戦略適応 と行為 ‑ Mi nt z bergの戦略論を手がか りに‑
玉 井 健 一
目 次
I. は じめに一戦略的適応の課題
Ⅱ. 戦略の一貫性
Ⅲ. 戦略適応の現実
1.企業家的組織の戦略形成
2. ア ドホクラシー組織の戦略形成
Ⅳ.戦略適応 と行為の分析枠組 V.おわ りに
Ⅰ.は じめに一戦時的適応の課題
組織 の機能 として ヒ トを活用す ることは,マネ ジメン ト理論の重要 な課題で ある。その場合,ヒ トは組織 に組 み込 まれて考 え られ ることにな る。目的 に沿 っ て組織が構造化 され,機能 と しての ヒ トが配置 されてい く
。こうして, ヒ トの 機能 は,既存 システムにおけるハー ドな構造 内での役割 として記述で きる
。ヒ トが その役割 に沿 って よ りよ く働 けば,組織 は高 い成果 を確保 す る ことにな る。もちろん,これ までのマネ ジメ ン ト理論が機能 的側面 か らのみ ヒ トを捉 え, 人格的な問題を全 く無視 して きたわけで はない
。しか し,逆 に人格的な課題の 解決 に も機能的な観点が入 り込んでいたとはいえな くもない。 このため,七 卜
は組織の中に埋没す ることにな るのである。
ヒ トが組織 の機能 と して よ りよ く働 くことに意義が ないわ けで はない。 ま た,マネ ジメ ン トがそれ に向けて努力す ることも同様 に意義がある。問題 は,
〔 2 5 9 〕
近年,重視 されている組織の変革や適応が,組織 にたいす るヒ トの機能的側面 か らでは捉え きれないとい うことにある。 したが って,そ こで営 まれ るヒ トの 行為を異なる文脈か ら明 らかに してい くことが重要 になる。
変革や適応 との関連で組織 プロセスを把握す ることは,一つの解決の糸 口に なるよ う
に思 う
。組織 プロセスの リア リティの高 さは,いまだ明確化 されてい ない行為を組織のなかに位置づ ける可能性を有 している。新 たな戦略プロセス の研究 は,組織プロセスを射程 に収めつつある。それ らは,合理的分析 に基づ く規範論的アプローチか ら,具体的な事実を踏 まえた理論構築へ と変わ りっっ ある。現実的な戦略プロセスをよ りよ く理解すれば,組織で演 じられ る行為の 新たな次元の発見 に加えて,それ らの行為の組織論的な意味を兄いだす ことが できるにちがいない。
我 々は,特 に戦略適応 と行為の関連性を新たな戦略プロセスの研究か ら把握 したい と思 う
。ここでは,組織 プロセスを戦略 と関連づ けて議論を展開す る研 究者 と して Mi nt zbergを取 りあげ る
。その理 由は Mi nt zberg の戦 略論が, 我々の注 目す る行為‑接近を可能 に していると思われ るためである。
したが って,まず,彼の議論を2 つの観点か ら整理 し検討す る。 1 つ は,戟 略と組織行動の一貫性の観点である。そ こでは,複数の戦略概念 とそれ らの関 連性が示 され,従来,組織の適応を うみだす と考え られて きた戦略が適応を阻 害す る源泉 になることが明 らかにな っている。 もう 1つ は,戦略プロセスを説 明す る行為の観点である。Mi nt z bergの 2 つの戦 略プロセスの実証研究 は, 個人 レベルで行われ る行為を戦略適応 との関連で把握 させ る。特 に,その 1 つ の研究では,戦略が組織内の複数の ヒ トによる相互行為か ら生成 されているこ
とを明 らか している。
以上の 2 つの観点か らの整理 ・検討を踏 まえ,戦略プロセスに行為を関連づ
けた戦略適応の分析枠組みを提示 したいと思 う。
戦略適応 と行為 ‑Mi nt z be r g の戦略論 を手がか りに1 26 1
Ⅱ. 戦略の一貫性
組織が選択す るか環境変化に対応 した ものであるかは別 として,戦略は環境 と密接に関連 し,組織の生存領域 として記述 され る
。また,戦略は環境 との関 連で成長ベ ク トル ( Ansof f ,1 965 ) や競争 の方法 ( Port er,1 980 ) な ど具体 的な組織の行動特性 として把握す ることができる。
Mi nt zberg ( 1 987 a) は, これ らの戦略を,組織を環境 に位置づ ける手段 と してのポ ジシ ョン( Pos i t i on) ,さ らに一貫 した組織行動のパ ター ン( pat t ern) と呼ぶ。いわゆる,組織 と環境の関連性 は,組織の環境‑の位置づけとそこで 行われ る組織行動概念 として記述 される
。さらに,戦略は, こうした環境への位置づけや組織の行動特性を説明する抽 象 レベルでの概念 として も考え られてきた。彼 は,その概念 として先行的な意
1 )
図 と しての プラ ン ( pl an) お よび組織 に浸透 した世界認識 の方法 と しての パースペクティブ ( perspect i ve)を位置づける。
各戦略概念 は,独立の概念であるが相互に関連づけて考えることがで きる
。図 1は,その関連性を示 している
。組織 に浸透 したパースペクティブは,行為 の妥当性や正当性を付与 し,一貫 した行動パターンとなる
