招待論文
Beyond 5G 時代のネットワークビジョン
—2030 年に向けたアーキテクチャとブレークスルー技術の鳥瞰 —
※山中 直明
†a)西村 光弘
††石黒 正揮
†††岡崎 義勝
††††川西 哲也
†††††釣谷 剛宏
††††††中尾 彰宏
†††††††原井 洋明
††††††††廣岡 俊彦
†††††††††古川 英昭
††††††††宮澤 雅典
∗山本 直克
††††††††吉野 修一
∗∗Future Vision of Beyond 5G Network — Overview of Architecture and Breakthrough Technologies for 2030 —
※Naoaki YAMANAKA
†a), Mitsuhiro NISHIMURA
††, Masaki ISHIGURO
†††, Yoshikatsu OKAZAKI
††††, Tetsuya KAWANISHI
†††††, Takehiro TSURITANI
††††††, Akihiro NAKAO
†††††††, Hiroaki HARAI
††††††††, Toshihiko HIROOKA
†††††††††,
Hideaki FURUKAWA
††††††††, Masanori MIYAZAWA
∗, Naokatsu YAMAMOTO
††††††††, and Shuichi YOSHINO
∗∗あらまし 2020年に我が国でも5G商用サービスが本格開始され,2021年の東京オリンピック・パラリンピッ クでは,5Gを応用したサービスのトライアルが行われる.一方,同時に将来の技術やニーズを先取りしたBeyond
5G/6Gの研究開発スタートの年となる.Beyond 5G/6Gを検討する際は,将来を予想して必要となるサービスを左手
とするならば,ブレークスルーにより発展する基盤技術を右手として,それらを融合するネットワークアーキテク チャを面的に考え,同時に時間軸のステップを考える必要がある.そのため,総務省が主体となり「Beyond 5G時代 の有線ネットワーク検討会」を発足させ,キャリア,国立研究機関,アカデミアに加え,本分野の代表的な電子情報 通信学会研究専門委員会の委員長,コンソーシアムの主導者にも参加頂き,Beyond 5Gのオーバービューとブレーク スルー技術等の取りまとめを行った.本論文では,そこで取りまとめた「ネットワークビジョン2030」を電子情報 通信学会の多くの読者,研究者に提供することにより,自らのビジネスや研究へのヒントを得ると同時に,各分野の 最新動向をフィードバック頂くことで,常に最新のビジョンへブラッシュアップすることを目指し,執筆を行った.
キーワード Beyond 5G/6G,光ネットワーク,インターネット,マルチクラウド,スマートネットワーク
†慶應義塾大学理工学部,横浜市
Faculty of Science and Technology, Keio University, 3–14–1 Hiyoshi, Kohoku-ku, Yokohama-shi, 223–8522 Japan
††総務省,東京都
Ministry of Internal Affairs and Communications, 2–1–2 Kasumigaseki, Chiyoda-ku, Tokyo, 100–8926 Japan
†††株式会社三菱総合研究所,東京都
Mitsubishi Research Institute, Inc., 10–3 Nagatacho 2-chome, Chiyoda-ku, Tokyo, 100–8141 Japan
††††日本電信電話株式会社NTTネットワークサービスシステ ム研究所,武蔵野市
NTT Network Service System Laboratories, NTT Corporation, 3–9–
11 Midori-cho, Musashino-shi, 180–8585 Japan
†††††早稲田大学理工学術院,東京都
Faculty of Science and Engineering, Waseda University, 3–4–1 Okubo, Shinjuku-ku, Tokyo, 169–8555 Japan
††††††株式会社KDDI総合研究所,ふじみ野市
KDDI Research, Inc., 2–1–15 Ohara, Fujimino-shi, 356–8502 Japan
†††††††東京大学大学院情報学環,東京都
Interdisciplinary Initiative in Information Studies, Tokyo University, 7–3–1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113–0033 Japan
††††††††国立研究開発法人情報通信研究機構,小金井市
National Institute of Information and Communications Technology, 4–2–1 Nukui-Kitamachi, Koganei-shi, 184–8795 Japan
†††††††††東北大学電気通信研究所,仙台市
Research Institute of Electrical Communication, Tohoku University, 2–1–1 Katahira, Aoba-ku, Sendai-shi, 980–8577 Japan
∗KDDI株式会社,東京都
KDDI Corporation, 2–3–2 Nishishinjuku, Shinjuku-ku, Tokyo, 163–
8003 Japan
∗∗日本電信電話株式会社 NTT未来ねっと研究所,横須賀市 NTT Network Innovation Laboratories, NTT Corporation, 1–1 Hikarinooka, Yokosuka-shi, 239–0847 Japan
a) E-mail: [email protected]
※本論文は,システム開発・ソフトウェア開発論文である.
DOI:10.14923/transcomj.2020JBI0002
1.
ま え が き我が国においては,
2019
年9
月に第5
世代移動通信 方式(5G
)のプレサービスが開始され,2020
年3
月 からは国内主要電気通信事業者による5G
商用サービ スが本格開始されるなど,ネットワークインフラの大 きな変革期を迎えようとしている.世界に目を向ける と,欧米や中韓等では既に5G
サービスが開始されて いるほか,2018
年4
月にフィンランドアカデミーが5G
の次の世代となるBeyond 5G/6G
の研究開発プロ ジェクト「6Genesis
」を国家旗艦研究に指定[1]
,国際 電気通信連合電気通信標準化部門(ITU-T
)では,2018
年7
月に第13
研究委員会(SG13
)において「2030
年 代に向けたネットワークの在り方に関する検討」(FG NET-2030
)というFocus Group
を立ち上げ,2019
年5
月にホワイトペーパーをまとめるなど,6G
実現に向 けた検討が活発化しつつある.こうした状況を踏まえ,我が国においても,
2019
年9
月から総務省(MIC
)が中心となって「Beyond 5G
時代の有線ネットワーク検討会(主査:山中 直明 慶 應義塾大学教授)」(以下,B5G
有線NW
検討会)を立 ち上げ,2030
年代のBeyond 5G
時代を見据えた有線 ネットワーク技術について検討を行い,それらの成果 を2020
年2
月に第1
期報告として取りまとめを行っ た.B5G
有線NW
検討会は,長期間に渡り継続可能 な連携体制を構築するために,キャリア,国立研究機 関,アカデミアなどから有識者を幅広く集めるととも に,学術発展や産業振興に指導的役割を果たす電子情 報通信学会の研究専門委員会委員長,国内コンソーシ アムの主導者にも参加頂き,様々な立場の意見を踏まえながら
Beyond 5G
時代に期待されるネットワークインフラの在り方,それを実現するために求められる 新たな要素,ブレークスルーが期待される技術,その 研究開発のロードマップ等について検討を行った.更 に,
Beyond 5G/6G
実現に向けた国際標準化機関や諸 外国の動向を調査することで,「グローバルに連携す る部分」と「差別化として強化すべき部分」について の分析を行い,我が国が戦略的・重点的に取り組むべ き技術について検討を行った.図
1
がB5G
有線NW
検討会の具体的なイメージで ある.B5G
有線NW
検討会で策定したスナップショッ ト「ネットワークビジョン2030
」を国の研究開発戦略 にインプットするとともに,検討会参加メンバーが所 属する機関へ持ち帰り,ビジネス戦略や研究開発戦略図1 B5G有線NW検討会の位置付けと今後 Fig. 1 Relation among government strategy, private company/
academia and this research team.
