1
原
著
〔東女医大誌 第64巻 第3号頁183∼191平成6年3月〕培養血管内皮細胞存在下での
cyclooxygenase阻害薬とthromboxane A2合成酵素阻害薬の
血小板凝集能に及ぼす影響
東京女子医科大学 脳神経センター神経内科学(主任 丸山勝一教授)
ワ ダ チ ヅ 和 田 千 鶴 (受付 平成5年10,月26日目Effect of Cyclooxygenase and Thromboxane A2 Synthetase Inhibitors On
Platelet Aggregation in the Presence ofHuman
Umbilical Vein Endothelial Ce皿s Chizu WADA Department of Neurology(Director:Prof. Shoichi MARUYAMA>, Neurological Institute, Tokyo Women’s Medical College The present study investigated the effects of cyclooxygenase inhibitors(aspirin and 4−indobufen) and a throhlboxane A2 synthetase inhibitor(ozagrel)on platelet aggregation in the presence or absence .of human umbilical vein endothelial cells(HUVECs). HUVECs(104−105)were placed into cuvettes and slope−cultured for several days at 37。C in a 5% CO2 incubator. ADP−induced platelet aggregation was.measured after platelet−rich plasma(PRP) and/or HUVECs were pretreated with 10−7−10−4 M aspirin,4・indobufen, or ozagrel alone, or with both aspirin and ozagrel for 30 min. Platelet aggregation was inhibited by HUVECs.in a density−dependent manner。 In the absence of HUVECs, platelet aggregation was inhibited by aspirin or 4−indobufen but not ozagrel in dose・ dependent manner. The combination of aspirin and ozagrel enhanced the inhibition of platelet aggregation in the absence of HUVECs when compared with either drug alone. Inhibition of platelet aggregation was decreased in a dose・dependent manner by pretreatm.ent of HUVECs with aspirin or 4・indobufen but not ozagrel. Platelet aggregation was inhibited in the presence of 10−6 M aspirin and HUVECs pretreated with the same dose of aspirin, while it was enhanced in the presence of 10−7 M 4−indobufen and HUVECs pretreated with this dose. On the other hand, pretreatment of PRP and HUVECs with ozagrel did not have any effect on platelet aggregation. These results suggest that the measurement of platelet aggregation in the presence HUVECs, which more closely reflects in vivo conditions than conventional methods, is useful for evaluating the effects of antiplatelet agents. This method is also appropriate to clarify the so−called‘‘aspirin dilemma”. 緒 言Cyclooxygenase(COX)阻害薬であるアスピリ
ンはatherothrombotic diseaseの再発予防を目
的と.オて,現在広く使用されているが,高濃度の
場合,血小板のCOXを阻害して血小板凝集を促
進する、thromboxane A2(TXA2)の合成を抑制す
るのみならず,血管内皮細胞のCOX.をも. j害し,
血小板凝集抑制作用のあるprostacyclin(PGI2)
の産生をも抑制する,いわゆるアスピリンジレン
マが問題となっている1)∼6).しかし,従来の血小板一183一
vitroにおいてアスピリンジレンマ現象を評価す
ることができなかった.そこで今回,二二静脈培
養血管内皮細胞(HUVEC)でコーティングした
キュベヅトを使用して血小板凝集能を測定する系
を確立し,この系を用いて7>,in vitroにおいて,アスピリンジレンマを検討した.また4一インドブ
フェンはアスピリンよりも強力なCOX阻害作用
を有する薬剤として開発されたが8)9),同じくこの
系を用いてアスピリンとの比較検討を行った.さ
らに最近,TXA2合成酵素阻害薬がアスピリンジ
レンマを解消する薬剤として開発され,脳梗塞急
性期の治療薬としても使用されるようになった
が1。)11),今回TXA2合成酵素阻害薬オザグレルの
影響についても検討した.
