奈良教育大学学術リポジトリNEAR
E‑mailを利用した異文化間コミュニケーション授業 の試み −日本の英語教育とカナダの日本語教育の 連携を軸に−
著者 伊東 治己, PRIKRYL Yoko Azuma
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 47
号 1
ページ 105‑122
発行年 1998‑11‑10
その他のタイトル Conducting Cross‑cultural Communication
Lessons through E‑mails : A Cooperative Pilot Project between Japan's English Language
Education and Canada's Japanese Language Education
URL http://hdl.handle.net/10105/1490
Bull. Nara Univ. Educ, Vol. 47, No. 1 (Cult. & Soc), 1998
E‑mailを利用した異文化間コミュニケーション授業の試み
‑日本の英語教育とカナダの日本語教育の連携を軸に‑
伊 東 治 己 (奈良教育大学英語教育教室) Yoko Azuma PRIKRYL * (カールトン大学応用言語学科)
(平成10年4月20日受理)
キーワード: E‑mail、インターネット、異文化間コミュニケーション
0.は じ め に
国際化・情報化の荒波が次から次に押し寄せてくる中 で、国際通信手段としてのインターネットの利用が日本 社会においても急速に普及しつつある。その中でも、い わゆるE‑mailの利用はここ数年間に爆発的に拡大して いる。このような社会変化に対応すべく、教育現場にお いても、インターネット、特にその中心的存在となって いるE‑mailを授業に活用する試みも盛んに行われてい る。特に、急速な国際化への対応が中心的課題として位 置づけられている英語科の場合、インターネットの国際 性とも相侯って、インターネットの活用法を模索し、実 践する試みが大きな広がりを見せている。日本とカナダ の間でのE‑mailの交換を中核に据えた本研究も、その ような社会的・教育的背景の中で着想された。
1.異文化間コミュニケーションとE‑mail
(1)外国語(英語)教育とインターネットの接点 1960年代から1970年代にかけてアメリカ合衆国を中 心に、教育の現代化を旗印に、コンピュータを教育的目 的のために利用する試み、いわゆるコンピュータ支援学 習(Computer‑Assisted Learning, CAL)の輪が広 がっていった。と言っても、当時は大学の計算機セン ターに設置された大型計算機を利用しての実践が中心で、
対象科目も理科系の科目が主流であった。
外国語教育の分野では、教育の現代化が視聴覚教育機 器の発達と歩調を合わせながら、 LL (語学訓練装置) の急速な普及という形で進行していった。その後、科学 技術のさらなる革新を受けて、パソコンが教育現場に浸
透するようになると、その時点で広く普及していた LLにパソコンを組み込み、より洗練された語学訓練を 実施する試み、いわゆるCALL (ComputeトAssisted Language Learning)が開始された(Johnson 1987;
Paramskas 1993;北尾1993)。それに呼応して、語学 訓練用に開発された様々な教育用コンピュータ・ソフト
も市場に出回った。
しかし、その後の情報通信技術の飛躍的発達は、コン ピュータの位置づけを根本から変えてしまうことになっ た(Stauffer 1994; Telia 1996;伊東1994)c 各家庭に パソコンが普及し、さらにそれらが電話線で結ばれてい く中で、従来どちらかと言えば計算能力に優れた‑イテ ク機器として見なされていたコンピュータが、情報処 理・情報伝達の手頃な手段として見なされるようになり、
いわゆるパソコン通信が‑般の人々の間にも急速に普及 していくことになった。
その後、通信技術のさらなる革新を受けて、それまで は個々に独立して存在していたコンピュータ・ネット ワークが徐々に統合されていき、最終的には全世界を包 摂する一大コンピュータ・ネットワ‑ク、いわゆるイン ターネットが出現することになった。その結果、当該 ネットワークに加入している人々の間でのE‑mailの交 換に限定されていたパソコン通信が、基本的に全世界を 対象にすることになったのである。
インターネット創設期は、参加機関(ほとんどが大学 や研究所といった教育研究機関)の間でのE‑mailによ る情報交換が主たる利用形態であった。しかし、その後、
インターネットの利用が着実に拡大していく中で、教育 研究機関だけでなく、私企業も含めて様々な組織や団体 及び個人がインターネットの利便性に気づき、折からの
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伊 東 治 己 YokoAzumaPRIKRYL情報公開の動きに促進されて、インターネットにホーム ページを開設し、世界に向かって情報を発信することに なった。
コンピュータ及びインターネットをめぐるこれら一連 の流れは、外国語教育にも敏感に反映され、コンピュー タは語学訓練のための洗練された‑イテク機器としてよ りも、外国語教育がそもそも主要なねらいとしている異 文化間コミュニケーションのための極めて重要な手段と
して見なされるようになった。特に、英語教育の場合は、
インターネット上で交換される情報の大半が英語で書か れていることから、インターネットとの繋がりは一段と 密になっている。今日、インターネットを利用した英語 教育の試みは、世界各地で大規模に繰り広げられている (Shirky 1994 ; Sperling 1997 ; Warschauer 1995, 1996a, 1996b;朝尾・斉藤1996;中北他1996;山内1996),
インターネットを利用した英語学習も、パソコンが学 習を支援するという点でコンピュータ支援学習(CAL) として位置づけることができる。しかし、そこで繰り広 げられる学習の中身は、従来の語学訓練を中心とした CALでの学習とは、根本的に性格を異にしている。あ くまで情報伝達のための道具としての学習支援であり、
インターネットを使うことそれ自体が、生きた本物のコ ミュニケーション活動になっている。語学訓練型の CALでは、どちらかと言えば、自然な環境で行われる コミュニケーション活動のシミュレーションが主なねら いであったが、世界をターゲットとするインターネット を利用した英語学習は、それ自体が生きた異文化間コ ミュニケーションとなっているのである。異文化間コ ミュニケーション能力の育成を主たる目標にする英語教 育とインタ‑ネットの基本的な接点がそこにある。
(2) E‑mailの利用価値
