2
章 呼吸循環機能への影響
は じめ に
小原 達朗
呼吸循環機能を知 る最 も良い指標 として最大酸素摂取量がある。最大酸素摂 政量 ( V
O 2maX)は,運動を負荷 したときの肺呼吸 による酸素の取 り込み,心 臓 ・血管系による酸素の運搬および筋組織での代謝の最大能力を示す総合的な 健康度の指標 とされている。成人の場合には,V
OZmanが一定の レベル以下
になると成人病の危険率が急激に高まることも知 られている
10)。一 方, 発 育 期 の 青 少 年 が積 極 的 な 身体 活 動 を実 施 す る こ とに よ って V
O 2maXが 増 大 す る こ と は, 多 くの 研 究 に よ っ て 報 告 さ れ て い
る
Ⅰ) 2) 3) 4) 5) 9)が,活動が制限されたための影響についての研究や報告はない
ようである。雲仙普賢岳災害による長期の避難生活や活動を十分に行えない状 況が,子どもたちの身体発育にマイナスの影響を及ぼ しつつあることは 1章に 述べたとお りであるが,それ らは外に見える表面的な影響で,適度な刺激が加 わ 軌ま回復の容易な機能や能力である。V
O 2m aXに影響があるとれば,看過 で きない問題であると認識 しなければな らない。
そこで,本研究では,
2年
6か月 ものあいだ活動の制限を受けた場合に,全 身的な身体内に及ぶ よ うな健康 に影響が現れ るのかを V
O 2m anを指標 に し て,小学校
6年生 と中学校
2年生の男女を対象に して,避難校,受入校,非避 難受入校に分けて検討 した ものである。
1
節 研 究 方 法
( 1 ) 研 究 対 象
小学校は,
1章の身体発達‑の影響調査の対象に もなってお り,それとの比
較の意味 もあ り
6年生を対象に した。中学生 は,学校運営上の都合や学年 とし
ての適合性か ら
2年生を対象に した。中学生 も
1章の身体発達への影響調査の
い範囲 ということか ら
1学級の男女全員 とした。深江町は,中学校 1校のため 島原市の中学校を対象 と した。そのために,深江地区の調査対象 を小学校 と し, 1学級男女全員を測定 した。対象校は,以下のとお りである。人数は、表
1に示 した。なお,大野木場小学校 と小林小学校 は,
6年生 は 1学年
1学級で ある。
( 避難校) ( 受入校) ( 非避難受入校) 小学校 大野木場小学校 小林小学校 深江小学校
中学校 島原第三中学校 島原第二中学校 島原第一中学校
(2)測 定 方 法
最大酸素摂取量
(VO2maX)は,竹井機器製ヘルスガー ド
(T.K.K.1862)をモナ‑ク社製 自転車エルゴメータに搭載 し,心拍胸部セ ンサーを装着 して間 接法により測定 した。 自転車エルゴメータの回転数は,すべて
60回転/分 とし た。比較のための全国標準値 は, 「日本人の体力標準値第四版
」11 )より引用 し た。
2
節 結 果
(1)
学校別の最大酸素摂取量
表
1は, 小 学
6年 生 と中学 校
2年 生 の 各学 校 の 男女 別 の体 重 当 た り
vO2maXと全国標準値 との比較検定の結果を示 した ものである。図
1は, こ れを図示 した ものである。小学
6年生の女子は,避難校,受入校,非避難受入 校のいずれ も標準値 と比較 して差がない。男子 は,避難校の大野木場小学校 と 受入校の小林小学校が標準値に比べて有意に低い値を示 し,非避難受入校の深 江小学校は,差がみ られなか った。中学生 は,女子において避難校の第三中学 校,受入校の第二中学校,非避難受入校の第一中学校のいずれ も標準値よりも 有意に低い値を示 している。男子は,避難校,受入校,非避難受入校のいずれ
も標準値 と比較 して差がない。
2章 呼吸循環機能への影響
表
1 小学校6年生 と中学校2
年生の各学校 の最大酸素摂取量 と標準値 と の比較検定避難校 受入れ校 非避難 .受 入校 全 国
小 大野木場小 小林小 深江小 標準値
女
千
N 10 14 20 38.80学6
年 M 39.30 NS 37.23 NS 39.51 NS
SD (5.74) (8.34) (3.98) (5.00)
男
千
NSD 1(27.55) (88.07) 1(68.02) 4(8.5.8600)中 第三 中 第二 中 第一中 標準値
女
千
N 16 12 16 38.70学2
年 M 35.92 ※ 34.02 ※ 34.38 ※※
SD (6.08) (6.60) (4.80) (5.00)
男
千
NM 1497.49 NS 2048.58 NS 246.252 NS 49.20 SD (8.54) (9.17) (6.26) (5.60)N :
人数
,M :体重当た り最大酸素摂取量 の平均値,SD :標準偏差(単位 :
㌶)※※ :P<0.01,※ :P<0.05・t・標準値 に対す る平均の差 の有意性
