音声認識手法による加工状態の監視
宮 尾 芳 一
1 .
ま え が き近年 メカ トロニクスの発達に伴って
,FMS
(フレキシブル生産 システム)やFA
(ファク ト1) オー トメーシ ョン)な どのキ ャッチフレーズのもとに,生産 システムの自動化 ・無人 化が着実に実現 してきた. これ らの生産 システムにおいて,加工作業 自体はNC
装置に よっ てほ とん ど無人化 された と言 ってよい.更に無人化を進めるためには,現在作業者が行な っ ている監視 ・診断作業を もシステム化す る必要がある.全 く故障 しない機械 とい うものはあ り得ない.高度に自動化が進んだシステムにおいての故障は,従来のシステムの場合 とは比 較にな らないほど重大な損害を起 こしかねない.システムが多様化 ・複雑化 ・高速化す るに 従 って,故障の発生 も多様 ・複雑 ・高速にな り,その影響 も深刻になって くる.そ こで,故 障による損失を最小限にす るために,運転状態を常時監視す るシステムが不可欠 となる・機械加工で製品を作 り出す過程では,工具 と工作物の相対的な運動が中心的な役割を担 っ ている.そ こで, もし工具に摩耗や損傷が発生す ると製品の寸法精度や表面粗 さの劣化を も た らす ことになる.そこで現在 までの故障検出の主眼は, この工具 自身におかれ,破損の検 出を中心にした ものが多 く,積極的に研究開発が行なわれている.例えば,1)圧電素子を使 った切削抵抗の変化を用いる方法,2)電較子の負荷電流の変化を用いる方法,3)
A
E (ア コ ースティックエ ミッショ./)を用い る方法等がある. これ らの特徴は,それぞれセンサを取 付けた部分のみの状態を知覚し,他の部分か らの影響をほとんど受けないことである. した がって,監視す る部分の情報を詳 しく知 ることがで き,信頼性 も高いので,かな り実用化 さ れつつある. しか し,故障の発生は多分に偶発的なもので,監視を している部分に限 られ る 保証はない. したが って,以上のものとは別に,全体を見渡せるような監視 システムが必要 になる. このシステムに必要な条件は,1)
実時間で監視が可能である,2)
異常が発生 した場 令,瞬時に対応できる,3)
加工作業に影響を与えない,4)容易に実現できる等である.そ こ で, このような監視 システムの実現のた桝 こ機械の動作音を利用す る方法が提案 された( 1 ) .
音声信号のみな らず機械系の音は古 くか ら人間‑の情報伝達の一つとして利用 されてきた.
例えば,楼枕の運転中に発生す る音を耳で聴いて,故障の有無や故障の性質を推測 した りし た. しか しその判断は,特別な熟練者を除いては,人間の聴覚による判断は不確実 ・不正確 な ものである.そ こで本研究では,近年 ディジタル信号処理技術 と専用
LSI
の進歩に より, 市販 され るようになった音声認識装置を生産システムの監視に利用 し,種 々の条件におけ る 如工音に対す る認識実験を行なった.そ して如工状態の監視には どのような音を登録す ることが有効であるかを検討 し,本手法 の能力について調べた.
* 昭和
6 0
年3
月 昭和60
年度精機学会春季大会学術許済会において発表** 枚枕工学科 講師
原稿受付 昭和
6 0
年9
月3 0
日8
長野工業高等専門学校紀要 ・第1 6
号2 .
機 械 音 の 監 視一般に枚枕系か ら発生す る音を音声認識装置を用いて分析 ・認識す る場合には,次の
3
つ に分類 して考えるのが適当である.1)
向 転運動による様な定常音,3)間欠運動による様な周 期的に変化す る定常音,3)衝撃による様 な突発音. この うち,1)
に対 しては,ある時間間隔 に区切 って,それを一つの音 として入力する.また,3)
に対 しては,ある音圧 レベルの閥値 を設定 し,それを越えた時点か ら一定時間間隔を一つの音 とみなす.2)は,ち ょうど1)
と3)
の中間的な性質を持 ち,その周期性を うまく解釈 して認識結果を得 る必要がある.本研究で は,比較的長時間一定の状態が続 く1 )
と2)の定常的な音を対象 として検討を加えた.3.
