三重県における内科の医療体制満足度に関する 諸要因の分析
――特に医療施設の地理的分布と受療行動に着目して――
福 本 拓
Ⅰ はじめに
⑴ 医療体制への認識に関わる二つの側面
⑵ 医療アクセスの把握について
Ⅱ アンケート調査の概要と分析変数の設定
⑴ アンケート調査の概要
⑵ 分析変数の設定
Ⅲ 分析結果の検討
⑴ 個人属性(人口学的・社会経済的要因)に関する分析結果
⑵ 医療アクセスに関する分析結果
⑶ 受療行動に関する分析結果
Ⅳ 考察
Ⅴ おわりに
Ⅰ はじめに
⑴ 医療体制への認識に関わる二つの側面 現代日本における医療をめぐる諸問題の中 でも,いわゆる医師不足をめぐっては,
住民の健康や生命に深刻な影響を及ぼすもの として喫緊の対応が求められている。こうし た事態に対し,たとえば 2008 年の閣議決定 により医学部の定員増が打ち出されたほか,
一部の大学医学部では地域医療の担い手確保 を目的とした地域枠定員が創設されるな ど,医師不足や地域偏在の解消に向けた取り 組みが進められつつある。しかし一方で,特
に新医師臨床研修制度(2004 年)の実施以
降,大学での研修医確保が困難となり,医局 からの医師派遣が縮小ないし中止される事態 も起きている(米山 2008;竹村 2010)。日本
医師会(2008)によれば,医師派遣の縮小は より人口規模の小さい地域で顕在化したとさ れ,医師の偏在に伴う医師不足がますます悪 化する状況も生じている。
とりわけ医療資源の供給面で不利を被る地 域では,このような医療をめぐる地域的格差 が住民の医療体制や健康不安に関する認識に 悪影響を及ぼすことは想像に難くない。しか しながら,そうした認識の改善を図る上では,
医療資源の供給面の充実だけでは不十分な面 も存在する。たとえば,JGSS(日本版総合社 会調査)のデータを用いた村田(2010)は,
医療不安(必要なときに医療を受けられ ない可能性への不安)について,医師不足 と関連しうる市郡の人口規模は有意な影響力 を持たなかった反面,学歴・階級帰属意識と いった住民の属性・意識が有意な変数として
析出されたことを示している。従って,地域 における医療体制を評価する上では,住民(患 者)自身に由来する要因にも目を向ける必要 があるといえる。
さらに,地域医療に対する意識を考える上 では,住民の属性に加えかれらの(広い意味 での)受療行動への着目も求められる。たと えば,かかりつけ医を持つことは,自身の身 体・健康状態が十分理解された上で診察を受 けられるというメリットがあり,住民による 医療への満足度の向上や不安感の減衰に寄与 しうる(山田 2005)。反対に,紹介状を持た ずに専門的な医療機関・診療科を受診し,十 分な診察を得られなかったという経験をすれ ば,医療に対する満足度が低下することにな るだろう。あるいは,仮に医療資源の供給が 十分になされていたとしても,地域での医療 体制への不満・不安が高ければ,患者が他地 域へ流出して地元病院の経営悪化を招く可能 性もある。換言すれば,地域医療の充実と住 民による満足度の向上は,客観的な医療資源 の分布状況に加え,住民側の要因,すなわち 属性や受療行動といった側面にも関わる課題 だといえる。
そこで本稿では,住民による地域医療体制 の満足度に焦点を当て,医療機関の地理的分 布や住民の属性,および受療行動による規定 の度合を明らかにすることに取り組む。具体 的な分析では,特に次節で触れる医療アクセ スに関わる要因を加味することにより,医療 資源の地理的側面の持つ影響力を検討すると ともに,こうした要因を統制した上で住民の 属性や受療行動が有する説明力を確かめた い。なお,分析に用いるデータは,三重県の 地域的性格の異なる5市(津市・四日市市・
名張市・志摩市・熊野市)の住民を対象に実 施されたアンケート調査に基づく。近年,日 本でも医療格差や健康格差への関心が高まり つつあるが(近藤 2005),住民の満足度の分 析やその含意に主眼のある研究はまだまだ蓄 積が乏しい。従って,本研究は三重県を対象 とした事例研究にとどまらず,地域住民に関 わるさまざまな特性を勘案した分析という点 でも一定の意義を有すると思われる。
⑵ 医療アクセスの把握について
医療に対するアクセシビリティの良否,な いし医療の地理的な意味での利用しやすさ は,住民による医療体制の認識に一定の影響 力を持つと想定される。既述のとおり村田
(2008)は,医療アクセスにも着目し,その 代替指標として市郡の人口規模を独立変数に 設定している。しかし,同一市郡内でも医療 アクセスの差は存在しており,こうした指標 化の手法には疑問が残る。
実際,回答者の居住地と病院までの距離に ついては,対象者の主観的健康状態を統制し た上でも受療率の低下に有意に影響するとい う 研 究 は 多 い(Adams and Wright 1991 ; Powell and Adams 1995 ; Basu 2005)。ま た,日本の過疎地域を事例とした加藤ほか
