初級スペイン語学習者の学習ストラテジー調査
-英語学習ストラテジーとの関連-
齋藤 華子
要旨
本研究では、優れたスペイン語初級学習者の用いる学習ストラテジー傾向を、ス ペイン語専攻大学1年生を対象とする質問紙調査を通して調べた。スペイン語の成 績上位群と下位群間のストラテジー使用の差異、及び調査対象学生がスペイン語よ りも以前に学び始めた外国語である、英語の学習ストラテジーとの関連に焦点を当 て分析した。その結果、上位群は下位群に比べ、使用するスペイン語学習ストラテジー の頻度・種類のどちらも多かった。特にメタ認知ストラテジーに関しては、英語学習・
スペイン語学習のいずれにおいても、上位群の方がより頻繁に用いていることがわ かり、外国語学習におけるメタ認知ストラテジーの重要性が示される結果となった。
また上位群は、英語とスペイン語の学習ストラテジー使用傾向に相関が見られ、英 語学習で用いるストラテジーをスペイン語の学習時にも試している可能性が示唆さ れた。
Las estrategias de aprendizaje en el nivel elemental de español y su relación con las utilizadas en el aprendizaje de inglés
SAITO Hanako Resumen
En el presente estudio hemos investigado por medio de una encuesta las estrategias que utilizaban las estudiantes del primer curso del Departamento de Español, poniendo especial atención en las que habían obtenido buenos resultados en el examen de gramática. Hemos analizado la diferencia en el uso de estrategias entre las alumnas que habían sacado buenas notas y las que no, y también la utilización de estrategias al estudiar inglés, la lengua extranjera que han empezado a aprender antes que el español.
Los resultados aclararon que las buenas estudiantes utilizaban más tipos de estrategias para aprender español y con más frecuencia. Particularmente ellas usaban más estrategias metacognitivas en el aprendizaje de español e inglés, lo que indica la importancia de éstas para aprender mejor una lengua extranjera.
Asimismo hemos hallado una fuerte correlación entre el uso de las estrategias para aprender español y las utilizadas en el aprendizaje del inglés. Esto nos sugiere que las alumnas que han sacado buenas notas utilizan el mismo tipo de estrategias en el estudio del español y que éstas les resultan de gran utilidad cuando aprenden inglés.
1 .はじめに
大学入学後、同じ環境の中スタートを切ったスペイン語学習者の間に、かなり早い段階 で授業にスムーズについていく者と、躓きを見せる者が見受けられ始める。外国語学習者 間の学習成果の差が生まれる要因の一つに、学習ストラテジー 1使用の違いがあると考え
1 本稿では以下、特に支障のない限り「ストラテジー」と略することもある。
られている。前回、初級スペイン語学習者の使用する学習ストラテジーの傾向を調べたと ころ、スペイン語成績上位群は下位群に比べ、ストラテジーの使用頻度・種類どちらにお いても勝っているという結果が得られた(齋藤, 2008)。