に反映することはもちろん,電子情報通信学会等の学 会や,
PIF
(Photonic Internet Forum
),けいはんなオー プンラボラトリーといった任意のコンソーシアムへも 持ち帰り,より専門的な議論を行うことで各分野の最 新動向を踏まえた検討状況をフィードバック頂くこと を考えている.このように,B5G
有線NW
検討会をト リガとして,国内の多くの関係機関を取り込んだポジ ティブループを構築し,常に最新のビジョンへブラッ シュアップできるようなサステーナブルな検討スキー ムを確立することで,我が国の研究開発を活性化させ ることを目指す.本論文では,
B5G
有線NW
検討会における検討が2030
年代に期待される新たな世界を実現するための重 要な基盤としての「Beyond 5G/6G
」の早期実現の一助 となり,国民生活や経済活動のより一層の発展を支え るだけでなく,ICT
(Information and Communications
Technology
)分野の国際市場における我が国のプレゼンス確保等に寄与していくことを期待し,その取りま とめ成果を紹介する.以下,
2.
では,Beyond 5G
に向 けた標準化機関を含む国内外の取り組みを述べる.3.
では,
Beyond 5G
時代における新たな社会像や,それらを実現するためにネットワークインフラに求めら れる要求条件,目指すべきネットワーク像をまとめた
「ネットワークビジョン
2030
」を示し,4.
では,Beyond 5G
のブレークスルーのために重点的に取り組むべき 技術を解説する.2. Beyond 5G
時代に向けた取り組み動向2. 1
国 内 動 向国内における
Beyond 5G/6G
実現に向けた動きとし ては,総務省において,Beyond 5G
に関する総合戦略の策定に向け,
Beyond 5G
の導入が見込まれる2030
年代の通信インフラに期待される事項や,その実現に 向けた政策の方向性等について検討を行うことを目的 として,2020
年1
月に「Beyond 5G
推進戦略懇談会(座長:五神 真 東京大学総長)」を立ち上げた
[2]
.本 戦略懇談会では,2020
年6
月頃に戦略骨子を取りまと めるとともに,2020
年夏頃を目処に「Beyond 5G
推進 戦略」を策定する予定となっている.また,民間事業者の取り組みとして,
2019
年10
月 に,日本電信電話株式会社(NTT
)が2030
年に光を 中心とした革新的技術により従来の限界を超えた高 速大容量通信及び膨大な計算リソース等を提供可能 な情報通信基盤の実現を目指すことを目的に,業界団 体「IOWN
(Innovative Optical and Wireless Network
)Global Forum
」を設立[3]
,2020
年1
月には,株式会 社NTT
ドコモが6G
に向けて期待されるさまざまな ユースケース,目標性能,技術要素などをまとめたビ ジョンを公表[4]
した.更に,KDDI
がBeyond 5G
時 代の「新しい社会基盤」の構築を目指し,2020
年2
月 に通信設備のオープン化を進めるTelecom Infra Project
(
TIP
)[5]
の国内初の研究開発施設「TIP Community Lab
」を設立[6]
,Beyond 5G
関連事業の研究開発[7]
等を推進するなど,国内電気通信事業者が中心となっ て積極的に
Beyond 5G/6G
実現に向けた検討を進めて いる.2. 2
海 外 動 向海外では,図
2
,3
に示すように,国際標準化機関で6G
技術の標準化に向けた検討が開始されるとともに,世界各国の機関において,産学官による研究推進を前 提とした
6G
の構想検討や研究開発が始まりつつある.特に,欧米では,大学などが先導役となり,国内外の 産学官組織と連携した研究を進めている.また,アジ アにおいても,政府機関が中心となり産業競争力強化 のための研究開発戦略を策定するなど,
6G
実現に向 けた動きが活発化しつつある.具体的な動きとしては,国際標準化機関において は,
1.
で紹介したとおり,ITU-T
がFG NET-2030
を立 ち上げ[8]
,2030
年頃に実現が期待されるユースケー ス(ホログラム通信や感覚通信など)や,それらの実 現に向けた課題,要求条件等を整理し,ホワイトペー パーとしてまとめた[9]
.また,IEEE
では,無線アク セス系を中心とした6G
の実現技術と関連するユース ケースを整理するとともに,具体的なKPI
を定義し,2022
年以降の実証に向けた具体的な検討を開始して図2 Beyond 5G/6Gに関する国際標準化ロードマップ(動
向と見通し)
Fig. 2 Roadmap of international standard of Beyond 5G/6G.
図3 Beyond 5G/6Gに関する各国の取組み状況
Fig. 3 Key initiatives for Beyond 5G/6G in each country.