(2011)も,大病院のない自治体に居住する 者は自市町村外で受療する割合が高いことを 報告している。あるいは,かかりつけ医の有 無という点では,近隣の医療施設の分布によ る 影 響 を 示 唆 す る 研 究 も あ る(松 島 ほ か 2009,Hanibuchi et al. 2011)。本稿では,住 民による受療行動,たとえば医療機関の選択 や通院時間による満足度に対する寄与の程度 も分析する関係上,より現実の地理的配置に
見合う形で医療アクセスを把握し,その影響 を統制すべきと考える。
とはいえ,多くのアンケート調査,とりわ け大規模なものでは,個票について正確な地 理情報を得ることが難しかった。そこで本稿 で実施したアンケート調査では,対象者の居 住する国勢調査の小地区(町丁字)コードの 回答を求め,個々の地区の位置情報を得るこ とを試みた。回答者の正確な居住地ではない ものの,各地区の代表点に基づく空間情報を 活用することで,医療機関への距離や選択肢 の数などを算出できる。こうした医療アクセ ス把握の精緻化により,医療体制への住民の 認識について,それが市町村スケールの医療 供給に起因するものか,あるいは医療へのア クセシビリティの良否によるものかを判別す ることが可能となろう。
Ⅱ アンケート調査の概要と分析変数 の設定
⑴ アンケート調査の概要
本稿で用いるアンケート調査は,図1に示 す三重県の5市に居住する成人を対象に実施 したものである。これら5市は,地方の中核 都市(津市),大都市圏の衛星都市(四日市市),
ベッドタウン的性格の色濃い都市(名張市),
中山間地域(志摩市),大都市から距離的に大 きく隔たる地域(熊野市)と性格を異にして いるという特徴がある。サンプル設計に際し ては,各市の人口規模に配慮しつつ,人口の 少ない市からも一定数の対象者を確保するこ とに努めた。対象者の具体的な抽出は,回答 者と医療機関の配置との関係を看取する目的 にも照らし,国勢調査の小地域に基づいて
行った。サンプル抽出は各市の住民基本台帳 に基づき系統法により実施し,地区数の少な い志摩市・熊野市を除く3市では層化系統法 によって行った。
層化抽出に際しては,対象者の属性と各市 の母集団のそれとが乖離しないように注意す る必要がある。本稿では,この問題に関し,
JPS 社発売の chomonixcs による社会地区類 型(1) を活用し,ランダムに抽出した地区全体 の人口学的・社会経済的属性にバイアスが生 じないように配慮した(2)。最終的に,津市で 5,025 件,四日市市で 4,294 件(3),名張市で 3,213 件,志摩市で 3,179 件,熊野市で 2,189 件の対象者を抽出し,郵送配布・郵送回収に よるアンケート調査を実施した。アンケート 票は,津市については 2012 年4月,志摩市は 同年5月,四日市市・名張市・熊野市は同年 9月に郵送し,回収数は津市 1,750 件(回収 率 34.8%),四日市市 1,315 件(同 30.6%),
名張市 1,066 件(同 33.2%),志摩市 1,052 件(同 33.1%),熊野市 678 件(同 31.0%),
全体で 17,900 通の配布に対し回収数 5,861 件(同 32.7%)であった。
アンケートでは,個人・世帯の基本的属性 のほか,7つの診療科(内科,外科・整形外 科,小児科,産婦人科,耳鼻咽喉科,眼科,
歯科)ごとの受療行動(過去5年の受診の有 無,受診した医療機関の種別,通院時間,通 院に用いた交通手段),かかりつけ医の有無,
受診抑制(受診が必要であるにもかかわらず 我慢した経験があるか否か),地域の救急医 療体制への不安について質問した。
⑵ 分析変数の設定
地域の医療体制への満足度に関する変数設
定に際しては,対象となる診療科やそれらの 利用可能性など勘案すべき要素が多く,汎用 に耐えうる指標設定はなかなか難しい。たと えば受診する機会の少ない医療を取り上げる と,その地理的偏在や対象者の属性によるバ イアスが大きくなると考えられるため,回答 者の地域の医療に対する評価を考える上 では不適当であろう。本稿では,成人全体を 対象としていることにも鑑み,最も受診する
可能性が高く各市に一定水準以上の医療施設 が配置されている内科に着目し,その医療体 制に対する満足度を従属変数としたい。ま た,医療体制を評価するスケールを,各市,
すなわち一次医療圏(4) とする。端的にいえ ば,本稿の分析では,いわば各地域における 身近な医療に対する認識について,それを規 定する要因を探ることに主眼を置く。具体的 な分析では,居住する市の内科の医療体制に 図1
研究対象地域
注)人口は 2010(平成 22)年国勢調査に基づく。
大病院数・診療所数は 2011 年 11 月時点のもの。医師数は厚生 労働省平成 21 年地域保健医療基礎統計(2009 年)による。
大病院は病床数 20 床以上,診療所は 19 床未満の医療機関 をあらわす。