本稿では調査対象者を前回よりも増やし、上位群と下位群のストラテジー使用傾向をよ り詳細に検証することを試みる。またその際、調査対象学生が初めて学んだ外国語である 英語のストラテジーとの関係を同時に探ってみる。優れた外国語学習者は最初に接した外 国語の学習法を、次に挑戦する外国語学習にも役立てようとするのか、スペイン語を学ぶ 大学生から得られる特徴を通して考えてみたい。
2 .学習ストラテジー研究
2.1 優れた言語学習者の研究
学習ストラテジー研究は優れた言語学習者の特徴を、観察・アンケート・インタビュー 等の方法で収集することから出発した。第二言語習得の立場からそれまでのストラテジー 研究を整理したOxford(1990)は、「学習をより易しく、より早く、より楽しく、より 自主的に、より効果的にし、かつ新しい状況に素早く対処するために学習者がとる具体的 な行動」とストラテジーを定義し(宍戸・伴訳 1994)、目標言語に直接かかわる「直接ス トラテジー」と、言語学習を間接的に支える「間接ストラテジー」に分類した。さらに「直 接ストラテジー」を記憶ストラテジー、認知ストラテジー、補償ストラテジー、「間接ス トラテジー」をメタ認知ストラテジー、情意ストラテジー、社会的ストラテジーに下位分 類した。またOxfordの作成したSILL(Strategy Inventory for Language Learning)を 利用することにより、様々な調査・研究が盛んになっていった。
学習ストラテジー研究が発展する中、優れた言語学習者とそうではない学習者との比較 検討がなされてきている。これまで明らかになっている結果の一つに、優れた言語学習者 は学習を苦手とする者より、多様なストラテジーをより高頻度で使っているということが あげられる(Ellis, 1994)。日本においてもSILLを利用するなどして、英語学習者、ま たは日本語を学ぶ留学生を対象とした研究が中心に行われている。日本の学習ストラテ ジー研究が進む中、さらなる研究発展に向けて次のような指摘がある。「学習者のバリエー ションという変数を研究対象にする試みは、未だ十分行われていない。年少者と成人学習 者が使うストラテジーはどのように異なるのか、学習者の以前の外国語学習体験、たとえ ば、文法翻訳法を中心とした学習であったか、オーディオリンガル法であったかなどによっ て、習得する学習ストラテジーにどのような影響が現れるかなど検証すべき項目はまだ多 い。(宮崎, 1999:47)」
影響する可能性はある。では英語に続く二つ目の外国語を学ぶ際はどうであろうか。日本 の大学生が英語の次の言語としてスペイン語を学ぶときに、中学・高校時代にどのように 英語を習い、学んできたかということが、第二の外国語の学習に影響を与えるということ も考えられるだろう。しかしながら日本人学習者の以前の異なる外国語学習体験を視野に 入れた調査は、筆者の知るところ見当たらない。そこで、学習言語は同じであっても、そ の過程で学習環境が変化している被験者を取り扱った研究、また外国人留学生の日本語お よび英語の学習ストラテジー、つまり同一被験者に2つの言語のストラテジーを尋ねた 調査を次に取り上げ、本調査の参考とする。
2.2 過去の学習経験の影響
2.2.1 英語学習―帰国生と一般大学生の比較
木村他(1998)は英米文学科の大学1年生を対象に、海外生活経験を持たない一般学 生と、海外生活を1年以上体験した帰国学生のストラテジー使用の相違を、入学直後に SILLを用いて検証している。帰国生が一般学生よりも有意に多く使用しているストラテ ジー項目の具体例を見ると、相手との対話を想定したときに用いる実践的な学習ストラテ ジーが多く、反対に一般学生の方が帰国生よりも多く使用している項目間には、対話の相 手を必ずしも必要としない、個人で学習が可能となるストラテジーであるという共通点が あった。帰国生はその言語の使われる環境で、対話の相手との積極的な関わりの中から学 ぶストラテジーを身につけ、日本の大学に来てからもそれらを利用していると考えられる。
一方で一般学生は、コミュニケーションを自ら起こそうとするようなストラテジーよりも、
大学入試のために必要であったストラテジーの特徴が、入学直後のこの調査結果にも現れ たといえる。
2.2.2 日本語学習―日本語既習者と初心者の比較
日本語を学ぶ留学生を対象とした研究の中で伊東(1993)は、留学前に日本語学習歴 のある者とない者に二分し、SILLを利用して調査している。その結果、既習者は未習者 に比べ、認知ストラテジーの使用頻度が高かった。日本語学習がどのようなものであるか を経験した既習者は、言語学習者に馴染みの深い学習行為を、留学中にも積極的に使用し ている、と伊東は考察している。また両者ともに頻度が高いのはメタ認知、社会的ストラ テジーであった。日本という目標言語の使用される学習環境で、人と関わり合い、協力を 求めながら学習するストラテジーが多く用いられるのは納得できる結果である。また、留 学生という言語学習意識の高い被験者であることから、日本語の既習・未習にかかわらず、
