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APTの検証仮説 : 対角化ゼロ・ファクター・モデルと検証可能性

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APTの検証仮説

一対角化ゼロ・ファクター・モデルと検証可能性一

村 松 郁 夫

1 はじめに

 危険資産の価格決定モデルの一つである裁定

評価理論(APT)は,資本資産評価モデル

(CAPM)に対する代替モデルとして注目を浴 びたという背景もあり,これまで,線形モデル としての特徴が,主に,論じられてきた。APT の検証についても,Ro11&Ross[14]以降, 線形式の係数(ファクター・リスク・プレミア ム)がゼロと異なっているか否かを検定するこ とによって,ファクターの存在を確認するといっ たタイプの実証研究(以下,Ro11&Rossタイ プの検証と呼ぶ)を巡って,賛否相見え,種々 の成果が蓄積されてきた。  本稿の目的は,まず第一に,Ro11&Rossタ イプの検証における上述の検証仮説が,APT の理論的含意を正確に反映したものではないこ とを確認することである。付随的に,APTに おける無裁定機会の定義を整理することも,そ の目的に含めておきたい。  APTが成立するためには,無裁定機会(裁 定取引によって利益が生じる機会が存在しない こと)が,うまく定義できなければならない。 無裁定機会が定義されると,APTは,資産の 収益生成プロセスとしてのファクター・モデル から直接的に導出される。それゆえ,ファクター・ (本稿は,1997年度,日本経営財務研究学会第21回 全国大会(名古屋学院大学)における報告に,加筆 修正を加えたものである。有益なコメントをいただ いた,飯野正幸先生(東北大学)に,記して感謝の 意を表します。なお,当然ながら,あり得べき誤謬 は,筆者の責に帰するものである。 リスク・プレミアムの符号や大きさを規定する 条件ないし根拠は,APTの理論的含意におい ては,何ら存在しない。これが,Roll&Ross タイプの検証仮説は,APTの真の検証仮説と なっていないことの論拠であるが,この第一点 に関しては,APTの導出を通して容易に確認 することができる。  APTにおける無裁定機会の定義は,そのベー スとなるファクター・モデルの設定に応じて, それぞれ,想定される経済が異なる。具体的に は,ファクター・モデルに固有項(idiosyn− cratic term)が含まれないケースと,固有項 が含まれる,より一般的なケースである。固有 項が含まれないケースでは,有限資産経済下で 無裁定機会を定義することが可能であるが,固 有項が含まれるケースにおいては,無限資産経 済を想定することによって,はじめて,裁定機 会を漸近的に定義することが可能となる。そも そも裁定機会とは,同質三田の価格差によって 生じる利益の三二機会を指すが,漸近的裁定機 会においては,財の同質性の程度,つまり,誤 差の程度が考慮されなければならない。APT の場合,実は,資産数が増加するにつれて, APTの線形式における誤差項の二乗和が無限 に大きくなるのか,あるいは,有限な値にとど まるのかが問題となる。そして,後者,つまり, 誤差項の二乗和が発散しないことが,APTが 成立するための必要十分条件となる。  ところで,APT,および,その根底にある ファクター・モデルの特徴として,「因子軸の 回転」が制限されないことがあげられる。因子 軸の回転は,APTにおけるファクター・リス

(2)

一 156 一 滋賀大学経済学部研究年報Vol.5 1998 ク・プレミアムの大きさ自体は重要な指標では なく,反応係数行列(因子負荷行列)との相対 的な関係のみが分析対象となることを表してい るに過ぎない。これは,APTを線形式として 表現する際の注意すべき一つの視点を与えてい るが,そもそも,ファクター数,ひいては,反 応係数行列が既知ではないファクター・モデル において,ファクター・モデルの条件を満たす ファクター構造を一意に決定することができる

のかという問題を提起したのが,Shanken

[15]のゼロ・ファクター・モデルである。  因子分析を用いて資産の分散共分散行列を分 解しファクターを抽出するというRoll&Ross の手法に対して,Shankenは,分散共分散行列 の対角化を考えることにより,ファクター・モ デルの既存の条件を満たしつつ,因子数を任意 に設定したモデルを形成することができること を示した。このような変換モデルが存在する場 合には,変換モデルの下でAPTの命題が定義 可能であれば,変換,モデルに対応したAPTを 導出することができる。  本稿の第二の目的は,APTの命題つまり, 無裁定機会を,対角化モデルの下で定義するこ とである。ただし,行列を対角化する手法には さまざまな手法が存在するので,Shankenの対 角化モデルは,その一例にすぎない。そこで, 本稿では,固有ベクトル変換による分散共分散 行列の対角化を考え,ゼロ・ファクター・ APTを提示する。そして,このモデルの下で,

