反応時間の研究(その三)
剣道の少年と一般の少年の反応時間と応答時間について(第3報)
田 渕 俊 彦 安 東 三 次
1 緒 言
運動の場面において,刺激に対してすばやく反応するこ とは,その運動の成否にかかわる重要な要因の一つである。
このことから,体育・スポーツ関係の学者による反応時間 の研究は多く,近年では,松浦義行氏の「単純反応時間と 全身反応時間の発達」の報告(1)が高く評価され,それらの
発達曲線は定型とされている。しかしV.P.カルボビッ チと猪飼博士は運動選手と非運動選手の脚の反応時間に
0.060秒の差を報告(2)しており,われわれも「剣道の動作 における反応時間の研究」で学生,社会人を対象に,剣道 の打撃動作における単純反応時間・選択反応時間・応答時間(Total time)を測定し,熟練度別にそれらの差を報
告(3㌧た。これらは,反応時間(単純・全身)の発達曲線 がほぼ定常状態か,低下傾向を表すωとする青年期におい てもトレーニングの効果を示すものであった。本実験では,反応時間がもっとも発達しつつあるといわ れる少年期をとらえ,この時期に剣道の練習をとおして定 期的に運動(トレーニング)をしている少年と,何等の運
動グループにも所属していない少年を対象に単純反応時
間・単純全身反応時間・選択全身反応時間・動作時間・応 答時間(4)について,追跡調査をしているが,今回は昭和59年度と60年度の2年間の測定値を検討した。その結果,学
年別,グループ別の発達について若干の資料を得たので報告する。
H 研究の方法
1実験期日
昭和59年6一一7fi・昭和60年6・一 7月
2実験場所
佐良山地区公民館 院庄小学校体育館 津山西中学校特別教室 津山高専体育館
3被検者
剣道の少年(男)
僻細隙)活動年数
5年生 10人 2年
一般の少年(男)
僻被呼庄小学校)
5年生 10人 59年忌6年生 9人 3年 6年生 9人 中 1 11人 4年 中 1 10人
中 2 9人 5年 中 2 10人
6年生 7人 3年 6年生 8人
60年 中 1 4人 4年 中 1 3人
中 2 3人 5年 中 2 3人
中 3 6人 6年 中 3 5人
※剣道教室は一週間に2日,!日約1時間30分練習 ※津山西中剣道部は一週間に6日,1日約2時間練習
※鶴山中心道部は一一一・週間に5日,1H約1時間30分練習4測定方法と装置
1)単純反応時間は小坂睦雄氏(本校電気工学科技官)
の考案による測定装置を用いた。被検者はあらかじめ
栂指をスイッチボタンに軽くあてておいて光刺激を認 面するとただちにボタンを押す方法で測定した。
測定装置の発光部は発光ダイオLド(sharp GL g PR 4)を9本直列で20mAを流し,充分な光刺激を与
えた。応答スイッチは押ボタン(松下電工IWS 4409)を使用した。発光及び時間測定はpersonal co皿puter
(sharpMZ−80)を使用し,内部クロックを8253 でカウントさせ,Imsec以下を四捨五入して測定値 とした。
2)全身反応に関する測定は竹井機器製の全身反応測定
装置1型(Fig.1)を使用し,方向指示及び測定値の
読み取りはPersonal computer(Sharp MZ−80)を
用いた。被検者は発光表示器(目の高さに固定)より
200cm離れたスタート台に軽く膝を曲げて立ち,動き
易い構えの姿勢をとり,光刺激を認知すると,指示方
向の移動台に左右任意の足からすばやく移動する方法津山高専紀要 第24号 (1986)
で測定した。
①単純全身反応に関する測定は,前方への移動動作の みとし,被検者は光刺激を認知すると前方の移動台 に左右任意の足からすばやく移動する方法で測定し
た。
②選択全身反応に関する測定は,被検者が発光表示器 により移動方向(前,後,左,右)を指示されると,
左右任意の足からすばやく指示方向の移動台に移動 する方法で測定した。
く全身移動する過程で,光刺激の提示から,左右任意
の足がスタート台より離れるまでの時間(reaction
time+muscular time)を全身反応時間(total body reaction time)とした。そしてその足が移動台に着台 するまでの総時間を応答時間(responsive time)と して測定した。それらの差(応答時間一全身反応時聞)を動作時間(movement time)とした。
