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楽器博物館における音楽教育の意義 ―アクティブラーニングの取組みを通して―

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楽器博物館における音楽教育の意義

――アクティブラーニングの取組みを通して――

脇 谷 真 弓

はじめに

 本論は、学校教育とは異なる特徴をもつ博物館教育の視点から、特に楽器博物館における音楽教 育の意義について考察するものである。

 わが国初の楽器博物館として学内外の教育・研究に資するために誕生した武蔵野音楽大学楽器 博物館は、その前身である武蔵野音楽大学楽器陳列室開設から数え、今年 60 年目を迎える。現在、

2021 年度のリニューアルオープンを目指して休館中であるが、これまで小学生から大学生、社会 人といった幅広い層に利用され、「社会に開かれた大学」としての役割を担ってきた。特に近年では、

2013 年から入間市教育委員会の主催による「子ども音楽大学いるま」の教育事業に協力しており、

その中で、毎年アクティブラーニングを取り入れた独自の音楽教育プログラムを展開している。ア クティブラーニングは、2017 年文部科学省が「新しい学習指導要領の考え方」で公示している通り、

これからの時代に必要となる資質や能力育成のために、教育界全体で注目され推進されている学習 方法である。しかし、このアクティブラーニングによって培われる「主体的な学び」「対話的な学び」

「深い学び」こそ、実は博物館教育の特長でもある。そもそも博物館教育は、多様なバックグラウ ンドをもつ学習者が「能動的」に「多様な学習形態」で行う「自由な学び」を基本としており、学 校教育とは異なる性質をもつ。

 また、博物館全般における国際的組織である International Council of Museums(ICOM)は、博物 館の定義1)を「博物館とは、社会とその発展に貢献するため、有形、無形の人類学の遺産とその 環境を、教育、研究、楽しみを目的として収集、保存、調査研究、普及、展示する公衆に開かれた 非営利の常設機関である」(第 3 章、第1条)と規定し、教育が博物館における主要機能のひとつ であることを明確に示している。さらに 2019 年に開催された第 25 回 ICOM 京都大会では、近年 激動する様々な社会情勢を受けて、45 年ぶりに大幅な博物館定義の見直しが検討されたほか、社 会における新たな博物館の役割や在り方について、世界の博物館関係者によって様々な視点から提

1)博物館の定義は時代の変化とともに更新されてきた。現在の定義は 2007 年ウィーン大会で採択されたものである。2019 年に開催された第 25 回京都大会では、近年の社会変動に適応させるべく博物館定義が 45 年ぶりに大幅な見直しがされたが、

審議の末、採決は次回第 26 回大会まで持ち越されることとなった。

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言された。世界的な動向を受けて、国内においても近年、博物館同士、学校、地域などとのさまざ まな連携を含めた多様な教育普及事業が展開されるなど、新しい博物館教育の在り方が模索されて いる。

 以上のような背景を踏まえて、本論では第 25 回 ICOM 京都大会で発表した「楽器博物館におけ る日本伝統音楽教育の意義」の内容に、さらに視点を音楽教育全般に拡大し、楽器博物館における 教育的意義について、本学楽器博物館の過去の教育事業を紹介しながら考察する。

1 楽器博物館における近年の博物館教育の動向 1.1 世界的な動向

 ICOM は、1946 年に創設された世界の博物館関係者で構成されている唯一最大の博物館国際組 織である。2019 年現在、ICOM には世界 138 の国と地域から 44,500 人の博物館関係者が加入して おり、加盟国ごとで構成される国別の国内委員会と、30 以上の各専門分野から成る国際委員会に 分けられる。その国際委員会のひとつに「楽器と音楽の博物館・コレクション」を専門とする国際 委員会「CIMCIM」があり、世界の主要な楽器博物館などが所属している。CIMCIM では、会員同 士の活発な議論や情報交換などの活動が行われ、博物館の楽器、楽器コレクションにおける使用や 保存に関する専門的かつ国際的な基準が確立されている。

 2019 年、3 年に一度の ICOM 大会が日本で初めて開催され、過去最多となる 120 の国と地域 から博物館関係者 4,590 名が京都に集結した。第 25 回 ICOM 京都大会のテーマは、 Museums as Cultural Hubs : The Future of Tradition (「文化をつなぐミュージアム̶伝統を未来へ̶」)と定めら れた。これは、近年政治や経済におけるグローバル化が加速している一方で、地球規模の気候変動 や貧困、紛争、自然災害、人権の抑圧、環境問題など多様な問題が発生している中にあって、世 界のミュージアムは社会の中でどのような貢献ができるのか、国や時代の境界を越えた存在として、

多様な文化のつなぎ役としての新たなミュージアムの在り方を探るため掲げられたテーマであった。

これに準拠する形で CIMCIM のテーマは Music Museums and Education と定められた。近年の社 会変化に伴い、ミュージアム全般が社会の中で求められる役割もまた変化しつつある中で、楽器博 物館においても新たな在り方を求めて、従来のような楽器コレクションの「使用」や「保存」を中 心としたものから、「教育」や「活用」という部分にまでその関心が広げられていることが、この Music Museums and Education というテーマからも明らかである。ICOM 京都大会のテーマに掲げ られた「つながり」とは、過去と未来のつながりばかりではなく、世代を超えたつながり、博物館 を超えたつながり̶社会、地域、学校、他館など多様なつながりを意味する。

 ICOM 京都大会の CIMCIM 国際委員会セッションでは、参加者約 70 名のうち、17 か国から 40 名が発表者として参加した。発表者内訳は、イギリス 6、ドイツ 5、フランス 3、スイス 1、ノルウェー 2、