APTの命題が変換前のAPTの命題と同値であ

ることを示し,ファクター構造に依存しない無 裁定機会の定義可能性を考察する。  議論の順序として,まず,第H節では,APT の検証モデルについて簡単に振り返り,Roll& Rossタイプの検証仮説の再検討を通して, APTの真の検証仮説を確認する。なお,議論 をより単純化するため,まず,ファクター・モ デルに固有項が含まれないケースを扱ったのち, 固有項が含まれるケースを扱う。ファクター・ モデルのこのような設定に基づき,第皿節では, APTにおける無裁定機会の定義を整理すると ともに,Ingersoll[10]を手がかりに,第ll節 で導かれたAPTの命題について,線形式によ らない検証の可能性について探る。なお,本節 は,次節以降で提示する,資産の分散共分散行 列の対角化によるゼロ・ファクター・モデルに 対する準備的考察である。  以降の節では,資産の収益の分散共分散行列 を対角行列に変換することによって構築される, ゼロ・ファクター・モデルに言及する。まず, 第IV節では,固有ベクトル変換による対角化モ デルを提示し,変換モデルにおけるゼロ・ファ クター・APTの命題について,オリジナルな APTの命題との整合性について検討する。第 V節では,Shanken[15]の逆行列による対角 化モデルを取り上げ,その命題について考察す る。そして,第VI節では, APTの検証可能性 をめぐるShanken[15,16]とDybvig&Ross [7]の論争について整理すると共に,対角化ゼ ロ・ファクター・モデルの検証上の有効性につ いて考察する。 ]]IAPTの線形式と検証仮説

1.Roll&Rossタイプの検証仮説

 ファクター・モデルは,資産の収益をその期 待収益,ファクターに関わる収益,および,資 産に固有な収益の3つの部分から捉えようとす る線形モデルであり,通常,以下のように表さ れる。 r, =”,+ Z bivrk+ui     k=1 (2−1) ここで,rは資産の単位あたり収益,μは期待 収益,∫はファクター,∂はファクターに対す        のる反応係数,πは固有項を表す。資産の収益が 1)固有項とファクターについては,期待値  E(u,)=0,分散E(πξ)=σ2<・。,共分散  E(u,,u,) = O, (i li E(n) = O, E(i−2) = 1, E(i,万)=0,(i≠の,E(ガ,ut)=0と仮定する。

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ファクター・モデルに基づいて発生する仮定す れば,裁定機会が存在しないという条件の下で, APTは, xti一一一” rf十Aibii十12bz2十 ’・・ 十JLKbTk (2−2) のように近似式として表すことができる。ただ し,rfは無危険資産の収益,λはファクター・ リスク・プレミアムと呼ばれる係数である。  ファクターによるリスク評価が有効であるな らば,ファクターには,リスクの対価としてプ レミアムがついているはずである。そして,各 資産が稼得するプレミアムは,ファクターに対 するそれぞれの反応係数に依存する。APTの 線形式については,このような解釈が成り立つ。 そこで,Roll&Rossタイプの検証では,上式 を完全に成立するものとみなし,ファクター・ リスク・プレミアムの有意性検定に際して,訳 無仮説を Ai =Z2= e・・ =AK=O とする。 (2−3) 2。1ファクター・APT(固有項がないケース)  1ファクター・モデルに固有項が含まれない 単純化されたモデルの下でAPTを導出し, APTの検証仮説について確認する。  この場合,1ファクター・モデルは,(2−1) 式より, ri = pt,十bif (2−la)

と表される。まず,2資産ポートフォリオP

を形成する。資産iへの投資額をx,資産ブへ の投資額を1−x,つまり,総投資額(コスト) は1とすると,ポートフォリオPの収益は, rp = xri+(1−x) rJ  = [x(μ乞一μフ)十μフ]一ト[x(b,一bフ)十bフ]ノ       (2−5) となる。 次に,無リスク・ポートフォリオ,つまり, ポートフォリオの反応係数, x(b、一bフ)+bフ=0 であるポートフォリオを選択し,そのときの, 資産iへの投資額をx’で表すと,

  .・=g,. (2−6)

    bフーb, となる。コストが1である無リスク・ポートフォ リオの収益は,裁定機会が存在しない場合,無 危険資産の収益に等しいはずであるから,     bノ(μ,一μノ)       あμ一あμブ         十μフ=   rp ==        =rf        b/ 一 b,      bノーbt       (2−7) でなければならない。そこで,   g!, :一zzmrf .., .1gez,F 2z一一rf ,,, z    bz        bノ とおき,線形式として表すと, zt, =: rf十Ab, (2n8) を得る。  以上,明らかなように,b,≠b,となる2つ の資産が存在すれば,無リスク・ポートフォリ オを形成することができる。また,無リスク・ ポートフォリオの収益が,たとえば,rfのよう な正の値として一つだけ存在していれば,つま り,コストが1,リスクが0のポートフォリオ の収益が正の値ηであれば,裁定機会は存在 しない。このように,APTは,リスクの異な る2資産について,

  撃一竪   (2一・つ

であるという関係を表現しているに過ぎず, Roll&Rossタイプの検証式における帰無仮説, λ=0が棄却されなければならない必然性はな い。λ=0の場合,すべての危険資産の収益が, 無危険資産の収益rfに等しくなるという,あ まり意味のない世界になってしまうが,少なく

とも,λ=0であっても,APTの成立が妨げ

られることはない。

(4)

一158一 滋賀大学経済学部研究年報Vol.5 1998

3,Kファクター・APT(固有項がないケー

  ス)  マルチ・ファクターのケースでも,1ファク ターの場合と同様,互いにリスクの異なる資産 がファクター数よりも一つ多く存在するとき, 無裁定機会を定義することができる。本ケース では,(2−1)式のKファクター・モデルは,           ri一μ、+Σb,kfk     (2−lb)       k=1 と表されるので,1ファクターのケースと同様 コストが1に等しいK+1資産・無リスク・ポー トフォリオを形成する。このようなポートフォ リオにおいては,

