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水面の影響を考慮した水棲生物の跳躍を含む遊泳の解析Numerical analysis of flow around aquatic animal swimming near or through water surface

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水面の影響を考慮した水棲生物の跳躍を含む遊泳の解析

Numerical analysis of flow around aquatic animal swimming

near or through water surface

白崎 実

Minoru SHIRAZAKI

横浜国立大学 大学院環境情報研究院

Graduate School of Environment and Information Sciences, Yokohama National University 要旨 魚やイルカなどの水棲生物の運動に関してはいくつかの謎が残されており,魚やイルカが水中か ら水面を飛び出し再度水中へ戻る跳躍を伴う遊泳を行う理由についても明らかにされてはいな い.これらの謎を明らかにするとともに実験的を行うのが難しい実際の水棲生物の運動に関する 知見を得るために,遊泳する水棲生物に関する CFD 解析を実施する.空気,水,水棲生物(固 体)という固気液三相間の境界を捉えるために3 つのレベルセット関数を用いる.水面付近の遊 泳において,水面の存在が遊泳に及ぼす影響や,跳躍を伴う遊泳と跳躍を伴わない水中での水平 遊泳における水平方向の平均遊泳速度について議論する. キーワード:計算流体力学,自由表面流れ,非圧縮性流れ,混相流,水棲生物,レベルセット法 Abstract

Some of the motions of fish and fish-like aquatic animal such as dolphins still remain mysterious, for instance, the reason why fishes or dolphins are swimming with jumping from water to air and back to the water again has not been proved yet. CFD analysis of swimming aquatic animal works well to solve the mysteries or get new knowledge about the aquatic animal motions because it is free from the difficulties that we often face in using real aquatic animals during the experimental studies. Three level set functions are used for interface capturing between three phases, which are water, air and body of aquatic animal. How the existence of water surface influences swimming near the water surface and comparison of horizontal average swimming speed with jumping and without jumping are discussed.

Keywords: Computational fluid dynamics, Free surface flow, Incompressible flow, Multiphase flow, Aquatic animals, Level set method

© 2019 Research Organization for Information Science and Technology All rights reserved. Received: 16 January 2018

Accepted: 19 April 2019 Available online: 22 April 2019

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1. 研究の背景と目的 魚やイルカのような水棲生物の遊泳運動を対象とした実験的研究や数値的研究はこれまで広 く行われている[1],[2].しかし,Gray のパラドックス[3]のような謎や未解決の問題は残されてお り,水棲生物の跳躍運動もその一つである.水棲生物の中には水面を跳躍しながら泳ぐものがい ることが知られているが,このように跳躍を行いながら遊泳することの利点や目的については, 諸説あるものの明らかになっておらず,力学的な視点から扱った研究は見られない.水棲生物を 用いた実験や観察の難しさを考えると,計算流体力学(以下,CFD)によるアプローチはこのよう な謎の解明や水棲生物に関する新たな知見の獲得に有効であると考えられる.さらに,魚型ロボッ トなどの水面付近における高効率な推進技術といった工学的な知見につながる可能性もある. 著者のグループでは,これまでに水棲生物の跳躍運動に関する水面付近を遊泳,跳躍する現象 についての2 次元 CFD 解析を行ってきた[4].自由表面と水棲生物を模した魚型形状のモデルが 変形により推進力を得て跳躍を含む遊泳を完全直交格子上で取り扱っている.この研究の最終的 な目標は,水棲生物の水面近くでの遊泳や水面の跳躍運動について3 次元解析を行い,跳躍を行 う理由を力学的に明らかにすることである.しかし,自由表面と変形する物体とが連成する複雑 な現象を詳細に調べるためには,自由表面の捕捉精度や変形する物体の表現精度の向上の他,よ り大きな計算規模での解析が必要であった.そこで本研究課題(追加募集課題)では,半年間と いう課題実施期間を考慮して,2 次元モデルを対象として,計算コードの妥当性の検証と変形す る物体の表現精度の向上に取り組み,水棲生物の水平遊泳と跳躍を伴う遊泳について,諸条件の 違いが及ぼす影響について議論する. 2. 計算モデル 水面を考慮した水棲生物まわりの解析を行うために固気液三相流れを取り扱う.非圧縮性の連 続の式とNavier-Stokes 方程式,そして自由表面の捕捉のための Level Set 関数[5]の移流方程式を 支配方程式とし,移動する任意形状物体を取り扱うことが可能なGhost Fluid 法[6]によって物体 表面での流速の境界条件を課すことで,自由表面を捉えつつ物体と流体との相互作用を扱った. また,物体に働く流体力の算出には Xiao らの方法[7]を用いた.また後述のように,物体の変形 時に物体内部への浸水や物体まわりに真空のような部分が生じる Level Set 関数の不整合につい て,Losasso らの手法[8]を参考に,3 つの Level Set 関数を取り扱うことで回避した.

