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東京医科大学病院渡航者医療センター,

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(1)

日本からの海外渡航者のデング熱とジカウイルス感染症の 知識に関する調査

1)

東京医科大学病院渡航者医療センター,

2)

京都大学大学院総合生存学館

栗田 直

1)

多田 有希

1)

福島 慎二

1)

吉川みな子

2)

濱田 篤郎

1)

(平成 30 年 2 月 20 日受付)

(平成 30 年 9 月 21 日受理)

Key words : dengue fever, Zika virus infection

海外渡航者にデング熱とジカウイルス感染症に関する適切な情報提供を行うことを目的に,半年以内に発 展途上国に滞在予定のある日本からの渡航者を対象に知識状況に関するインターネット調査を実施した.対 象者のうち 8 割以上が,デング熱やジカウイルス感染症を聞いたことがあると回答し,「蚊が媒介すること」

を知っていたのはデング熱で 82.8%,ジカウイルス感染症で 59.2% だった.一方,「媒介蚊は昼間に吸血す ること」を知っていたのはデング熱で 20.0%,ジカウイルス感染症で 14.2% と少なかった.また,ジカウ イルス感染症が「性行為で感染すること」を知っている者は 13.2%,「妊婦が感染すると胎児の健康に影響 を及ぼすこと」は 23.8% といずれも少なかった.

デング熱やジカウイルス感染症を媒介する蚊が昼間吸血するという知識は,海外渡航者が予防対策を実施 するために重要であり,ジカウイルス感染症が性行為で感染することや,胎児の健康に影響することも含め,

今後,日本からの海外渡航者にこれらの情報を提供していく必要がある.

〔感染症誌 92:863〜868,2018〕

発展途上国への海外渡航者にとって,蚊媒介感染症 はリスクの高い健康問題の一つである.とくに,デン グ熱やジカウイルス感染症は,患者数が多いだけでな く,東南アジアや南太平洋など日本人渡航者の多い地 域で流行しているため,渡航者が予防対策を実施する ための十分な情報提供が求められている.

デング熱は 2014 年に国内流行が発生し,この時に 多くの情報が国民に提供された.しかし,その後も海 外の流行地域で感染する日本からの渡航者は多く,

2016 年の輸入デング熱症例は 343 例と,2000 年以降 の統計で最多を記録した

1)

.一方,ジカウイルス感染 症は,2016 年に中南米で流行が拡大して以降,国民 への情報提供が本格的に始まった

2)

.その後,妊婦が 感染すると胎児に小頭症などの健康問題をおこすこと

や,東南アジアでも患者が発生していることが判明し た

3)4)

.日本では,ジカウイルス感染症が感染症法の 4 類に指定された 2016 年 2 月から 2018 年第 14 週まで に,輸入症例が 17 例報告されている

5)

我々は,日本から流行地域への渡航者にホームペー ジなどを用いて蚊媒介感染症の予防に必要な情報提供 を行っている.今回は日本からの海外渡航者のデング 熱とジカウイルス感染症の知識状況を明らかにし,よ りよい情報を提供するため,海外渡航を予定している 者を対象にインターネットによるアンケート調査を 行った.

対象と方法

1.調査対象

本調査は,インターネット調査会社である楽天リ サーチ社に調査を依頼した.同社の 20〜69 歳の調査 モニター(約 25 万人)を対象に,「半年以内に発展途 上国への渡航を予定している者」を条件として,イン ターネット上のアンケートへ無記名回答を依頼した.

