• 検索結果がありません。

片面的強行規定の 趣旨 との抵触に 関する判断と脱法行為論

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "片面的強行規定の 趣旨 との抵触に 関する判断と脱法行為論"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

片面的強行規定の 趣旨 との抵触に 関する判断と脱法行為論

⎜⎜ 保険法との関係を中心にして ⎜⎜

宮 根 宏 一

■アブストラクト

保険法に多く含まれている片面的強行規定については,それらの趣旨に間 接的・実質的に抵触する特約も無効となるものと解されており,そうした趣 旨との間接的・実質的な抵触の有無をどのような枠組みで判断すべきかが問 題となっている。

この問題について,民法等における脱法行為論に係る学説・判例の状況等 を手がかりとして整理した結果,片面的強行規定の趣旨と特約との抵触の有 無に関する判断の法的な性質は,拡張解釈・類推解釈を含む広い意味での片 面的強行規定の解釈とその当てはめであって,当該判断の実質的な内容の中 核は,片面的強行規定の規制目的と特約の目的のそれぞれの合理性・必要性 の大きさに関する評価を中心とした比較衡量であること,等を確認すること ができた。

■キーワード

保険法,片面的強行規定,脱法行為

*平成23年6月4日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成23年7月6日原稿受領。

(2)

1.問題の所在

昨年4月から施行されている保険法には,保険契約者等に不利な特約 を 許さずに無効とする,いわゆる 片面的強行規定 が多く含まれている。そ して,この片面的強行規定については,それらの内容に直接的・形式的に反 する特約ばかりではなく,それらの趣旨(当該規定を設けた目的)に間接 的・実質的に抵触するような特約も無効となるものと解されている 。これ にともない,従前の約款規定を含む様々な特約に関して,保険法の片面的強 行規定の趣旨との抵触の有無が論じられるようになった。

例えば,従前の損害保険の約款では,損害の不実告知が免責事由とされて おり,当該約款規定によれば,それ自体は不正なものではない保険事故が発 生した後に,当該保険事故によって生じた損害が保険会社に対して過大に申 告されて,保険金について詐欺的な請求が行われた,というようなケースで も,保険金の支払は免責となっていた 。一方,保険法では,保険金の詐欺 請求があれば保険会社は重大事由解除を行うことができる(同法30条2号 等)ものとされたが,重大事由解除の効果として支払免責が得られるのは,

解除の原因である重大事由が生じた時(上記のケースでは過大請求がなされ た時)以降に発生した保険事故に関する保険金に限られている(同法31条2 項3号等)。したがって,上記のようなケースにおいて重大事由解除が行わ れても,当該解除の効果としては,過大請求の対象となった保険金について の支払免責は受けられない(保険事故の発生が重大事由の発生よりも前であ るため。)。そこで,重大事由解除の効果としては免責が受けられないにもか かわらず,前記の約款規定の効果として保険金の支払が免責になるのは,重

1) 本稿では,保険法の用語法に従い,保険法の規定内容とは別に当事者間で定 めた約定という意味で, 特約 という語を用いている。

2) 例えば,萩本修編著 一問一答保険法 (商事法務,2009年)p.21。

3) 当該約款規定を適用して実際に保険金支払の免責を認めた下級審判例も,東 京高裁平成16年3月11日判決 金融・商事判例 1194号(2004年)p.15等の 相当数のものが存在していた。

(3)

大事由解除の効果を定めた保険法の片面的強行規定(同法33条1項)の趣旨 に抵触するのではないか,ということが問題とされた 。

しかし,こうした片面的強行規定の趣旨と特約との抵触の有無をどのよう な枠組みで判断すればよいのかということは,必ずしも明らかではない。

すなわち,上記の抵触の有無については,片面的強行規定の趣旨ないし法 的性質(以下 趣旨等 という。)と,特約の趣旨等を比較し,両者の異同 によって抵触の有無を判断しようとする(前者の趣旨等と後者の趣旨等が別 のものであれば,抵触の問題はないものとする)立論が,比較的多く見られ る ところである。こうしたアプローチについては,直感的には正当なもの のようにも思われるものの,次のような疑問が存在する。

①規定の趣旨等については,様々な角度からの説明,ないしは様々な抽象 性のレベルでの説明が可能なので,それらの比較による異同の評価も,説明 の角度や抽象性のレベルによって結論が変わりうる相対的なものではないの

4) 上記の抵触を主張するものとして,例えば,萩本修 保険法現代化の概要 落合誠一=山下典孝編 新しい保険法の理論と実務 (経済法令研究会,2008 年)p.25,村田敏一 新保険法の総論的課題について 保険学雑誌 608号

(2010年)p.20以下。

5) 例えば,前記の重大事由解除の効果に関する片面的強行規定の趣旨と損害の 不実告知に関する免責約款との関係について論じた,山下友信 保険法と判例 法理への影響 自由と正義 2009年1月号

p.29以下,遠山優冶 重大事由解

除の効力と保険者の免責について 保険学雑誌 606号(2009年)p.104以下 等。

6) この点を示唆するものとして,大塚英明 片面的強行法規としての告知制度 と約款規定との関係 金澤理監修・大塚英明=児玉康夫編 新保険法と保険契 約法理の新たな展開 (ぎょうせい,2009年)p.73。

7) 例えば,山下・前掲注5・

p.

