症例報告
名 寄 市 病 誌 21:52〜54,2013
短 期 間 にお け るechogenicityの 変 化 が 診 断 に有 用 で あ っ た肝 被 膜 下 血 腫 の1例Change of echogenicity of subcapsular hepatic hematoma in the short term:A case report
松 本 靖 司1),鈴 木 康 秋2),斉 藤 な お1)
Yasushi Matsumoto, Yasuaki Suzuki, Nao Saito,
平 沼 法 義1),伊 藤 亮 二1),杉 山 祥 晃2)
Noriyoshi Hiranuma, Ryouji Ito, Yosiaki Sugiyama,
平 間 斉 枝1),坂 本 千 賀 子1)
Tokie Hirama, hikako Sakamoto
佐 藤 龍2)
Rvu Sato
Key Words: 肝 被 膜 下 血 腫,超 音 波 所 見
は じめに 表1 血 液 生 化 学 所 見
肝 被 膜 下 血 腫 は,腹 部 外 傷 や肝 穿刺 手 技 な どに よ り発 症 す るた め,急 性 期 の診 断 は比 較 的 容 易 で あ るが,陳 旧期 に 発 見 され た 場合,発 症 機 転 が 不 明 の こ とが あ り,ま た変 性 した 血液 成 分 に よ り多 彩 な所 見 を呈 す るた め,診 断 が 困難 な例 が あ る.
今 回我 々 は,短 期 間 にお け る超 音波 所 見 の 変 化 が 診 断 に有 用 で あ っ た肝 被 膜 下 血 腫 の1例 を経 験 し た の で報 告 す る.
末 梢 血 WBC 6800/mm3
RBC
Hb 12.4 g/dl Ht 33.3 MCV 91.5 fl MCH 34.1 pg
Plt
生 化 学 TP
364xio^/mm3 Alb T−Bil ALP AST ALT
9.7xio^/mm3 LDH y−GTP BUN Cre Na K CI
腫 瘍 マ ー カ ー AFP 3.9 ng/ml.:
PIVKA−II 17 mAU/ml3.4 g/dl CEA 2.2 ng/mlO.9 mg/dl 18g u/L
31 1U/L
肝 炎 ウ イ ル ス マ ー カ ー 60 1U/L
HB
sAg (‐)173 1U/L HCVAb (一)125 1U/L 13.8mg/dl
O.75 mg/dl 138mEq/L 4.1 mEq/L 101 mEq/L
症 例
80歳 代 、 男 性 主 訴 :下 腹 部 痛
現 病 歴 :ア ル コ ー ル 性 肝 硬 変,糖 尿 病,認 知 症 で 近 医 に 通 院 し,内 頸 動
脈 狭 窄 の た め ア ス ピ リ ン を 投 与 され て い た.下 腹 部 痛 を 主 訴 に 前 医 を 受 診,腹 部 超 音 波 検 査 に て 肝 S6に 腫 瘍 性 病 変 を 指 摘 さ れ,肝 癌 疑 い で 当 院 消 化 器 内 科 紹 介 受 診 と な っ た.
既 往 歴 :虫 垂 切 除(26歳 時) 家 族 歴 :特 記 無 し
現 症 :胸 部 は 異 常 所 見 を 認 め な か っ た.腹 部 は 右 下 腹 部 に 手 術 廠 痕 を 認 め た.心 窩 部 に 肝 を1横 指 触 知 す る が 圧 痛 は 認 め な か っ た.
血 液 生 化 学 所 見(表1): 末 梢 血 で は,卜lb12.4g/dl と 軽 度 の 貧 血 を 認 め,血 小 板 は9.7x104/mm3と 低 値 で あ っ た.生 化 学 所 見 で は,AST・ALTの 軽 度 上 昇 と ア ル ブ ミ ン の 軽 度 低 下 を認 め た.肝 炎 ウ イ
1)名 寄 市 立 総 合 病 院 臨 床 検 査 科
Dep∂r々Went o!Clinica/乙 ∂加story, Nayoro City Generaノ 〃ospit∂1 2)名 寄 市 立 総 合 病 院 消 化 器 内 科
Department of Gastroentero/ogy, Nayoro City Ccnera/Hospita/
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ル ス マ ー カ ー は 陰 性,γ 一GTP高 値 よ りア ル コ ー ル 性 肝 硬 変 の 所 見 と し て 矛 盾 し な い と 考 え られ た.ま た 腫 瘍 マ ー カ ー は,AFP, PIVKA−II, CEA の い ず れ も基 準 範 囲 内 で あ っ た.