調査モニターは,このアンケートに回答することで調

別刷請求先:(〒160―0023)東京都新宿区西新宿 6 丁目 7 番 1 号

東京医科大学病院渡航者医療センター 栗田 直

(2)

Table 1 Travel characteristics (n=500)

Area East Asia (China, Korea etc.) 248 (49.6%)

South East Asia (Thailand, Vietnam etc.) 221 (44.2%) South Asia (India, Sri Lanka etc.)   22 (4.4%) Middle East (UAE, Turkey etc.)     8 (1.6%) Africa (Egypt, Kenya etc.)     8 (1.6%)

Russia・Eastern Europe   13 (2.6%)

Latin America   10 (2.0%)

South Pacific (Guam, Tahiti etc.)   32 (6.4%)

Others     3 (0.6%)

Purpose Tourism 394 (78.8%)

Business   71 (14.2%)

Visiting family and relatives   27 (5.4%)

Volunteer work     4 (0.8%)

Study     1 (0.2%)

Others     2 (0.4%)

Length of stay ≦7 days 383 (76.6%)

8−14 days   77 (15.4%)

15−30 days   18 (3.6%)

1−6 months   15 (3.0%)

≧ 6 months     7 (1.4%)

査会社から一定の謝礼を受けている.発展途上国とは,

東アジア,東南アジア,南アジア,中南米,中東,ア フリカ,ロシア・東欧,南太平洋の国々とした.最終 回答人数は 500 人とし,20 歳代〜60 歳代までの各年 代が 100 人(男性 50 人,女性 50 人)になるように回 答者を募集した.この目標に達するまでの調査期間は,

2017 年 8 月 24 日〜26 日だった.なお,対象者の居住 地は東京(109 人),神奈川(46 人),大阪(47 人)な ど大都市のある都道府県が多かった.

2.調査内容

アンケートの質問数は 10 問で,「渡航状況」(地域 目的,期間)が 3 問,「渡航先の感染症情報の入手状 況」が 1 問,「ワクチン接種状況」が 1 問,「デング熱 に関する知識」が 1 問,「ジカウイルス感染症に関す る知識」が 1 問,「日本国内で日常的に行っている蚊 の対策状況」が 1 問,「旅行保険への加入状況」が 1 問,「医薬品の携帯状況」が 1 問である.今回は感染 症に関する質問の解析を目的としたことから,旅行保 険と携帯医薬品の質問を除く 8 問の結果に関して報告 する.

3.倫理的配慮

本調査は,事前に東京医科大学病院の倫理委員会で 調査内容の審査をうけ,承認を得た(No2017-093).

アンケートには本調査が「海外渡航者の蚊媒介感染症 に関する知識調査」であること,調査結果は海外渡航 者の健康管理対策に活用するとともに,医療関係の学 会等で発表する予定があることを明記し,回答者から アンケート協力への同意を得た上で実施した.なお,

本調査はインターネット調査会社に委託して行われて

おり,我々は個人情報を特定できない集計データのみ を扱った.

4.統計解析

調査データは CSV 形式のローデータを集計ツール

(楽クロス)にアップロードし,集計・解析を行った.

デング熱とジカウイルス感染症の知識状況の質問に関 しては,東アジア渡航予定者と東南アジア渡航予定者 を別個集計したが,この結果はカイ二乗検定を用いて 比較し,p<0.05 を有意と判定した.

1.対象者の渡航状況

対象者は全て半年以内に発展途上国への渡航を予定 している者である.渡航予定地域(複数回答可)は東 アジアが 248 人(49.6%)で最も多く,東南アジアが 221 人(44.2%)と 続 き,中 南 米 は 10 人(2.0%)と 少 な か っ た(Table 1).渡 航 目 的 は 観 光 が 394 人

(78.8%)で最も多く,仕事が 71 人(14.2%)と続い た.滞在予定期間は,7 日間以内が 383 人(76.6%),

8〜14 日間が 77 人(15.4%)と短期滞在者が多かった.

2.渡航前の感染症対策

今回の海外渡航にあたり渡航先の感染症情報を「入 手した者」は 21 人(4.2%),「入手予定の者」は 184 人(36.8%)だ っ た(Table 2−1).こ の 2 つ を 選 択 した者に感染症情報の入手元を質問したところ(複数 回 答 可),「イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の サ イ ト」が 185 人

(90.2%)と最も多く,「旅行会社」が 73 人(35.6%),

「医 療 機 関」が 12 人(5.9%)だ っ た(Table 2−2).