29以下のように,重大事由解除に関する片面 的強行規定の趣旨等を,信頼関係の破壊があった場合に保険者を保険契約から 解放することに主眼のある法理と説明し,損害の不実告知を免責事由とする約 款規定の趣旨等を,保険給付過程における不正請求に対する制裁のための法理 と説明するならば,両規定の趣旨等は異なるものということになりそうだが,

より抽象的に,両規定はいずれもモラルリスクへの対応のための制度である等

(4)

②それとも,規定の趣旨等の比較という作業には,単なる説明の仕方によ っては左右されないような,より実質的な側面があるのか。

③仮に規定の趣旨等の比較が前記の抵触の有無の判断のために有用である としても,それのみによって常に当該判断を行いうるわけではないのではな いか。そうだとすると,それ以外に考慮すべき要素としては,どのようなも のがあるのか。

また,前記の抵触の有無に関する議論においては,特約の有効性を擁護す る立場からは,特約の実質的な合理性ないし必要性が強調されることも多 い 。この特約の合理性・必要性という要素についても,直感的には抵触の 有無の判断において重要なもののように思われるものの,当該判断との論理 的な関係ないし全体の枠組みの中での位置づけ等は,必ずしも明らかではな い。

さらに,抵触の有無に関する判断要素の問題に関しては, ある約款の規 定が保険法の片面的強行規定に実質的に反するか否かは,当該片面的強行規 定の趣旨及び射程距離,当該約款の規定の目的,要件及び効果等を総合的に 勘案して判断される という法務省の担当者の説明もあるが ,当該説明に 関しても,そこで挙げられている各要素の相互関係等をどのようなものとし て理解し,具体的にどのように組み合わせて判断していけばよいのか,等は 明らかではない。

と説明するなら,その限りでは,両規定の趣旨等は共通のものということにも なりそうである。

8) 例えば,前記の重大事由解除の効果に関する片面的強行規定の趣旨と損害の 不実告知に関する免責約款との関係について論じた藤原晴美 不実申告免責規 定の理論的根拠と解釈 損害保険研究71巻4号(2010年)p.141以下,告知義 務違反による解除に関する片面的強行規定(保険法55条等)と契約前発病不担 保条項との関係について論じた竹濵修 契約前発病不担保条項 山下友信=米 山高生編 保険法解説−生命保険・傷害疾病定額保険 (有斐閣,2010年)p.

491等。

9) 萩本・前掲注2・p.22。

(5)

2.本稿のテーマについて

こうした中で,前記1.の損害の不実告知に関する免責規定をはじめとし て,保険法の片面的強行規定の趣旨との抵触の可能性が問題となった約款規 定のうちの相当数のものについては,疑義を避ける方向での改訂を行なうと いう形で,実務的には一応の決着がつけられた 。しかし,片面的強行規定 の趣旨との関係で議論のあった約款規定の中には,(保険会社として問題が ないと判断した結果であろうが)改訂等の対応が特に行なわれずに現存して いるものもあり ,また,今後新しい内容の特約が設けられる場合にも,片 面的強行規定の趣旨との関係が新たに問題になることはありうるところであ る 。したがって,片面的強行規定の趣旨と特約との抵触の問題について,

10) 例えば,前記の損害の不実告知に関する免責規定については,不実告知によ って保険会社が被った損害の額を保険金から差し引く,旨の規定に改められ た。

11) 例えば,①告知義務違反による解除に関する片面的強行規定(保険法55条 等)の趣旨との関係が論じられていた,契約前発病不担保条項(竹濵・前掲注

8・

p.490以下等参照),がん保険においてがんの確定診断が契約前にあった

場合に契約を無効とする条項(大塚・前掲注6・

p.66以下参照。),及び生命

保険 に お い て 被 保 険 者 の 年 齢 相 違 の 場 合 の 処 理 を 定 め る 条 項(山 下 友 信 37・ 66 山下友信=米山高生編 保険法解説−生命保険・傷害疾病定額保 険 (有斐閣,2010年)p.176以下参照),②危険の増加による解除の効果に関 する片面的強行規定(同法31条2項2号等)の趣旨との関係が論じられていた,

損害保険において引受範囲外の危険増加による解除の場合に増加した危険と保 険事故との因果関係を問わずに免責を生じさせる条項(洲崎博史 保険契約の 解除に関する一考察 法学論叢164号1〜6号(2009年)p.238以下,木下孝 治 告知義務・危険増加 ジュリスト 1364号(2008年)p.26参照),③解除 の将来効に関する片面的強行規定(同法31条1項)の趣旨との関係が論じられ ていた,損害保険において保険料不支払を理由とする解除の遡及効を定める条 項(洲崎・同

p.234以下参照)等。

12) 例えば,いわゆる暴力団排除条項を保険契約に導入する場合,当該条項を重 大事由解除とは別の制度と位置づけるのであれば,重大事由解除に係る片面的 強行規定の趣旨との抵触の有無が問題になる可能性がある。

(一方,当該条項を重大事由解除制度の一環として位置づけるのであれば,暴

(6)