計画的な言語学習を支えるメタ認知ストラテジーの使用が多く見られたのではないだろう か。
2.2.3 外国人留学生の日本語・英語学習
カレイラ(2007)は、同じく外国人留学生を対象とするものの、多くの留学生が日本 の大学入学前に学ぶ英語と日本語のストラテジーを比較検討している。SILLを用いて、
日本語を学習するときに使用するストラテジーと英語を学習するときのストラテジーを同 一の被験者に尋ね、その違いを調べた。結果、日本語学習時には英語を学ぶときに比べ、
日本語で会話を始めようと努め(認知ストラテジー)、不安な時には自分自身を励まし(情 意ストラテジー)、情報を得るため日本語話者に日本語で質問している(社会的ストラテ ジー)、等の特徴が見られた。日本語学習であるからあえてこれらのストラテジーを使用 したというよりも、日本語を日本の生活の中で勉強するという目標言語学習環境にいるた めに、必然的にこれらを使用したと解釈した方がよいだろう、とカレイラは指摘している。
どのような環境で学んでいるかということが、学習ストラテジー選択にも影響を及ぼすと 考えられる。
3 .目的
外国語学習者のストラテジー使用においては、木村他(1998)、伊東(1993)の研究結 果が示すように、過去の学習の中で使い慣れたストラテジーを持っていたり、学習環境が 変わっても同じストラテジーを試す学習者はいるはずである。また受験のため、留学生活 に必要なため、といった特定の目的で、特定の限られたストラテジーを突出して使う、と いうこともありうる。
海外滞在経験が無く、大学入学後にスペイン語を学び始める学習者の大半にとって、初 めて学んだ外国語は、日本という外国語学習環境の中での英語である。日本でスペイン語 を学ぶ日本人大学生を考えるとき、新しい外国語であるスペイン語学習においても、かつ ての、または現在の英語学習経験が、なんらかの影響を及ぼしているのではないかと予想 する。特に学習開始後まもなくでもスペイン語で良い点の取れる学習者は、英語を学ぶと きに使用して効果のあった学習方法を、異なる言語であっても同じ“外国語学習”として、
スペイン語にも応用していると考えられないだろうか。
前回の調査で、スペイン語を学ぶ大学1年生が学習ストラテジーをある程度意識して おり、また文法テストの得点の高い学生たちは、低い学生よりも使用ストラテジーの頻度 が高く、種類も多いという結果が得られた。今回は対象人数を少し増やし、スペイン語得 点上位群は下位群に比べ、どのようなストラテジーをより多く使用しているのか、また上 位群は英語の学習方略をスペイン語学習時にも利用しているといえるか、この2点を明 らかにすることを目的とする。
4.調査
4.1 調査対象者
2008年、2009年に入学した、清泉女子大学スペイン語専攻1年生の内、大学入学後に 初めてスペイン語を学び始めて、海外滞在経験が無いか、あっても1年未満である者を 分析の対象とした。調査対象者の受ける必修スペイン語授業数は週6回で、そのうちの3 クラスは日本人教員、残りの3クラスはネイティブ教員が担当している 2。
まず全被験者の中から、スペイン語成績上位群と下位群を作った。各調査年前期に実施 した計3回の小テスト(各回100点満点)の平均点と標準偏差を算出し、その平均点に 標準偏差1つ分(2008年調査については2分の1)を加えたグループを上位群、差し引 いたグループを下位群とした(表1)。結果、上位群合計は22名 3、下位群合計は21名 となった。
表1 調査対象者の小テスト結果
人数 平均点 標準偏差 2008年 全被験者 48 61.65 19.37
上位群 13 85.11 5.84 下位群 15 39.11 10.06 2009年 全被験者 55 61.10 15.32 上位群 9 81.59 3.16 下位群 6 40.61 7.62
4.2 調査方法
2008年7月、2009年7月に調査者自らが質問紙調査を実施した。通常授業の終了15 分前に質問紙を配布、授業終了時刻までに回答するように依頼した。アンケート結果は授 業の成績評価には一切関係のないことを強調してから行った。また被験者には学習ストラ テジーという用語は使用せず、外国語学習をどう行ったら良いのかを考えるためのアン ケートであり、スペイン語と英語を学ぶときに普段使用している学習方法について回答し てほしいと説明してから開始した。