まず,物体が水面を通り抜けて移動する現象に対して正しく計算が行えるかを確認するために, 水よりも小さい密度の変形しない円柱が,水中から浮力によって浮上し,水面から跳び出すとい う実験を行い比較した.図 1 に円柱浮上モデルの計算領域を示す.空間分割数は x,y 方向それ ぞれの方向に720 分割,480 分割とした.気相,液相はそれぞれ空気と水を想定し,円柱は塩ビ 管相当の平均密度である223.3kg/m3,円柱の直径を0.048m と設定した.ここで v は流速,v b は 流体の円柱に対する相対速度,p は圧力である.円柱の初期の深さ h を複数設定し,その違いに よる流体や円柱の動きについての解析を行った.

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2 に魚型形状モデルを用いた計算の条件と境界条件を示す.空間分割は x,y それぞれの方 向に 1200 分割,300 分割とした.気相と液相は同様に空気と水を想定し,魚型モデルの全長は 0.05m,密度は水と同じ 1000kg/m3とした. 1 円柱浮上モデルの計算条件と境界条件2 魚型モデルの遊泳の計算条件と境界条件 3. 並列計算の方法と効果(性能) 本研究課題では,中核となる計算コード自体が開発中で大幅な修正,変更が見込まれたこと, さらには本研究課題の実施期間が半年間であったことなどから,インテルコンパイラの自動並列 を用いた並列計算を行った.利用した京都大学学術情報メディアセンターのスーパーコンピュー タGreenBlade 8000 では,16 スレッドで実行した場合,最大で約 13 倍の速度向上が得られた.ま た MPI 等のメッセージ通信ライブラリを用いた並列化は当初から予定しておらず今回は実施し ていない. 4. 計算コードの検証と計算結果 開発した計算コードによる解析結果と実験結果との比較を行い,計算コードの妥当性を確認し たうえで,水棲生物の遊泳解析へ適用した. 4.1 実験と計算結果の比較 実験装置の概要を以下に示す.図3 のような幅 0.40m,長さ 0.24m,高さ 0.28m の水槽と,円 柱として長さ 0.39m,直径 0.048m の塩ビ管を用いた.実験方法の詳細については,文献[9]を参 照されたい.初期水面を基準として円柱の位置はその底面位置と定義し鉛直上向きを正の方向と する.円柱には初速度を与えず,水から受ける浮力によって浮上するものとし,円柱の初期位置 は,初期水面位置を基準に ℎ 0.053m, 0.078m, 0.103m の 3 つの場合について実験と 計算を行いその結果を比較した.円柱底面の初期位置の底面位置の時間履歴のグラフを図4 に示

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す.いずれの場合においても浮上時と着水後の円柱位置の挙動を概ね良くとらえており,初期位 置と跳躍距離に注目すると,実験,計算ともに ℎ 0.078m が 3 つの場合の中では跳躍距離が 最も大きくなっている.つまり,初期位置が浅過ぎず,深過ぎない中間的な位置で最大の跳躍距 離が実現されている.それぞれの初期位置における全体的な時間的推移も含めて,実験と計算で はほぼ同様の傾向が得られている. 図3 実験装置 4 円柱底面位置の時間履歴 水面と円柱の様子について,実験結果と計算結果との比較を図5 に示す.ここでの実験結果は 5 回実施したうちのある 1 回についてのものであり,5 回の平均値をプロットした図 4 とは必ず しも一致しない点に注意されたい.すでに見たように,円柱の底面位置は実験値の方が計算値よ りも低くなっているものの,円柱が水面を通り過ぎる前後の水面の形状については同様の傾向が 見られる. 図5 水面と塩ビ管の様子 (ℎ 0.053m,実験(左),計算(右)) Time s Po sit ion m