その判断の枠組みをできる限り明らかにしていく必要性は,保険法の施行へ の実務対応が一通り終わっている現在においても,依然として大きいものと みられる。

ところで,ここで保険法の外に目を転じると,強行規定に形式的には抵触 しないが実質的に抵触するように見える契約条項の効力如何という問題は,

民法等の領域では古くから 脱法行為論 として検討され,学説・判例も蓄 積されてきているところである。

そこで本稿では,この脱法行為論に関する学説の状況や判例の内容を簡単 に紹介した上で,それらを手がかり として ,片面的強行規定の趣旨と 特約との抵触の問題に関する判断の枠組みについて,可能な範囲での整理を 行ってみたい。

3.脱法行為論に関する学説・判例

⑴学

ア 意味・法的性質等

脱法行為 は講学上の概念であり,民法典等にそれに関する明文の規定 が置かれているわけではない。その定義等に関する説明は論者によって若干 異なっているが,脱法行為が強行規定に形式的には抵触しないが実質的に抵 触する行為であること, 実質的に強行規定に抵触する行為 とは,強行規

力団という属性等のみで解除に値する信頼関係破壊があったといいうるか,暴 力団であること等はモラルリスクとは直接の関係を有しないにもかかわらず解 除の遡及効が認められるのはなぜか,等の点が問題となりうる。)

13) 民法等の脱法行為論では,片面的ではない一般の強行規定に関する問題が主 に扱われているが,片面的強行規定と一般の強行規定の違いは,問題とされる 抵触が一方当事者に不利な方向のものに限られるかどうかという点のみであり,

それ以外の判断の枠組みには異なるところはない。

14) 片面的強行規定の趣旨と特約との抵触の問題に関しては,保険法の立法担当 者も,脱法行為論との関係を意識したとみられる論述( 脱法的な内容の免責 事由は当然許されない 等)を行なっている(萩本修 新保険法−立法者の立 場から− 生命保険論集165号(2008年)p.10)。

(7)

定の目的・趣旨に反する,すなわち強行規定の禁止する内容(結果)を実質 的に実現する行為を意味すること,及びそうした強行規定への実質的な抵触 のために脱法行為が無効とされるべき場合があることについては,学説の理 解はほぼ共通しているものとみられる 。

脱法行為の法的性質,ないし脱法行為がなぜ無効となるかについては,古 くは,①脱法行為は,強行規定(A)に直接違反する行為ではないが,その 強行規定の拡張解釈又は類推解釈によって見出される強行規定A′)に違反 する行為である,と解する説 と,②強行規定の適用を回避しようとする ものであるところに脱法行為の本質を見出し,拡張解釈や類推解釈とは異な る独自性を強調する説 とが対立していた。しかしその後,③強行規定を 文理にとらわれないで立法趣旨に即して広く解釈すれば,脱法行為も強行規 定に直接違反するものであるとして,脱法行為を強行規定自体の解釈(方 法)の問題とする説 が現れ,近時の有力説となっている。さらに,脱法 行為が無効となる理由に関しては,④ 強行規定を回避する目的で手段とし てなされた行為の効力を認めない という法秩序全体に内在するルールに反 するためであると説明する説 等も存在する。

15) 論者による説明の差異は,①強行規定を回避する意図が存在するものだけを 脱法行為と呼ぶか(星野英一 民法概論Ⅰ(序論・総則) (良書普及会,1971 年)p.186等),そのような限定は行なわないか(北川善太郎 民法総則(民 法講要Ⅰ)[第2版] (有斐閣,2001年)p.125等),②無効とされるべきもの だけを脱法行為と呼ぶか(石田穣 民法総則 (悠々社,1992年)p.295等),

無効とすべきかどうかが問題になるような行為を広く脱法行為と呼ぶか(中舎 寛樹 法律行為の内容の違法(その1) 法学セミナー 646号(2008年)p.

96等),等の点に関するものである。

16) 石坂音四郎 恩給受給委任ト脱法行為 民法研究第四巻 (有斐閣,1917 年)p.564以下等。

17) 三潴信三 脱法行為ト違法 行 為 国 家 学 会 雑 誌 28巻 9 号(1914年)p.

1237。

18) 米倉明 法律行為 法学教室 59号(1985年)p.31。

19) 片山直也 脱法的条項の効力規制について⑴ 法学研究 80巻11号(2007 年)p.23。

(8)

イ 類型

上記アのような古典的な法的性質論等とは別の角度から脱法行為に新しい 光を当てたと評価されている学説として,大村教授の類型論がある 。当該 学説は,脱法的な行為を,まず,①単にある強行規定(A)が適用されるか どうかが明らかでない行為( 消極的回避行為 )と,②ある強行規定(A)

とは別の規定(C)が適用されるべきもので形式上は適法というべき行為

( 積極的回避行為 )とに大きく分類する。その上で,さらに①の消極的回 避行為を,①−1表面的に強行規定の適用対象ではないように見えるだけで,

実質的にはその適用対象にほかならないもの( 表層行為 )と,①−2強行 規定が本来適用されるべき行為とは何らかの違いがあるために,これを直接 適用することには抵抗があるが,当該強行規定を柔軟に解釈することによっ てその適用が可能となるもの( 変性行為 )とに分ける 。そして,それら の類型に応じて,取られるべき法的処理等も異なる(表層行為については,