女 子 男 子
最 大 酸 素 摂 取 量
(〟)6 0 5 5 5 0 4 5 1 0 3 5 3 0 2 5
20 15
1 0 5
0
大 小 深 標 野 林 江 準 木 小 小 値 場
小
大 小 深 標 野 林 江 準 木 小 小 値 場
小
女 子 男 子
甜 史 煤 寺 ヾ※
m i S B S
蛍 、 洋室 、
鞘 や N
S
標 準 値
第 t 中
第 二 中
第 三 中 標 準 値 第 一 中
第 二 中
第 三 中
図
1 小学校6年生 と中学校2年生 の各学校の最 大酸素摂取量 と標準値 との比較表
2は,学校の枠を越えて小学
6年生 と中学校
2年生の個人の避難度別の男 女それぞれの体重当た り V
O 2maXと全国標準値 との比較検定の結果を示 した もので ある。避難度 A は 「 仮設住宅 に入居中」 ,避難度 B は 「 避難経験があ り,仮設住宅外 に居住」 ,避難度 C は 「 避難経無 し」の群である。小学 6 年生 女子 は,いずれの群 も標準値 と比較 して差がない。男子 は, A 群 と B 群が標準 値 と比較 して有意な差がみ られた。中学生 は,いずれの群 も標準値 に比較 して 有意 に低 く,避難度 A 群 は差がみ られなか った。男子 は, いずれの群 も標準値
と比較 して差がない。
表2 小学校 6年生 と中学校 2年生の避 難度別の最大酸素摂取量 と標準値 との比較検定
避難度A 避難度B 避難度C 標準値
小 女 NM 38712 9 N 395
ll
0 N 21381 3880学6 千 SD (4:95) (4:28) (7:03) (5:00)
男 N 17 5 14 48.80
年 千 SD 4.(7.85) (25..70) (2.9.768) (5.60)
中 女 NM 3526 N 13652 21344 3870
学2 千 SD (4:16) (5:89) (5:82) (5:00)
男 N 6 16 36 49.20
年 子 .7 .0 47.
N :数 ,M :体重 当た り最大酸素摂取量 の平均値,SD :標準偏差 (単位 :mC) 避難度 A,B,C間 の有意差 はな い
※※ :p<0.01,※ :P<0.05‑標準値 に対す る平均 の差 の有意性
(3)
最大酸素摂取量 と肥満度 との関連性
図 2は,学校や避難度 に関係な く各学年男女別 に VOm ax と肥満度 との関 係をプロッ トし,相関を示 した ものである。縦軸,横軸 ともにスケールの違い があるが どの学年で も肥満度が高 くなるに したが って V
O 2maXが低 くなる。
中学生そ して男子 はど相関係数が大 きくな りこの傾向は顕著 になる。
2章 呼吸循環機能への影響
小学6 年生 ( 女子)
0505054.433
4大枚末続取t(〟)
0
504
33丑大 鼓兼摂取 土 へd )
Y
叫 a
餅1
3i9 rヨー瓜372 rF44P 也0
5丁 、 二 一 ㌧ よ : ●
\LiiLa
‑25120 ‑15 ‑10 ‑5 0 5 10
肥3A度 (%)
中学
2年生 ( 女子)
●●●
●●
Y=
1
.1
8XI 3 t6
pl.50
4
n42P
く札01・30 ‑20 110 0 10 20 30 40
蜘 度 (%)
605550粥4035
4大枚兼摂取暮(〟)
30
書大Jt 兼折 取 JH (〟 )
小学
6年生 ( 男子)
Y
コ1)
.2
7X14 2 . 5
r
=1.415n ≒ お
+ P ( 0 . 0
5130 ‑20 ‑10 0 10 20 30
だ兼度 (gi)
中学
2年生 ( 男子)
Y=
‑ 45 0 X 1 4 5 . 4 r = 一
仇751r F5 6 P 〈 O . 0 1
; : = ; I
..1,.4 .ム 「 3 : 5 0 5
[7..:・?●
二 二
‑20 ‑10 0 10 20
E沸度 (%)
図‑ 2 最大酸素摂取量 と肥満度 との関連性
3
節 考 察
学校毎の V
O 2maXの結果か ら小学 6年生では,避難校 と受入校の男子が低 い値を示 した。 この年代では特 に継続的にスポーツ活動 に打ち込む ことはな く, 自発的自然な身体活動に依存 している。 したが って,女子に対 し元来活動 的な男子に,さらに避難校と受入校に活動の制限の影響が表れた ものとみるこ
とができる。中学生は,避難校,受入校、非避難受入校に関わらず,女子が低
ポーツクラブに所属 し,降灰の中にあって も活動を継続 している。 これに対 し 女子のスポーツクラブの所属の割合はかな り低い。 したがって,男子は活動の 制限を積極的にクラブ活動することによって補い,女子はそれが出来ずに活動 不足の影響が直接的に表れた ものとみることができる。原因は異なると考え ら れるが,いずれ も活動の制限の影響があるといえる。
避難度別の V
