包括補助金の地方団体支出統制機構の強化とその矛 盾
著者 小林 昭
雑誌名 金沢大学経済学部論集 = Economic Review of Kanazawa University
巻 8
号 1
ページ 45‑82
発行年 1987‑11‑30
URL http://hdl.handle.net/2297/24003
包括補助金の地方団体支出統制機構の 強化とその矛盾
小林 昭
1.はじめに
1970年代以降のイギリス地方財政に対する中央統制の強化は,80年代後半 期にも一層進展の度を加えようとしている。80年「地方政府・計画・土地法」
(LocalGovemment,P1anningandLandAct、以下「80年地方法」と略 す)にもとずくレイト援助交付金(RateSupportGrant・以下RSGと略す)
制度の改組=包括補助金(theBlockGrant)の導入と資本支出統制方法の 改革(1),82年「地方財政法」(LocalGovemmentFinanceAct)によるレ イト(Rates)の年度中追加徴収の禁止,84年「レイト法」(RatesAct)
による地方税率の直接統制開始,86年3月の大ロンドン政府(GreaterLondon Council、以下GLC)および大都市カウンテイ(MetropolitanCountyCoun ci1s、以下MCCs)の廃止(2)に続いて,86年1月のG正enPaper:Paying forLocalGovemment(3)は,74年以来の保守党公約たる住宅レイトの廃止 と人頭税の導入,営業用安産レイトの地方譲与税化,一般補助金の簡素化等 を骨子とする大胆な地方財政改革織想を提起した。87年6月総選挙における 保守党勝利によって,この地方財政改革はまず89年からスコットランドにお いて実施されることになり,イングランドおよびウェールズについても目下 具体的な立法化の作業が進んでいる(4)。上記総選挙の保守党公約はまた,この 地方税財政改革に加えて,住宅・教育行政に関する地方自治体の機能の大幅 な制限,地方行政への競争入札の拡大,ミニ都市開発公社の新増設,情報公 開制の強化などを掲げ,財政統制の強化のみならず地方行政の守備範囲の縮
-45
金沢大学経済学部鎗集第8巻第1号1987.11
小と民営化の一層の推進を図ろうとしており,これらを盛りこんだ新たな地 方自治法案の審議が進行している(5)。地方団体側の根強い抵抗にもかかわらず,
包括補助金制度による個別地方団体支出統制政策の展開と地方税の直接統制 の開始は,課税自主権と地方税収充当支出の自主決定権にもとづく伝統的な イギリス地方自治の財政的基盤を掘りくずすに到ったが(6),80年代後半期には,
この集権化政策が,地方財政の基本構造に一層ドラスティックな変化を加え,
さらに中央一地方政府間および地方政府内部の行政機能の実質的再配分とい う「統治構造上の問題」(theConstitutionalPmblem)に踏みこもうとし ている,といえよう。
約10年の間にかくも急速な地方財政の構造変化をもたらしたこの集権化政 策の基調は,いうまでもなく,マネタリズムにもとずくイギリス経済危機対 策としての公共支出削減政策であった。この政策基調にそって,70年代後半 の労働党政権期からすでに地方資本支出は減少に転じ,経常支出もまたRSG 総額のコントロールを通じて抑制された。だが,79年誕生の保守党政権は,
包括補助金に組みこまれた超過支出に対する限界補助率自動低下装置を用い て個別地方団体の経常支出統制を開始するとともに,地方団体支出削減不徹 底への対策として,新たに支出目標額(Targets)および補助金撤回装置(Hold backPenalties.以下HoldbackまたはPenaltiesと略す)を導入した(7)。そ れにもかかわらず,政府の地方支出削減目標は破られ続けたうえ,統制・制 裁の強化が却って包括補助金の基礎的メカニズムの作用をゆがめ,自治体の 予算編成や財政運営を混乱させて,本来の目的とは逆に地方支出の増大を促 進するという自己矛盾すら発生させるに到った。82年地方財政法にもとづい て保守党政府みずから設立した地方団体監査委員会(TheAuditCommission fOrLocalAuthoritiesinEnglandandWales)が84年8月発表の報告書 (8)においてTm週ets・Penaltiesつき包括補助金制度の矛盾と弊害を明らか にし,翌年4月の会計検査院長(TheComptroUerandAuditorGeneral)
報告K,)もまた同様の指摘をするに及んで,包括補助金の再編成は不可避となり,
85年7月にTargets・Penalties廃止の方針が発表されるに到った。
この一連の経過において重要な点は、包括補助金の運用を通じる80年代前 半期の地方支出統制政策の失敗と混乱によって,地方税の直接統制や改廃な
-46-
包括補助金の地方団体支出統制機綱の強化とその矛盾(小林)
ど新たな集権化政策への転進が促進されたということである。従って,包括 補助金の運用をめぐる混乱の実態と原因を明らかにしておくことは,80年代 後半期以降のイギリス地方行財政再編成の行方をうらなう上で不可欠の作業 だといえよう。本稿は,以上の問題意識から,包括補助金制度導入の本来の 諸目的と基礎的諸装置に対して,新たにTargets・Penaltiesが導入された 事情を確認し,Ta1gets・Penaltiesの運用の経過と地方団体側の対応とを フォローすることによって,当初の目的に逆行する諸結果が如何にまた何故 に生まれざるをえなかったのかを整理しようとするものである。また,これ ら諸矛盾と地方財政の混乱が直接統制への移行後も続き,住宅レイト廃止を ふくむ地方税財政改革構想が再浮上してくる中てK1o),補助金制度の再編成が どのように展望されるのかについても,若干の考察を加えることとしたい。
注(1)80年「地方政府・計画・土地法」による改革の内容については,次の論文を参照。高橋 戯「イギリス「1980年地方政府法」の財政的意義」(法政大学経済学部「経済志林」,第
49巻3号,1981年)。
(2)GLCおよびMCCs廃止構想をめぐる諸問題については次の文献を参照。FIynn,N、,
、Leach,S、,VielbaC.:AbolitionorReform?TheGLCandtheMetmpolitan
CountyCouncils・Geo屯eA11enandUnwin・’985.
(3)PayingfOrLocalGovemment・London:HMSOJan、1986.cm、。、9714.
.(4)イングランドとウェールズの地方税制改革は,スコットランドの経験を参考にしつつ1990 年から実施する予定となっている。スコットランドにおける住宅レイトの廃止と人頭税
(CommunityCha屯e)導入等を定めたTheAbolitionofDomesticRatesEtc.
