教師と生徒の信頼関係の構築 -ユニバーサルデザイン授業を基盤として-
高度学校教育実践専攻 実習責任教員 芝 山 明 義 教職実践力高度化コース 実習指導教員 末 内 佳 代 島 本 紫 織
キーワード:信頼関係,ユニバーサルデザイン,校内研修
Ⅰ 課題設定の理由
本実践研究を行うにあたり,生徒・教職員ア ンケート等のアセスメントから実習校の現状を 把握し,そこから実践課題を見出し,テーマを 設定した。
1 実習校の状況
平成 27 年度現在,学級数 25(うち特別支援 学級4),生徒数約 710 名,教職員数 60 名の大 規模中学校である。平成 25 年度から「通常の学 級におけるユニバーサルデザインの考えを取り 入れた支援の在り方」の研究を小中連携で進め ている。
2 実習校の課題
アセスメントによって,教員と生徒の信頼感 に乖離が見られ,教員は「生徒から信頼されて いない」と感じている割合が多いことがわかっ た。また,ユニバーサルデザイン授業の実践が 生徒の学習意欲の向上に結びついているとは言 いがたい状況である。これは,ユニバーサルデ ザイン授業についての共通理解のための校内研 修が設定されていなかったことによる。
3 先行研究
中井(2012)によると,「教師が生徒の信頼 感を高めるためには,『安心感』,『役割期待』を 高め,『不信』を低減することが求められる」
(p.258)が,この内,「役割期待」は「教師の 専門性(教師としての知識,指導技術)」,「行動 の正当性(怒ってくれる,約束を守る)」といっ
た指導態度・指導行動をとることで高められる とある。また,須藤(2010)は,「手厚い授業実 践は,生徒の教師への信頼を高める」(p.88)と 述べている。広島県大竹市立大竹中学校の事例 では,生徒が学びに向かうようにわかる楽しい 授業を展開することで,授業態度は落ち着いた ものになっていった。佐古(2014)は,「教員が 納得できる課題を設定するためには,その形成 過程に教員が参画し,情報共有を行うことが有 効である」(p.29)としている。また,課題形成 過程における協働的な手順に基づいて学校ビジ ョンを作ることで,ビジョンに対する教員の関 与やその必然性の理解が高くなり,実践化が促 されるという。校内研修の効果については,千々 布(2011)が校内研究や授業研究への組織的な 取組が学校の組織文化を高め,教員の授業力を 高めることになるという調査結果を示している。
4 実践の目的
「わかりやすい授業」と授業規律の徹底を学 校全体で統一した指導として行うことで,生徒 の教師に対する信頼感を基底する要素の1つで ある「役割期待」の向上や,「授業がわかる」と いう達成感から生徒の教師への信頼感と学習意 欲の向上にアプローチできると考える。また,
これらを実践するためには,全校的に教育課題 の共通理解を図ることが必要であることから,
全員参加型の校内研修を行っていくこととする。
Ⅱ 実践の方法と結果
研究実践は,準備期,第Ⅰ期,第Ⅱ期の3つ に分け,第Ⅰ期の実践での課題を受け,第Ⅱ期 で修正・改善を行うこととした。
1 準備期
教職員の意識づけのために,ユニバーサルデ ザイン授業の必要性や有効性について考える機 会をとることとした。また,全員参加型のワー クショップ型研修とすることで,全教職員が次 年度に向けての課題の形成,共有ができるよう にした。そこで洗い出した課題に対する具体的 な実践内容について現 職教育推進部で選定し
(表1),研修だよりで周知を行った。
表1 ユニバーサルデザイン授業の重点項目 学習のめあてを明確にする 指示を視覚的にわかりやすく行う グループ学習などを取り入れる 子どもの方を見て話す 聞くときと書くときをはっきりと分ける 指示や説明は,短く簡潔に行う。
黒板のまわりはスッキリさせておく。 となりの席と机をくっつけておく。
2 第Ⅰ期 1)研修だより
ユニバーサルデザイン授業の実践について 教員の意識の向上を図るための手立てとして,
研修だよりの発行を行った。研修だよりは,筆 者が実習校の教員の授業を参観して,効果的な 支援と見られたものを紹介するという内容のも のにした。研修だよりに掲載された教員は実践 に対して意欲を見せたり,他の教員に自分の実 践が取り上げられたことを喜んで伝えたりして いた。