4)すべての所要時間は1/1000秒単位とし,単純反応時
間は10回,全身反応時間はそれぞれの方向で5回の測
定を試み,その平均値を個人の測定値とした。ただし,焦燥や移動の失敗のときの測定値は除去した。
(移動指示器)
倉
910
(調整器)
〔コロロ一目
■ 亀 o● ●欄 ●● o●
皿 結果に対する考察
9.c:)
(パソコン〉
台 ト
一
\タ
ス
@
n/動
移
(プリンター)
Fig.1 全身反応測定装置
3)全身反応に関するそれぞれの所要時間は,被検者が
発光表示器の指示(光刺激)により指示方向にすばや1.単純反応時間
本実験での単純反応時間を学年平均で表わすとTable 1
のとおりである。
Table 1により,剣道の少年と一般の少年を学年ごとに
比較してみると,59年度では,5年生で一般少年のグルー プの反応がわずかに速く,6年生では両グループ同じ程度 であり,中学1年生と2年生は剣道少年グループの反応が わずかに速い。これを学年進行した60年度の6年生,中学
1,2,3年生で比較してみると,前年度と同じ傾向を示
している。このことは,手指による反応時間は生得的な因 子によるとされる報告(5)を実証しながらも,剣道少年の反 応時間の発達度は一般の少年よりも大であり,トレーニン グ効果を示唆するものと推察され,注目すべき点である。次に各学年の平均値を学年進行にともない比較すると,
剣道,一般の両グループとも,反応時間は中学1年生まで
は顕著に短縮され,過去の研究報告⑤と異った結果がでた。剣道・少年 一般・少年
59年度 区分 60年度
又
S.D Max Min 又 S.D Max Min
5年
レ 6年 256
@ 248
21.38
@ 16.14 297
@ 283
213
@ 230 243
@ 223
24.35
@ 20.80 285
@ 259 216
@ 200 6年
@ 中1
245
@ 231
26.48
@ 21.プ1 282
@ 269 193
@ 217 241
@ 231
17.32
@ 23.52 268
@ 260 208
@ 202 中1
@ 中2 216
@ 217
12.86
@ 5.88 237
@ 223
194
@ 209
228
@ 256
34.59
@ 1.30 299
@ 257
189
@ 255
中2
@ 中3 193
@ 200
24.28
@ 20,28
246
@ 243
166
@ 192
212
@ 219
25.31
@ 14.64 256
@ 237 182
@ 194
Tab且e 1単純反応時間(m. sec)
一 146 一
2.単純全身反応時間
本実験で単純全身反応時間を学年平均で表わすとTable
2のとおりである。剣道・少年 一般・少年
59年度 区分 60年度
又
S.D Max Min 又 S.D Max Min
5年
@ 6年 487
@ 397 97.07
@ 48.12 684
@ 465 379
@ 331 433
@ 424 49.77
@ 62.65 483
@ 558 353
@ 351
6年
@ 中1
468@ 421 57.92
@ 54.84 560
@ 489 359
@ 348 432
@ 515 71.75
@ 48.20 576
@ 577 365
@ 460 中1
@ 中2 404
@ 447 55.52
@ 18,20 492
@ 460 303
@ 421 404
@ 501 82.02
@ 54.00 546
@ 555 311
@ 447 中2
@ 中3 370
@ 355 53.48
@ 52.88 433
@ 456 307
@ 3ユ6 431
@ 441 94.32
@ 48.32 638
@ 481 295
@ 351
Table 2 単純全身反応時間(前方)(m. sec)
Table 2により,剣道の少年と一般の少年の平均値を学 年ごとに比較してみると,59年度では検者の予測に反して,
5年生で0.054秒,6年生で0.036秒一般少年のグループが 剣道少年のグループより反応時問が短い。しかし,これら
も60年度の測定値では完全に逆転し,剣道の少年グループ が他の学年と同じように速い反応時間を示している。この ことは剣道少年のグループが日々の練習を通して神経系の 疎通現象の効率を高め,筋系では収縮速度の発達をうなが
したものと推察される。
