半導体レーザーの応用技術(II)
著者
岡井 善四郎
雑誌名
技術報告集
巻
5 (1999年度)
ページ
51-56
発行年
2000-04
URL
http://hdl.handle.net/10098/7563
半導体レーザーの応用技術 (n)
第三技術室システム制御技術班 岡井善四郎 1. はじめに 現在世界の人口約 60 億人のうち、約 5 億人が飢餓状態であり、毎年多数の犠牲者が出ている。 21 世紀中頃には世界の人口は 100 億人に達することが予想されている。このような状況のもとで、地 球温暖化に伴い異常気象が頻発してきている。さらに耕地の砂漠化・塩害化が進み、環境ホノレモン という化学物質による土壌汚染・地下水汚染も加わり、農地は減少の一方である。そのため露地栽 培そのものが危うくなってきている。その解決策として、人工栽培システムの積極的な導入が必要 となってくるだろう眺め。こうしたなかで国際的にその重要性が指摘されている植物工場の基礎研 究の一環として、現在主流の回D ランプよりすぐれた特徴を有している半導体発光素子を栽培用 光源に使用して植物の栽培を試みた。 昨年の研修ではヘ赤色半導体レーザー (LD) 波長 650nm、出力 5mW 9 個と、青色発光ダイ オード (LED) 波長 465nm、出力 1800mcd 9 個を栽培用光源として用い、リーフレタスの栽培を 試みた。初期のころは露地栽培と何ら遜色なく生育した。しかし光量不足でもあり近接照射の栽培 のため 2 ヶ月間経過し、ある程度大きくなったところで光の当たらない葉が生じきて、成長がかん ばしくなくなり、市販されている大きさには生育しなかった。 今年度の計画としては光量の増大を図り、昨年の経験を生かして露地栽培並に、またそれ以上に 生育するよう栽培実験を行ったので報告する。はじめに、基礎知識として植物と光の関係について 簡単に述べる。2. 植物と光との関係
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)植物に大切な光信号 植物は動物のように動くことができないため、光信号を利用して生育している。生育が始まると、 その場で環境に適応し生活を続けなければならない。そのためには、植物が置かれている環境がど のようなものか知る必要がある。つまり環境情報を知ることが必要になってくる。 環境情報としては、温度、水分、土壌などがあるが、光も重要な情報の一つであり、光情報とし て受け取り利用している。光情報としては、①光の強さ(明暗)、②光の質(色)、(連続光・パル ス光)、③光の方向、④照射時間(日長)、⑤照射時刻(時報)の 5 つが考えられる九①光の強さ(明暗)は植物の生育に様々な形で影響を与える。たとえば、たいていの植物は光を 与えないと「もやし J の状態となり、反対に強光の場合だと下限軸が短く先端部を立ち上げ子葉も 聞き、全体にがっちりした植物体に生育する。弱い光の下では両者の中間的生育を示す。 それでは、今回栽培する植物に最低どのくらいの光量が必要なのだろうか。光合成においてはか なりの光量が必要である。一般的には、植物(ここでは葉菜類) 1 株、面積にして 100cm2 ぐらい 必要とみて最低、 30 (μmol/m2 .s) は必要であろう。 ②光の質(色)について考えてみる。ここで一番重要なことは、照射した光が植物に吸収されて こそ植物の生育・形態形成等に利用されるのであって、反射や透過した光はまったく役に立たない ということである。この点、光受容体であるクロロフィルは、赤色 LD ・赤色 LED
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680nm) 、 青色 LED(
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470nm) の光に吸収のピークがあり非常に都合がよい九 パルス光については、実験結果の項で述べる。 (2) 植物は光エネルギーをとらえる 光合成に代表される。光合成というのは植物が光のエネルギーを受け取り、有機化合物を合 成することである。これは明反応 (lmsec 以下)と、炭酸固定反応 (10msec 以上、以前は暗反 応とよばれていたが、最近では炭酸固定反応にかかわる酵素が光によって活性化されることが明ら かになってきたことから、炭酸固定反応とよばれるようになってきている勺とから成り立ってい る。 明反応は光が直接関与し、光エネルギーを蓄える反応である。葉の色素が光を吸収することから 始まる。そして、クロロフィルという色素を利用して、葉緑体の働きにより光エネルギーをとらえ、 その結果、化学エネルギーである ATP を合成、有機化合物を合成するために必要な還元作用を持 つ NADPH の合成、さらに水分子が分解され、反応の副産物として酸素が発生する。 炭酸固定反応は明反応から送られてきた ATP NADPH を利用して C02 固定をする。その結果 c-c 結合が進み、有機化合物として植物体へ取込まれ、植物のカサが増える。植物の種類によってこの 固定反応の経過が異なる b 一つ目はカルピ、ン回路 (C :í回路)を持つ Ca植物、二つ目は C02の濃縮 回路を備え C4 回路を持つ C4 植物、三つ目は C4 回路の変形ともいうべき CAM(