2 英語に関しては、英語学力と英語学習ストラテジーの関係を探ることを目的としていないため、被 験者の現在履修する英語の授業数や英語力は尋ねなかった。
3 2008年の調査では上位群は14名を対象としたが、その中で英語に関する質問回答に不備のあった
1名を今回は除き、計13名を2008年上位群とし本調査の対象に加えた。
4.3 質問紙
質問紙は、調査対象者の学習調査項目と、スペイン語と英語の学習ストラテジー調査項 目から成る。
4.3.1 学習調査項目
被験者の学籍番号、海外滞在歴、スペイン語を含む外国語学習歴、スペイン語の学習理 由を尋ねた。
4.3.2 学習ストラテジー調査項目
OxfordのSILLを利用して日本でも様々なストラテジー調査が実施されているが、
SILLを構成している質問項目には、スペイン語を学び始めたばかりの学習者にはあては まらないであろう項目も含まれる。また日本という外国語学習環境であることを踏まえて 本調査では、練習する、メモやノートを取る、要約する、といった「言語学習者に最も馴 染み深いストラテジー(宍戸・伴訳 1994:43)」である認知ストラテジーと、学習プロ セス全体を支えるメタ認知ストラテジーに焦点を当てる。SILLの他、伴(1989)の各学 習課題で適用される方略、および竹内(2003)の実施した大学生対象の学習記録調査結 果を参考に、スペイン語初級学習者に適した項目を選び、修正を加えて、本調査用質問紙 とした。具体的なスキル別のストラテジー(単語、文法、スピーキング、ライティング、
リスニング、リーディング)を各4項目ずつと、メタ認知ストラテジー6項目を用意し、
英語とスペイン語を学ぶ際に普段使用している学習ストラテジーを尋ねる計30項目を用 意した。
英語・スペイン語学習時の各ストラテジーについて、「とてもよくあてはまる」「あては まる」「どちらかといえばあてはまる」「たいていの場合あてはまらない」「まったく、ま たはほとんどあてはまらない」の5段階を設け、内一つを選択させた。「とてもよくあて はまる」を5点、「まったく、またはほとんどあてはまらない」を1点とし、数値が高い ほどそのストラテジーをより多く使用するとみなす。
5 .結果および考察
5.1 成績上位群・下位群の差異
スペイン語の小テスト成績上位群と下位群では、ストラテジー30項目のうち、具体的 にどのような方略使用に違いがあるのか、各項目の平均値の差をt検定を用いて調べた。
5.1.1 英語学習ストラテジーの平均値の差
英語の学習時に使用するストラテジー30項目を、上位群・下位群それぞれ平均値を出 した。次に二群間の平均値に有意差があるかどうかをt検定を用いて検証した。結果を表 2にまとめる。1%水準で差が確認されたのはメタ認知ストラテジーの一つ「英語の力を 高めるための明確な目標がある(項目29)」であった。スペイン語成績上位者は、別の外 国語である英語学習においても何らかの目標を持ち、それを確認しながら学んでいるとい う姿が推測できる。5%水準で差が認められたのは、「英語の会話表現や決まり文句を覚 えて使う(項目11)」「英語を聞くとき、内容の大体の流れを理解するように聞く(項目 20)」「自分の英語の間違いに気づき、そこから学んで上達しようと努力する(項目26)」「で きるだけ英語に接する機会を持つ(項目28)」の4つであり、項目29を含め、差の認め られた3つがメタ認知ストラテジーであった。スペイン語の得点が低いグループは上位 グループに比べ、自分の外国語学習を管理するという体験が少ないといえるのではないだ ろうか。しかしながら有意差の見られる5項目すべてにおいて、下位群の平均値は2.7以 上であり、この数値は「時々使用するストラテジー」に分類される(表3参照)。つまり 二群間に差が見られるとはいえ、下位グループの学生も時にはその英語学習ストラテジー を使用する、と答えているということになる。
5.1.2 使用する英語学習ストラテジーの数
次に、Oxford(1990)を参考に英語ストラテジー使用の頻度をもとに結果を分類し、
両群間の関係を見てみる(表3)。「通常使用するストラテジー(3.5以上)」は上位群18 項目、下位群8項目で、上位群の方がより多くの種類のストラテジーを通常用いている ことがわかるが、「時々使用するストラテジー(2.5以上)」まで含めれば、上位・下位群 ともに9割以上がここに入る。つまり両グループとも数個のストラテジーを除き、少な くとも時には、提示された学習方略を英語を学ぶときに使っている、または使ったことが ある、と答えている。ライティングに関するストラテジーの2つは、両群共に「一般的 には使わないストラテジー(2.4以下)」との回答であった。「定期的に英語を書いて添削 してもらう(項目13)」「英語で日記を定期的につける(項目16)」というやり方で英語 の書く力をつけようとする人は、本調査対象者には少ない。ライティングについては3.5 以上の項目が一つもなかったことからも、書く力をつける良い練習方法が見つからない、