いる
[10]
.更に,3GPP
においても2023
年頃から6G
標準化の検討を開始し,2027
年頃の標準策定を予定し ている[11]
.各国に目を向けると,欧州では,フィンランドのオ ウル大学が中心となり,
2018
年より世界に先駆けて6G
の検討を開始(6Genesis/2018
〜26
年計画)してお り,xR
(x-Reality
),ホロプレゼンス,自動運転など を主要ユースケースとして挙げ,「ワイヤレス接続」,「分散コンピューティング」,「デバイス・回路技術」,
「サービス・アプリケーション」等を重点研究分野と設 定し,
2019
年9
月にホワイトペーパーを公表してい る[1], [12]
.また,民間の代表的な取り組みとしては,フランスの
SIRADEL
を中心とした「BRAVE
プロジェ クト」におけるサブテラヘルツ無線を活用した技術開 発・検証[13]
や,スウェーデンのEricsson Research
に よる「分散コンピューティング」,「ゼロタッチネット ワーク」等の重要技術の研究開発などが挙げられ[14]
,6G
実現に向けた研究開発が加速している.米国では,
2019
年2
月にトランプ大統領が6G
への取り組み強化をツイートするなど,
6G
実現に向け た研究開発を推進している.特に,ニューヨーク大 学(NYU
)は「テラヘルツ無線」,「モバイルエッジコ ンピューティング」,「Cell-Free MIMO
(Multiple-Input Multiple-Output
)」などの研究を推進しており[15]
,6G
アプリケーションの議論を先導している.また,民 間の取り組みとしては,Nokia Bell-Lab
が6G
の中核 技術として期待される「テラヘルツ対応RAN
(Radio Access Network
)」,「クラウドネイティブアーキテク チャ」,「ゼロタッチオペレーション」,「AI
(Artificial Intelligence
)ベースのアーキテクチャ」等への重点投 資を開始している[16]
.アジアに目を向けると,韓国では,「
AI
を活用した ネットワーク・リソース管理」,「分散型信頼確保(ブ ロックチェーン等)」,「高セキュリティ通信」,「海上・水中通信」などの実現を目指して科学技術情報通信部
(
MIST
)とETRI
が推進役となり,産学官一体となった6G
のための中長期研究開発事業(2020
年より8
年間 計画)を企画している.また,2019
年1
月には,6G
技 術の主導権確保やそれらの技術を活用した新ビジネス 創出を目的としてKAIST
とLG
電子が連携し,KAIST 6G
研究センターを設立[17]
したほか,2019
年6
月にSamsung
がAI
技術やコアネットワーク技術の研究開発推進を目的に
6G
研究所(Advanced Communication Research Center
)を設立[18]
するなど,6G
分野にお ける国際的な主導権確保に向けた動きが加速化してい る.中国では,2019
年11
月に科学技術部(MOST
)が6G
の研究開発開始を発表[19]
するとともに,清華大 学が6G Summit
において,AI
があらゆるネットワー クに関与する「Connected Intelligence Via.AI
」コンセ プトを発表[20]
,ZTE
が6G
の中核技術として「AI
」,「フォトニックス」,「ホログラフィー」を挙げる
[21]
など,欧米だけでなく,アジアにおいても
6G
実現に 向けた検討が本格的に開始されている.このような国際動向を踏まえると,
Beyond 5G/6G
の早期かつ円滑な導入を実現するためには,我が国に おいても,産学官が一体となったエコシステムを早期 に確立し,国際連携の下で研究開発を戦略的に推進す ることが重要となる.3.
ネットワークビジョン2030
2010
年,PIF
では,IoT
(Internet of Things
)の進展 や2020
年代の5G
サービス実現を見据えて,多様化・高度化するネットワークサービスに対応するためのブ
図4 Photonic Vision 2020に示された光技術の進化のトレ ンド[22]
Fig. 4 Trends in the evolution of optical technology shown in Photonic Vision 2020.
レークスルー技術等の検討を開始し,
2014
年にその成 果を「フォトニックネットワークビジョン2020
」(以 下,ビジョン2020
)としてIEEE
の論文誌に掲載する ことで多くの注目を集めた(図4
)[22]
.ビジョン
2020
では,光技術のブレークスルーや早期 サービスの導入に向けた取り組みだけでなく,更なる エネルギー削減のために,従来は電気パケット技術が 主流だったレイヤー2
まで低消費電力が図れる光機能 の適用範囲を拡大させることなども示した.ここで示 した技術は,現在の5G
ネットワークのプラットホー ムとして確実に導入されるとともに,国の戦略的技術 開発ともうまく連携することで,現在,そして近未来 の研究開発の一つの指針となっている.B5G
有線NW
検討会においては,2030
年代のBe-
yond 5G
時代のネットワークインフラを見据えた,言わば,ビジョン
2020
の延長となる「ネットワークビ ジョン2030
」(以下,ビジョン2030
)を策定した.3. 1
実現する新たな社会2020
年6
月現在,世界中で新型コロナウイルス感染症(
COVID-19
)の感染が爆発的に拡大しており,テレワークやオンライン授業など,我々のライフスタイ ルはこれまでに経験したことのない大きな変化が求め られている.こうした状況において,
ICT
への依存は 加速度的に高まっており,インターネット,スマート フォンに代表される普及した通信インフラと,AI
技術 やIoT
等の発展した情報処理を活用し,人々の生活を あらゆる面でより良い方向に変化させるデジタルトラ ンスフォーメーション(DX: Digital transformation
)の 取り組みが重要となる.このDX
は,デジタル技術を 浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革 し,既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新 的なイノベーションをもたらすものであり,サイバー図5 Beyond 5G時代の世界観 Fig. 5 Society in Beyond 5G era.
フィジカルシステム(
CPS
)(注1)やデジタルツイン(注2)といった技術により実世界を情報化し,サイバー空間 でその情報を解析,実世界にフィードバックすること で,様々な社会活動をスマート化でき,
Society5.0
や 更なる社会の高度化を実現していくと考えられる.例 えば,実世界のある装置について,従来は実際に作業 員が触ってみて「熱くなっている」と感じていたもの が,CPS
やデジタルツインにより,デジタルかつ遠隔 で即座に「熱さ」を把握することが可能となる.更に,AI
等の応用により,複数装置の全体の状況をデジタル 化した情報から故障個所の推定や故障原因を予知する といった高度な環境を構築することが可能になると予 想されている.2030
年代を支えるネットワークインフラを考えるに 当たって,まずは,DX
が実現された世界全体を考え て,主流となるであろう技術やサービスを鳥瞰した.キーワードは,「マルチクラウド」,「コンピューティ ング」,「
AI
」,「ロボット」等であろう.図5
は,バー ティカルファーストのアプローチで描いたBeyond 5G
時代の新たな社会像を示す.「バーティカルファース ト」,これは,我々が実現したい社会やサービス・ア(注1):サイバーフィジカルシステムとは,実世界(フィジカル空間))
とデータのみを扱うサイバー空間の二つから社会を構成し,フィジカル 空間の装置等をネットワークに接続し,そこから得られた多様なデータ をサイバー空間(クラウド)で収集し,AI等の大規模データ処理技術等 を駆使して分析/知識化を行い,そこで創出した情報/価値によって実世 界を制御することで高度な社会ネットワークを実現するもの.
(注2):デジタルツインとは,CPSを更に高度化し,サイバー空間上に 実世界の製品,装置の状況,室温等の環境といったあらゆるものを完全 に再現(ツイン:双子)したうえでシミュレーションすることで,実世 界とサイバー空間を常に同期し運営することができる新しい概念.
プリケーションを第一に考え,それを実現するために は,どのような技術を必要とするかを考えるアプロー チであり,図
5
は言わば,ビジョン2030
で目指す社 会像である.2030
年に向けて,社会的には多くの課題が顕在化し てくるだろう.特に,我々技術者が先導して解決を目 指す「労働力不足」や「エネルギーの枯渇」は,SDGs
(
Sustainable Development Goals
)の中でも深刻な課題 である.その一方で,従来は,キーボードやマウス等 を利用しなければ操作できなかったものが,対象とす るモノや操作方法(インタフェース)を意識せずとも いつでも,どこでも,コンシェルジュのようにサポー トしてくれる(ヒューマンセントリック)快適な社会 への期待・欲求が高まっている.これらを支える無線 技術や光技術には,更なる大容量化,省電力化,低遅 延化が求められるが,これまでの研究によって「技術 の芽」は十分に育ってきている.B5G
有線NW
検討 会においては,このような,社会課題や欲求といった「ニーズ」と,それらを支える要素技術「シーズ」の相 乗効果により新たな社会が創出されると考えた.
