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ロシア語 における主語 ・動詞の一致 と 主格の付与 をめ ぐって(1)

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(1)

211

ロシア語 における主語 ・動詞の一致 と 主格の付与 をめ ぐって (1)

匹 田 剛

0.は じめに

ロ シア語 は 日本 語 とは異 な り, 一 致 ( agreem ent) が行 わ れ る言 語 で あ る。

この点 にお い て,ロ シア語 は英 語 と同様 の性 質 を示 す 言語 で あ る と考 え られ,

(1)本稿 のグロスで用いた略記 は以下 の通 りである。

NOM. ‑ nomi nat i ve;HMeHHTeJ I bHbl nr l aAe ) K;主格 GEN. ‑ geni t i ve, ・p oR HTe J r bHb l 崩。aAe 〉 X, ・生格 DAT. ‑ dat i ve;且aTeJ I hHb l f iI l aAe X;与格

ACC. ‑ accusat i ve;B HH HTeJ I bHb l hI l aAe X;対格 I NS. ‑ i nst rument al ;TBOpHTe J l bHb l 白na Ae ) K ;造格 LOC. ‑ l ocat i ve;npeAJ 1 0 XHb泊 r l aAe X;前置格

1. ‑ 1stperson;r l ePBOe J l HuO;1 人称 2. ‑ 2ndperson;BTOPOe J l HuO;2 人称 3. ‑ 3rdperson;TPeTbe J I HuO;3 人称

P R. ‑ present ;HaCTOI l ueeBPeM f I ;現在 時制 PA. ‑ past ;npo l neAI ne eBpeM f I ;過去時制

S G. ‑ Si ngul ar;e RH f I CTBeHHOe t l HeJ I O; 単数 P L. ‑ pl ural ;MHOXeCTBeHHOe t l HCJ T O; 複数 M. ‑ mascul i ne;M y ) KCKOf iPO A;男 性

F. ‑ f emal e;xeHCK舶 p oA;女 性

N. ‑ neut er;cpeAHHf iPO A;中性

ADVPART. ‑ adverbi alpart i ci pl e;Aeenp Ht l aCTHe; 副動詞

また,本稿 ではグロス中の名詞 に付 してある性別 とそれ以外 の,動詞や形容詞 に付 してある性別 とを一切 区別せず に付 けて あるが, これ は便宜上 の ものであ る。実際 には名詞 の性別 はその名詞 の持 つ固有の性別であるのに対 して,動詞や 形容詞の性別 は何 らかの名詞句 に一致 した結果 の形であ り,その ものが持つ固有 の性別 ではない。

なお,付 してある文法的特徴 は議論上必要 な もののみで あ り,全ての語 に全 て

の文法的情報 を記 してあるわ けではない。

(2)

212 8 9 輯

Kur oda( 1 9 9 2 ) が提案 してい る一致 に関す るパ ラメー ター について, ロシア 語 と英語 は等 しい値 を示す と考 え られ る。しか しなが ら,ロシア語 は Kur oda

( 1 9 9 2) が考 えてい るような形 での現 象の呈 し方 をせず, このパ ラメーターの 設定 をめ ぐって理論 的 な問題 を投 げか けてい る と考 え られ る。本稿 の第 1 節 で は この間題 を扱 う。

また, Choms ky( 1 9 8 1 )や Cho ms ky( 1 9 9 3 ) な どで想定 されてお り,生成 文法 の理論 の中で一般 に広 く受 け入 れ られ てい る一致 の定式化 に従 うと,主 語 と動詞 の一致 と主語名詞句 に対 す る主格 の付与 は 1 対 1 に対応 す る同一 の 現 象の裏 と表で ある と考 え られてい る 。 しか しなが ら, ロシア語 の例 を見 る 限 り, この ことは当て はま らない と考 え られ る 。 す なわ ち, ロシア語 は Ku‑

r oda( 1 9 9 2 ) が提案 してい るようなパ ラメーターの設定 に関 してのみな らず, 生成文法理論が提案 してい る一致 の定式化 に対 して問題 を提起 す る もので あ

る と考 え られ る。 この点 については第 2 節 で論ず ることとす る。

1.一 致 のパ ラメ ー タ ー につ い て

Kur oda( 1 9 9 2 ) は 日本語 と英語 の主語 と動詞 の一致 をめ ぐるい くつかの現 象 を観察 す るこ とによって,一致 のパ ラメー ター ( a gr e e me ntpar ame t e r ) を提案 している 。 この提案 に よれ ば,各言語 は一致が義務 的で あるか否 か に ついてパ ラメー ター化 されてい る と考 え られ るが,例 えば,英語 は一致が義 務 的 な言語 で あ る と考 え られ, それ に対 して 日本語 は一致が義務 的で はない

と考 え られ る

日本語 と英語 は以下 の点で異 な る性質 を示す。

( 1 )

a) 顕在 的 wh 移動 の有無 b) 語順 のか きまぜ の有無 C) 複数 の主語 の可否 d) 冗語的主語 の有無

Kur oda( 1 9 9 2 ) は これ らの性質 の違 い を上述 の一致 のパ ラメーターの値 の

(3)

ロシア語 における主語 ・動詞 の一致 と主格 の付与 をめ ぐって 213

違 いによって以下 に示 す ように説明づ けようとしてい る。

まず第 1 に ,( a) の顕在 的 wh 移動 の有無 に関 して言 えば,一致 が義務 的で あ る英語 において は当然 [ 十wh] の素性 を持 つ C とその Spe c が一致 を起 こさ ね ばな らない。 その必要性 を満 たすために wh 移動 が義務 的 に行 われ るので あ る 。 一 方 日本語 は一致が義務 的でないた め, その ような移動 が起 こる必然 性 は認 め られ ない。

第 2 に ,( b) の語順 のか きまぜ ( s c r ambl i ng) の有無 に関 して, 日本語 は語順 が 自由な言語 で あるが,英語 はそ うで はない。この点 に関 して Kur oda( 1 9 9 2 )

は一致のパ ラメーター によって以下 の ように説明 してい る。 日本語 な どに見 られ るいわゆるか きまぜ現象 は I P の Spe c への移動 で あ る と考 え られ るが, 英語 の よ うな一 致 が義務 的 で あ る言語 で は I P の Spe c に入 り AGR と一 致

を起 こす の は主語 NP 一 つ だ け とい う こ とにな る。しか し,日本 語 の よ うに 一致 が義務 的で ない言語 の場合,この様 な制 限 はな く, 複数 の要素が トピック としていわ ゆるか きまぜ規則 によって I P の Sp e c の位置 に入 ることがで きる。

第 3 に,複数 の主語 の可否 について。英語 は一致が義務 的 な言語 で あるの で ,AGR と一致 を起 こす こ とので きる,す なわち主格 を与 える ことので きる 要素 は一 つだ け とな る。 それ に対 して, 日本語 で は一致 が義務 的で はないの で,複数 の要素が主格 を与 え られて も差 し支 えない。

