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No.10

滋賀大学保健管理センター〔 2005 . 12 〕

インフルエンザについて

鳥インフルエンザが大きなニュースになって います。人類はこれまで多くの感染症を克服し てきましたが、インフルエンザについてはいま だ効果的な予防・治療法が確立していません。 その理由は、インフルエンザの抗原性が急激に 変化する上に、新型インフルエンザが出現する ためです。 水禽特にカモがその自然宿主であり、カモか らは全てのHAおよびNA*1の亜型が検出さ れます。また、北大獣医学部喜田教授らのシベ リア、カナダ、アラスカにおける調査で、ヒト やトリなどのA型インフルエンザウイルスは全 てカモに由来することが明らかにされています。 カモは夏に北方でインフルエンザウイルスに水 系感染し、ウイルスを糞便と共に排泄します。 秋になるとカモは南方に渡って越冬しますが、 その際、種々の感受性の高いトリ類に感染し、 さらにニワトリに感染します。そのため、当面 このウイルスを根絶することはできません。家 禽の感染を早期に発見して被害を最小限に食い 止めることが、ヒトの健康と食を守るための対 策の基本となります。 日本では、高病原性鳥インフルエンザは、1924 年に千葉県で発生して以来、2003 年まで発生は ありませんでした。ところがアジアで鳥インフ ルエンザが拡がるに伴って、2004 年 1 月から、 山口県、大分県、京都府でH5N1 ウイルスの感 染による高病原性鳥インフルエンザが集団発生 しました。国と各自治体の適切な対応により、 同年4 月には終息しましたが、この一連の集団 発生は、感染症に国境がないこと、日本の家禽 にも本症発症のリスクがあること、家禽のモニ タリングを通年的に実施し、ウイルスの侵入を いち早く検出する必要性を示しています。アジ アでは現在も高病原性鳥インフルエンザによる 家禽の被害が断続的に発生しており、これが日 本に飛び火する可能性は通年的に存在すると考 えられます。(本年 6 月には茨城県でH5N2 型 トリインフルエンザが集団発生しています。) 過去数十年間ヒトが経験していない亜型のA 型インフルエンザが、ヒトからヒトへ伝播する 性質を獲得すると、人々にはその亜型に対する 免疫がないため、インフルエンザの大流行がお こります。これを新型インフルエンザと呼び、 20 世紀中に 3 回の大流行があり多くの人命が失 われ、社会の機能が麻痺しました。スペインか ぜでは、世界中で少なくとも 2000 万人(一説に は 5000 万人以上)が死亡したとされています。 また、アジアかぜと香港かぜでは、その発生原 因として、低病原性のニワトリのウイルスとヒ トインフルエンザウイルスとがおそらくブタに 共感染し、遺伝子交換と再集合により生じた新 型ウイルスによって惹き起こされたと考えられ

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ています。 高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の、鳥 からヒトへの感染事例が断続的に報告されてお り、2003 年 12 月から 2005 年 11 月までに、5 カ国から、確定症例数132 名、死亡者数 68 名 となっています。また、2003 年 2 月オランダで H7N7 が流行し、ヒト 89 人で感染が確認され、 78 人が結膜炎を、2 人がインフルエンザ様症状 を、5 人がその両方の症状を示し、獣医師 1 名 が死亡しました(その後の調査で、ヒト 1000 人以上に感染が拡大しており、鳥に直接接触し ない家族にも感染していたことが、最近報告さ れ、この型のインフルエンザはヒトからヒトへ の感染がおこる可能性が推測されています)。東 南アジアのH5N1 の事例では、発熱・咳などヒ トインフルエンザと同様の症状から、多臓器不 全に至る重症例までがみられ、主な死因は肺炎 でした。但し、報告された症例は、おそらく H5N1 の感染が確認されたごく一部の重症例で あり、上記の地域で多数のヒトを対象に実施さ れたH5N1 感染に関する調査の結果が待たれま す。 これまで、東南アジアでは生鳥マーケットな ど、オランダでは病鳥の防疫業務に携わった人 など、日常的あるいは濃密に感染鳥と接触する 人の一部が感染・発病したと考えられています。 このように現在までのところ、高病原性鳥イン フルエンザのヒトからヒトへの感染は非常に限 定的です。しかしながら、ブタなどの体内で、 ヒトとトリのインフルエンザが DNA の再集合 を起こす可能性があること、タイで、トラや猫 でH5N1 の感染が確認され、突然変異を起こし つつある可能性が指摘されていることなど、高 病原性鳥インフルエンザから、ヒトに対する高 い病原性と、ヒトからヒトへ感染する能力とを 持つウイルスが出現する可能性は常に存在して いると考える必要があります*2 大流行が起こった際の健康被害、社会的混乱、 経済的被害の甚大さを考えて、早急な対応が望 まれており、政府もタミフルの備蓄を指示して います。ニワトリにおけるインフルエンザウイ ルス亜型の監視などと共に、SARS の教訓を生 かして、鳥インフルエンザのための医療現場の 着実なインフラ整備が継続的に行われることが 重要と考えられます。また、医療を受ける側も SARS の教訓を生かし、医療機関を受診する際 に、前もって連絡を取り、特定の場所で診療を 受けるなどの必要があると思われます。 現在医療機関では、ヒトからヒトに感染する 型のインフルエンザに対してワクチン接種が行 われています。健康被害を少なくするために、 比較的副反応が少ないとされているヒトインフ ルエンザワクチンの接種が奨められます。 *1 A型インフルエンザには亜型があります。ウイルス 表面の赤血球凝集素(HAまたはH)1-16 とノイラミ ニダーゼという酵素(NAまたはN)1-9 の組み合わせ で決められ、H1N1、H5N1 などと呼ばれます。 *2 インフルエンザ・ウイルスは、内部に8 本の遺伝子 を持っています。ブタなどの体内で、ヒト・トリ両方の インフルエンザが同一の細胞に感染して、遺伝子の交 換・再集合を起こしたり、トリに感染を繰り返すうちに、 突然変異を起こして、新型インフルエンザウイルスの出 現に繋がると考えられています。

参照

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