。また,先行的な意 図 としてのプラ ンも行為の コースを規定 し,一貫 した行動パ ター ンを生み出 す。行動パ ター ンは特定のポジションへ と向かい,外部環境 と遭遇す ることに なる。 このよ うに して営まれる戦略が環境 と一致す るとき,組織 は環境適応に 到達する.適応状態に到達 した組織は,環境の多元的な特性か ら離れ一元的な 環境を認識す るようにな り,環境を操作す ることが可能 になる。
各戦略概念 は,組織の安定性を基礎づけるのである。すなわち,行為の方向 を設定 し ( set t i ngdi rec t i on) ,努力を集 中させ る ( f ocuss i ngef f ort ) 。加 えて,組織 を明確化 ( def i ni ngt heorgani zat i on) し一貫性 を付与 ( pro一
1) 実際, Mi nt z be r g は,プラ ンを特定化 した もの としてプロイ ( pl oy) を位置づ
け, 5 つの P として戦略概念を提示 している。
パ ー ス ペ ク テ ィ ブ J プ ラ J ン 1
組織行動のパ ター ン J
ポジション J
環 境
図 1.戦略概念の一貫性
v i °i ngc ons i s t ency)す る。( Mi nt z ber g,1 9 87 b)
各戦略が一貫性を確保 し, 環境 と適応す るほど能率的な ことはない。しか し, 環境が操作可能な状態にある場合だけに限 られ る
。環境が変化すれば,各戦略 の一貫性 は意味をなさな くなる。環境適応のために必要 とされて きたはずの戦 略が,適応を阻害す る源泉 になるのである。そ こでは,戦略を形式化 し硬直化 す る戦略の逆機能の様相を呈す ることになる。 ( 塩次,1 99 2 )その結果,戦略 的対応がイ ンク リメンタルな もの とな り,不連続な環境変化を見過 ごして しま
う危険性をは らんでいる。
戦略が組織の安定性を基礎づ け,適応を阻害す る原因 となる以上,図 1の流
れか ら戦略適応を説明す ることはで きない。図 1 の矢印を組織 プロセスと仮定
した場合,そのプロセスは安定化 に向けたプロセスであ り,適応に向けたプロ
セスの一部で しかない。安定化 に向けたプロセスが適応への到達 に必要である
として も,適応の最終段階にす ぎないのである。我 々は,適応に向けた本質的
なプロセスが矢印 と逆方向のプロセスであると考えている。逆転 した矢印は,
戟略の前提へ と進んでい く
。このようなプロセスを実証的に把握すれば,戦略
適応を導 く行為者像が明 らかになるだろ う。以下では,その点を明 らかに した
Mi nt z be rg 等の 2 つの実証研究を検討 してい くことに したい0
戦略適応 と行為 IMi nt z be rg の戦略論を手がか りに‑ 263
Ⅲ. 戦略適応の現実
戦略プロセスの研究の中心 は,戦略をプラニ ングす ることにあった。優れた 分析力 に基づ く合理的なプラニ ングプロセスか ら導かれた戦略が,優れた戦略 行動の源泉 となることを前提 に置 いて展開され る
。しか し, このプロセスは戦 略プロセスの一部を説明す るにす ぎない。上記のよ うなプラニ ングモー ドに加 えて企業家モー ド,適応モー ドの 3 つの戦 略プ ロセスを指摘す ることがで き
る 。 ( Mi nt zberg,1 97 3 )
2)Mi nt zberg ( 1 978 ) は, このよ うに各種 のモー ドを指摘 した上で,戦 略プ ロセスの研究方法を再検討す る。彼 は, これまでの戦略 とい う概念の定義 に問 題があることを指摘す る。それは,将来の意思決定のガイ ドライ ンとしてのプ ランとい う概念定義にある。プランとしての戦略概念 は,具体的な戦略プロセ スの検証を困難 に し,戦略を認識現象の研究に限定す るのである。そのため, プラ ンとしての戦略概念 に加 え,「 意思決定や行為 の流れのパター ン」 と して 新 たな戦略概念を位置づ け,認識論的な研究か ら離脱を図ろうとす る
。 3)新 たな戦略概念を位置づ けることで,意思決定や行為の側面が実証的に扱え るよ うにな る。いわゆる, 具体的な戦略が把握可能 にな るのである。こうして, これ まで プラ ンと して定義 されて きた戦 略を 「 意図 され た戦 略 ( i nt ended st rat egy) 」 と呼び,新たに定義 した 「 意思決定や行為の流れのパ ター ン」 と しての戦略を 「 実現 された戦 略 ( real i zedst rat egy)」 と呼ぶのであ る
。さ らに,両者の概念か ら理論的に導かれ る二つの戦略プロセスとして 「 慎重 に計 画 された戦 略 ( de l i verat es t rat egy) 」と「 創発 的戦 略 ( emergentst rat egy) 」 を仮定す る。 ( 図 2 ) こうして,独 自の分析枠組 みに したが って調査を行 うの
2 )各モー ドは理想型にすぎない 。Mi nt z be r g は,各モー ドが企業の中で並存 してい ることを指摘している。
3) Mi nt z be r gは当初,意思決定の流れのパターンとして戦略を定義 していた。 しか
し,後に行為も含むようになる。それは,意図が見 られないにも関わらずパターン
が生起することを兄いだしたためである。したがって,後に示す 2 つの研究では,
意思決定や行為の流れのパターンとして実現された戦略を捉えている。
三>
I nt e nded St rat e gy ヽ
U
nr
eal i z e d
Str