実 験 シ ス テ ム図1に音声認識手法による加工状態監視システムを示す. まず機械系か ら発生する種 々の
図
1
加工状態監視システム固固甲・・・
捨 JE
図
2
音声認識処理の流れ基本的な音声 データを
0. 4
秒間隔に区切 り, 音声認識装置に音響パターンとして登録する.そ して,実際の加工時に発生する音響 パターンが, どの様な状態で発生したもの かを,すでに登録 してある中か ら選び,出 力す る.そ して
NC
データ等か ら予測され る音 と比較 し,加工状態が正常かどうかを 監視す る.図
2
は,音声認識処理の流れを示す. マ イクロホンより採取された音は,高域強調 等の前処理を施 した後,1 0 0 p
sごとに8
ビットのディジタル値に変換 し
, 2 5 6
サンプ ル( 2 5 . 6 ms )
ごとに高速 ウォルシュ ・アダ マール変換をされ,1 6
個のパラメータ (こ れは,2 0 0 Hz
か ら5kHz
までの1 6
個のバ ン ドバスフィルタの出力の時系列 と同じ) が登録パターンとな り,B
AM に格納され る.認識時には,動的計画法によるパター ンマ ッチングで,入力パターンと登録パタ ーンとの類似性を示す距離を算出す る.そ の距離か ら認識結果を判定 し,結果を出力 す る. もし入力パターンと最 も似ている登 録パターンとの距離が,ある値を越えた場 合には リジェク トされ る.距離の定義には, チェビシェフ距離が用い られている.また 本実験に用いた音声認識ボー ドには,最大6 2
個のパターンまで登録す ることができる.4 .
4 ‑1
本手法 による認識率立形マシニングセンタで加工中に発 生す る音を例 として,表
1
に示す様に 工具 ・主軸回転数 ・送 り速度 ・切込み 深 さ ・切削幅を変化 させ,その際の加 工音を登録パターンとした.その按, 同 じ条件の音を順次聞かせた際の認識 結果を図3
に示す.予測音響パターン 列 とは,NC
テープか ら得 られ る正常 な音響パターンの時系列である.それ に対 して音声認識装置が認識 した音響 パターンを *印で示 した. *印が図中 右下に示す様な正 しい認識 となれば, 予測 と一致 し,正常であると言える.図
3
より,認識率は約7 0 %
と良好で ある.また誤認識された場合も,同 じ 工具で少 し切削条件の異なる音 と間違 えていることがわか る.同 じ工具に よ る加工を太線で示す と,太線内は工具実 験 結 果
表1 登録バターソ
番号 工 具 主回麗‑軸数送り速度深さ 切削鹿切込み
r pm mm′ mi n mm mm
1 2 3 4
5
無 切削 送 り移動な しあ り25 25 400 65 0 0 0 0 0 30 0 0 0 0 0 0 0 0 0 ■ 0 0 0 0 0
6
正フライス面25 0 30 0 0. 2 30 7 25 0 30 0 0 2 1 1 12 3 0 8
9 正常刃
p 25 25 0 0 300 30 0 0 0 3 3 0 0 1 0 25 0 30 0 0 1 5
l
l 1 2 1 3
1 4 ( ≠1 6 25
枚刃)破損刃* 2 25 250
2 505 0 0 30 30 300 3 00 0 0 0 2 1 0 0 2 0 30 3 3 0 0 5
1 5
エ ン ドミ葉: 0 0日 : 0 . 8 0 5 0. 2
1 6
′レ5 1 . 0
1 7 ( ¢20 5 2. 0
1 8 4
枚刃)1 0 1. 0
1 9 2 0 21
2 2
ド リ /レ申l 9 卦 i 董o ;/ /
* 先端2mm 1枚破損 を正 しく識別 していることにな り,ほぼ確実に工具の違いを識別できる.
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m 川l( s l ;C)
(ien ざ一I'l青空バ ' ン)図3 予政情 響バターン列と認識音響バターン列の比較
長野工業高等専門学校紀要 ・第
1 6
号印So加
輔
C
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印40
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印明知糊
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共通集件 主軸 回転
放 2 5 0 r . p . q .
切込 み深さ 1 ■ ■
0 2 0 0 3
m送 り 速 度 く mm/J nln)
4
00 500共il集件 送 り速
度
300 lK/tlrl切込 み深
さ J rI02 0 0 主
軸回25転 数0 (T.J
30(I).m.)
1 2 3
切 込 み i Z き (mm)
基準登録者との距虻の差 (正面フライス)
共通集件 主軸回転
敢 3 5 0r . I . ■.