ついて満足であるおおむね満足である
を1,不満であるやや不満であるわか
らないを0とおき,二項ロジスティック回 帰分析によって有意な独立変数の析出を試み る。
独立変数のうち,まず,個人属性について,
人口・世帯属性として性別・年齢階層・世帯 人員(単独世帯か否か)・子どもの有無,社会 経済的属性として従業上の地位と所得に着目 する。所得に関しては,実際の所得よりも,
経済的な余裕に関する主観的な意識がより強 く反映していると考えられるため,本稿では 健康保険料の負担感を変数として用いること にする。
次に医療アクセスに関しては,回答者の居 住する国勢調査の小地区をもとに,各地区の 重心点を基点に内科の医療施設との位置関係 を捉えることにしたい。対象とする医療施設
は,中日メディカルサイト(5) に掲載された
内科を標榜する医療機関とし(6),これらを大 病院(病床数 20 床以上)と診療所(同 19 床以下)に区分する。そして,大病院につい ては各地区からの直線距離を階層化し,診療 所については重心点から 2 km 以内に含まれ る数を連続変数として扱う。ここで 2 km と したのは,自動車でおおむね 15 分以内に到 達可能な範囲と考えられることによる。ま た,医療アクセスに強く影響すると考えられ る,自家用車の利用の可否(7) も変数に加え る。なお距離の算出には,ESRI 社の ArcGIS ver. 9.3 を用いた。
そして,受療行動に関わる独立変数につい ては,実際に受診した医療施設の種類(大病 院・診療所),通院時間,かかりつけ医の 有無(8) を取り上げたい。
なお,分析に用いるデータに関して,回収 されたアンケート 5,861 件のうち,回答者の 国勢調査小地区について回答のあったものは 5,175 件であった。このうち,過去5年間に 内科を受診したことがあるかという設問で ないと回答した 818 件と無回答の 158 件 については,受療行動に関するデータが得ら れないため,以降の分析では除外する。従っ て,本稿での最終的な分析データセットは 4,199 件となる。
Ⅲ 分析結果の検討
⑴ 個人属性(人口学的・社会経済的要因)
に関する分析結果
全体のデータセットをもとに,回答者の属 性を独立変数とした分析結果をみると(表1 のモデル1),年齢階層のうち65-74 歳と
75 歳以上が,各変数を統制した上で1%
水準で有意なカテゴリーとして析出されたこ とが目立つ。換言すれば,内科の満足度は高 齢者か否かでかなり相違しているといえる。
また,社会経済的属性に関しては,健康保険 負担感が増すほど満足度が低下しており,無 しの参照カテゴリーに対してある程度有
りかなり有り・支払い困難のいずれにつ
いても有意な結果が得られた(表1)。
ここで,本稿のアンケート調査では異なる 性格の5市を対象としているため,得られた 結果が各市の人口構成に由来するものかどう か,すなわち構成効果の有無について確認し ておきたい。各市をカテゴリー変数として追 加したモデル2(表1)の分析結果をみると,
調整済みオッズ比の値はモデル1と大差な く,年齢階層のうち 65 歳以上の2カテゴリー
表1
個人属性の各変数を投入した二項ロジスティック回帰分析の結果
モデル1 モデル2
調整済 ケース数
オッズ比 (95%信頼区間) 調整済
オッズ比 (95%信頼区間)
性別
男性 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 1697 女性 0.97 (0.83-1.13) 0.97 (0.83-1.14) 2097 無回答 0.96 (0.69-1.35) 0.86 (0.61-1.22) 199 年齢階層
20-29歳 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 205 30-39歳 1.32 (0.92-1.90) 1.26 (0.87-1.83) 488 40-49歳 1.18 (0.82-1.69) 1.15 (0.79-1.67) 640 50-59歳 1.17 (0.81-1.68) 1.28 (0.88-1.86) 643 60-64歳 1.22 (0.83-1.78) 1.25 (0.85-1.85) 535 65-75歳 1.82 (1.25-2.65)** 1.96 (1.33-2.88)** 835 75歳以上 2.10 (1.41-3.14)** 2.30 (1.53-3.47)** 647 世帯人員
2人以上 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 3246 1人(単独世帯) 0.79 (0.61-1.02) 0.79 (0.61-1.03) 354 無回答 0.92 (0.73-1.16) 0.97 (0.76-1.23) 393 子ども有無
有り 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 3415