第 4 に, いわ ゆる冗語 的 ( pl e onas t i c) 主語 について。英語の ような一致が 義務 的 に行 われ な けれ ばな らない言語 の場 合, AGR は必 ず何 らかの名 詞句 と一致 しな けれ ばな らない。そのため ,i t や t he r e の ような冗語 的主語 の存在 が必要 となって くる 日本語 の ような一致が義務 的で はない言語 において は その ような必要性 は認 め られない と考 え られ る。

以上が Kur oda( 1 9 9 2 ) にお ける一致 のパ ラメー ター をめ ぐって 日本語 と英 語 の相違点 を説明 しようと試 みた議論 の概 略で あ る 。 それで は英語 同様 に一 致が義務 的で あ る と当然考 え られ るロシア語 において は この議論 は成 り立 ち 得 るのであ ろうか。以下 の各節 で はそれぞれの特徴 についての ロシア語 の振

る舞 いを概観 してい く

(4)

214 89

1.1.wh 移動

第 1 に, wh 移動 に関 して はロシア語 は Kur oda( 1 9 9 2) の予想通 り,義務 的 に行 う と考 え られ る 。

( 2 ) 只 q H T a r O K H H r y , f C O mO Py 7 0i O H

I I NOM. r ead‑ PR. 1 . SG. book‑ ACC. whi c h‑ ACC. he‑ NOM.

MH e n O A a p HJ I e i . me‑ DAT. pr e s e nt ‑ PA.M.

「 私 は彼が私 に くれた本 を読 んで い る。」

( 3) *只 WT a f OK H H r y,O HMH eI l O A a p H J lf C O mO Py f O.

( 4 ) 只 X o t l y 3 H a T b , f C OZOi B b l

Ⅰ ‑ NOM. want ‑ PR. 1 . SG. kno w‑ I NF. who‑ ACC. yo u‑ NOM.

J I f O6 Ⅰ 4 T e e i .

l o ve‑ PR. 2 .P L .

「 私 はあなたが誰 を好 きなのか知 りたい 。」

( 5)* 只x o t l y3 H a T b ,B b I J I l 06 H T e KO20.

この点 に関 して は,ロシア語 は英語 の ように wh 移動 が義務 的 に行 われ,一 致 のパ ラメー ターの値 によって Kur o da( 1 9 9 2 ) が予想 す る振 る舞 いを見せ る

ことがわか る

ただ し,以上 の ような関係詞節や, 間接疑 問文 な どの場合, す なわ ち従属 節 の場合 で はな く,主節 に疑 問詞が あ らわれ る と, ロシア語 の場合,英語 の いわ ゆるエ コー疑 問文 ( e c ho‑ que s t i o n) な どよ りもはるか に高 い頻 度 で wh 移動 が行 われ ない ものが見 られ る。

( 6 ) vmo T b l t I H T a e ub ?

what ‑ ACC. you‑ NOM. r e ad‑ PR. 2. SG.

「あなた は何 を読 んでい るのですか ?」

( 7 ) Tb lq H T a e L I J bZ t mOP 1.2. 語順 のか きまぜ

ロシア語 はいわ ゆる語順 が 自由な言語 で あ り, それ は 日本語以上 に自由で

(5)

ロシア語 における主語 ・動詞の一致 と主格の付与 をめ ぐって 215

ある とさえ考 え られ る。例 えば,以下 の ような文 には都合 ,4 ! ‑2 4 通 りの語 順 が可能 である。

( 8 ) Ta H f l t l H T a e T Xyp H a J l A O Ma.

Tanj a‑ NOM. r ead‑ PR. 3.SG. magaz i ne‑ ACC. athome

「タ一二 ヤは家で雑誌 を読 んでい る。」

ロシア語 のか きまぜ規則 は日本語 において Kur oda( 1 9 9 2 ) が仮定 している の と 同 様 に ,I NFL の Spec の 位 置 へ の Choms ky 付 加 ( Choms ky・

ad j unc t i on) による ものである と考 え られ る。 (この点 について は匹田 ( 1 9 9 3 ) を参照の こと。)従 って Kur oda ( 1 9 9 2 ) の考 えに従 う限 り, そ して, ロシア 語が義務 的な一致 を持 つ言語 である限 り, この ことは矛盾 をは らんでいるこ とになる。すなわち,ロシア語 のか きまぜ移動が I NFL の Spe c の位置への移 動 である と考 える と ,AGR と一致 を起 こす Spe c の位置 に複数 の要素が存在 す ることになって しまう 。 これ は Kur oda( 1 9 9 2 ) の議論 に従 う限 り,一致が 義務 的で あるロシア語 として は起 こってはな らない ことなのである。

1.3. 複数の主格名詞句

Kur oda( 1 9 9 2 ) が主張す る一致が義務 的でない言語 の次の特徴 は主格主語 名詞句が複数 あ らわれ得 る とい うことである 。 この点 に関 して は例 えば, 日 本語 においては以下 の様 な例文が考 えられ る 。

( 9 ) z oo一 ganana‑ gana gai

この ような複数 の主格名詞句 を有す ることがで きるのは, 日本語 は一致が 義務 的ではな く,したが って ,I NFL の Spe c の位置 に複数 の名詞句が あった として も両者 に一致 を行 う必要がない とい うことか ら説明がで きる, とい う のが Kur oda( 1 9 9 2 ) の考 えである。当然,一致が義務的 な英語 においてはこ の様 な構造 は不可能 である とされ る

それで は英語 同様一致が義務 的である と考 えられ るロシア語 にはこの様 な

複数 の主格名詞句 は見 られ るのであろうか。 ロシア語 において は日本語 の上

述 の ようなタイプの構文 に全 く同一 の もの は見当た らない。 しか しなが ら,

複数 の主格名詞句 を持つ ものは見 られ る 。 まず,第 1の ものはいわゆる左方

(6)

216 人 文 研 究 第 89 輯

転移化要素 ( l e f t ‑ di s l oc at e de l e me nt ) である 。

( 1 0 ) Ma p H只i 一 月 eei J I r O6 J l r O.

Mar i j a‑ NOM. Ⅰ ‑ NOM. he r ‑ ACC. l ove‑ PR. 1 .SG.

「 私 はマ リヤ を愛 してい る 。」

ここで は,対格 目的語 で あ る e e「 彼女」 と同一指示 になってい る主格名詞 句 M a p u Hが文頭 に トピック としてあ らわれてい る.(この種 の トピックにつ いて は,匹田 ( 1 9 9 3 ) を参照。)

第 2 に しば しば見 られ る主語以外 の主格名詞句 は,連結動詞 ( c opul ave r b)

6b L m b の主格述語 である。

( l l ) oH ¢ CT y AeHT.

he ‑ NOM. be‑ PR. s t ude nt ‑ NOM.