次に各学年の平均値を学年進行にともない比較してみる と剣道の少年は60年度の中学2年生を除き,59年度,60年度 ともに反応時間が徐徐に短縮されており,過去の報告6}と 同一傾向を示したが,一般の少年は反応時間に増減が現れ,
前者とその傾向の違いを示した。
3.選択全身反応時間
選択反応時問は単純反応時間に比べ,刺激に対応するた
め大脳皮質での選択作用がある。すなわち,刺激の認知から反応までに思考や判断が加わるので反応時間は長くな
る。また,市岡博士の報告による「反応時間の測定条件」での「注意集中」〔7)からみても,本実験での選択全身反応 時間は次の動作のため刺激の認知に注意を集中するので,
単純全身反応より長くなる。このことは過去に報告(6)した とおりで,今回も両グループとも明らかに顕著な差を示し ているQ
本実験で選択全身反応時間を移動方向別に表わすと Table 3−1一一 4のとおりである。
剣道・少年 一般・少年
59年度 区分 60年度
ヌ:
S.D Max Min
ヌ:
S.D Max M1n
5年.
@ 6年 526
@ 505 56.10
@ 68.75 627
@ 633 442
@ 414 498
@ 500
69.7玉
@ 107.92 633
@ 740 419
@ 390 6年
@ 中1
518
@ 484 104.4
@ 75.61 687
@ 552 384
@ 355 497
@ 589 77.23
@ 72.94 591
@ 687 381
@ 513 中1
@ 中2
460@ 460 58.22
@ 8.30 544
@ 470 350
@ 450 514
@ 530 89.80
@ 17.20 651
@ 547 378
@ 512 中2
@ 中3 427
@ 427 103.9
@ 72.04 585
@ 567 239
@ 360 480
@ 524 78.19
@ 108.04 584
@ 612 333
@ 312
Table 3−1 選択全身反応時間(前方)(m. sec)
津山高専紀要 第24号 (1986)
剣道・少年 一般・少年
59年度 区分 60年度
又
S.D Max Min 又 S.D Max Min
5年
レ 6年 506
@ 416
77.32
@ 34.53 683
@ 468
401
@ 372 412
@ 416
45.20
@ 38.25
500 ,
@ 468 348
@ 340 6年
@ 中1
474
@ 448
73.17
@ 40.01 590
@ 507
323
@ 395 470
@ 504
69.13
@ 32.90
600
@ 542 403
@ 462 中1
@ 中2 437
@ 415
62.73
@ 12.45 544
@ 430 340
@ 399 466
@ 462
75.78
@ 22,2Q 589
@ 485 356
@ 44Q 中2
@ 中3 398
@ 397 72.86
@ 57.44 532
@ 490 278
@ 311
405
@ 438
54.46
@ 74.57 505
@ 508 341
@ 342 Table 3−2 選択全身反応時間(後方)(m. sec)
剣道・少年 一般・少年
区分59年度 60年度
又
S.D Max Min 又 S.D Max Min
5年
@ 6年 397
@ 380
玉4.48
@ 21.89 430
@ 421 382
@ 365 368
@ 392 31.26
@ 93.81 432
@ 623 331
@ 311
6年
@ 中1
395
@ 369 42.71
@ 25.21 502
@ 380 356
@ 329 396
@ 395 25.60
@ 32.66 447
@ 441 357
@ 374
中1@ 中2 358
@ 356 29.92 E 7.59
430
@ 363 321
@ 346 369
@ 366 40.77
@ 26.40 429
@ 392 313
@ 339
中2
@ 中3 323
@ 319 28.60
@ 23.94
36ユ. 356
274
@ 286 356
@ .332 29.25
@ 32.02 434
@ 379 324
@ 291 Table 3−3 選択全身反応時間(左方)(m. sec)
剣道・少年 一般・少年
5眸度 区分 60年度
又
S.D Max Min 又 S.D Max Min