なお,研修だよりによる優れた実践の紹介は 第Ⅱ期も行った。
2)小中合同研修会
毎年6月に行われる小中合同研修会の研究 授業では,参加者全員の意見が反映されるよう に,ワークショップによる授業検討会を企画・
運営した。現職教育推進部のメンバーがワーク ショップのコーディネーターとなるため,事前 に方法についての研修を行った。「適切な支援が 行えていた」や「より効果的な支援をどうすれ ばよいか」という視点に絞っての研究討議とな ったため,参加者にとって満足度の高い研修会 となった。
3)自主研修会
若年研修を兼ねた自主研修会を開催し,授業 づくりをする上でどのように支援を考えていけ ばいいかを考える機会をつくった。ガードナー
(1993)が提唱したMI理論を入り口にして,
既存の指導案を改善していくというワークショ ップ型の研修方式とした。研修後のアンケート から,討議の内容について他者の意見を取り入 れながら,支援の在り方について自分の考えを 深めることができたということがわかった。
しかし,行事等の関係から自主研修会の日程 調整に大きな課題が見られた。
4)相互授業参観
6月に互いの授業を参観し,ユニバーサルデ ザイン授業の実践についてのよさと課題をレポ ートする期間を設定した。しかしながら,参観 者数が伸びず,教員の多忙を解消する必要があ ると考えた。
3 第Ⅱ期
1)業務効率化のための整備
第Ⅰ期の実践を受け,教員に時間的余裕をつ くり出すために,業務の効率化を図った。特に ICT の利用を促進するための整備を行った。た だし,それだけでは十分とはいえず,さらに効 率的に業務を行える方策が求められる。
2)道徳研究授業
10 月に行われる校内研究授業のために,道 徳の授業研究が8月から行われた。毎年9月に
事前授業を行い,10 月に本番を迎えることにな っている。これらの研究授業に関しても,授業 討議をワークショップで行うこととし,教員の 協働意識の向上とユニバーサルデザイン授業へ のモチベーションの持続を図ることとした。
授業検討は,事前授業では指導案を練り上げ るということで指導案拡大法,本番の研究授業 では支援の在り方について考えるためにマトリ クス法で行った。
授業検討後に各研修についてのアンケート を行ったが,研究授業本番では満足度が低くな っていた。授業検討を何度も行ったことによる と考えられるため,次年度以降は研究授業の方 法そのものを考え直す必要がある。
3)師範授業
第Ⅱ期でも相互授業参観を設定したが,「短 時間での参観でも構わない」の設定にもかかわ らず,参加状況は芳しくなかった。相互授業参 観だけでは他の教員の授業における支援につい て研修する機会を十分にもてないため,若年教 員に対し,筆者が師範授業を行い,公開するこ ととした。授業参観をした日は放課後に授業検 討会を開いた。若年教員は,このような機会が あれば今後も参加したいと語った。
4)教員・生徒による授業評価
教員に対し「UD授業の 12 の視点」につい て4段階で自己評価アンケートを6月と 11 月 に行った。2回の調査結果からは大きな変動は 見られなかったが,平成 26 年度に行った調査と の比較ではほとんどの項目で望ましい方向に推 移している。
教員と同様に,生徒に対する授業評価アンケ ートを,授業者が任意の学級で行った。こちら は,すべての項目において 11 月の結果が6月の 値を上回っていた。
5)質問紙による調査
質問紙による調査を6月と 11 月に行い,変 容を確認するために,平成 26 年 11 月との比較 を行った。
(1) 生徒の状況
実習生が作成した生徒質問紙の回答者数は 682 名(回収率 96%)であった。
学校生活と教師との関係の項目である「勉強 についてきちんと指導してくれる」,「学校生活 についてきちんと指導してくれる」,「わたしの よいところやがんばりを認めてくれる」では,
平成 26 年 11 月との比較では積極的肯定に増加 が見られる。規範意識に関する項目では,肯定 的回答全体では大きな変化はないが,平成 26 年 11 月との比較で積極的肯定は3ポイントの 増加となっている(表2)。