「 彼 は学生 であ る 。」

ここで は,主語 のみな らず述語名詞句 も主格 で あ らわれてい る。(この主格 述語 は様々 な問題 を包含 している 。 その諸 問題 に関 して は匹田 ( 1 9 9 4 ) を参 照。)

さらに, いわ ゆ る 「 呼格 ( vo cat i ve ) 」的な名詞句や引用形 はロシア語 で は 主格 であ らわれ る。 この様 な名詞句 を ( そ して上述 の主格述語 も) Choms ky

( 1 9 8 6 ) は項 ( ar gume nt ) であ る とは考 えず, そのためいか なる格 も付与 され ていない と考 えてい るが, ロシア語 の ような格が顕在 的 に表示 され る言語 で はその ような議論 は当然通用 しない。 したが って Kur oda( 1 9 9 2 ) が述べ る主 格名詞句 と同列 に扱わ ざるを得 ない と思われ る 。

1.4. 冗語 的主語 の有無

Kur o da( 1 9 9 2 ) で は,英語 において,例 えば以下 の例 に見 るような, いわ ゆる冗語的主語 の ような ものが見 られ るのは,英語 が一致 を義務 的 に行 うか

らで ある と主張 されてい る。

( 1 2 ) I ts e e mst hatJ ohnhat e sB i l l . ( 1 3 ) The r ei sabooko nt het a bl e.

そ して, 日本語 に冗語 的主語 が見 られないの は一致が義務 的で はないか ら

(7)

ロシア語 における主語 ・動詞の一致 と主格の付与 をめ ぐって 217

である とされている 。

それではロシア語 はどうであろうか。 ロシア語 には この様 な冗語 的主語 に 相 当す るもの は見当た らない。上 の英語 の例文 の内容 と類似 の もの をロシア 語で示す とすれ ば,例 えば以下 の ような言 い方が あるが, そ こには冗語的要 素 は当然見 られない。

( 1 4 I ( a ) Ke T C 只, t l T O HB a H H e J l l 06 H T

s e e m‑ PR. 3 . SG. t ha t l van‑ NOM. not l o ve ‑ PR. 3. SG.

Hr o p 札 ‑ I go r ' ‑ ACC.

「イ ワンはイーゴ リの ことを嫌 ってい るようだ。 」 ( 1 5 ) Ha c T O J I e e C T b K H H r a .

on t abl e ‑ LOC. be‑ PR. book‑ NOM.

「テーブルの上 に本 がある。 」

以上 の例 はロシア語 に冗語的主語が存在 しない ことを示すための ものであ るが, この他 に もロシア語 には定動詞 ( f i ni t e ve r b) が一致す る対象 を持たな い構文が ある 。

ロシア語 には,英語 にお ける 3 種類 の具体的 な指示対象 を持 たない形式主 語,すなわち i t ,t he y,yo u を有 す る構文 に意味的 ・ 機能 的 にそれぞれほぼ相 当 し,形式的 に も多 くの類似点 を見せ る と考 えられ る 3 つの構文が存在 す る 0

そしてそれ らはいずれ も顕在 的な主格 の主語名詞句 は持 たず,主語 の位置 は 空 の ままである 。

3 つのタイプの構文 の第 1 の もの は無人称文 ( 6 e 3 J I MH O eI l p e A J I O ) Ke H H e ) と 呼 ばれ るものであ り,英語 の形式主語 i t を持 つ構文 に相 当す る もので あ る が,英語 の i t にあた るものが無 く,顕在 的な主格主語 は見 られない。そのか わ り, この構文 であることを示すのは動詞が 3 人称 ・単数 ・中性 の形 を持 つ

ことである ( 2) 0

(2 )現在時制では 3 人称 ・単数,過去時制では中性を示す。

(8)

218 8 9 輯

( 1 6 ) Ha y J I H ue C Ta J I O Te MH O.

on s t r e e t ‑ LOC. be come ‑ PA.N. dar k‑ N.

「 外 は暗 くなった。」

この構文 は東郷他 ( 1978:627)に よれ ば 「 主語 が存在せず, また存在 し得 ない文」 とされ,英語 の形式主語 i t を有 す る構文 とほぼ意味的 ・機能 的 には 近 い ことがわか る( 3 ) 0

第 2 のタイプは不定人称文 ( H e O n P e Ae J l e H H O I J l l 4 t l H O en pe A J I O Xe H H e) と呼 ばれ る ものであ る 。 これ は上述 の東郷他 ( 1978:627)によれ ば 「主要 な注意が行 為 だ けに向 け られ, その行為 の主体 は不 明か, あ るいは問題 に していない文 で,形 の上 で は主語 を欠 き,述語動詞 が 3 人称複数 ( 過去形 で は複数)になっ てい る文」の ことで あ り,英語 の形式主語 t he y を持 つ文 にほぼ相 当す る と考 え られ る 。 ここで もや は り顕在 的な主格主語 は見 られ ない。動詞 は 3 人称 ・ 複数 の形態 を示す。例 えば以下 の ような ものが あ る。

( 1 7 ) B x H O C K e I l p OA a t OT r a 3 e T b I .

i n ki os k‑ LOC. s el l ‑ PR. 3.P L . ne ws pape r ‑ P L .ACC .

「キオス クで は新聞 を売 ってい る。」

第 3 の もの は一般人称文 ( 0 6 0 6 I ne H H O ‑ J I Hq H O en pe A J l 0 ) Ke H H e ) と呼 ばれ る もの である 。 これ は東郷他 ( 1978:627) で は以下 の ように説明 してい る :「 述語

(3 )しかしなが ら,ロシア語の無人称文 は英語の形式主語 i t を持つ構文 よりも広 い使われ方をする事 に注意 しなければならない。例 えば,自然の威力を表現する 以下のような文 も可能である。

( i ) Pe K y C K O B a J 1 0 J I b A O M.

r i ve r ‑ ACC. f r e e z e ‑ PA.N. i c e ‑ I NS.

「 川には氷がはった。 」

この様な場合,以下のような J i e ∂ 「 氷」を主格の主語 として とる文 とは意味的 に少々の違いがでる。詳 しくは東郷他 ( 1 978) などを参照。

( i i ) me 且 C K O B a Jl p e K y.

i c e ‑ NOM.M. f r e e z e ‑ PA.M. r i ve r ‑ ACC.

他にも存在の否定 を表す ものなどい くつかのタイプがあるが,いずれ も東郷他

( 19 78)などの参照文法に詳 しい記述がある。

(9)

ロシア語 における主語 ・動詞の一致 と主格 の付与 をめ ぐって 219

動詞が誰 にで も当てはまる行為 を意味 してい るような文 で,一般 的 な心理 を 表 してい る様 な文 を一般 人称 文 とい う。」 この場合 も顕在 的 な主格 主語 は無

く,動詞 は 2人称 ・単数 の形態 を示す。

( 1 8 ) He H 3 B e A a B r O P b K O r O , H e no t e xpe r i e nc e‑ ADVPART.PA. bi t t e r ‑ GEN. no t y3 H a e l 山b C J I a A K O r O.

kno w‑ PR. 2 .SG. s we e t ‑ GEN.