高度情報化時代の今日、携帯電話をはじめとして巷に は様々な情報機器が溢れている。その中で、インター ネットを媒介としたE‑mailが、情報伝達手段として急 速にその重要性を増しつつある。 1994年現在で、イン ターネットは世界中の100ヶ国以上の国々に在住する 2000万人以上の人々によって常時利用されており、さ らにインターネットを介してE‑mailでアクセスできる 人々が1500万人も存在すると言われている(Shirky 1994)。ここ2‑3年のインターネットの爆発的拡大を 考えるならば、今日ではその数は大幅に増加していると 患われれる。
E‑mailが国際通信手段として高度に普及した理由と しては、 ①通信速度が速い、 ②一度に大量の情報を送 ることができる、 ③一度に多数の人々に情報を発信す ることができる、 ④相手が不在の時にも確実に情報を 伝えることができる、 ⑤届いた情報をいっでも好きな
時に確認できる、 ⑥届いた情報を自由に加工できる、
(争届いた情報を簡単に転送したり、保存したりするこ とができる、などの点が挙げられる(Warschauer 1995:8)。通信速度に関しては、電話やファックスにつ いても言えることであるが、これら全ての特徴を兼ね備 えているのは、やはりE‑mailだけである。
このように、 E‑mailが優れた国際通信手段であるこ とには疑いの余地はない。しかし、異文化間コミュニ ケーション能力の育成を目指した英語授業の中でE‑
mailを活用するには、さらに積極的な理由が必要にな る。その第一の理由として、 E‑mailそれ自体が、決し て見せかけのコミュニケーションではなく、あくまで生 きた実際のコミュニケーションに他ならないという点を 指摘することができる。コミュニケーション能力を育成 するためには、実際に生きたコミュニケーション活動に 従事させなければならないということは、言語教育上の 鉄則である。教室の中でいくら自己表現活動に従事した ところで、相手がいっも教師や同級生に限られていれば、
生きたコミュニケ‑ションにはなりにくい。
二つ目の理由としては、仮に外国の人々とE‑mailの 交換を実施した場合、それ自体が正真正銘の異文化間コ
ミュニケーションになっているという点を指摘すること ができる。国際化の進展に伴い、外国の人々との交流が 以前と比べて格段に増えたと言っても、教室で外国語を 学習している学習者が実際に外国の人々と面会し、異文 化間コミュニケーションに従事できる機会はやはり限ら れている。最近では、海外語学研修も盛んに行われてい るが、期間が限られており、かつ参加できる学習者の数 にも限界がある。その点、 E‑mailは、教室に居ながら にして、学習者全員が外国の人々との生きた異文化間コ ミュニケーション活動に従事することを可能にしてくれ る。しかも、実に経済的である。その意味で、 E‑mail を利用した異文化間コミュニケーションは、極めて民主 的な異文化間コミュニケーション活動であると言える。
三つ目の理由としては、授業の中でE‑mailを活用し、
そのノウ‑ウを習得させることは、今日の国際社会で E‑mailが主要な情報伝達手段として活用されている ことを考慮すれば、学習者に優れた自己教育力を授け ることに繋がるという点を指摘することができる (Warschauer 1995)c この先、 E‑mailが実社会でどれ ぐらいの期間、情報伝達の手段として利用され続けるか は予測できない。ここ当分の問、最も重要な情報伝達手 段であり続けることははぼ間違いない。生涯学習の観点 に立てば、授業でE‑mailのノウ‑ウを習得することは、
外国語でのコミュニケーション能力を習得することと同 じぐらい重要な意味を持っことになる。
2. E‑mailを利用した授業の枠組み
本研究は、奈良教育大学とカナダのオタワにあるカー ルトン大学の間での共同研究である。本研究の機軸と なっている両大学間でのE‑mailの交換は、それぞれの 大学における正規の授業の一環として実施された。以下、
E‑mail交換の母胎となった授業について簡単に説明す る。
(1)日本側
E‑mailの交換は、奈良教育大学中学校教員養成課程 英語専攻並びに総合文化科学課程比較文化専修の1回生 を対象とした授業「英語コミュニケーション入門」の中 で実施された。本来この授業は、英語教員も含めて将来 英語に関連する職種への就職を念頭に置いている学生を 対象に、情報化・国際化の担い手となっているパソコン の基本的使用法を習得させることによって、彼らの中に コンピュータ・リテラシーを育成すると同時に、英作文 能力そのものの伸張を図ることも目標として構想された
ものである。言うまでもなく、 E‑mailはこの二つの基 本目標の両方に大いに貢献できる E‑mailを利用する ためには、インターネット及びそれを支えているコン ピュータの基本的知識が必要である。また、 E‑mailを 書くためにはある程度の英作文能力が必要となってくる。
このように、 E‑mailの交換は授業目標を達成するため の重要な手段として位置づけられている。
授業は、本学情報処理センターの実習室を利用して実 施した。この実習室には、 Windows NTがインストー ルされたパソコンが40台設置されており、それらは全 て本学情報処理センターのホスト・コンピュータと繋 がっている。本学の場合、学生は入学と同時に、全員に コンピュータ・アカウントが発行されている。故に、本 授業開始時点において、受講者は全員それぞれ独白の E‑mailアドレスを取得しており、今回のE‑mail交換プ ロジェクトに参加するに際して各自のプライバシーは完 全に確保されている。受講者は例年20名程度なので、
各自に1台のパソコンの割り当てが可能であった。
本研究では、異文化間コミュニケーションの手段とし てのE‑mailの利用価値に焦点を当てているが、授業の 中では、カナダの大学生とのE‑mailの交換に加えて、
毎週の授業の課題も全てE‑mailで提出させたり、学生 との諸連絡においてもE‑mailを大いに活用した。さら に、授業外でも、英語科のコンピュータ室も含めて、構 内数カ所に設置されたWindows NT機を利用して、コ ンピュータの積極的利用を働きかけた。さらに、異文化 間のE‑mail交換をより実質的なものにするために、
E‑mailの交換実績を最終的な授業評価に加えることに
した。
(2)カナダ側
本学の学生とのE‑mailの交換は、オタワにあるカー ルトン大学において「外国語としてのE]本語」の授業を 履修している学生を対象に実施された。この日本語の授 業は、英語を母語とするカナダ入学生に加えて、諸外国 からの留学生も数多く履修している。カナダ入学生の中 心は、日本語を含めて自分たちが研究対象として選択し