具体的には,感覚通信(ハプティックス)やホロプ レゼンスといった対面でなくとも現実世界と同じ臨場 感でより自然なコミュニケーションがとられるように なるだろう.また,人間による労働の多くがロボット により置き換えられ,
AI
,ロボット,xR
等を組み合わ せた仮想社会が主体となっていくだろう.人々のエー ジェントがサイバー空間で協調する「脳のクラウド化」により,知の時間と空間の集積化が進み,主要なこと は仮想空間で決定・判断をするようになるかもしれな い.更に,情報は地上だけにとどまらず,海中や宇宙 といったあらゆる空間と連携され,モビリティや機械 自身が知能や感情をもち互いに制御し合う,超スマー トでインクルーシブな社会となるだろう.
そこで我々は,それらを支えるためのネットワーク 実現のために,図
6
に示す三つの軸(ディメンション)を定義した.第一の軸は,「三つの自」で表される.自 律化(
Autonomy
),自己組織化(Self-organized
),自動 化(Automatic
)の技術であり,特別な技術や人手が無 くとも,柔軟性をもって,誰もが簡単にサービスやネッ トワークの利用が可能となる.第二の軸は,「ヒュー マンセントリック」である.例えば,今でも音楽配信 サイトは,ユーザの趣向を推定してお勧めの曲を配信 しているが,今後は,一人一人のニーズに応じたサー ビスの推奨やコーディネートに加え,品質,価格,ス図6 我々が目指す三つのディメンジョン Fig. 6 Three research target directions.
ピードといった
QoS
(Quality of Service
)にも適応し ていくことで,個々に異なる要求レベルに応じて柔軟 にサポートする,テーラーメイド型の社会が実現でき る.三つ目の軸は「環境」である.これは,SDGs
の 中でも最重点項目の一つであり,積極的に取り組む必 要がある.特に,次世代ネットワークにおいては,環 境負荷の軽減(省電力化等)が重要な検討項目であり,資源が乏しく少子高齢化が進む我が国では,直近の課 題として既に多くの検討がなされており,課題先進国 として破壊的なソリューションを創出することで,国 際社会にも大きく貢献できると確信する.
2. 1
で紹介したNTT
のIOWN
構想においても,社 会のスマート化のため,フォトニクス等の従来技術を 大きく超える革新的技術で実現されていくことが示さ れている.3. 2 Beyond 5G
のネットワークアーキテクチャと技術
総務省では,
5G
やIoT
等の新たなICT
サービスの 進展を見据えて,2017
年に「将来のネットワークイン フラに関する研究会(座長:相田 仁 東京大学大学院 教授)」を開催し,5G
時代のネットワークインフラに 求められる主な要求条件として,図7
の1
〜6
を定義 した[23]
.B5G
有線NW
検討会においては,そこで示された 各要素技術や要求条件の現状分析を行い,3. 1
で示した
Beyond 5G
時代の新たな社会を実現するために引き続き強化すべき技術は何か,従来とは非連続な視点 で新たに求められる技術・要求条件は何かを検討する ことで,図
8
のとおり,「1
〜6
の更なる発展・高度化」と「
7
,8
の新たな要求条件の必要性」を示した.具体的には,
5G
の特徴的機能である「1
.大容量図7 5G時代のネットワークインフラに求められる要求条 件(2017年総務省取りまとめ[23])
Fig. 7 Technical requirements for 5G network infrastructure (MIC report 2017).
図8 Beyond 5G時代のネットワークインフラに求められ
る要求条件
Fig. 8 Technical requirements for Beyond 5G network infrastructure.
化」(
eMBB
:enhanced Mobile Broadband
),「2
.省電 力化」(Energy Saving
),「3
.低遅延化」(URLLC
:Ultra- Reliable and Low Latency Communications
)は休むこ となく進化させる必要がある.特に省電力化は環境へ のインパクトを考え,大きなブレークスルーを必要 としている.また,感覚通信やロボット制御,自動運 転,遠隔地間での協調作業など,より一層のリアルタ イム性が求められることから,従来の無線区間やアク セス区間のみならず,エンド・ツー・エンドでの「3
. 低遅延」,「4
.柔軟性」(Flexibility
),「5
.高効率性」(
Efficiency
)を実現できるよう更なる高度化が必要となる.更に,サイバー空間とフィジカル空間が融合し た大規模かつ複雑な環境においてもあらゆる脅威に適 応できるよう,リアクティブなセキュリティからプロ アクティブなセキュリティへの進化といった「
6
.安 全・信頼性」(Safety & Reliability
)の高度化も求めら れる.一方,
Beyond 5G
時代の破壊的なサービスを創出するための新しい要素として,「
7
.自律創発性」(Auton-
omy
)と「8
.展開性」(Deployability
)を定義した.「7
.図9 Beyond 5G時代の目指すべきネットワーク像 Fig. 9 Overview of Beyond 5G network.
自律創発性」は単なるオートマチックではなく,分散 したあらゆる機器が自律的に協調・連携することで,
ユーザごとの要求に応じた最適な解を,人手を介すこ となく(ゼロタッチ)瞬時に導出することを言う.言 わば,「ネットワークの知能化」,「パーソナライズと オートメーションの融合」である.「
8
.展開性」は,情報通信の伸展(オムニ・コネクティビティ)が究極 まで進み,人類の暮らす空間のみならず,深海や宇宙,
更には人間の体内といった空間までがネットワーキン グされることで,あらゆる人やモノがどこでも通信を 可能とする.言わば,「ニューフロンティア」である.
図
9
に,ビジョン2030
で目指すネットワーク像を 示す.物理的ネットワーク構造としては,ローカル メッシュ(注3)でクラウドセントリック(注4)な階層型ネッ トワークであり,従来のセンタークラウドに加え,メ トロにはローカルクラウドを,基地局等のエッジには エッジコンピュータを配置する.これを複数のクラウ ドが結合する「マルチクラウド」と呼ぶ.また,仮想 的にはサービスやアプリケーションごとにネットワー ク全体でのスライス化が進み,マルチサービスのスラ イスクラウド化が浸透する.クラウドデータセンター は,低消費電力のプロセッサーを搭載することで,AI
によるデータ解析や画像認識等の大規模処理を得意と し,エッジや無線区間にフレキシブルデバイスを使っ たプログラマブル機能を搭載することで,高速なレス(注3):ローカルメッシュとは,モバイル基地局等に設置した複数のエッ ジコンピュータ間の通信をメッシュ状に行うことを指す.物理的な接続 ではなく,低位レイヤーの例えば,光ワンホップで接続し,かつ必要な ときだけパスを張るバーチャルな接続形態を含む.
