コンクリート中の気泡の空間構造の点過程としての 評価に関する研究
著者 古東 秀文
著者別表示 Koto Hidefumi
雑誌名 博士論文要旨Abstract
学位授与番号 13301甲第4489号
学位名 博士(工学)
学位授与年月日 2016‑09‑26
URL http://hdl.handle.net/2297/46596
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
要旨
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博 士 論 文
コンクリート中の気泡の空間構造の
点過程としての評価に関する研究
Evaluation of spatial structure of air voids in concrete by point process statistics
論 文 要 旨
金沢大学大学院
自然科学研究科 環境デザイン学専攻
古東 秀文
要旨
2 Abstract
Spacing factors of air void are important parameters to determine frost resistance of concretes. However, the procedure to measure the factors are very time-consuming.
In this study, aiming at establishing a simple way to estimate the spacing factor, the spatial point process theory was applied to cement pastes, mortars and concretes.
The nearest neighbor distance function was calculated for the point process. The median distance determined by the function was proposed as a characteristic average distance between air voids. The median distance in a point process was compared with the conventional spacing factor. The median distances between air voids in real concretes had strong correlation with the spacing factors. Thus, conversion of air-void systems to point processes is useful for evaluating actual spatial arrangement of air voids. The point process function enables to estimate the spacing factor easily.
1. 序論
コンクリートに耐凍害性を要求するとき,一般的には JIS A1128 に規定される方法 で空気量を測定し,空気総量が 4~6%程度存在する場合,耐凍害性を有していると考 えている.しかし,耐凍害性は単純に空気量だけで決定されるわけではなく,気泡の分 布,気泡間の距離,気泡の大きさおよび気泡の数等,気泡の空間分布構造とも密接に関 わっている.凍害を発生した構造物との間に相関性が認められている気泡の空間構造の パラメーターとして気泡間隔係数がある.気泡間隔係数は,1949 年Powers により提 案された気泡間距離に関する特性値であり,セメントペースト内に存在する気泡構造に 対し,同一寸法の気泡球体を同じ大きさの立方体格子に配置したとき,立方体の対角線 の1/2の長さから気泡の半径を引いた距離として仮定された距離である.この気泡間隔 係数の測定方法はASTM C457に規定されているが,その測定には多大な労力を必要と し,日常的な検査方法としては適切とは言い難い.
本研究では,気泡構造の定量的な評価を行うために画像解析を用い,画像から得られ た幾何学的特徴を統計的に処理することにより,空間構造の特性値を得ることを目的と している.この空間構造を統計的に評価するにはいくつもの手法があるが,本研究では コンクリートに含まれている気泡を点に置換し,点過程として空間分布構造の特性値を 得ることとした.また,実際にコンクリート供試体を用いて,スケーリング試験を行い,
点過程により得られた特性値と耐凍害性との相関を確認した.
要旨
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表-1 コンクリートの名称,示方配合および得られたフレッシュ特性 2. 実験概要
本研究で用いた供試体は,セメントペースト,モルタルおよびコンクリートである.
代表としてコンクリートの配合を,表-1に示す.
表-1に示した供試体について,点過程統計量を用いた画像解析を行なった.RGB解 析により骨材相,セメントペースト相および気泡をそれぞれ異なる色で表示した画像 (図-1(d))を作成し,骨材抽出やセメントペーストマトリックス相の抽出を行なった.
気泡の2値画像は,一般的に用いられている断面の黒色処理と微細白色粉末を充填する 方法を用いて取得した(図-1(f)).
図-1 RGB 情報抽出による骨材分離と白色粉を用いた気泡の抽出例(コンクリート)
要旨
4 3. ステレオロジーと空間統計量の概要
セメントペースト,モルタルおよびコンクリート供試体のそれぞれにおいて気泡の画 像を取得し,2次元断面の情報から,3次元における気泡の特徴量を推定するために,
ステレオロジーの考えを用いた.
初めに気泡の重心点座標を求め,気泡をその重心に位置する点に置き換え,画像内に 存在する点の分布パターンや距離に関する特徴を点過程理論に基づき評価した.本研究 にて用いた基本的な点過程統計量を以下に示す.
3.1 点密度
単位面積当たりの気泡数として点密度λを式(1)のように求めた.
λ=N(W)A(W) (1)
ここに,N(W):点の個数,A(W):領域面積となる.
3.2 K 関数および L 関数
K関数は,観察視野に分布している点x̅i=(i=1, ⋯n)について,距離rを変数として,
点の分布パターンを定量評価する関数である.式(2)にその関数を示す K(r)= 1
λ2∑ 1(|xi−xj|≤r)
i≠j s(x) (2) K(r)=πr2 (完全ランダム分布の時のK関数)
ここに,1( )は( )が真であるときに1,偽のときは0を返す指示関数である.また,s(x)は エッジ補正を表す.