事実の評価や性質決定を実質的・客観的に行うことで強行規定を直接適用す べきだが,変性行為については,強行規定の拡張解釈・類推解釈が行なわれ るべきである。一方,積極的回避行為については,公序良俗等の一般条項の 利用や,個別の行為ごとの否認(具体的な事情を考慮して,上記でいうCの 適用をはずしAを適用する方法)等が考えられる。),とする。

ウ 有効・無効の判断基準

強行規定に実質的に抵触することが疑われる行為の有効・無効をどのよう な基準で判断すべきかについて,従前の通説は,その強行規定が,手段の如

20) 大村敦志 脱法行為 と強行規定の適用 ジュリスト 988号(1991年)

p.72以下。

21) ①−1の表層行為の例としては,訪問販売法(当時)の適用を免れるために 商品に名目的な役務を組み合わせて指定商品の取引ではないかのように装う行 為等が,①−2の変性行為の例としては,臨時雇の雇止め(解雇自体ではない が,解雇に関する法理が類推される。)等が,②の積極的回避行為の例として は,後記⑵アの恩給に関する取立委任や譲渡担保等が,それぞれ挙げられてい る。

(9)

何を問わず一定の結果の発生自体を否定する(一定の結果を発生させる行為 は広く無効とする)ものなのか,それとも,特定の手段を用いて一定の結果 が発生することのみを否定する(手段ないし法的構成が違えば無効とはしな い)ものなのか,という強行規定の趣旨の解釈の問題であると説明してき た 。しかし,その後,こうした説明は,実質的な価値判断を済ませた後の 理由づけにすぎず,より重要なのは,当事者がその特約によって発生させよ うとした結果の実現を許すべきか否かという実質的な価値判断そのものであ る,との指摘がなされるようになった 。そして,今日では,そうした価値 判断は一種の比較衡量によってなされるべきものである,という見解が多数 を占めており,当該比較衡量の方法については,社会の新たな需要の強さや 合理性と当該強行規定の内容を今日なお貫徹させることの合理性との比較衡 量である とか,問題の行為を有効と解することによって,誰のどのよう な利益が保護されるか(保護されないか),現在の社会・経済状態に鑑みて 行為者がめざしている結果の実現を許すことが妥当なのか,結果実現に対す る需要は法律の目からみて満たされるべきものかどうか,等の要素の比較衡 量である ,等と説明されている。

⑵判

ア 恩給担保及び譲渡担保

恩給担保と譲渡担保は,脱法行為として無効となるのではないかが同じよ うに問題とされながら裁判所の判断が分かれた古典的な例として,対比して 論じられることが多い。このうち恩給担保は,担保目的で締結された恩給の 取立てに関する委任契約が恩給法11条(恩給受給権を担保に供することの禁 止)の脱法行為ではないかということが争われたものだが,裁判所は,当該

22) 星野・前掲注15・p.187等。

23) 米倉明 法律行為 法学教室 58号(1985年)p.29等。

24) 幾代通 民法総則[第二版] (青林書院,1984年)p.205。

25) 米倉・前掲注23・p.30。

(10)

委任契約のうち,債務の完済まで委任を解除できないという不解除特約の部 分を,実質的に恩給受給権を担保に供するのと異ならないものであり恩給法 11条の趣旨に反する,等の理由で無効としている 。一方,譲渡担保につい ては,民法345条(非占有質の禁止)や同法349条(流質契約の禁止)の脱法 行為ではないかということが争われたが,裁判所は,上記の民法規定は質権 に関する規定で担保に関する一般的禁止規定ではないこと,譲渡担保は担保 目的ではあるが真正に所有権を譲渡するもので上記の民法規定を潜脱するた めの不正行為とみるべきではないこと,社会経済上の必要からこうした契約 は広く行なわれていること等を理由として,譲渡担保は脱法行為ではなく有 効なものであると判断した 。

上記のような判例の理由づけの多くは形式的なもののようにもみえるが,

学説は,判例が恩給担保と譲渡担保で有効・無効の判断を異にしているのは,

①恩給担保は経済的弱者の保護に係る問題であり,脱法行為を無効とする必 要性が相対的に大きいこと,②一方,質権に関する民法規定には,立法論と して批判されている面もあり,規制目的の合理性は必ずしも強いものではな いこと,③譲渡担保については経済取引としての需要が強く,上記②のよう な質権に関する民法規定の不備等も勘案すると,そうした需要は合理的なも のとみられること,等の点を考慮した実質的な価値判断によるものと理解し ている 。また,譲渡担保については,現在の判例では債権者に清算義務が 課されて不公正な結果が生じないようになっていることも,有効性が肯定さ れるべき理由として挙げられている 。

26) 大審院昭和7年3月25日判決 民集 11巻

p.

464等。

27) 民法345条との関係について,大審院大正3年11月2日 民録 20輯

p.865

等。民法349条との関係について,大審院大正8年7月9日 民録 25輯

p.

20148等。

28) 我 妻 栄 新 訂 民 法 総 則 (岩 波 書 店,1965年)p.268以 下,星 野 ・ 前 掲 注 15・

p.187以下,米倉・前掲注23・p.