(注4):クラウドセントリックとは,ソフトウェアやデータ処理サービ スだけでなく,ネットワークの物理的なトポロジーも含め,クラウドを 中心とするネットワークを指す.近年は,物理的なクラウドデータセン ターも分散配置をしており,クラウド間連携を行い,ユーザはホストク ラウドに接続する形態が望ましい.
ポンスとプレプロセッシングを実現する.更に,量子 コンピュータ等も特定目的のアクセラレーターとして 利用することで,高速かつ高度な処理も可能となる.
これらのハイスペックコンピューティングをエッジ,
ローカル,センターで最適かつ効率的に連携するため には,これまで以上に高度なネットワークが必要と なる.
具体的には,人の思考や五感情報,モビリティ情報 等の膨大なデータをリアルタイムに伝送するためには,
⃝ 1
超大容量(コア:ペタビット超(従来の100
倍),ア クセス:テラビット超(従来の10
倍)),⃝ 2
超低遅延(
0.1
ミリ秒(従来の1/100
)),⃝ 3
正確な同期性(端末間 ジッタ10
ピコ秒(従来の1/1000
))を有し,かつそれ らを⃝ 4
小型・省電力(1
ビット伝送当たり0.01mW
級(従来の
1/100
))に実現することが求められる.また,高性能化された
VLSI
(Very-Large Scale Integration
)間 のインターコネクションは,光技術の高度化により,従来の架間,ユニット間からボード内,チップ間とよ りショートレンジ(
⃝ 5
)になり,三次元空間配線等の ブレークスルーを必要とする.更に,ネットワーク全体での仮想化が進展し,新規ス ライス(サービス)の早期導入,複数スライス間のフレ キシブルな容量変更といった
⃝ 6
柔軟性/
高効率性も求 められる.加えて,アプリケーションは深海から宇宙 といった新たな領域まで広がっていくだろう(⃝ 7
).そ して,これらの極めて大規模かつ複雑なネットワーク を,AI
等を活用した⃝ 8
自律制御/
ゼロタッチオペレー ションや,⃝ 9
プロアクティブセキュリティといった高 度かつ強固なネットワーキング技術で最適制御を行う ことで,ユーザがネットワークを意識することなく,より安全に,より快適に最先端技術の恩恵を受けるこ とができ,「人」
×
「モノ」×
「ネットワーク」が完全に 融合した真のBeyond 5G
時代の幕開けとなるだろう.4. Beyond 5G
時代のブレークスルー技術本章では,
3. 2
で示したBeyond 5G
時代のネット ワークインフラに求められる要求条件やネットワーク 像を実現するために,ブレークスルーが期待される技 術について解説する.4. 1
大容量(コア)4. 1. 1
技術課題の背景2040
年頃のコアネットワークの光伝送システムに要 求される容量は,5G
時代の100
倍超の毎秒50
〜100
ペタビット級に達するとも試算されている[24]
.光伝図10 マルチコアファイバや高集積受光アレー素子による 空間多重伝送技術
Fig. 10 SDM transmission technology using multi-core fibers and highly integrated photo-detector array.
送システムの飛躍的な大容量化を達成するためには,
新たな多重軸「空間多重」の活用や新たな光周波数帯 域の開拓,高効率・高集積の超並列伝送システム等の 技術革新が必須である.
4. 1. 2
取り組むべき研究開発の方向性と動向(1)
空間多重技術デジタル信号処理(
DSP: Digital Signal Processing
) 技術の進展により光チャネルの高速化・周波数利用 効率は飛躍的に向上する一方,所要信号対雑音比に 対する1
ファイバ当りのデータ伝送容量は限界に近 づきつつあり,今後の光伝送システムは,空間分割 多重(SDM: Space Division Multiplexing
)の適用が必 要不可欠である[25], [26]
.これまで,コア多重を利用 するマルチコア光ファイバ(MCF: Multi-Core Fiber
)(図
10
),モード多重を利用する数モード光ファイバ(
FMF: Few-Mode Fiber
)などの多様なSDM
ファイバ が検討されており,従来よりも100
倍以上の光チャネ ル数を増加可能なマルチコア・マルチモードファイバ の開発も進み,毎秒10
ペタビット級の伝送容量の伝送 実験にも日本発で成功している[27]
〜[29]
.更に,マ ルチモード光ファイバ伝送は,独立に光チャネルを扱 うことができる(非結合型)マルチコア光ファイバ伝 送とは異なり,未知な部分が多く,光チャネル間の結 合を解くMIMO
信号処理技術の研究開発や,モード の振舞いの解明[30]
等も必要である.最近では,モー ド群を入れ替えつつ中継する巡回モード群置換技術に より9,000km
を超える太平洋横断級の長距離FMF
伝 送実験の成功例が報告されている[31]
.今後は,SDM
光ファイバを含めた光伝送システムを構成する種々の 要素技術(光中継技術,多重分離技術等)の研究開発 の更なる成熟と活性化に加え,早期実用化に向けて,標準外径
125µm
のMCF
のケーブル化やテストベッドによる長期信頼性検証など商用化へのトライアルが 重要である
[32], [33]
.また,SDM
光ファイバの標準 化[34]
や効率的な製造技術の確立[35]
が重要である.(2)
超広帯域技術従来の波長分割多重(
WDM: Wavelength Division Multiplexing
)の更なる広帯域化を目指して,新たな光 周波数帯域の開拓も進められている[36], [37]
.これま では,単一モード光ファイバ(SMF: Single Mode Fiber
) の伝送特性を重視して1550nm
,1310nm
を中心とす るC
バンド,O
バンドが広く用いられてきた.近年,非線形性の抑圧と伝搬遅延の低下を目指した中空ファ イバ(
HCF: Hollow Core Fiber
)の研究開発[38]
が急 速に進みつつあるが,これらのファイバでは低損失で 伝送可能となる帯域を大幅に拡張できる.また,莫大 な光周波数資源を用いた波長ルーティングシステムの 研究開発など,ネットワーク設計の自由度を向上させ る取り組みもなされている[39]
.従来の光通信用デバ イスはSMF
の利用を前提として1550nm
や1310nm
における性能の最大化が大きな目標となっていたが,HCF
が実用になると,長距離伝送に適した帯域はより 自由に設計できることになり,光デバイスの開発の方 向性が大きく変化する可能性がある.光伝送システム の効率を支配するのがファイバではなく受発光デバイ スとなり,レーザーや光検出器が高効率で動作可能な 帯域を探ることがより重要となる.(3)
高効率・高集積超並列伝送技術広帯域
WDM
方式及びSDM
方式によって得られる 超多数の光チャネルを十分活用した大容量光伝送シス テムを実現するためには,デジタルコヒーレント技術 を用いた超並列伝送が不可欠となる.超並列伝送にお ける伝送特性の観点では,WDM
は波長間の干渉が,SDM
はコア間及び伝搬モード間の干渉が課題となる.これらに対し,様々な干渉抑圧技術の検討が行われて いる.例えば,マルチキャリヤ伝送における干渉抑圧・
補償技術や複数
DSP