また,今回の海外渡航のために予防接種を受けたかを

質問したところ,「接種済み」が 13 人(2.6%),「接

(3)

Table 2 Preventive measures for infectious diseases of travelers before their travels 2−1.

Did you obtain information on infectious diseases for  your travel? (n=500)

Obtained information   21 (4.2%) Planning to obtain information 184 (36.8%) Did not obtain information 194 (38.8%)

Unknown 101 (20.2%)

2−2.

To those who answered ʼObtainedʼ or ʼPlanning to ob- tainʼ in 2-1, where did you get the information from? 

(n=205)

Internet 185 (90.2%)

Travel agency   73 (35.6%)

Company   18 (8.8%)

Hospital or clinic   12 (5.9%) Books or brochures   17 (8.3%)

Others     7 (3.4%)

2−3.

Have you received any vaccinations for this overseas  travel? (n=500)

Vaccinated   13 (2.6%)

Will be vaccinated   57 (11.4%) Will not be vaccinated 366 (73.2%)

Unknown   64 (12.8%)

Table 3 Travelersʼ knowledge about dengue fever Total

n=500

20ʼs n=100

30ʼs n=100

40ʼs n=100

50ʼs n=100

60ʼs n=100

People who have heard of dengue fever 449 (89.8%) 86 87 91 91 94

People  who  have  knowledge  that  dengue  fever  is  transmitted  by  mosquitos

414 (82.8%) 74 80 85 85 90

People who have knowledge the mosquitos bite during the daytime 100 (20.0%) 17 22 25 20 16 People  who  have  knowledge  that  dengue  fever  is  endemic  in  Asia 

and Latin America 228 (45.6%) 42 45 50 45 46

People who have knowledge that bleeding can occur in severe cases  of dengue fever

161 (32.2%) 28 24 30 39 40

People who have knowledge that a vaccine against dengue fever was  developed

  70 (14.0%) 13 12 14 16 15

種 予 定」が 57 人(11.4%),「接 種 し な い」が 366 人

(73.2%)と,受けない者が 7 割以上を占めた(Table 2−3).

3.デング熱に関する知識状況

対象者のうち「デング熱という病名を聞いたことが ある」と答えた者は 449 人(89.8%)だった(Table 3).以下の質問は,デング熱に関する情報を提示し,

それを知っている場合にチェックを入れてもらった.

「蚊が媒介する」を知っていたのは 414 人(82.8%)だっ たが,「媒介蚊は昼間に吸血する」を知っていたのは 100 人(20.0%)と少なかった.

「アジアや中南米で流行している」を知っていたの は 228 人(45.6%),「重症になると出血をおこす」は 161 人(32.2%),「ワ ク チ ン が 開 発 さ れ た」は 70 人

(14.0%)だった.年代別では,全ての質問に関して,

40〜60 歳代の方が 20〜30 歳代に比べて,知っている 者がやや多い傾向だった.

この項目に関しては,今回の回答者の大多数を占め る東アジアと東南アジアへの渡航予定者を比較した.

東アジア(中国や韓国など)への渡航予定者は 248 人 で,東南アジア(タイ・ベトナムなど)への渡航予定 者は 221 人だった.「デング熱という病名を聞いたこ

とがある」と答えた者は東アジアで 216 人(87.1%),

東南アジアで 206 人(93.2%)だった(東アジアと東 南アジアの差:p<0.05).「蚊が媒介する」を知って いたのは東アジアで 198 人(79.8%),東南アジアで 192 人(86.9%)(p>0.05),「媒介蚊は昼間に吸血する」を 知っていたのは東アジアで 39 人(15.7%),東南アジ アで 58 人(26.2%)(p<0.01),「アジアや中南米で流 行 し て い る」を 知 っ て い た の は 東 ア ジ ア で 97 人