ロシア 1、オランダ 2、アメリカ 6、ナミビア 1、ブルキナファソ 1、ジンバブエ 1、アゼルバイジャ

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ン 1、イラン 1、中国 3、台湾 2、日本 4 で、ほかにインドネシア、アルゼンチンからの参加があ り2)、欧米以外にアジアやアフリカを含めた幅広い地域からの参加と、多岐にわたる分野の発表が 行われた。会議では、テーマはさらに細分化され、その中で「学校システムと教育プログラム」のテー マが扱われた。従来の楽器博物館では、歴史的楽器の価値の立証や情報の共有、楽器の保存に関す ることに重点が置かれてきたが、近年特に教育的側面から、博物館が持つ教育の可能性に着目して、

新たな楽器博物館の在り方を模索する動きが見られるようになってきている。このセクションの中 で、武蔵野音楽大学楽器博物館が過去に実施した日本伝統音楽をテーマとした教育普及活動を通し て、楽器学物館における教育的意義を日本伝統音楽の観点から言及した。運営委員を務めた嶋和彦 前浜松市楽器博物館館長は、「ICOM 京都大会 2019」の成果と課題を振り返った記念シンポジウム

「日本のミュージアムの未来」(2020.2.11 於:京都国立博物館)で、「楽器や音楽を、研究者や演奏 家等との 1 対 1 の関係のみではなく、近年の博物館の社会的役割、とりわけ教育への積極的な関り や、教育に対して持つ潜在的な力についての様々な事例や研究を取り上げ、音楽や楽器の博物館の 今後の在り方を探るものであった」と CIMCIM 会議での成果を振り返っている。

1.2 国内主要楽器博物館における博物館教育事業

 一方、国内の楽器博物館における近年の教育普及事業はどのような状況にあるか。全国主要な楽 器博物館である「浜松市楽器博物館」、「大阪音楽大学メディアセンター・楽器博物館」、「国立音楽 大学楽器学資料館」、「武蔵野音楽大学楽器博物館」の 4 館における教育普及事業について以下にま とめる。

 浜松市楽器博物館は、日本初の公立楽器博物館として「楽器に命を与え、生きた博物館を創造す る」という理念のもと、積極的な教育普及事業を展開している。レクチャーコンサート、イブニン グサロン、各種講座やワークショップ、小学校への移動博物館などのイベントの他、歴史的な楽器 の音を館外でも楽しめるため、また、後世に永くオリジナルの楽器の音を遺すことは博物館の使命 であるという考えから、CD や DVD などの製作にも意欲的である。これらの幅広い活動が評価さ れて、2014 年第 26 回小泉文夫音楽賞を受賞し、わが国の楽器博物館を牽引する存在である。

 大阪音楽大学メディアセンター・楽器博物館は、大学授業や研究における利用のほか、ミュージ アムコンサート、セミナー、各種コンサートなどを実施している。このほか、注目すべき取組みに

「かんさい大学ミュージアム・ネットワーク」がある。大学の枠組みを越え、館種の異なる関西圏 18 の大学ミュージアム(博物館・美術館・文学館)で構成された大学ミュージアム・ネットワー クで、各館の個性を活かした連携事業が 2013 年から継続的に展開されており、大阪音楽大学メディ アセンター・楽器博物館もこれに属している。「大学の扉をひらく」というキャッチコピーの通り、

2)「第 25 回 ICOM 京都大会 2019 報告書」集計による

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大学の枠を越えて、各大学ミュージアムが保有する資料や人的資源を、広く地域に活用させていく この取組みは、連携によって、各ミュージアムの活動の幅を広げ、新たな見学者層を開拓するばか りでなく、近年、大学が求められている大学改革の「地域社会への貢献」の観点からも注目すべき ものである。

 国立音楽大学楽器学資料館は、週2回実施される「楽器の10分講座」の他、各種レクチャーコンサー ト、公開講座、ワークショップ&コンサートなどを継続的に行っている。特に、「ピアノプロジェ クト」(2012 年 4 月∼ 2015 年 3 月)は、大学博物館の学術的活動として特筆すべきものである。「楽 器学の体系に沿って楽器収集する」という館の基本方針で収集されてきた体系的な歴史的ピアノコ レクションに、ピアノ技術者の協力を得て詳細な調査が実施された。これらの調査過程を公開する ことを目的として、2013 年 1 月に行われた事業が「歴史的ピアノの内部調査に伴うワークショップ」

である。さらに関連事業として、同年 6 月に所蔵の歴史的ピアノ(ハープシコード、スクエアピア ノ、グランドピアノ〈ブロードウッド、シャンツ、エラール〉)を用いた「レクチャーコンサート」、

2014 年 6 月にはサントリーホールで所蔵のグランドピアノ〈ブロードウッド、シャンツ、プレイエル〉

による「コンサート」、そして、大学 90 周年事業の一環として、また、「ピアノプロジェクト」事 業の集大成として『ピアノの目録』が刊行されている。これら一連の活動は、博物館機能のひとつ である「調査研究」の観点だけではなく、「博物館教育」の観点からも大変意義深い取組みである。

このほか、夏休みの小中学生を対象とした「子ども見学会」は、2005 年から計 13 回開催され、楽 器学的な視点、西洋楽器、インドネシアの伝統楽器(ガムラン)、日本伝統楽器など様々なテーマ で行われている。さらに、2016 年度からは、「メディアプロジェクト」として、映像資料の作成に も着手されている。これは専門の演奏家による演奏や解説を行ったもので、館内外の教育の場で活 用されている。

 武蔵野音楽大学楽器博物館は、社会人を対象とした大学主催の「社会人のための夏期研修講 座」の中で、1997 年より講座を担当している。過去のテーマはヨーロッパを主眼とした内容が多 い。また近年では、入間市教育委員会との共催で小学生を対象とした「子ども音楽大学いるま」が 2013 年から毎年開催されている。この中では、西洋楽器のほか、楽器学、日本の伝統楽器、世界 の民族楽器など幅広いテーマが扱われており、今後の博物館教育普及活動への布石となることが期 待される。