(Scotland)Actは総選挙直前に成立したが,同選挙でスコットランド保守党議席が 21から10に激減したことをも背景として,地方団体側は,スコットランドの民意に反し イングランド・ウェールズのためのモルモット扱いにするものだと反綴し,抵抗を続け ている(Scott,David:Councilswillnotprepa正forpolltax'・LocalGovem‐
mentChmnicle,17July1987.p,15).なお,イングランド・ウェールズ向けの法 案は87年秋の国会で上提される予定になっている(FinancialTimes,July31.1987)。
(5)`GeneralElection,'LocalGov巳mmentChmnicle,22May1987,p・aTheLocal GovemmentBilIは87年7月現在,下院で第2読会の段階にある(LocalGovem‐
mentChmnicle,10Julyl987,p、8.)。
(6)小林昭「イギリスにおける地方財政支出統制の強化と地方財政自治の危機」(宮本憲一 編「地方財政の国際比較」勁草野房i1986年)参照。
(7)小林昭「地方財政支出統制と新ブロック・グラント」(宮本・大江・永井編「市民社会
-47-
金沢大学経済学部鎗染第8巻第1号1987.11 の思想」お茶の水書房,1983年)を参照。
(8)TheAuditCommissionfOrLocalAuthoritiesinEnglandandWales(以下The AuditCommissionと略す):ThelmpactonLocalAuthorities,Economy,
EfficiencyandEffectivenessoftheBIockGrantDisributionSystem・London:
HMSOAugustl984.
(9)ReportbytheComptmllerandAuditorGeneral(Departmentofthe Envimment:OperationoftheRateSupportGrantSystemLondon:HMSO,
Aprill985).
OII住宅レイトの廃止は81年12月のGreenPaper8AltemativestoDomesticRates(Cmnd、
8449).によって提案されたが,翌年の下院審繊でコンセンサスがえられず,-頓座し た。「再浮且としたのは,そのためである.小林昭「イギリスにおける地方税制改革 論」(東京市政調査会「都市問題」第76巻12号,1985年)を参照。
2.包括補助金導入の諸目的と基礎的メカニズム
80年地方法にもとづく包括補助金の導入には,大別して2つの目的があっ たといえよう。第1は公共支出削減のための地方支出削減である。79年成立 直後の保守党政権による初の公共支出白書においては,80/81年度の中央政 府支出は国防費3.5%増,海外援助費3%増,保健社会サービス費2.7%増,
社会保障費2.5%増となるなど全体で0.5%減にとどまり,公共支出削減の焦 点が地方支出に向けられた.とりわけ,旧RSGの下で需要要素(NeedsEl‐
ement)・財源要素(ResoumesElement)の配分上有利な扱いをうけ支 出が増大していた労働党支配下の大都市高額支出団体の支出削減が,重要な 課題と意識された。また,74年以来の保守党公約に沿って,当時すでに上昇 傾向にあったレイトの税率と負担を抑制するためにも,地方支出の削減は重 要な政策課題と認識されたのである。
いまひとつは,1日RSGの欠陥是正という公式目的である。80年地方法の法 案は公式の諮問文書ぬきという異常な方法で上提されたが,議会審議や地方 財政諮問委員会等における担当大臣らの包括補助金導入理由の説明は,当初 の地方支出とくに「超過支出団体」(Overspenders)の支出削減論かち旧RSG の欠陥是正論へと重点を移行させた(1)。
旧RSG最大の欠陥と指摘されたのは,需要要素が過去の支出パターンをベー スに算定されるため支出増加の後を追って流れ,他方財源要素は支出水準の
-48-
包括補助金の地方団体支出統制機織の強化とその矛盾(小林)
如何にかかわりなく1人当たり課税資産額従って限界補助率の均等化のため に交付されることから,RSGが全体として支出水準の高い大都市超過支出団 体に流れやすく,非大都市地域の「低額支出団体」(LowspendeIs)が不利 になるという,配分上の不公平である(2)。包括補助金制度は,需要・財源両要 素を統合し,地方団体の支出需要測定方法を改善することによって,RSGの 流れを変え,配分の公平さ(Faimess)を実現することが強調された。
第2はOpenness(みえやすさ)の問題である。旧RSGの需要要素は過去 の支出パターンの重回帰分析という`theblackboxtechnique,により算定 され,その公式が年々変動して交付額が予測し難しく,地方議員すら理解困 難といわれた。包括補助金では行政分野ごとに客観的な測定指標を定めて需 要を測定し,かつ各地方団体ごとの測定結果を公表して,算定過程が一般住 民にもよくみえるようになる点が強調された(3)。
第3の問題は,収入の安定性(Stabiliby)・確実性(Certainty)である。
旧RSGにおいては,年度中の地方団体支出増加とともに補助金交付算定額が 増大して補助金プール総額を越えた場合,プール総額に合わせる減額調整
(C1awback)が行われた。70年代後半期には,大都市団体の支出急増にと もなう減額調整によって,保守党支配下の低額支出団体が多大の被害をこう むったと批判された。包括補助金の場合には,政府の査定する支出水準以上 の超過支出に対して限界補助率低下装置が設けられるため,このような減額 調整による収入の不安定性・不確実性はなくなるとされた。)
第4は,地方団体間の1人当たり課税資産の完全均等化である。旧RSGに おいては需要・財源両要素が別個に運用され,財源要素は,74年改正で税率=
徴税努力が加味されるようになったとはいえ,全国標準に対する各自治体の 1人当たり課税資産の不足額が交付額算定の基準であり,この全国標準は70 年代後半期に実際の平均よりも高く設定された(4)。そのため「富裕な団体は他 団体よりも低い税率でヨリ多い比率の支出をまかなえる(5)」ことが問題となり,
包括補助金では標準行政サービスの供給に必要な1人当たり課税資産と地方 税率コストの均等化が達成されることが強調された。さらに議会の審議過程 において,包括補助金の方がスタッフ=人件費が少なくてすみ,また政府に 反抗的な地方団体を国家的利益に従わせ易くなるというメリットも主張され
-49-
金沢大学経済学部篭染第8巻第1号1987.11 た(6)。
