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橋本健夫*・木村晃一** 安武理恵***・梅野加代子****

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(1)

橋本健夫*・木村晃一**

安武理恵***・梅野加代子****

(昭和57年10月31日受理)

An Astronomical Study that is Situated in the Field Obsel vation

Tateo HASHIMOTO,Koichi KIMURA,

Rie YASUTAKE and Kayoko UMENO

(Received,October31,1982)

はじめに

 太陽や月そして星といった天体は,児童・生徒が最も慣れ親しんできた自然の一つであ る。このためわが国の初等教育に理科が登場した時から「日」,「月」,「星」といった形で 教えられ,最初は日常生活に関する知識の理解であったが次第にそれぞれの運動の観察が 加わることによって,天体の運動の規則性を学ぶようになってきた(1)。そして現在の小学校

における天体に関する学習は,小学校指導書理科編によれば,2年生の「日なたと日かげ」

で太陽の動きに気付き,3年生の磁石の性質に関する学習の時に方位を理解するとともに 気象の基礎を学ぶ。つづいて4年生で太陽や月の見え方を通してそれらの動きや位置を方 位と高さでとらえられることを身につけたのち,5年生で星の動きの規則性を理解する。

さらに6年生での季節の気温変化の学習を経て中学校の「地球の運動」に発展するように

なっている(2〉。

 一方岡田氏は,次の4点を天体教材(星の学習)が抱える問題点としてあげている(3〉。

12つ﹂4 観察が夜間となり教師が直接指導できないこと 教師が苦手としていること

天候に左右されるため児童の課題意識がうすれ,観察が徹底しないこと 市街地の光害・山間部の全天の範囲が異なること

 上記の(1)〜(4)については,それらを克服するためのいろいろな授業実践例や,観測器具 の工夫例が報告されている(4)〜(10)。しかし,これらの試み通りに天体学習がなされれば,夜 間の教師と生徒が一緒になった観察は,ともすれば忘れがちになるのではなかろうか。そ

* 長崎大学教育学部理科教室

**三和町立蚊焼小学校教諭

*** 中原町立中原小学校教諭

****北九州市立大蔵小学校教諭

(2)

して「児童が直接自然に働きかけ,観察・実験を通して学ぶ」という観点や,天体の動き を方位と高さによる空間の広がりと時間の経過でとらえさせようという観点から考えても 野外での観察を十分行なわない天体学習は,その目標を十分に達成しうると言えるのだろ うか。現在長崎市の小学校で行なわれている「星の動き」の学習をもとにこの問題を考察 したので報告する。

 1.長崎市の小学校における単元「星の動き」に関する学習形態を中心とした調査    長崎市内の小学校から13校を選び,各校の理科担当教諭に会い,この単元の学習   形態・観測器具の整備・学校周囲の環境・天体観測会そしてこの単元に対する先生   方の意見について聞き取り調査を行なった。

II.小学校5年生の天体学習についての調査

   1の調査を行なった小学校から3校を選び,その5年生(340名)を対象に,天体   に関する興味や天体学習の体験等を中心にアンケート調査を行なった。

m.天体観測会参加前後の児童に対する調査

   天体観測会を開催した3小学校(長崎市内の小学校・西彼杵郡の小学校・県外の   小学校)に行き,観測会開催の前後の児童の学習意欲を中心にアンケート調査を行   なった。

IV.大学3・4年生の天体に関する調査

   将来教師となる長崎大学教育学部3・4年生(436名)を対象として,天体に対する   興味・関心や既習経験並びに星に対する知識等を中心にアンケート調査を行なった。

なお1の調査は昭和56年8月から9月にかけて行ない,IIの調査は昭和57年1月から2 月にかけて行ない,IIIの調査は昭和56年7月と8月と10月の観測会開催時に行ない,そし てIVの調査は昭和56年9月から11月にかけて行なった。