L

= Z 0 二 わ 許Σ片肝Σ卜  0   =  碗 肝Σド  0  =   偲  ゆ 肝Σ律 (2−9) が成立している。無裁定機会を想定し,K+1 資産・無リスク・ポートフォリオの収益をη とおくと, んキユ ΣXz(Pt、一・rf)一〇 z=1 が成立するから,行列表記を用いると, (2−10)

陰:::繍⊥li1

       ラ クトルは一次従属であり,APTは, pa, = rf十Aibzi十Z2bt2十 … 十ZKbiK (2−8a) と表される。ここで,線形式の係数に関す る(2−3)式の仮説,λ1=λ2=…λκ;Oで あっても,APTは成立する。なぜならば,

λ1≠λ2≠…≠λK≠0であることは,一次

       の従属の必要条件ではないからである。  以上,固有項がない世界では,ファクター数 よりも一つ多くリスクの異なる資産が存在し, コスト1の無リスク・ポートフォリオの収益が 一つの正の値であれば,裁定機会は存在せず, APTが成立することがいえる。

4.Kファクター・APT(固有項があるケー

  ス)  次に,ファクター・モデルに固有項が含まれ る,より一般的なケースについて,APTを導 出するとともに,その検証仮説を確認する。ファ クター・モデルに固有項が含まれる場合,固有 項が含まれないケースとは異なり,ある資産と 代替的な有限資産ポートフォリオを形成するこ とができないため,有限資産経済下では,そも そも裁定機会を定義できない。以下に見るよう に,無限資産経済を想定することによって,は じめて,漸近的裁定機会が定義可能である。  行列表記を用いて,(2−1)式のKファクター・ モデルを

r=p+Bf+u

(2−lc) (2−11) と表される。この同時方程式が自明でない解を 持つためには,左辺の行列の位,rank<K+1 でなければならない。そのとき,K+1個のべ と表す。1とBが張る線形空間上へのμの射 2)上記行列の行に注目すると,固有項が含まれな  いケースにおいては,ある資産の反応係数は,有  限資産ポートフォリオによって複製可能であるこ  とが分かる。一般に,固有項が含まれないケース  においては,分散共分散行列が特異行列となるか  ら(脚注7参照),このような状況が成立する。 3) Ze(p−rfl)十Aibi十A2b2十 ’h 十ZKbK 一一 O  において,例えば,λo≠0であれば,一次従属  である。

(5)

影, tt = Z ol十B2 十E を考えると,εは1とBと直交するので,

00

==

1B

εε (2−12) (2−13) が成立している。そこで,αεを投資比率ベク トルとして,総投資額がゼロとなるポートフォ リオを形成する。 αε!r=αε1μ+αεノBf+αε’U   =αε!(λ♂+βλ+ε)+αεノπ     ノ        ノ   =αεε十αεπ (2−14) このポートフォリオは,ファクター・リスクが ゼロに等しい(以下では,便宜的に,ゼロ・ベー タと呼ぶ)ポートフォリオとなっているが,そ の収益の期待値と分散は, pp == cre/e Vp一α2σ2εノε (2−15) と求められる。  ここで,漸近的裁定機会を考える。無限資産 経済,つまり,ポートフォリオを構成する資産 数η→。Gのとき,ε!ε→。。であるならば,α       ラ を適当に選択することにより,リスクVp→O, 期待収益μρ→。。となる裁定機会が存在するこ    のとになる。したがって,裁定機会が存在しない という条件の下では,APTの命題は, εノε<OQ (2−16) となる。 APTの検証仮説について補足すると, E = tt+Aal−B2 であったから,無危険資産が存在する場合, APTの命題は, e’e == (Lt−rfl−BZ)2〈 oo (2−16ノ) と表される。すると,APTが成立する世界に おいては,多くの資産について,右辺括弧内の 値は十分に小さいと考えることができるので, 近似的に, 」et = rfl+BR (2−2ノ) と表現されてきたのである。しかし,この近似 式を完全線形式と見なしたとしても,APTの 命題から明らかなように,λ=0であるか否か に関らず,εノε<。。であれば,漸近的裁定機会      のは存在しない。それゆえ,Roll&Rossタイプ の検証仮説は,APTの命題を正確に反映した ものとはなっていないのである。検:証を目的と する場合,誤差項の二乗和が発散しないという APTの命題を線形式に盛り込むためには, pt == rf十B2十E と表現するのが適当であろう。 (2−17) ・)・一(・・E)一・,(去・P<1)・おく・ 5)裁定機会は,資産数n→。。のとき,コスト  →O,リスク→0,μ>0と定義される。そこで,        l    l 錠ポートフォリオにおいて・α=。・α=

i・

 などと適当に定めれば,V→0,μ→0となる無  裁定機会がうまく定義され,APTの命題を代替  的に表現することもできる。例えば,Ingerso11  [11]o 6)ファクター・モデルに固有項が含まれないケー  スについては,裁定ポートフォリオの収益は,     ノ        ノ    αεr=αεε  となるから,分散Vp=0である。したがって,  無裁定機会は,期待収益pap =:αε’ε≡O,つまり,  ε=0と定義される。その結果,APTは,完全  線形式として,    μ=λ01 十・Bλ  と表される。しかし,すでに見とおり,固有項が  含まれないケースにおいても,2≠0は,APT  の真の検証仮説とはなっていない。

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一 J60 一 滋賀大学経済学部研究年報Vol.5 1998