(39.1%),東南アジアで 126 人(57.0%)(p<0.01)だっ た.「重症になると出血をおこす」は東アジアで 72 人

(29.0%),東南アジアで 83 人(37.6%)(p>0.05), 「ワ クチンが開発された」は東アジアでは 24 人(9.7%),

東南アジアで 42 人(19.0%)(p<0.01)だった.この ように,デング熱に関する全ての質問で,東アジア渡 航予定者より東南アジア渡航予定者の方が,知ってい ると回答した者の割合が多く,ほとんどの質問で統計 学上有意な差がみられた.

4.ジカウイルス感染症に関する知識状況

対象者のうち「ジカ熱という病名を聞いたことがあ る」と答えた者は 427 人(85.4%)だった(Table 4).

以下の質問は,ジカウイルス感染症に関する情報を提

示し,それを知っている場合にチェックを入れても

(4)

Table 4 Travelersʼ knowledge about Zika virus infection Total

n=500

20ʼs n=100

30ʼs n=100

40ʼs n=100

50ʼs n=100

60ʼs n=100

People who have heard of Zika virus infection 427 (85.4%) 83 83 86 89 86

People who have knowledge that Zika virus infection is transmitted  by mosquitos

296 (59.2%) 54 58 59 67 58

People who have knowledge the mosquitos bite during the daytime   71 (14.2%) 13 13 17 15 13 People  who  have  knowledge  that  Zika  virus  infection  is  endemic  in 

Asia and Latin America 169 (33.8%) 35 34 35 32 33

People who have knowledge that Zika virus infection can be sexually  transmitted

  66 (13.2%) 16 13 16 14   7

People  who  have  knowledge  that  if  a  pregnant  woman  is  infected  with Zika virus, the fetus may be affected

119 (23.8%) 23 21 34 25 16

らった.「蚊が媒介する」を 知 っ て い た の は 296 人

(59.2%)で,デング熱に比べて少なかった.また, 「媒 介 蚊 は 昼 間 に 吸 血 す る」を 知 っ て い た の は 71 人

(14.2%)で,デング熱と同様に少ない結果だった. 「ア ジアや中南米で流行している」を知っていたのは 169 人(33.8%),「性行為でも感染」は 66 人(13.2%),「妊 婦が感染すると胎児の健康に影響を及ぼす」は 119 人

(23.8%)といずれも少なかった.年代別では,多くの 質問に関して大きな差は見られなかった.

この項目に関しても,デング熱と同様に回答者の大 多数を占める東アジアへの渡航者 248 人と東南アジア への渡航者 221 人を比較した.「ジカ熱という病名を 聞いたことがある」と答えた者は東アジアで 207 人

(83.5%),東南アジアで 193 人(87.3%)(東アジアと 東南アジアの差:p>0.05)だった.「蚊が媒介する」

を知っていたのは東アジアで 141 人(56.9%),東南ア ジアで 143 人(64.7%)(p>0.05),「媒介蚊は昼間に 吸 血 す る」を 知 っ て い た の は 東 ア ジ ア で 30 人

(12.1%),東南アジアで 45 人(20.4%)(p<0.05)だっ た.さらに,「アジアや中南米で流行している」を知っ ていたのは東アジアで 72 人(29.0%),東南アジアで 90 人(40.7%)(p<0.01)だった.「性行為で感 染 す る」は東アジアで 27 人(10.9%),東 南 ア ジ ア で 40 人(18.1%)(p<0.05),「妊婦が感染すると胎児の健 康に影響を及ぼす」は東アジアで 47 人(19.0%),東 南アジアで 61 人(27.6%)(p<0.05)だった.このよ うに,ジカウイルス感染症に関しても,デング熱と同 様,東アジア渡航予定者より東南アジア渡航予定者の 方が,全ての質問で知っていると回答した者の割合が 多く,ほとんどの質問で統計学上有意な差がみられた.