だが,これらRSGの欠陥是正にかかわる公式目的について最も注目すべき 点は,包括補助金が地方団体の自治を決して損なわず,「地方団体のレイトと 支出規模に関する股終決定は地方議員自身の問題(7)」であり,地方団体の自由 裁量に属すると担当大臣がくりかえし弁明したことである。この弁明は,80 年当初,地方団体諸協会が当時すべて保守党支配下にあったにもかかわらず 包括補助金導入にこぞって反対し,その問題点とRSG改革の共同対案を提出 するという状況の中で,行われたものであった(8)。ともあれ我々はここで,包 括補助金が地方団体の課税自主権と地方税収充当支出の自主的決定権を侵害 せず,地方財政責任(LocalAccountability)を保証することを,公式目的
に加えてよいであろう。
包括補助金の諸装置は,以上の諸目的を達成するために設定された。本稿 ではTargets・Penaltiesの導入以前の基本的装髄を基礎的メカニズムとよ び,そのしくみと基本的諸概念をまず確認しておくことにしたい。なお,初 年度における基礎的メカニズムの詳細は別稿に紹介ずみなので。),ここでは以
下の行論に必要な限りにとどめる。
包括補助金総額の決定方法は,基本的に1日RSGと変わらない。すなわち,
地方政府の基準支出(RelevantExpenditure)総額に対する補助金総額決 定の後,この総額から特定・補充補助金および住宅レイト減税補助金(1日RSG のDomesticElement=住宅レイト減税補填要素を改称)を控除して求めら れる。基準支出額は,直接的サービス供給の経費たる経常支出額(Current Expenditure)に,地方償償還金,資本支出への操出金,住宅事業会計への レイト基金操出金を加え,利子収入を控除したものである。初年度=81/82 年度の場合,経常支出規模は政府の公共支出計画にもとづき対前年度計画額 比3.1%減で算定された。旧RSGの需要要素と同じく,地方団体に配分され るのは,地方団体へのサービス供給を行う特定10団体への補助金を上記総額 から差し引いた残額である。なお価格ベースが変更され,包括補助金は,RSG 設定時点の価格水準に当該財政年度末までの物価・給与・年金上昇率の政府予 測値にもとづく支出増加見込額をくみこんだ`estimatedouttumprice'で算 定されることを注意しておきたい。労働党政権期に導入された追加支出制限
-50-
包括補助金の地方団体支出統制機構の強化とその矛盾(小林)
装邇(CashLimit)の本格化である。
包括補助金の基本的機能は,中央政府による地方団体支出需要の査定にも とづいて,一定水準の支出に必要な地方税率上のコストを均等化する所にあ る。従って,地方団体への配分額算定においては,各団体の支出需要査定額 と1人当たり課税資産額(RateableValue・以下RV)とが主な要素であっ て,前者は「補助金関連支出」(GrantRelatedEXpenditure・以下GRE)
と名付けられ,二行政サービス毎の測定指標(Indicators)の数量に地方団体 種類別の単位費用を乗じて集計される。このGREと各団体の支出予算額との 関係が補助金算定上のレイト税率=「補助金関連税率J(GrantRelatedPoundage.
以下GRP)に影響するというしくみが重要であって,補助金配分上GREの 大きな方が,また1人当たりRVの小さな方が有利となっている。包括補助 金の交付額(BG)は支出総額(TotalExpenditureTE)とレイト収入算 定額との差額であって,地方団体iへの交付額算定式は,BGi=TEi-IRVix GRPi×Milで表示される。ここで,支出総額は基準支出に若干の調整を加 えたものであり,乗数Mは課税資産額や補助金交付額等の急変を調整するた めのものである。基礎的メカニズムのキーポイントは,各地方団体の支出予 算額がGREの一定水準うえに設定された「超過閾」(Thr巴shold)を越える と,限界支出に対するGRPの上昇率が高まり,自動的に限界補助率が低下す る`Tapering,のシステムにある。81/82年度の場合,1人あたりGREは336 ポンド,それに対応するGRP全国値は134.42ペンスと設定され,後者は大都 市地域・非大都市地域毎にGREのシェアに比例して2層の地方団体に分割さ れた。たとえば大都市地域はカウンテイ24.12ペンス,デイストリクト109,70 ペンスである。そして、1人当たりGRE全国値の10%=36.6ポンドうえに超 過閾が設けられ,同様に2層の団体間に分割された(大都市地域:カウンティ 6.73ポンド,デイストリクト29.87ポンド)。地方団体の1人当たり支出予算 額が超過閾以下の間は支出増加10ポンド当たりのレイト税率上昇は5.6ペンス
(これは1人当たり全国標準課税資産額178ポンドに対応する)だが,超過閥 を越えると税率上昇幅は7ペンスに増大する。この場合,超過閾の支出水準 がGREの全国平均値をベースに設定されたことは,GREが平均より高い地 方団体の超過閾は実質上GREの10%以下となり,逆にGREが平均以下の団
-51
金沢大学経済学部論築第8巻第1号1987.11
体は超過閾が10%以上になることを意味し,この点で大都市団体は不利となっ た('0)。また、1人当たりGREが同じであっても,1人当たりRVが大きい ほど限界補助率の低下は大となる。81/82年度は,1人当たりRVが142ポン ド以上の地方団体は超過閾以上の支出,同178ポンド以上の団体は全支出水準 について,負の限界補助率が作用することとなり,この点でも不利な大都市
団体が生じることとなった。
以上の基礎的メカニズムにおけるGRE,GRPの設定方法は全団体に共通 の原則に従い,また乗数の設定・使用方法も各層の地方団体に共通の原則に よることとなっていた。81/82年度の場合゛乗数は,包括補助金への改組に ともなう交付額急減の緩和と利得の制限,およびロンドンの課税資産額算定 の制限と内部区・外周区間の課税資産均等化措置のために用いられた。また GRE総額は,全団体がGRE水準の支出予算を組むという前提の下で,`政府 の公共支出計画に沿った地方支出計画額に合わせられたから,超過支出団体 を発生させぬこととともに,低額支出団体がそのGRE水準いつぱいまで支出 を増額しないことが,政府目標の達成上不可欠の要件となった('1).なお,地 方団体の支出総額が過大となった場合包括補助金プール総額に交付額を合 致させるため均一税率のGRPを用いた減額調整(Close-ending)を行う ほか,プール総額との相違が著しいときにはGRP税率表の再調整も行いうる
こととなり,従前のC1awbackが実質的にひきつがれた。
要するに,以上のようなGREの査定方法と超過支出に対する限界補助率の 自動的低下装置の作用を通じて,旧RSGの欠陥が是正されるとともに,地方 団体が自主的に支出を抑制・削減し,その結果レイト増徴もまた抑制される ことが期待されたのである。包括補助金の基礎的メカニズムは,こうして幾 多の課題を背おわされたのであった。
注(1)TravErs,T、:ThePoliticsofLocalGovemmentFinancaLondon:A11en&
Unwin,1986,pp86~87.