の連携処理技術について,総務 省委託研究「新たな社会インフラを担う革新的光ネッ トワーク技術の研究開発」にて検討が進められてい る[32]
.加えて,光送受信や中継,スイッチ等のネットワー ク構成要素を形作る高集積光モジュールが重要な技術 開発要素となる.特に空間的に分布するような多数の 光チャネルを扱うために,光モジュールを高密度に集 積化する必要があり,シリコンフォトニクスやヘテロ ジニアス集積光デバイス,パラレルフォトニクスなど,
空間並列性,空間周波数の活用を中心とした大規模な 集積光デバイス基盤技術が重要となる.例えば,図
10
のような,20GHz
以上で動作する高集積・二次元受光アレー素子が開発されている
[40]
.また,これらの大 量の光チャネルを効率的かつ低コストに収容するため に,レンズフリーの実装・接続技術も重要となる.4. 2
大容量(アクセス/
ショートレンジ)4. 2. 1
技術課題の背景Beyond 5G
時代におけるアクセスネットワークには,収容局と加入者を光ファイバでつなぐ
PON
(Passive Optical Network
),無線基地局とリモート局をつなぐ モバイルフロントホール等をはじめ,5G
時代の10
倍 に相当する1
ユーザ当たりテラビット超への高速化が 求められており,チャネル当たりの通信速度の高速化 や光・無線融合等の技術革新が必須である.更に,マ ルチクラウドやエッジコンピューティングなど,コン ピューティングファーストとなるBeyond 5G
時代で は,計算処理の更なる高速化が必須であり,コンピュー タ内部のチップやボード間通信といったショートレン ジにおいても,光化の導入によるより一層の大容量化・高速化が期待される.
4. 2. 2
取り組むべき研究開発の方向性と動向(1)
大容量PON
技術我が国においては,
10G-PON
によるサービスが展開 され始めているが[41]
〜[43]
,更なる高速化を実現する ために,IEEE
においては,50G-EPON
(IEEE802.3ca
:25Gbps×2
波長)[44]
や,長距離化(>50km
)・多接続化(
64
分岐)に向けたSuper PON
(IEEE802.3cs
)の標準 化が進められる[45]
など,今後は1
波長当り100Gbps
超技術(ボーレート> 50GBd
,Pulse Amplitude Mod- ulation
(PAM
)4/8
化)や,TWDM
(TDM/WDM
)技 術の進展により,400G-PON [32]
を超えるテラビット 級PON
の技術確立が期待される.要素技術としては,SOA
(Semiconductor Optical Amplifier
)等の高性能化,アナログとデジタル信号処理の協調,デジタルコヒー レント技術等の適用による高速化・長延化に加えて,
低遅延化(
DBA
(Dynamic Bandwidth Assignment
)制 御の高速化含む)や高信頼性の達成が求められる[46]
.チャネル当たりの伝送速度の高速化については,
ボーレートの高速化と高度変調方式の併用が検討され ている.今後は,
CMOS
(Complementary Metal Oxide Semiconductor
)の動作速度限界を打破し,DAC
(Digital to Analog Converter
)の帯域を拡大するアナログ・マル チプレクサ技術や,多値QAM
(Quadrature Amplitude Modulation
)の信号点配置をシェーピングする高次多値 変調技術等の技術確立が期待される.例えば,InP
半導 体を用いて,120GBaud PDM-PS-64QAM
(Polarization
Division Multiplexed Probabilistically Shaped 64QAM
) を実装することで,チャネル当たり1.3Tbps
伝送の 成功が報告されている[47]
.このように,デジタルコ ヒーレント技術は,1
波長で100Gbps
以上の容量を容 易に実現できることから,PON
の高速化に有用である 一方,アクセスネットワークに適用するためには,低 廉化,DSP
の負荷軽減,低遅延化等が今後の重要な課 題となる.(2)
次世代RoF
技術モバイルフロントホールでは,無線サービスのため の電波のアナログ波形を光ファイバを使って伝送する システムである
RoF
(Radio over Fiber
)が用いられる.最近では,波形をデジタライズしてデジタル伝送する デジタル
RoF
が広く用いられているが,5GNR
(5G New Radio
)においては,所要伝送容量が1Tbps
に達 する可能性があり,適用が困難である.数100MHz
を 越える広帯域波形の伝送には波形を直接光振幅などに 変換して伝送するアナログRoF
やデジタルとアナロ グの中間的存在であるデルタシグマ変調の利用が有効 と考えられる[48]
.また,アナログRoF
においても波 形生成はDAC
に依存しており,今後はアナログであ るかデジタルであるかの単純な選択ではなく,量子化 をどこで行うのか,サンプリングレートをどのように 設定するのかといった個々の機能をどのようにBBU
(
Base Band Unit
)とRAU
(Remote Antenna Unit
)で 分担するべきかを最適化する設計手法を確立していく 必要がある.また,
Beyond 5G
時代の膨大なアンテナ局収容のために,高線形性の光インタコネクト技術が展開され,
デバイスレベルでの光と無線のシームレス伝送メディ ア相互変換が重要になる.結果として,図
11
のよう図11 中・短距離コミュニケーションのための伝送メディ ア変換及び情報通信技術
Fig. 11 Optical and wireless convergence ICTs for dedicated moderate range communications (DMRC).
な自由度の高い中短距離コミュニケーションシステム が構成され,更にショートリーチ接続では光無線やテ ラヘルツ無線のようなサブテラビット級の超大容量・
空間伝送技術の発展も期待される
[49]
.更に,次世代
RoF
等の高度化として,光と無線の シームレスな融合が期待されており,両者が一体化す ることで,4. 4. 2 (3)
や4. 5. 2 (4)
に述べるようなネッ トワークの超低遅延化,高精度時刻同期やシステム設 計の柔軟化に貢献できる.それらの基盤技術として,光と無線の間で電磁波としてのコヒーレンスを完全に 保持するフルコヒーレント伝送方式
[50]
及びシームレ スな光・無線変換デバイス[51]
が提案されている.(3)
チップ間光インターコネクション技術 チップやボード間の数cm
〜100cm
程度の短距離通 信にも光技術が利用される.これはデータ信号に含ま れる高周波成分の電気伝搬ロスに比べ光伝搬が有利に なるためである.このような短距離のテラビット級大 容量通信では,高速な光送受信技術のほか,微小なデ バイス内で高周波信号と光信号を融合して活用する革 新技術が必要となる.また,接続数の膨大なインタコ ネクト網では,経路スイッチング技術の発展に加え,従来利用されていない短波長領域(
T
,O
バンド)の大 波長空間や,空間多重軸を巧みに利用したスイッチレ スネットワークの可能性も期待される[39]
.「短距離」では光ファイバロスを第一としないいままでにないシ ステム構成が創造されるかもしれない.