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4.2 魚型モデルの遊泳 固気液三相の流れにおいて,物体が大きく変形する場合,物体と液体(あるいは気体)との界 面を表現するために用いているLevel Set 関数に生じる不整合が課題となっていた.図 6 に示すよ うに,物体が変形したことによる物体内部への「浸水部分」や,物体外部にできる「真空部分」 がそれに該当する.これらの問題を回避するためにLosasso らの手法[8]にもとづいて計算コード を改良した結果,Level Set 関数の不整合が生じなくなり(図 7),より信頼性の高い計算が可能と なった. 魚の形状には,関連研究でしばしば用いられる翼型NACA0012 を使用した.変形モデルには, Akimoto ら[10]が用いた変形式を参考にして次式を用いた.

 

   

 

 

,

0

.

1

2

2

sin

,

,

L

x

aL

t

x

g

ct

x

x

f

t

x

g

x

f

t

x

h

(1) ここで,a は振幅倍率,L は翼型の全長,𝜆は変形波長,c は位相速度である.魚の形状モデルの 概要を図8 に示す.翼先端を 0 として水平方向に x 軸,垂直方向に y 軸を取ると,I (x)は初期形 状を表わしており,h (x,t)は時刻 t,位置 x での y 方向の変形量を表している. 6 魚型モデルの変形に伴う

Level Set 関数の不整合の例 図7 不整合のない Level Set 関数の例

8 魚型モデル(初期状態(左),変形時(右)) h(x,t)

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9 に遊泳深さ d = 0.04m において c = 0.2m/s,a = 1.0 とした場合の遊泳の様子と渦度分布を示 す.魚の後方に,変形する魚が推進力を得る時に見られる反時計回りの渦が上側に,時計回りの 渦が下側にある逆カルマン渦が形成されているのがわかる.実際,変形中は平均すると抗力は負 の値となり,推進力を得ていることを確認している. 図10 は,遊泳深さだけを変えた場合(d = 0.01m と d = 0.04m)の水平遊泳の比較である.同一 時刻を可視化したものであるが,遊泳水深が深い方が遊泳速度は大きいことが分かる.これは, 水面近くを遊泳することによって水面に大きな波をつくってしまうことが原因であると考えら れる. 次に,位相速度c=0.2m/s,水深 d=0.04m,振幅倍率 a=2 という条件で,水平遊泳と跳躍を伴う 遊泳(初期水面との迎角をθ = 20°)を比較する.各時刻における水面と流速ベクトル分布を描 いたものを図 11 に示す.この条件では,跳躍を伴う場合は,跳躍後に空中を移動して水中へ戻 ることができないことから水面上を跳ねるように移動していて,ごくわずかながら水平遊泳より も先に壁まで到達していること,すなわち水平方向の平均遊泳速度が大きいことを確認している. これは,空中を移動している間は,水面に再接触するときを除いて速度の減少が非常に小さいた めである.今回のように,魚型モデルの変形の条件が同じであれば,変形によって得られる推進 力は遊泳方法に関わらずほぼ等しいため,迎角を大きくして水面を飛び出す際の垂直方向(y 方 向)の速度成分を大きくすると,水平方向(x 方向)の速度成分は小さくなり水平方向への推進 という点では有利にならず,逆に,迎角が小さいと水平方向の速度成分は大きくなるが,空気中 にいる時間は短くなる他,あまりに迎角が小さいと水面を通り抜けられないことになる. さらに詳細な検討を行う上では,魚型モデルの初期位置や迎角などの条件を広く変えた場合に も跳躍が実現されること,すなわち跳躍しやすいことが望ましい.ここでは,魚型モデルに(1) 式のような強制的な変形を与えていることから,魚型モデルの全長,位相速度,振幅倍率を大き くすることにより,変形速度や変形量が大きくなり遊泳速度は大きくなる傾向がある.これらの パラメータの設定においては,実際の魚の値を考慮するべきであるが,本研究課題では魚型モデ ルの全長は 0.05m と比較的小さい.この全長を大きくすることで実際に遊泳速度が大きくなり, 跳躍しやすくなることを確認しており,より全長の大きな魚型モデルについても解析を行ってい く必要がある. 5. まとめと今後の課題 水面を考慮した水棲生物の遊泳についての解析を行うために,固気液三相流れを取り扱うこと ができる2 次元計算コードを開発した.浮力によって浮上し水面を通り抜ける円柱の実験結果と の比較を行い,物体の位置や水面の挙動について概ね良好な結果が得られ,水棲生物の遊泳,跳 躍運動の解析を進める目途が立った.今後,前述のような魚型モデルの全長をはじめとする種々 の条件が遊泳に及ぼす影響について調べることや,3 次元モデルでの解析の他,水棲生物の筋力 やエネルギーを考慮した解析などを行う必要がある.