対象および方法
1.HUVECの分離培養法
正常産婦から得た新鮮な二三静脈内腔をCa2+
とMg2+を含まないリン酸緩衝生食液(PBS,免疫
生物研究所,藤岡,群馬)20∼50mlで洗浄後,
0.25%トリプシン液(Gibco Inc,, Grand Island,NY, USA)20∼50mlを注入し,37℃,30分イン
キュベートした.あらかじめ50mlの遠心管を用意
しておき,切断した膀帯静脈から内皮細胞を含む
トリプシン液を完全に回収し,次いで,20%ウシ
胎児血清(Gibco),10,000U/mlペニシリン
(Gibco),10,000μg/mlストレプトマイシン
(Gibco),25μg/mlアンホテリシンB(Gibco),
1,000U〃ヘパリン(ノボ・ノルディスクA/S,デ
ンマーク),30mg/1内皮細胞成長因子(Sigma,
St Louis, MO, USA)を含む血管内皮細胞増殖
用培地MCDB131(pH 7.4,クロレラ工業,東京)
20mlを膀帯静脈に通して上述の同じ遠心管に回
収した.同遠心管を800回転/分,5分間遠心して,
内皮細胞を分離し,上清を吸引除去後,増殖用培
地5∼10mlでよく拡散してからコラーゲンをコー
ティングした25cm2のフラスコ(Falcon Inc., Lin−coln Park, USA)に播種した.内皮細胞は37℃,
5%CO2インキュベーターで3∼5日間培養し,
コンフルエントになった時点でPBSで静かに洗
浄し,0.05%トリプシン/0.02%EDTA(Gibco)
図1 HUVECを蒔いたキュベットを軽くアルミホ
イルでキャップをし,傾斜をさせ37℃,5%CO2のイ ンキュベーター内で数日間培養した.溶液を用いて剥離した.培養細胞は第2代目まで
を使用し,増殖用培地で希釈した104∼105個の内
皮細胞をあらかじめフィブロネクチン(100μg/
m1, Sigma)でコーティングしておいたキュベッ
ト(二光バイオサイエンス,東京)に播種し,軽
くアルミホイルでキャップをして細胞が付着しや
すいように斜めに傾斜させ,数日間培養した(図
1).2.血小板凝集能の測定
1/10容の3.8%クエ・ソ酸ナトリウムを用いて21
G針によりinformed concentを得た健常成人よ
り採取した静脈血を1,000回転/分,10分間室温に
て遠心し,多血小板血漿(PRP)を分離し,さら
に残りの血漿を3,000回転/分,15分間遠心して乏
血少板血漿(PPP)を作製した.自動血球計数装
置Sysmex F800(東亜医用電子1東京)を用いて
血小板数を測定し,30×104/μ1になるようにPRP
を調製した.PRPのみ, HUVECのみ,および,
PRPとHUVECの3群について,それぞれを0.2
Mリン酸緩衝液で希釈した終濃度10−7∼10−4M
のアスピリン(日本化薬,東京),6一インドブフェ
ン(ファルミタリア・カルロエルバ,ミラノ,イ
タリア),オザグレル(キッセイ薬品,松本),お
よび,アスピリンとオザグレルの4種の薬剤で
37℃,30分間前処理した.但し,アスピリンとオ
ザグレルの併用効果の検討に際しては,各々単独
添加時に有意な凝集抑制をおこす閾値以下の濃度
3 100 藝 昼 .墾 霧 § 昼 」 A 薬剤(一) HUVEC (一) B薬剤(+)HUVEC(+) C薬斉1」(一)HUVEC(+)
図3 Dil−Ac−LDLを取り込んだHuvEc
牛 一
1min
ADP
図2 薬剤前処理時のHUVECによる凝集抑制の減
B−C
少率(%)=×100
A−C
(10−5Mあるいは10−6M)を用いた.その後,それ
ぞれをstirrerを用いて37℃,1,000回転/分,3分
間撹絆し,透光度凝集計(NKK Hematracer I,
二光バイオサイエンス)を用いて,終濃度1∼4μM
のADP(Sigma)刺激による血小板凝集能を測定
し,80%以上の二次凝集を惹起するADPの閾値
濃度を使用した.また,HUVECのみを前処理し
た場合にはそれぞれの薬剤で前処理後,薬剤溶解
液を除去しPBSで数回洗浄した後,未処理の
PRPを注入し,血小板凝集能を測定した.
HUVECは,二次凝集を完全に抑制する細胞数
15,000個以上を用い,同一条件下で評価をした.