た国で話されている言語の履修が卒業要件となっている 経済学部の国際経済専攻の学生である。現在、レベルI からレベルⅢまで三つの異なるレベルの授業が展開され ているが、今回のプロジェクトに参加したのはレベルⅡ
までの学生である。
本学同様、カールトン大学の正規学生は全員コン ピュータ・アカウントを取得している。情報教育先進国 のカナダにおいては、日本以上にインターネット及び E‑mailが教育・研究の手段として頻繁に使用されてい る。広大なキャンパスの数カ所にコンピュータ室が設置 され、学生は随時それらのコンピュータ室にあるパソコ ンを利用できる。残念ながら、日本語用の通信ソフトは インストールされていない。
今回の共同プロジェクトの母胎となったE]本譜の授業 では、 E‑mailの利用それ自体は、本来、授業の柱とし ては設定されていなかった。あくまで日本語のコミュニ ケーション能力の育成が授業の主要目標であり、教室で のコミュニケーション活動に重点を置いた指導がその中 核であった。しかし、いくら日本語の国際性が、日本経 済の躍進に合わせて近年非常に高まってきたと言っても、
日本語はまだまだその通用範囲が限られた特殊な言語で ある。そのため、日本語で生きたコミュニケーションを 展開できる場は通常の大学生活においては非常に限定さ れている。よって、日本語担当教官としては、日本語に よる生きた異文化間コミュニケ‑ションの場をいかに豊 富に確保するかが重要な課題になっている。そのための 一つの有効な手段として、カールトン大学で学んでいる
日本人留学生をティーチング・アシスタントとして活用 しているが、日本語による生きたコミュニケーション経 験を豊富に学生に提供するには、まだまだ不十分である。
そういう状況の中で、奈良教育大学の学生とのE‑
mailの交換は、 E]本人との異文化間コミュニケーショ ンの経験を少しでも多く確保していくための有効な手段 として認識され、今回の共同プロジェクトの実施が決断 された E‑mailの交換を授業の重要な柱の一つとして 位置づけた以上、 E‑mail交換の実績も最終的な成績評 価における重要な観点として加えることにした。貝体的 には、日本語授業の総体評価の10%に値するジャーナ ル・ライティングの一環として載り入れられ、評価の対
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伊 東 治 己 YokoAzumaPRIKRYL象とされた。
3. E‑mail交換の枠組みと実際
(1)相互互恵の精神
今回、日本とカナダの大学生の間でのE‑mail交換プ ロジェクトを開始するに当たり、特に念頭に置いたのは、
相互互恵の精神であった。つまり、日本の大学で英語を 学習している学生とカナダの大学で日本語を学習してい る学生の両方にとって利益となるE‑mail交換の枠組み の構築であった。
英語の使用を前提として構築されたインターネットの 爆発的普及を受けて、英語が国際通信の共通語となった とは言え、英語だけのE‑mailの交換ではカナダの学生 にとってさほど利益とはならないし、その逆に、日本語 だけのE‑mail交換では日本の学生にとってさほど利益 とならない。これまでも、国境を越えたE‑mailの交換 実践はわが国においても数多くなされてきた。特に、英 語教育の枠組みの中で実践されてきたものの中には、た またま相手側が英語圏の生徒・学生であったため、 E‑
mailの言語が英語だけという実践も目立っ。なるほど、
日本の学生にとっては生きた英語を学習するための絶好 の機会には違いない。しかし、相手側にとって、全然利 益とならないわけではないが、どちらかと言えば、日本 側に好都合な枠組みになっている場合が多い。それこそ 最初はもの珍しさから、ある程度の実践は継続可能であ るが、そのうち、中身の問題になってくると、主に言葉 の壁が災いして、途中で頓挫してしまうケースも多い。
英語圏の相手から送られてくるメールの内容に答えてい くだけの英語力が、日本側の参加者に備わっていないの である。今回のプロジェクトでは、是非こういう事態は 避けたいと願った。
幸い、今回の日・加共同のE‑mail交換プロジェクト に参加したのは、日本側は奈良教育大学で英語を学習し ている学生であり、カナダ側はカールトン大学で日本語 を学習している学生である。そこで、 E‑mailの交換を 相互互恵にするための一つの方法として、それぞれ英語 と日本語でメールを交換するという方式を採用した。具 体的には、日本側からカナダ側にメールを送る場合、ま ず本文を英語で作成し、そのすぐ後に、その英語の本文 を要約したり、敷桁する形で日本語の本文を加えるので ある。英語での本文と日本語での本文の長さは、揃える 必要はなく、あくまで英語の本文が主で、日本語での本 文が従となるようにそれぞれのメールを構成するように 指導した。それに答えてカナダ側からメールを送る場合、
まず日本語で本文を作成し、それを要約したり敷桁する 形で英語での本文を追加するという、日本の場合とは逆 の方式を採用した。いずれにしても、英語での本文と日
本語での本文が単なる繰り返しになることのないように 指導した。単純な繰り返しでは、両方の本文を読む必然 性が消えてしまうからである。
日本語で本文を書く場合に、一つの問題が生じた。
カールトン大学側には日本語のメールが読めるパソコン の数が極めて少なく、今回のプロジェクトに参加してい る学生には、ほとんど使えない状況にあった。そこで日 本語での本文に関しては、原則としてローマ字を使用す ることとした。もちろん個人のパソコンに日本語環境を 既に設定できている学生は、漢字仮名交じり文を使用す ることを奨励した。もちろん、これができるのはカール トン大学の学生でも、かなり日本語のレベルが高い学生 に限られていた。
(2) E‑mail交換の形態
メールの形式を決定した後で問題になるのが、メール 交換の形態である。方法としては、大きく二つの可能性 がある。その一つは、個人単位・グループ単位・クラス 単位で作成されたメールを、双方の担当教官がクラスを 代表して交換する形態である。インターネットがさほど 教育分野に普及していなかった時点では、この方式が主 流であった(♂:g. Son & Soon 1991)c 交換されるメー ルは、個人のメールを単純につなぎ合わせる場合もあれ ば、クラスとして一つのまとまったメールに仕上げて、
交換する場合もある。もう一つは、メールの交換を学生 自身に行わせる形態である。その場合、グループ単位で メールを交換する場合もあれば、完全に個人単位でメー ルの交換を行う場合もある。いずれにしても、この三つ 目の形態を採用する場合は、学生個人にE‑mailアドレ スが発行されていることが前提となる。
今回の日・加間のE‑mail交換プロジェクトでは、基 本的には、個人単位でメールの交換を行う形態を採用し た。担当教官の役割は、それに至るまでの道筋を付ける ことであり、実際に交換が開始されるとそれを側面から 支援することとした。ただ、個人単位と言っても、自分 の希望する相手と完全に自由にメールの交換を行う方法 ではなく、双方の学生で構成される数人のグループを形 成し、そのグループ内で自由にメールの交換を行う方法