5年
@ 6年 396
@ 371 12132
@ 23.60 418
@ 390 376
@ 340 360
@ 354 45.15
@ 40.15 456
@ 4ユ9 307
@ 294
6年
@ 中1
361
@ 361 23.04
@ 19.47 404
@ 383 335
@ 337 387
@ 370 53.39
@ 18.33 461
@ 394 300
@ 350
中1@ 中2 366
@ 382 36.56
@ 24.10 424
@ 415 293
@ 357 369
@ 359 51.90
@ 3.60 471
@ 362 310
@ 355
中2
@ 中3 321
@ 30Q 25.83
@ 22.6Q 350
@ 346 273
@ 281 347
@ 343 34.33
@ 32.86 409
@ 388 287
@ 298
.【fable 3−4 選択全身反応時間(右方)(m. sec)
Table 3 一1〜4により,両グループを各車年ごとの平
均値で比較してみると,59年度は,5年生と6年生(右方
を除き)で各方向とも一般の少年の反応時間が剣道の少年
よりもわずかに短いか,同程度であり,中1,中2では剣
道の少年が一般の少年より短い反応時間を示した。60年度 では(右方向と6年生前方を除き)剣道の少年が一般の少年 より反応時間が短く検者の予想どおりであった。次に両グループの学年進行による発達をみるとTable 3
−1〜4のそれぞれの学年平均が示すように剣道の少年は
59年度も60年度も各方向とも学年進行にともない反応時間 が短縮の傾向を示しているが,一般の少年は60年度の左方
(Table 3−3)を除けば59年度は5年生,6G年度では6年
生の測定値が中学2,3年生とほとんど変りがない。この
違いは今後注目すべき点であろう。4.動作時間
単純全身反応と選択全身反応にともなう動作時間を移動
方向別に表わすとTable 4−1〜5のとおりである。
一 148 一
剣道・少年 一般・少年
区分59年度 60年度
又
S.D Max Min 又 S.D Max Min
5年
@ 6年 363
@ 372 32.68
@ 55.81 444
@ 451 324
@ 300 367
@ 369 39.87
@ 52.42 400
@ 461 325
@ 294 6年
@ 中1 345
@ 307 39.65
@ 16.09 401
@ 323 263
@ 282 354
@ 397 41.46
@ 30.71 399
@ 436 260
@ 361
中1
@ 中2 324
@ 316 47.87
@ 23.97 402
@ 347 246
@ 289 305
@ 340 22.74
@ 11.20 341
@ 351 261
@ 329 中2
@ 中3 280
@ 324 56.48
@ 97.62 389
@ 530 204
@ 288 317
@ 330 66.34
@ 93.06 400
@ 510 132
@ 256 Table 4−1 単純全身反応の動作時間(前方)(m, sec)
剣道・少年 一般・少年
区分59年度 60年度
又
S.D Max Min 又 S、D Max Min
5年
@ 6年 423
@ 429 60.72
@ 58.28 516
@ 509 297
@ 353 438
@ 445 47.86
@ 67.64 506
@ 539 352
@ 325 6年
@ 中1
403
@ 345 58.21
@ 43.18 503
@ 409 319
@ 295 437
@ 328 64.55
@ 45.44 537
@ 443 335
@ 334
中1@ 中2 412
@ 415 70.12
@ 70.03 554
@ 481 319
@ 318 348
@ 375 60.72
@ 53.20 479
@ 428 279
@ 322 哩 中3 34P
@ 361 51.77
@ 49.Ol 421
@ 432 237
@ 304 408
@ 332 107.5
@ 36,64 624
@ 371 234
@ 266 Table 4 一 2 選択全身反応の動作時間(前方)(m. sec)
剣道・少年 一般・少年
59年度 区分 60年度
又
S.D Max Min 文 S,D Max Min
5年
@ 6年 383
@ 416 30.32