5.日常的に行っている蚊の対策

調査対象者が日常的に行っている蚊の対策を複数選 択可で質問した.この結果,「防虫スプレー(昆虫忌 避剤)を使用する」と回答した者が 298 人(59.6%)と 最も多く,「窓に網戸を張る」は 252 人(50.4%),「蚊 取り線香や殺虫剤を使用する」は 241 人(48.2%),「皮

膚を露出しない」は 168 人(33.6%)と続いた.「蚊を 増やさない対策を行っている」と回答した者は 94 人

(18.8%)と少なかった.

我々は厚生労働省の「新型インフルエンザ等新興・

再興感染症研究事業」の一環として,2011 年から海 外 渡 航 者 向 け の ホ ー ム ペ ー ジ「海 外 旅 行 と 病 気」

(http://www.tra-dis.org/index.html)を開設し,蚊 媒介感染症の予防対策を中心とした情報提供を行って いる.この研究事業は 2016 年から日本医療研究開発 機構に引き継がれており,ホームページには毎月 1 万〜2 万件のアクセスがある.このホームページを開 設した当初は,蚊媒介感染症の中でもデング熱を中心 に情報提供を行っていたが,2016 年からは中南米や 東南アジアで流行が拡大しているジカウイルス感染症 の予防対策についても情報提供を開始した.今回の調 査は,こうしたホームページなどで海外渡航者に適切 な情報を提供するために実施した.

調査対象者の 9 割以上はアジア地域への渡航予定者 で,観光を目的とした短期滞在者が大多数を占めた.

渡航先の感染症情報を入手している者は 4.2% と少な く,入手する予定の者と合わせても約 4 割だった.ま た,今回の渡航にあたり予防接種を「接種済み」か「接 種予定」の者は 14.0% と少なかった.このように,今 回の調査対象とした集団は,発展途上国に渡航を予定 しているものの,感染症対策への関心があまり高くな い集団と考えられる.

この集団において,デング熱やジカウイルス感染症 について「聞いたことがある」と回答した者は,8 割 を超えていた.これらの感染症が蚊に媒介されること を知っている者も,デング熱で 82.8%,ジカウイルス 感染症で 59.2% と多かったが,媒介蚊が昼間吸血して 感染をおこすことを知って い る 者 は,デ ン グ 熱 で 20.0%,ジカウイルス感染症で 14.2% と少なかった.

この知識は,予防対策を実施する時間帯に直接関係す

るものであり,流行地域への渡航者に十分周知させる

(5)

必要がある.

我々は 2014 年にデング熱の国内流行が発生した直 後,一般国民を対象にデング熱の知識レベルについて のインターネットによる調査を行っている

6)

.この調 査は,今回と同様にインターネット調査会社のモニ ターを対象にデング熱に関するクイズを出題し,その 正解率を算出したものである.感染経路の正解率は 8 割だったが,媒介蚊が昼間吸血することについての正 解率は 5 割以下と低かった.日本ではイエカなど夜間 に吸血する蚊のイメージが強く,デング熱やジカウイ ルス感染症を媒介するヤブカの習性(昼間に吸血する)

が理解しにくい傾向にある.今回の調査でも,「日常 的に行っている蚊の対策」として,「窓に網戸を張る」

や「蚊取り線香や殺虫剤の使用」といった夜間中心の 蚊の対策が多かった.今後はそれぞれの蚊の習性を比 較する表などを提示して,吸血時間に関する情報提供 を行うことが必要と考える.

今回の調査ではデング熱の流行地域や症状に関する 知識レベルも低かった.こうした情報は以前からホー ムページなどで提供しているが,海外渡航者に直接伝 わっていない可能性があり,提供方法の改善を検討し ていきたい.なお,デング熱ワクチンの開発状況に関 する知識レベルはさらに低かった.デング熱ワクチン としてはサノフィ社の製剤が東南アジアなどで販売さ れているが

7)

,今回の質問では開発状況の詳細までは 記載しなかった.

