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DNA 分子の化学構造変化が遺伝情報維持に与える 影響を再考する

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はじめに

 生命機能を担うゲノムDNAは、その本体の化学構 造が炭素を骨格とする有機高分子であるため、比較的 様々な化学物質と容易に反応し、化学修飾を受けやす い。生物が生活する環境中には、このDNAに化学修 飾を与える様々な化学反応因子、すなわち変異原が生 物階層の多岐にわたって存在する。それゆえDNAは、

絶えずそして常に化学修飾変化を伴いDNA損傷を受 けることになる。DNA損傷は、細胞が増殖するため に必要なDNA複製という分子機構、また細胞がその 恒常性を維持するためのRNA転写という分子機構、

さらに細胞の分裂を担う分子機構などを阻害し、突然 変異、細胞死を導き、最終的に細胞からなるヒト個体 において、がんなどの疾患および老化を導くと思われ る。一方、DNAを主たる遺伝情報の担い手とする生 物は、この避けることのできない不測の化学的変化で あるDNA損傷を修復する分子機構を有している。そ の分子機構をDNA修復という。

 この総説では、DNAに生じた化学構造変化(DNA 損傷)およびその損傷を修復する遺伝情報維持機構

DNA修復)に焦点を当て、現在までの解析結果とこ れらから研究課題について考えて見たい。

DNA 化学構造、その損傷と修復

 生命情報というのは、遺伝されなければならない。

生命情報はすなわち生命を形成し、維持するために必 要な基本情報であり、本質的に親から子へ伝わって ゆく遺伝情報である。その重要な情報は、化学物質 DNAの中に収められている。DNAは、二本のDNA 鎖から形成されている。その一本の鎖は塩基(アデニ ン、チミン、グアニン、シトシン)、リン酸、そして デオキシリボースの3つの分子からなるヌクレオチド が互いにリン酸ジエステル結合によって合成された高 分子である。その高分子鎖が互いに逆平行になること で、互いの鎖が有する塩基間でそれぞれの塩基同士が 形成する水素結合によって二重構造が維持されてい る。また通常の状態では、この水素結合はアデニンに 対してチミン、シトシン対してグアニンと決まってい る。またその立体構造はいわゆる二重らせん構造を とっている。この構造が遺伝情報をうまく維持し次世 代に移行(遺伝)してゆくために適していると考えら れる[1, 2]。

 この基本構造の重要な点は、相補するそれぞれの4 つの塩基が情報を記録する文字となっていること、ま た二本鎖DNAの片側ずつに全く同じ情報が保持され Abstract

  Genome DNA is vulnerable to many types of DNA damaging agents in our environment. DNA damaging agents react with a DNA molecule and inhibit basic DNA metabolisms (e.g. replication, transcription, cell cycle). Therefore, DNA chemical structural alterations, DNA lesions, are thought to induce mutations and/or cell death, resulting in cancer and aging. Here we show that the DNA lesions and the DNA repair mechanism and the effects in the cells. The information will help to understand how DNA structural alterations interfere with DNA and cell metabolisms.

1)福岡大学理学部化学科,〒814-0180 福岡市城南区七隈8-19-1

  Department of Chemistry, Fukuoka University, 8-19-1, Nanakuma, Jonan-ku, Fukuoka 814-0180, Japan

倉岡 功1)

Reconsideration of DNA Structural Alterations in the Maintenance of Genetic Information

DNA 分子の化学構造変化が遺伝情報維持に与える 影響を再考する

(平成30年1月22日受理)

(Received January 22, 2018)

Isao K

uraoka1)

(2)

してしまう場合である。多細胞であるヒトにおいては、

この変異が生じて細胞が発がんに導かれる方が個体と しての危険性が高いかもしれない[5(図2)。

 DNA損傷の修復機構としては、直接回復:DR、塩 基除去修復:BER、ヌクレオチド除去修復:NER、ミ スマッチ修復:MMR、組換え修復:HR、非相同末端 修復:NHEJ、オルタナティブ除去修復:AERなどが 存在している[2, 6, 7]。分子機構としては、非相同末 端修復:NHEJを除き、どの修復もその遺伝情報を保 護する為に先に述べた反対側の遺伝情報を用いてその 維持を行なっている。また、基本的に遺伝情報維持に 関わる修復経路となるので、ヒトにおいては一部の修 復機構の欠損(NERMMRHRNHEJに関与する 遺伝子の変異)は遺伝子の不安定性を導き、直接発が んに関与する[4, 8]。