「 苦 い もの を知 らず に,甘 い もの はわか らない。」

以上 の ように,ロシア語 は義務 的 な一致 を有 す る言語 であ るに も関わ らず, 英語 の ような冗語 的主語 は原則 としてあ らわれ ない。 さ らにその他 に も英語

のいわゆる形式主語 にあた る もの もあ らわれ ることが な く, それ らの構文 で は定動詞が義務 的 に一致 す るべ きものが存在 しないのであ る 。

以上, Kur oda( 1 9 9 2) が主張す る一致 のパ ラメー ター とその値 によって決 定 され る個 々の性質 をロシア語 に関 して見 た。 その結果 は以下 の とお りであ

る 。

wh 移動 か きまぜ 複数主格

ng + E RuS + + +

冗語 的主語 +

この様 に, ロシア語 は Kur oda( 1 9 9 2 ) で提案 されてい るパ ラメーター に従 うな らば義務 的 な一致 を持 つ言語 であ る と考 え られ るが,彼が主張す る義務 的一致 を有 す る言語 の性質 を示 してい る とはお よそ言 いがたい。 この ことか ら一致 の パ ラメー ターその もの を考 え直すか,彼が依拠 してい る一致 のメカ ニズム を考 え直すか をしなけれ ばな らない ことをロシア語 の例 が示 してい る

と言 えよう。

また, これ らの特徴 の うちか きまぜ の可否 や形式主語 の有無 は一致 をめ ぐ

る問題 と言 うよ りはむ しろ, ロシア語 や 日本語 の ような言語 が豊 か な形態法

(10)

220 89

の体系 を有 してい ることに関係 している と考 える方が 自然 なので はないか。

例 えば, 日本語 もロシア語 も明示的 に格 を表示す る言語であるが故 に語順 に よって文法関係 を示す必要がな く,従 って語順が 「自由」 になる と考 え られ る 。 ( Hi ki t a( 1 9 9 2 ) で は格 の顕在 的な表示が ロシア語 の ような言語 において さえ もか きまぜ の可能性 に大 き く影響 を与 える場合 が あ ることを示 した。) Kur oda( 1 9 9 2 ) の議論 は英語 と日本語だ けを観察 してあま りに も多 くの こと

を論 じ,結 び付 けている と考 えざるを得 ないのである 。

2 .‑ 敦 と主格 の付 与 の定 式化 につ いて

前節で は Kur oda( 1 9 9 2 ) の提案す る一致のパ ラメーターについてロシア語 の観点か らその問題点 を指摘 した。本節で は一致のパ ラメーターの持つ問題 点 の他 に, ロシア語 の主格 の付与 の問題 と併せて見 る と,現在 の生成文法理 論 において想定 されている主語 と動詞 の一致の方法 その もの に も問題点が包 含 されている ことが明 らか になる ことを論 じる 。

本論 に入 る前 に,生成文法 にお ける主語 と動詞 の一致の定式化 の方法の 2 つの大 きな流れ を概観 してみたい。

第 1 の もの は Cho ms ky( 1 9 81 ) において論 じられているような統率 ( gov‑

e r nme nt ) を用 いた方法 である。 Choms ky ( 1 9 81 ) での考 え方 は以下の定義 に表現 されている と考 えられ る :

( 2 0 ) AGRi sc oi nde xe dwi t ht heNPi tgo ve r ns .

( Choms ky1 9 81:21 1 ) すなわち,主語 と動詞が一致 を起 こすた めの要素 AGR はそれが統率す る 名詞句 と一致 を起 こす と考 えられている。 そして, その一方で主格 の付与 は 以下 の ように定義 されてい る :

( 2 1 ) NPi snomi nat i vei fgo ve r ne dbyAGR. ( Choms ky1 9 81:1 7 0 )

これ らの定義か ら明 らかな ように, Cho ms ky( 1 9 81 ) にお ける考 え方 にお

いて,すなわちいわゆる GB 理論 において,主語 と動詞 の一致 と主語名詞句

に対 す る主格 の付与 は 1 対 1 に対応 してい る と考 えられてい る。別 の表現 を

(11)

ロシア語 における主語 ・動詞の一致 と主格の付与 をめ ぐって 221

用 い る とすれ ば, GB 理論 において一致 と主格 付与 は同一 の コイ ンの裏 表 と 考 え られている と言 えよう 。

次 に生成文法理論 にお けるよ り最近 の考 え方, いわ ゆ る Mi ni mal i s t Pr o・

gr am にお ける考 え方 を概 観す る 。 Cho ms ky ( 1 9 9 3) で は統率 を用 いた主語 と動詞 の一致 の定式化 は行 われていな

い 。

そ こで は全 てが Spe c‑ head の関係 によって処理 され てい る。すなわ ち, AGR の Spe c の位置 にあ る主語名 詞句 は AGR と同一指標 とな り,その際 ,AGR に Cho ms ky 付加 された T によっ て主格 を付与 され る。 ここで重要 な ことは, Choms ky( 1 9 8 1 ) での考 え方同 樵,主語 と動詞 の一致 と主格 の付与 は同一 の コイ ンの裏表 で ある と考 えられ てい る とい うこ とで あ る 。 この こ とは Choms ky ( 1 9 9 3:7 ) に く t We no w r e gar dbo t h agr e e me nta nd s t r uc t ur alCas easma ni f e s t at i o nsoft he Spe c‑ he adr e l at i on. " とい う言葉 が あ るこ とか らも明かで ある 。

以上 の ように,生成文法 の理論 の流 れ の中で主語 と動詞 の一 致 は Chom s ky ( 1 9 81 ) か ら現在 まで主格 の付与 と同一 の プロセスの中で処 理 され て き た。 しか しなが ら, ロシア語 のデータを観察 す る と, この一般理論 の方向性 には問題点が あ ることがわか る.以下,各節 で は一致 と主格付与 を同一視 す る現在 の方向性 に問題 を投 げか けるロシア語 にお けるデー タを紹介 し,論 を 進 めてい く。

2.1. ロシア語 の一致が示 す問題

ロシア語 は定動詞が一致 を起 こし何 らかの形態的 な表示 を行 わ なけれ ばい けない言語 である。それ は原則 として主格 主語 と一致 を起 こすのであ るか ら, 生成文法 の理論 において考 え られてい るように AGR に よる主格 の付与 と一 致 は同 じプ ロセスである と考 えることも可能 であ るのか もしれない。 しか し なが ら, ロシア語 の主語 と動詞 の一致 をよ り詳糸 田に観察す る とそ こには現在 の理論 的定式化で は説明 のつか ない ことが見 られ ることがわか る 。 本節 で は 主語 と動詞 の一致 が主格 の付与 と同一 のプロセスの裏表 に過 ぎず一対一 の関 係 にある とい う現在 の理論 的定式化が不十分 な もので あ る と言 うことを以下

の各節 で ロシア語 のデー タを示 す ことによ り論 じる。

(12)

222 89

2.1.1. 等位接続構造

ロシア語 において一致 の理論 に問題 を投 げか ける一 つ めの ものはいわ ゆる 等位接続構造 で ある 。 Po 3 e H T a 此( 1 9 8 4 ) で は以下 の ような例文 を示 してい る :

( 2 2 ) 3H Ma , B e e H a H A 0X R J MB O e wi nt e r ‑ SG. F. s pr i ng‑ SG. F. and r ai ny‑ SG. M.