を採用した。
E‑mail交換プロジェクト初年度の1996年度は、日本 側から奈良教育大学で「英語コミュニケーション入門」
の授業を受講している19名の学生(そのうち一人は中 国人留学生)が参加し、カナダ側からはカールトン大学 で「日本語(レベルIとレベルⅡ)」を受講している32 名の学生が参加した。カナダ側の32名に関しては、日 本語の学習レベルにかなりの開きが存在していたため、
メールの中で書かれた日本語にもかなりのレベル差が観 察された。この32名の学生の中には、相当数の外国人
留学生(特に中国人留学生が主)も含まれていた。 「カ ナダ入学生」という表現を避け、 「カナダ側の学生」と いう表現を採用してきたのはそのためである。参加人数 にも両大学の間で大きな開きが存在したため、原則とし て日本側の学生1名に対してカナダ側の学生2名を割り 当て、その3名でメール交換グループを形成させた0
1997年度の場合、日本側からは前年度と同様「英語 コミュニケーション入門」の授業を受講している17名 の学生が参加し、カナダ側からはカールトン大学で「日 本語(レベルⅡ)」を受講している18名の学生(そのう ち2名は中国人留学生)が参加した。前年度と異なって、
カナダ側の日本語のレベルは同一クラスに在籍している 関係上、ある程度の統一が見られた。参加人数が浩抗し ていたので、当初は1対1での交換も考えた。しかしな がら、仮に交換相手を1名に限定してしまうと、その学 生がメール交換に消極的であった場合、メ‑ル交換が途 絶えがちになる可能性があることと、後の授業評価のと ころでも指摘するが、学期末の授業アンケートの中で
「複数のパートナーからメールがもらえて良かった」と いう意見もかなり見られので、 2対2の組み合わせを作 成し、日本側の学生2名に対してカナダ側の学生2名を 割り当てる方式を採用した。その場合、あくまで異文化 間コミュニケーションの授業の一環として今回のプロ ジェクトが位置づけられていることに鑑み、日本側の中 国人留学生とカナダ側の中国人留学生を同じグループに 割り当てないような工夫も施した。グループ内での相手 側とのメール交換は自由とした。
(3) E‑mail交換の実際
実際にE‑mailの交換を開始したのは、いずれの当該 年度も10月中旬からであった。カナダ側では既に9月 当初から日本語の授業は開始されていたが、日本側では 10月当初から後期の授業が開始された。しかも、授業 開始当初は、コンピュータにさわったことのない学生が かなりの数で存在することから、最初の2回程度はパソ コンの基本的使用方法やE‑mailソフト(ALMail)の 基本的使用方法の説明に費やさなければならなかった。
その結果、実際にこちらから最初のメールを発信したの は10月中旬以降になってしまった。
プロジェクト初年度の1996年度は、まずは日本側で 指定されたトピック(自己紹介)でE‑mailの本文を作 成し、それをグループ内のカナダ側の学生に送信した。
その後、カナダ側からの返信を待って、再度新しいト ピックでメールを送信した。カナダ側からのメールが全 部揃うまでにはある程度の時間を要したので、日本側か
ら2回目のメールを発信するまでにはかなりの時間が経 過することになった。この方法で日本側からカナダ側に 向けてメールを発信した回数は合計3回であった。
授業の中で日本側からカナダに向けてメールを発信す る場合、同じメールのコピ‑を授業担当教官にも送信す るように指導した。このことによって、ある程度、交換 メールのモニターが可能になった。なお、カナダ側から の着信メールに関しては、学期末に全てをまとめて提出 させ、成績評価の一部として考慮したO カナダ側でもほ ぼ同様の処置が取られた。つまり、日本側からメールが 届く度に、そのメールをプリントアウトし、授業担当教 官に提出させた。授業担当教官は、提出されたメールの 本文に目を通すことによって、書かれた日本語をモニ
ターし、必要に応じて指導を施した。
1997年度の場合は、授業担当教官からトピックを指 定する方法は採用せず、指定された相手側と自由にメー
ルを交換させた。しかも、授業の中でメールの本文を作 成する時間は取らず、あくまで授業外の時間を利用して、
随時メールを作成し、交換させた。その結果、メールの 交換回数には、交換パートナーごとに大きな開きが出て きたが、ことさら是正することは避けた。なお、日本か らカナダにメールを送る場合、前年度同様、授業担当教 官がメールの交換状況を把握できるように、送信メール のコピーを授業担当教官にも配信させた1996年度は 交換メールを最後に全てまとめて提出させたが、 1997 年度はそれまで取り交わされたメールをそのまままとめ て提出させる代わりに、それらのメールの内容に基づい て、交換パートナーやその家族を紹介する英文を作成す
るという課題を与え、評価の一部として考慮した。
(4)交換E‑mailの具体的内容
ここでは、実際に交換されたE‑mailの内容を原文の まま紹介する。既に指摘したように、英語と日本語の両 方で本文を書くことになっている。
ア) 日本からカナダへ Dear Michael,
Hello. My name is Naoko Nagata. I am stu‑
dent in the Nara University of Education. My cur rent major of studying is English. I am sorry I havent written for a long time. I was very busy with our school festival. Now it is over. Do you have a school festival in your college? I live in Nara. But I come from Okayama. In this April, I began a single life. I have a family of three. I have no brother and sister. So my parents are verylonely. Doyou belongtoaclub? I am a man‑
ager of soccer club. Our team is not strong very much. But everyone is good friend, so I enjoy myself. I am looking forward to your letter. If you have questions about me or Japan, please ask me.