 では、実際にDNAを損傷する環境の条件はどのよ うなものが存在するか。その環境要因と損傷および生 物学的な特徴を示す。また、ここでは生じた損傷を取 り除く機構として、最もその分子機構が解析されてい BER(図3)、NER(図4)、MMR(図5)、およ NHEJHR(図6)についてその概略を示す。

ていることにある。DNAが片側にある情報を何かの 理由で失っても、もう片側が維持されていれば、その 残った部分にある情報をもとに新規の情報を構築する ことができる。つまりDNAは1つ分子の中に2つの 情報を有し、その2つの情報は互いを相補できるよう になっている(図1)。

 一方、DNAが化学物質である以上、様々な化学的 修飾を受けることになる。その要因となるものが変異 原と呼ばれるものである。この変異原は我々の一般 的な環境にも存在するし、また体内にも存在する。例 えば、太陽光の中の紫外線や天然に存在する自然放射 線[1]、また食事などによって取り入れた食品中の化 学物質のあるもの[3]、さらには幾つかの抗がん剤は DNAに化学的修飾を与える[4]。そのような修飾を DNA損傷と呼ぶ。生物一般にこの生じたDNA損傷は 修復され、元の化学修飾される前の塩基に戻り、安定 してその情報を維持できる。しかし、時としてDNA 修復が遅れてしまい、複製までにその損傷が生体内の 分子つまりタンパク質によって認識されないことがあ る。そのような場合、二つの取るべき道が考えられる。

つまり、損傷によって細胞が死ぬ場合と損傷を無理や り乗り越えてDNA複製を行い、最終的に変異を起こ

図1 DNA遺伝情報は2本鎖構造によって維持されている アデニン:A、シトシン:C、グアニン:G、チミン:T。

2本鎖DNAはそれぞれの1本鎖に同じ遺伝情報をもち、

互いの情報をバックアップできる。

図4 NERの分子機構

紫外線などにより生じた比較的嵩高い損傷を認識し、損 傷の両末端を切断、損傷を有するヌクレオチドは取り除 かれる。

図2 DNA遺伝情報は変異原によって損傷をうけている アデニン:A、シトシン:C、グアニン:G、チミン:T、

損傷:X、損傷に相補する塩基:Y。損傷は修復される。

もし修復されなければ突然変異(G・C→X・Y)が生じる。

複製が不可能な場合、細胞は致死になる。

図3 BERの分子機構

塩基が損傷を受けた時に、DNAグリコシラーゼにより 塩基損傷は取り除かれる。その後、生じたAPサイトの 末端を処理し修復する。

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保有し、その名の通り光のエネルギーを使って、紫 外線によって生じたDNA損傷を修復する[14]。こ れはDRの一つと考えられる。

2、6⊖4光産物:6⊖4光産物(6-4pp)も、CPD 同様によく解析された紫外線によって生じるDNA 損傷の一つである[9]。この損傷もCPD同様に嵩高 く、DNAの構造を歪める[15]。またその発生頻度 CPDより低いとされているが、生じた損傷は生 体により悪影響を導くと考えられている。事実、こ の損傷によって変異を引き起こすことが顕著であ る。そのためか生体内では早い段階で修復をするこ とが知られている。その歪みからか相対する塩基 とは水素結合を形成できない、つまり簡単なミス マッチを形成していると考えられる。この損傷の修 復にもNERが機能することが知られる[13]。しか しながら、これを直接的に損傷乗り越えるDNA リメラーゼは見つかっていない。このことが、この

6-4ppが生体に悪影響を与える原因になっていると

考えられる。

3、デュアー型光産物:もう一つ紫外線DNA損傷の タイプにデュアー型光産物がある[16]。この損傷は、

6-4ppと挙動を共にし、生物学的にはその修復およ

び障害もほとんど同程度と考えられている。重要な 点は、太陽光などの様々な波長が混じり合う状況で はこのデュアー型光産物の方が6-4ppより高頻度に 生じていると考えられる。つまり実際の生物に現れ る紫外線障害は、主にデュアー型光産物により起因 すると考えられる。

脱アミノ化により生じる DNA 損傷

(脱アミノ化 DNA 損傷)

1、ウラシル:脱アミノ化反応は、生体内では比較的 容易に生じるDNA損傷として考えられている。特 にシトシンにおいて生じる脱アミノ化反応はウラシ ルに変えてしまう[1]。ウラシルは本来RNAの塩 基としてチミンの代わりにアデニンと対合すること ができるのだが、DNAにおいてシトシンからウラ シルの変換は、修復されずにその損傷が残った場合、