(2)Gibson,』.&Travers,T、:BlockGrant,thestoryofafailu塵.PublicMoney,
voL5,NO2,Sep、1985,pp、17~18.なお本稿は同じ著者達による次の論稿からおお くの示唆をえているが,86年8月入手の時点では未刊行(PublicFinanceFoundation のPolicyJoumalに掲載の予定)のものなので,以下の出典表示においてはページ数
-52-
包括補助金の地方団体支出統制機綱の強化とその矛盾(小林)
等を示さない:Gibson,J、&Travems,T:BlockGrant,aStudyinCentral-Local
Relntion&
(3)地方団体側は,支出需要測定結果の公表制が納税者の圧力によって政府目標に合わせた 支出削減を地方団体に強制しようとするものだととらえ,強く反擬した。
(4)高橋誠「現代イギリス地方行財政鑑」有斐閣,1978年,218~219ページ。
(5)1980年4月の下院常圃委員会における地方政府・環境サービス担当大臣T・キングの発 言(Gibson&Travers:BlockGrant,aStudyinCentral-LocalRelations)。
(6)TraveIs:op・Cit.,p、87.
(7)1980年3月のT・キングの発曾(Gibson&Travers:BlockGrant,thestoryof
afailure,p18.)。
(8)Travers:op、Cit.,pp88~89.前掲の拙稿「地方財政支出統制と新ブロック・グラ
ント」615~616ページ参照。
(9)拙稿「地方財政支出統制と新ブロック・グラント」,同「イギリスにおける地方財政支 出統制の強化と地方財政自治の危機」および同「イギリスの都市財政:地方財政統制の 強化と大都市財政」(柴田徳衛縞「都市経済鑓」有斐閣,1985年)を参照。
(lOITravers:op・Cit.,p、97.
(11)Gibson&Travers:BlockGrant,thestoryofafailure,p、19.
3.TargetsおよびHoldbackPenaltiesの導入と包括補助金の矛盾増大 (1)初年度における包括補助金運用の矛盾とTaIgets・HoldbackPenalties
の導入
包括補助金制度全面適用の初年度たる81/82年度の運用をめぐる第1の特 徴は,政府が「非現実的」で「極度に野心的な経常支出削減(1)」目標を地方団 体に課したことである。同年度RSG決定時点における地方経常支出規模は,
78/79年度実支出額比実質5.6%減,80/81年度地方改訂予算額比で同5.7%
減(2)という,かつてない大幅な削減となった。また,GRE総額はRSG決定 時の地方支出総額(=政府の地方支出計画額)と合致させられたから,この 支出総額を守るためには地方団体の超過支出分が過少支出の枠内にとどまる ことが不可欠の要件となった。さらに,このGRE総額は80/81年度地方支出 予算額にくらべ名目で1.7%の増加だったが,80/81~81/82年度間の物価上 昇率は12%と予測されたから,大幅な実質削減を要請するものであった(3)。
だが,この野心的な地方支出削減計画に対して.労働党政権期以来の地方 支出統制手段たる「総枠補助率(4)」のカットは,60.14%から59.14%へわずか
-53-
金沢大学経済学部論集第8巻第1号1987.11
1%という「余りにも寛大な(5)」措冠にとどめられた。ギプソンらによれば,
この甘すぎる補助金総額抑制のため,81/82年度RSG決定によるレイト徴収 必要額は前年度地方予算のそれに対して0.9%の名目増加にすぎずう物価上昇 率12%を考慮すれば実質10%以上のレイト負担軽減が可能であった(6)。換言す れば,物価上昇と同率のレイト増徴つまりレイトの実質的負担増なしで,地 方団体はGRE総額を6.7%超過する支出予算を組むことができたのである(7)。
この枠組みの下で基礎的メカニズムに厳しい地方支出削減目標達成のための 有効な作用を期待することは,自己矛盾であった。しかも,まさに包括補助 金批判の中で地方団体諸協会が警告していたように(8),前年度予算額以 上のGREを与えられた非大都市地域の団体の多くは,支出需要測定結果 の公表から生じたサービス改善の圧力に直面してGRE水準まで支出予算 を増額し,労働党色の強い大都市団体はGRE水準以上の予算を組んだか ら,地方予算額の大幅な計画額超過は不可避となった。政府は,こうし た自己矛盾にもとづく超過支出の現実化ゆえに,新たな制裁装置の導入 をよぎなくされるのである。
80/81年度「暫定措髄」の経験(9)や包括補助金批判を裏づける現実の展開か ら,すでに基礎的メカニズムのみによる目標達成に自信をなくした政府は,
81年1月の環境大臣轡簡において,各地方団体の81/82年度経常支出規模を 78/79年度実支出額比5.6%減とする「支出目標額」(TaIgets)と,政府の 地方支出計画額が守られぬ場合Targetsを超過した地方団体から補助金を撤 回する装置(HoldbackPenalties)の導入を通告した。このため,包括補 助金に全く新たな要素が追加されることになった。何よりも,超過支出にTa1gets とGREという2つの異なる基準が生まれたのである。Targetsが経常支出 額従って各地方団体の支出パターンをベースとするのに対して,GREは全国 共通の規範的なサービス別の基準をペースとし,またTargets超過が支出変 化にかかわるのに対して,GREの超過は支出絶対額の高低を問題とするから,
この超過支出の2つの定義は相互に矛盾するuo)。しかも,TaIgetsとGRE との関係は地方団体間で異なり,ヲけど都市地域Iこは支出額がGRE水準でもTargets 超過となる団体が多数生まれるのに対して,大都市地域の高額支出団体の多 くはTargets超過率の方がGRE超過率よりも低くなることが予測された。
-54-
包括補助金の地方団体支出統制機概の強化とその矛盾(小林)
表1GREおよびTargetsに対する1981/82年度地方団体支出の超過状況
注(1)Gibson,』.&Watt・P.:TheEffectofGREsonEducationExpenditu妃and BudgetaryDecisionmakingbyLocalAuthoritieSp、10.による。
(2)豪ロンドンのレイト徴収委任団体。GLC,ロンドン内部教育庁qLEA),首都警察(Meb ropolitanPoIice)等である。
このためTalgetsの導入は,GRE水準以下の予算を組んでいた非大都市地 域の団体に最ピも不人気であった('1)。