結  果

1.調査は,各学校がおかれている環境を考え,市内中心部,住宅地,並びに市の周辺 部から13校を選んだ。これらの小学校の所在

地を図1に示す。またこれらの小学校におけ る天体学習のための教具の設置状況と学習方 法等の調査結果を表1に示す。この表からも わかるように,教具に関しては天体望遠鏡は 全ての小学校に備えられ,天体投影器も約 70%の小学校が持っている。星座早見板は%

クラス分から1クラス分備えられている。し かし望遠鏡は,部品不備のため使用できない 小学校が5校あった。そして星座早見板に関

しては,不足数を補なうため個人に購入させ ている小学校が4校あった。もっともこれは,

生徒一人一人に持たせた方が良いという配慮

図牛

 大村湾

¥     1  ヤ     ヂ      ヤ

 、   1     8  1  1     〜

 ノ       ヤ o  ,  ノ     1   ¥ノく¥  !乙一\

       ヤ ハコノ  ◎◎  ◎       1

   ◎       

        亀

   ◎         

  ◎   ◎◎       

癒◎◎1

      橘       湾

図1 調査校の所在地

(3)

野外観察としての天体学習(橋本・木村・安武・梅野)

表1 長崎市の小学校における天体学習

小 学 校 A B C D E F G H 1 K L M

教     具 天 体 望 遠 鏡

あ     る(ODな      い(×)

O O O O O O O

使 用 可 能(○〉

用不可能(×) × × O × × ×

天 体 投 影 器 あ      る (○)な      い(×)

O × O × O × O ×

星 座 早 見 盤 学 校 備 付 個 数 20 45 40 40 40 40 30 10 17 10 20 10 20 個人購入をする (○)

人購入をしない(x) × O × × × O × × × × ×

ス  ラ  イ   ド あ      る (○)

      い(x) × × O O O ×

学  習・方  法 「星 の 動 き」を 学 習 す る 時 期 3   学   顛

観察箱を製作 し綾翻長〜、陰色191 × O × × O O O 望遠鏡を児童に量審煮、し鎚紹 × × × × × × × × O × × プラネタリウムを舗挺、額191 × × O O O O O × O ×

スライド・8㎜フィノレムを使辞&一、脈191 O × O O O ×

星 座 の 神 話 を刹碧長〜、陰蕊191 O × × × × O O × O × × × ×

大半の児童が星の観測をヒぞごこくな蕊1〜零 O O × × × O × × × × × ×

観測会 天体観測会を暮な藷な語91 O × × × × × × × × O × × 夏休みにキャンプを誓な名なal9 O O O O

も加わっている。つぎに学習時期は,各小学校共にこの単元を長崎市内のカリキュラムに 沿って3学期の2〜3月頃に行なっており,視聴覚機器を使用した学習法がほとんどを占 める。また児童達がン夜問の天体観測をし,授業の中で使用できるデータを提供するのは わずかに4校だけであり,天体観測会は3小学校でしか開かれていなかった。

II.3・4年生時

      (1)自分の家を中心と (II)昼間に月が見える⑳「太陽や月の動き」αV)「太陽や月の動き」

の学習経験について  して東西南北の方 は図2に示す。この  向がわかりますか・

図からもわかるよう

40%の児童が昼間の 月に不思議さを感じ ていた。観察箱の使 用は,約50%にすぎ ず,4年生における 学習を楽しいと感じ ているのは約50%の

圃画ロいえ答はい無

ことをふしぎに思 いましたか。

をし

はい囮  はい囮おもしろかった圃 いいえ圃 いいえ蘭艦2薙もしろく圃 無答口無答□おもしろくなかりた皿

        無答 □

図2 小学校3・4年生時の学習

児童であった。っぎに,星に対する関心や知識を調べた結果を図3に示す。星がきらいと 答えた生徒は5%にすぎず,星に対しては非常に興味を持っているようである。形がわか る星座はほとんどがオリオン座であり,星座の話についても約80%の児童が興味をもって いる。つづいて天体観測の経験などを調べた結果は図4に示す。5年生までに日蝕や月蝕 を観測した経験がある児童は約25%で,月の学習から1年過ぎているが,1月10日の皆既