容易に変異を引き起こすことが考えられる。この損 傷はDNAポリメラーゼを阻害することがなく容易 に誤塩基対を導く。ウラシルDNAグリコシラーゼ は、ウラシル塩基を切断するDNA修復酵素であり、

損傷塩基を取り除いた後、全体としてはBERとい う機構によって迅速に修復される[17]。ヒトを含め た哺乳類細胞においてはウラシルを除去できるグリ コシラーゼが数多く存在する[18]。さらに次世代ゲ ノム解析によりAPOBECなどの編集酵素が「がん」

紫外線により生じる DNA 損傷

(紫外線 DNA 損傷)

1、シクロブタンピリミジンダイマー:シクロブタン ピリミジンダイマー(CPD)は最もよく解析されて いる紫外線DNA損傷の一つである[9]。この損傷 DNAに紫外線(260nm近傍)照射することによっ て生じる。このCPDは化学合成されて、そのCPD は嵩高く、DNAの2重らせん構造を歪める。しか しながら、面白いことにCPDの場合その対合する 塩基との間に水素結合が形成されており、歪めて いるもののその程度は大きくない。従って生体内で DNA損傷が導く障害として、複製および転写を 停止することができるが示されている。少なくとも ヒトの細胞においては、DNAポリメラーゼηがこ DNA損傷を乗り越えて、その複製の停止をキャ ンセルすることができる[10, 11]。損傷の修復とし ては、ヌクレオチド除去修復と呼ばれるDNA修復 機構によって損傷をヌクレオチドレベルで取り除く

12, 13]。また一部の生物ではこの損傷を修復する

ためには、光回復酵素と呼ばれるDNA修復酵素を 図5 MMRの分子機構

複製の新規DNA合成により生じた誤塩基対(ミスマッ チ)および新生鎖を認識し、ミスマッチの両末端を切断、

DNAを分解することでミスマッチは取り除かれる。

図6 NHEJおよびHRの分子機構

放射線などにより生じた2本鎖DNA切断(DSB)は、

NHEJとHRの2つの経路により修復される。NHEJは切 断末端を処理し修復する。HRは相同性組換え機構を用 いて、相同DNA鎖の相補鎖から新生DNAを合成し、遺 伝情報を維持する。

(4)

脱塩基化によって自然状態で頻繁に生じていること が指摘されており、細胞内でのDNA損傷として有 名なものの一つである。また、脱アミノ化反応や 酸化反応によって生じたDNA損傷は基本的にBER により修復されるが、その修復過程で生じるものと しても、このAP部位は生じる。AP部位はAPE いう酵素によって切断することでBERの主経路に 機能することになる[18]。脱塩基の欠落という状況 では、この反対側に塩基を挿入することができない のでDNAポリメラーゼが基本的に停止する。しか しながら、損傷乗り越えDNAポリメラーゼREV1 はシトシンを挿入することが知られている[26]。ま た、AP部位は非常に不安定な損傷と考えられてお り、容易に分解することでDNA鎖が切断されるこ とになる。この切断は、修復されにくいと考えられ ており、修復するためにはタンパク質が機能する必 要がある。

放射線による DNA 損傷

 この最も典型的なDNA損傷は、恐らくDNA鎖切 断であろう。つまりDNAの二重らせん構造の崩壊が 一番典型的であると考えられる。この鎖切断には、二 本鎖のDNAが、完全に切断されるケース(二本鎖 DNA切断)と片側の一本鎖のDNAが切断されるケー ス(一本鎖DNA切断)の二つが考えられるが、一般 的に直接二本鎖切断が生じることは少ないと考えられ ている[27]。それは二本鎖が同時に切断されるために は、相当のエネルギーが必要になるからである。した がって環境中に存在するそのエネルギー発生源として 放射線が最も適当かもしれないが、実際ほとんどの場 合一本鎖切断が生じ、この修復の遅延により偶発的に 二本鎖の損傷が生じると考えられている[27]。近年は、

放射線の間接的影響として活性酸素が生じ、その活性

酸素が8-oxoGを一部のDNA領域でクラスターとし

て損傷を与え、その修復時の過ちとして二本鎖DNA 切断が生じたということも考えられている。二本鎖 DNA切断の場合は、二種類の修復経路(HRおよび NHEJ)が機能すると考えられており、HRにおいて は変異の挿入は少ないが、NHEJでは基本的に変異を 導入することが必須となる[28]。ただヒトなどの高等 生物の場合、ゲノム上に生じた切断の修復は、必ずし もタンパク質をコードした領域とは限らないため、こ の修復が有効に機能すると考えられる。また切断され DNAの5ʼ 末端および3ʼ 末端がそれぞれリン酸基 およびOH基であるような場合(つまりDNAリガー ゼと呼ばれる結合酵素が機能しやすい形態の場合)は 迅速に修復される。