4. 3
超 省 電 力4. 3. 1
技術課題の背景2030
年 頃 のIT
関 連 機 器 で 消 費 さ れ る 電 力 は ,1,480TWh
(2016
年の36
倍)に達すると試算されてい る[52]
.爆発的な情報量の増加が予想されるBeyond 5G
時代において,光ファイバ等を用いて情報を効 率的に伝送するためには,将来の光送受信デバイス の消費電力は5G
時代の100
分の1
以下に相当する0.01mW/Gbps
程度まで省電力化が求められる.このような効率的な通信ネットワークを実現するためには,
ネットワークの光化やデバイス技術の高度化等の技術 革新が必須となる.
4. 3. 2
取り組むべき研究開発の方向性と動向(1)
ネットワークの光化技術同じスループットを実現するには,波長やミラー等 で空間的方路を変更する処理を光で実現することで,
IP
アドレスを見て方路を変更する処理を電気によっ て実施した場合と比べ,1/500
〜1/1000
の低消費電力図12 光アグリゲーションネットワークによる省電力化 Fig. 12 Energy efficient center cloud type network architecture
using optical aggregation network.
化が図れる
[53], [54]
.これは波長多重光伝送路を,空 間スイッチで経路切り替えするシンプルなネットワー ク構成によるものである.今後,4. 1. 2
で述べた空間 多重技術や超広帯域技術等の多重度向上の技術がます ます進化することにより,パケット多重で効率化を求 める必然性は減ってくる.そのため,光コア網をレイ ヤー2
で実現する方式[22]
や,図12
のような光のア グリゲーション(多重/
分離)ネットワーク(注5)で,途 中のパケット処理やデータ処理は行わず,空間/
時間/
位相等を利用した多重化のみ行い,センタークラウド に全てのトラヒックを集中させる方式[55]
などが期待 される.結果として,距離に関係なく,全てセンター クラウドを通過する一方,通信は中央のルータを一回 通過するのみで,従来の多段ルータ構成が必要なくな ることから,ネットワークのシンプル化や,エンド・ツー・エンドでの通信の高速化,低消費電力化を実現 できる.
(2)
高集積光電子融合技術次世代メガデータセンタ(
DC
)やマイクロDC
,High Performance Computing
(HPC
)等のデータ通信の省電 力化に向け,I/O
(Input/Output
)の光化を念頭に,光・電気融合が容易でコスト効率の高い光トランシーバ
(光
I/O
)製造技術である「シリコンフォトニクス技術」の研究開発が進められている
[56]
.例えば,デジタル コヒーレント向けとして,シリコンチップ上に小型EO/OE
(Electrical-Optical/Optical-Electrical
)変換機能(注5):既存のネットワークは,端末間を相互に接続するためのメッシュ 通信を基本としており,アクセス,メトロ,コアの階層化で実現してい る.そのため,隣接の接続はアクセスで折り返し,長距離の接続はメト ロ・コアを中継して接続していた一方,光のアグリゲーションネット ワークは,隣接・長距離を問わず,いったんセンタークラウドに集めた うえで,センタークラウドから目的地に接続する構成となる.そのため,
通信距離が伸びるが,上り通信の宛先はセンタークラウドに限定される ため,シンプルなアグリゲーション(多重)のみで実現でき,下り通信 もセンタークラウドからソースルーティングを使い,シンプルなディス アグリゲーション(分離)のみで実現できるメリットがある.
図13 ヘテロジニアス集積による光デバイス高効率化 Fig. 13 Heterogeneous photonic integrated circuit (PIC) technology.
等を実装した光電子融合アッセンブリ
[57]
や,スイッ チASIC
(Application Specific Integrated Circuit
)と同 じパッケージに光I/O
を設けるCo-packaged Optics
技 術により,1/10
以下の小型化や50Tbps
以上のスイッ チング容量が実現されている[58]
.また400Gbps
伝送 用光I/O
コアモジュール[59]
や,ナノ秒高速光スイッ チ[60]
,32 × 32
大規模スイッチマトリクス[61]
など,光化に重要なネットワーク要素の研究が国内外で進 められている.これらシリコンフォトニクス技術の進 展により,
DC
の将来のスケーリングを満足すること に加え,今後DC
間,MAN/WAN
(Metropolitan Area Network/Wide Area Network
),アクセスなどの伝送シ ステムへの適用が広がることが期待される.超省電力化に向けた他の技術的側面として,電子回 路と光回路を結ぶ伝送路での電力消費を削減する「光 電子融合技術」や,レーザーや信号処理等の光増幅を 伴う光集積回路に向けて,異種材料の特性を最大限に 発揮する「ヘテロジニアス光集積技術」が期待される
(図
13
)[62]
.このような光集積デバイス技術では,環 境耐性が低消費電力化を実現するための重要な要素と なる.特に温度耐性に関しては,シリコン光回路の波 長安定性やゲインデバイスの高温安定性など,将来の 技術課題が存在するものの,光デバイス物性の環境耐 性向上及び集積デバイスの超小型化等により,大電力 を要するクーラー機構の大幅な消費電力削減が期待さ れる.また,データ伝送の高速化に伴い,デバイス内 での高周波信号等の利用が増大する.このため,光集 積回路の小型化のほか,光やテラヘルツ等の高周波を 効率的に融合する革新的な光電子集積デバイス技術が 重要となる.更に,電子回路で担っていた信号処理の一部を光に オフロードする「フォトニックアクセラレーション技 術」も飛躍的な電力削減のイネーブラとして期待が高 い.この実現技術の一つとして,フォトニック結晶や
プラズモン等の量子・ナノ構造技術を用いた超小型・
光電変換素子の集積化が期待されている
[63]
.4. 4
超低遅延・同期性4. 4. 1
技術課題の背景これからいよいよ本格化する
5G
時代は,無線区間 の伝送遅延を4G
(LTE Advanced
)の10%
に抑える ことが要求されている[64]
.Beyond 5G
時代において は,リアルタイム性に対する要求が5G
以上に厳しく なり,デバイスとエッジ間の限定的なエリアに特化し た超低遅延化(伝送遅延0.1
ミリ秒程度)に加え,広域 展開においても数ミリ秒級の低遅延化が要求される.また,究極の低遅延化を補完するために,端末間の遅 延ずれ(ジッタ)が
10
ピコ秒程度となるよう高精度 な協調も期待される.このようなネットワークの超低 遅延化を実現するためには,ネットワーク処理の低遅 延化や端末間の高精度時刻同期技術等の技術革新が必 須である.4. 4. 2