だが,新制裁装置導入の通告にもかかわらず,81/82年度地方団体予算総 額は政府の地方支出計画額を5.8%超過するとともに,表1のごとく,平均し てGRE超過9.5%,Targets超過5.9%となり,GREとTaxgetsとの関係 をめぐる地方団体間のアンバランスも顕在化して,支出がGRE以下でもTargets を超過する団体は非大都市地域に集中した。この予算編成結果に対して環境 大臣は,6月,、地方団体の経常支出予算の改訂を命じるとともに,その結果 がなお不満足の場合,全国のGRP一率引上げ(4.92ペンス)による減額調整
(Close・ending)に加え,さらにGRP9.03ペンス引上げの補助金撤回措置
(HO1dback)を実施する旨宣告した。このHoldbackは,Targets超過率 の程度(2%以下,2~4%,4%以上)に応じて25%適用,60%適用,全 面適用の3段階が設けられたから,包括補助金のしくみは一層複雑化した('2)。
けれども,地方団体当初予算ベースで4億5000万ポンドに及ぶHoldback Penaltiesの下でもなお,地方団体経常予算改訂結果はTalgetsを5.5%超過 した。81年9月3日付環境省の新聞発表は,413団体中257団体が1億9600万 ポンドの減額改訂をしたにもかかわらず,「少数の団体が政府の節減要請を無
-55-
のE率%出R過支G超
支出の Targets 超過率%
団体数 GRE&
Targets 超遇
GRE超 週,Ta炉 gets以下
Targets 超過.GI亟以下
GRE&
Targets 以下 ロンドン撤収委任団体凝
ロンドン内部区 ロンドン外周区 大都市カウンティ 大都市ディストリクト 非大都市カウンティ 非大都市ディストリクト
1520724●●●●●①●妬則皿幻9141 3179999●■■●■●。062154411 3,,6”幻釦1 -3m-31ね 56215 1174
イングランド計 9.5 5,9 197 95 73 49
金沢大学経済学部麓築第8巻第1号1987.11
視」して2億1100万ポンドの増額を行い,うち1億6700ポンドがわずか3団 体によることを明らかにした。この3団体とは,GLCおよび大都市カウンテイ
2団体(マーシーサイド,西ミドランド)であって,いずれも81年5月地方 選挙で支配政党が保守党から労働党に変わり,公共交通料金引き下げ政策に ふみ切った団体である(13)。これら諸団体は,当然,Holdbackの適応対象と なるはずであった。
ところが環境大臣は,非大都市地域のシャー・カウンテイなど保守党系地 方団体の要謂に応じて,Targetsを超過してもGREを超過していない団体 にはHoldbackの適応を免除すると決定し,その結果上記3団体をも免除す ることになった('4)。この免除措置によってHoldbackの規模は3億ポンドに 減少した。こうして政府は政治的妥協ゆえに新たな制裁措置の効力を弱め,
みずから初年度の目標達成を放棄したのである。この失敗の後,政府は81年 暮の第1次地方財政法案によって住民投票によるレイト増徴の抑制を試みる が,それもまた挫折し('5),やむなく次年度以降もTargets・Penaltiesによ る目標達成を追求するしかなくなった。けれども,政府の地方支出計画額と 地方団体予算額との大幅なギャップ,厳しい地方支出削減目標と甘すぎる補 助金総額カットとの矛盾,保守党系地方団体保謹のための政治的妥協にもと ずく制裁措置適用の綾和,それらの必然的帰結としての政府目標達成の失敗
という,初年度に展開した矛盾だらけの運用パターンは2年次以降もくりか えされ,その過程で支出超過とTargets・Penalties強化の悪循環が進行す
るのである。
(2)支出超過とTargets・Penalties強化の悪循環
81年11月末,政府は公共支出白書における82/83年度地方経常支出額が達 成不可能な数値であることを認め,同年度計画額を81/82年度RSG決定時の 額に対し実質2%増と改訂した。だがそれでもなお,この数値は81/82年度 地方改訂予算額に対し実質3.6%の削減となった(16)。政府はこの目標額達成の ため基準支出に対する総粋補助率を59.14%から56.12%へ引下げるとともに,
Targets・Penaltiesを引続き実施し,特に高額超過支出団体への対策を重視
することとした。
82/83年度のTmgetsは,ベースが経常支出額から支出総額(TE)に変
-56-
包括補助金の地方団体支出統制機樽の強化とその矛盾(小林)
わるとともに,組立て方力極度に複雑化した。まず,地方団体の81/82年度 当初予算か改訂予算の小さな方を同年度の最小規模予算(MinimumVolume Budget・MVB)とし,地方団体毎の81/82~82/83年度GRE増加率を用い て,これを82/83年度MVBに改訂する。この82/83年度MVBが82/83年 度GREを1%越える毎に前者を0.2%減額(過少なら増額)し,さらに81/
82年度MVBが81/82年度Talgetsを1%超過する毎に82/83年度MVBを 0.2%減額(過少なら増額)する。‘Skewingとよばれるこの減(増)額計算 によってえられたTalgets総額は;しかし,81/82年度のTaxgetsやGRE にたし、する超過・過少の状況が地方団体間で多様なため,82/83年度の地方 支出計画額に合致しない。そこで,82/83年度TaIgets総額を同GRE総額 に合わせる調整や物価上昇率の勘案が加えられ,さらに82/83年度MVBの
減額は7%まで、増額は1%までという限定条件がカロえられて,最終的なTargets が決定された(]7)。要するに,前年度の最小規模予算という実績をベースとし て,超過支出団体には超過率に応じて大きな支出削減を要求する一方,過少 支出団体の支出削減率をできる限り小さくしようとしたのである。
ところが,Targets総額をGRE総額に合わせる一方,個別地方団体に対 して前年度の支出超過・過少の如何により差別的なTargets設定を行ったた め,GREよりもTargetsの低い団体が数多く発生することになった。たと えば,シャー・カウンテイの92.3%,大都市デイスリクトの47.2%でTargets がGRE以下となったが,最大の乖離は大都市ディストリクトで生じ,ギリン ガムの場合TalgetはGREの半分以下となった('8)。当時地方財政法案をかか え保守党系地方団体の反掻をおそれた政府は,ここで重大な譲歩を行った。
上記の算定結果たる「技術的目標額」(TechnicalTalget・TT)がGREよ りも小さい団体については,GREを以てPenalties適用の始まる「有効目標 額」(EffectiveTarget・Er)とみなす,という措置である。82/83年度の HoldbackPenaltiesは,この有効目標額に対する支出予算の超過率5%まで は1%毎にGRPの3ペンス追加となり,追加限度は15ペンスとなったが19),
Br総額はTT総額を7億6200万ポンドも超過したから,低額支出団体がこの Targets緩和を利用すれば政府目標=TT総額の超過は容易であった。表2
のように,TTに対するET超過額の8割は非大都市地域に集中した。また,