30以下等。

29) 米倉・前掲注23・p.32等。

(11)

イ リース

リースの中で最も一般的なファイナンス・リースは,ユーザーに物件の購 入資金がない場合に,リース会社がディーラーから物件を買い取ってこれを ユーザーに貸し付け,一定額のリース料を回収するもので,法的には賃貸借 の形式をとるが,経済的にはユーザーによる実質的な物件購入やリース会社 からユーザーへの金融といった機能を併せ持つ契約類型である,等と説明さ れている 。

このファイナンス・リースに関しては,リース料について利息制限法の適 用を受けるべきではないかが問題とされた(前記⑴イの類型でいえば,表層 行為ないし変性行為としての争われ方ではないかとみられる。)が,判例 は,①リース料の額は,物件の代金と金利のみならず,固定資産税,保険料 等の諸経費,手数料等の諸要素も勘案した上で定められていること,②リー ス契約は,金銭の借入れをして物件を購入する場合に比べ,経理事務の負担 の軽減や節税効果等の独自のメリットを有するものであること,等を挙げて,

利息制限法の適用を否定している 。

またファイナンス・リースについては,中途解約の場合にリース会社が物 件を引き上げた上でさらに残リース料全額を請求しうるような契約内容とな っていることが,割賦販売法6条(損害賠償額等の制限)の脱法行為ではな いかも問題とされたが,最高裁はこれを否定した。当該判例 では,上記 が脱法行為に該当しない理由は具体的には示されてはいないが,中途解約時 の清算義務をリース会社に課すことによって割賦販売法の上記規定が適用さ 30) 例えば,加藤雅信 ファイナンス・リース⑴ ジュリスト 948号(1990

年)p.62。

31) 東京高裁昭和61年1月29日判決 判例タイムズ 595号(1986年)p.81等。

32) ただし,いわゆるリースバック契約については,リース契約としての通常の あり方とは異なる契約内容(リース料の支払終了後のユーザーへの物件所有権 の移転。)等の事情が存在する場合には,実質は消費貸借であると認定された 例もある(大阪地裁平成13年9月27日判決判例集未搭載。)。

33) 最高裁昭和57年10月19日判決 金融法務事情 1011号(1982年)p.46及び 同日判決 民集 36巻10号

p.

2130)。

(12)

れなくても不公正な結果とならないような配慮が同時に行われている。

ウ 滞納処分や倒産手続の回避

譲渡担保の目的財産に滞納処分や倒産手続が及ぶことを回避するために設 けられた技巧的な特約の効果が否定された近時の判例として,①最高裁平成 15年12月19日判決 民集 57巻11号p.2292(補足意見あり。)及び②最高裁 平成16年7月16日判決 民集 58巻5号p.1744がある 。

上記のうち,①は,譲渡担保の目的財産について滞納処分前の告知が発せ られたときには当該目的財産は債権者への代物弁済に充当される,旨の特 の効力が,滞納処分の手続がとられたことを契機に譲渡担保権が実行 されたという関係があるときにはその財産がなお譲渡担保の目的財産として 存続するものとみなすこととする国税徴収法24条5項(当時)の適用を回避 しようとするものである,として,否定された判例である。もっとも,国税 徴収法の上記条項で直接的に定められていたのは,上記告知の到達後に譲渡 担保権の実行等がなされた場合との関係のみであり,上記の下線(筆者が付 したもの)の部分は,最高裁が同項の趣旨を法文よりも広範に解釈した結果 である(一種の変性行為としての処理)とみられる。当該判例についての評

34) 上記①②の判決文には直接的には 脱法 との関係での記載はないが(ただ し,①の補足意見では 脱法行為 という語も用いられている。),その論旨や 取り扱われている問題状況等から,片山・前掲注19・p.1以下,同 脱法的条 項の効力規制について(2・完) 法学研究 81巻2号(2008年)p.15以下等 では,脱法行為に関わる判例として論じられている。

35) 国税徴収法24条によれば,納税者が国税を滞納した場合には,納税者の財産 で譲渡担保の目的となっているものも滞納処分の対象とすることができるが,

そのためには,あらかじめ譲渡担保権者に対して書面による告知を行うことが 必要である,とされている。また,同条5項(当時)では,告知後の滞納処分 逃れを封じるために,上記の告知をした後に譲渡担保権者が譲渡担保権を実行 しても,当該財産がなお譲渡担保の目的財産として存続するものとして滞納処 分を執行できることとされていた。上記特約は,国税徴収法の同項の規定がい う 告知をした後 とは告知が譲渡担保権者に到達した時以降をいう,との理 解を前提として,その前の告知の発出時に代物弁済の効果を生じさせて滞納処 分を不能とする,という狙いを有するものであった。

(13)

価は分かれているが,国税徴収法の上記条項の適用を回避するという特約の 目的には法的保護に値するような合理的が乏しいこと等を理由として,判例 の結論に賛成する学説も多い 。