皿 ファクター構造と検証仮説

1.ファクター・モデルと分散共分散行列  前節の議論より,検証されるべき真の仮説は, εノε<。。であることが明らかとなった。資産数 の増加に伴うεノεの動きについて,さらなる考 察を加えるためには,資産収益の分散共分散行 列,特に,固有項の分散共分散行列の構造につ いて,理解を深めておくことが有効である。  そこで,まず,ファクター・モデルにおける 資産収益の分散共分散行列Vを示す。ただし, 固有項の分散共分散行列1)について,

十㌶]

スクに関して相対的な情報しかもたらさないこ とを意味している。  次に,刀について検討する。見通しをよく するために,あらかじめ,ポートフォリオの収 益の分散Vpを求める。投資比率ベクトルをX で表せば, Vp=X/VX (3−3) と計算されるが,裁定ポートフォリオのような ゼロ・ベータ・ポートフォリオについては, BB’に関する項が消えて, Vp J:X/Dx (3−3’)     となる。      いま,Dの対角成分が,ある正の値によっ (3−1)     ておさえられないような状況を想定する。つま     り, と仮定する。Kファクター・モデルを想定す る場合,   V=BBノート1)      (3−2)       ア が分散共分散行列である。  Vに関して,より重要な役割を担うのは1) であるが,先に,BB’について若干触れておく。 Zを任意のK次直交行列とし,ノ‡=Z’fによっ て因子の直交変換(回転)を考える。因子負荷

行列(反応係数行列)について,B=BZと

いう変換を定義すると, BT =一 Bf B’B’ノ=BBノ が成立するので,因子の直交変換は,分散共分 散行列Vの構造を不変に保つ。この特徴は, 「回転に関する不定性」として知られているが, ファクター,および,反応係数行列が先験的に 与えられる場合を除いて,反応係数行列は,リ 7)固有項が含まれないケースにおいては,  V=BB’となるが, rank(BB’)≦Kであるか  ら,Vは特異行列である。 o,2 fl{ d〈 c)o が成立しないような場合である。そのとき,あ る資産について,収益の分散は無限大であり, そのような資産を含むポートフォリオについて も同じ状況が生じるため,無裁定機会を定義す るに当たって不都合が生じてしまう。逆に,任 意の資産について, σノ=0 であるような状況を想定する。この場合,D は非負定符号行列となるので,x’Dx 2 O,つ まり,有限資産経済下での無裁定機会に等しい        ラ状況が生じ得る。  そこで,漸近的裁定機会を取り扱う世界では, 1)について,  O〈d f{ oi2 f{ d〈 oo (3−4) との仮定を置くことが有効である。このような 8)Dは対角行列であったから,x’Dx=0のとき, 固有項の分散がゼロである資産にのみ投資すること を意味する。ただし,前節の議論からも明らかなよ うに,無裁定機会を定義するためには,想定される ファクター数を上回る,このタイプの資産が必要と なる。

(7)

仮定の下では,対角行列Dは正定符号であり, 正則である。言い方を変えれば,Dについて 上記の仮定が置かれると,無裁定機会を定義す るためには,漸近的な世界を想定する必要が生 じるのである。 2.固有項の分散共分散行列1)と誤差項ε!ε  固有項の分散共分散行列Dが,上記のよう に規定された場合,漸近的にみて,誤差の二乗 和ε’εは,どのように捉えられるのであろうか。 ここでは,Ingersoll[10]を手がかりに,ε’ε の評価を通して,ゼロ・ファクター・APTに おける検証仮説を検討する。  まず,IngersollのAPT命題を簡単に紹介す る。正定符号行列にD対して,D=A’Aとな る正則行列Aが存在するので,A−1μをA一 i1 乙A−iBの張る線形空間に射影すると, ノ4−1μ=λoA−11十A−iB2十ン を得る。誤差εについては, ε=μ一λμ一B究=Aン (3−5) (3−6) である。また,vは, A−il,A−IBと,それぞ れ直交するので,(3−6)式より, ゾ14−11=εノA!rm iA−llニεノ1)一11=0       (3−7) ン!ン1−1B=εノノiノー王∠4皿1」B=ε!1)一1」B=0 が成立している。  そこで,α=D−1ε(εノDrmiε)一1を投資比率ベ クトルとし,(3−7)式を満たすゼロ・ベータ・ 裁定ポートフォリオを形成すると,ポートフォ リオの期待収益と収益の分散は, μρ=α知  = (e’D−ie)一ie’D rm ipt  =(ε’D−1ε)一1ε!1)一1(λ♂+B2+v)

 =1

Vp=(ε’D』1ε)一2εノ1)一1(BBノ十D)D『1ε  一(εノ1)一王ε)一王      (3−8) と求められる。すると,ε’D−1ε→。。であれば, Vp→0,μp=1となる裁定機会が生じる。した がって,τを正値として,APTの命題は, εノD−1ε≦τ<。。 (3−9) と表される。  次に,APTの命題について,前述の(2−16) 式と(3−9)式を比較する。一般に,εノεと εノ1)一1εについては,   IID『II「1ε’1)一1ε≦εノε≦ε’D−iε11DII        (3−10)       なる関係が成立する。Dは対角行列であった から,その対角成分は固有値である。また,