-57-
金沢大学経済学部騎築第8巻第1号1987.11
表21982/83年度「有効目標額」と「技術的目標額」とのギャップ
(百万ポンド,outtumprice)
画1)Associations:RateSupportGmnt(England)1985/86掲戚の数値にもとづく。
(2)Gibson&Travers:B1ockGmnt,aStudyinCenml・LocalRelations所収の表を
加工した。
82年5月の'くう_選挙を控えて,ロンドンのレイト税率抑制のため課税資産 割引率を引上げるという政治的配慮も,予算編成動向に影響を加えた。事実,
82/83年度地方団体予算総額は,政府目標たる対前年度実支出見込額比1%
減に対して,同7%増となった。この大幅な支出目標超過の一因はGLCやロ ンドン内部教育庁(InnerLondonEducationAuthority.ILEA)の支出 急増とその他大都市団体の支出超過にあるが,シャー・カウンテイなど非大 都市団体の多くが有効目標額=GREいつぱいに支出を増額したこと,さらに 大半の地方団体が政府予測値よりも高い物価上昇率をみこんだことが主な原 因であった(20)。
かくして,超過支出団体にとりわけ厳しいTa[gets・Penaltiesの設定に もかかわらず,政府は2年次もまた,保守党系地方団体の利益擁謹のため,
初年度における免除措誕(`GREExemption,)を本格化させた「有効目標額」
を採用し,みずから支出目標の達成に失敗した。だが,さらに重要なのは,
Targetsのペースが経常支出総額従ってGREに変わったため,経常支出以外
の項目すなわち地方償償還金や資本支出・特別基金等への操出金などがTargets の樹成項目に入りこみ,地方団体の財政的対応の余地が拡大したことである。
その結果,地方団体はこれ以降,後述の`CreativeAccounting'という自衛 のための財政操作を駆使するようになった。
82/83年度の目標達成失敗と82年地方財政法の成立によって,83/84年度
-58-
GI正 技術的目 標額(A)
有効目楓 額(BI
(BI-(A)
差額 栂成比 <BI/(A)
ロンドン徴収委任団体 ロンドン内部区 ロンドン外周区 大都市カウンテイ 大都市ディストリクト 非大都市カウンティ 非大都市ディストリクト
獅勘叩職麹狸班●□●●●●●調6587942鍋匝図皿拠伽
11381 過釦幅似舶蛎“0015229●0■、●●c団弱砠閲躯ね麹u8妬9幻艶1 1499.286
840.044 1631.707 985.682 3889.487 8942.586 1488.921
36.273 3.994 15.562 0.141 101.231 470.291 134.957
8500377●●0●0●◆4020週⑪刀 溺砺nm”弱、0000001●■●●●。■1111111
イングランド 18515.272 18515.264 19277.713 762.449 100.0 1.041
包括補助金の地方団体支出統制機織の強化とその矛盾(小林)
包括補助金の運用は一層厳しさを増した。前年度と同様に,公共支出計画中 の同年度地方経常支出額は,地方団体諸協会による批判の下で9億ポンド増 額されたが,うち7億ポンドは留保され,2億ポンドのみがサービス項目従っ てGREに配分された。そこで当然,Talgetsにふくまれる経常支出とGRE 算定上の経常支出総額との間には初めから7億ポンドのギャップが生じた。
前者は前年度RSG決定時の経常支出総額に対し名目で9.4%増となったが,
上記ギャップを除くと伸び率は4.4%にすぎず,年度中の賃銀・物価上昇率以 下となった。つまり,GRE総額では実質的に対前年度比減となり,大半のサー ビス水準の低下が求められたのである(22)。前年度に続いて,この実質支出削 減のために総枠補助率は56.1%から52.8%へと引下げられた。
83/84年度の特徴は,TaIgetsが82年7月,RSG決定の数ヵ月前に繰上げ 発表されるとともに,Penaltiesが著しく強化されたことである。繰上げ発表 は,地方団体に対してTaIgetsに対応する時間的余裕を与え,支出超過の弁 明を封じるためであった。83/84年度Targetsは支出総額をベースとし,82/
83年度ET(有効目標額)超過率が1%以内の団体は82/83年度予算額+4%,
同超過率1%以上の団体は82/83年度ET+5%となり,やはり超過率が高 いほど不利な差別的榊造となった。ただし,前者の団体について上記算定額 が81/82年度MVB以下となる場合には81/82年度MVBを83/84年度Talgets にするという優遇措置がとられる一五後者の団体については83/84年度TaZgets が81/82年度MVBに対し名目で25%以上の増となることを認めず,また82/
83年度名目予算額に対して1%以上の減とならぬようにするとの限定条件が 加えられた(23)。この最後の条件によって,高額支出団体はTargets設定上の インパクトをいく分か免れることができた。当時の物価上昇率は5%であっ たから,以上のTargetsは低額支出団体に対して支出の実質1%削減を,高 額支出団体に対しては前年度とほぼ同じTalgetsの達成を要求するものであっ た(24)。だが他方で,前年度までのGREExemptionや有効目標額の特例措置 は撤廃されたから,Penaltiesの適用対象に加えられる保守党系地方団体の不 満と抗議の声が湧きおこった。83/84年度Penaltiesは,初めのTaIgets超 過2%まで1%毎にGRPを1ペンス,それ以上は超過1%毎に5ペンスを無 限に追加するという構造になったが,それは一方で保守党系地方団体の不満
-59-
金沢大学経済学部鎗築第8巻第1号1987.11
緩和のため低率の超過支出には税率引上げ幅を小さくするとともに,高率の 超過支出に対しては引上げ幅の拡大と上限の撤廃によって制裁を強化するも のであった.この上限撤廃によって,包括補助金を全額撤回される団体が生
じうることとなった。
だが,83/84年度の地方団体経常支出予算総額は,対前年度比2.8%減とい うRGS決定時の政府目標に対して,1.7%増となり,地方支出総額ではTaIgets を7億7100万ポンド,3.8%超過した。この超過額の大半は大都市16団体によ り,半分以上はGLCおよびILEAの分であった。両団体とも,基礎的メカニ ズムにおける負の限界補助率の作用によってTaIgets以下の支出でも全包括 補助金を喪失し,Targets・Penaltiesのコントロールから完全にはずれて いた(25)。また、労働党支配下の上記諸団体の多くは制裁覚悟の上で支出増額 を選び,営業用資産を中心にレイト税率の大幅な引上げをはかっており,こ とにインナーロンドンではレイト増加率が物価上昇率をはるかにしのぐバラー が出現していた。83/84年度の大幅な地方支出目標の超過と労働党支配下の 大都市団体におけるレイト税率の急上昇という現実は,改めて政府当局に衝 撃を与え,以前から強力な直接的地方財政統制政策の導入を要請していた大 蔵省筋からの圧力が強まるに到った。83年6月総選挙の保守党公約に登場し たレイト税率の直接統制およびGLC・大都市カウンティ廃止の構想こそ,そ の具体化に他ならなかった(26)。
