様態と継続動作しか表わさないrollが,着点と結びつくと,その着点に向かう移動の 完結に,動詞の語義相が変化を遂げるというのである。  この分析法は,経路の移動の場合にもあてはまるであろうか。  〈動き(移動)〉    +    〈結果>   Mary walked along the street.       一一)一Mary walked the street. 意味の合成という分析法では,通常は前置詞で標示される移動の経路を対格で標示すると,その経路 の走破達成という相的意味に変化することの説明ができない。  本稿では,同じ動詞であっても,前置詞の有無によって動詞のもっている意味に変化が生じるのは, 前置詞で標示される項の意味役割と,相に関して対格構文と前置詞構文がもっている意味の差に由来 すると考える。 (25) a. ?’The train was reaching the station.    b.The train was finally reaching the s七ation.(到着不可能な事態が解消して)    c. The station was reached finally by the train. (26) a. The train was arriving at the station.    b.The train was finally arriving at七he s七a七ion.(遅れていて)    c. ’The station was arrived at finally by the train (25a)のように言えないのは, reachがもっている「(移動)到達」という語義と,行為の未了を表わ す進行形とが矛盾するからと考えられる。ところがbのようにfinallyという副詞を挿入するとよく なるのは,「到達」という結果部分が焦点化されるからである。従って,bは,「(到着不可能な事態 が解消して)遂に到着しようとしていた」という読みになる。結果を示唆する語があれば,cのよケ

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に場所を主語にした受け身文も可能である。受け乱文は,行為の結果または,状態を表わす構文であ るからだ。  一方,arrive atの場合には,「(着点への)移動」過程が意味の中心であり,(26b)は「遅れていた が遂に到着しようとしていた」という過程に焦点がある読みになる。  しかし,arrive atはあくまでも,移動の過程に意味の焦点があり,結果構文である受動態とは相 容れない。cが非文であるのは,そのためである。  ただし,「意見の一致に至る」というような比喩的な到達を表わす次のような場合には,reachの みならず,arrive a七も受け身文が可能である。 (27) a. A {conclusion/consensus/decision/compromise} was reached.    b. A {conclusion/consensus/decision/?compromise} was arrived at. 受動文は,本来,結果構文であるわけだが,(27b)のように,着点が「結論/意見の一致/決定」な どを表わし,着点の唯一性が明示的だから,結果構文である受動態と矛盾しないので,arrive atの ように過程に焦点のある移動動詞でも,受動文が可能であると考えられる。  次例の(28b)のように言わないのも,複数の移動の通過点のうちの一つの着点を示す(arrive)a七 では,世界の最高峰への銀難辛苦の末の到達という表現意図とは相容れないからであろう。 (28) a. He reached the top of Mt. Everest.    b. ?’He arrived at the top of Mt. Everest. 次例はreachの移動到着の意味が拡張され「手[腕]を伸ばして)〈_に〉届く,触れる」という 意味を表わす。「手を伸ばす」動作より,その結果,「届く」という完了(telic)が焦点化されクロー ズアップされている。類似の意味の前置詞動詞ge七atは,隠れているなど,手に入れるプロセス上 の問題があって,手にすることができないという意味であり,動作の過程が焦点となる。 (29)a.Icannot reach the book.(手が届かない)    b.Icannot get at七he book.(隠れているなどで手にすることができない)  次に出入りの動詞 enterと go intoの相違を見てみよう。 (30) a.Johll wen七〇u七〇f Building 7 into Building 8.    b.John entered Building 8 {’out of/from}Building 7.(松本1997:197) goの場合,「7号館を出て,8号館に入る」という起点から着点への移動の過程をgo一語で表わせ る。bのenterの場合には,移動の起点と着点が一つの出入りロで繋がっているような場合には, 起点を表わすfrom句を付け加えることができる。しかし, out of句の場合,建物の外にでるとい う移動過程に焦点があり,着点に入るという結果に焦点のあるenterと矛盾するのである。 (31) a. John went into Green Library to the linguistic stacks.    b. ’John entered Green Library to the linguistic stacks. goの場合は,移動過程が焦点化されているから,着点から次の着点への移動を表わすaが可能で ある。しかし,enterの場合には,最初の着点.への到達が焦点化されているので,2っ目の着点は容 認されないものと思われる。 (32)a.He{entered/went into}the building/hall/room.(場所)    b。He{entered/went into}politics/七he poh七ical world.(活動の場)    c.She{entered/*went in七〇}the 400−meter race.(競技の場)    d.He{entered/’went into}the university/company.(組織における場)    e. The economy {entered/’went into} a period of high growth.       (時代に占める位置) (33)a.They entered into negotiations with their business rivals.(交渉に入る)    b. He entered {into a conversation/a contract/dealings} with the     boss of七he company.(物事を始める)