110
伊 東 治 己 YokoAzumaPRIKRYLWatashi no namae wa Nagata Naoko des. Watashi wa Nara kyouiku daigaku no gakusei desu. Ima eigo nokyoushi ni naru tame ni benkyou site imasu. Watashi wa Okayama syushin desu ga imawa Nara ni hiton de kurashi te imasu. Anata kara no meilu wo tanoshi ni shiteimasu.
イ)カナダから日本へ
Mizuta Sachiyo san Konnichi wa. Hajimemashita, Watashi wa reddowoddo Tomasu desu. Gommena‑
sai, ima wa zembu romanji kaiteimasu. Watashi no nihongo romanji honto dameidesu. romanji wa tottemo muzukashn desu. Watashi wa kanji totemo suki desu. Ima, Watashi wa karuuton dai‑
gakuin no gakusai desu. Watashi no senmonwa seiji desu. Watashi wa kokusaikan no hattatsu o benkyoshimasu. Watashi wa 26 sai desu.
I studied Japanese economics and Politics at Carle‑
ton University as my undergraduate degree and I spent one year at Kansai Gaidai Daigaku. After finishing my degree I went to China for one years study in Anhui Province (Anki Sho), Hefei City. When i finish school this year I want to work in Japan or in another Asian Country like China or India to help with there develop‑
ment. Sorry today is not very long but I have 3 major papers do on Tuesday, plus 2 small assign‑
ments for Japanese Class and a Kanji test. Hope to hear from you soon, your new email partner.
ウ)パートナー紹介
1997年度、日本側では交換したE‑mailの内容に基づ いて、パートナーを紹介する英文を作成するように求め た。次に示すのは、その中の一例である。
One of my Canadian partner is Vlatkom Miloinkovic. She comes from Yugoslavia. She
feels sorrow about the war that was going on there. So she came to Canada to look for a better life. She got married just before she came to Canada, so she lives with her husband now. Her families and a lot of friends are in Yugoslavia.
They have some friends from Yugoslavia in Canada.
We have some common things. First, both of us like to watch movies, especially old movies (black‑and‑white movies). And also she likes Hoト Iywood and French movies. She recommends
some Hollywood movies. "Smoke", "Pulp Fiction"
and "Strange Days" in detail. As for her favorite actor and actress, she has a couple of favorites, such as AI Pacino and Mary Streep. Second, now she works in a boutique as a part‑time job. After schools, she used to tutor. Tutor is a teacher who goes to the students' house and gives lessons privately. I tutor two students now. Third, she doesn't know much about Japanese music. But
she has only one CD oHapanese singer. The Japa‑
nese singer is "Pizzicato Five. I have the same CD of hers as it happens. I like the singer, too.
She said in her E‑mail that "Pizzicato Five is famous among young people in Canada. She hs‑
tens to different kind of music. Recently she hs‑
tens to a CD with a Cuban music. These common things make us feel really familiar and we can com‑
municate each other easily. She is not sure about her future yet, but she says she would be very happy to get a job where she has the opportunity to use Japanese language.
4.アンケートによる授業評価
E‑mailを利用した異文化間コミュニケーションの授 業を学習者がどのように評価しているのか把握するため、
1996年度と1997年度の学期末に奈良教育大学とカール トン大学において授業アンケートを実施した。実施に当 たっては、調査結果を比較するため、基本的なフォー マットの統一を図った(付録参照)。カナダでのアン ケ‑トでは説明文に英語を使用した。以下、アンケート の質問項目に沿って、受講者の実態並びに彼らのプロ
ジェクトに対する反応を分析する。
(I)受講者のE‑mail経験
まず、今回のE‑mail交換プロジェクトに参加した学 生が、プロジェクト開始時点でE‑mailの経験がどの程 度あるのかを把握するため、日本とカナダで同一の フォーマットで質問した。次の表1と表2は、その結果 をまとめたものである。
表1 1996年度E‑mail経験比較 パソコンを使うこと自体、初めての経験 パソコンは使っていたが、 E‑mailは初めての
経験
E‑mailの交換は行っていたが、外国の人達と 交換したのは初めて
以前から外国の友人等とE‑mailの交換をして いた
o e n * t r > 2
0 in ‑^ o
H H H H H H
表2 1997年度E‑mail経験比較
パソコンを使うこと自体、初めての経験 パソコンは使っていたが、 E‑mailは初めての
経験
E‑mailの交換は行っていたが、外国の人達と 交換したのは初めて
以前から外国の友人等とE‑mailの交換をして 3 8 いた
既に指摘したように、教育におけるコンピュータ利用 に関しては、カナダの方が日本よりもはるかに進んでい る。 「パソコンを使うこと自体、初めての経験」と答え た学生がカナダの場合は一人もいない反面、日本側は、
96年度が10名、 97年度が5名もいる。カナダでの参加 者は必ずしも大学の1回生とは限らないので一般化する ことはできないが、この二つの表に示された結果から理 解できるように、カナダの大学生にはE‑mailも含めて コンピュータが身近な存在になっているようである。た だ、日本の学生についても、わずか2回のアンケート調 査の結果に基づいてではあるが、次第にコンピュータが 身近な存在になりつつあると推測することができる。
(2) E‑mail交換形態
今回のE‑mail交換プロジェクトでは、いずれの年度 においても、指導者はプロジェクト開始当初、 E‑mail の交換相手の割り振りを行うだけで、実際の交換に関し ては参加学生各自の責任において実行する形態を採用し た。このことに対する参加学生の反応を碓かめるための 質問事項もアンケートに加えられている。まず、下の表 3は、交換相手の割り振り方法に対する日本側の学生の 反応をまとめたものである。
表3 交換形態への反応
7SB91
6991
多すぎたので、できれば相手は一人にして欲しい 複数の相手から返事がもらえて、良かった 相手を指定されずに、自由にメールが交換でき
引 L<>V汎
﹁n
HH
>
^M
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V
る方が良い
二人ないしはグループで一つのメールを作成し、 0 1 交換した方が良い
その他 3 1
次の表4は、 E‑mailの交換を参加学生各自の責任に おいて実施したことに対するカナダ側の学生の反応をま とめたものである。
表4 交換形態への反応
1996 1997 I prefer to write e‑mail on my own. 29 18 I prefer to write e‑mail together with ano‑
ther person or in a group.