(4)

(1)星は好きですか。

     

好き皿皿 叢まあ翅 きらい翻

(II液,星を見て形ど佃)「はい」の人はその㈹星座の話を知りた  れる星座はありま 名前をあげて下さ いですか。

 すか。      い。

      鉛         

離・・

       0

はい圃

いいえ翻

(1)今までに日食や月食を観 察したことがありますか。

こぐま座はくちょう座さそり座北斗七星カシオペア座オリオン座

図3 星に対する関心

(m月や星を天体望遠鏡で見  たことがありますか。

   謂 〆蒲

      無答□

個)今年の1月10日にあった    「はい」の人は,その時の感 皆既月食を観察しました    想はどうでしたか。

か。

       はい四        いいえ翻        無答[ニコ

  

 圃醜□

    い え  答     き     し    は  い  無

月食を観測した生徒 は10%未満であった。

また天体望遠鏡を使,

用した経験を持つ児 童は約20%にすぎな いが,その70%は素 晴しかったと答えて いた。望遠鏡を使用 した経験のない児童 達は,望遠鏡に対す るあこがれが強いよ うであった。一方先 生や友達と一緒に星

佃)先生や友だちと一緒に夜 空を見るような会があれ  ば参加したいと思います

嚇1∵憲

       無答[ニコ

「いいえ」の人は,月や星を 天体望遠鏡で見たいですか。

画昭圏□

    し    動  た し 感た 

 らた りつ か答 ばつ まか動な すか あな 感し 無 圃魎□し え 答は い 無

図4 天体観測の経験 空を見たいという希望も多くの児童達が持っていた。

 皿.天体観測会が開かれたのは長崎市内で3校あるが,そのうちの1校の児童(5年生 68名,10月開催)を対象に,観測に参加する前後の学習意欲を中心に調査するとともに,

市外・県外の天体観測を行なった小学校の児童(市外校:5年生56名,7月開催,県外校:

4年生148名,9月開催)の調査も行なった。その結果は図5と6に示す。3校共に星がき らいであると答えた児童はごくわずかであり,観測会までに天体望遠鏡を使用した経験の ある児童が約10%,プラネタリウムを見たことがある児童が約20%であった。星座の話に ついても知っていると答えた児童は10〜20%と少なかった。一方観測会参加後の調査では 70〜80%の児童が星座を覚えたと答えており,夏から冬にかけてのそれぞれの観測会が開

(5)

野外観察としての天体学習(橋本・木村・安武・梅野)

   (1)星は好きですか。 (II)今までに天体望遠 価今までにプラネタ       鏡で星を見たこと  リウムを見たこと       がありますか。   がありますか。

  囮大好き吻鍵まあ圃ある  圃ある

  皿好き囲嫌い皿ない 皿ない

      図5 天体観測に参加する前の児童

   (1)薯遠鏡で見た星の(II)星座を覚えましたか。⑳どりような星座を     フち心に残ってい      覚えましたか。

市内校

市外校

県外校

㎡ものは何ですか・

100

50

βo

o

 1

50

βθoo 1

50 A B C

D E A B

A

 星星星星  重月金二土木ABCDE       ※

       欝

⑫θoo

50

像θ

 A B C D E F 100

      ※

㈹星座の話を知って  いますか。

璽蜘っている囮知らない 皿銘毅、、[ニコ無答

              

          細

o

 1

50

50

oθoo θθoo 1

0 r

50

G D F H I J

脳輸濠紗

醜㏄座座座髪座座座座座座

      ABCDEFGHIJKL 50  1βθoo

㈹今日の観測会に参  加してどのように  感じましたか

A B C D E F G

  ※

50

A B CEFG

A B C D E F G

A:これからも今日のようにみん  なであつまって星を見てみた

 いと、思、う。

B:他の季節の星も天体望遠鏡で  見てみたいと、思、う。

C:家でもこれからは星を見てみ

 ようと、思、う。

D:星座の話についてもっと知り  たいと、思、う。

E:星について本を読んだり調べ  てみたいと思う。

F:時問が短かかった。

G:あまりおもしろくなかった。

図6 天体観測に参加した後の児童(※:2月開催時の調査結果)