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Metabolism) 型炭酸固定を行う CAM 植物に分かれているヘ 光合成を考えるのに、エマーソン効果という重要なことがある。これは簡単に説明すると、赤色 効果の低下 (red drop) がみられる 680nm 前後の光と、それより短波長の光を別々に照射したとき の光合成の効率よりも、これら 2 つの光を同時に照射したときのほうが効率が良くなることで、 2 種類の光の相乗効果のことを言うへ3. 栽培実験装置
光源として赤色 LD、赤色 LED、青色 LED、を用い、図 1 に示す光源パネル@、⑧、⑥の 3 種類 を製作した。@は LD ユニットを出力安定と放熱のため、アルミ棒を加工してプリント基板に取付 けた。⑥は 1 スティック 9 個を 50 列、⑥は 1 スティック 5 個を 36 列プリント基板に半田づけした。 それら光源ノ号ネルの仕様を Table 1 に示す。表中の PPFD は光合成有効光量子束密度である。光合-52-成有効とは光合成に有効な可視領域 400 ...__700nm をさす。光量子束密度は単位時間、単位面積あ たりの光量子数を μmol の単位で表したものである。この単位で光強度を測定すると、ほぼ波長依 存性を考慮せずに光合成の大きさを評価できる九 それぞれの光源パネルの駆動電力は標準で 21W、 20W、 41 W である。 光源パネル@ 光源パネル⑥ 光源パネル⑥ 図 1 .光源パネル 使用素子 波長 素子の数 PPFDη,8) 素子 1 個の出力 (パネル面下却=) 光源ノ号ネル@ 赤色 LD 30mW 655nm 25 個 500 光源ノミネル⑥ 赤色 LED 15
,
OOOmcd 644nm 450 個 480 光源ノ号ネル⑥ 青色 LED 1,
800mcd 465nm 360 個 135T
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1 .光源パネルの仕様 次に外光を遮断するため栽培箱を 2 つ製作した。内面をアルミ板で囲み、光が効率よく植物に照 射されるようにした。光源パネルを上下に可動し、照射光量を植物の生育に応じて変えられるよう にした。また光源パネルを余裕をもって取り付けられるよう、大きさは縦 40cm 、横 60cm、高さ 85cm とした。箱はほぼ密閉状態で、空気の循環が見込まれないため、ファンを取り付けタイマーで間欠 動作をさせた。これにより、光合成に必要な CÛ2を確保できるようになった。水の管理は指定し た時刻に規定量を与えるよう、市販の「水やりタイマー J を使用した。4. 栽培実験方法・結果
葉菜類の中から病気にも強く栽培しやすい(ステムレタス、ホウレンソウ、オータムポエム、葉ダイコン)の 4 種を選び、栽培条件として 7 項目を以下のように定め栽培をはじめた。 培養土
:
(園芸店から購入し肥料混入済のもの) 照射光量 (専用の駆動回路で出力を一定に保った) 照射時間 肥料 (タイマーで、制御し朝 6 時から夕方 6 時までの 12 時間照射) (追肥として 2 団施肥した。 1 回につき 10g) 水量 (水やりタイマーで時間、水量を 10cc 単位まで制御した) 温度 湿度 (実験室がスチーム暖房されているため昼間 26'"2
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.C 、夜間 17'"1
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)