1996年度の場合、日本側の19名に対して、カナダ側 は32名の学生が参加したため、原則として日本側の学 生1名に対して、カナダ側の学生2名を割り当てざるを 得なかった。結果的に、日本側の学生にとってかなりの 負担加重になってしまった。
1997年度は、原則として日本側の学生2名に対して カナダ側の学生2名を組み合わせて4名からなるE‑
mail交換グループを作成し、その中で自由にメールを 交換させる方式を採用した。もちろん、最初の段階にお いては、日本側もカナダ側も必ず相手側2名の交換相手 に対して個別にメールを差し出すことを求めた。
このグループ内交換の形態に対して、いずれの年度の 調査においても学生の反応は分かれている。 「複数の相 手から返事がもらえて、良かった」という肯定的な反応 を示した学生の数と「多すぎたので、できれば相手は一 人にして欲しい」と答えている学生の数が浩抗している。
やはり、メールの交換相手が2名もいることを負担に感 ずる学生もいるようである。また、 1997年度の日本側 の調査では、 「相手を指定されずに、自由にメールが交 換できる方が良い」とする学生が17名中5名にも達し ている。いずれにしても、交換相手の割り振り方法につ いてはまだまだ研究の余地が残されている。
表4に示されているカナダ側での調査結果および表3 の日本側の調査での「二人ないしはグループで一つの メールを作成し、交換した方が良い」という選択肢の反 応数から判断する限り、 E‑mailの交換形態については、
グループで一つのメールを作成し、それをグループ間で 交換するという形態は大学生の間では支持されていない。
(3) E‑mail交換回数
1996年度の場合、交換メールのトピックを指導者側 であらかじめ指定する方式を採用したため、授業として の正規のメールの交換は3回であった。もちろん、これ ら正規のトピックを指定されたメールの交換に加えて、
自発的にそれぞれ独白のトピックでメールを追加的に交 換した学生もいた。次の表5は、正規のメール交換の頻 度についての学生の反応をまとめたものである。
表5 交換頻度について
3回ぐらいが適当 3回では不十分
日本とカナダとで学生の反応が極端に分かれた。 「3 回ぐらいが適当」と答えた学生は、日本側が全体の3分 の2以上である反面、カナダ側では8分の1にしかすぎ ない。まだまだE‑mailに慣れていない日本側の学生に
してみれば、メールの交換回数が増えると言うことは、
112
伊 東 冶 己 YokoAzumaPRIKRYLそれだけ英作文を含めてメール交換に関わる作業の量が 増えると言うことで、大半の学生が「3回ぐらいが適
当」と答えたものと思われる。
それとは対照的に、既にE‑mailが大学生活の一部に なっていると恩われるカナダ側の学生の場合、 3回では 不十分だと回答した28名の学生のうち、 9名は毎週の 交換を、 8名は各週の交換を、 10名ができる限り頻繁 な交換を、そして1名が1ヶ月ごとの交換を希望してい る(付録参照)0
そこで、 1997年度の実践では、前年度のアンケート 結果を踏まえて、ペアーごとに随時メールを交換させる 方法を採用した。その結果、メールの交換の頻度にばら つきが出てきた。 E‑mail交換プロジェクト期間中に二 人のカナダ側のパートナーから受けとったE‑mailの合 計数を日本側の学生に尋ねてみた。すると、 1‑3通が 5名、 4‑6通が6名、そして6通以上が6名という結 果が得られた。しかも、これらの数字はペアー単位の合 計数字であり、ペアーの中のパートナーによってもかな りのばらつきが出ている。この点は、付録に示されてい るカナダ側のアンケート結果にもよく反映されている。
(4) E‑mailで取り上げられたトピック
1996年度の場合、 E]本側からカナダに向けてメール を発信する時に、あらかじめ授業担当教官の側でメール に盛り込むトピックを指定した。指定したトピックは、
正規のメールの交換回数に合わせて、自己紹介・大学紹 介・入試制度の三っである。 1996年度に行ったアン ケートでは、この三っのトピックについての学生の反応 を調べた。次の表6はその結果をまとめたものである。
表6 トピックの適切さ 自己紹介:適切
不適切
どちらとも言えない 大学紹介:適切
不適切
どちらとも言えない 入試制度:適切
不適切
どちらとも言えない
指定された三っのトピックのうち、自己紹介と大学紹 介については、日本側の学生からもカナダ側の学生から も概ね好意的な評価を得ている。しかし、入試制度に関 しては、日本とカナダの学生の間で、大きな違いが見ら れる。日本側の学生の場合、入試制度に対して全体の3 分の1弱の学生しか適切であったという評価を与えてい ない反面、カナダ側の学生の場合、 4分の3以上の学生 が適切だと評価している。おそらく、日本側の反応には、
過酷な受験競争を潜り抜けてきて、いまさら入試につい てはあまり語りたくない日本人学生の感情が反映されて いると考えられる。その反面、そもそも入試制度それ自 体が存在しないカナダ側の学生には、日本側から入試制 度というトピックで送られてきたメールの内容が新鮮に 思えたことが容易に想像できる。その意味では、今回、
日本とカナダでの評価が大きく食い違った入試制度とい うトピックは、メール交換の常套手段である自己紹介や 大学紹介よりも、異文化間コミュニケーションの観点か
らすれば、適切なトピックであったと評価できる。
なお、 1996年度の学期末に実施されたアンケート調 査では、 E‑mailで扱うトピックとして、指定されたも の以外にどのようなトピックがふさわしいと考えられる かという点も、両国の学生に質問した。日本側の学生か ら出てきたトピックとしては、国の紹介・文化・日本の 生活・食事・祭り・行事・自分の故郷・最近の出来事・
家族・社会と自分・学生生活・英語の学び方・国際関係 などが目立った。一方、カナダ側の学生から出てきたト