(6)

かれた季節を中心にした星座の名前が記載されている。またこの時使用されたパンフレッ トはあらかじめ我々が用意したもので,その時期の全天,南天,北天の主な星と神話をの せていたが,これらの神話に対してほとんどの児童達がおもしろかったと答えていた。ま た観測会で一番印象に残っている天体として月をあげている児童が非常に多かった。一方 天体観測をおもしろくなかったととらえている児童は非常に少なく,大半の児童はこれか らも何らかの形で天体の学習を進めたいと考えていた。一方この市外の小学校では,夏と 冬に天体観測会を開き,5・6年が参加している。そこで4回の観測会に参加している6 年生(51名)を対象に行なった調査結果を図7に示す。この図からわかるように,ほとん

どの児童が星座の形や星の動きがよくわかるようになったと答え,また自分から進んで星!

を見るようになったと答えた児童も約80%いた。覚えた星座や観察会についての感想は,

前述の5年生と大体同じ傾向を示した。一方観測会が開かれるのは,夏がいいか,冬がい いかの問いには約半数が夏の方が良いと答えていた。

(1泊分から進んで星を見る  ようになりましたか

(II)星や宇宙についての話や 本を読んだり見たりする  ようになりましたか

夏の方がよい理由

(V)今日の観測会で星座を覚  えましたか

      囲はい       鴎いいえ

       ㈹夏と冬の観測会は,どち       らの方がよいですか

      1。。eo今日の観測会に参加してど       のように感じましたか        どのような星座を覚えまし

       たか        蘇θ        100

図7

50

        但1)星座の形や星の動きがよ          くわかるようになりまし          たか

      冬の方がよい理由

\蓑.

§ミ ﹄

\    蓑 ¥§§§かた

50

      A B CEFG

      A:これからも今日のようにみん      ふオこお力北スぎ       なであつまって星を見てみた

     たりい鰭斗バよ   いと思う。

      オ  い    し      B l他の季節の星も天体望遠鏡で

     ごンぬぬチ七ノレや   見てみたいと思う.

     座座座座座星座座      C=家でもこれからは星をみてみ       ようと思う。

      E:星について本を読んだり調べ       てみたいと思う。

      F:時間が短かかった。

      G:あまりおもしろくなかった。

6年生(市外校,3回以上観測会に参加)を対象とした調査        \

 lV.長崎大学教育学部の3年生(268名)と4年生(168名)を対象とした天体観測の 経験などを調査した結果を図8と9に示す。図8は小・中学校における天体学習の経験

を聞いたものであるが,児童期にはよく星が見えていたようである。しかし天体観測会

(7)

野外観察としての天体学習(橋本・木村・安武・梅野)

α      生     生      年     年      3      4

(II)小学校で天体  観測会は開か  れていました  か。

⑳天体観測会に 参加した時の

感想は。    答えた学生は約10が開かれていたと

%にすぎず,天体 望遠鏡を使用した 経験やプラネタリ ウムを見た経験も 30〜40%の学生に 見られるだけであ る。一方参加した 囮。まい國いいえ圃はい圃いいえ囲すばらしかった・國はい畷いいえ 学生達の大半は・

  (V)星座早見盤を   使用しました

  か

囲あまり感動しなかった 個)天体の授業は  おもしろかっ  たですか。

素晴しかったこと を記憶している。

授業において星座 早見板を使用した 経験は半数だけで あり,観察箱の使 用にいたっては約 20%にしかすぎな かった。図9から わかるように,天 囮はい囲いいえ困はい醗いし・え圃はい璽いいえ圃はい囲いし・え体望遠鏡を自分で     図8 大学3・4年生の小学校時代の天体学習        操作できると答え た学生は30%しかお

らず,星座早見板を 使って実際に星を探 せると答えた学生も 約50%にすぎなかっ た。また星への興昧 は約60%の学生が 持っていたにもかか わらず,北極星を探 す方法を正確に記述 した学生は約10%で あった。