薬剤で前処理した際のHUVECによる凝集抑制
の減少率の算定法を図2に示した.
統計は,一次配置分散分析法を用いた.
結 果
キュベット内壁に付着した細胞は多角形で敷石
状の形態をとっていること,また,Dil−Ac−LDL
(acetylated low density lipoprotein labeled with 1,1’一dioctadecyl−1,3,3’,3’・tetramethyl−indocarbocyanine perchiorate,フナコシ薬品,東
京)の血管内皮細胞への特異的な取り組みを利用
し12),ローダミンフィルターを用いて蛍光顕微鏡
で確認することにより血管内皮細胞の同定を行っ
た(図3). 10(, § .萎 .塗 湧 § 量 』 〔} 3,750cens 7,500cclls 15,〔XX}cells千 一
lmin
ADP2μM図4 HUVECによる血小板凝集抑制作用
細胞数0∼15,000個のHUVECを各々キュ
ベットに培養して血小板凝集能を測定すると,
HUVECは細胞密度依存性に血小板凝集を抑制
した(図4).1.HUVEC非存在下の血小板凝集に及ぼす各
種薬剤の影響
PRPのみを前処理した場合,アスピリンと4一
インドブフェンは用量依存性に血小板凝集を抑制
し,薬剤で前処理しなかった対照群に比較して
10−5M以上で有意であった.一方,オザグレルは
用量依存性に抑制する傾向があったが,有意な抑
制ではなかった(図5).
アスピリンとオザグレルの両者で前処理した場
100 §:: 墨・・ 21 100 100 ムアスピリン ロd一イ≧ドブフェン Oオザグレル * 80 * 80
レll: f{lll
晶 薫⊥ 駕.{⊥ 碧
Ir7 10−6 10−5 10−4 10−7 10−6 10−5 エ0−4 10一7 10 6 10−5 10−4 濃度(M/L) 濃度(M/L) 濃度(M/L) 図5 アスピリン,6・イソドブフェソ,オザグレルのADP刺激による血小板凝集能の抑制率 平均値±SI),*p<0.05:一元配置分散分析. 表1 アスピリン,オザグレル単独あるいは併用による血小板凝集能に及ぼ す影響 薬剤 闘値濃度 抑制率(%) アスピリン @ オザグレル Aスピリン十オザグレル 1または10μM@ 1または10μM
Pまたは10μM十1または10μM慧コ]・
*p<0.05,全ての値は平均値±SD.合,血小板凝集能は各々の単独処理の場合に比較 2.HUVECの血小板凝集抑制に及ぼす各種座
し,抑制効果の有意な増強がみられた(表1). 剤の影響
HUVECのみを前処理した場合, HUVECによ
ムアスピリン ロd一インドブフェン ○オザグレル 10−710−6 10−5 10−4 10−7 10−6 10−5 10−5 10−7 10−6 iO−5 10−4 濃度(M/L) 濃度(M/L). 濃度(M/L)図6 HUVECによる血小板凝集抑制効果に対するアスピリン,4・イソドブフェソ,オザグレルの
影響
平均値±SD,“p<0.05:一元配置分散分析.表2 アスピリン,オザグレル単独または両剤でHUVECのみを前処理した
際の血小板凝集に及ぼす影響 薬剤 闘値濃度 抑制率(%) アスピリン @ オザグレル Aスピリン十オザグレル 1または10μM@ 1または10μM
Pまたは10μM十1または10μM羅iコ「・
零p<0.05,全ての値は平均値±SD.一186一
5
表3 アスピリン,4一インドブフェンおよびオザグレルでPRPとHUVEC
の両者を前処理した際の血小板凝集抑制率(対照を0%とする) アスピリン 4一インドブフェン オザグレル 濃度ハM
%N
%N
%N
0.1 P10100 一19.9±17.9 @24.5±27.2* 黷S.9±12.3 │0.4±7.7 5455 一87,9±10.8* 黷P7.2±26.4 @6.9±17.1 @3.3±23.7 4465 一5.2±8.1 │10.2±22.1 @1.5±11,6 │1,7±5.5 6666 *p<0.05vs control,全ての値は平均値±SD.る血小板凝集抑制はアスピリンと4一インドブ
フェンを加えることにより用量依存性に減弱し,
薬剤で前処理しなかった対照群に比較してアスピ
リンでは1『6M以上,4一インドブフェンでは10−7
M以上で有意な減弱が示された,オザグレルの場
合は,10−5Mでむしろ抑制の増強傾向があった
が,有意ではなかった(図6).