J l eTO n p O I l l J M B 6 0 5 ] X.

s umme r ‑ SG. M. pas s I PA.P L . i n bat t l e‑ LO C.

「 冬,香, そ して雨が ちの夏が戦 いの中で過 ぎ去 った 。」

( 2 3 ) I I p o n a J I a K O H T yP H O C T b , B b myK J I O C T b

di s appe a r ‑ PA.SG. F. c ont our ‑ SG. F. c l ear ne s s ‑ SG. F.

3 e MH b I X n p e A Me T O B .

e a r t hl y‑ GEN.P L . o bj e c t ‑ GEN.P L .

「 地上 にある ものの輪郭 と明瞭 さが消失 した。」

ここで,主格主語 としてあ らわれ てい るの はそれぞれ [ N P 3 aMa , 8eCf l a a

∂ oD f CaJ iu80e, iem O] と [ N P f C Of i myPf i OCm b,eunjJ f C AOCm b3eM F l uX nPe d Mem Oe]

で あるが, いずれの場合 も単数形 の名詞句 が複数等位接続 されてい る もので あ る。 そ して動詞 は ( 2 2 ) で は複数形 を示 し ( 2 3 ) で は単数形 を示 してい る 。 問題 と な るの は例 文( 2 3 ) で あ る。 もし仮 に動 詞 が一致 を起 こして い るのが隣接 す る

f COF l myPF 1 0cm b l t c o nt o ur " であ る とした ら,一致 と主格 の付与 を一対一 に対 応 す る と考 える生成理論 で は 8unj) f C AOCm b t t cl e ar ne s s " に主格 の付与 を行 う

ことがで きな くなって しまう。 当然 これ は格理論 によって排除 され るばか り か,全 ての名詞句 が明示 的な格表示 を持 た なけれ ばな らないロシア語 の形態 法 に も違反 す る ことにな る( 4 ) 0

(4 )等位接続構造が一致に関 してこの様 な複数の可能性 を引き起 こすのは主語 と

動詞の一致の場合のみではない。 例 えば以下のものは等位接続構造を有する名詞

句を形容詞が修飾 している場合であるが,ここで形容詞は単数形 と複数形が両方

可能である。

(13)

ロシア語における主語 ・動詞の一致と主格の付与をめぐって 223

2.1.2. 連結動詞構文

ロシア語 の連結動詞 は述語名 詞句 として二通 りの形態 を とりうる。 すなわ ち,造格 ( i ns t r ument alcas e)名詞句 と主格名詞句 で ある 。

( 2 4 ) TaH 5 7 6bl J f a C TyAeHTf ( 0凱 Tanj a‑ NOM . be‑ PA. F. s t udent ‑ I NS.

「クーこ ヤは学生 だ った。」

( 2 5 ) mof a 6 pa T 6b I J I MOPf T K.

my‑ NOM.M . br ot her ‑ NOM. be‑ PA.M . s eaman‑ NOM.

「 私 の兄 は船員 だ った。」

ここで問題 とな るの は主格名詞句 を述語 として とった場合 で ある。 この様 な場合,動詞が一致 を示 してい るの は当然一 つの名詞句 であるに も関わ らず 実際 には主語 と述語 とい う二 つの名詞句 に主格 が付与 されてい る これ は も ち ろん現在 の一致理論 で は説明が付 け られ ない現象で あ る 。

また,Choms ky ( 1986)は この ような述語名詞句 は項 でないため格 を付与 され る必要 はない と論 じてい るが, ロシア語 で は全 ての名詞句が明示的 に格 を表示 しな けれ ばな らないた め この様 な議論 は受 け入れ難 い。 さ らに, 匹田 ( 1994) で示 した ように この種 の述語名詞句 はただ単 に形態的 に主格 を示 して い るのみな らず い くつかの点で主語 的 な性質 を示 してい る 。 例 えば :

( i ) H O B b ・ 射 H O B b l e [ xyp H a n . H K H H r a ] ne w‑ SG. /‑ P L . magaz l ne and book

「 新 しい雑誌 と本 」

また,次の例 は逆に 1つの名詞 を等位接続構造を有する形容詞句が修飾 してい る場合であるが, この場合主要部名詞は単数形 と複数形が可能である。

( i i ) ラ n pa B O 自 H n e B O 白 p yK e / p yK a X l n r i ght ‑ SG. and l e f t ‑ SG. hand‑ L OC .SGノー LO C .P L.

「 右手 と左手に」

もちろん, これ らの一致の複数の可能性 には様々な意味的・ 機能的制約,ある

いは傾向が存在するが, 本稿 はあ くまで も言語の形式的側面を論 じるのが目的で

あるので ここではそれには触れない。詳 しくは Ko xTe B H Po3 e H Ta J l b ( 1 9 84) ,

Po 3 e H T a 此 ( 1 9 8 4,1 9 9 4) などを参照。

(14)

224 8 9 輯

( 2 6 ) 3TO 6bI J I a l l l KOJ l a.

t hi s ‑ NOM.N. be‑ PA.F. s c hool ‑ NOM.F.

「これ は学校 だ った。」

この様 に主格 主語が指示代名詞 ∂mo " t hi s " で ある場合,動 詞 は強制 的 に 主格述語名詞句 に一致 しなけれ ばな らない。 さ らに,主格述語 との一致 は こ の様 に主語が ∂mo とい う「 特殊 な」語嚢項 目で ある場合以外 に も起 こり得 る。

以下 の例 は AH CCCP ( 1 9 7 0:5 5 5 ) か らの もので ある 。

( 2 7 ) Ero cnoKO拐cTBHe 6bI J I O/6bI J I a m t l HHa.

hi s c al mne s s ‑ NOM.N. be ‑ PA.NノF. pr e t e ns e ‑ NOM.F.

「 彼 の平静 さは見せか けだ った。」

( 2 8 ) Ka6HHeT 6bl J I /6bI J l a 6oJ I bu a 5 7 KOMHaTa.

Of f i c e‑ NOM.M. be‑ PA.M. / F. bi g‑ NOM.F. r oo m‑ NOM.F.