 以上のように、全国の主要楽器博物館 4 館の教育普及事業の取組みを見ると、各館の設置理念な どが各々の教育活動にも反映されており、特徴的であることがわかる。将来的な展望としては、『第 25 回 ICOM 京都大会 2019 報告書』の中で指摘されているように、日本の楽器博物館では、教育事 業に留まらず資料の情報の共有やその他活動全般において、館を越えた連携がまだ十分とは言えな い状況である。各館の特長を踏まえつつ、互いに世界の楽器・音楽の有形無形文化財の保存・活用 に携わる共通の立場として、館を越えた幅広い相互連携が図れることが望まれている。

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2 「子ども音楽大学いるま」武蔵野音楽大学楽器博物館の取組み 2.1 「子ども大学」概要

 「子ども大学」とは、元々 2002 年ドイツのチュービンゲン大学で始まった地域連携の新しい教育 活動である。7 歳から 12 歳の子どもたちを対象に、子どもの好奇心や疑問に対して、大学教員が わかりやすく授業するという試みで、その後ヨーロッパ各地に広がった。日本でこの活動が導入さ れたのは 2009 年 3 月のことである。埼玉県に初めて「子ども大学かわごえ」が開校した。「子ども 大学」は、地域の教育力を結集させることで、地域の子どもの学びを高め、生きる力を育てるとい う仕組みを構築することを目指した活動で、大学や自治体、NPO など、地域の各機関が連携して 実行委員会を結成し、地域の特徴を活かして多角的に学べるような企画・運営が行われている。内 容は主に、各物事の原理やしくみを追求する「はてな学」、地域を知り郷土を愛する心を育てる「ふ るさと学」、自分を見つめ、人生や将来について考える「生き方学」の 3 つの視点から成り、大学 教員や地域の各機関の専門家などが講師陣として迎えられている。学校とはまた異なる視点から行 う子どもの知的好奇心を刺激するような講義や体験に特徴がある。

 現在では各地に広がり、2018 年現在、埼玉県内に 50 以上の「子ども大学」が開校されている。

2.2 「子ども音楽大学いるま」概要

 2013 年、埼玉県入間市に子ども大学として「子ども音楽大学いるま」が誕生した。入間市と武 蔵野音楽大学の連携で設置された「子ども音楽大学いるま実行委員会」の設置要綱には、「武蔵野 音楽大学の専門性を発揮して実施することにより、子どもの知的好奇心を刺激する学びの機会や文 化芸術に触れる機会を提供する」ことを目的とすると定められ、音楽に特化した子ども大学になっ ている。対象は入間市内に在住する小学校4、5、6 年生約 30 名程度で、3 日間(2013 年、2014 年 は 4 日間)開催されている。

 講師は武蔵野音楽大学教員および武蔵野音楽大学楽器博物館学芸員らが担当し、大学の大ホール や大教室、楽器博物館などの各施設を使って、パイプオルガン体験、音楽づくり、打楽器アンサン ブルなど、日ごろ子どもたちが学校の音楽教育の中ではなかなか体験することが難しいユニークな プログラムが組まれている。

 この中の一日を楽器博物館が担当し、9 時 30 分から 14 時 30 分までを 4 時限に分けて行っている。

日頃目にすることが難しいさまざまな楽器に接する経験を通して、楽器に対する概念を広げて、楽 器の楽しさ、奥深さ、世界の広さやつながりなどを感じてもらうことを目指して、西洋楽器、日本 の伝統楽器、世界の民族楽器、楽器の科学など、毎年各分野からバランスを考えて企画している。【表 1】は過去 7 年間の楽器博物館が担当した講座をまとめたものである。プログラムは、講師が子ど もたちへ一方向的に教授する講義スタイルばかりではなく、演奏体験や、合奏、楽器製作、実験な

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ど、アクティブラーニングを多く取り入れている。

【表1】 「子ども音楽大学いるま」楽器博物館担当の講座一覧

開催回 開催年月日 講義内容

第 1 期 2013.9.14 1 時限:楽器の話 & 製作 2 時限:楽器博物館見学 第 2 期 2014.10.4 1 時限:楽器のお話

2 時限:楽器博物館を見学しよう 3 時限:楽器製作と音出し

4 時限:日本の楽器のお話とお箏の体験学習 第 3 期 2016.1.24 1 時限:楽器のお話

2 時限:楽器の製作と音出し 3 時限:日本の身近な音を楽しもう ! 4 時限:楽器博物館を見学しよう 第 4 期 2016.9.4 1 時限:楽器のお話̶楽器の歴史 2 時限:楽器のひみつをさぐろう 3 時限:楽器の製作と音出し 4 時限:楽器博物館見学 第 5 期 2017.9.2 1 時限:楽器のしくみ

2 時限:楽器の製作と音出し 3 時限:楽器で世界を旅しよう !

4 時限:(体験学習)ホップ・ステップ・ジャンプで     おこと博士になろう !

第 6 期 2018.9.8 1 時限:楽器のお話

2 時限:楽器の製作と音出し 3 時限:楽器で世界を旅しよう !

4 時限:(ワークショップ)くらべてみよう ! 第 7 期 2019.9.7 1 時限:楽器のお話

2 時限:楽器の製作と音出し 3 時限:楽器で世界を旅しよう !

4 時限:(ワークショップ)楽器の中の生きものたち

2.3.1 「子ども音楽大学いるま」-楽器伝播・類似楽器を題材にした講座の例

 2018 年 9 月 8 日に実施された「くらべてみよう!」は、類似する 2 つの異なる楽器の比較を通 して学ぶ講座である。

学習のテーマ・ねらい

 世界には類似する楽器が数多く存在している。類似する形態の楽器が自然発生的に誕生した場合 もあるが、多くは、古くから異民族間による交易、民族の移動、戦争などによって、文物の交流だ

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けでなく、さまざまな文化、音楽や楽器なども一緒に伝播して、それぞれの土地の環境、民族の嗜 好に適合させながら変容してきたものである。

 この講座では、楽器の伝播と類似楽器をテーマとしている。楽器の伝播では、類似する 2 つの異 なる楽器の比較を通して楽器の特徴を捉え、楽器の変化には関連性があること、さらに相違点に注 目し、そこから民族の嗜好や環境などがわかることを学ぶ。