(昼間 30 %前後、夜間 50 %前後) そして、光源パネルの組合わせにより、下記の 5 種類の光源の下で連続光照射の場合とパルス光 (100Hz パルス幅 lms) 照射の場合での、各々の生育状態を調べた。 ー・ーーー・ーーーーーーーーーーー----・・ーーーーーーーーーー幽ーーーーーー'・・・・ーーーーーーーーー- -ーーー- -・ー・・・・・ーーーーーーーー---ーーーー・ーー. j ①赤色 LD、②赤色 LED、③青色 LED、④赤色 LD と青色 LED R/B 比 10j ⑤赤色 LED と青色 LED R/B比 10 (赤色と青色の光量の比:光量子束密度の単位で) 図 2. 赤色 LD照射のみによる栽培 図 3. 青色 LED照射のみによる栽培 昨年の栽培実験の結果を踏まえて、最初は単独による光源、すなわち①赤色 LD、②赤色 LED 、 ③青色 LED のみによる栽培実験からはじめた。 素子の数を増して光量を増加したため、昨年 のような極端に生育が悪い、また徒長が著し い体形にはならなかった。①、②の赤色の照 射では、連続、パルス両者とも図 2. のよう に葉に注目すると正常な形状と違い外側に丸 く縮れぎみになった。この原因として第一に 考えられることは、葉や茎を正常な形状にす るための作用をする青色光 (420
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47伽m) を 照射しなかったためと考えられる。①の赤色 LD の場合葉ダイコンの葉は縮れがすごかっ 図 4. 赤色 LED と青色 LED による栽培 た。③の青色のみでは 3 ヶ月栽培したにもかかわらず、図 3. に示すように、ホウレンソウをはじ-54-め他の三種も草丈が l Ocm 位と小さく頂部に花芽が形成され生育末期の体形となった。この原因は、 光合成反応を促進する赤色 (640
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680nm) が与えなかったためと考えられる。光合成のピーク波 長は (660'"'"' 68加m) に存在し、青色では光合成の効率が極端に悪くなるからであろう則的。 次にこれまでいくつかの研究室・グループで栽培実験が行われ I 川,13) 、正常に生育したとの報 告がなされている最適条件 (R/B比 10) で、栽培を行った。このとき青色 LED の光量を減らし赤色 に対して 1/10 になるよう調整した。初めは④の光源でレタスの一種であるステムレタスを 1 月 4 日に播種から行い約 3 ヶ月間栽培した。このときの光量は赤色 LD で 500μmol/m2 ・s、青色 LD で 50 μmol/m2 ・s である。外観を観察する限り植物体もがっちりしており生育は順調におこなわれたの ではないかと推察する。現在、露地栽培との比較のため、露地での栽培を行っている。 同時に⑤の光源での栽培も行った。栽培条件は同じように (R/B比 10) で 3 ヶ月間栽培した。 その生育状態を図 4 に示す。両者の顕著な違いは見られなかったがどちらかというと、⑤の光源の 方がいくぶん生育が良いように思われた。一つの原因と考えられるのは、 LD 光はスベクトル幅が LED よりかなり狭いため、レッドドロップが生じ光合成の効率が悪くなったのではないか。ある 意味で、はエマーソン効果が得られなかったのではないか。 LED の方は LD に比べてわりあいスベク トル幅が広く(半値幅:20 '
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30nm) 、若干のエマーソン効果が得られたものと思う。まだ栽培実 験も一度だけと少ないので、その他のパラメータによる影響があるかもしれない。 同じ光源でもパルス照射の方が生育が良かった。この原因としてはパルス照射により、 10msec 程度の暗期をとることで強光を照射しても飽和が起こることなく、連続光に比べて光合成の効率が 高まるからであろう。閉じ光量であれば尖頭値が大きくとれ明反応の効率が良くなるヘ 以上の結果を Table 2 に示す。持喝
ステムレタス ホウレンソウ オータムポエム 葉ダイコン 光源パネル@ 少し徒長 葉に顕著な縮れ 赤色 LD 葉に縮れ 少し徒長 順調に生育 があり生育不良 ー帽ーーーーーーーーーーーーーーーーー-ー・ー ーーーーー--ー・・帽ーーーーーーーーーーー ーーーー・ーーーーーー---ー ーー--・・『園"ーーーーーーーーーーーーーーーー ーー・ーーーーーーーーーーー---ーーーーーーー 光源パネル⑥ 赤色 LED 向上 向上 向上 向上 ーーーーーーーーーーーーーーーーー・ーーーー ーーーー骨ーーー・ーーーーーーーー・ーーーー ーーーーーーーーーーーーー・ーー・・ー・・且.且邑 ----‘'・・・ーー・ーーーーーーーーーーーーーー ーー,ーーーーーーーーー--ーーーーーーーーー 光源パネル⑥ 青色 LED 生育不良 生育不良 生育不良 生育不良 ーーーーーー圃ーーーーーーーーーーーーーーー ー,・ー.