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養護教諭の経験をとおして培った信念の一考察
人間教育専攻 臨床心理養成コース 服部恭子 1 研究の背景と目的 現在はどの学校においても、養護教諭が配置 された保健室がある時代になった。筆者が養護 教諭として養護教諭未配置校に着任した37年 前には、まだ養護教諭の未配置校もあり、保健 室は階段下の倉庫を改良して作られるなど設 備が十分でないところもあった。養護教諭はそ の手腕を個人に間われるところが大きいため に、子どもの身体やこころの実態を中心におき ながら、養護教諭同士が知恵を出し合い、組織 的に動き、他機関にも働きかけながら、その都 度子どもたちの健康教育を推進してきた。時代 が進むとともに、不定愁訴という身体症状で保 健室を訪れる子どもたちが増え、一見ではわか らない「こころ」と向き合うことが養護教諭た ちに求められてきた。養護教諭たちは各々独自 の信念を持ちながら、常に子どもの「こころ」 と「からだ」に向き合いともに歩もうと心がけ てきた。 このように歩んできた養護教諭たちも、近年、 停年退職等で職場から年々去っている。退職し た養護教諭たちが長い間の経験をとおして培 ってきた信念というものは、現役養護教諭やこ れからの養護教諭になる者たちの活動や対応 の一助となるべき貴重な財産であると考える。 しかし、退職した養護教諭の信念について研 究した文献は見当たらない。よって、今回「養 護教諭の経験をとおして培った信念」について の考察を行うことにより、筆者が臨床心理士と して、養護教諭にどのような援助ができるかと 指 導 教 員 粟 飯 原 良 造 検討してみる。 2 対象と方法 (1)調査対象:2012年 4月時点において、すで に退職している 13人の養護教諭。 (2)調査時期:2012年 5月から 8月の開。 (3)調査方法:①方法は個別面接法、質問紙法、 電話。主に約 120分程度の個別面接インタビ ュー。②逐語や質問紙の回答は質問項目ごと にエピソードを拾いだし、切片化(データ化) した。③類似した意味内容の要素(ラベル) を探し,その背景要素[キーワード]を明記し、 それらを適確に表すためにサブカテゴリー カテゴリーに置き換えた。 (4)調査の質問内容 ①過去にかかわった児童生徒で、退職後も気に なっている、印象に残っている児童生徒はい ますか②その児童生徒に出会ったら、どんな ことを聞いてみたいですか@保護者とのか かわりで心に残っていることがありますか ④退職後、振り返ると学校の養護教諭として の位置づけをどう思いますか⑤養護教諭と して大事にしてきたことは何ですか。 3 結果と考察 インタビュー調査ならびに質問紙調査の回答 結果は、質問内容ごとに分類して考察した。 (1)養護教諭が過去にかかわった児童生徒で退 職後も気になっている、印象に残っている児 童生徒は、エピソードの分類結果のカテゴリ ーをラベルとキーワードから見立てると、こ ころに見立てられるものが『受容共感j~心身- 162 - 症Jl~人間関係Jl ~保健室Jl ~連携』と 5 つあ り、残り 4つ『学校生活Jl~事故Jl ~障がし、』 『生徒指導』はいのちにかかわる見立てが出 来ることから、 「こころ」の問題を抱えた子 どもたちと「し、のち」と向き合った子どもた ちであると考えられる。 (2)養護教諭がその児童生徒に出会ったら、どん なことを聞いてみたいかは、インタビューの中 では気になる子どもたちのことが沢山話され たにもかかわらず、出会って聞いてみたい具体 的な内容がある養護教諭は4人しかいなかった。 気になる子どもについては歳月が過ぎても鮮 明に養護教諭の記憶に残しているが、再会時に は当時のことは聞かず、これからを生きる気に なる子どもを見守りたい意向が強いと考えら れる。このことは過去の支援者として職務を一 生懸命行い昇華した姿でもあると考える。 (3)養護教諭が親とのかかわりでこころに残って いることは、親の希望にも聴く耳をもち強引な ことはせずに上手く信頼関係を築いたことと、 親が子どもを思うことで親自身が変わってい く姿を親から学んだことであると考える。 (4)養護教諭としての位置づけをどう思うかは、 教職員との連携を図り、良好な信頼関係を築き、 自己研績を行い、養護教諭の位置づけを確立す るために努力していたことが推し量られる。 (5)養護教諭として大事にしてきたことは、子ど もの中にある力を信じること、子どもの「ここ ろ」に寄り添いながら共感すること、聴く耳を もつこと、分け隔でなく笑顔で接すること、急 がず待ちの姿勢をとること、仲間や保護者との 良好な信頼関係やつながりをもつことで、あっ たと考える。養護教諭には l人で判断して決断 を迫られる救急対応や保健・生徒指導など子ど もの「し1のち」や「こころ」をどう理解するか という迫られた職務内容があるために、実践力 をつけることも大事にしてきたと考える。さら には子どもの山、のち」は誰にも譲れない、か けがいのないものであるという堅い信念をも ち、子どもの「し、のち」を大事にしていたと推 し量られる。 4 結語 (1)考察のまとめ 調査結果から養護教諭の信念というものは、 「子どものこころ」と「子どものいのち」を信 念の根底に据え、 『子どもの中にある力を信じ るJl~子どもが自分の力に気づくのを待つJl ~こ ころに寄り添いながら共感するJl ~分け隔でな くすべての子どもを自然に受容するJl ~支援の 立場に立つ』が信念を形成する大きな要素とな り、 『実践Jl ~研修Jl ~経験Jl ~信頼関係』な どが信念をさらに強いものにしていると考え る。養護教諭の仕事は子どもを健康に育てるこ とである。養護教諭は子どもがはっきりと心の こととして捉えられず身体のことを訴えて来 ても、表面はあくまでも身体のこととして受け 止めながら、温かく接することによって、子ど もは心のなかに生じている不安をだんだんと 解消してし、く。下手に生徒の心のなかのことに 介入するのではなく、子どもの心が自然に育つ のを待つことが一番大切である。心の問題の難 しいところは個々の場合によって適切な判断 を必要とすることである。ここまでは養護教諭 の仕事で、ここからはスクールカウンセラーの 仕事などと、明確な線引きは出来ない。