以上3年次までの包括補助金運用の基本的パターンは84/85年度にもくり かえされる。公共支出計画中の同年度分地方経常支出額は5億ポンド増額改 訂され,前年度RSG決定時にくらべ経常支出の増加は4.5%,8億5000万ポ ンドとなったが,うち6億2500万ポンドはサービス項目に配分されず,やは りTalgets総額とGRE総額のギャップが発生した(27)。GREレベルの名目 増加率は5%だが,物価上昇率を入れると対前年度比0.4%,7300万ポンドの 実質減少となった。新たに地方団体に移管された住宅扶助行政関係の補助金 を控除すれば,減少額はさらに5000万ポンド増加する。この目標に対して,
総粋補助率は52.88%から51.88%へと4年連続して引下げられた。84/85年 度RSG決定報告は,この補助率があくまで全団体がTargetsを守った場合の 最大値であることを強調し,また特定補助金の地位の急上昇とは対照的に包
-60-
包括補助金の地方団体支出統制機構の強化とその矛盾(小林)
括補助金総額のRGSに占める割合が低下し続け,84/85年度の包括補助金地 方交付額は81/82年度に対し実質12.3%の減少となったことを指摘した(28)。
84/85年度のTaIgetsは,前年度のGREとTaxgetsのうち高い方を2.5%
増額したものとなり,前年度予算額に対する増加限度を3%,同減少限度を 6%とし,さらに前年度にTargetsとGREを超過した団体の場合は81/82 年度MVBの24%増が増加限度となった。ただし,前年度予算額については 幾つかの調整が加えられ,その一環として,前年度予算額がTargetsより2%
低かった団体は同Talgetsの2%過少の水準を84/85年度Talgetsと認定す るものとしたから,支出過少率の大きい団体が有利となり,110団体がその恩 恵に浴した。内訳は非大都市カウンテイ107,大都市デイストリックト2,ロ ンドンのバラ-1団体であって,保守党系の地方団体が大半であった(29)。こ の事情をも反映して,84/85年度のTargets分布状況は表3のごとくとなり,
前年度予算十3%という最も有利なTaIgets設定は,やはり保守党系の非大 都市団体に集中した。
表31983/84年度TargetSの構成と団体数分布状況
注(1)Associations:RateSupportGrant(Englad)1983/84,p、39.による。
だが,84/85年度の最たる特徴は,小さな総i枠補助率引下げ幅とは対照的 に,Penaltiesの厳しさが倍加したことである。Penaltiesの税率引上げ幅は,
Targets超過の最初の1%について2ペンス,2%目は4ペンス,3%目は
-61 83/84 TarHets
+2.5%
83/84 GRE
+2.5%
83/84 予算額 十3%
83/84 予算額
-6%
83/84 MVB
+2`4%
非大都市カウンティ 非大都市ディストリクト 大都市カウンティ 大都市ディストリクト ロンドン内部区 ロンドン外周区 ロンドン内部教育庁 大ロンドン政府(GLC)
5217 557焔一一2 97’3’1’一 51312 823 ’41’4-1- 11
叶 団体数
樹成比%
140 33.9
20 4.8
241 58.4
10 2.4
2 0.5
金沢大学経済学部鎗集第8巻第1号1987.11
8ペンス,それ以上は1%毎に9ペンスという累進的な構成となり,前年度 と同じく最高限度は設けられなかった。この制裁強化について環境大臣は,
前年度に支出超過2%までの低いPenaltiesをうけいれて多くの地方団体が事 実上TaⅡgetsを無視したことへの反省にもとづくものだと説明した(30)。また,
ひとたびPenaItiesが課されると,それは,税率にビルトインされて翌年度に もちこまれ,その税率のままで(支出水準が維持されることになり)同じレ ベルのPenaltiesが課せられることになるから,支出削減目標達成のためには
「Penalty計画はますます厳しくならざるをえない」というthe"ratcheteffect”
が制裁強化の一般的理由として指摘された(31〕。
この著しい制裁強化の下で,84/85年度地方団体予算総額の対前年度比伸 び率は,83/84年度の4.8%に対し,2.3%にとどまったものの,Targetsに 対する超過率は4%と前年度よりも高まった。表4のように,地方団体種類 別では相変わらずロンドンおよび大都市カウンテイの高い超過率がめだつけ れども,84/85年度の特徴は過少支出団体が殆んど姿を消したということで ある(32)。その一因は,84/85年度のTE総額の対前年度比伸び率が前年度の 8.7%に対しわずか2%と低すぎたことに求められるカギ33),ヨリ根本的には,
後述のようなTargets・Penaltiesの諸矛盾がすでに地方団体の予算編成動 向に重大なインパクトを及ぼし,包括補助金の機能を阻害していたのであっ た。84/85年度のなかばに発表された地方団体監査委員会の報告は,この矛 盾を明るみに引き出したのである。
85/86年度は,地方行財政上の重大な改革が包括補助金の運営に影響を及 ぼした。第1は84年レイト法にもとづく地方税率統制(RateCapping)の 開始であって,84年7月末85/86年度RSGの基本項目に関する政府提案と ともに,GRE超過率20%以上,Targets超過率4%以上かつ支出規模1千 万ポンド以上の適用18団体が発表され,85/86年度予算の前年度水準への凍 結と新年度物価上昇見込分4.25%の支出削減の方針が明らかになった。第2 は,ロンドンの公共交通行政の中央移管である。84年6月LondonRegional Transport(LRT)が設立され,85年4月以降LRTへの財政的サポートの 全責任がGLCから中央政府に移された。また,84年10月の国民保険付加保険 料(NationallnsuranceSurchalge,NIS)の廃止にともない地方団体のNIS
-62-
包括補助金の地方団体支出統制機構の強化とその矛盾(小林)
表4Targetsに対する支出予算超過率の推移
(%)
注(1)各年度のRetumsofExpeUBditu炬andRatesにもとづく。
(2)Smith&Stewart:LocalAuthorityExpenditu肥Targets、による。