(3−4)式のDに関する仮定により,

0<「ID−it−1, D[[<・。が成立する。それゆえ, ε’ε〈Q。とεノD−1ε<。。は,同値であることが いえる。 3.ゼロ・ファクター・APTにおける検証仮説  さらに,ε’D−1εについて分析するために, 分散共分散行列Vの逆行列を求める。 V−i = (BB’十D)一i   =1)一1−D−iBAB/1) 1 (3−ll) ただし,K次行列, A;(1+B’D−iB)一1であ る。いま,εo=μ一価とおく。ε=μ一η1 −B2であったから,εo=ε+B2である。  平均一標準偏差平面におけるシャープの尺度 (Sharpe measure)の二乗は,   θ2≡(μ一rfZ)ノV−1(μ一rfl)     (3−12) と表されるので,(3−11)式とε。で置き換えて 整理すると, 9)正定符号行列Aについて,   x’xllA−ill−i f{: x’Ax E{g x’xllA11  が成立する。なお,11AHはAの最大固有値であ  る。

(8)

一162一 滋賀大学経済学部研究年報Vol.5 1998 (E+BR)’(D−i−D−iBAB’D−i)(E+B2)     =εノ1)一1ε一e2λノB■1)一1ε十;己■B/1)一iB2     一(s+B2)’D−iBAB’D−i(e+B2)        (3−13) となる。(3−13)式の右辺第2項については,b とεの直交性により,ゼロと見なすことができ る。第3項については,b,、<∞であるという 一般的な仮定の下では, z’B’D−iB2 g 2’B’BZHD一’ll 〈 oo が成立する。以下,第4項についても,同様に 議論を進めることができるので,結局,第1項, ε’D−iε<。。であるならば,θ2<。。であるこ     ユの とがいえる。  εノε〈o。,εノDmiε<○。,そして,θ2<・。の 同値性に着目すると,APTの検証という観点 からは,ゼロ・ファクター・モデルは,扱い易 モデルであることが予想される。そこで,次節 以降,二つの変換モデルによってゼロ・ファク ター・APTを形成し,その検証可能性につい て考察する。

】V 固有ベクトル変換による対角化モデ

  ル 1.分散共分散行列の固有値と固有ベクトル  以下では,議論の単純化のため,1ファクター・ モデルを想定し,すべての資産について,固有 項の分散E(u?)一σ2,(σ2は定数)と仮定す る。ファクター・モデル(2−1)式を上記の仮定 にあわせて, r = p + bf+ u と表すと,分散共分散行列は, (2−ld) 10)実は,ε’D−1εは,ゼロ・ファクター・モデル  におけるシャープの尺度の二乗となっている。な  お,シャープの尺度と資産評価理論の検証を巡る  議論は,堀本[4]に詳しい。 .= @,,,..,, .. [bll,12 … ... ,ilbL,]       (4−1) と計算される。  まず,対称行列Vの固有値と固有ベクトル を示す。91を第1固有値,t1を91に対応する 固有ベクトルとすると, ti=m

狽堰js=b (4−2)

gi ==: b’b+a2 o , る02

あ=

で&

(4−3)

また,他の固有値については,

(i=2,…,n)となっている。 2.変換モデルにおけるゼロ・ファクターAPT  上で求めた分散共分散行列の固有ベクトルを 要素とする行列Tに対して,以下に示す対角 行列Cを作成する。

C一

1/b o b’

t2/ tnノ 1 2 彦 1 Tt= o 1 ‘ ノ ー (4−4) ただし,ti’ti=1,’、1ち=0,’/b=0,1 ’b≠0, 1’tt≠0と仮定する。この二つの行列の積につ いては, (CTノ)1=1 が成立しているから,CTtの各行を投資比率べ

(9)

クトルとみなせば,コストが1である1>個の ポートフォリオを形成することができる。  原資産の収益rに対して,   ri= (アT/r      (4−5) によって,N個のポートフォリオの収益r’に 変換する。r’の期待収益μ*と分散共分散行列 V’を求めると,   μ‡= CT/E      (4−6) V’ 一 CTtVTCi G窮)2(  a21十かわ) 0 0

 o ・一 o

 a2 (1 tt,)2    e.. O      o2 一一 o     (1 ’tn)2       (4−7) となるので,固有ベクトル変換による対角化モ デルにおいては,N個の変換されたポートフォ リオの分散共分散行列y’が対角行列となるよ うな,ゼロ・ファクター・モデルを形成するこ     ユの とができる。  ところで,γ*は対角行列であったから,そ

の対角成分は固有値である。それゆえ,

うノゐ   →。Qとなる場合, V*の第一固有値は発1!b         わ!わ     ラ 散する。そこで,       <。。と仮定すると,変         1 ’b 換モデルにおけるゼロ・ファクター・APTと して,   μ‡=rfl÷ε’      (4−8) を得る。 11)ポートフォリオの反応係数ベクトルb‘は,  b”= (cTib)i= [一i91(ll−bb o ・・. o]  となっているので,厳密には,すべてのポートフオ  リオについて反応係数がゼロであるというわけで  はない。 12)Chamberlain&Ro七hschild[6]流にいえば,  ファクターが存在するケースに相当する。 3.変換モデルにおけるAPTの検証命題  原資産ベースで定義された,誤差項の二乗和 に関するAPTの命題が,変換モデルにおける ゼロ・ファクター・APTについても当てはまる ことを示す。つまり,   E*S 〈 oo 一 e”E’〈 oo   E’E−oo 一一一 E’tE“一〇〇 が成立することを示す。  原資産ベースのAPTは,(2−17)式より,  pt == rfl+Zb+e と表されたから,左からCT’を掛けてMを求 めると,