または書く力を向上させる必要性そのものをあまり感じていない、という可能性も考えら れる。
表2 成績上位群・下位群の英語学習ストラテジー平均点
学習ストラテジー項目 上位群平均
(N=22)
下位群平均
(N=21) t値
【単語】
1) 英語の単語は、何度も声に出して覚える 3.7 3.9 2) 英語の単語を覚えるために単語帳を作る 3.2 3.0 3) 英語の単語は、何度も書いて覚える 4.1 4.2 4) 英語の単語は、文の中でかたまりとして覚える 3.5 3.2
【文法】
5) 英語の文法を学ぶために、参考書を使う 3.7 3.4 6) 英語の文法を学ぶために、例文を暗記する 3.9 3.8 7) 英語の文法を学ぶために、文法についてノートにまとめる 3.5 3.1 8) 英語の文法を学ぶために、日本語や他の言語の文法と結びつける 3.0 3.2
【スピーキング】
9) 英語の日常よく使う表現や基本的な構文を声に出して覚える 3.7 3.6
10) 英語ネイティブ話者と話す 3.2 3.2
11) 英語の会話表現や決まり文句を覚えて使う 3.9 3.2 2.297*
12) 自分の話す英語を、ネイティブ話者に直してもらう 2.8 2.5
【ライティング】
13) 定期的に英語を書いて、添削してもらう 2.4 2.4 14) メモやメッセージを英語で書く 3.0 2.7 15) 英語で正しい文を書くために、たくさんの良い文を読むようにする 3.0 2.5
16) 英語で日記を定期的につける 1.9 1.9
【リスニング】
17) テープやCDを繰り返し聞き、英語を細部まで理解しようとする 3.3 3.4 18) テープやCDを繰り返し聞き、ディクテーション(書き取り)練習をしてみる 2.8 3.1 19) ネイティブの先生の英語を集中して聞く 3.9 3.5
20) 英語を聞くとき、内容の大体の流れを理解するように聞く 4.2 3.5 2.422*
【リーディング】
21) 英語の文を読むとき、知らない語を調べる前に、意味を大まかに取る 3.9 3.7 22) 英語の文を読むとき、意味のわからない部分は文脈から推測する 4.0 4.0 23) 英語の文を読むとき、何度も声に出して読んでみる 3.5 3.3 24) 英語の文を読むとき、文法知識を利用して、分析しながら読む 3.7 3.2
【メタ認知】
25) いろいろな方法を見つけて英語を使うように心がける 3.5 3.2
26) 自分の英語の間違いに気づき、そこから学んで上達しようと努力する 3.7 3.1 2.075*
27) スケジュールを立て英語の学習に十分時間をあてる 2.8 2.4
28) できるだけ英語に接する機会を持つ 3.6 3.0 2.058*
29) 英語の力を高めるための明確な目標がある 3.6 2.7 2.561**
30) 自分の英語学習の進歩について自己評価をする 2.8 2.5 平均 3.4 3.2
**p< .01 *p< .05
表3 上位群・下位群の使用頻度別英語学習ストラテジー項目数
上位群 下位群
常にあるいはほとんど常に使うストラテジー(4.5~5.0)の数 0 (0%) 0 (0%)
通常使用するストラテジー(3.5~4.4)の数 18 (60%) 8 (27%)
時々使用するストラテジー(2.5~3.4)の数 10 (33%) 19 (63%)
一般的には使わないストラテジー(1.5~2.4)の数 2 (7%) 3 (10%)
一度も、あるいはほとんど使わないストラテジー(1.0~1.4)の数 0 (0%) 0 (0%)
5.1.3 スペイン語学習ストラテジーの平均値の差
英語学習においては上位群も下位群も、尋ねたストラテジーの約9割を、通常、また は時々使うと答えており、二群間の際立った差異は認められなかった。では専攻言語であ るスペイン語ではどうだろうか。スペイン語学習時のストラテジー30項目の平均値を算 出し、英語同様に各群の平均値の差をt検定で検証した。結果を表4にまとめる。
まず各種スキル別ストラテジーを見てみる。1%水準では「スペイン語の文法について ノートにまとめる(項目7)」「スペイン語ネイティブ話者と話す(項目10)」「ネイティ ブの先生のスペイン語を集中して聞く(項目19)」「スペイン語の文を何度も声に出して 読む(項目23)」「スペイン語の文を文法知識を利用して読む(項目24)」において差異 が検出された。その中でも項目7、19、24については、上位群平均が3.5以上、つまり 上位グループはそれらのストラテジーを通常用いると答えている。スペイン語を学ぶとき、