臨床経過
当 院 初 診 時 の 当 日に 前 医 で 施 行 し た 腹 部 超 音 波 に お い て,肝S6裏 面 に 長 径90mmの 突 出 した,内 部 不 均 一 で 境 界 は 不 明 瞭 な 楕 円 形 の 高 エ コ ー 腫 瘤 を 認 め た(図1).ア ル コ ー ル 性 肝 硬 変 を 背 景 に 発 症 した 肝 癌 の 可 能 性 が あ り,翌 日 に 腹 部 造 影 ダ イ ナ ミ ッ クCT検 査 を 施 行 した.単 純CTで は 腫 瘤 は ぎ 疹
鵬 騰 %"'
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攣 霧拶 囎 螂撒鷺;
禦 鷲灘 霧
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図1 前 医 腹 部 超 音 波
肝S6に 腫 瘍 性 病 変を認 め る
不 明 瞭 で(図2−A),動 脈 相 で は 腫 瘤 内 部 は 乏 血 性 で 周 囲 が や や 淡 く 造 影 さ れ(図2−B),門 脈 相(図 2−C)か ら 平 衡 相(図2−D)に か け て 明 瞭 なLow densityを 呈 し た.な お,4年 前 に 当 院 で 施 行 した 腹 部CTで は,同 部 位 に 腫 瘤 は 指 摘 され な か っ た.
10日 後 に 再 度 腹 部 超 音 波 検 査 を 行 っ た.Bモ ー ド で は 初 診 時 とechogenicityが ま っ た く 異 な り,無 エ コ ー の 嚢 胞 性 病 変 を 呈 し,内 部 に 不 整 な 高 エ コ ー を 認 め
,ま た 嚢 胞 壁 は や や 凹 凸 不 整 で あ っ た(図 3−A).パ ワ ー ドプ ラ ー で は 腫 瘤 内 に 血 流 シ グ ナ
ル を 認 め な か っ た(図3一 的.ソ ナ ゾ イ ド造 影 超 音 波 で は 腫 瘤 の 周 囲 は 淡 く 造 影 され る が,腫 瘤 内 部 は 全 く造 影 さ れ な か っ た(図3−C).
以 上 よ り,短 期 間 で 高 エ コ ー か ら 無 エ コ ー に echogenicityが 変 化 し,内 部 は 造 影 さ れ ず 凝 丘丘塊 の よ うな 不 整 高 エ コー を 認 め る こ と よ り,肝 被 膜 下 血 腫 と診 断 した.患 者 は 認 知 症 の た め 初 診 時 は 腹 部 受 傷 歴 が 不 明 で あ っ た が,そ の 後 の 家 族 か ら の 聴 取 で,受 診10日 位 前 に 転 倒 し腹 部 を 打 撲 した こ と,ま た そ の 際 に 右 上 腹 部 痛 を 訴 え て い た こ と が 判 明 した.さ らに 抗 血 栓 薬 を 内 服 中 で あ っ た こ
誰
!響
審 ぎ婆
10日 目 (76x45mm) 図4
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と よ り,腹 部 打 撲 を 契 機 に 発 症 し た 肝 被 膜 下 血 腫 と考 え られ た.血 腫 の 増 大 は 無 く症 状 も消 失 し て い た た め,経 過 観 察 の 方 針 と な っ た.
そ の 後,1ヶ 月 目 の 超 音 波 検 査 で は 血 腫 壁 の 肥 厚 と 血 腫 内 部 に フ ィ ブ リン 塊 を認 め,血 腫 の 径 は 63×36mmと や や 縮 小 して い た.5ヶ 月 目の 超 音 波 検 査 で は,血 腫 内 部 は ・部 高 輝 度 エ コ ー とな り, 径 は25×20㎜ ま で 更 に 縮 小 して い た(図4).
考 察
肝 被 膜 ド血 腫 や 肝 内lllL腫は,腹 部 外 傷 で 生 じ る こ とが 多 く,肝 外 傷 の 約30% に 認 め る と報 告 され て い る1).肝 穿 刺 手 技 やERCPの ガ イ ド ワ イ ヤ ー 操 作 な どの 医 原 性 で も 生 じ る と言 わ れ て お り,そ の た め 抗 血 栓 療 法 中 の 侵 襲 的 検 査 ・処 置 で は 発 症
リ ス クが あ り,急 速 に 増 大 し致 死 的 と な る こ とが あ る2).超 音 波 所 見 は,急 性 期 で は 無 エ コ ー 内 に 凝 血 に よ る 不 整 形 高 エ コ ー を 認 め,血 腫 壁 は 不 整 な 川 凸 を 認 め る.1ヶ 月 以 降 の 陳 旧 期 に は,変 性 ifl腋や フ ィブ リ ン に よ り充 実 性 に 描 出 され る 事 が
図3 腹 部 超 音 波 検 査(10日 目)
A:B−modeで は,初 診 時 と は,ま った く異 な った エ コー 性 状 に 変 化
B:power Dopplerで は,腫 瘤 内 に 血 流 シ グ ナ ル を 認 め な か った
C: 造 影 超 音 波 で は,腫 瘤 の 周 囲 が 淡 く造 影 され る が, 腫 瘤 内 部 は 全 く造 影 され な か った
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一講
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( r 著蓬欝.