無し 1.03 (0.82-1.28) 1.05 (0.84-1.32) 578
健康保険負担感
無し 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 870
ある程度有り 0.81 (0.67-0.97)* 0.80 (0.66-0.97)* 1572 かなり有り・支払い困難 0.62 (0.51-0.76)** 0.63 (0.51-0.78)** 1018 支払い無し・無回答 1.05 (0.81-1.36) 1.04 (0.80-1.37) 533 従業上の地位
フルタイム(自営業除く) 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 916 非正規労働 1.10 (0.86-1.40) 1.03 (0.80-1.32) 563 自営業(農林漁業含む) 0.98 (0.75-1.28) 1.05 (0.80-1.37) 451 学生・無職 0.99 (0.79-1.23) 0.99 (0.79-1.24) 1495 無回答 0.93 (0.72-1.19) 0.99 (0.77-1.29) 568 5市別
津市 1.00 〈reference〉 1195
四日市市 0.84 (0.68-1.04) 941
名張市 0.40 (0.32-0.49)** 747
志摩市 0.39 (0.31-0.48)** 652
熊野市 0.36 (0.28-0.46)** 458
nigerkerke r2=0.027 nigerkerke r2=0.080 n=3993
**:1%水準有意 *:5%水準有意
と健康保険負担感について有意な分析結果が 得られた。特に年齢階層についていえば,高 齢者か否かという要因の影響は大きいことが 確認されたが,これは,両者の間で特に健康 状態に由来する受療ニーズに違いがあるため と推測される。そこで以下の分析では,デー タセットを 65 歳以上 /65 歳未満に二分して 各要因の寄与の度合いを検討していきたい。
なお,モデル1とモデル2を比較した際,
適合度を示す nigerkerke R2値が後者で大き く上昇していることも注目される。津市を参 照カテゴリーとした場合,名張市・志摩市・
熊野市は1%水準で満足度が有意に低くなっ ている。この結果は,医療資源の供給ないし 医療アクセスの地域的な差異が,回答者の満 足度に対して相当大きな規定要因になってい る可能性を示唆する。この点は,次節以下の 分析で詳しく検討したい。
65 歳以上 / 65 歳未満に分けた分析結果を みると(表2),前者について,5市別のカテ ゴリー変数で統制した上でオッズ比を算出し たところ,健康保険負担感のかなり有り・
支払い困難が5%水準で,従業上の地位の フルタイムが1%水準で有意な結果が得 られた。ただし,フルタイムに関しては該 当する回答者が非常に少ない。一方 65 歳未 満では,健康保険の負担感のうちかなり有 り・支払い困難が1%水準で,また,ある 程度有りがマージナルな水準で有意であっ た(表2)。従って,所得に関する主観的な意 識は高齢者以外でより大きな説明力を有する といえる。なお,5市別のオッズ比(特に名 張市・志摩市・熊野市)は,年齢別に分けた 分析でも大きな変化は認められなかった。
ところで,先述した村田(2010)は,学歴
と医療不安との間に有意な関係を見出してい た。本稿で用いたアンケートは,調査票の設 計の都合上,四日市市・名張市・熊野市につ いてのみ学歴に関する問いが設けられたの で,参考としてこの変数を投入した分析結果 に触れておく。表1のモデル2の各変数を統 制した上で,大学卒を参照カテゴリーとし た場合,65 歳以上の中学校卒(OR:1.32,
95% C. I.:0.95-1.85)(9)高校卒(OR:1.07,
95% C. I.:0.56-2.08)短大・高専卒(OR:
1.24,95% C. I.:0.69-2.24),65 歳未満の中 学校卒(OR:0.84,95% C. I.:0.55-1.27)
高校卒(OR:0.82,95% C. I.:0.52-1.29)
短大卒(OR:0.93,95% C. I.:0.59-1.45)
のいずれについても有意な結果は得られな かった。
本節での分析をまとめると,内科の医療体 制の満足度に最も顕著に影響しているのは5 市別のカテゴリー変数であり,各市の地域差 が満足度に大きく反映されたものと考えられ る。また,これよりも寄与の度合いは小さい ものの,健康保険負担感という経済的格差に 関わる要因も有意なものとして析出された。
しかし,以上の変数以外について有意な結果 は得られず,全体的にみれば,個人属性のみ では満足度の説明は困難であるといえる。
⑵ 医療アクセスに関する分析結果