@ 39.09 437
@ 494 344
@ 384 426
@ 438 57.03
@ 65.82 499
@ 534 361
@ 325 6年
@ 中1
378
@ 350 55.08
@ 48.29 497
@ 425 309
@ 294 403
@ 338 48.84
@ 33.18 461
@ 384 310
@ 305 中1
@ 中2 375
@ 418 64.41
@ 69.98 495
@ 481 277
@ 32ユ 326
@ 341 48.80
@ 10.60 385
@ 351 246
@ 330 中2
@ 中3 336
@ 390 54.26
@ 57.61 455
@ 492 292
@ 306 365
@ 374 35.98
@ 40.76 430
@ 428 324
@ 310 Table 4−3 選択全身反応の動作時間(後方)(m. sec)
剣道・少年 一般・少年
区分59年度 60年度
ヌ:
S.D Max Min 又 S.D Max Min
5年
@ 6年 454
@ 440 14.48
@ 53.65 568
@ 496 346
@ 341 462
@ 459 62.85
@ 35.22 609
@ 515 380
@ 447 6年
@ 中1 441
@ 394 44.80
@ 40.57 501
@ 454 339
@ 343 424
@ 493 56.23
@ 15.79 504
@ 510 318
@ 472 中1
@ 中2 384
@ 431 50.37
@ 69.67 469
@ 528 309
@ 370 344
@ 382 54.55
@ 41,10 441
@ 423 251
@ 340 中2
@ 中3 380
@ 385 56.82
@ 28.85 484
@ 425 279
@ 353 401
@ 410 58.25
@ 98.78 506
@ 571 331
@ 272
Table 4 一 4 選択全身反応の動作時間(左方)(m.sec)
津山高専紀要第24号(1986)
剣道・少年 一般・少年
区分59年度 60年度
又
S.D Max Min 又 S.D Max Min
5年
@ 6年 453
@ 440
51.20
@ 58.11 547
@ 517 376
@ 351
456
@ 475 40.15
@ 71.41
52ユ
@ 561 410
@ 344 6年
@ 中1
471
@ 380
73.38
@ 78.11 578
@ 487 355
@ 285
463
@ 465
59.83
@ 25.61 552
@ 500 382
@ 439 中1
@ 中2 391
@ 366
62.64
@ 7.43 496
@ 375 262
@ 357 375
@ 446
69.41
@ 114.3 500
@ 560 254
@ 331 中2
@ 中3 340
@ 389
45.38
@ 60.23 401
@ 493 277
@ 312 406
@ 420
60.60
@ 73.30
484
@ 488 308
@ 288
Table 4−5 選択全身反応の動作時間(右方)(m, sec)
一般に運動の反復練習は,その運動を反射化すると言わ れ,運動に必要な筋群を効率よく働かせる型が作られると 報告(8}されている。この運動生理学の観点から,前後左右 の速い動作を反復練習している剣道の少年達は一般の少年
.より動作時間が短く,さらに両グループは学年準行と,と もに漸次時間が短縮されて当然と予想した。そこで剣道の 少年と一般の少年の両グループを学年ごとに比較してみる
と,59年度で剣道の少年の中学1年生はどの方向への動作
時間も一般少年よりも長く,また6年生の左右方向(Table4−4.5)も予想に反したものであった。60年度は選択全 身反応の右方(Table 4−5)は剣道の少年がどの学年も
速い動作時間であったが他の方向への動作時間は学年ごとに異った。
次に学年進行での発達をみると剣道少年は59年度で前方
右方(Table 4−2.5)を除けば漸次発達の傾向を示して
いる。
60年度は学年ごとに凹凸はあるが漸次時間短縮されてい
る。
一般の少年では59年度は中学1年生が最も速い動作時間 を表わしており,中学2年生の方が遅い。しかし同一被検
者の一年後の測定値(60年度)は前方と右方(Table 4−1.5)では中学3年生が最も速い動作時間であり,全体とし