切込み 深さ
l■ ■
5 0
1502
50
350 4 5
05 5
06 5 0
送 り 速庄 ( mm/m iA)
共逮灸件 送 り速
度
350
IIII/Aln切込み 浸き
Ⅰ‑250 300 35
0 4 0 0 1 5 0
主 軸 回 転
放 くr・p ・m.)
送 り速度 350 b /JIln 主h回転致
3 5 0r. ?. ■ .
1
2 3
切 込 み 深
さ ( mm)
図5 基準登録者との距離の差 (エンドミル)
4 ‑2
基準萱録音 との距離 図4
は, フライス削 りにおいて, 送 り速度が, 3 0 0 mm/ mi n
,主軸回 転数が2 5 0r pm
,切込み深さが1m m
の場合の切削音を基準登録音 とし て,送 り速度 ・主軸回転数 ・切込み 深 さをパ ラメータとして,それぞれ 変化 させた音 と基準登録音 との距離 を示す‥基準登録音 との距離が大 き いほ ど,基準登録音 と識別 しやすい ことにな る. この図 より,切込み深 さが0. 2mm
か ら0. 5 mm
の切 削 と1 mm
の切削はかな り識別 しやすいが, 切込み深 さが1 . 5 mm
以上の 切削は1mm
の切削 と区別 しに くい ことが わか る. これ より,切込み深 さの大 小 の識別 はで きるので,荒削 りと仕 上げ削 りの識別ができると言える.また,送 り速度や主軸回転数が変化 して も,基準登録音 との距離があま り大 き くな らないので,それ らが変 化 しても識別 しに くい ことが言える.
図
5
は,エ ン ドミル削 りに軍いて, 送 り速度 ・主軸回転数 ・切込み深 さ をパ ラメータとして変化 させた音 と 国中に示 した条件の基準登録音 との 距離を示す. これ より,エン ドミル 削 りでは,主軸回転数は,変化 させ ても距離が大 きくな らないので,あ ま り識別できない. しか し,送 り速 度 ・切込み深 さを変化 させると距離 も大 きくなるので,それ らの変化は, 識別 しやすい と言える.図
6
は, 直径が8mm
と2 0 mm
の ドリルに よる穴あけにおいて,主軸 回転数 と送 り速度を変化 させた音 と 基準登録音 との距離を示す. これ よ り穴 あけにおいては,送 り速度 より 主軸回転数の変化を識別 しやすい こ音声認識手法にる加工状態の監視
S㈹2
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∴ 血 ∴ ∴ ‑.
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4 0
80】 2 0 1
60送 り 速 度 (mm/J T LLn)
ノ
08
6
00 8001
000玉 川 目 板 F
I (r.p .m. )
40
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DOl 2 0
送 り 速 度 ( mm/m Ln)
2 0 0
3004 0 L ) 5
00王 Il 同 振 F
I (r.p .n. )
F I J ル ( 加 18mm)
図 6
基準登録者との距離の差 (ドヮル) とがわかった.4 ‑3
切削条件による 認識能力図
7 ( a)
は, フライス削 りにおいて送 り速度 ・主軸 回転数は同 じで,切込み深 さを変化させた音を登録さ せた後,同 じ条件の音を順 次聞かせ認識させた結果を 示す. この図において,塀 似の条件を斜線で示す こと により,類似の条件 と誤認 諭 しやすい ことがわかる.すなわち,切込み深 さは, 大 まかには識別できる.普 た,切込み深さが大 きくな ると識別 しに くいこともこ の 図 か ら も言える.