 類似楽器のテーマでは、日本の小鼓、大鼓を扱った。外見上共通点が多い両者は対で紹介される ことが多いが、その詳細まで学ぶ機会は意外と少ない。そこで、比較を通して、両者の特徴を理解 した上で、演奏における小鼓、大鼓の密接な関係性を学ぶ。

概 要

 ⅰ)三線  vs 三味線  ⅱ)ウード vs 平家琵琶  ⅲ)小鼓  vs 大鼓

 ⅰ)ⅱ)の楽器の伝播は、少し難しいテーマであるが、各種類で楽器を 2 つに絞り比較すること は、子どもたちにとっては「間違いさがし」の遊びに似た感覚で、楽しみながら自主的に取組みや すいと考えた。具体的には、類似する 2 つの異なる楽器について、受講生が自ら比較し、その共通 点、相違点に気づかせることとした。比較は、楽器や胴の素材である皮を用い、「見る」「さわる」「き く」の観察で行われた。

 ⅲ)では、小鼓、大鼓の共通点、相違点について同じく比較したのち、独自の楽譜を紹介しなが ら、実際に小鼓、大鼓の演奏における関係性について、各パートに分かれて体験した。

【表2】 2018 年 9 月 8 日実施「くらべてみよう!」に関するアンケート(抜粋)

4 年生 男 くらべたところがあっていたから、よかったです。

4 年生 男 ワークショップでいろいろな楽器がさわれたりしてよかった。

4 年生 男  ワークショップくらべてみようでは、小つづみ大つづみのところが一番心にのこっていま す。りゆうは、中国人の人みたいな名前がでてくるからです。

4 年生 女  今はペットでしたわれているイヌやネコも本州にわたると楽器のそざいになることを知り、

びっくりしました。

4 年生 女 大・小つづみの音がおもしろかったです。

5 年生 女 「くらべてみよう!」がすごくおもしろかった。ちがいがよく分かった。

      いろいろなつながりがあった。

5 年生 女 がくふがおもしろい!!(小鼓・大鼓)

5 年生 女  「くらべてみよう!」でいろんな楽器がにている部分とちがう部分が知れて(ママ)よかっ たです。またやりたいです。

5 年生 女 くらべるのがたのしかった。

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5 年生 女 小つづみのいきをふきかけるところがおもしろかった。

6 年生 女 変化しながらも伝わっている楽器を見れて(ママ)、楽しかった。

6 年生 女 ワークショップで楽器は国によって少しずつちがったのがおもしろかったです。

6 年生 女 小鼓と大鼓のがくふがおもしろかったです。ありがとうございました。

 【表2】のアンケート結果から、伝播した楽器の相違点や、関連性に関心をもった受講生が多かっ たとともに、おそらく初めて知った小鼓、大鼓の楽譜や音色、演奏法に関心をもった受講生が多く 見られた。

2.3.2 「子ども音楽大学いるま」-擬音(自然界の音)を題材にした講座の例

 2016 年 1 月 24 日に実施された「日本の身近な音を楽しもう!」は、自然界の音を積極的に生活 や音楽に取り入れて楽しむ日本の音文化をテーマとした講座である。

学習のテーマ・ねらい

 日本人は古くから自然に調和と共存する思想が根づいており、音楽や美術、建築など様々な分野 にもこの思想が表れている。歌舞伎音楽においても例外ではなく、主に黒御簾音楽で自然界の音が 表現されている。

 そこで、①擬音楽器という存在を知り、楽器の概念を広げること、②日本には擬音楽器を中心 に、自然の音を表現する独自の音文化があることを理解することを主なねらいとした。さらに、ア クティブラーニングを取り入れることで、③受講者がみんなでひとつの作品を作るという体験を通 して、表現する楽しさや興味を深めることもねらいとした。

概 要

 ⅰ)歌舞伎の擬音場面を聞き、何を表現したものか考えさせる。

 ⅱ)擬音楽器にはどのような種類があるのか知る。

 ⅲ) 擬音楽器やそのほか音具などを用いて(笙も使用)、受講者がみんなで物語に音響表現を行い、

ひとつの作品に仕上げる。

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 受講者が擬音楽器をはじめ様々な楽器や音具を用いて、創作物語に自然界の音響表現を行い、み んなでひとつの作品に仕上げていくというアクティブラーニングによる学びは、実体験として楽し みながら受講者の印象に残るものだったことが【表3】のアンケートから窺える。また、博物館の 教育活動は、学校のように継続的な一定集団による学びではなく、通常は一人で参加する受講生が 多いことから、受講生同士見知らぬことが多い。そのような中で、受講者が一緒に共通体験できる 形式の学びは一体感を生み、参加しやすい環境をつくる工夫として効果があると思われる。