また,アスピリンとオザグレルの両薬剤で前処
理した場合には,アスピリンのみでHUVECを前
処理した場合より凝集抑制の減弱効果は有意に少
なかった(表2).
3.血小板とHUVECの両者に及ぼす各種薬
剤の影響
PRPとHUVECの両者を前処理した場合,薬
剤で前処理しなかった対照群に比較して,アスピ
リンは10−6Mで有意な凝集抑制を認めたが,4一イ
ンドブフェンは10−7Mでむしろ凝集を有意に促
進した.また,オザグレルでは有意な変化は認め
なかった(表3).
考 察
COX阻害薬であるアスピリンでは脳梗塞や一
過性脳虚血発作の再発予防に現在広く使用されて
いるが,高濃度の場合,血小板のCOXを阻害して
血小板凝集を促進するTXA2の合成を抑制する
のみならず,血管内皮細胞のCOXをも阻害し,血
小板凝集を抑制するPGI2の産生をも抑制する,い
わゆるアスピリンジレンマが問題となるが,アス
ピリンジレンマを惹起しない閾値用量に関しては
いまだ統一見解が得られていない.本研究では,
in vitroでアスピリンジレンマについて検討する
ために,HUVECとPRPを各濃度のアスピリン
でそれぞれ前処理し,ADP刺激による血小板凝集
能を測定した.その結果,in vitroでは血小板と血
管内皮細胞の両者ともCOX阻害は用量依存性に
起こりうることが確認された.
今回の検討では,HUVEC存在下ではアスピリ
ン10一5Mで有意な凝集抑制が認められたが,これ
は,低濃度では血管内皮細胞のCOX阻害による
PGI2産生抑制の程度が比較的少ないので,血小板
のCOX阻害によるTXA2産生抑制と血管内皮細
胞から産生されるPGI2の協同的な抑制効果が
あったためと考えた.近年,内山ら13)の報告も含め
て100mg/日以下の低用量でTXA2代謝物の減少
を認め,PGI2の代謝物にはほとんど影響を与えな
かったとの報告14)∼17)や,アスピリンの低用量と高
用量の比較では脳梗塞の発生頻度,再発予防効果
に有意差を認めなかったとの報告が多くみら
れ18)∼20),最近では100mg/日以下の微量投与が推
奨されている2)13)21)∼23).アスピリン50∼100mgを経口投与した場合の最高血中濃:度は7.8×10−6
∼4.4×10−5M程度であるといわれているが,
300∼1,000mg/日の高用量の場合,血中濃:度が,
10−4M以上になる可能性があり24),今回の実験結
果からはこの条件下では血管内皮細胞のPGI2産
生が有意に抑制されてしまうことが考えられた.
COX阻害薬であるインドブフェン(41一インド
ブフェン)はイタリアでは1985年より動脈血栓症
の予防薬として広く用いられている.近年,その
抗血小板作用発現の本体が4一イソドブフェンで
あることが明らかにされ,1・インドブフェンを除
くことによって有効性,安全性が高まることが期
待されている.本実験系で4一インドブフェンは,
HUVEC存在下では,10−7Mでむしろ血小板凝集
を促進したが,これは,この濃度では血小板凝集
一187一
抑制効果が充分でないのに,HUVECによる凝集
抑制効果を減弱してしまうためと考えられた.臨
床的に25∼100mgを1回のみ投与した時の最高
血中濃度は服薬後2∼4時間で1.5∼4。3×10−5M
に達し,濃度依存性に血小板凝集,血清TXA2産
生に抑制作用を示すとされている25).今回の実験
ではHUVEC存在下では10−5M,10−4Mで凝集抑
制傾向があったが,対照群に比し有意ではなかっ
た.図6に示したように,4・インドブフェンはア
スピリンよりも低濃度でHUVECの血小板凝集
抑制効果を抑制する傾向があったが,用量依存的
な抑制の増強はなかったので,内皮の存在する生
体内で血小板凝集を確実に抑制するためには血小
板のTXA2産生を有意に抑制し得る量を投与す
る必要があると思われる.