一方②では,最高裁は,いわゆる停止条件付集合債権譲渡担保契約 ついて,契約内容や目的(債務者の責任財産に属していた債権を危機時期の 到来時に責任財産から逸出させること)に鑑みると,債権者間の平等及び破 産財団の充実を図ろうとする破産法72条2号( 危機否認 に関する当時の 規定)の趣旨に反し,その実効性を失わせるものである,との評価を行なっ た上で,当該契約に係る債権譲渡は,危機時期の到来後に行なわれた債権譲 渡と同視すべきものであり,上記法規定に基づく否認権の対象となる,と判 断した。当該判例も,①と同様に,拡張解釈ないし類推解釈によって法文が 予定しているよりも広い範囲で危機否認を認めるという,一種の変性行為と しての処理がなされたものとみられるが,学説においては,そうした処理の 背後には,いわゆる債権譲渡登記制度も創設された中で債権譲渡の公示を回 避すべき合理性が乏しくなっていること等をふまえた実質的な価値判断があ った,との見方がなされている 。

36) 例えば,池田真朗 一括支払システム契約における国税徴収法による告知書 発出時点で譲渡担保権を実行する合意の効力 金融法務事情 1716号(2004 年)p.43。

37) これは,債権譲渡の効力発生を譲渡人において支払停止等の危機状況が発生 した時とする,現在及び将来の債権に関する包括的な譲渡担保設定契約である。

当該契約において債権譲渡の効力発生に関して上記のような停止条件が設けら れたのは,譲渡人(債務者)の対外的な信用等との関係で,債権譲渡の対抗要 件である第三債務者への通知は,譲渡人が危機状況に陥るようなことが発生す るまで留保しておきたいが,対抗要件具備に係る否認(当時の破産法74条1項 及びこれに関する判例によれば,債権譲渡の効果発生日から15日以上を経過し た後に危機状況について悪意でなされた対抗要件具備行為は否認されうること になっていた。)を受けることは避けたい,というニーズを充たすことが狙い であった。

38) 例えば,宮坂昌利 時の判例 ジュリスト 1284号(2005年)p.133。

(14)

4.整理の試み

⑴判断の枠組み等

前記3.⑴アのとおり,民法等の脱法行為論で扱われてきた問題は,強行 規定との実質的な抵触,すなわち強行規定の目的・趣旨への違反の問題であ り,保険法における片面的強行規定の趣旨と特約との抵触の問題も,その1 つのバリエーションとみられる。したがって,保険法の片面的強行規定の趣 旨と特約との抵触の有無に関する判断の枠組み等については,脱法行為一般 に関する前記の学説・判例等を参考として,以下のような整理が可能ではな いか,と考えられる。

すなわち,片面的強行規定の趣旨と特約との抵触の有無に関する判断の法 的な性質は,①拡張解釈・類推解釈を含む広い意味での片面的強行規定の解 釈と,②その当てはめである(前記3.⑴ア①③並びに同イ参照。)。これら のうち,①は,その片面的強行規定との関係で禁止されるべき結果の範囲を,

法文上明示されていない部分を含めて一般的に画そうとする作業であり,② は,特約から発生する結果が①の禁止の範囲内にあるか否かについての具体 的な判断である。①の片面的強行規定の解釈は,通常の法解釈 と同様に,

まずは文理(規定ぶり),論理(法体系の中での当該片面的強行規定の位置 づけ等),立法者・起草者意思等を手かがりとして行われるべきものであり,

本来の順序としては,②の当てはめに先行する。しかし,実際には,法規定 で明示されているところを超えた実質的な禁止の範囲を探究するという事柄 の性質上,文理,論理,立法者・起草者意思等のみを手がかりとして①に関 する明確な結論を得ることは,困難なことが多い。そこで,その特約によっ て当事者が発生させようとしている結果の実現を許すべきか否かについての 価値判断を比較衡量によって行う,という一種の目的論的解釈( 一般的な 禁止範囲はさておき,少なくともその結果については許されるべきか につ

39) 星野・前掲注15・p.48以下。

(15)

いての①と②を融合させたような判断作業)が,片面的強行規定の趣旨と特 約との抵触の有無に関する判断の実質的な内容の中核となる(前記3.⑴ウ 参照。)。

上記の比較衡量においては,特約によって発生する結果が許容されうるも のか否かという評価に関わる様々な要素が考慮・検討されるが,中でも,片 面的強行規定が狙いとしている価値と特約を設けることによって得られる価 値との比較作業が特に重要となる。そして,当該比較作業では,その特約が 片面的強行規定の適用の回避のみを目的としている場合には,特約の方には 考慮すべき固有の価値がないため,片面的強行規定が狙いとしている価値,

すなわちその規制目的の合理性・必要性の程度のみが考慮の対象となり,そ れらが弱いものでない限りは,片面的強行規定の趣旨と特約との抵触は,否 定されがたいものとみられる(前記3.⑵アの恩給担保及び同ウの滞納処 分・倒産手続の回避に関する判例参照。)。他方,当該特約に片面的強行規定 の適用の回避以外の固有の目的がある場合には,片面的強行規定の規制目的 と特約の固有の目的のそれぞれの合理性・必要性の大きさが比較されること となるが,実際には,片面的強行規定の規制目的の外延(法文で直接的に規 制している事項以外との関係で,どのような規制目的を有しているとみられ るか。)も明らかではないことが多いので,相対的により明確な特約の目的 の方にどれだけの合理性・必要性があるかが,特に重要なポイントになるも のと考えられる(前記3.⑵アの譲渡担保及び同イのファイナンス・リース の判例参照。)。