Ⅱ章の2節で言及したように,医療アクセ スによる受療率の違いを指摘する既存研究も あり,医療施設の地理的配置が内科の医療体 制への満足度に対しても影響力を及ぼすこと が推測されよう。そこで本節では,前節で取 り上げた諸変数および自家用車の利用可否で 統制した分析結果に着目し,医療アクセスが
表2
個人属性の各変数を投入した二項ロジスティック回帰分析の結果(65歳以上 / 65歳未満別)
65歳以上
ケース数
65歳未満 調整済 ケース数
オッズ比 (95%信頼区間) 調整済
オッズ比 (95%信頼区間)
性別
男性 1.00 〈reference〉 683 1.00 〈reference〉 1014 女性 0.93 (0.71-1.21) 697 1.03 (0.84-1.25) 1400 無回答 1.08 (0.62-1.88) 102 0.74 (0.46-1.17) 97 年齢階層
20-29歳 1.00 〈reference〉 205
30-39歳 1.27 (0.87-1.85) 488
40-49歳 1.15 (0.79-1.68) 640
50-59歳 1.30 (0.88-1.91) 643
60-64歳 1.34 (0.90-2.00) 535
65-75歳 1.00 〈reference〉 835 75歳以上 1.13 (0.87-1.46) 647 世帯人員
1人(単独世帯) 1.00 〈reference〉 1099 1.00 〈reference〉 2147 それ以外 0.86 (0.59-1.23) 211 0.74 (0.51-1.08) 143 無回答 1.02 (0.68-1.51) 172 0.95 (0.70-1.28) 221 子ども有無
有り 1.00 〈reference〉 1386 1.00 〈reference〉 2029 無し 0.97 (0.59-1.61) 96 1.10 (0.85-1.43) 482 健康保険負担感
無し 1.00 〈reference〉 276 1.00 〈reference〉 594 ある程度有り 0.74 (0.51-1.07) 500 0.82 (0.65-1.03) 1072 かなり有り・支払い困難 0.66 (0.45-0.97)* 373 0.62 (0.48-0.79)** 645 支払い無し・無回答 1.06 (0.70-1.60) 333 1.04 (0.71-1.51) 200 従業上の地位
フルタイム(自営業除く) 0.24 (0.10-0.55)** 25 1.00 〈reference〉 891 非正規労働 1.00 (0.53-1.92) 65 1.00 (0.74-1.36) 498 自営業(農林漁業含む) 0.86 (0.59-1.26) 182 0.97 (0.70-1.34) 269 学生・無職 1.00 〈reference〉 945 1.08 (0.74-1.55) 550 無回答 0.84 (0.61-1.17) 265 0.82 (0.60-1.11) 303 5市別
津市 1.00 〈reference〉 423 1.00 〈reference〉 772 四日市市 0.88 (0.58-1.32) 313 0.83 (0.64-1.07) 628 名張市 0.42 (0.28-0.62)** 257 0.39 (0.30-0.51)** 490 志摩市 0.42 (0.28-0.61)** 272 0.37 (0.28-0.48)** 380 熊野市 0.34 (0.23-0.51)** 217 0.37 (0.27-0.50)** 241 nigerkerke r2=0.074 n=1482 nigerkerke r2=0.073 n=2511
**:1%水準有意 *:5%水準有意
満足度の大小に有意な説明力を有しているか どうかを検討していく。
まず,65 歳以上についてみてみると(表 3),大病院までの距離に関して5 km 以上 では 5 %水準で有意にオッズ比が低かった。
ただし,有意ではないものの1∼2 kmでは オッズ比がやや高い値を示しており,距離の 増加と満足度の低下に単線的な比例関係が見 出せるわけではない。一方,2 km 以内の診 療所数については有意な結果とはならなかっ た(10)。また,統制変数として用いた交通手段 に関しては,自家用車の有無で有意な差を見 出すことはできない。
モデル3では一部のカテゴリーについて有 意な結果が得られたものの,5市別のカテゴ リー変数を投入したモデル4(表3)では,
医療アクセスについて有意なカテゴリーは析 出されなかった。またモデル4では,モデル 3に比して nigerkerke R2が大きく上昇して おり,大病院および診療所の分布という医療 アクセスの要因を統制してもなお,市ごとの 違いに由来する部分が大きいといえる。
次に,65 歳未満の結果に関して検討すると
(表4),モデル3では大病院までの距離の 1∼2 km 未満について,1%水準で有意 にオッズ比が高くなっていたが,それ以外の 距離階層では有意な結果は得られなかった。