アスピリンジレンマの解決策として,選択的に
TXA2産生のみを阻害するTXA2合成酵素阻害薬
の臨床応用が期待されている.TXA2合成酵素阻
害薬のうちオザグレルが最近脳血栓症急性期の治
療薬として使用されるようになった10)11)26)∼34).しかし,一方ではこの薬剤によってTXA2依存性の
血小板凝集が抑制されないnon−responderの存
在が知られており,その機i序として,TXA2合成酵
素阻害薬によって蓄積したprostaglandin(PG)
endoperoxideが血小板のTXA2/PGH2受容体に
作用して血小板凝集を引き起こしてしまうのに対
して,血小板凝集抑制作用のあるPGD2, PGI2へ
の変換が充分に行われないためと考えられてい
る35)36).今回の実験系ではPRPのみをオザグレル
で前処理した場合は有意な抑制効果が得られな
かったが,’その原因としては,前述したnon・
responderの検体であった可能性と,本実験では
内皮細胞への傷害を考慮し凝集惹起剤としてアラ
キドン酸ではなく,TXA2依存性が低いADPを
用いたことが考えられる37).HUVECのみをオザ
グレルで前処理した場合は,HUVECによる血小
板凝集抑制作用に及ぼす影響はなく,この薬剤は
少なくともPGI2産生を抑制していないと考えら
れる.さらに,TXA,合成酵素阻害薬によって蓄積
したPG endoperoxideが血管内皮細胞や白血球
に取り込まれてPGI2へと変換され(いわゆる
redirection),このPGI2が血小板凝集抑制に重要
な役割を果たしていることが以前より報告されて
おり38)∼50),臨床的にもTXA2合成酵素阻害薬投与
後,TXA2と, PGI2の代謝物を測定すると,TXA2
の代謝物に対しては用量依存的に抑制し,PGI2の
代謝物は増加したとの報告がある51).本実二二で
もPRPとHUVECの二心をオザグレルで前処
理することによって凝集抑制の増強効果を期待し
たが,結果は有意ではなかった.この原因として,
前述したように凝集惹起剤としてADPを使用し
たため血小板での十分なPG endoperoxideの産
生がなされな:かったためredirection効果が十分
に発揮されなかったか,蓄積したPG endoperox−
ideが内皮細胞に取り込まれる前にTXA2/PGH2
受容体に使用した可能性などが考えられる.また,
一方でnon−responderをresponderに変えるた
めに超低用量のアスピリンを併用することによっ
てPG endoperoxideの蓄積を阻害する方法が検
討されている52)53).今回の実験系では,PRPのみ
をオザグレルとアスピリンの両者で前処理した場
合,各々の単独投与に比較して有意な凝集抑制増
強効果を認めているが,これは両者の協同的な
TXA2産生阻害(いわゆるTXA2のoverkill)によ
るものと考えた.また,HUVECのみを両薬剤で
前処理した場合にはアスピリンで前処理した場合
よりHUVECによる凝集抑制の減弱効果は有意
に低かった.この場合,用いたPRP中にはオザグ
レルは存在しないため,PG endoperoxideの
redirectionは起こらずPGI2産生増加は生じ得な
いので原因は不明といわざるをえない.しかし,
この薬剤にはCa2+の流入抑制など内皮に対する
何らかの保護作用を有する可能性があり,今後の
検討が必要と考えられた.