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9 水面近くでの水平遊泳時の渦度分布(c=0.2m/s,a=1.0,d=0.04m)

10 異なる遊泳深さでの水平遊泳の比較(c=0.5m/s,a=1.0,t=1.0s,d=0.01m(左),d=0.06m(右))

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参考文献 [1] 田中一郎, 永井實, “抵抗と推進の流体力学-水棲生物の高速遊泳能力に学ぶ-”, シップ・ア ンド・オーシャン財団 (1996). [2] 高田洋吾, 中西志允, 荒木良介, 脇坂知行, “PIV 測定と 3 次元数値解析による小型魚ロボット 周りの水の流動状態と推進能力の検討”, 日本機械学会論文集(C 編), 76 巻 763 号, pp. 665-672 (2010). [3] 多田雅志, 本田逸郎, 浅見敏彦, “自律推進する魚モデルの遊泳に関する数値的研究”, 日本機 械学会論文集(B 編), 76 巻 764 号, pp. 595-600 (2011). [4] 松本佑紀, 白崎実, “水面を跳躍しながら遊泳する魚まわりの CDF 解析”, ながれ, 第 32 巻, 第 2 号, pp. 89-94 (2013).

[5] M. Sussman, P. Smerka and S. Osher, "A level set approach for computing solutions to incompressible two-phase flow", J. Comput. Phys., Vol. 114, pp. 146-159 (1994).

[6] R. Fedkiw, T. Aslam, B. Merriman and S. Osher, "A non-oscillatory eulerian approach to interfaces in multimaterial flows (the Ghost Fluid Method)", J. Comput. Phys., Vol. 152, pp. 457-492 (1999).

[7] F. Xiao, T. Yabe, T. Ito and M. Tajima, "An algorithm for simulating solid objects suspended in stratified flow", Comput. Phys. Commun., Vol. 102, pp. 147-160 (1997).

[8] F. Losasso, T. Shinar, A. Selle and R. Fedkiw, "Multiple Interacting Liquids", SIGGRAPH 2006, ACM TOG 25, pp. 812-819 (2006).

[9] 佐々木一真, 白崎実, “水面を通り抜ける物体まわり流れの CFD 解析”, ながれ, 第 33 巻, 第 2 号, pp. 111-118 (2014).

[10] H. Akimoto and H. Miyata, “Finite-volume simulation of a flow about a moving body with deformation”, Proc. of the 5th International Symposium on Computational Fluid Dynamics, Vol. 1, pp. 13-18 (1993).

図 8   魚型モデル(初期状態(左) ,変形時(右) ) h(x,t)
図 11  水面と流速ベクトル分布(水平遊泳(左) ,跳躍(右) ,c=0.2m/s,a=2.0,d=0.04m)

参照

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