2.3.3 「子ども音楽大学いるま」-楽器の構造を題材にした講座の例

 2016 年 9 月 4 日に実施された「楽器のひみつを探ろう」は、楽器の構造をテーマに、楽器を構 成する共通要因について、実験を通して学ぶ講座である。

学習のテーマ・ねらい

 世界の楽器の形状や構造の種類は、類似する楽器が多数あるとはいえ、全体的にみれば、実に千

【表3】2016 年1月 24 日実施「日本の身近な音を楽しもう!」に関するアンケート ( 抜粋 ) 4 年生 男 いろいろな楽器をさわることができてよかった。

4 年生 男 笙は独特な音がした。

4 年生 女 日本の身近な音はあまり聞かなくなったのでよかった。

4 年生 女 自分の知らない擬音楽器がありおもしろかった。

4 年生 女 自然な音が楽器で表すことができることがすごいと思った。

4 年生 女 いろいろな音や想像するものを楽器でリアルにできるのだと思った。

4 年生 女 身近な音を楽器を使って出すことにびっくりした。

4 年生 女 話に合わせていろいろな音を出したのが楽しかった。

4 年生 女 日本の楽器にふれられたことが心に残った。

5 年生 男 楽器にはいろいろな音があることを改めてわかった。

5 年生 女 小豆を箱に入れて左右にゆらす海の音が、とてもよい音だと思った。

5 年生 女 楽しかった。

5 年生 女 カラスの笛の音がおもしろいと思った。

5 年生 女 セミの鳴き声がとてもよかった。

5 年生 女 音を出すことができて嬉しかった。いろんな音を聴くことができてよかった。

5 年生 女 少し難しかったが、吹いたときにいい音が出てよかった。

5 年生 女 笙の体験ができて楽しかった。ハミングトップという楽器が気に入った。

6 年生 男 日本には昔からいろいろな楽器があったことを初めて知った。

6 年生 女 身近で音が出るものがたくさんあることを知った。いろいろな楽器があり楽しかった。

6 年生 女 笙などのめずらしい楽器にさわることができてよかった。

6 年生 女 笙が吹けてよかった。

6 年生 女 楽しく楽器にふれることができた。

6 年生 女 劇や楽器を作ってとても楽しくうまくできた。

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差万別である。これらの膨大な種類の楽器も、その構造に注目することで、楽器の構成にはある共 通因子があることを見出すことができる。つまり楽器は、何かしらの発音機構があり、そこに 3 つ の要素(音の大きさ、音の高さ、音色)が組み合わさることによって構成されているのである。講 座では、これら音の 3 要素について実験を行い、「音の大きさ」「音の高さ」「音色」について理解 させることを目指すものである。さらに、博物館所蔵のさまざまな楽器を用いて、楽器の構造を知 り、楽器を構成する共通因子がどのように取り入れられているか(楽器によっては取り入られてい ないものもある)考察する。

概 要

 受講者はいくつかのグループに分かれ、下記の要領ⅱ)∼ⅳ)で実験を行う。その後博物館所蔵 の楽器について考察する。

 ⅰ)発音機構の種類を知る。

 ⅱ)音を大きくする実験:共鳴器の有無による音量の変化を調べる。

 ⅲ)音の高さを変化させる実験:箏の弦長が半分になるところに柱を立てて音を聴き比べる。

ⅳ)音色を変える実験:糸電話の糸の素材を変えて音の伝わり方の違いをくらべる。

 ⅴ)博物館所蔵の様々な楽器について、発音機構および「音の大きさ」「音の高さ」「音色」を変 化させる要素の有無について考える。

【表4】2016 年9月 4 日実施「楽器のひみつをさぐろう!」に関するアンケート(抜粋)

4 年生 男 楽器の構造がよくわかった。

4 年生 男 実験が楽しかった。 

4 年生 女 ことの音の出し方や 110 センチぐらいできれいな音がでて、ことをやってみたいと思った。

5 年生 男 楽器の知らなかったことや、おもしろいことを知ることができてとても楽しかった。

5 年生 男 楽器の秘密を探るときにいろいろなことを考えることができてよかった。

5 年生 女 音楽がものすごく好きで、来るたびに興奮している。とても楽しい。

5 年生 女 楽器のいろいろな秘密がわかったのですごくよかったと思った。もっと秘密を知りたい。

5 年生 女 音が出るものの下に箱などを置くと音が響くのだと思った。

6 年生 女 楽器のことで初めてしることがいっぱいあり、よい経験になった。

 【表4】のアンケート結果からは、実験を交えたことで実体験として興味を抱いた受講生が多かっ たことが窺える。実験では、各テーマについて、理科の実験のように楽しみながら確かめる姿が見 られた。一方、楽器を構成する各要因について基本的学習の後に行った発展的学習、博物館所蔵楽 器における「発音機構」「音の大きさを変えるしくみ(共鳴器)」「音の高さを変えるしくみ」「音色 を変えるしくみ」の有無について考察する部分では、扱った題材(楽器)の数と受講時間の関係か

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らやや難しかったのではないかという印象をもった。日頃触れる機会が少ない民族楽器、日本伝統 楽器について、気鳴楽器、弦鳴楽器、体鳴楽器、舌鳴楽器3)の各種から異なる構造の楽器(【表5】

参照)を対象としたが、初めて出会う楽器の構造を理解するためには一定の時間と詳細な説明を要 するため、題材を絞るかスタッフを増員して対応するなど改善の余地があったと思われる。

【表5】「楽器のひみつをさぐろう!」で使用した楽器

楽   器 地   域

気鳴楽器 シク 南アメリカ

ケーナ アルゼンチン

笙 日本

弦鳴楽器 サントゥ―ル イラン

ゴピ・ジャントラ インド

大正琴 日本

体鳴楽器 アンクルン インドネシア

ギロ ペルー

風鈴 日本

舌鳴楽器 口琴 アフリカ

2.3.4 「子ども音楽大学いるま」-楽器の意匠・シンボルを題材にした講座の例

 2019 年 9 月 7 日に実施された「楽器の中の生きものたち」は、楽器に使用される「素材」とし ての生きものと、楽器の意匠で登場する「シンボル」としての生きものに着目して学ぶ講座である。

学習のテーマ・ねらい

 楽器と生きものには密接な関わりが見られる。ひとつは、様々な生きものが素材として楽器に使 用される場合である。生きものの皮膜をはじめ、牙、骨、爪、毛、内臓などさまざまな生きものの 部位が楽器に使用されている。生きものの種類は、主要なものだけでもウシ、水牛、ウマ、ヒツジ、

ヤギ、ブタ、ヘビ、トカゲ、ロバ、アザラシ、ネコ、イヌ、魚など多様であるが、これらは、気候 環境や自然、生活環境などと深い関わりをもつ。

 もう一つは、生きものがシンボルとして楽器の意匠に登場する場合である。楽器全体または一部 の形状を生きものの形に象ること、あるいは楽器に生きものがデザインとして描かれることがある。

3)武蔵野音楽大学楽器博物館における楽器分類に基づくものである。基本的には、マイヨン―ホルンボステル―ザックス方 式分類法に則っているが、いくつかの相違点が見られる。気鳴楽器の中で簧を持つ楽器、また、必ずしも吹奏によらない口 琴やサンザなど体鳴楽器と呼ばれる楽器について、本学楽器博物館では舌鳴楽器として分類している。