を誘発するウラシルを生み出している報告があり、

その分子機構は非常に興味深い[19]。

2、イノシン:tRNAの中にゆらぎの塩基として存在 するイノシンも、アデノシンの脱アミノ化反応に よって生じる。ゆらぎ塩基対として、シトシン、ウ ラシル、およびアデニンと塩基対を形成することが 知られる。これがDNAの中に生じた場合、イノシ ンは(正確にはデオキシイノシンは)、複製の際に ここに示した塩基と対合してしまうということにな り、変異が導入される[20, 21]。また、ウラシル同様、

この損傷はDNAポリメラーゼを阻害することがな く容易に誤塩基対を導く。修復にはグリコシラーゼ を用いたBERで修復されることが報告されている が、一方大腸菌などの細菌ではイノシンを認識して 切断するエンドヌクレアーゼVを用いたAERで修 復されているという報告がある[22]。ウラシルを切 断するDNAグリコシラーゼが数多く存在するのに 対して、少なくともヒト細胞においてはこのイノシ ンを切断する酵素はそれほど多く存在しない。この 損傷の発生率の違いのためかもしれない。

酸化による DNA 損傷(酸化 DNA 損傷)

1、8-oxoGDNAを酸化させた時に最も顕著なDNA

損傷として、8⊖オキソグアニン(8-oxoG)が知ら れている[23]。生物学的には生物が酸素呼吸によっ て酸素を消費して高エネルギーを算出する限り、酸 素による障害を避けることはできない。一般に活 性酸素として知られる酸素の毒性によって、様々 DNA損傷(約30種類)が生じると考えられて いる[24]。この損傷は、アデニンと対合できるため 突然変異を誘発しやすいことが知られ、また発がん との密接な関係が示されている。ヒトにおいては、

hOGG1というグリコシラーゼが働き、BERによっ

て取り除かれる。生物においてこのDNA損傷の代 謝は非常に精密に制御されている。この損傷に関わ る突然変異誘発を回避するために、様々な酵素がこ こに関わり、また興味深いことにその機構は細菌か らヒトに到るまで維持されている[23]。

2、Tg:チミングリコール(Tg)も8-oxoG同様、よ く解析されている酸化DNA損傷とである。チミン の酸化により生じるこの損傷は、大きな構造変化を 生み出さない。しかしながら、Tgは他の塩基と対 合することが困難であり、変異を導入するよりむし DNAポリメラーゼの塩基挿入を妨げ、複製を停 止させるため、細胞を致死に導くと考えられる[25]。

この損傷もBERにより修復される[18]。

3、AP部位:脱塩基部位(AP部位)は、自発的な

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メチル化剤による DNA 損傷

 O6me-G:メチル化は生体内で頻繁に生物反応の一 つと言えるが、DNAに生じDNA損傷として認識さ れているものとしてO6メチルグアニン(O6me-G)が 存在する。O6me-Gはチミンと対合することが知られ ており容易に変異を導入する。この損傷は、MGMT と呼ばれる酵素が、塩基上のメチル基のみを取り除 き、自らのタンパク質のシステイン残基にメチル基を 結合させることで修復を完了させる[29]。この損傷に MGMT以外にMMRが関与している。興味深いこ とにMMRの欠損が細胞死を回避させる[30]。

DNA 複製による誤塩基対合(ミスマッチ)

 DNAポリメラーゼがDNAを合成する時に、物理 化学的に考えると、水素結合だけでは完全に正しい塩 基の伸長はできない。つまり必ず伸長時にDNAポリ メラーゼは複製中に過ちを犯す。しかし、ヒトでの複 製を考えると1010レベルでその正確性が担保されて いる。これは複製機構における校正機能のみならず MMRに依るところが大きい。またこのMMRはひと つひとつの塩基は損傷ではないので、従来の修復機能 は機能しないと考えられる[31]。特に近年、MMR 免疫療法薬ペムブロリズマブ(抗PD-1抗体)に対す る重要な指標と考えられており、これらの研究が多く 報告されている[32]。

終わりに

 DNAは、環境中の様々な反応によって化学的な修 飾を受けている。我々が観察することができている DNA損傷は、検出がより可能なもののみを取り上げ ていることが多い。今後、新しい化学的解析手法が開 発されることで新しいDNAの損傷が理解できるよう になるかもしれない。またその理解は、生物が有する DNA修復機構、新規の発がん機構および加齢の仕組 みを明らかにしていくかもしれない。

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