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前置詞構文と対格構文の意味と交替 179    c.He entered into the merits and demerits of his proposa工     before acting on it.  (検討し始める)    d. You must enter into the spirit of the game if you want to be     good at it. (_に共感する) (32)のようにenterの対格構文では,具体的な場への到達・参加という完結相が焦点化されるが, (33)のように前置詞intoを伴う構文では,前置詞句が着点ではなく,活動の着手点を表わし,動詞 の意味も,交渉・検討・契約というような精神活動の着手という比喩的意味に変化している。  対格構文が着点への移動を,前置詞構文が比喩的な着点への移動を表わす動詞は,enter以外にも 次のような動詞に見られる。 (34) a.a七tended a funeral    b. attend to the problem, (35) a. climb Mr. Fuji    b.The dea七h toll from the     hurricane climbed to 20. (36) a. reach shore    b. (葬式に参列する) (その問題に対応する) (富士山に登る) (ハリケーンによる死者の数は20人にのぼった)     The power of Rome reached to     the ends of the known world. 日本語では,判例に見られるように着点は二格で表されるが, 以外は全く別の動詞が用いられる。 (岸に着く)  (ローマの勢力は世界の隅々にまで及んだ) 具体的か比喩的かに応じて,「のぼる」 1.5. 視線の移動  Gruber(1967:942−3)6が論じているように, lookは視線の移動の経路・目標・着点を関与項とす ると考えれば,広い意味での移動動詞と考えることができる。 (37)a.John{’saw/looked/*watched}toward the tree.    方向    b.John{’saw/100ked/watched}through the glass carefully.経路    c.What JQhn did was to{’see/100k at/watch}Bill.    着点    d. John {’saw/looked/?watched} into the room in order to learn who was there. seeは,視線の移動結果の状態を表わし,移動動作を表わさないから, Gruber(1967)が指摘するよ うに,動作を示唆する語句とは共起しないのである。  lookは静止しているものに視線を向ける, watchは動いているものに焦点を当てて見る(焦点の 定まらない方向を表わすtowardとは共起しない)を用いるのが普通である。 2.接触動詞  移動表現における前置詞構文と対格構文による,活動の過程か達成かという相の区別は「運動+接 触」を表わす動詞類にもみられる。  例えば,次のshootのような英語の二項動詞は,第二項を対格で標示することも,前置詞のatで 標示することも可能である。対格の場合は行為目的の達成を表すが,atで第二項を標示する場合は 行為の目的達成を含意しない。 (38) a. Tom shot ¢ a bird.    b. Tom shot at a bird. aのように対格標示の場合は,「トムは鳥を撃ち落とした」という行為目標の達成を表すから,(39a) のように,未達成を表わす文を続けることができない。ところがbのようにatを伴えば,「トムは