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楽器の意匠には各民族の生活様式や信仰、文化などが反映され、その土地の人々が大切にしている 思いを知ることができる。

 楽器に登場する生きものに着目することで、楽器の背景に広がる世界を感じとる。

概 要

 ⅰ)楽器の外見・デザインをよく観察して、どんな生きものが隠れているかさがす。

 ⅱ)楽器を観察して、どんな生きものが素材として隠れているかさがす。

 ⅲ)楽器の中にいる生きものたちにどのような意味があるのか考える。

【表6】 2019 年9月 7 日実施「楽器の中の生きものたち」に関するアンケート(抜粋)

4 年生 男 楽器の中で生き物を見つけることができて、うれしかった。

4 年生 女 考えたりして楽しかったです。

4 年生 女 楽器ではいろいろな意味で作られているんだなと思いました。

4 年生 女 せかいやどうぶつで、いろんなことがわかるっておもしろい!

4 年生 女 楽器をまぢかでみれて(ママ)良かったです。

4 年生 女 こんな意味があるんだと思いました。

4 年生 女 いろいろなちいきで動物のモチーフがかわっているんだなあと思いました。

4 年生 女 楽器の中の動物がいっぱいいておもしろかったです。

5 年生 男 いろいろな生き物がつかわれていることがわかった。

5 年生 男 世界には、いろいろな文化があってそれが楽器にも表されていて、すごく面白かった。

6 年生 男 楽器のなかの生き物をさがして、意味をしらべたい。

6 年生 女 生き物にこめられたメッセージなど、とても興味の持てる内容ばかりで、楽しかった。

6 年生 女 生き物のことについて、おどろきました。

 【表6】のアンケート結果から見られるように、楽器の中で登場する生きものたちの意味に関心 をもった受講生が多く、楽器のもつ新しい側面を提示できたのではないかと思われる。

3 音楽教育としての意義

 本章では、楽器博物館における学びには音楽教育の観点からどのような意義があるのか、性質の 異なる学校教育との比較を通して考察する。

 はじめに、学校教育と博物館教育の基本的性質について確認しておく。一般に学校教育では、ク ラスはほぼ同年齢で構成され、公立の小中学校では地域によって学校が分けられる。さらに、高校 以上(私立の場合には小学校以上)では学力がある程度均一化された環境となり、所定の場所で一 定期間継続的に学ぶ学習形態である。学習指導要領に準拠した教科書を教材としており、近年で は生徒の自主性を重んじるアクティブラーニングの導入が推進されているが、基本は教師が生徒に

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教える形式である。生徒(児童)たちは、入学の後、所定の年数をかけて、学習を継続し卒業する。

つまり、学校教育は全国で一定の水準が定められた画一的な教育と言える。一方、これに対して博 物館教育は、子どもから大人まで不特定の人たちを対象としている。一人あるいは複数の者があく までも自主的な興味によって学習の機会を得ることが基本で、各館の企画によるが学習は 1 回から 複数回、場合によっては一定期間継続的に学ぶなど、学習形態は学校教育に較べると多様で自由で ある。教材は教科書ではなく博物館の実物資料であることが多い。

 このように両者の教育は対照的であるが、異なる性質をもつからこそ、学校教育とは異なる観点 から博物館独自の学びが期待できると言える。つまり、そこに博物館教育としての意義を見出すこ とができると言える。

 そこで、先章で紹介した楽器博物館の教育プログラムを例に、楽器博物館における音楽教育の意 義について考察すると、主に次の 3 つに集約される。

 ① 体系的に収集された博物館資料を通した俯瞰的な視点による学び

 ② 博物館資料の多様さを活かし、学習指導要領で触れない分野に焦点をあてた学び  ③ 教科を越えた横断的学習

3.1 俯瞰的な視点による学び

 博物館では体系的に収集された膨大な所蔵資料が教材の基本となる。楽器博物館では古今東西の 体系的な楽器を中心としたコレクションを所蔵しており、これらの資料を用いた学習は実物教育と して説得力があるだけでなく、膨大なコレクションを体系的に捉えることで習得できる学び、つま り俯瞰的な視点による学びは博物館の性質を活かした学びとして注目することができる。

 例えば、2.3.1「くらべてみよう!」で述べた講座は、楽器の伝播を学習テーマとしているが、こ れも俯瞰的な視点による学びである。ここでは西アジアと日本の 2 点の楽器比較に留まったが、変 化の過程を示す事例を複数比較することによって、伝播の過程で見られる共通点や相違点に着目し、

同種の楽器が持つ楽器学的な特徴や地域的特徴を学ぶことができる。この他、楽器が発達する歴史 や、世界に点在する同種楽器の比較など博物館で俯瞰的な視点で捉えることで楽器変化の大局を知 ることができ、より幅広い学びが可能となる。

3.2 学習指導要領で触れない分野に焦点をあてた学び

 博物館資料のもう一つの特徴に資料の多様性があげられる。武蔵野音楽大学楽器博物館では、全 資料 5,735 点のうち 150 を超す国と地域の楽器および関連資料を所蔵している。その内訳として は、楽器 3,910 点をはじめ、弓や撥などの楽器附属品 561 点、蓄音機やオルゴールなどの装置器具 類 176 点あり、そのほか楽器製作工具類や楽器半製品、音楽絵画など音楽関係の幅広い資料が含ま

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れており、幅広い楽器・楽器関連資料は本学楽器博物館の最大の特徴であるともいえる(2020 年 3 月末現在)。この資料の多様性を活かした学びが、博物館における 2 つめの教育的意義であると考 える。