  (1)星座早見板を   使って,実際   に星を探せま   すか

 皿なんとか  翻いいえ

   図9

(m天体望遠鏡を  自分で操作で  きますか

囲はい

皿なんとか 翻いいえ

αII)星に興味があ ㈹北極星の見つ  りますか    け方について

     

          臨            

囲誤り

大学3・4年生の現在の天体に関する知識・技術  長崎市の小学校に

は,天体学習を行なうにあたっての教具,備品はどの小学校共に,小学校理科教育設備基 準を満していると考えられる(11)。しかし調査にあたって共通した問題点としてでてきたこ とは管理が悪いということである。天体望遠鏡を例にとれば,故障しているとか部品が足

(8)

りない等の理由で使用できない小学校が13校中5校もあった。またスライドや星座早見板 に関しても汚れがめだつとか,使用しようとすると枚数がそろわないということもかなり 多くの学校で聞かれた。この問題は理科の他の教具についても度々耳にすることである。

備品については毎年調査が行なわれているはずであるが,特に理科の教具は機械類や薬品 等が多いため,ともすれば台帳に記載されている物品を捜し出すだけで終っているのでは なかろうか。この点を改良するためには,使用できる教具・備品とできない教具・備品を 今一度全員の先生方で調査検討し,理科の授業にそった管理ができるシステムを作る必要 があるのではなかろうか。天体投影器に関しては,備えつけられている学校では単元学習 中に1回は児童に見せ,児童達も非常に喜んでいるようである。しかしこれは常設される 場所がないため理科室を使用しているがこの間理科室が使用できないことや,設置するた

びに時間が非常にかかること等が問題点としてあがっていた。星座早見板は各学校共に%

クラス〜1クラス分しか備えられておらず,また汚れも目立つため,児童に個人購入させ ている学校も4校見られたが,大半の学校では備品のみで学習していた。しかしこの教具 は夜間児童一人一人が天体を観測するために必要とするもので,家庭学習を重視しなけれ ばいけない現状であるとするならば最低限各小学校1学年の人数分は備えつけるべきであ る。「星の動き」の学習は長崎市のカリキュラムに従って,どの小学校においても三学期に 組まれていたが,表1からも推測できるようにスライド・8㎜等の視聴覚教材を使用した 教室内学習が中心となっている。星座早見板に関しても教室でその使用法を説明するだけ の学校が半分を占めている。このような状態では,表1の「大半の児童が…」という項目 の調査結果も当然のことであるかもしれない。観察箱の製作は盛んで,視聴覚教材と合わ せて児童の観察意欲を引き出そうとされている努力は評価できるとしても,天体のロマン を秘めた広がりと美しさはやはり,先生と児童が星空のもとで一体となって眺めることに よってのみ体感されるのではなかろうか。この感動こそが天体学習へ児童が一歩踏み出す 大きな原動力になるものだと確信する。

 「星の動き」を学習するにあたって児童は,方位の概念や天体の動きの観測方法などいく つかの基本的なものを身につけていなければならないが,図2からもわかるように自分の 家を中心にした方位すら身につけていない児童が約40%も存在する。また昼の月の動きの 観察から天体の動きの指導を行なおうという提案がうけいられ,そのいろいろな実践報告 がだされている(12)〜(14)。長崎市でも同じような実践が行なわれているのであるが,4年生時 の太陽や月の動きの観察は,児童が充分興味をもって正確に行なわれているのだろうか。

昼見える白い月は不思議さを与えることができても児童の興味を引けないことや,方位概 念が十分確立されないままの学習経験が,4年時の学習がおもしろかったと答えた児童が 半数にすぎない原因になったと考えられる。