 μ㌧c7知

   =rfl十λCT!b十 CTノε を得る。そこで,変換モデルにおけるゼロ・ファ クター・APT,(4−8)式との差分をとると,   ε*=λ07ノわ十C1▼!ε したがって,   ε*「ε‡=A2bt71(」2Ttb一ト2λbtTC2Tノε      十εノTC 27▼ノε       (4−9) となる。ここで,TC 2Tノについては, TC・T…. ibb’

P’b)、+(洛+…+(舞

      (4−10) と計算されるが,t、!t、=1, t、’t、=0, t,’b=0, b/b   <。。と仮定されていたから,(4−10)式を 1/b 適用すると,(4−9)式の右辺第1項については,          (b/b)2   Z2btTC2Ttb == A2        〈 co (4−11)          (1/b)2 第2項については,bとεの直交性により,       (わ’b)2(わノε)   2Zb’TC2T’e = 21       .o       (1 ’b)2(ゐ’わ)       (4−12) が成り立つ。

(10)

一164一  第3項については, e’TC・T’s−

Pク;z(9;ii+8讐+…+8鮮

      (4−13) と表しておく。ところで,π個の固有ベクトル は,η次元の正規直交基底の一つである。そこ で,π次元ベクトルεを固有ベクトルちの一次 結合で表現すると,   ・一Σ・,’フ     」=1 ただし,α、=(ε,ち)である。(4−13)式に代入 すると,第3項は,

  野外㍉魯(、傷

と表される。η→。。のとき,εノε<。。であれ ば,          ε!ε一Σα多く。。     ノ=1 となるので,ε’TC 2T’ε<。。が成立する。逆に, ε’ε→。。のときには,εノTC 2Tノε→。。となる。

   V Shankenの対角化モデル

1.変換モデルと分散共分散行列V’  Shanken[15]の対角化モデルがどのような ものであったのか確認し,固有値ベクトルによ る対角化モデルと対比する。なお,分散共分散 行列については,固有値ベクトルによる対角化 モデルと同様に, 滋賀大学経済学部研究年報Vo1.5 1998       ヨラ          と表される。ここで,   v=bb’+σ21 とする。Vは正定符号行列であり, V−iが存在すると仮定すると, なる正則行列Qが存在し,         u−2bb’o−2   V−i = o’21−         1+σ 2b/b         σ一2bbノ     =σ ケー         02十b’b     一 t, [i一 sf, Z2i7Ebt,, ] 一 QtQ  (4−1) 逆行列 V−i=Q’Qと (5−1)

  Q一⊥(1−hbb・)   (5.2)

    σ   k=h1/b       (5−3) とおくと,   Q1_.L{1_h(1・’b)b}=■(1_kb)      σ      σ       (5−4)   ユの を得る。すると,このようなQに対して,      σ         0     1−kb,          σ  σ=      1一んb2       (5−5)      0         σ       1一んbn を形成することにより,UQ1=1,つまり, UQの行ベクトルを投資比率ベクトルとする, 13)正則行列Aと二つのベクトルu,vについて,       (A一’の(V/A一’)  (A十衡ヅ)一1=A−i−        1十ンノA−lu  が成立する。Rao[12],邦訳31ページ。 14) hについては,  Qη一歩(・一hbbt)・(・一hbb’)    r}[・一2hbb’+h・b(b・b)b・コ     σ    一÷[1一(2h一わノbh2)瑚     σ  であるから,         1  2h_b’bh2=        σ2十b’b  と表される。この2次方程式を解けば,     1       σ2  ん=      キ    b’b一 (σ2+bノの(b’b)2

  一[1±論、]、lb

 を得る。また,ん=履ノδとおけば, k・・=

m1±論、]1;1

 となる。

(11)

変換されたポートフォリオモデルを形成するこ とができる。  それでは,UQによって変換される,ポート フォリオモデルの分散共分散行列V*は,どの ように表されるのであろうか。   V* :一 UQ V(UQ)’    =UQ VQtuノ    = U2 と計算されるから, V’ 一= 02 (1−kb,)2 a2 (1−kb,)2 o o 02 (1−kbn)2        (5−6) と表され,変換モデルにおけるポートフォリオ の分散共分散行列は,対角行列となる。 2.変換モデルにおけるAPTの検証命題  固有ベクトルによる対角化モデルの場合と同 様に,   ε〆ε< OQ  一一一→レ  ε秤ε*< OO   ノ       ホノ ギ   εε→DO  一一㎜ィP

@εε→OQ

が成立することを示す。原資産ベースのAPT, (2−17)式,  μ=η1+λわ+ε に,左からをUQ掛けて期待収益を変換する と,   μ’=σQμ=η1+λUQb+UQε となる。一方,変換モデルにおけるゼロ・ファ クター・APTは,(4−8)式と同様に,   グ=雇+ご と表される。ただし,逆行列による変換モデル において,ゼロ・ファクター・APTを定義する ことができるように,ji Ull<。。,11y『¶<・。 を仮定する。両式の差分をとると,   s’ == RUQb十 UQE したがって,   ε’tε‡= λ2btQ!U2Qb十22b/Q/U2Qε      +ε’Q/u2Qε     = Z2b’Q’V*Qb+2b’Q’V*QE      十ε!(}ノV*Qε       (5−7) となる。(5−7)式の右辺各項について見ると,  第1項:λ2b’Q/V’Qb≦λ2b/QQゐliy剛く。。  第2項:2λb1Q/y窺ε→0  第3項:ε’Q’V『*Qε≦:ε勾Qε[iy‡1 が成立するので,第3項について,εノε<・。で あれば,εノQ’y囎ε<・。,ε’ε→。cであれば, εノp’YxQε→。。となる。つまり,変換モデルに おけるゼロ・ファクター・APTについても,誤 差項の二乗和によって,APTの命題を表現す ることができる。