 基本的に学校教育は、学習指導要領や授業時間数などの関係で、指導内容は学習指導要領に沿っ た範囲を基本としていることが多い。特に 2002 年以降、完全学校週 5 日制や総合的な学習が導入 されたことに伴って年間の総授業時間数が削減された影響で、音楽科の授業数は縮減され、その傾 向は一層強まっているものと思われる。これに対して博物館教育では、内容に統一された基準はな く教育プログラムの時間設定も比較的自由なため両者の性質は対照的である。この博物館における 性質と多様な資料を活かして、通常学校ではなかなか触れないような分野に焦点をあてることが、

博物館の利点を活かした 2 つめの教育的意義である。しかも、学校と連携を図ることで、学校の授 業を基盤にして、より広い視点から深い学びに発展させることが可能である。

 2.3.2「日本の身近な音を楽しもう!」で示した事例は、歌舞伎音楽の中でも特に黒御簾音楽に焦 点を当てた講座である。擬音楽器を用いながら、その背景には日本人が自然界の音を好み積極的に 生活に取り入れるだけでなく、音楽の中にも四季や自然描写の表現がよく用いられるという日本人 の自然観も内包したプログラムである。学校で歌舞伎音楽が扱われる場合、授業時間数などの関係 から通常は歌舞伎音楽の主要部分、つまり舞台上で演奏される三味線音楽の楽器編成や楽器の特徴、

音楽的特徴、演目の内容などに主眼がおかれることが多く、黒御簾音楽や日本人の自然観という部 分まで扱う時間的な余裕はほぼないというのが現実であろう。もし、学校で歌舞伎音楽に関する基 本的知識を得るとともに博物館で異なる観点からの学びの機会を得ることができたら、日本伝統音 楽の理解がより深まるのではないかと考える。

3.3 教科を越えた横断的学習

 博物館の自由な学びは、教科を横断した幅広い学習にも適している。楽器の背景には、気候や風土、

歴史、思想、信仰、文化などさまざまな要因が密接に関わっており、そこに着目することで、楽器 の世界は大きく広がり面白さを増す。楽器の素材、意匠、構造、発達過程など様々な部分から楽器 の背後にある様々な要因に目を向けることで、楽器を異なる視点でとらえ、音楽という教科を越え た横断的学習へと発展させることができる。

 楽器の持つ物理的側面に焦点を当てた事例として、2.3.3「楽器のひみつをさぐろう」がある。こ れは楽器の構造と音の三要素について理解することを目指した講座で、同様の指導内容は、中学一 年生の理科「音の性質」の単元で、音の大小や高低、振動との関係について学ぶことになっている。

博物館で多様な楽器を活かし、発音原理や構造について実際に音の実験を行い確かめながら学べる ことは、まさに実物教育である博物館の利点を活かした学習である。この物理的視点から楽器を捉 えたプログラムは、多様な実物資料を所蔵している博物館と学校の理科の連携を図ることで、さら

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に深い学習に発展させることができると考える。

 さらに楽器の別の側面に着目した事例として、2.3.4「楽器の中の生きものたち」が挙げられる。

楽器の意匠やシンボルに焦点をあてたこの講座は、楽器の素材、楽器の形状やデザインに着目する ことで、楽器の背景にはさまざまな要因があることを学ぶものである。例えば楽器の素材からは、

身近に入手できる素材は各地域の気候や風土と密接な関係がある。また、長い歴史の中で行われて きた民族の交流、交易を通して用いられるようになった素材もある。さらに楽器の意匠やシンボル

(2.3.4「楽器の中の生きものたち」の講座では特に生きものに焦点をあてた)からは、人々の思想 や生活、信仰など大切にしてきたものを垣間見ることができる。

 このように、楽器を通して学べる範囲は決して音楽に限ったことではなく、自然科学、文化人類 学、民俗学、歴史など実にさまざまな分野に発展させることが可能なのである。楽器博物館で楽器 の背景にあるさまざまな要素に着目することで、音楽という教科を越えた横断的学習へと発展させ ることができる。これこそ楽器博物館における音楽教育の 3 つめの意義であると考える。

 以上、先章で紹介した「くらべてみよう!」「日本の身近な音を楽しもう!」「「楽器のひみつを 探ろう!」「楽器の中の生きものたち」の各講座は、すべてアクティブラーニングによる学びである。

博物館で行う学びは、博物館がもつ基本的性質からアクティブラーニングであることが少なくない が、学校とのさらなる連携で活用を図ることで、学習効果が一層深まるものと思われる。

おわりに

 武蔵野音楽大学楽器博物館は、学内の教育・研究に資することを第一義として 1960 年に前身と なる武蔵野音楽大学楽器陳列室が開設されて以来、学内の授業や教職員・学生の教育・研究のため に大きな役割を果たしてきた。1967 年現在の楽器博物館に改組され、その後広く社会に還元する ために公開日を増やした後もその方向性は変わらず、広く一般の方にも利用されてきた。歴史的楽 器では当時の実物資料にこだわった収集方針、世界のあらゆる地域を収集対象とし、楽器だけでな く楽器や音楽に関連する資料など幅広く収集対象とした多様なコレクションは、それだけでも存在 感があり多くの方に楽器の魅力を印象づけてきた。

 しかし近年、楽器博物館の役割は従来のように歴史的楽器の価値の立証や楽器の保存に関するこ とだけでなく、どのように社会の中で活用していくかという教育的活用の部分に関心が高まってい る。また、学校教育においてもアクティブラーニングや、多様なニーズに適応した学習形態が求め られており、本学楽器博物館における今後の役割は新たな転換期を迎えると思われる。楽器博物館 がリニューアルされるこの節目に、博物館ならではの教育的意義を認識することは、今後、博物館 独自の自発的な教育活動を展開するための第一歩になるとともに、社会の動向に沿い、今後楽器博 物館が社会的役割を果たすためにどのような形で貢献していくべきか、学内他部署、他機関との連 携を含め、資料の教育的活用をどのような形で推進していくのか模索していきたいと考えている。

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■引用・参考文献

・2020『浜松市楽器博物館 総合案内 図録 2020』浜松市楽器博物館。

・嶋和彦 2020「国際委員会セッション CIMCIM Music Museums and Education 」『第 25 回 ICOM 京 都大会 2019 報告書』64-65:ICOM 京都大会 2019 組織委員会。