 児童の星に対する興味・関心はききとり調査やアンケート調査の結果から推測されるが,

調査にあたって先生からだされていた星の神話を授業に使用することへの疑問は,星座の 話を知りたい児童が約80%を占めることから考えれば,興味をもたせる個所での使用は有 効ではなかろうか。また図4からもわかるように星に限らず太陽や月を含めた天体観測の 経験をもつ児童は25%に満たない。また月の動きを学習した児童の興味をもっと深めるた めに今年1月の皆既月食を利用すべきであったと思われるが,観測を行なった児童は10%

以下であった。一方望遠鏡を使った天体観測に参加したことがある児童の約70%は素晴し

(9)

野外観察としての天体学習(橋本・木村・安武・梅野)

かったと述べており,参加することができなかった児童のほとんどが望遠鏡で天体を観測 したいと思っている。このような児童の未知なるものへの願望は天体学習においてもっと 大切にされるべきである。

 天体観測会に参加する前の児童のようすは図5のように星に関する興味や天体望遠鏡の 使用経験など,市内校・市外校と県外校の間にほとんど差が見られないことがわかる。し かし天体観測会に参加した後の児童のようすは,図6の(III)の質問の結果を見ると3校 の間に差が見られるといってよい。つまり同じ観測会といっても市内校は10月に5年生を 対象に日没後約2時間開き,市外校は夏(7月)と冬(2月)に5・6年生を対象に約2 時間開いている。しかし県外校は4年生を対象に体育館で合宿するという形態で観測会を 開いている。この星を見る時間の差が星座をおぽえたという割合が一緒であるにもかかわ らず,量的な差となってあらわれていると考えられる。また市外校においては説明をした 先生が木星と金星が偶然よく見える時期であることを強調し,「先生も初めてなんだ。楽し みにしているんだ。」というように話されていた。市内校や県外校にはこのようなことがな かった。この差が図6の(1)の結果としてあらわれているようである。観測会における 教師の重要性が示されたと思う。また観測会参加校の児童の感想は3校共に今後の天体学 習に対する意欲をあらわしている。これは児童の希望に合った1つの経験が,その児童の 学習を大きく発展させる核になりうることを示している。これをさらに裏づけるのは図7 の(1)から(皿)の結果としてあらわれている。ほとんど全ての児童が星の動きがよく わかるようになったと答え,時々ではあるが星への興味・関心を持続させている。また冬 の主要な星座を50%以上の児童が覚えたと答えている点にも注目したい。観測会に度々参 加することにより星座の形をより短時間で把むことができるようになり,学習効果もあが ると考えたい。夏と冬の観測会について児童はどちらの方がいいと根拠づける基準を与え てはくれなかったが,天体観測会を開催するにあたってのいくつかの条件を示してくれた。

寒くないこと,わかりやすい星座が多いこと,月や惑星が見えることなどだと考えられる。

観測会は一般に月のでない夜がいいとされているが,児童にとって望遠鏡の中の月は何度 観測しても興味深く見えるようだ。また惑星は恒星と比べ大きくかつ美しく観測できるた め,これらが観測できる時期を選ぶことも大切である。

 一方大学を卒業後ただちに小学校の教壇に立つ長崎大学教育学部の3・4年生は,天体 学習についてどのような経験や知識を持っているのであろうか。図8からわかるように小 学校時代には美しい星空を仰いでいたようであるが,天体観測会が開催されていたと答え た学生が約10%にすぎない。しかしこれに参加した学生の約半数はやはり素晴しかったと 答えている。また天体望遠鏡や星座早見盤の使用経験並びにプラネタリウム見学の経験は 30%から40%の学生にしかなく,観察箱を使用した経験についてはさらに低く約20%にし かすぎない。このように彼等は小・中学校で充分な天体学習の経験を積むこともなく,高 校・大学へと進学する。しかし当学部の3・4年生において高校で地学を履習するのは約 10%であり,大学の教養時代の天文学関係の受講も非常に低い(地球科学と宇宙科学が約 30%,天文学は2%にすぎない)。その後教育学部へ進み理科を始めとしていろいろな授業