W 対角化モデルを巡る議論

1。ShankenとDybvig&Rossの論争

 鋼V節,第V節を通じて,二つのゼロ・ファ

クターeAPTを紹介してきた。手順は異なる

が,これらのモデルは,資産の収益の分散共分 散行列を対角化することによって,ファクター 構造を変換するモデルであった。ファクター構 造に関しては,これまで様々な議論が展開され てきたが,以下では,Shankenのモデルを巡る 論争について整理することを通して,対角化ゼ ロ・ファクター・モデルと矛盾するケースにつ いて整理する。逆にいえば,このような矛盾す るケースを分析,把握することによって,対角 化ゼロ・ファクター・モデルが有効となるよう な条件を求めることができるであろう。

(12)

一 166 一 滋賀大学経済学部研究年報Vol.5 1998  本稿で取り上げた対角化モデルについて,要 約しておく。

 ・資産の収益の分散共分散行列V=BB’

  +Dは,ゼロ・ファクター・モデルの場合,   V=D,つまり,対角行列である。  ・V=BBノ+Dに対して, Vを対角化する   変換行列Pが存在し,変換された分散共   分散行列V’=PVP’で求められる。  ・y*は対角行列であるから,ゼロ・ファク   ター・モデルのファクター構造を持つ。し   たがって,変換された対角化モデルの下で,   ゼロ・ファクター・APT,グ=ηfl +E’を        ユの   導出することができる。  このような対角化モデルに対して,Dybvig &Ross[7]は,以下のように反駁する。対角 化モデルにおける分散共分散行列 Iz*=PVPノ (6−1) については,コーシー・シュワルツの不等式に より, N Vii 〈 llP−il12 11 V*II が成り立つ。したがって,11 Vl l→。。のとき, 少なくとも, (i) 11 V’ll .F oo (ii) 11p−lll . oo のいずれかのケースが成立している。  まず,1[y剛→∞のケースについて考える。 この場合,対角化モデルにおける分散共分散行 列Wの最大固有値が発散することになるので, Chamberlain&Rothschild流にいえば,ファ クターが存在することになる。つまり,対角化 モデルが,ゼロ・ファクター・モデルの構造を 備えていないという矛盾が生じるケースである。  一方,」IP 111→。。のケースについては,対 角化モデルの再変換, p = rfP−il 十Pris’ (6−2) の矛盾を指摘する。対角化モデルにおける APTの命題,ピノE’<。Gが成立しているとして も,   εノε一(P−1εつ’(P−1ε*)→。C となり,再変換によるゼロ・ファクター・APT は成立しない。また,再変換によるゼロ・ファ クター・APTの誤差項の二乗和はおさえられ ないので,原資産ベースのオリジナルなモデル において,ファクターが説明力を有している可 能性を示唆するケースである。 2.対角化モデルの形成可能性

 最後に,Dybvig&Rossが提示した代替的

な二つのケースのうち,目y寧llに関するケース について検討する。本稿で取り上げた二つの対 角化モデルの分散共分散行列は,すでに求めら れているので,実際に行列と照らし合わせれば, 」iWHに関する具体的な分析を行うことができ      るであろう。  ここで,分散共分散行列Wを再掲する。 ・固有ベクトルによる対角化モデル 15)Shankenは, Pの逆行列を用いて,対角化ゼ  ロ・ファクター・APTを再変換し,還元されたゼ  ロ・ファクター・APT,

 P−ip’=rfP−il+Prie’ (6−2)

 :. pt = rfl十s  を導出する。このような変換,再変換が可能であ  るかぎり,オリジナルなファクター構造と再変換  後のファクター構造が一致している保証はない,  というのがShankenの主張である。 16)実は,第IV節,第V節においては, Dybvig&  Rossのケース(i)に該当する可能性が,あら  かじめ排除され,た。本文でも指摘したとおり,こ  れに該当する場合,対角化ゼロ・ファクター・モ  デルを形成することができないからである。なお,  この点に関して,さらなる検討を加え,対角化ゼ  ロ・ファクター・モデルの有効性を探ることが,  本小節の目的である。

(13)

V*一 (一i71(g−b,)2(i+一il;,ii−Z) o … o o a2 o (1 tt,)2

     o

     o2 ・一 o     (1/tn)2 ・逆行列による対角化モデル(Shanken) V’= 02 (1一肋1)2 02 (1−kb,)2 o 02 (4−7) o なお,Shankenモデルにおいて, ・一

m1±4(論b)協

(1−kbn)2 (5−6) であった。  二つのV’は,いずれも対角行列であるから, 対角成分は固有値となっている。そこで,対角       bib       に注目して, 成分に含まれるスカラー値       1tb lV’IIに関するケースを再分類する。   btb