・不動真優 2020「楽器資料の活用実例と保全への配慮」『楽器コレクション管理資料集 3 活動報 告編 2019 年度版』18-24:国立音楽大学楽器学資料館。

・脇谷真弓 2018「音楽系博物館における日本伝統音楽教育の取り組み」『博物館学雑誌』第 43 巻第 2 号。

・Mayumi WAKIYA, 2019 The significance of traditional Japanese music education at a musical instruments museum The 25th general conference of ICOM (CIMCIM 口頭発表 )。

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Importance of music education at a musical instrument museum – through active learning

Mayumi WAKIYA 

 The musical instrument museum of MUSASHINO ACADEMIA MUSICAE was established 60 years ago as the first musical instrument museum in Japan for education and research. Although the museum is currently closed with the aim of reopening in 2021, the museum has been used not only for education and research by students and teachers, but also by the general public. Every year since 2013, the museum has held educational activities for children as the Children Musical College in IRUMA with the Saitama Educational Committee. Among these activities, we have unique educational programs with active learning. Active learning is effective for study by thinking for themselves, dialogical learning, and in-depth study. This learning also has characteristics of museum education.

 Furthermore, the International Council of Museums (ICOM), which is the only museum international organization representing museums and museum professionals, has been discussing how museums should contribute to a rapidly changing society. In 2019, ICOM s 25th General Conference in Kyoto was held. Also, CIMCIM, which is one of the 30 committees of ICOM, is a committee for museums and collections of music, specifically emphasizing Music Museums and Education in the conference.

 As described in this paper, I consider the importance of music education at a musical instrument museum based on the presentation delivered at the CIMCIM meeting of the ICOM s 25th General Conference in 2019. The most important characteristic of a museum is the diversity of its collections. I think three kinds of education are possible from museums.

1. Learning a wide perspective from a systematic collection in a museum

 At a musical instrument museum, people can learn a broader perspective such as history and propagation of musical instruments through a vast collection of various eras and countries.

2. Focus outside the course of study from diversity of the collection

 The only field that schools teach is of famous kinds of music based on the curriculum because there are limits on the course of study and the number of class hours in schools. However, museums can give a wider and more detailed view. Some differences exist in the characteristic of education between schools and museums. Therefore, the school learning can be deepened through cooperation with the museums.

3.Cross-disciplinary learning

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Musical instruments are closely related to various factors in the background: natural environment, history, religion, culture, and so on. People can benefit from broader and deeper learning beyond the subject of music by particularly addressing these factors in museums.

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楽器博物館における音楽教育の意義

――アクティブラーニングの取組みを通して――

脇谷真弓 

 わが国初の楽器博物館として、学内外の教育・研究に資するために公開されてきた武蔵野音楽 大学楽器博物館は、現在の前身である「武蔵野音楽大学楽器陳列室」の開設から数えて、今年 60 年目を迎える。現在は 2021 年のリニューアルオープンを目指して休館中であるが、これまで幅広 い層に利用され「社会に開かれた大学」としての役割を担ってきた。特に近年では、2013 年以降、

毎年入間市教育委員会との共催で「子ども音楽大学いるま」を実施しており、アクティブラーニン グを取り入れた独自の音楽教育プログラムを展開している。アクティブラーニングは、近年、教育 界全体で推進されている学習方法であるが、アクティブラーニングによって培われる「主体的な学 び」「対話的な学び」「深い学び」こそ、実は博物館教育の特長でもある。

 さらに、世界の博物館界の動向に目を向けると、社会の変化に伴い博物館の在り方が改めて模索 されている。2019 年国際的博物館組織である ICOM が開催した第 25 回京都大会で、博物館は国や 時代を越えた存在として、どのように激動する社会に貢献していくべきか、これからの博物館の在 り方についてさまざまな議論が行われた。ICOM 分科会の一つであり、世界主要楽器博物館が所属 する CIMCIM においても、先の京都大会では従来のようにコレクションの「使用」や「保存」を 中心としたものから、「教育」や「活用」にも関心が広げられて、楽器博物館の在り方が改めて見 直された。また、国内の博物館全般においても、世界的な動向を受けて、新しい博物館教育の在り 方を求めて、博物館同士、学校、地域などとの様々な連携を含めた多様な教育普及事業が活発に展 開されているところである。

 以上のような背景を踏まえて、本稿では、先の京都大会で発表した「楽器博物館における日本伝 統音楽教育の意義」の内容に、さらに視点を音楽教育全般に拡大し、楽器博物館における教育的意 義について、本学楽器博物館が過去に実施したアクティブラーニングの取組みを交えながら考察す る。考察は以下の 3 つの観点から行う。

1.体系的に収集された博物館資料を通して、「俯瞰的な視点」を養う

 教材の基本が教科書である学校教育に対し、博物館教育では体系的に収集された膨大な資料が教 材の基本である。楽器博物館では、楽器の発達の過程や伝播など、時代や地域の異なるものを俯瞰 的な視点で捉えることができ、学習者の幅広い学びが期待できる。

2.博物館資料の多様性を活かし、学習指導要領範囲外の分野に焦点をあてる

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 学校教育では学習指導要領や授業時間数に制約があることから、授業で扱える分野は学習指導要 領に則った部分に留まることが多い。一方、資料の多様性、また教育事業で時間の設定が比較的自 由であるという博物館の性質によって、博物館教育では学習指導要領範囲外の分野に焦点をあてる ことが容易である。その結果、学校教育との連携によって、さらに「深い学び」に発展させること が可能となる。

3.教科を越えた横断的学習

 博物館の自由な学びは、教科を横断した幅広い学習にも適している。楽器はその背景に、気候風 土、歴史、思想、信仰、文化などさまざまな要因と密接な関わりがあり、そこに着目することで音 楽という教科を越えた横断的学習が可能となる。

参照

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