を受けるのであるが,卒業を半年後に控えた4年生の天体に関する興味等は図9のように 約60%の4年生が星に興味を持ってはいるものの星座早見盤を充分使いこなせる学生は 10%にすぎず,天体望遠鏡をなんとか自分で操作できる自信がある学生は約20%にすぎな

(10)

い。また星の動きを観測するためには最も基礎となる北極星の見つけ方に関して,正しい 方法を知っている4年生は10%にすぎない。これは現在の高校や大学の教育が余りにも知 識の習得に偏り,基礎的な技術を身につける場になっていないということと,学生達は教 師が最低限身につけておかねばならない技術がどのようなものであるか知らないこと,そ して植物を通して見た学生の自然認識の報告の中で述べたように(15),大きな自然界を対象 にすべき理科に対する心構えができていないこと等の為に起る現象ではなかろうか。

 うぎに天体観測会開催に伴なういくつかの障害点について考えてみたい。まず壷全とい う見地から昭和56年度に開かれた5小学校(市内3校,市外1校,県外1校)の開催形態 を調査した結果,2校が学校主催(PTA共催,5年生もしくは4年生全員参加)であり,

3校はPTA主催(3年生以上,4年生以上もしくは6年生を対象にしそれぞれ自由参加)

であった。このようにともすれば形式上責任が小学校から離れた形で開かれることが多い ようであるが,児童全員が観測できる形をとらなければ本来の目的を達成しえない。だか ら,表1でもわかるように長崎市内の全ての小学校では,5年生を対象に合宿やキ℃ンプ を全員参加の形で開いているのであるから,県外の調査校が用いた開催形態つまり合宿の行 事の中に組み込むという形態をとりえないものだろうか。合宿に組み込んだ調査校では児 童が生き生きと活動しており,参加後の感想を書いた作文等から天体への興味・関心を更 に深めているようである。しかしζの場合欠くことができない条件は少なくとも同学年を 担当する先生全員の賛成であり,意欲である。また観測会は非常に天候に左右されやすい という性質を持っている。このため理科年表(16〉によって過去20年間における長崎県の月別 快晴日数を図10にあらわしてみた。これによれば長崎県で比較的天候が安定しているのは 9月から11月の季節である。しかし長崎市のカリキュラムによれば「星の動き」の単元設 定時期は2月頃になっている。これは採択している教科書に準じているのであるが,表2 にあらわしたように日本で発行されている教科書6種のうち,4社までは秋に単元設定を 行なっている(17)。これはこの時期の星座も非常にわかりやすいものが多いという判断に基 づいてもいるのであろう。児童も震えながら行なう観測会は苦手としている(図7)。2学 期はさまざまな学校行事が多い時期ではあるが,年間計画の練り直しにより10月頃にこの 単元の設定ができないものだろうか。

印0︵−

5

表2 6社の教科書の単元設定時期

  月教科書

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

A

BC

D

E

F

4  5  6  7  8  9 10 11 12 1  2  3 (月)

図10 長崎県の月別快晴日数(1961〜1980年)

(11)

野外観察としての天体学習(橋本・木村・安武・梅野)

 児童達は夜空に非常な興味・関心を持ち,天体についての知識をできるだけ多く身につ けたいと願っている。これを満足させるには正しい天体の認識を観測を通して学ばせる外 に道はないと考える。またこの欲求をうまく利用することによってのみ天体学習の目標を 達成することが可能になる。天体観測会で児童が興味・関心をより大きくし,正しい観測 方法を身につけることによって家庭学習も可能になり,その観測結果を持ちよることに よって学校の授業も全員が参加できる形態に発展していくことであろう。安全面への配慮 は合宿やキャンプに組みことことによって解消することも可能である。そして気象条件に ついてはその地域の特有のパターンを考えることによりある程度解決される。また地理的 な条件については今回長崎市内の小学校,特に光害がひどいといわれている学校や地理的 な制限をうけているといわれている小学校を重点的に調査したが,観測会を開けない程影 響を受けているとは考えられなかった。最後に残った問題は教師の技量と意欲である。こ の2点は切り離しては考えられないであろう。自ら夫体を観測することによって深い感動 を受け,児童にも同じ感動を味わせてやりたいと考え,基礎的な観測技術や知識を積極的 に身につけようという意欲をもった教師の養成が今大学に求められている。それが小学校 における教師全員の協力による観測教具の正常な管理と結びつけば天体学習の目標達成の ための大きな原動力になるだろう。現在ともすれば教室内だけの理科学習で,広大な自然 の理解を求める傾向がある。これは理科学習の将来にとって大きな赤信号である。