ては多少の凹凸はあっても漸次時間短縮されている。6.応答時間
単純全身反応と選択全身反応にともなう運動の総時間,
すなわち,光刺激に反応して移動を完了するまでのtotal timeを移動方向別に表わすとTable 5−1〜5のとおり
である。
剣道・少年 一般・少年
59年度 区分 60年度
文
S,D Max Min 又 S.D Max Min
5年
?@ 6年 851
@ 769
112.7
@ 86.70 1072
@ 917
703
@ 631
800
@ 793
71.86
@ 75.95
923
@ 892 685
@ 678 6年
@ 中1
812
@ 727 8LOO
@ 52.07
937
@ 779 664
@ 650
787
@ 912
82.70
@ 65.19
929
@ 971
651
@ 821
中1
@ 中2 727
@ 763
68.25
@ 31.42
849
@ 807 621
@ 734
709
@ 841
92.60
@ 65.25
848
@ 907 576
@ 776 中2
@ 中3 650
@ 679
83.61
@ 81.76
822
@ 853 572
@ 614
748
@ 771
65.85
@ 120.17 824
@ 968 627
@ 607
Table 5−1 単純全身反応の応答時間(前方)(m. sec)
一 150 一
剣道・少年 一般・少年
59年度 区分 60年度
又
S.D Max Min 又 S,D Max Min
5年
@ 6年 949
@ 934
52.51
@ 68.56 1040
@ エ036 878
@ 798 936
@ 945
66.77
@ 142.41 1037
@ 1279 843
@ 800 6年
@ 中1
921
@ 828
101.3
@ 104.75 1107
@ 921
744
@ 650 934
@ 971
78.07
@ 63.59
1002
@ 1021 722
@ 881 中1
@ 中2 872
@ 875 56.82
@ 77.65 981
@ 952 763
@ 769 862
@ 904 88.07
@ 70.40
1022
@ 975 751
@ 834 中2
@ 中3 775
@ 788 73.04
@ 67.11 904
@ 871 644
@ 693 888
@ 857 82.10
@ 142.45 991
@ 983 752
@ 578 Table 5−2 選択全身反応の応答時間(前方)(m. sec)
剣道・少年 一般・少年
59年度 区分 60年度
文
S.D Max Min 又 S.D Max Min
5年
@ 6年 889
@ 832 78.22
@ 57,22 1027
@ 915 778
@ 737 839
@ 854 71.83
@ 72.46 967
@ 970 742
@ 759
6年
@ 中1 851
@ 798 71.35
@ 83,88 954
@ 932 722
@ 720 874
@ 843 94.58
@ 22,38 1042
@ 869 785
@ 814 中1
@ 中2 812
@ 834 84.10
@ 80,53 936
@ 898 662
@ 720 791
@ 803 74.47
@ 11.60 966
@ 815 700
@ 791
中2
@ 中3 734
@ 787 74.40
@ 83,30 824
@ 906 582
@ 664 769
@ 812 53.36
@ 56.37 862
@ 897 697
@ 742 Table 5−3 選択全身反応の応答時間(後方)(m. sec)
剣道・少年 一般・少年
59年度 区分 60年度
又
S.D Max Min 又 S.D Max Min
5年
@ 6年 851
@ 820 55.34
@ 60.85 958
@ 888 776
@ 689 831
@ 851 73.22
@ 103.99 958
@ 1079 744
@ 730 6年
@ 中1
836
@ 764 63.41
@ 56.14 945
@ 825 736
@ 672 820
@ 888 68.33
@ 39.12 914
@ 937 698
@ 842 中1
@ 中2 742
@ 787 71.42
@ 62.47 847
@ 874 643
@ 730 713