PRPとHUVECの両者を前処理した場合はア
スピリンとオザグレルの併用による凝集抑制増強
効果は認められなかった.本実験で使用したアス
ピリンの濃度は単独投与した時に血小板凝集能を
20%以上抑制しない閾値濃度(10−6Mあるいは
10−5M)を使用したが,この濃度でも,内皮由来の
PGI2産生は有意に抑制されてしまうため内皮に
よる凝集抑制効果が減弱してしまい期待通りの七
一188一
7
果が得られなかった可能性がある.Nagatsuka
ら53)はアラキドン酸とコラーゲンの刺激による血
小板凝集能に対するアスピリン0.1∼025mg/
kg/日とオザグレル1001ng/日の併用効果の検討
を行っているが,このような微量のアスピリンの
併用でさえ単独投与に比し血小板凝集能は有意に
抑制されたという.以前よりアスピリンのCOX
阻害は内皮細胞よりも血小板の方が感受性が高い
といわれており,本実験においても今後さらに低
用量のアスピリンとの併用効果を検討する必要が
あると思われた54).本研究では,従来利用されてきた血小板凝集能
測定法に血管内皮細胞の因子を加えた実験系を考
案し,抗血小板薬の評価を行った.従来の方法で
は血小板のみに対する抗血小板薬の評価しかでき
ず,内皮が存在する生体内での抗血小板薬の効果
を反映しているとはいえなかった.また,血管内
皮細胞に対する抗血小板薬の評価を血小板凝集能
を使用して行った報告も少ない.しかし,一方で
は血管内皮細胞は生体内では血小板凝集に多大な
影響を及ぼすことが知られている.従って,in
vitroでのPRPに対する抗血小板薬の効果が生
体内の抗血小板効果をどれだけ反映しているかは
疑問が多い.本研究ではキュベットに内皮細胞104
∼105個を播種し数日間培養したが,この場合,
キュベットの内壁の約50%に細胞が付着してお
り,この細胞数で十分な」血小板凝集抑制効果が得
られた.正常な血管壁の条件に近づけるためには,
キュベットの全壁面に内皮細胞が付着するまで培
養すべきであるが,そのためには,1週間以上の
日数を要し,この間,培養液の交換を頻回に行う
必要があり,培養液吸引時の物理的な細胞への影
響,コンタミネーションなどを考えると,この細
胞数で行うことが妥当と考えた.血管内皮細胞の
有無によって血小板凝集能の結果に相違が生じる
ことは前述した実験結果の通りであり,従来の方
法より生体内の条件に近い本測定系は抗血小板薬
の評価に極めて有用と考えられた.
結 語
1)HUVEC存在下で血小板凝集能を測定する
系においてアスピリン,4一インドブフェンおよび
一189
オザグレルの各々が,ADP刺激による血小板凝集
に及ぼすin vitroでの影響を検討した.
2)血小板凝集能はHUVEC非存在下でアスピ
リンと4一インドブフェンによって用量依存性に
抑制された.3)HUVECによる1血小板凝集抑制効果はアス
ピリンとゴーインドブフェンにより用量依存性に
減弱した.また,アスピリンとオザグレルの併用
によりHUVECによる血小板凝集抑制の減弱効
果は有意に低下した.
4)HUVEC存在下ではアスピリンは10 6Mで
有意に血小板凝集を抑制したが,4一インドブフェ
ンは10−7Mで血小板凝集をむしろ促進した.
5)HUVEC非存在下ではアスピリンとオザグ
レルの併用によりADP凝集の抑制増強効果が認
められた.6)従来の方法よりも生体内の条件により近い
と思われるHUVEC存在下での血小板凝集能の
測定は抗血小板薬の評価に極めて有用と考え.られ
た.稿を終えるに当たり,御校閲を賜りました:丸山勝一
教授,御助言を頂いた竹宮敏子教授.直接御指導頂い
た内山真一郎講師に深謝致します.また,膀帯を提供
して頂いた母子総合医療センターの中林正雄教授を
はじめとするスタッフの方々,HUVECの培養法につ
き御助言頂いたエーザイ筑波研究所の新井 徹氏,大
塚製薬徳島研究所の井川武洋氏,オザグレルを提供し
て頂いたキッセイ薬品,4一インドブフェンを提供をし
て頂いたファルミタリア・カルロエルバ社に深謝致し
ます.本論文の要旨は第18回日本脳:卒中学会総会(1993
年)において報告した.文 献
1)FitzGerald GA, Oates JA, Hawiger J et al: Endogenous biosynthesis of prostacyclin andthromboxane and platelet function during
chronic administration of aspirin in man. J CIin Invest 71:676−688, 1983 2)田上憲次郎:抗血栓療法の最近の話題.アスピリ ンとその問題点.カレントテラピー 9:828−831,1991
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