伽"仰
1ヶ 月 目 5ヶ 月 目 (63x36mm) (25x20mm) 超音波所見の経過
多 く,血 腫 壁 は 肥 厚 し て く る3).本 症 例 の 超 音 波 所 見 も 同様 の 経 過 を 呈 し て お り,特 に 短 期 間 に お け るechogenicityの 変 化 が 診 断 に 有 用 と 考 え ら れ る.
治 療 は 血 腫 径10cm以 下 で は,ま ず 保 存 的 治 療 が 選 択 され る が4),仮 性 動 脈 瘤 やAPシ ャ ン トが 描 出 され た 場 合,切 迫 破 裂 の 危 険 が あ る場 合 はTAE の 適 応 と考 え られ る5).自 然 経 過 の 予 後 は,血 腫 が 吸 収 され る の に 平 均 約4ヶ 月 か か る と報 告 さ れ て い る6).し か し,陳 旧 性 血 腫 が 残 存 す る 例 も あ り,そ の 場 合 は 遅 延 性 出 血,感 染,胆 道 出 血 が 合 併 す る こ と が あ る7>.ま た 陳 旧 性 血 腫 は 充 実 性 腫 瘍 像 を 呈 す る た め 肝 腫 瘍 と の 鑑 別 が 困 難 と な る こ と が あ り,肝 嚢 胞 腺 癌 の 診 断 で 切 除 され た が,14 年 前 の 鈍 的 肝 外 傷 に よ る 陳 旧 性 肝 内 血 腫 で あ っ た 症 例 が 報 告 され て い る8).本 症 例 の よ うな 認 知 症 の 患 者 で は,本 人 か ら の 腹 部 外 傷 の 既 往 の 聴 取 が 困 難 で あ り,本 疾 患 を 念 頭 に 置 い た 家 族 か らの 病 歴 聴 取 も重 要 と 考 え られ る.
おわ りに
肝 被 膜 下 血 腫 を 発 症 した ア ル コー ル 性 肝 硬 変 の 1例 を 経 験 した.
認 知 症 の た め,当 初 は 腹 部 受 傷 歴 や 右 上 腹 部 痛 な ど の 病 歴 が 不 明 で あ り,肝 硬 変 を 有 して い る た め 肝 癌 が 疑 わ れ た が,超 音 波 でechogenicityの 変
化 が容 易 に描 出 され,肝 被 膜 下 血腫 の診 断 が 可 能 に な った.
なお,本 稿 の要 旨 は,日 本超 音波 医学 会 第42回 北 海 道 地 方 会 で発 表 した.
一1)西 口 弘 恭 ほ か :外 傷 性 肝Bilomaの2例 CT所 見 を 中 心 に. 画 像 診 断10:626−629,1990
2)平 井 一 郎 ほ か :肝 内 血 腫,肝 被 膜 下 血 腫.別 冊 日本 臨 床 新 領 域 別 症 候 群 シ リ ー ズ14 肝 胆 道 系 症 候 群(第2
版)肝 臓 編(下),p461−464,日 本 臨 床 社,2011 3)松 井 修 : B.非 腫 瘍 性 肝 腫 瘤.5,肝 内 血 腫.肝 の 画 像
診 断,p136−138,医 学 書 院,1995
4)Yu MC, et al. Giant intrahepatic hematoma after liver biopsy in a liver transplant recipient."transplant Proc 36:
2217−2218,2000
5)竹 吉 正 文 ほ か :鈍 的 肝,脾 損 傷 に 対 す る 動 脈 塞 栓 術 一CT像 と 血 管 造 影 所 見 と の 比 較 を 含 め て 一 .日 腹 部 救 急 医 会 誌23:597−605,2003
6)Chuang JH, et al. Posttraumatic hepatic cyst‐an unusual sequela of liver injury in the era of imaging. J Pediatr Surg 31:272−274,1996
7)福 里 利 夫 ほ か :外 傷 性 肝 嚢 胞.別 冊 日 本 臨 床 新 領 域 別 症 候 群 シ リ ー ズ14 肝 胆 道 系 症 候 群(第2版)肝 臓 編 (下),p385−388,日 本 臨 床 社,2011
8)松 田 博 人 ほ か :肝 嚢 胞 腺 癌 を 疑 っ た 陳 旧 性 肝 内 血 腫 の 一 切 除 例.日 消 誌83:2254−2257,1986