O 2maXの結果 も避難度よりも小学生,中学生の学校毎の特徴 を反映 している。 したが って,登下校を含めた学校での活動の確保に配慮する 必要があると考え られる。
V
O 2maXを比較する際には,体重当た りの値を用いるが,そうすると体重 の大 きいほど相対的に低 くなることが考え られる。図 2の V
OZm aXと肥満度 との関係をみるといずれ も肥満度が高い場合に V
O 2m aXが低 くなっている。
そのプロッ トは,肥満度の高い部分でバラツキが小さい傾向にあり,高い肥満 度は,V
O 2maXを低下 させ る大きな要因であると言える。栄養 と活動の両面 か らの対応が必要であろう
。一方,肥満度の低い児童生徒にもV
O 2maXの著 しく低い例が少なか らずみ られる。 これ らは,活動の刺激の必要性を示 してい る。
以上の点か ら,
1章で提言 したダイナ ミックな活動の機会をさらに設けるこ とに加えて,一定時間持続的に活動できるように配慮される必要がある。
4
節 まとめと提言
雲仙普賢岳災害による長期間の活動の制限が健康面に及ぼす影響について, 呼吸循環機能の最大酸素摂取量を指標にして検討 した。その結果次のような点 が明 らかになった。
(1)
小学
6年生は,活動を奪われた避難校と受入校の男子が全国標準値に比 べ有意に低 く,中学 2年生は,スポーツ刺激のない女子が避難状況 と関係な く 全国標準値に比べ有意に低い値であり,明 らかに活動の制限の影響があるとい える。
(2)
避難度別の違いよりも学校毎の特徴が大 きく,それぞれの学校での活動
2章 呼吸循環機能への影響
状況への配慮が必要であといえる。
(3)
最大酸素摂取量の低下は,将来の健康生活に大きな影響を及ぼす ことに なる。一部の子 どもたちであるが,肥満傾向の改善を図るとともに,
1章で提 言 したダイナ ミックな活動環境の整備に時間的に も一定時間持続的に活動が行 われるよう配慮を期待するものである。
謝辞 本研究を行 うに当たり,島原市教育長,深江町教育長並びに島原第一 中学校,島原第二中学校,島原第三中学校,大野木場小学校,小林小学校およ び深江小学校の各校長,先生方に多大な御協力を頂 き,また,児童生徒諸君に は大変な測定に協力 して下 さいま した。 ここに記 して深 く感謝いた します。
参 考 文 献
1)青木純一郎,福原早葉子,高岡郁夫,長沢純一 :思春期前児童 (9,10,および 11歳 )に対す る持久性 トレーニ ングの効果. 昭和61年度 日本体育協 会スポーツ科 学研究報告,43‑55,1986.
2)Daniels,∫.,andN.01dridgesin oxygenconsumption oryounggrowth andrunnlngtarining.Med.S°i.S°i.Sports,3,16卜165,1971.
3)Durnin,∫.V.G.A.
,
∫.M.Brockway,andH.W, Whitcher:Errectsora shortperiodsoftariningorvarylngSeverityonsomemeasurementsor physicalfitness.∫.Appl.Physiol.15,16ト165,1960.4)Ekblomm,B.:Effectofphysicaltrining in adolescentboy. ∫.Appl. Physiol.27,350‑355,1969.
5)Eriksson,B. 0. and G. Koch : Errect or physical taining on hemo‑dynamicresponseduringsubmaximaland maximalexercisein l1‑13yearoldboys.Acta.Physiolo.Scaれd.87,27‑39,1973.
6)石河利寛 :日本人 のPWC170につ いて.昭和44日本体育協会 スポーツ科学研究 報告,No.ll,1‑4,1969.
7)小林寛道,三浦望 慶,松井 秀治 :縦 断的測定 か らみた男子児童 生徒 のAerobic Powerの発達.名古屋大学総合保健体育科学 14,
( 1 ‑
ll),19818)小林 寛道 :子 ど ものエ ア ロビ ックパ ワー とアネ ロ ビックパ ワー.〜 スポー ツ ト
9)Massicotte,D.R.and氏.B.∫.Mcnab:Cardiorespiratoryadaptationsto trainingatspecifiedintensitiesinchildren.Med.S°i.Sports.6,242‑
246,1974.
10)村上寿利,進藤宗洋,田中宏暁,熊谷秋三,生 田純男,佐々木津 :冠動脈硬化性 心疾患危険因子の判定手法 と しての推定最大酸素摂取量の有効性.動脈硬化, 15(8),1665‑1672,1988.
ll)東京都立大学身体適性学研究室編 :日本人の体力標準値 (第四版),不味堂 出 版,東京,1989.