一方診療所数については,1%水準で有意な 変数となった。この結果は,2 km 以内の診 療所数が多いほど満足度が上昇することを示 唆する。しかしながら,5市別の変数を投入 すると(表4のモデル4),これらのカテゴ
表3
医療アクセスの各変数を投入した二項ロジスティック回帰分析の結果(65歳以上)
モデル3 モデル4
調整済 ケース数
オッズ比 (95%信頼区間) 調整済
オッズ比 (95%信頼区間)
大病院までの距離
1 km未満 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 393 1∼2 km未満 1.38 (0.89-2.12) 1.30 (0.84-2.23) 343 2∼5 km未満 0.70 (0.47-1.06) 0.77 (0.50-1.18) 502 5 km以上 0.61 (0.39-0.97)* 0.64 (0.40-1.02) 344 2 km以内の診療所数 1.105 (0.995-1.036) 0.998 (0.981-1.024) 1482 交通手段
自家用車有り 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 1130
送迎 0.75 (0.45-1.23) 0.77 (0.46-1.27) 98
その他 0.87 (0.61-1.24) 0.98 (0.69-1.41) 249
無回答 1.01 (0.11-9.35) 1.03 (0.11-9.75) 5
5市別
津市 1.00 〈reference〉 423
四日市市 0.88 (0.58-1.34) 313
名張市 0.44 (0.29-0.66)** 257
志摩市 0.48 (0.32-0.73)** 272
熊野市 0.45 (0.29-0.70)** 217
nigerkerke r2=0.063 nigerkerke r2=0.088 n=1482
**:1%水準有意 *:5%水準有意
注)表1の個人属性に関わる各変数で統制している。
リーは全て有意ではなくなっており,おおむ ね 65 歳以上について得られたのと同様の傾 向を示している。
本節での分析からは,内科の医療体制への 満足度は市ごとの違いに由来する部分が大き く,交通手段に関する変数で統制した上でも,
医療アクセス自体が持つ説明力はかなり弱い といえる。医療施設への近接性や選択肢の多 さは,医療の利用のしやすさという点で医療 満足度に影響しうると想定されたが,5市の アンケート調査に基づく分析結果はこの予想 と反するものであった。なお,前節で言及し た健康保険負担感は,モデル4で医療アクセ スに関する諸変数を統制した上でも,かな り有り・支払い困難について,65 歳以上
(OR:0.64,95% C. I.:0.44-0.94)では5%
水準で,65 歳未満(OR:0.61,95% C. I.:
0.48-0.78)では1%水準で有意な結果が得 られた。
⑶ 受療行動に関する分析結果
本節では,対象者の行動に関する側面,す なわち,実際に受診した病院の種別,通院時 間,およびかかりつけ医の有無に着目し,本 章1節・2 節で挙げた諸変数を統制した上で,
満足度と受療行動との間に有意な関連性がみ られるか否かを検討していく。
まず,65 歳以上の分析結果(表5のモデル 5)をみると,通院時間に関して,15 分未満 を参照カテゴリーとした場合に30 分以上 が5%水準で有意な結果が得られた。また,
かかりつけ医の有無については,無しで1 表4
医療アクセスの各変数を投入した二項ロジスティック回帰分析の結果(65歳未満)
モデル3 モデル4
調整済 ケース数
オッズ比 (95%信頼区間) 調整済
オッズ比 (95%信頼区間)
大病院までの距離
1 km未満 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 589 1∼2 km未満 1.42 (1.09-1.84)* 1.16 (0.89-1.53) 629 2∼5 km未満 0.97 (0.75-1.25) 0.97 (0.74-1.27) 880 5 km以上 0.90 (0.66-1.23) 0.87 (0.63-1.20) 413 2 km以内の診療所数 1.020 (1.007-1.033)** 1.002 (0.987-1.017) 2511 交通手段
自家用車有り 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 2415
送迎 0.38 (0.10-1.47) 0.37 (0.09-1.44) 9
その他 1.36 (0.82-2.26) 1.44 (0.86-2.41) 85
無回答 0.75 (0.04-13.44) 1.02 (0.06-17.45) 2 5市別
津市 1.00 〈reference〉 772
四日市市 0.82 (0.63-1.07) 628
名張市 0.40 (0.31-0.52)** 490