ピックとしては、将来の計画・家族の日常生活・大学行 事・大学生活一般・カナダに対する意見・カナダと日本 の比較・日本の政治の現状・日本での最新の出来事・日 本のテクノロジー・国際ニュース・日本の経済状況・音 楽・言語状況などが目立った。日本側の学生の多くがで きれば英語の教員免許取得を希望している反面、カナダ 側の学生の中に国際経済を専攻している学生が数多く含 まれているという学生集団の性格の違いが反映されてい て、興味深い。
(5)学習効果
今回のE‑mail交換プロジェクトの主たるねらいは、
E‑mailによる生きた異文化間コミュニケーションを経 験させることによって異文化間コミュニケーションその ものへの関心を高めると同時に、その中で外国語として の英語及び日本語での作文能力を向上させることにある。
さらに、副次的なねらいとして、情報化の担い手となっ ているコンピュータ及びE‑mailについての知識や基本 技能を習得させることも念頭に置かれている。学期末に 日本とカナダで実施したアンケート調査では、今回の共 同プロジェクトがこれらのねらいをどの程度充足してい るのかを、学生による自己評価という手法で調べること にした。以下、アンケートの質問項目に沿って、学生の 反応を分析していく。
ア)コンピュータとの心理的拒稚
まず、パソコンの利用を前提とした今回のE‑mail交 換プロジェクトが、とかく文化系の学生にとっては苦手 な存在であるコンピュータと自分との心理的距離をどの 程度縮小することに貢献できたかを尋ねてみた。次の表
7は、その結果をまとめたものである。
表7 コンピュータが身近に感じられるようになった
1996 1997 日 加 日 加 そう思う
そうは思わない どちらとも言えない
^ . 蝣 蝣 3 回 九
1 0 0 22 1 5 2 01 n
U 8 0 n H H H H H
日本側の学生の大半が今回のE‑mail交換プロジェク トがコンピュータとの心理的距離を縮めてくれたと答え ている反面、カナダ側の学生の場合、 1996年度は全体 の3分の1に当たる学生が、そして1997年度は全体の 半分近くの学生が、 「そうは思わない」と答えている。
カナダ側の「そうは思わない」という回答については、
若干留意する必要がある。その中身は「I became more comfortable using a computer.」という選択肢から理 解できるように、決して今でもコンピュータとの心理的 距離が遠いと言うことではなく、今回のE‑mail交換プ ロジェクトがそれまで以上にコンピュータとの心理的距 離を縮小することに役立ったかという質問に対して、
「そうは恩わない」と答えていると解釈すべきだと患わ れる。要するに、この質問に対して「そうは思わない」
と答えた学生の場合、今回のプロジェクトが開始された 時点で既にコンピュータを大学生活の一部として活用し ていたことが十分予測される。その反面、日本側の学生 の場合、額面通りに、今回のE‑mail交換プロジェクト が参加者とコンピュータとの心理的距離を縮小する上で 大きな力となったと考えられる。いずれにしても、この 質問に対する日本側の学生とカナダ側の学生の問での反 応の相違は、それぞれの側の大学生活へのコンピュータ
の浸透度の違いを如実に反映しているものと考えられる。
イ) E‑mailの便利さの理解
次に、カナダ(日本)の学生とE‑mailを交換して、
E‑mailの便利さが理解できるようになったかどうかを、
尋ねてみた。表8は、その結果をまとめたものである。
表8 E‑mailの便利さが理解できた
1996 1997
H 加 tl
・刀 ‖
そう思うそうは思わない どちらとも言えない
4
1
4
1...1 5 5 22 6 1 01 2 5 1H HH HH
この質問に対しては、日本側の学生からも、カナダ側 の学生からも概ね好意的な反応が返されている。ただ、
「そうは思わない」及び「どちらとも言えない」という 選択肢に対する反応に関しては、日本側の学生とカナダ 側の学生の聞及び実施年度の間に若干の相違が見られる。
「そうは患わない」と答えたカナダ側の学生の反応は、
やはり、コンピュータとの心理的距離のところでも指摘 したように、 E‑mailの存在そのものが既に大学生活の
一部になっていて、今回のプロジェクトがことさらその 利便性を印象づけることはなかったことを物語っている と考えられる。その反面、 1996年度の調査で「どちら とも言えない」と答えた日本側の学生に関しては、カナ ダ側の学生とは違って、今回のプロジェクトを経験して もまだまだE‑mailに馴染めていないのが事実であろう。
ちなみに1997年度の調査では、 「そうは恩わない」と答 えた一人を除いて全員が、今回のE‑mail交換プロジェ
クトを経験して、 E‑mailの利便性が理解できたと答え ている。おそらく、このような年度にまたがっての反応 の相違は、この1年間における日本社会、とりわけ大学 生活におけるE‑mailの普及度・重要度の高まりを反映
しているものと推測される。
ウ)英語(日本語)の重要性の認識
今回の日本とカナダの間でのE‑mail交換プロジェク トが、国際コミュニケーションの手段としての英語(カ ナダ側は日本語)の重要性の認識度を向上させたかどう かについても調査した。次の表9は、その結果をまとめ たものである。
表9 英語(日本語)の重要性認識できた
1996 1997
日 加 臼
刀目そう患う そうは思わない どちらとも言えない
サ r o l 0
日目 9 1 22 5 2 01 4 3 11
日本側の学生の多くが英語の教員免許取得を希望して いること、及びカナダ側の学生の全員が自ら希望して日 本語のクラスを受講し、かっ、今回のE‑mail交換プロ ジェクトにも自発的に参加していることを考え合わせれ ば、表9に示されている好意的反応は、予想通りの反応 と言える。だからと言って、今回のプロジェクトが可能 にした国境を越えた同世代間での生きたコミュニケー ション経験が、異文化間コミュニケーションにおける英 語(日本語)の重要性を認識させる上で大きな力になっ