K 関数のグラフを直線表示へ変換した関数としてL関数がある.L 関数は式(3)のよ うに示される.
L(r)= √K(r) π⁄ (3)
L(r)=r (完全ランダム分布のときのL関数)
3.3 最近傍距離関数(G 関数)
最近傍距離関数は点過程の点から距離 r 離れた位置に最近傍点を見出す確率であり,
累積確率で表したものである.最近剛距離関数を式(4)に示す.
G(r)= ∑Ni=1∑1(si≤r)∙1(s1(s i≤bi)∙w(si)
i≤bi)∙w(si)
Ni=1 (4) G(r)=1−exp(−λπr2) (ランダム分布のときの最近傍距離関数)
ここに,siは最近傍距離,biは各点xiから画像縁までの最短距離である.また,w(si)はエ ッジ補正係数を表す.
要旨
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最近傍距離関数は累積確率密度関数として表されているので,これらの代表値として第 2 四分位点(メディアン)採用し,これをメディアン距離𝑅50として定義した.図-2に 最近傍距離関数でのメディアン距離の模式図を示す.
4. コンクリート中の気泡空間分布構造の定量評価 4.1 フレッシュ特性と硬化後の気泡体積率の関係
表-2 にコンクリートのフレッシュ時の特性と画像から得られた気泡特性を示す.フ レッシュ時の空気量および硬化後の気泡体積率の増加とともに気泡の点密度が増加し ている.これより,空気量の増加による気泡への影響は,主に気泡個数が増加すること に表れ,空気量と気泡の点密度の間には正の相関性が確認された.この傾向は,セメン トペーストおよびモルタルにおいても同様であった.
図-3にコンクリート中の気泡の画像解析の例を示す.気泡の2値画像からも空気量の 増加により気泡個数が増加しているのが確認できる.目視にて空気量の増加が確認でき るのは,セメントペーストおよびモルタルにおいても同様であった.
図-2 最近傍距離関数とメディアン距離の関係の模式図
表-2 コンクリートのフレッシュ特性と画像から得られた気泡特性
要旨
6 4.2 コンクリート中の気泡の空間分布特性
図-4にコンクリート中の気泡のK関数を示す.コンクリートではいずれの配合にお いてもランダム分布の上方に関数がプロットされ,凝集分布の結果となった.これは,
コンクリート中の粗骨材の影響により気泡の分布できる領域に制限が与えられたため と考えられる.モルタル供試体についても気泡の分布傾向は凝集性を示したが,コンク リートの凝集性に比べると弱いものであった.モルタル供試体では,使用されている細 骨材が粗骨材よりも小さく,また,気泡の存在しうるセメントペーストマトリックス体 積も大きいため,気泡偏在の影響が小さく,凝集性が顕著に現れなかったと考えられる.
一方,セメントペースト供試体の場合は,骨材を含有していないため気泡の分布に制限 を与える存在が無く,予想どおりランダム分布の傾向を示した.
骨材粒子の気泡の空間分布構造への影響を評価するため,ランダムに配置された点過 程から点を間引いた,いわゆる妨げられたランダム過程としての検討を行った.コンク リート供試体中の気泡の実際の空間分布と完全ランダム過程から骨材体積率に対応す る点を除去したときの空間分布の比較を行った.両者が一致した場合は,コンクリート 中の気泡は単純なランダム分布の一部が骨材により削除されただけと考えられ,骨材と 図-3 コンクリート中の気泡の画像解析の例(左から:C1-①,C1-②,C2-①,C2-②)
要旨
7 気泡の間に相互作用は存在しないことになる.
図-5に間引き過程のK関数と実際のコンクリート中の気泡のK関数を比較して示す.
図-5から,いずれの配合についても間引き過程のK関数と実際の気泡分布から求めら れる K 関数は,ほぼ一致する結果となった.この結果から,コンクリートのセメント ペースト領域に着目した場合の気泡の分布はランダム分布であり,気泡同士の相互作用 がないことになる.また,このことは,気泡を点とみなし分布を点過程としてシミュレ ーションするうえで強力な前提を与えていることにもなり,単純に行なえるランダムシ ミュレーションの妥当性を裏付けていることにもなる.
図-4 コンクリート中の気泡の K 関数
図-5 間引き過程の K 関数と実際のコンクリート中の気泡の K 関数の比較
要旨
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5. 点過程から得られる距離に関する気泡間隔特性値
Powers により提案された気泡間隔係数は,仮定された空間での気泡配置による気泡
の距離に関する特性値であるが,実際に発生する凍害との間に相関性があることから,
耐凍害性を評価するパラメーターとして用いられてきた.一方,実際の気泡を点過程と した場合に得られるメディアン距離も距離に関する特性値であるため,両者の対応につ いて検討を行った.メディアン距離から平均気泡径の1/2を差し引き,この値を気泡間 隔特性値として定義した.気泡間隔特性値L’を式(5)に示し,その概念を図-6に示す.