「そのオ フィスは大 きな部屋 だ った。」

ただ し, この様 な現 象 は義務 的 な もので はな く, AH CCCP ( 1 9 7 0 ) や Bar ne t o v孟( 1 9 7 9 ) な どによれ ばあ くまで も話者 に よってみ られ ることもある

「ゆれ」に過 ぎない と考 え られ る。 しか しなが ら, このタイプの主格述語名詞 句 が それ な りの主語 的 な特徴 を持 ち,「 項 で はない」と簡単 に切 り捨 て る訳 に

はいかない ことを示 してい る と思われ る ( 5) 。 2.1.3. f C m Oとの一致

ロ シア語 の疑 問代 名 詞 f C mO t t Who" や それ か ら派 生 され る不 定代 名 詞

f Cm O ‑ f l u6 y∂b t t S Ome O ne" な どは原則 として男性名詞 であ り,動 詞 な どの一致 は男性 ・単数 として行 われ る。

( 2 9 ) KTO I l l yMHT?

who‑ NOM. makeanoi s e‑ PR.3.SG.

「 騒 いでい るの は誰 だ ?」

(5 )この他にも主格述語名詞句の持つ主語的な性質はあるが ここでは触れないこ

ととする。詳 しくは匹田 ( 1 9 9 4 ) を参照。

(15)

ロシア語における主語 ・動詞の一致と主格の付与をめぐって 225 ( 3 0 ) I (TO‑ HH6y肋 3HaJ I O6 9TOM?

s o me o ne ‑ NOM. know‑ PA.M.SG. a bo ut t hi s ‑ LO C .

「 誰 か この ことについて知 ってu ましたか ?」

しか し, この f C m Oが明 らか に複数 の人物 を指示 して い る と考 え られ る場 令,例 えば関係詞 として用い られた場合 に複数形 の名詞 を先行詞 として とっ た場合 な どに,単数 ・男性形 と複数形 の間 に揺 れが観察 され ることが ある。

( 例 は AH CCCP ( 1 9 8 0 ) か ら。)

( 3 1 ) Te , KTO ) KH J M, J l r O6HJ I H, M yt l H J I HCb. . .

t ho s e ‑ NOM. whol i ve ‑ PA.P L l o ve ‑ PA.P L . f e e lpai n‑ PA.P L .

「 生 き,愛 し,苦 しんだ人 たち。」 ( 6 )

( 3 2 ) ( 5 IBOCr T OJ I b30BaJ r C月 9THM ,t I TO6blr T P OH3HeCTH BaM CBO f O pe t l b …)

( 私 はあなた方 に自分 の話 をす るために これ を利用 した‑‑)

BCeM , KTO Bbl CyHyJ I HaPy) Ky

al 1 ‑ P L .DAT. who‑ NOM. s t i c k‑ PA.M.SG. o ut

roJ I OBbI H CJ l yu at OT M o員

he a d‑ P L ACC. a nd l i s t e n‑ PR. 3 .P L . my‑ SG.M.ACC.

np oI I Hbl h roJ I OC

f i r m‑ SG.M.ACC. vo i c e ‑ SG.M.ACC.

「 外 に首 を突 き出 して私 の確 固た る声 を聞いてい る全 ての人 々 に ( 話 を す るた めに )」

例文 ( 3 1 ) で は従属節 の主格主語 f C m Oが文法的 には単数 ・ 男性 の素性 を有 して い るに も関わ らず事実上 それが複数 の対 象 を指示 してい る ことか ら従属節 の 動詞が全 て複数形 を示 してい る。 また, 同様 に例文( 3 2 ) で は従属節 の主格主語

(6 )ここで用い られている me は文法的素性 を示すために利用 されるいわゆるダ

ミーの先行詞であ り,この場合は複数であることと,主文の中での格 を示 してい

る(この場合 は主格 )0 me, f C m O全体で英語の t hos eu) ho の様な機能 を果たして

いると考 えればよい。

(16)

226 人 文 研 究 第 89 輯

f C m Oが文法的 には単数 ・男性,指示対象 としては複数 とい う二 つの性質が衝 突 を起 こし,従属節の二つの動詞の うち一 つめの 8uC y F L j/ J iは単数 ・ 男性形, 二つめの c AJ / l L L af Om は複数形 を示す とい うことが起 こっている。

また,AH CCCP ( 1 9 80)によれ ば,以上 の ような例 は単数 ・ 男性形 と複数 形の間 に揺れがみ られ , ( 3 1 ) ( 3 2 ) はそれぞれ以下 に示す( 3 1 ) ′ ,( 3 2 ) ′の ような形 も可 能で ある。

( 3 1 ) ' Te, KTO D f C u J i , J W 6u 〟,

t ho s e ‑ NOM. who l i ve ‑ PA.SG.M. l o ve ‑ PA.SG.M.

. ル り/ z t u J iC月…

f e e lpai n‑ PA.SG.M.

「 生 き,愛 し,苦 しんだ人 たち 。」

( 3 2 ) ′ BCeM , KTO 8uC yf i ynu H a P y) K y al LP L DAT. who‑ NOM. s t i c k‑ PA.P L o ut

roJ l OBbI H C Aj J uL aem MO f i

he ad‑ P L ACC. a nd l i s t e n‑ PR. 3.SG. my‑ SG.M.ACC.

I I POt l Hb I n rOJ 1 0C

f i r m‑ SG.M.ACC. voi c e ‑ SG.M.ACC .

「 外 に首 を突 き出 して私の確 固た る声 を聞 いてい る全ての人々 に( 話 を す るために) 」

以上 の ような例 で は,主格主語 f C m Oとそれ と一致 してい るはずの動詞が場 合 によって はその一致が起 こらな くて もか まわない ことを示 してい る 。 しか し, そ うす る と一致 を起 こす名詞句 に AGR が主格 を与 える とい う 1 対 1 の 関係 を想定 してい る現在 の理論 的な枠組 みで はこの間題 は説明がつかな くな るのである。

2.1.4. 数量詞 を伴 った名詞句

本節での主題 に入 る前 に,簡単 にロシア語 の数詞 の体, S とそれ によって修 飾 され る名詞の形態 について概観す る 。

ロシア語 において 1 か ら 2 0 は英語 と同様一 つの語 か らな る基本個数詞で

(17)

ロシア語 における主語 ・動詞の一致 と主格 の付与 をめ ぐって 227

ある。それ以上 になる と 2 0+1 ,3 0+3 とい うように二つ以上 の基本個数詞 を 組 み合わせ ることによってで きる合成数詞 によって表現 され る。 これ も英語

と全 く同 じといって よい。例 えば,以下 の数詞 の例 を見 ていただ きたい。

( 3 3 ) ロシア語 の数詞 ( 例)

1 = oA H H ,2 ‑ A Ba ,3 ‑ Tp l 4 ‑ ・ ・ ・

1 0 ‑ Ae C 5 7 T b ,l l ‑ 0 AH H Ha Rua Tb ,1 2 ‑ A Be H a Aua Tb ‑ ・ ・ ・

20 ‑ ABa Aua Tb ,21 ‑ A Ba Aua TbO A H H ‑‑・

30 ‑ TP I 川ua Tb ,32 ‑ T P I 川ua TbABa‑‑

これ らの数詞が名詞 を修飾す る場合, ロシア語 は英語 と異 なる様相 を呈 し はじめる 。 基本数詞の場合, 「1 」によって修飾 され る名詞 は単数主格形 を示 す ( ただ し,名詞句全体 が主格以外 の格 を有 す る場合 はその格形 を示す) 0

( 3 4 ) O A H H Ka Pa H Aa u

o n e p e n c i LSG.NOM.