なお,ここでいう特約の 目的 は,基本的には当該特約の機能等から客 観的に判断されるべきものであり,当事者の主観的な意図は必ずしも重要な 意味を有しない ものと考えられる。また,この比較衡量においては,前 40) 判例においても,例えば,前記3.⑵ウ①の最高裁平成15年12月19日判決の 原審である東京高裁平成10年2月19日判決 判例タイムズ 1004号(1999年)

p.138では, 正常な経済取引を円滑に進めるためであるか脱税目的であるか

というような当該取引等の当事者の主観的意図は問題にならない とされてい る。なお,田中宏治 ドイツ新債務法における脱法行為論 千葉大学法学論

(16)

記の譲渡担保における清算法理のように,特約の有効性を認めても片面的強 行規定が保護しようとする価値を損なわないような事情があれば,当該事情 は上記の抵触を否定する方向に働く要素になり,一方,注32の場合のように,

特約の法的構成と矛盾するような事情があれば,当該事情は抵触を肯定する 方向に働く要素になるものと考えられる 。

以上のような枠組みとの関係であらためて位置づけると,前記1.のよう な 趣旨 の比較は,特約が片面的強行規定の適用の回避以外の固有の目的 を有するものか否かを確認する作業として,また, 法的性格 の比較は,

一方では一種の論理解釈的な側面を有し,他方では上記の趣旨の比較と同様 の側面を有する作業として,それぞれ理解しうる。それらの作業は,各々の 意義を有するものではあるが,それらのみで最終的な結論を得ることは難し く,片面的強行規定や特約の目的の合理性・必要性の大きさ等に関する比較 衡量がさらに必要となることが多いものとみられることは,前記のとおりで ある。また,特約の有効性を擁護する立場からは特約の実質的な合理性・必 要性が強調されることが多かったことについても,片面的強行規定の趣旨と 特約との抵触の有無の判断において上記のような比較衡量が重要であること を意識的ないし無意識的に前提としていた立論として,理解することができ るだろう。

集 24巻2号(2009年)p.5によれば,ドイツの判例でも脱法行為として規制 を及ぼすのに当事者の主観的な脱法意図は不要と解されている,とのことであ る。

41) なお,上記の比較衡量は,当事者がその特約によって発生させようとした結 果の実現を許すべきか否かという観点から全般的になされるべきものであるの で,考慮されるべき要素の中には,片面的強行規定の規制目的とは直接の関係 を有しない事項も含まれうる(例えば,特約によって得られる価値が片面的強 行規定の規制目的との比較においては相対的に大きくても,当該特約の効果と して契約の相手方に不相当に大きな不利益(片面的強行規定の規制目的とは直 接に関係のないもの)を与えるのであれば,比較衡量の結論としては,やはり 当該特約の存在は許容されるべきではないことになろう。)

(17)

⑵枠組みの試用例

ここで,前記⑴のような判断の枠組みを個別の具体的な問題に用いる場合 のラフなイメージを示すために,この種の問題の中で保険法の施行前に最も 論じられることが多かった,重大事由解除の効果に関する片面的強行規定の 趣旨と損害の不実告知を免責事由とする約款規定との抵触の有無に係る前記 1.の問題 について,簡単に検討を行ってみよう。

まず,文理との関係では,法文上は,保険法の上記規定は,重大事由解除 がなされた場合の免責の範囲に関するものであり,それ以外の場合について まで何らかの制限を及ぼす趣旨か否かは,その規定ぶりからは判断しがたい。

次に,論理解釈的な観点との関係では,上記の片面的強行規定と約款規定は 別の法理によるものであるとの注7のような見解が有力に主張されてはいる が,前者の趣旨と後者との抵触が論理的に全くありえないとまでいえるかは,

即断しがたい。また,この問題については,法務省の担当者の個人的な見 は発表されているものの,法制審議会や国会において特に検討がなさ れた跡等は見られず,立法者・起草者の意思も,明らかとはいえない。

そこで,当該問題においても前記⑴のような比較衡量が重要となってくる が,上記の片面的強行規定の規制目的の外延は必ずしも明確ではない に対し,上記の約款規定には,保険事故をめぐる情報の非対象性の下で保険 金請求に関して詐欺等がなされることを抑制するという,重大事由解除とは

42) この問題に関する文献としては,前掲注4,前掲注5及び前掲注8に掲げた もののほか,洲崎・前掲注11・

p.240以下,出口正義 保険法の若干の解釈問

題に関する一考察 損害保険研究 71巻3号(2009年)p.35以下,甘利公人 57・ 86 山下友信=米山高生編 保険法解説−生命保険・傷害疾病定額保険 (有斐閣,2010年)p.578以下等。

43) 萩本・前掲注2・p.25。

44) 当該規定は,核心的には,重大事由解除に伴って遡及的に保険保護が奪われ る範囲を当該解除制度の狙い(モラルリスクがある保険契約からの保険者の開 放)との関係で必要十分な範囲に限定することを目的とするものとみられるが,

解除がなされない場合との関係においてどのような目的を有しているものと位 置づけうるかは,必ずしも明らかではない。

(18)