文法について自分なりにノートにまとめることで、文法理解の向上を図ったり、また身に つけた文法知識を利用して、文を読もうと努めているのが上位群の特徴として見出される。
また授業という貴重なスペイン語話者との接触の場面で、集中して先生のスペイン語を聞 き取ろうという態度で授業に臨んでいるといえる。5%水準で差が認められ、さらに上位 群が通常そのストラテジーを使うと回答している項目を見ると、「文法を学ぶために例文 を暗記する(項目6)」「文法を学ぶために、日本語や他の言語の文法と結びつける(項目 8)」が挙げられる。つまりスペイン語の文法を学ぶためのストラテジーに関しては、項 目7の差異も含めて、二群間の違いがはっきりと表れた結果になった。これは二群を構 成する基準としたのが、前期の文法の小テストであったことが反映していると思われるが、
大学での専攻言語として学ぶ以上、文法を学ぶことは四技能の力をつける上での基礎とな り、1年生の早い段階でその基礎を身につける態勢が整いつつある学生と、そうでない学 生がすでに存在しているといえるだろう。
「会話表現や決まり文句を覚えて使う(項目11)」「内容の大体の流れを理解するように 聞く(項目20)」にも5%で差があるが、この2つに関しては、英語ストラテジーにおい ても上位群の方が有意によく使うという結果になっていた。上位群の学生は、英語でのス
ピーキング・リスニングに関する学習方略として効果的であったこの二つを、スペイン語 学習でも使用を試みていると推測できる。
ライティングについては、両群ともに2.5以上の項目がない。英語のライティングスト ラテジーと比較しても、平均値はさらに低い。今回の調査対象学生は、自らスペイン語を 書いてみる、または書くことを意識して良文に触れるということも、通常意識はしていな い(項目13~15)。スペイン語で日記をつけてみる(項目16)という経験もほとんどな い。英語でも、二つ目の外国語であるスペイン語でも、書く力をつけようという意識は、
話す、聞く、読むという他の技能に比べて、上位群の学生の間でも低いという結果となっ た。四技能バランスのとれた外国語の能力を養うためにも、書くという技能の大切さに気 づかせる、作文練習の方法を紹介する等の工夫が教える側にも必要ではないだろうか。
全項目のうち両群で最も頻度が高いストラテジーは、単語を覚えるとき「何度も書いて 覚える(項目3)」という方略であった。これに関しては、下位群でも唯一「通常使用す るストラテジー」としての平均値が得られている。前回の調査結果でも述べたが、本学ス ペイン語専攻1年生のスペイン語文法クラスでは、ほぼ毎週1回単語テストを実施して いるため、文法テスト結果如何にかかわらず、単語テストの準備としてこのストラテジー を使用している者が多いということであろう。
今回の調査結果で特に注目したいのはメタ認知ストラテジーに属する項目で、6つのう ち5項目に有意な差異が見られた。項目27については1%水準で有意差があり、「スケ ジュールを立てスペイン語学習に十分時間をあてる」学生はテストで好成績を取り、時間 をかけていない学生はテストでも思うような結果を得られていない、ということが読み取 れる。前回調査では、上位群が通常使用するとしたメタ認知ストラテジーは項目25のみ であったため、メタ認知ストラテジーについては成績上位者が際立ってよく用いていると まではいえないと考察したが、人数を増やし、各項目でのt検定を実施することによって、
学習成果とメタ認知ストラテジーの関わりが浮かんでくる結果が得られた。英語ストラテ ジーで両群間の差異が検出された5項目のうち、3項目がメタ認知ストラテジーであった ことを考えても、学習の早い時期に好成績を収めることのできた学生は、英語でもスペイ ン語でも間違いから学ぼうとしたり、学習言語に接する機会を積極的に求めたり、明確な 目標を持っている、と言えよう。外国語学習におけるメタ認知ストラテジーの重要性が確 認できる結果となった。
表4 成績上位群・下位群のスペイン語学習ストラテジー平均
学習ストラテジー項目 上位群平均
(N=22)
下位群平均
(N=21) t値
【単語】
1) スペイン語の単語は、何度も声に出して覚える 3.5 3.0
2) スペイン語の単語を覚えるために単語帳を作る 3.1 2.3 2.153*
3) スペイン語の単語は、何度も書いて覚える 4.2 3.7 4) スペイン語の単語は、文の中でかたまりとして覚える 2.9 2.5