骨ーーーーーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーー・・ーーーー・ー--且巴ーー ーーーー----ーーーーーーーーーーーーーー-- - -・ーーーー・----ーーーーーーーーーーーーー ③赤色 LD 葉に少し縮れ 葉に少し縮れ ⑥青色 LED 順調な生育 順調な生育 順調な生育 )順調な生育 ーーーーーー圃ーーーーーーーーーーーーーー・ー 胃-・ーーーーー・・ーーーーーーーーーーーー岨 ー・幽ーーーーーーーーーーーーー・ーーーーーー-ー----ーーーーーーーーーーーー---ーーーー ⑥赤色 LED @青色 LED 順調な生育 順調な生育 順調な生育 順調な生育T
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2. 光源の違いによる生育状態 5. まとめ 太陽光の光合成有効光量子束密度は 2000μmol/m2 ・s といわれているd
昨年よりも大幅に光量 の増加を図った結果 (500μmol/m2 ・ s 以上)赤色のみでもオータムポエムなどは、順調な生育が 行われた。さらに青色光を照射することによって光合成が正常に行われ、露地栽培と比べて何ら遜色なく生育することが分かつた。そして食味の点でも露地物と変わりないくらい良く、無農薬栽培 が可能なことも有利な点であり、宇宙空間での栽培には十分通用する段階に達したと思う。 6. 今後の課題 ( 1 )外観では分からない栄養価の面について、その違いを露地栽培のものと是非比較したい。 色素については、太陽光と違い単色光照射のため、露地栽培との差がでるのではないかと考えてい る。なかでも、アントシアニンのようなフラボノイド色素は、紫外線によって誘導され促進するこ とが、培養細胞や植物体の研究によって明らかにされていることから鑑みて、少ないことが予想さ れる。反対にビタミン C は露地栽培より 2 倍多く含まれていると、いくつかの研究室から報告さ れているので、これらの点についても検証したい。
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)日本人の主食である米、つまり稲の栽培を試みたい。光源として 680nm の光を照射するこ とにより、太陽光より効率よく光合成が行われ生育が進み、温度管理さえできれば、年 3 回 ""'5 回 の収穫も可能であるへ(
3
)葉菜類のほかに、食生活に欠かすことのできない緑黄色野菜(トマト)等について栽培実験 を行う。この栽培はまだ行われていない。 (4 )今回、すべての栽培実験において土壌栽培で、行ったが、水耕栽培の方が効率よく生育が進む ので、水耕栽培を取り入れたい。7. 謝辞
この研修に光源として使用した LD は、奨励研究 (B) から支出した。 光量の計算については、同じ研究室に所属している、博士後期課程の来島史欣君にたいへんお世 話になった。ここに感謝の意を表す。 8. 参考文献1) SHITA REPORT No5 地球環境問題と値物工場.
2) 大石正道;生態系と地球環境のしくみ,日本実業出版社(1999) 3) 岡井善四郎; (日常研修)半導体レーザーの応用技術,福井大学技術部技術報告集, 61 - 65 (1998) 4) 賀来章輔,他 7 名 ;継物生理学,放送大学教育振興会 (1997). 5) htt://www3justnetlytakeo/biobook/biob008.htm 6) 西国嘉夫,山中正宣;赤色 LED と青色 LED の植物栽培への応用.レーザー研究 25 (1997) 845 7) 高辻正基;食糧生産と応用物理,応用物理 68.8 909 - 913 (1999) 8)htt:/www.fb.u-tokai.ac.jpIWWW/hoshilenv/lightサ .htm1 9) 高辻 正基,植物工場の基礎と実際,裳撃房 (1996). 10) 高辻正基,山中正宣;レーザー植物工場の可能性(JOURNALOF SHITA) 6 (3) 184 ー 190 (1994)
11)田中史宏,渡辺1尊之 ;LED の植物栽培への適用, OPTRONICS. No12 134 ー 140 (1998)
12) 菅 悼文,他 6 名;半導体レーザーダイオードを用いた植物栽培, OPTRONICS. No12 134 ー 140 (1998) 13) 山崎 文,他 4 名;レーザーで植物を育てる, 0 plus E.1294 ー 1270 (1999) 14) 高辻 正基;植物工場ハンドブック,東海大学出版会 (1997). n h U F h u