 星の学習に関してはいくつかの問題点が提起され,目標達成の困難さが述べられている。

そこで長崎市の小学校の中から地理的な条件を考慮して13校を選び,聞きとり調査を行 なって長崎市における天体学習の現状や問題点を明確にした。つづいてこの13校の中から

3校を選び,児童の天体に関するレディネスや興味・関心を中心とした調査を行なった。

また天体観測会が開かれた小学校を対象に児童の変化や開催形態等も調査した。この結果,

星の学習を行なうにあたって最も確実で児童の興味・関心を喚起できると考えられる天体 観測会について,その開催に際して障害となっている安全面や地理面・気象的要因は工夫 することによって除去できると考えられるが,天体の学習,特に星の学習については教師 の技量や意欲が,目標達成に大きくかかわっていること,また観測器具の管理運営面に問 題があること等がわかった。意欲をもった教師の育成と天体教具の管理・運営という問題 は大学の教員養成の場で大きな感動をもたらす教育が行なわれるとともに,学習現場にお いて野外学習に対する根本的な見直しが進むことが条件になると考えられる。

 この研究をすすめるにあたり本学部地学教室の荒生公雄助教授に数々の有益な知識・技 術を教わりました。この場を借りてお礼申し上げます。

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  、       引 用 文 献

(1)堀 七蔵:日本の理科教育史  福村出版

(2)文部省:小学校指導書 理科編

(3)岡田 浩:「星の動き」の学習の進め方  日本の初等理科教育研究紀要  voL37 1980

(4)中島博和,他2名:天体の動き(4・5・6年観察教材)  理科の教育  voL24 Nα7 1975  東        洋館出版

(5)木内博:夜間現象をどう昼問指導するか 初等理科教育 voL10NQ2 1976 初教出版

(6)山口史郎:天体教材と子ども  初等理科教育  voL10 Nα9 1976  初教出版

(7)杉山 流:子どもの活動を重視した天体教材の指導  初等理科教育  vo1.10 Nα11 1976  初        教出版

(8)春原洋子:住宅地における星の指導  初等理科教育  voL12Nα3 1978  初教出版

(9)中島博和:菱川玲子:星の明るさや動き  理科の教育  vol.28Nα111979 東洋館出版

(1①林四郎:星の動き 理科の教育 vo1.30Nα41981 東洋館出版

(1D 伊神大四郎・武村重和:大糸理科教育用語辞典  明治図書

(12)山口史郎:月や太陽の動き  初等理科教育  voL12Nα5 1978 初教出版

(13)赤井和彦:昼の月の観察に基づく天体の動きの指導  初等理科教育  voL13 Nα9 1979  初        教出版

(⑳ 阿部 武:学習活動が深まり広がる契機を探る  初等理科教育  vol.14 Nα12 1980  初教出版

(m 橋本健夫:教育学部学生の自然認識  長崎大学教育学部教科教育学研究報告  vol.4 1981

(1① 斉藤錬一:天文観測好適地の気候学的選定  中央気象台研究時報  Nα7 1955

(17)東京天文台:理科年表 1982年版

(1⑳ 近角聡信・水野丈夫監:新しい理科 5上  東京書籍   坪井忠二,他38名:たのしい理科 5年下  大日本図書   大木道則,他19名:理科5下  啓林館

  前川文夫,他19名:小学校理科5年下  学校図書   和達清夫,他21名:小学理科5上  教育出版   玉虫文一:理科5年上  信濃教育会出版部

(19〉野尻抱影:天文指導について  教育復興  vol.3 Nα4

参照

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