【文法】
5) スペイン語の文法を学ぶために、参考書を使う 2.1 2.5
6) スペイン語の文法を学ぶために、例文を暗記する 3.7 3.0 2.402*
7) スペイン語の文法を学ぶために、文法についてノートにまとめる 4.0 2.5 4.379**
8) スペイン語の文法を学ぶために、日本語や他の言語の文法と結びつける 3.6 2.8 2.403*
【スピーキング】
9) スペイン語の日常よく使う表現や基本的な構文を声に出して覚える 3.7 3.3
10) スペイン語ネイティブ話者と話す 3.0 2.0 3.084**
11) スペイン語の会話表現や決まり文句を覚えて使う 3.7 3.2 2.144*
12) 自分の話すスペイン語を、ネイティブ話者に直してもらう 2.4 2.0
【ライティング】
13) 定期的にスペイン語を書いて、添削してもらう 2.2 2.2 14) メモやメッセージをスペイン語で書く 2.2 1.8 15) スペイン語で正しい文を書くために、たくさんの良い文を読むようにする 2.3 1.8 16) スペイン語で日記を定期的につける 1.3 1.3
【リスニング】
17) テープやCDを繰り返し聞き、スペイン語を細部まで理解しようとする 2.6 2.0 18) テープやCDを繰り返し聞き、ディクテーション(書き取り)練習をしてみる 2.4 2.1
19) ネイティブの先生のスペイン語を集中して聞く 4.0 3.1 3.486**
20) スペイン語を聞くとき、内容の大体の流れを理解するように聞く 3.7 3.0 2.359*
【リーディング】
21) スペイン語の文を読むとき、知らない語を調べる前に、意味を大まかに取る 3.3 2.9 22) スペイン語の文を読むとき、意味のわからない部分は文脈から推測する 3.6 3.3
23) スペイン語の文を読むとき、何度も声に出して読んでみる 3.2 2.3 3.056**
24) スペイン語の文を読むとき、文法知識を利用して、分析しながら読む 3.5 2.2 5.072**
【メタ認知】
25) いろいろな方法を見つけてスペイン語を使うように心がける 3.5 2.9 2.215*
26) 自分のスペイン語の間違いに気づき、そこから学んで上達しようと努力する 3.6 3.1 2.112*
27) スケジュールを立てスペイン語の学習に十分時間をあてる 3.1 2.0 3.876**
28) できるだけスペイン語に接する機会を持つ 3.5 2.7 2.297*
29) スペイン語の力を高めるための明確な目標がある 3.3 2.5 2.450*
30) 自分のスペイン語学習の進歩について自己評価をする 2.9 2.4 平均 3.1 2.6
**p< .01 *p< .05
5.1.4 使用するスペイン語学習ストラテジーの数
英語同様、スペイン語ストラテジー使用を頻度別に分類し、両群間の関係を見てみる(表 5)。「通常使用するストラテジー(3.5以上)」は上位群では14項目あるものの、下位群 ではわずか1つという結果となった。「時々使用するストラテジー(2.5以上)」を加えて みても、上位群は7割以上となるのに対し、下位群は5割強にとどまる。両群ともに少 なくとも時には、ほぼすべてのストラテジーを使うと答えていた英語とは異なり、スペイ ン語学習においては、成績上位群の方がより多くの種類のストラテジーを高頻度で用いて いるということになる。
表5 上位群・下位群の使用頻度別スペイン語学習ストラテジー項目数
上位群 下位群
常にあるいはほとんど常に使うストラテジー(4.5~5.0)の数 0 (0%) 0 (0%)
通常使用するストラテジー(3.5~4.4)の数 14 (47%) 1 (3%)
時々使用するストラテジー(2.5~3.4)の数 9 (30%) 16 (53%)
一般的には使わないストラテジー(1.5~2.4)の数 6 (20%) 12 (40%)
一度も、あるいはほとんど使わないストラテジー(1.0~1.4)の数 1 (3%) 1 (3%)
5.2 英語学習ストラテジーとスペイン語学習ストラテジーの相関
本調査対象者においては、英語を学ぶときには提示されたストラテジーいくつかを除き、
普段、または時にそれらを使用すると答えている。一方スペイン語学習になると、成績上 位群と下位群の差が開き、下位群に関しては各ストラテジー平均値も、「使用する」と回答 するストラテジー項目数も減少する。すなわち上位群は、英語学習時に使っているストラ テジーを、効果的だと思えばスペイン語学習にも適用させているが、下位群は、英語でな んらかの自分にあったストラテジーを見つけている可能性はあっても、それをスペイン語 には応用していない、という関係性が予測される。そこで英語の学習時とスペイン語学習 時では、使用するストラテジーに関連が見られるのか、相関分析を用いて調べることにし た。各スキル別のストラテジー(単語、文法、スピーキング、ライティング、リスニング、