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鳥を狙って撃った.」ということで,意図された目的が達成されることを必ずしも示さないというこ とは, bのよう続けることが可能なことからもわかる。 (39)a.’Tom shot a bird, but missed it.(*トムは鳥を撃ち落としたが当らなかった)    b.Tom shot at a bird, but missed it.(トムは鳥を狙って撃ったが当らなかった)       池上(1981)7 また,対格構文は次の(40a)のように,目標の達成結果を付加して,結果を明示することができる が,過程に視点がある前置詞構文に結果を表わす語句を付加することはできない。 (40) a. He sho七七he bird dead.    b.’He shot at the bird dead。 このように行為の達成に視点があれば,第二項を対格標示,行為自体に視点があれば,前置詞を用 いるという区別は,悪例のようになんらかの意味で接触を表す意味類の動詞に多く見られる。 (41)a.strike{φ/at}the dog     (犬を打つ/打ちかかる)    b.clutch {φ/at}七he child’s hand (子供の手をしっかり握る/つかもうとする)    c.pu11{φ/at}the rope     (縄をたぐりよせる/綱を引きかかる)    d.chew/bite {φ/at}the squid  (イカを噛み切る/もぐもぐ噛む)        (吉川:1995)8  比喩的心的接触の場合も過程に視点があるか,結果の達成に視点があるかをatの有無で表すこと がある。次例のaの場合,right(ずばり)という語と矛盾しないのは結果の達成を表す対格標示で あり,wronglyと矛盾しないのは試行を表すatである。 (42) a.You have guessed{φ/’at}her age right.年齢をずばりいいあてた.    b.You have guessed{寧φ/at}her age wrongly.年齢の推測は間違っている.  ところが,(43)のbreakやgrowなどのような変化動詞は,前置詞を伴う動能構文(conative construction)には,使えない。動能構文は,動作の過程に意味の焦点があり,達成結果を意味しな        コ   いが,変化動詞は動作の目標が影響を受けて変化したという結果を含意するので,結果を含意しない 動能構文には適合しないと考えれば説明がっく。 (43)  a. ’Janet broke a七 七he vase.      ’    b.’She grew at七he tomatoes.  上記のような接触動詞は目標との点的接触をatで示すが,次例のrub, seize, touchのような面的 な接触を表す動詞は,部分的・比喩的な接触行為をagainstやonやuponで示し,全面的接触の結 果を対格で示す。 (44)a.The car rubbed the wa11.   (壁全体をこする)    b.The car rubbed against the wa11.(壁のある部分をこする) (45) a.He seized七he rope.    b.He seized{’φ/upon}her mistake. (46) a.Don’t touch七his book.    b.This is the topic I touched {宰φ/on}at the beginning of my talk. おわりに  対格構文と前置詞構文は,ベースとなる真理条件的な意味が等価な場合でも,両構文の表わす相的 意味(過程・変化・結果・状態)は異なる。話し手が事態のどの相惚側面に描写の焦点をあてるかに応 じて,対格構文または前置詞構文が選択される。  話し手が,時間軸に沿って出来事を連続走査(sequential scanning)して,ことばに写しとって いく動的事態の場合,〈仕手〉の(具体的な)行為・心意の「結果」を際立たせる場合には対格構文,

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       前置詞構文と対格構文の意味と交替      181 (比喩的な)動作・心情の「過程」部分を際立たせる場合には,前置詞構文が用いられることという仮 説の実証を試みた。

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BNC : The British National Corpus Quirk, R., S. Greebbaum, G. Leech and J. Svartvik. (1985) A comprehensive grammar of the English Language. Longman. 上野誠二・影山太郎(2001)「移動と経路の表現」『日英対照 動詞の意味と構文』(影山太郎編) 大修館書店.40−68 松本曜.(1997)「空間移動の言語表現とその拡張」『空間と移動の表現』(田中茂範・松本曜) p.193研究社. 影山太郎・由本陽子(1997)『語形成と概念構造』研究社.) Gruber, J.S. (i967) ”Look and see,” Language 43, pp.937−47. 池上嘉彦(1981)『〈する〉とくなる〉の言語学』大修館書店. 吉川千鶴子.(1995)『日英比較動詞の文法』くろしお出版.

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