ジカウイルス感染症については,性行為で感染する ことを知っている者が 13.2%,胎児の健康に影響する ことを知っている者が 23.8% と少なかった.我々は 2016 年 8 月に,一般国民 1,000 人を対象に同様なイン ターネット調査を実施しているが,性行為感染を知っ ている者は 13.2%,胎児の健康に影響することを知っ ている者は 23.8% という結果だった

8)

.この時の調査 は,渡航予定の有無を問わず,一般国民を対象にした ものである.今回は途上国に渡航予定のある者が対象 で,2016 年の調査対象より高い知識レベルが求めら れる集団だったが,さらに低い知識レベルであった.

ジカウイルス感染症の知識レベルの調査は,海外の 流行地域でいくつか実施されており,流行地域の住民 の間では予防に必要な知識レベルのあることが明らか になっている

9)10)

.流行地域外の一般住民を対象にし た調査としては,米国・ニューヨークの中南米移民の 多い地域で行われたアンケート調査がある

11)

.この結 果によれば,蚊が媒介することは 9 割近くの対象者が 知っており,性行為感染も 6 割,胎児への影響も 4 割 が知っていた.こうした情報を対象者の 7 割がマスコ ミから入手していたが,日本でも行政レベルの情報提 供だけでなく,マスコミによる情報提供を促進すべき

と考える.また,米国・ワシントン DC 周辺の住民を 対象に行ったアンケート調査では,2016 年と 2017 年 のジカウイルス感染症の知識レベルを比較してい る

12)

.この調査結果によれば,2017 年は性行為感染に ついて 87%,胎児への影響について 95% の対象者が 知っており,2016 年よりも知識レベルの向上がみら れていた.この調査では対象者の一部に医療機関の受 診者など医療への関心の高い者が含まれており,単純 に我々のデータと比較はできないが,我々の結果とは 大きな違いがある.今後,米国 CDC などで行われて いる一般住民向けの情報提供方法なども参考にして,

日本からの海外渡航者向けにジカウイルス感染症の知 識向上を図っていきたい.とくにジカウイルス感染症 の予防対策については若い世代への情報提供が重要で あり,Social Network Service(SNS)の活用や,動 画やアニメなどの映像による情報提供を検討したい.

今回の調査対象者の渡航予定地域としては東アジア が半数近くを占めていた.この地域はデング熱,ジカ ウイルス感染症の感染リスクが低く,今回の調査で知 識レベルが低かったことの一因とも考えられる.デン グ熱とジカウイルス感染症の知識状況に関する質問の 回答を,東アジアと東南アジア渡航予定者で比較した ところ,やはり,東アジア渡航予定者の方が,全ての 質問で知っていると回答した者は少なかった.しかし,

東南アジア渡航予定者だけを見ても,重要な知識レベ ルは低い結果だった.

なお,今回の調査対象者はインターネット調査会社 の調査モニターであり,この結果を一般的な海外渡航 者の知識状況として直接捉えることは難しい.また,

インターネット調査が医学研究において十分に普及し ていないことから,今後は,別の対象や手法を用いた 調査を実施することで,より詳細な海外渡航者の知識 状況を明らかにしていきたい.

謝辞:本研究は平成 29 年度の日本医療研究開発機

構 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推 進研究事業「国内侵入・流行発生が危惧される昆虫媒 介性ウイルス感染症に対する総合的対策に資する開発 研究」の助成を受けたものである.

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文 献

1)国立感染症研究所:日本の輸入デング熱症例の 動向について,2018年

4

16

日更新版.Avail-

able from:https://www.niid.go.jp/niid/images/

epi/dengue/PDF/dengue̲imported201804.pdf

2)Zika virus WHO Fact sheetUpdated 6 Septem-

ber 2016. Available from : http://www.who.int/

mediacentre/factsheets/zika/en/

3)Rasmussen SA, Jamieson DJ, Honein MA, Pe-

tersen LR:Zika virus and birth defects―Re-

(6)

viewing the evidence for causality. N Engl J Med 2016;374:1981―7.