リーディング)とメタ認知ストラテジーの、それぞれを構成する項目の合計点を算出し、
上位群、下位群における英語・スペイン語のストラテジー間の相関係数を求めた。分析結 果は表6のとおりである。
上位群では、文法、リスニング、リーディングに関するストラテジーに0.1%水準で強 い相関が、またスピーキング、ライティングについては1%で、単語を覚えるときの方略、
メタ認知ストラテジーにも5%水準で相関が認められた。一方下位群では、1%水準で相関 関係が見られたのはメタ認知ストラテジーのみであり、ライティング、リーディングにつ
いて5%で有意な係数が得られたものの、メタ認知ストラテジーを除いてはすべてにおい て上位群の方が係数が大きい。英語とスペイン語の学習時のストラテジーの相関関係は、
スペイン語力の高い学生グループの方がより強いという結果である。つまり上位群は、英 語学習時に実際に試しているストラテジー、または使ったことのあるストラテジーを、ス ペイン語学習においても実践している可能性がある。また反対に、英語を学ぶ際にあまり 使用しないストラテジーは、スペイン語でも使わないとも言える。下位群の方は、英語と スペイン語の学習方略間の関係が弱く、別々の科目として取り組んでいると推察できる。
下位群の結果の中で唯一1%水準で有意な係数が得られたのはメタ認知ストラテジー得点 であったが、前述のとおり、メタ認知ストラテジーの平均値は下位群の方が低いことから も、自らの学習を客観的に見つめ、計画したりモニターするという経験が、英語学習にお いて少なければスペイン語学習でも少ない、という下位群の傾向が読み取れる。
表6 英語とスペイン語の学習ストラテジー間の相関分析
上位群 下位群 スキル別ストラテジー
単語 .485* .207
文法 .731*** .255
スピーキング .648** .429 ライティング .593** .522*
リスニング .791*** .362 リーディング .663*** .494*
メタ認知ストラテジー .496* .634**
***p< .001 **p< .01 *p< .05
6 .結論
本調査では、スペイン語専攻の初級学習者のうち、スペイン語成績上位群は下位群に比 べ、どのようなストラテジーを多く使用しているのか、また英語の学習方略をスペイン語 学習時にも利用しているといえるかどうかを調べた。各項目の平均値の差の検定結果から は、上位・下位群間で有意差の認められた項目数は、英語では30項目中5項目のみであっ たものの、スペイン語学習については半数の15項目に差が現れた。メタ認知ストラテジー に関しては、英語でもスペイン語でも有意な差が検出され、成績上位群ほどメタ認知スト ラテジーをよく使うという傾向が見られた。
また、上位群の英・西両言語ストラテジー相関係数は高く、上位群は英語学習ストラテ ジーを、スペイン語学習においても試している可能性が示唆された。それに対し下位群の 相関が弱いということは、下位グループの学習者は英語では通常または時々、なんらかの 練習方法を試しているものの、それをスペイン語学習時に応用しようとは試みず、英語と
スペイン語学習をうまく関連させずに学んでいると推察できる。
7.問題点と今後の課題
まず質問紙の問題がある。スペイン語初級学習者に合うように調査者自らが作成したも のを使用しているため、項目数も限られている。また被験者数も、統計的手法を用いて行 う研究としては少ない。今後は被験者数を増やし、質問紙の改良を試みることはもちろん、
学習者の学習記録を分析するなどの方法も視野に入れ、優れたスペイン語学習者の特徴を より明確にしていきたい。
上記の問題はあるものの、優れた外国語学習者は、最初に接した外国語の学習法を、次 に挑戦する外国語学習にも役立てようとしているという傾向は見られた。スペイン語のよ うな二つ目の新しい外国語を学ぶときに、かつて使用していたストラテジーを思い出させ る、気付かせる、新たなストラテジーを紹介する、といった方法を授業に取り入れ、自分 にあった学習ストラテジーを上手に使うことのできる学習者を育てることが、自律した学 習者を育てることにつながると考える。またそのような自分の学習をコントロールできる 自律した学習者を育てるためにも、学習プロセスをコントロールするメタ認知ストラテ ジーの重要性を考えていきたい。
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