ている可能性を少しも減ずるものでない。教室でのまね ごとのコミュニケーション活動にはない強みが、E‑
mailを利用した異文化間コミュニケーション活動には 存在しているのである。国際化が益々進展しつつある今
日、外国語教育に強く求められているのは、まさに作ら れたコミュニケーションではなく、本物のコミュニケー
ションなのである。
エ)英(日本語)作文への自信
一般に、われわれが外国語でのコミュニケーションに 自信が持てるようになるのは、実際のコミュニケーショ ン場面において相手の意図が理解できたり、自分の意思 を相手に伝えることができたという経験を経た後である。
その意味において、今回のE‑mailを利用した実際の異
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伊 東 治 己 YokoAzumaPRIKRYL文化間コミュニケーションの経験は、外国語でのコミュ ニケーションに対して一つの自信を植え付けるきっかけ を提供している。学期末のアンケート調査においても、
今回のプロジェクトへの参加が英(日本語)作文への自 信を向上させることに繋がったかどうかを確認するため の質問項目を用意した。次の表10は、その結果をまと めたものである。
表10 気軽に英文(日本文)を書けるようになった
1996 1997 日 加 日 加 そう思う
そうは思わない どちらとも言えない
n D n ォ )
1 2 6 42 父: ‑r in 2 5 1
1
E‑mailの交換が英(日本語)作文への自信を増大し たかどうかの自覚症状に関しては、日本側の学生とカナ ダ側の学生との間で顕著な相違が見られる。日本側の学 生に関しては、気軽に書けるようになったと答えた学生 の数が「そうは思わない」及び「どちらとも言えない」
と答えた学生の数と浩抗している反面、カナダ側の学生 に関しては、 「そう思う」と答えた学生の数が、 「そうは 思わない」及び「どちらとも言えない」と答えた学生の 数の2倍に達している。目標言語での作文への自信の育 成に関しては、 E‑mailの交換がカナダの学生の方に対
して有利に働いたことが良く分かる。
このことは、おそらくそれまでの目標言語の学習経験 の量に関係していると推測される。カナダ側の学生の場 合、ほとんどが日本語の学習を大学生になって始めてお り、初級レベルではよく観察されることではあるが、日 本語での作文能力の伸張が短期間のうちに実感できる状 況にある。一方、日本側の学生の場合、英語の学習は7 年目に当たり、英作文能力の発達に関しては、既に一定 の段階まで到達しており、いわば高原状況にある。つま
り、短期間のうちには自分の作文能力の向上が実感でき にくい状況にある。上の表10に見られる日本とカナダ の学生の間での反応の違いは、このような目標言語の学 習経験の違いに原因を求めることが可能であろう。
なお、カナダ側の学生の間で観察された日本語作文へ の自信の向上感覚が、漢字を含めた通常の日本語の作文 への自信を示しているのかは、定かではない。漢字が使 えるシステムが限定されていたために、ローマ字を利用 してE‑mailの交換を行った学生が多いためである。
オ)英(日本語)作文能力の向上
英(日本語)作文への自信の高まりに加えて、実際に 自分の英(日本語)作文能力が伸びたと患うかどうかと いう点についても、アンケートで学生の反応を調査した。
次の表11は、その結果をまとめたものである。
英(日本語)作文‑の自信の場合以上に、日本側とカ
表11英(日本語)作文の力が少しは伸びたと思う
1996 1997
日 加 日 刀 :
そう思う そうは思わない どちらとも言えない
3 8 8 0 7 52 2 6 9 0 3 5. ‑ HH HH
ナダ側の学生の間に顕著な差が見られる。日本側の学生 の場合、今回のE‑mail交換プロジェクトを通して英作 文能力が向上したと感じた学生がいずれの年度も全体の 5分の1弱である反面、カナダ側はいずれの年度におい ても半数以上の学生が、プロジェクトへの参加を通して 自分の日本語作文能力が向上したと考えている。
この日・加間の相違は、英(日本語)作文への自信の 高まりのところでも触れた学習経験の相違に関連してい ると推測される。日本側の学生の場合、いわば既に英作 文能力が伸びきった状態で今回のプロジェクトに参加し ている反面、カナダ側の学生は、ほとんどの場合、日本 語作文能力が極めて限られている状態で今回のプロジェ クトに参加している。カナダ側の学生の間で作文能力の 伸びが観察されるのも、半ば当然である。
(6) E‑mailへの動権付け
国際化及び情報化が今後益々進展していくことが予測 される中で、 E‑mailへの社会的・教育的需要は今後さ らに高まっていくものと患われる。特に、国境を越えた 異文化間コミュニケーションの手段として、その重要性 は益々増大することが予想される。それに合わせて、外 国語教育の分野のみならず、その教育的利用も爆発的に 増大していくであろう。特に、英語教育の場合は、英語 の国際性とも相侯って、 E‑mailの利用が英語学習の手 段であり、かっ、いわゆる4技能と同列に扱われる独立 した目的として位置づけられることになるであろう。従 来、読むことや書くことの指導においては印刷物を対象 にした指導が大半であったが、今後はE‑mailの枠組み の中での書くことや読むことの指導の重要性が一段と増 大していくことが容易に想像されるし、既にその動きが 始まっている。その意味では、今回のE‑mail交換プロ ジェクトがきっかけとなって、参加者のE‑mailへの関 心や意気込みが高まってくれることを願わないではおれ ない。そこで、学期末に実施されたアンケート調査にお いても、プロジェクト参加者のE‑mailへの動機付けを 調べた。
ア) E‑mail交換継続の意志
まず、次の表12は、プロジェクト参加者に対してプ ロジェクト終了後もパートナーとのE‑mailの交換を継 続する意志があるかどうかを尋ねた質問に対する反応を まとめたものである。
日本側の学生も、カナダ側の学生も、プロジェクト終