表2 積極的肯定の回答の変化(単位:%)
項 目 平成 26 年 11 月との比較 平成 27 年6月 平成 27 年 11 月 勉強についてきちんと指導してくれる +9 +8 学校生活についてきちんと指導してくれる +9 +5 わたしのよいところやがんばりを認めてくれる +5 +4 学校のルールは先生に指示されなくても守っている +3 +3 (2) 教師の状況
教員の質問紙の回答者数は 46 名(回収率 100%)であった。
この調査から,教員は生徒の規範意識と生徒 からの信頼感の向上を感じていることがわかる。
授業改善に対する取組に関する項目から,組 織的な取組を行っているとの認識が高まってい ることがわかる。授業の取組に関する項目では,
めあてを明確にし,授業規律の定着に留意した 授業実践が行われていることがわかる。「この学 校では,学校の重点目標が共有され,教師が常 に意識して指導を行っている」の項目で,肯定
的回答の増加が見られる。「この学校の先生は,
研修や会議の場で率直な意見が少ない」では,
肯定的回答の減少が見られる。これらの項目に ついて表3にまとめる。
表3 肯定的回答の変化(単位:%)
項 目 平成 26 年 11 月との比較 平成 27 年6月 平成 27 年 11 月 この学校の生徒はルールを守って行動する意識が高い +25 +25 この学校の生徒は教師を信頼している +21 +16 授業の工夫・改善を組織的に行っている +3 +5 指導方法の工夫や改善は個別に判断して実施している -7 -9 学習規律の定着を図るよう配慮している +6 +10
本時のねらいを生徒に明示している +4 +4
学校の重点目標が共有され,意識して指導を行っている +3 +14 研修や会議の場で率直な意見が少ない -2 -15
Ⅲ 実践研究の成果と課題 1 実践研究の成果
ワークショップ型研修で,全教職員が平成 27 年度に取り組むべき具体的な実践について 共有化できたことで,教師がユニバーサルデザ イン授業を常に意識して指導にあたっていたこ とがわかった。また,ワークショップ型の研修 を取り入れたことで,積極的な話し合いが行わ れ,互いの考えを知ることができた。それによ り,研修方式については十分満足が得られてい るといえる。
ユニバーサルデザインの視点を取り入れた 支援,とりわけ「めあての明確化」と「授業規 律の徹底」に力が注がれていたことがわかった。
これは,具体的な支援を8つに絞って提示した ことにより,教員が何を行えばいいかわかりや すかったことによると考えられる。
これを受けて,生徒による授業評価がよい方 向に推移していることから,ユニバーサルデザ
イン授業の実践の効果が表れているといえる。
教員への質問紙より,教員は生徒から信頼さ れていると感じるようになってきていることが わかる。「授業規律の徹底」によって「教師の専 門性」と「行動の正当性」が高まり,教師と生 徒の信頼感の向上が図られたといえる。
2 実践研究の課題
ワークショップによる授業検討がマンネリ 化しないよう新しい授業検討の方法の実践が必 要となる。また,相互授業参観に代わる師範授 業の導入を考えていかなければならない。
Ⅳ 今後の課題と展望
本実践研究を通して,ユニバーサルデザイン 授業での「わかりやすい授業」の実践と「授業 規律の徹底」が,教師と生徒の信頼関係の構築 につながることがわかった。教師と生徒の信頼 関係が良好なものとなってきたため,今後は授 業場面だけではなく,一般的な生活指導にまで 拡げていくことが望まれる。その際,誰もが実 践できる内容のものから始めることにより,指 導に差が生まれずに効果を上げるのではないか と考える。
Ⅴ 修了後の課題と取組の構想
新規採用教員の数が増えていることもあり,
実習校でも教職経験年数の浅い教員が増えてき ている。そこで教職員の力量の底上げを図るた めに,若年教員の指導に力を注いでいきたい。
今後は校内研修の企画・運営と並行して,若年 教員が活き活きと活躍できる学びの場を設定し ていきたいと考えている。自ら学び続ける教員 となることも大切ではあるが,それにも増して 自ら学び続ける教員を育成していけるようなミ ドルリーダーを目指していきたい。