( 也)
紘,送 り速度を変化 させた 音を登録させた場合である が, この図か らも送 り.速度 の変化は識別 しに くいと言t l l J ル ( 正珪20mT n)
O 1 ' ; ‑ 4 二 l
(A
) 切込
み 漂 さ の Z;事33 {1 TIr ′ E
(SEC)
0
・ 1152 こ 泊
TI「 E ( S E C)
くb)
送g遭丘の形書園丁
切
削条件 に よる 認証皮 (正面フ ラ イ
ス)
1 2
長野工業 高等専門学校紀要 ・第1 6
号7
1I I
141:1TI M El S E C)
図8 正常刃切削と破損切削の識別 (正面フライス)
える.すなわち,
Bl 4
に示 した基準登録者の距離を求めた実験 とこの実験は,同 じ傾向を示 す.図
8
は,正面フライスの6枚刃のうち, 1枚の刃を グラインダで丸 くして, フライス削 り を した音 と,同じ切削条件で,正常な6
枚刃でフライス削 りした音 とを登録 し認識させた結 果を示す.正常刃 と破損刃に よる切削音は完全に識別 されず,かな り誤認識 されている・ し か し,正 しく認識 され る方が多い.そ こで,認識結果 の多い方の条件の音であると判断す る と,正常刃 と破損刃に よる昔を識別で きる.すなわち,破損初期の状態 も判断システムを作 れば監視が出来ると思われる.4 ‑4
工具によるパターンの比較フライス削 り,,エン ドミル削 り,穴 あけ時に発生す る音を, 7‑リェ変換 し周波数 スペ ク トルを得る.次に,周波数の対数軸上に,2
0 0 Hz
から50 00Hz
までを等間隔に16
のバン ドに 分け,′,'ソ ド毎に正規化 されたスペ ク トルの大 きさを表 したのが図9
である. この図は,認 識 ボー ド内で処理 され るパターンと似ている. これ より,切削条件が異なっても工具が同 じ であれば,類似の特徴あるパターンを示す ことがわか る.すなわち, フライス削 りにおいて は,中央のバン ド部が凹になる傾向にある.エン ドミル削 りのときは, フライス削 りとは逆 に,中央のバン ド部が凸になる傾向にある. また,穴 あけのときは,周波数が高 くなるとス ペ ク トルが大 きくなる傾向がある.図10は,正面 フライスお よびェソ ドミルをたたいた音,すなわちインパルス加振音を上記 と同様な方法により処理をして得たパターンであ る. これか らも,正面フライスは中央のバ ン ド部が軌 エン ドミルは凸の傾向があ り,切削時と同じ特徴を示す. これ より,工具に よ り特徴あるパターンを示すのは,それぞれの工具の固有振動数による影響が大 きい為 と言え
正申フライス
はtljl E亡 抑
L h 1 4
31IH tLft 25
4 T . I . ■ .
■JAJ t
f
l.S■
音声認識手法にる加工状態の監視
エン
ドミル
ドリル (正 接 8 J l)
班IJlrr M b /rlA illEI也EI 120r.pp.
200 周波
Z I( H2 ; ) 500 0 2
CO用 紙 ( H8) 5 ∝ l O 2
(氾周波故 ( I Iz) 5
帆0ドリル(直往20mm)
u rllt一千 MIdlJIL lllblILTtl20 r.p.L
2(泊
何汝政 ( H乞) 5 0∞
208周波欺 くH之)
50002 0 0 周波拙 くHI)
図
9
音響バターンの比較 (切削昔)正面フライス
エンt rミJ t ・
肌 = ‑ I
二 ̲i̲I ±
200
押波批 ( I ta : ) 5
000 200周波放 くHz)
5000図10音響′くターンの比較 (インパルス加振音)
る. また, このために工具の違いに よる切削音の識別が,ほぼ確実 に出来 ることが説明で き る.
5.
緒 言工作機枕の動作中に発生す る音に対 して,音声認識手法を適用 して加工状態の監視を行な う方法において,立形 マシニングセンタに対す る実陰を行ない,本手法の能力について,吹 のことがわか った.
1) 種 々の条件 ごとに細か く登録 しても,それぞれをかな り識別す ることがで きる.例え ば,切込み深 さ ・工具の良否等ほ,認識出力を判断す る等のシステムの改良で,認識率を実 用 レベルまで高め,詳 しい加工状態 の監視を行な うことが可能である.
2)
同 じエ具に より発生す る音は類似 してお り,各工具 ごとの代表音を登録す ることに よ1 4
長野工業高等専門学校紀要 ・第1 6
号り,加工中の工具を確実に区別がで きる. これは,加工中に発生す る音は工具の固有振動数 の影響を受けるためである.
3)
フライス削 りにおいては,切込み深 さの変化が送 り速度や主軸回転数の変化に比べて 識別 しやすい.エン ドミル削 りでは,送 り速度 と切込み深 さの変化が識別 しやすい. また, 穴あけでは,主軸回転数の変化が識別 しやすい. これ らを考えて登録音を決めれば よい.今後は, より認識率を よくす るため, また影響の小 さな切削条件 も識別できるよう,多段 階で認識させる方法や,背景音の処理等についての研究を進め,実用に耐えるシステムの開 発を行ないたい.
本研究は,昭和59年度文部省内地研究員 として東京大学で行なった ものである.御指導い ただいた東京大学佐田登志夫教授,木村文彦助教授,また有益な御助言をいただいた東洋大 学高田祥三助教授な らびに佐田研究室の皆様に感謝の意を表 します.
参 考 文 献