4)Singapore Zika Study Group:Outbreak of Zika

virus infection in Singapore : an epidemological, entomological, virological, and clinical analysis.

The Lancet Infect Dis 2017;17(8):813―21.

5)国 立 感 染 症 研 究 所 感 染 症 発 生 動 向 調 査 週 報

IDWR

速 報 デ ー タ

2018

年 第

14

週.Available

from:https://www.niid.go.jp/niid/ja/data.html

6)多田有希,梅村聖子,日暮浩美,濱田篤郎:日

本国民を対象としたデング熱の対策状況と知識 レベルに関する調査.日本渡航医学会誌

2015;

9(1):16―9.

7)World Health Organization:Dengue vaccine :

WHO position paper. Weekly Epidemiol. Rec 2016;91:349―64.

8)濱田篤郎,多田有希,栗田 直,福島慎二,吉 川みな子:日本国民のジカウイルス感染症の知 識に関する調査.病原微生物検出情報

2017;

38:21―2.

9)Boeges ALV, Moreau C, Burke A, Dos Santos

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10)Prue CE, Roth JN Jr, Garcia WA, Yoos A, Cam-

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2017/6350602/

Level of Knowledge Regarding Dengue Fever and Zika Virus Infection Among the Japanese Travellers Nao KURITA

1)

, Yuki TADA

1)

, Shinji FUKUSHIMA

1)

, Minako YOSHIKAWA

2)

& Atsuo HAMADA

1)

1)

TravellersʼMedical Center, Tokyo Medical University Hospital,

2)

Center for the Promotion of Education and Re- search, Kyoto University

To provide correct information about dengue fever and Zika virus infection to Japanese overseas travel- ers, we analyzed the knowledge that people have regarding dengue fever and Zika virus infection. For this purpose, we asked Japanese people (n:500) who were planning to travel to a developing country in the next 6 months to complete a questionnaire on the internet.

From the results of the survey, we found that more than 80% of subjects had heard about dengue fever and Zika virus infection. Of these subjects, those who knew that the diseases were ʻtransmitted by mosqui- tosʼ were 82.8% for dengue fever, and 59.2% for Zika virus infection.

On the other hand, the fact that ʻThe mosquitos bite during the daytimeʼ was known by only 20% of subjects regarding dengue fever, and 14% regarding Zika virus infection, which were very low percentages.

In addition, subjects who knew that ʻZika virus can be sexually transmittedʼ comprised 13.2% of the to- tal, and ʻZika virus may affect the fetusʼ comprised 23.8%. These were also very low percentages.

The information that mosquitos that mediate dengue fever and Zika virus infection bite during the day-

time will be important for overseas travelers, to implement preventive measures. In the future, it is neces-

sary to provide the correct information to Japanese travelers, including information on the sexual transmis-

sion of Zika virus and its effects on the fetus.

Table 1 Travel characteristics (n=500) Area East Asia (China, Korea etc.) 248 (49.6%) South East Asia (Thailand, Vietnam etc.) 221 (44.2%) South Asia (India, Sri Lanka etc.)   22 (4.4%) Middle East (UAE, Turkey etc.)     8 (1.6%) Africa (Egypt, Kenya etc.)
Table 2 Preventive measures for infectious diseases of travelers before their travels 2−1
Table 4 Travelersʼ knowledge about Zika virus infection Total n=500 20ʼs n=100 30ʼs n=100 40ʼs n=100 50ʼs n=100 60ʼs n=100 People who have heard of Zika virus infection 427 (85.4%) 83 83 86 89 86 People who have knowledge that Zika virus infection is trans

参照

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