「1 本 の鉛筆」

2‑ 4 の基本個数詞 によって修飾 され る場合, その名詞 は単数生格形 を示 す。

( 3 5 ) ABa K a pa H Aa L l J a

t wo p e n c i l ‑ SG. GEN.

「2 本 の鉛筆 」

( 3 6 ) TP H K a pa H Aa u J a

t h r e e p e n c

i

l ‑ SG.GEN.

「3 本 の鉛筆」

5 以上 の基本個数詞 によって修飾 され る場合 はその名詞 は複数生格形 を示 す 。

( 3 7 ) I l 汀r b Ka pa H Aa ue 琉

f i ve p e n c i l ‑ P L .GEN.

「5 本 の鉛筆」

(18)

228 人 文 研 究 第 8 9 輯

( 38 ) A B aA u aTb K a P a H A a L u e f i

t we n t y pe nc i LP L .GEN.

「 2 0 本 の鉛筆」

( 3 9 ) T P M A ua T b I ( a P a H A a ue f i

t hi r t y pe nc i l ‑ P L GEN.

「 3 0 本 の鉛筆」

合成数詞 の場合,修飾 され る名詞 は修飾 す る合成数詞 の 「 下 1桁」の基本 数詞 によって上 の規則 に従 った形 になる。

( 4 0 ) A B a A u a T b O A H H K a p a H A a L l l

t we nt y o ne pe nc i l ‑ SG.NOM.

「 2 1 本 の鉛筆」

( 4 1 ) A B a A u a T b A B a K a P a H A a L ua

t we nt y t wo pe nc i l ‑ SG.GEN.

「 2 2 本 の鉛筆」

( 4 2 ) A B a R u a T b r l f I T b K a P a H A a l ne 疏

t we nt y f i ve pe nc i l ‑ P L GEN.

「 2 5 本 の鉛筆」

( 4 3 ) C T O C O P O K O A H H K a P a H R a L u

hu nd r e d f o r t y o ne pe nc i LSG.NOM.

「 1 4 1 本 の鉛筆 」

以上が ロシア語 の数詞 とそれ によって修飾 され る名詞 に関す る簡単 な概略 であるが( 7 ) ,ここで問題 とな るの は被修飾名詞が主格 を示 さない場合 である 。

個数詞 によって限定 された名詞句 の主要部名詞が主格形 を示 さない場合, 意味的な観点か ら見れば この名詞句 は複数の素性 を持 つ と考 え られ, それ故 この名詞句 を主語 として持 つ動詞 は複数形 を示す ことが予想 され る。しか し,

(7 )より詳 しく,あるいは正確には様々な参照文法,あるいは Co r be t t ( 1 9 7 8 ) な

どを参照されたし。

(19)

ロシア語 にお ける主語 ・動詞 の一致 と主格 の付与 をめ ぐって 229

形態的 に見れ ば これ らは主格 を示 してお らず,従 って主語 とは認定 されない。

それ故 その場合,動詞 の形態 は最 も中立的 な形態 であ る と考 え られ る単数 中 性形 を示 す ( 8) 。そ して,実際 に数詞 に よって限定 された名詞句 を主語 として持 つ文 で は動詞 の形態 に揺れが見 られ るので あ る。 ( 例 は AHCCCP ( 1 9 8 0 ) か

ら。)

( 4 4 ) ro p e J I O / r o p e J M A B C J I a Mr l h l .

bur n‑ PA.SG.N ノー PA.P L . t wo l amp‑ SG.GEN.

「 二 つのランプが点 っていた 。」( 9)

( 4 5 ) cK a K a J I O / c K a I ( a J I H C e MH a A ua T b B C a A H H K O B

r un‑ PA. SG. Nノー PA.P L s e ve nt e e n hor s e ma n‑ P L GEN.

「 1 7 人 の騎士が馬 で走 っていた 。」

ここで動詞が複数形 を示 してい る場合,一致 は行 って もそれ と同一 の指標 を有 し主格 の付与 を受 けた名詞句が存在 しない。 また単数 中性形 を示 した場 合 も,動詞 の形態 を定 めた もののそれ と同一指標 を持 ち主格 を付与 された名 詞句 は どこに も存在 しない。 いずれ の場合 で も現在 の一致 の理論 の下 で は矛 盾 が生 じることになる。

また,数詞以外 に も修飾 を受 けた名詞 に複数生格形 を要求 す る ものが あ り, その場合 も同様 の矛盾 をは らんでい る 。

( 4 6 ) nB O e yt i e H H K O B n P H L u J l 0 / I l p H uJ J I H.

t wo pupi l ‑ P L .GEN. come‑ PA.SG.Nノー PA.P L .

「2 人 の生徒 がや って きた。 」 ( AH CCCP 1 9 8 0 )

( 4 7 ) He e l ( O J I h K O C T O J I O B C T O f I J 1 0 B K O MH a T e.

s o me t abl e‑ P L GEN. s t and‑ PA.SG.N. i n r oo m‑ LO C.

「い くつかのテーブルが部 屋 の中 にあった。」

( Ko xT e BHPo 3 e H T a J I b 1 9 8 4 )

(8 )前節の無人称文 も参照。

(9) ∂ 8 e は ∂ 8 a の女性形である

(20)

230 人 文 研 究 第 89 輯

( 4 8 ) Hec KO J L bK O t l e J I O Be K I m ∽ I l o yJ Mue.

s ome man‑ P L GEN. go‑ PA.P L . al ong s t r ee t ‑ DAT.

「 何人 かの人 が町 を歩 いていた 。」 ( Ko xTe BHPo3 e H Ta J I h1 9 8 4 )

( 4 6 ) は集合数詞 ∂ 8 0 e によって修飾 されてい る場合で あ り, ( 4 7‑4 8 ) は不定 数量 詞 F l eCf C O, ibf C 0 t t s ome" に よって修飾 され てい る名 詞句 を主語 に持 った 動詞が それ ぞれ単数 ・中性形 と複数形 を示 してい る例 で ある。

これ らの例 はいずれ も主格付与 と主語 ・動詞 の一致 に 1 対 1 の対応関係 を 想定 してい る一致 の理論 に問題 を投 げか けてい る もので ある と思 われ る

2.1.5. 主格主語 を持 たない節

前節 で も示 した様 に, ロシア語 には英語 の形式主語 にあた る ものが存在せ ず, その場合,主語 は示 さない。前節 で挙 げた例 を ここで も示 そ う 。

( 4 g ) ( ‑1 6 )

Ha yJ I H ue C Ta J 1 0 TeMHO.

on s t r e et ‑ LO C . become‑ PA.N. dar k‑ N.