志摩市 0.40 (0.30-0.53)** 380
熊野市 0.41 (0.29-0.58)** 241
nigerkerke r2=0.039 nigerkerke r2=0.077 n=2511
**:1%水準有意 *:5%水準有意
注)表1の個人属性に関わる各変数で統制している。
%水準で有意であり,オッズ比もかなり低く なっていることが看取できる。さらに,モデ ル3(表3)の nigerkerke R2と比べると,モ デル5で投入した諸変数によって適合度にか なりの改善が認められる。
ここで,前節までの分析をふまえれば,市 ごとの違いによってこれら変数の説明力はか なり減じるものと推測されよう。実際,5市 別のカテゴリー変数を投入したモデル6で は,通院時間の30 分以上はマージナルな 水準で有意なカテゴリーとなった。しかしな がら,通院医療機関の大病院は5%水準 で,また,かかりつけ医の無しは1%水 準で有意なものとして析出された。従って,
医療機関の選択およびかかりつけ医の有無と いう受診行動に関わる要因には,満足度に対
し一定程度の寄与が確認できる。
次に,65 歳未満について検討すると(表6 のモデル5),65 歳以上と比して通院時間に よる影響が顕著に現れている。すなわち,通
院時間の15∼30 分がマージナルな水準で,
30 分以上が1%水準で有意であった。ま
た,65 歳以上と同様に,通院医療機関とかか りつけ医の有無も1%水準で有意な変数とし て現れた。さらに,モデル6(表7)におい て5市別の変数を統制すると,モデル5で マージナルな水準で有意であった15∼30 分 未満が1%水準で有意なカテゴリーとなる など,各市の違いによる影響をふまえても,
受療行動に関する諸要因は一定の説明力を有 することが示唆された。なお,本章1節で言 及した健康保険負担感は,受療行動に関する 表5
受療行動の各変数を投入した二項ロジスティック回帰分析の結果(65歳以上)
モデル5 モデル6
調整済 ケース数
オッズ比 (95%信頼区間) 調整済
オッズ比 (95%信頼区間)
通院医療機関
診療所 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 923 大病院 0.78 (0.58-1.06) 0.70 (0.51-0.95)* 393 通院時間
15分未満 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 780 15∼30分未満 0.92 (0.66-1.27) 0.83 (0.59-1.16) 432 30分以上 0.63 (0.42-0.94)* 0.67 (0.44-1.01) 168
無回答 0.76 (0.58-1.06) 0.85 (0.32-2.27) 26
かかりつけ医の有無
有り 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 1069 無し 0.39 (0.28-0.53)** 0.36 (0.26-0.49)** 247 5市別
津市 1.00 〈reference〉 388
四日市市 0.84 (0.53-1.32) 286
名張市 0.33 (0.21-0.52)** 226
志摩市 0.36 (0.23-0.57)** 235
熊野市 0.34 (0.21-0.56)** 181
nigerkerke r2=0.119 nigerkerke r2=0.150 n=1316
**:1%水準有意 *:5%水準有意
注)表1の個人属性に関わる各変数,および表3の医療アクセスに関わる各変数で統制している。
諸変数を統制してもなお,65 歳未満のかな り有り・支払い困難について引き続き1%
水準で有意であったものの(OR:0.59,95%
C. I.:0.45-0.76),65 歳以上については5%
水準でも有意ではなくなっていた(OR:0.71,
95% C. I.:0.46-1.08)。
本節での分析を通じ,次の三点が明らかと なった。第一に,個人の属性や医療アクセス に関する要因を統制した上でも,通院時間が 長いほど内科の医療体制への満足度は下がる 傾向にあり,この関係は 65 歳未満でより顕 著なものとして現れる。第二に,内科につい て受診医療機関として大病院を選択した 者は満足度が低くなる傾向がある。第三に,
かかりつけ医を持つことは,満足度の上昇に かなりの程度貢献しうるといえる。全般的に
みて,65 歳以上と 65 歳未満のいずれについ ても,前節の医療アクセスと比較すると,受 診行動による説明力はかなり大きいといえ る。
これらの結果のうち,特に一点目について は前節での分析結果と対照的で興味深い。す なわち,医療施設の地理的配置の影響は限定 的であるにもかかわらず,実際に受診した医 療施設への時間距離は,医療アクセスの変数 を統制した上でも有意な説明力を持ってい た。いわば,医療施設の配置という客観的側 面と実際の受療行動との間には,ある種のズ レが存在する可能性があるといえる。