直接の関係を有しない固有の目的があり ,しかも,当該目的は私法的には こうした約款規定を設けること以外の方法では達成しにくいので,その合理 性・必要性は相当に大きいものとみられる。もっとも,当該約款規定は保険 金の全額についての免責という強力な効果を有するものであるので,上記の 片面的強行規定の規制目的の外延如何に関わらず,そうした強力な効果(保 険契約者側に与える不利益)と特約が目的とする利益とのバランスが別途問 題となりうるが(注41参照),その点に関しては,要件の解釈ないし規定ぶ りによって当該約款規定の適用を相当に悪質なケースに限る ことによっ て対応は可能ではないかと考えられる 。また,当該約款規定については,

その法的構成(免責事由)と矛盾するような事情は,特にみられない。

これらの点(特に約款規定の目的の合理性・必要性の大きさ)からすると,

損害の不実告知を免責事由とする約款規定については,注10のように既に改 訂が行われているものではあるが,理論的には,保険法31条2項3号等の片 面的強行規定の趣旨に抵触するものではないという法的な評価の可能性もあ りえたのではないか,と考えられる。

5.終わりに

本稿では,民法等における脱法行為論を手がかりとして,保険法の片面的 強行規定の趣旨と特約との抵触の有無に関する判断の枠組みについて,それ が拡張解釈・類推解釈を含む広い意味での片面的強行規定の解釈とその当て はめの問題であり,そこでは片面的強行規定の規制目的と特約の目的のそれ ぞれの合理性・必要性の大きさに関する評価を中心とした比較衡量が特に重

45) 藤原・前掲注8・p.141以下。

46) 従前の下級審判例で当該約款規定による免責が認められたのも,その多くは,

保険金の 詐取 の目的が被保険者側に認められる等の悪質性の大きい事案で あった。

47) なお,上記の片面的強行規定の趣旨と約款規定との抵触を肯定する前掲注4 のような学説については,当該約款規定の適用範囲に関して特段の限定がない ことを前提とするものである可能性があることに,留意が必要である。

(19)

要とみられること,等を確認した。しかし,本稿において一応の整理を行っ たのは,保険契約の有効性等の判断という極めて大きな広がりを有する問題 のごく一部にすぎない。

すなわち,まず,上記のように片面的強行規定の趣旨と特約との抵触の有 無に関する判断が結局は片面的強行規定の解釈に係る問題であることからす ると,当該問題が裁判所によってどのように取り扱われるか(利益衡量の具 体的なあり方等)についての理解をより深めるためには,前記3.⑵のよう な脱法行為関係の判例に止まらず,法令について法文上の文言を超えて拡張 解釈・類推解釈等の柔軟な解釈が行われた判例一般に関する研究 も必要と なってくるものと考えられる。

また,当然のことながら,保険契約の有効性等が問題となりうるのは,保 険法の(片面的)強行規定との関係のみには限られない。保険契約では一般 的に約款が使用されているが,判例では,約款が一方の当事者によって作成 され他方の当事者はその内容を十分に理解していないことも多いこと等に鑑 み,公序良俗・信義則といった一般条項を用いて約款の有効性を否定したり,

その意味内容を限定的に解釈する,といったいわゆる 隠れた約款規制 が 行われることも多い 。さらに,保険契約が消費者との間のものである場合 には,消費者契約法との関係も問題になりうる 。さらにまた,法制審議会 民法(債権関係)部会では,債権法の全面的見直しの一環として 不当条項 規制 も検討されている が,これが実現した場合には,保険契約にも大 きな影響を及ぼす可能性がある。

48) 民法における類推解釈のあり方に関する文献としては,例えば椿寿夫=中舎 寛樹編著 解説類推適用からみる民法 (日本評論社,2005年)。

49) 山本豊 約款 民法の争点 (有斐閣,2007年)p.221。

50) 生命保険契約等におけるいわゆる無催告失効条項の効力を消費者契約法10条 によって否定した近時の下級審判例として,東京高裁平成21年9月30日判決

判例タイムズ 1317号(2010年)p.72がある。

51) 法制審議会民法(債権関係)部会 民法(債権関係)の改正に関する中間的 な論点整理 (2011年)p.95以下。

(20)

約款条項についてその記載内容(文言)のとおりの効果が最終的に認めら れうるか否かを高い確度で見通すためには,こういった多くの法的な観点と の関係での多面的な検討も必要である。

これらについては,今後の研究課題としたい。

(筆者は弁護士)

参照

関連したドキュメント

 米国では、審査経過が内在的証拠としてクレーム解釈の原則的参酌資料と される。このようにして利用される資料がその後均等論の検討段階で再度利 5  Festo Corp v.

年金積立金管理運用独立行政法人(以下「法人」という。 )は、厚生年金保険法(昭 和 29 年法律第 115 号)及び国民年金法(昭和 34

距離の確保 入場時の消毒 マスク着用 定期的換気 記載台の消毒. 投票日 10 月

前項においては、最高裁平成17年6月9日決定の概要と意義を述べてき

高裁判決評釈として、毛塚勝利「偽装請負 ・ 違法派遣と受け入れ企業の雇用責任」

年金積立金管理運用独立行政法人(以下「法人」という。)は、厚 生年金保険法(昭和 29 年法律第 115 号)及び国民年金法(昭和 34

「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」 (昭和32年6月10日

その認定を覆するに足りる蓋然性のある証拠」(要旨、いわゆる白鳥決定、最決昭五 0•