@ 747 72.53
@ 14.70 793
@ 762 603
@ 732 中2
@ 中3 703
@ 704 68.78
@ 32.46 789
@ 747 554
@ 639 757
@ 742 70.89
@ 112.88 894
@ 911 674
@ 563 Tab垂e 5−4 選択全身反応の応答時間(左方)(m. sec)
剣道・少年 一般・少年
59鞭 区分 60年度
又
S.D Max Min x S.D Max Min
5年
@ 6年 849
@ 811 57.02
@ 64.72 946
@ 908 752
@ 712 816
@ 829
56.47
@ 94.89
891
@ 980 720
@ 638
6年
@ 中1
832
@ 741 88.98
@ 70.68 933
@ 824 691
@ 667 850
@ 836
86.70
@ 43.87
947
@ 894 682
@ 788 中1
@ 中2 757
@ 748 83.32
@ 27.37 907
@ 781
586
@ 714
745、
@ 804
91.10
@ 110.70 874
@ 915 587
@ 693 中2
@ 中3 660
@ 689 61.81
@ 56.30 751
@ 785 562
@ 597 753
@ 762 80.37
@ 97.25 893
@ 877 595
@ 586
Table 5 一 5
選択全身反応の応答時間(右方)(m.sec)
津山高専紀要第24号(1986)
Table 5−1−5により、,各方向への応答時間について,
剣道の少年と一般の少年の両グループを学年別に比較して
みると59年度では,6年生(単純前方,左方を除く)と中 学2年生で剣道の少年が一般の少年より速いが,他は一般 の少年がわずかに速い。60年度では中学2年生の後方と左
方(Table 5−3.4)を除けば各方向とも剣道の少年が一 般の少年より応答時間が速い。さらに学年進行でみると,剣道,一般の少年両グループとも各方向で学年聞の凹凸は 認められるが,年々短縮の傾向を示しているとみてよかろ う。また,短縮の割合は一般の少年より剣道の少年が大で
あると言える。
顕著な差はみられなかった。しかし,剣道の少年は次 第に動作時間が短縮されており,最高学年が最も速い
値を示した。
4)応答時間は剣道の少年と一般の少年には反応時間ほ ど顕著な差はみられなかった。しかし,学年進行で変
化をみると剣道の少年の発達度は一般の少年より大で
ある。
以上のように本実験では少年の反応時間や動作時間につ いて報告したが,被検者グループの特性もあり,今後,個 人の追跡調査で問題点を明らかにしたい。
}V 要 約
青少年期(小学校5一中学校3年)の単純反応時問,単 純全身反応時間,選択全身反応時間,さらに刺激から課題
動作を完了するまでの応答時間などの発達を検証する目的 で引き続き,剣道教室の小学生と一般の小学生,中学校の 剣道部員と一般の中学生を被検者として測定した。その結 果次のようなことがみられた。1)単純反応時間は高学年になるにしたがって剣道の少
年が一般の少年より速く,また,反応時間の発達度も 大である。このことは生得的因子によるとされる単純 反応時間にも心身面のトレーニング効果を示唆するも のと考えられる。2)単純全身反応時間では,小学5,6年生で一般の少 年が剣道の少年よりわずかに反応が速いが中学2,3
年生では剣道の少年が速い反応時間であった。3)動作時間は剣道特有の基本動作があるため,剣道の
少年と一般の少年の比較では,学年ごとに凹凸があり本実験にあたり,本校電気工学科技官の小坂睦雄氏には,
測定装置の作成をはじめ多大のご協力を頂き深く感謝いた
します。
参 考 文 献
1)松浦義行 発達運動学 p.134〜5遭遙書院(1975)
2)猪飼道夫他 スポーツ科学講座 運動の生理 p.140
大修館(1966)3)「田渕知好,安東三次津山高専紀要第一巻五号
(1967)
4)N.Singer,松田岩男訳運動学習の心理学p,75
大修館(1979)5)松浦義行 体力の発達 p.84 朝倉書店(1982)
6)安東三次,田渕俊彦 津山高専紀要 第22号(1984)
7)市岡正道 生理学撮要 p.230 南江堂(1969)
8)名取礼二 現代スポーツ生理学 p.35 日本体育社
(1968)
一 152 一