大分工業高等専門学校紀要 第 44 号 (平成 19 年 11 月)
本校入学生にみる科学実験講座「科学と遊ぼう」経験者
工藤 康紀
一般科目
本校では小中学生向けに,年間数回の開放講座「科学と遊ぼう」を実施している.この「科学と遊ぼ
う」を開始して10年になるので,この講座に参加した子ども達がどのくらい本校に入学しているかを
調べてみた.もちろん,入学生160人のうちこの講座に参加した学生は毎年10人にも満たないので
あるが,「科学と遊ぼう」という名前を聞いたことがあるという学生はかなりいる.その結果,入試倍率
との間には,密接な関係があることが分かった.
キーワード : 出前講座,科学実験講座,科学と遊ぼう,入試倍率
1.はじめに
「科学と遊ぼう」は,中学生に高専の存在を知ってもら
うことと科学・技術の楽しさやおもしろさを知ってもらう
ことを主な目的に,平成9年に有志の教員4人が始めた小
中学生向けの「科学実験講座」であり,毎回無料で実施し
ている.その後,地元の小中学生への高専の紹介や高専と
地域との連携が叫ばれるようになるにつれて,全校的にこ
の講座に取り組むこととなり,平成16年度からは,総合
教育研究センター運営委員会(後に,地域連携交流センタ
ー運営委員会に改称)が中心となり,教職員全員がこの「科
学と遊ぼう」に関わることとなった.著者は,この科学実
験講座「科学と遊ぼう」をこれまで10年以上実施してき
たので,それらを振り返り,今後の課題等も検討する.
「科学と遊ぼう」のような科学実験講座が子ども達の理
科離れ防止に役立つと思われること,またその評価につい
てはすでに報告している1)
.その際,同時にこのような科
学実験講座が高専の知名度アップにつながることも期待
してきた.今回は,この「科学と遊ぼう」の広がりと共に,
その結果として入試倍率の上昇につながったと思われる
ことを報告する.
2.これまでの経過
「科学と遊ぼう」は当初本校で実施していたが,その後
小中学校での出前講座として実施したり,地域の公民館な
どでも実施してきた.平成16年度に総合教育研究センタ
ー運営委員会(その後,地域連携交流センター運営委員会
に改称)の中に「科学と遊ぼう実行委員会」を設置し,こ
こを中心にして活動することとした.これにより,子ども
達の理科離れの防止に多少なりとも貢献することができ
るものと思っている.最近は実施可能テーマ数の増加によ
り,それぞれの小中学校の希望に合わせた出前講座を実施
できるようになりつつある.「科学と遊ぼう」の実施テー
マ一覧は,本校ホームページに常時掲載し小中学校に応募
を呼びかけている.ただ,近年の限られた予算では教員の
研究費を圧迫することとなり,「科学と遊ぼう」を積極的
に希望する教員は増えてはいないのが実状である.しかし
ながら,地域連携交流センターの事業としたことで,年度
当初に予算措置をすることができるようになり,少しずつ
改善している.
大分県では,平成18年度から「おおいたっ子科学マイ
ンド育成事業」2)
を開始した.これは,理科に関心のある
子ども達向けに科学分野での教科書にはない専門的・発展
的な知識を提供することをめざしている.そのため,地域
の教育事務所ごとに「子ども科学教室」を開催するという
ものであり,大分高専も積極的に協力している.また,J
ST((独)日本科学技術振興機構)が支援し各県が企画
立案するタイプの「理科支援員等」3)
の講師派遣も平成1
9年度から始まり,本校の教員も講師として登録し,小中
学生向けに科学実験講座を実施している.このような場合
にも,可能な限り本校独自の名称「科学と遊ぼう」を使う
ようにしている.「科学遊び」や「科学で遊ぼう」という
言葉は通常よく使われるが,「科学と遊ぼう」という言葉
は通常は使われない.これが逆に珍しく感じられるようで,
子ども達の記憶に残るようである.著者は,JST支援の
中学生向けSPP(サイエンス・パートナーシップ・プロ
ジェクト)でも「科学と遊ぼう」と名付けて実施している.
-49-
大分工業高等専門学校紀要 第 44 号 (平成 19 年 11 月)
3.入試倍率との関係
様々な場で実施される「科学と遊ぼう」を経験した子ど
も達がどのくらい入学しているだろうか.受験生にアンケ
ートを取ることはできないので,本校に入学した学生にア
ンケートを取ってみた.その結果を入試倍率と比較したの
が図-1である.図-1は,本校に入学した学生に本校独自
の科学実験講座「科学と遊ぼう」についての質問をした結
果をまとめたものである.新入学生160人に,以下の問
a,b,cのいずれかを選択してもらった.下のグラフは,
それぞれの人数である.(図-1の左軸の目盛は人数を表す.