1%分が85/86年度から全廃となり,さらに職業訓練関係の教育機能の一部 が人的資源サービス委員会に移管された(34)。85年7月GLC・MCCs廃止法 の成立をもふくめて,これら制度改革の影響が前年度までの基本パターンに 加わり,また包括補助金批判のたかまる中でTargets・Penaltiesの是非を めぐる論戦が活発に展開された所に,85/86年度の特徴があるといえよう。
85/86年度の地方経常支出総額については,当初地方団体側が公共支出白 書の8.4%,17億ポンドの増額改訂を要求したのに対して,RSG決定ではNIS 廃止やロンドン公共交通行政の移管等にからむ減額調整を加えて,8億2100 万ポンドの増額にとどまった。前年度RSG決定にくらべ9億2500万ポンド,
4.5%の増加である。しかし,今回も5億9400万ポンドがサービス項目従って GREに配分されず,留保された。しかも,地方団体は前年度経常支出額を1 億3200万ポンドも越える予算を編成していたから,この決定額は名目額でさ え前年度予算を0.6%下まわった。表5のように,年度中の物価上昇率を考慮 すると,サービス配分項目全体で実質6.2%の減,留保分を入れても実質3.5%
減となり,全行政分野で大幅な実質支出カットが求められることになった(35)。
この支出削減目標の下で補助金総額は初めて絶対額が前年度より減少し,総
-63-
81/82 82/83 83/84 84/85 ロンドン徴収委任団体
ロンドン内部区 ロンドン外周区 大都市カウンティ 大都市ディストリクト 非大都市カウンティ 非大都市ディストリクト
7151988●●ロ●●●●351943111 7729827
●■■■●●●864321511。 7114462●p■G●BB鋼626110 9140341●●④●●●●88151112』
イングランド 5.6 3.5 3.8 4.0
金沢大学経済学部鯰築第8巻第1号1987.11 表51985/86年度RSG決定における
経常支出サービス費の削減状況
(百万ポンド,%)
甑1)Associations:RateSupportGrant(EngIand)1985/86,p、32.による。
(2)鰻住宅エリ『業会叶(HousingRevenueAccount)をさす。
枠補助率も51.9%から48.7%へと初めて50%を切るに到った。この厳しい補 助金カットの理由について,環境大臣は84年7月「地方団体支出の負担を(国 税)納税者からレイト納税者に転じることによって地方有権者に対する地方 団体の責任(accountability)を増加させるため」だと言明した(36)。レイト 税率直接統制の開始とあいまって,新たな地方財政統制における政府の基本的 姿勢がよく表われているといえよう。
85/86年度RSG決定報告は,Targetsに関する項の冒頭で,Targets・
HoldbackPenaltiesの装証が「包括補助金体系に固有の部分ではない」と明 記している(37)。85/86年度Targetsをめぐる論戦は,まず84年1月の閣議に おいて,地方行財政需要の実態と低額支出団体への配慮が有力閣僚から要請 されるという異例の事態を以て始まった。環境省は,85/86年度Targetsは 未定としつつ前年度Targetsへの批判と問題点を提示して地方団体諸協会の
-64-
85/86 定額RSG決 (A)
84/85 千鉢額 (B)
(A)の(B)
墹減率に対する
%
(B》の85/
86年格へ度価 の閥 整頓(。
(A)の(C)
に対する地域率
% 教育
学校給食・ミルク 図野館,博物館・美術館 個人社会サービス等 警察 iW防 その他HomeOfficeサービス 地方交通 地方環境サービス 排水.洪水対策 梢賢者保lMi 歴用 HRA。以外の住宅行政 住宅給付
魍郵獅錘蝿釦銃辨鰹卯鍋沌、”1
92212 晒蛎泗鎚魎即郵叫卸012212 78095958291 18891746425131●●P■0●ひ●の●■B●●1醒皿1114047984221’’一++++一一一一一一一 914
■01 鍵砺44 1696901躯詔弱弱駆倒Ⅲ?12212 、鋼弱弱1 483155’639941J41423358031863111111
配分額計 留保額
20,720 594
210446 -3.4 220098 -6.2 合叶 21,314 21,446 -0.6 22,098 -3.5
包括補助金の地方団体支出統制機綱の強化とその矛盾(小林)
見解を求め,地方団体側はTargetsの即時撤廃を要求するとともに,経常支 出の一部留保にともなうサービス計画額(=GRE)とTmgetsとの乖離の 弊害を強調した。だが,政府は結局TaIgetsの存続を決定した。84年7月発 表の85/86年度暫定的Talgetsは,初めてGRE以下とGRE以上の支出団体 を分け,別々にルールを設定した。すなわち,84/85年度予算がGREと同じ かそれ以下の団体は84/85年度GRE+3.75%,GRE以上の団体は84/85年 度Talgets+3.75%をTm直etsのベースとし,前年度予算に対する増額限度 を4.25%,同減額限度を1.5%とした。この85/86年度Targetsによって3種 類の地方団体が重大な影響を受けることになった。第1は,前年度にGREと Targetsを超過し,GREがTalgBtsより大きい10団体であって,ベースが 前年度GREから同Targetsに変わるため,85/86年度TaIgetsは前年度よ
り厳しくなった。第2は,前年度予算がGREおよびTargets以下だがTargets がGREより大きい低額支出団体=シャー・カウンテイであって,この場合に はTargetsからGREへのベース変更のため,やはりTargetsは厳しくなっ た。第3は,前年度にTargets2%調整の恩恵を受け,予算がTalgets以下 だった団体であり,この特例の停止によって恩恵は消滅した。だが,全体と
していえば,高額超過支出団体のレイト税率統制の開始によって,それ以外 の団体に対するTaェgetsは緩和された。前年度予算に対するTargetsの減額 限度1.5%,増額限度4.25%は,各々前年度の6%および3%にくらべて大幅 な緩和であったし,12月の85/86年度RSG決定時点では増額限度が4.5%に 引上げられるとともに,前年度予算がGRE以内の団体のTalgetsは84/85 年度Talgetsまたは予算額十4.625%という2重の優遇措置が加えられた。初 年度以来の保守党系団体に対する政治的配慮と妥協は,ここでもくりかえさ れたのである。こうした緩和の結果,表6のように,TaIgetsが前年度予算 額にくらべ1.5%減の団体数は全団体の6%以下にとどまり,同4.5%以上増 の団体が半分以上を占めるに到った。
だが政府は,Targets緩和という現実的妥協をはかる一方で,Penaltiesを 飛騒的に強化した。85/86年度Penaltiesは初めて暫定的TalHetsと同時に 発表されたが,蝦6初のTargets超過1%は7ペンス,2%目は8ペンス,そ れ以上は1%毎に9ペンス追加とし,上限なしというおそるべき累進構造と
-65-