o

    〈QOのケース   1 ib 固有ベクトル・モデル 】1 V’1[<・。   Shankenモデル   b/b Cl)     →D。のケース   1 ib   固有ベクトル・モデル Shankenモデル N Wlj 一 oo 1[ v’1ト→。。 IIWII 〈 oo  この分類からも分かるように,対角化ゼロ・ ファクター・モデルを構築できる,万能な変換 Pが存在するというわけではない。しかし,そ れぞれのケースについて,ll Wll<・。となる ような変換は存在している。行列を対角化する 手法は,いく種類も存在するので,状況に応じ て,II V’n〈・Gとなるような変換を選択すれ ば,対角化ゼロ・ファクター・モデルを構築で きることが期待される。  また,11 V’[[<。。となるような変換が存在 すれば,Hp−i[1→。・であるようなケースを考 慮する必要はない。これは,対角化ゼロ・ファ クター・モデルの効用である。対角化ゼロ・ファ クター・モデルを構築することが可能であるな らば,少なくとも,実証的観点から見れば,原 資産ベースのオリジナルなファクター・モデル における,ファクター構造の特定を巡る問題を 捨象することができる。 皿 おわりに  ファクター構造を特定し,ファクターの価格 (リターン)を評価するという,従来一般的で あったAPTの実証研究に対する批判的考察を 手がかりに,代替的なAPTの検証仮説につい て検討してきた。その過程を通して,APTの 検証仮説としては,基本的に,価格式の誤差項 の二乗和の有界性(ε!ε<Q。)以外に表現し得 ないことが明らかとなった。  対角化ゼロ・ファクター・APTは,オリジ ナルなAPTの真の検証仮説を反映したモデル であるだけではなく,実証的側面から見ても, 扱い易いモデルである。なぜならば,ゼロ・ファ クター・APTにおける誤差項の二乗和は,潜 在的なファクター構造とは独立に計測し得るか らであり,また,シャープの尺度という代替的 な指標も存在するからである。  我々が現実に手にすることのできる情報は, 分散共分散行列に関する情報である。本稿の分 析は,分散共分散行列を分解することによって, ファクターと固有項に関する情報を抽出するこ とを目的とする,因子分析に基づく統計的手法 を否定するものではない。本稿は,ポートフォ リオ・セオリーに代表される,資産価格評価の

(14)

一168一 滋賀大学経済学部研究年報Vol.5 1998 領域で蓄積されてきた,ポートフォリオの収益 と分散,具体的には,分散共分散行列に関する 「ファクト」をAPTのベースとなるファクター・ モデルに融合しようとする一つの試論である。 参考文献 [1]飯野正幸,「APTの理論的発展」,大阪大学経  済学,VoL39, No.1−2,1989,59−69ページ [2]飯野正幸,「資産評価理論の検証についての一  考察」,富大経済論集,第46巻,第5号,1993,  111−126ページ [3]飯野正幸,「APTにおける因子構造の検討」,  神戸学院経済学論集,第25巻,第1・2号,1993,  31−39ページ [4]堀本三郎,「タンジェンシー・ポートフォリオ  の振舞い,一「Rollの批判」を克服できるか一」,  彦根論叢,第311号,1998,117−134ページ [5] Chamberlin,G., “Funds, Factors, and  Diversification in Arbitrage Pricing  Thoery”, Econornetrica, Vol.51 No.5, 1983,  ppユ305−1323 [6] Chamberlin,G. & Rothschild,R., “Arbi−  trage, Factor Structure, and Mean−  Variance Analysis on Large Asset Mar−  kets”, Econometrica, Vol.51 No.5, 1983,  pp.1281−1304 [7] Dybvig,P.H. & Ross,S.A., “Yes, the  APT is Testable”, Journal of Finance,  Vol.40, No.4, 1985, pp.1173−1188 [81 Gilles, C. & LeRoy, F. “On the Arbitrage  Pricing Theory” , Economic Theory 1, 1991,  pp,213−229 [9] Huberman, G., “A Simple Approach to   Arbitrage Pricing Theory”, Journal of   Eeonomic Theory, Vol,28, 1982, pp.183−191 [10] lngersoll, Jr., Jonathan E., “Some Re−   sults in the Theory of Arbitrage Pricing” ,   Journα1(ゾFinαnce, Vo1.39 No.4,1984,   pp.1021−1039 [11] lngersoll, Jr., Jonathan E., Theory of   Financial Decision Maleing, Rowman &   Littlefield Publishers, lnc., 1987, [12] Rao, C. R., Linear Statistical Jnference   and lts Application, 2nd edition. New   York:John Wiley and Sons, Inc.,1973,奥   野忠一他訳,『統計的推測とその応用』,1977,   東京図書株式会社 [13] Reisman, H., “Reference Variables,   Factor Structure, and the Approximate   Multibeta Representation”, Joumal of   Finαnce, Vol.47 No.4,1992, ppユ303−1314 [14] Roll,R. & Ross,S.A., “An Empirieal   Investigation of the Arbitrage Pricing   Theory”, Journal of Finance, Vol.35 No.5,   1980, pp.1073−llO3 [15] Shanken,J., “The Arbitrage Pricing   Theory: ls it Testable?”, cJournal of Fi−   nance, Vol.37, No.5, 1982, pp.1129−1140 [16] Shanken,J., “Multi−Beta CAPM or   Equilibrium−APT?: Reply”, Journal of   Finanee, Vol.40, No.4, 1985, pp.1189−1196 [17] Shanken,」., “Current Status on the Arbi−   trage Pricing Theory” , JournaZ ofFinance,   Vol.47, No.4, 1992, pp.1569−1574

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