右軸の目盛(折れ線)は入試倍率を表す.)
a.「科学と遊ぼう」に参加したことがある.
b.「科学と遊ぼう」を聞いたことはあるが参加したこと
はない.
c.聞いたことも参加したこともない.
倍 率
1.9 2.2 2.0
1.7
2.1
0
20
40
60
80
100
120
140
160
2003
年度
200
4年
度
2005
年度
200
6年
度
2007
年度
人数
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
a. b.
c.
図-1 「科学と遊ぼう」への参加人数(左軸)と
入試倍率(右軸)
この結果からは,入試倍率と相関関係が深いのは,a.
であることが分かる.(相関係数0.75)さらに,「b.聞い
たことはあるが参加したことはない」という学生の数もそ
の傾向は入試倍率とほぼ一致している.「聞いたことがあ
る」という学生は,少なくともその時に「高専」という言
葉を一緒に聞いたであろうことが推察される.
過去5年間の本校入学者のうち,「科学と遊ぼう」に参
加した学生は24名で,このうち,小学校低学年以下は2
名,小学校中学年4名,小学校高学年7名,中学生8名で,
無回答3名となっている.参加者の学年は小学校高学年か
ら中学生が主であり,入試倍率の面からも,この年齢の子
ども達に科学実験講座を実施する意義は大きいと言える.
なお,このアンケートを実施していて気づいたことであ
るが,「科学と遊ぼう」という名前にはおもしろさがあり,
意外と記憶に残るようである.名前の付け方も大事な要素
となると思われる.覚えやすく,記憶に残りやすいものが
よい.
4.まとめと今後の展望
大分高専は県庁所在地にありながら,中学校の教員に聞
いてみて,高専がどこにあるかを知っている人は多くない.
そのような状況で如何に効率的に高専を売り込んでいく
かは大事な要素だと考える.その一つとして,今回のよう
な「科学と遊ぼう」は有効だと考えられる.もちろん小中
学生に知ってもらうことが大事だが,彼らを指導する立場
にある先生方が詳しく知らないようでは,生徒にはなかな
か浸透しないであろう.小学校で実施することは直接子ど
も達に触れる機会であるが,中学校で実施することは中学
校の教員に高専の存在を知ってもらう良い機会だと捉え
て,しっかりと協力体制をつくることが必要である.最近
のように運営費交付金が益々減額されるような状況にあ
っては,大分県独自の「おおいたっ子科学マインド育成事
業」や,JST支援の小学校における「理科支援員等」を
利用しながら,地域の子ども達のために科学・技術の啓蒙
に努めるしかないのだろう.
当初,子ども達の理科離れを防ぐと共に,高専の存在を
知ってもらい,入試倍率が上がることを期待していた.そ
の後少子化が進んだことにより,大分県下の中学卒業者数
は減少する傾向にある.そのため受験者数は減る傾向にあ
るが,本年度の入試倍率は何とか以前の倍率にもどってい
る.もちろん,入試倍率の変化はさまざまな要因が絡み合
っているので,一概には言えないが,少なくとも合格者の
中における「科学と遊ぼう」の経験者数は,倍率と深く関
係していると言える.ただし,このアンケートは,本校を
受験し合格した学生だけに限定したものであるので,その
点は配慮を要する.不合格となった学生にもアンケートを
取ることができないのが残念である.
最近は,いろいろな出前講座,実験講座,出前実験の機
会に,「科学と遊ぼう」という言葉を使っている.これに
より,「『科学と遊ぼう』と言えば大分高専」と言われるよ
うになれば,本校の知名度もアップし,また受験生も増え
るものと思われる.引いては,本校の地元への貢献もさら
に進むものと期待している.
参考文献
1) 清水一道,加治俊夫,工藤康紀,園田敏夫,川内谷一
志,岩本光弘,那賀修二:地域密着型出前授業科学実
験授業の実施と評価について,大分工業高等専門学校
紀要,No.40, pp. 13-17, 2004.
2) 大分県教育庁生涯学習課HP,
http://www.oitalll.jp/shougaku/635/000637.html
3) JST理科支援員等,http://www.jst.go.jp/rikai/
(2007.9.28)
-50-