L'=R50−D 2⁄ (5) ここに,R50:メディアン距離,D:平均気泡径
図-7 に,セメントペースト,モルタルおよびコンクリートの供試体について式(5)か ら求めた気泡間隔特性値 L’と気泡間隔係数 L の結果を示す.エントラップトエアが多 く存在する供試体では両者の値にやや差が有るものの,エントレインドエアを含む供試 体についてはその値がほぼ一致し,直線で近似できる相関性が認められた.気泡間隔係 数の測定は容易ではないが,本研究で用いた気泡の2値画像から得られる点過程統計量 と,その相関性を利用することにより,簡便に気泡間隔係数が推定できることになる.
図-6 メディアン距離と気泡間距離特性の概念図
図-7 気泡間隔特性値 L’と気泡間隔係数 L の関係
△:エントラップトエア,○:エントレインドエア
要旨
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6. 気泡の 2 次のステレオロジー量から求める気泡間隔係数の簡便な推定方法
これまでの実験において,最近傍距離関数から得られるメディアン距離R50と,気泡 間隔係数の仮定する3 次元立方体の対角線の 1/2がほぼ等しい結果となった.図-8に 両者の位置関係を示す.ここにPはセメントペースト容積率(%),Aは硬化コンクリー トの空気量(%)である.
図-8 に示される幾何学的位置関係を利用することで,気泡間隔係数とほぼ同じ値が 得られる気泡間隔特性値を,セメントペースト面積率pと気泡の点密度λを変数とした 式(7)のように表すことができる.すなわち,気泡の距離に関する特性値Lλはセメント ペースト体積率と点密度λの関数として与えられる.
𝐿𝜆= {1−0.77λ p(0.47
√λ)
2
}0.47
√λ ≈ (0.47p−0.08) 1
p√λ (7) 図-9に式(7)から推定された気泡間隔特性値Lλと実験により得られた気泡間隔係数L との関係を示す.図-9からLλ≒Lとみなして良いと考えられる非常に良好な正の相関 性が得られた.これにより,点過程統計量の特徴量を用いて得られた式(7)を単純に計
図-8 気泡間隔係数が想定する気泡配置と R50の対応
図-9 式(7)から求めた気泡間隔係数 Lλと従来の気泡間隔係数 L の関係
要旨
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算することにより,従来用いられてきた気泡間隔係数とほぼ等しい値を算出することが 可能と考えられる.すなわち本研究にて提案したスキャナー画像を用いて気泡を抽出し,
その点密度を求めるだけで気泡間隔係数が即座に得られたことになり,耐凍害性の評価 を著しく簡便にすると期待される.
7. 結論
本研究で得られた主な結論は以下の通りである.
(1)フレッシュ時の空気量および硬化後の気泡体積率が増加すると,気泡の点密度が大 きくなる.また,2値画像からも空気量の増加による気泡個数の増加が目視にて確認 できる.
(2)各供試体の観察を領域全体とした場合,セメントペースト中の気泡はランダム分布 であり,モルタルおよびコンクリートでは,見かけ上凝集分布となる.粗骨材を配合 しているコンクリートでは,気泡の存在領域がより制限されるため強い凝集性を示し た.換言すれば,点過程を考えることにより,骨材の存在による気泡分布の変化が正 しく評価できることになる.
(3)コンクリートの気泡分布に間引き処理を適用し,セメントペーストマトリックスの みの気泡の分布構造を評価したところ,気泡の分布構造は,セメントペーストマトリ ックス内ではランダム分布であった.
(4)気泡の点過程から得られるメディアン距離から平均気泡径の 1/2 を差し引いた気泡
間隔特性値は,従来の気泡間隔係数との間に正の相関関係が認められ,両者の値がほ ぼ等しくなる結果が得られた.
(5)メディアン距離と気泡間隔係数の仮定する立方体格子の間には幾何学的に相関性が あり,その関係から従来の気泡間隔係数と同等の値が得られる気泡間隔特性値を求め る式を得ることができた.
本研究では,気泡の定量評価に点過程理論を導入し気泡の分布構造の特性および気泡 の距離に関する特徴量を取得した.その結果,気泡の空間分布構造がより定量的に評価 できるだけでなく,従来の気泡間隔係数も簡便に推定できることが明らかとなった.こ れらの方法は簡便なものであり,汎用性および実用性があると考えられる.