「 外 は暗 くなった。」

( 5 0 ) ( ‑1 7 )

B K HO C Ke r I p O Aar OT r a 3 e Tb I .

i n ki os k‑ LOC. s el l ‑ PR. 3.P L . news paper ‑ P L ACC .

「キオス クで は新聞 を売 ってい る 。」

( 5 1 ) ( ‑1 8 )

He H3 8e Aa B r O PbK O r O ,

not exper i enc e‑ ADVPART.PA. bi t t er‑ GEN.

Hey3 Ha e ub C J l a AKO r O.

notknow‑ PR. 2.SG. s wee t ‑ GEN.

「 苦 い もの を知 らず に,甘 い もの はわか らない。」

前節 で は これ らの例文 を一致 のパ ラメーターの観点か ら見たが, これ らの

現象 は一致 の システムその もの に も問題 を投 げか けている と考 え られ る 。 す

なわ ち, これ らの文 で は動詞 の形式が決定 してい るに も関わ らず,何 らかの

(21)

ロシア語における主語 ・動詞の一致と主格の付与をめぐって 231 名詞句 に対 す る主格 の付与が行 われ ていない。 これ は当然主格 の付与 と一致 が 同一 のプ ロセスで あ る と考 え る理論 か らみ る と矛盾 して い る と考 え られ

る ( 10) 0

2.1.6. その他 の一致 と対応 していない主格名詞句

その他 に もロシア語 には一致 と無 関係 に主格 を付与 されてい る名詞句が存 在 す る 。 まず第 1 の ものは前節 で も触 れたいわ ゆる左方転移化要素で あ る。

( 5 2 ) ( ‑1 0 )

州a p H 只 i l S l eei J t f O6 JI r O.

Ma r i j a‑ NOM. Ⅰ ‑ NOM. s he ‑ ACC. l o ve‑ PR. 1 . SG.

「マ リヤは私 が愛 してい る。 」

この場合,一般理論 に従 えば AGR による主格 の付与 は動詞 の形態 によっ て明 らか な ように主格 主語 Hに対 して行 われてい る と考 え られ る.そ うす る と左方転移化要素 M a pu xに対 す る格付与 は行 われ ない ことにな り矛盾が生 じて しまう。

さらにいわ ゆる 「 呼格」 の名詞句 と引用形 の名詞句 も同様 な問題 を投 げか けてい る 。 いずれ もいかな る要素 に も一致 を要求 しない に も関わ らず, しか しなが ら主格 を付与 されてい る。 この間題 は一致 と主格付与 を同一視 してい る以上解決 され る ことは無 いであろ う 。

Choms ky( 1 9 8 6 ) は これ らの左方転移化要素,「 呼格 」名詞句,引用形 は前 述 の連結動詞 の述語名詞句同様 に項 で ないので格 を付与 され る必要 はない と 論 じてい るが,英語 の ような顕在的 な格形 を持 たず抽象格 の レベルで議論 が 終始 す るような言語 は別 として, ロシア語 の ような全 ての抽象格 が同時 に具

( 1 0 ) なお, 性質を示 主語があ であるこ 在 してい なのであ

形態的な表示法が豊かなロシア語はいわゆる Pr o‑ dr o pl a n gua ge 的な

し,しばしば主語代名詞が省略される。しかしなが ら,この場合の主格

らわれていない ことと省略 による主格主語が見 えないことは別の現象

とに注意 しなければならない。これらの構文における主語 は本来的に存

ないものであ り,「 省略 しな くて も」顕在的に表現 されることは不可能

る。

(22)

23 2 人 文 研 究 第 8 9 輯

体的な音形 を持 った具体的な格である言語ではこの議論 は認 め難い。

2.2 .一致 と主格付与 :その分離の必要性

以上,本節で示 した ことは様々な例 において,主格 の付与 と主語 と動詞の 一致の間 に 「 ずれ」が見 られ るとい うことであった。現在の一致 を説明する ための理論ではこの様 なロシア語 における 「ずれ」 は説明することがで きな

い 。

ロシア語の ような言語 を見 る限 り,主語 と動詞の一致 と主格 の付与 は別個 の過程であると考 えざるを得 ない と思われ る。 ここでは正確 な一致 と主格付 与 の定式化 を行 うことは避 けるが, Ba bby( 1 9 8 6:2 1 0 ) はロシア語 に関 して その主格付与 の定式化 を一般 に広 く行われているもの とは異なった方法で提 案 してお り, ここでの議論 と関係併せて興味深い。

( 5 3 ) Nomi nat i veCas eAs s i gn me nt

A no un phr as et hati sno tgo ve r ne dby a l e xi c alc at e gor y i s as s i gne dt henomi nat i vec as e.

Ba bby 自身 はこの様 な主格付与 の定式化 は主語の他 に ( 上述 のような)左 方転移化要素,「 呼格」 名詞句,引用形 な どの説明 も可能 にす る, と述べるに

とどまり,この様 な定式化 に対す る理由は詳細 に述べ ることは避 けているが, 本節で論 じた ような等位接続名詞句が主語 となっている場合,連結動詞の主 格述語,代名詞 f C m Oが主語 になっている場合,数量詞 によって修飾 された名 詞句が主語 となっている場合,主格主語 を持たない節 な どに見 られ る主語 と 動詞 の一致 と主格付与の間に見 られ る 「 ズ レ」 を説明す る為 に, この様 な一 致 と格付与 を分離 した形での定式化 は大 きな興味 の対象 となる。

3 . まとめ

以上,本稿ではロシア語の主語 ・動詞の一致 と主格付与 に関す る例 を見 る ことによって,生成文法理論の流れの中での両者の定式化 に見 られ る問題 を 論 じた。

第 1 節では Kur oda( 1 9 9 2 ) が提案 している一致のパ ラメーターの問題 を考

(23)

ロシア語 における主語 ・動詞の一致 と主格の付与 をめ ぐって 233

察 したO ロシア語 はこのパ ラメーターに関 しては義務的 な一致 を持つ言語 で ある と考 えられ るが, Kur oda ( 1 9 9 2 ) が主張す るこの値 か ら帰結 され る諸特 徴 の多 くをロシア語 は示 さない ことが明 らかになった。

第 2 節 では現在 の生成文法理論が主語 ・動詞の一致 と主格 の付与 を同一の プロセス として扱 っていることについて議論 を加 え,一致 と主格 の付与 は全 く別個の過程 として処理 しなければいけない ことをロシア語の観点か ら論 じ

た 。

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234 人 文 研 究 第 8 9 輯

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参照

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