取り組むべき研究開発の方向性と動向(1)
ネットワーク処理の低遅延化技術超低遅延を実現するためには,アプリケーション要 求に対して,ユーザ端末により近い領域で,データを処 理する技術変革を突き進めることが重要となる.デー タやパケット処理を行うネットワーク機能を,クラウ ドやコア領域からエッジ領域へ分散配備する「エッジ コンピューティング」による低遅延化がますます進む 一方で,そのトラヒックを処理するためには,エッジ サーバで発生するパケット処理遅延を極限まで削減 する必要がある.つまり,超低遅延を実現するために は,仮想化技術によりネットワーク機能を効率的に エッジ領域にオフロードし,かつアクセラレーション 技術
[65]
等によりエッジでの処理を高速化する「ネッ トワーク処理の低遅延化技術」が重要となる.アクセラレーション技術としては,パケット処理を
CPU
(Central Processing Unit
)に専有させることで高 速化を図る,DPDK
(Data Plane Development Kit
)[66]
といったソフトウェアベースの技術や,
FPGA
(Field Programmable Gate Array
)などのプログラマブルデバ イス上に実装するハードウェアベースの技術が検討さ れている.特に後者は,OVS
(Open vSwitch
)[67]
の ネットワーク処理をハードウェア上に実装することで パケット処理の更なる高速化が期待できることから,盛んに研究開発されている.更に,
P4
(Programming
Protocol-Independent Packet Processors
)[68]
の登場に より,以前に比べ実装の複雑性は低減されつつあるものの,今後,エッジ領域への実装を考慮した場合,頻 繁に発生するネットワーク機能のマイグレーションや ソフトウェアアップデートに追従できるよう,ネット ワーク機能と協調した柔軟性の向上と,プログラマビ リティの高度化・運用性向上が求められる.
(2)
ネットワーク内コンピューティング技術 エッジ等でのネットワーク処理の低遅延化が進展す る一方,ライブ情報配信などのサービスは,情報源を 必ずしもエッジに置けるとは限らない.そこで,エン ド・ツー・エンドでの低遅延化実現のためには,エッ ジでの処理のみに頼ることなく,サービス処理配分を ネットワーク全体に広げ,ネットワーク機能やデータ 処理機能を最適配置する「ネットワーク内コンピュー ティング技術」も重要な要素となる.例えば,生成され る情報やサービス要件にあわせて,機能をネットワー ク内に柔軟に配備できるようにし,その機能や通信経 路を自動選択するなどしてネットワークの区間ごとの 遅延配分を最適化することで,極限まで遅延の低下を 追求したエンド・ツー・エンドでの低遅延化が期待で きる.更に,エンド・ツー・エンドでの大容量かつ帯域保 証された超低遅延サービスの提供を実現するためのい ままでにないアプローチとして,端末・ユーザ・サー ビスごとに,多地点間にフルメッシュ接続された光パ スを波長単位で割り当て,プロトコル・交換処理を単 純化する手法
[69]
などへの取り組みが行われている.(3)
端末間高精度時刻同期技術「究極の低遅延」を実現するためには,通信デバイ スの様々な処理を同期させる方法も考えられる.例え ば,特定の優先サービスに限って,サーバ及び中継点 の全てのデバイスで「待ち時間ゼロ・処理時間最小」と なるよう同期制御することで,「ゼロ時間」でのサービ スが可能となる.ただし,遅延や同期については,光 速によって制限される「物理遅延」を考慮する必要が ある.物理遅延が顕在化するところまで,ネットワー ク構成を突き詰めるまでには開発の時間を要するもの の,実際に
100 µ s
以下の低遅延性能を実現するために は,数10km
の伝送距離が限界となることを考慮しな ければならない.一方で,多数のアンテナ局を利用するような
Beyond 5G
時代においては,そのアンテナ局の時刻同期が重要となる.
4. 2. 2 (2)
で述べたようなテ ラビット超級の光・無線シームレス伝送を実現するに は,そのビットレートの増大のみならず,アンテナ局 間の同期精度が重要となる.5G
時代においては,数10
ナノ秒の時刻同期が議論されている一方で,3. 1
で 紹介したようなデジタルツインを高精度に実現する場 合などにおいては,ピコ秒程度の同期が求められる可 能性があり[70], [71]
,将来の100
ギガボーレート級以 上のデータ伝送を想定した場合においては,10
ピコ秒 程度のシビアな精度が要求される可能性がある.4. 5
高効率性・柔軟性4. 5. 1
技術課題の背景5G
時代には,ユーザのデータが4G
(LTE Advanced
) のピーク速度比20
倍となる,上り10Gbps/
下り20Gbps
を求められ[72]
,これらのデータが同時にクラウドに 集中することで,経由するネットワークの逼迫が懸念 されている.Beyond 5G
時代は,ユーザピークが5G
の5
〜10
倍の100Gbps
を超える[4]
とも,1Tbps
に達 する[12]
とも言われており,ますますのネットワー ク逼迫が予想される.こうした急増するネットワーク 負荷を軽減するためには,効率的なデータ流通やネッ トワーク運用が求められており,コンテンツ配信の最 適化,ネットワーク資源の柔軟な活用(ネットワーク 資源の地産地消)など,より一層の技術革新が必須と なる.4. 5. 2
取り組むべき研究開発の方向性と動向(1)
データセントリック技術5G
時代においては,スライシングによって低遅延 とブロードバンド,IoT
のサービスを異なるセグメン トで提供しようとする考えが一般的になったように,一定以上のトラヒック量に達すると安定的なデータ 流通が困難になることは自明である.これらを解決 するためには,ネットワーク全体(エンド・ツー・エ ンド)を効率的に活用することが求められる.例え ば,
Information Centric Networking
(ICN
)[73], [74]
等 のInternet Protocol
(IP
)に依存しないデータセントリッ ク技術の活用である.現在主流となっているContent Delivery Network
(CDN
)は,コンテンツ要求に配信 元のIP
アドレスを必要とし,IP
アドレスに紐づいて ユーザ端末に近いと考えられるコンテンツサーバが導 かれる.一方,ICN
では,コンテンツ名に基づいた要 求であり,ユーザはコンテンツ配信元となるサーバの 場所を知る必要はない.ネットワークが適切なサーバ を見つけてユーザにコンテンツを配信するネットワー ク主導の通信であり,より一層の効率的なデータ流通 には欠かせない技術である.(2)
ネットワーク資源利用の柔軟化技術ネットワーキングにおいては,経路制御やロードバ