表6
受療行動の各変数を投入した二項ロジスティック回帰分析の結果(65歳未満)
モデル5 モデル6
調整済 ケース数
オッズ比 (95%信頼区間) 調整済
オッズ比 (95%信頼区間)
通院医療機関
診療所 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 1927 大病院 0.71 (0.56-0.89)** 0.62 (0.49-0.78)** 502 通院時間
15分未満 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 1704 15∼30分未満 0.81 (0.65-1.01) 0.72 (0.57-0.91)** 498 30分以上 0.47 (0.33-0.67)** 0.49 (0.35-0.70)** 176
無回答 0.82 (0.44-1.53) 0.97 (0.52-1.81) 51
かかりつけ医の有無
有り 1.00 〈reference〉 1.00 〈reference〉 1532 無し 0.51 (0.43-0.62)** 0.50 (0.41-0.60)** 897 5市別
津市 1.00 〈reference〉 758
四日市市 0.76 (0.58-1.01) 613
名張市 0.34 (0.26-0.45)** 478
志摩市 0.35 (0.26-0.47)** 357
熊野市 0.40 (0.28-0.58)** 223
nigerkerke r2=0.091 nigerkerke r2=0.135 n=2429
**:1%水準有意 *:5%水準有意
注)表1の個人属性に関わる各変数,および表4の医療アクセスに関わる各変数で統制している。
Ⅳ 考察
前章の分析から明らかになった特徴的な点 として,以下の二点を挙げうる。第一に,個 人属性・医療アクセス・受療行動の考えうる 変数を統制してもなお,市ごとの違いが非常 に大きいことがある。第二に,それよりは寄 与の度合いが小さいとはいえ,受療行動に関 する要因が,市ごとの差異の影響を一定にし
ても有意となった点が指摘できる。これらの うち,第一の点については,図1に示すよう に各市の間で医療供給の量的側面が大きく異 なることに由来していると考えられよう(11)。 従って,この観点から満足度の向上を考える とすれば,Ⅰ章で言及した医師不足の問 題は不可避といわざるをえない。しかし,第 二の点に関しては,こうした受療行動の背景 にある諸要因の検討により,住民側へのアプ 表7
かかりつけ医の有無に関する二項ロジスティック回帰
分析の結果(65歳以上)
調整済オッズ比 (95%信頼区間)
性別
男性 1.00 〈reference〉
女性 1.52 (1.14-2.05)**
無回答 1.57 (0.85-2.89)
年齢階層
65-75歳 1.00 〈reference〉
75歳以上 1.82 (1.33-2.48)**
健康保険負担感
無し 1.00 〈reference〉
ある程度有り 0.79 (0.52-1.20)
かなり有り・支払い困難 0.61 (0.40-0.93)* 支払い無し・無回答 0.96 (0.60-1.55)
大病院までの距離
1 km未満 1.00 〈reference〉
1∼2 km未満 1.61 (1.05-2.47)* 2∼5 km未満 1.73 (1.11-2.70)*
5 km以上 1.42 (0.87-2.34)
交通手段
自家用車有り 1.00 〈reference〉
送迎 1.46 (0.70-3.06)
その他 0.57 (0.39-0.83)**
現住所居住期間
10年未満 1.00 〈reference〉
10∼30年未満 2.04 (1.18-3.54)* 30年以上 1.93 (1.19-3.15)**
nigerkerke r2=0.085 n=1467
**:1%水準有意 *:5%水準有意
注)性別年齢階層世帯人員子どもの有無健康保険負担 感従業上の地位大病院までの距離診療所数交通手 段5市別現住所居住期間の各変数を投入し,有意な結果 が得られたもののみ表記。
ローチの必要性を示唆しうる。そこで本章で は,かかりつけ医の有無や医療施設の選択(特 に大病院を選ぶ傾向)に関わる規定要因 について考察したい。
まず,かかりつけ医の有無について,前章 で取り上げた各変数に加え,ここでは居住期 間の長短に関する変数を追加した分析結果(12) を検討する。居住期間を加えたのは,同一居 所での居住期間が長くなるほど,地域の大病 院や診療所に関する情報を多く得ており,そ のことがかかりつけ医の有無に影響を与えて いると推測されるためである。なお,以下の 分析では,居住期間を含めた諸変数のうち,
5市別のカテゴリー変数以外で有意な結果が 得られたもののみを取り上げる。
65 歳以上の結果(表7)に目を向けると,
5%水準以上で有意なものとして析出された のは,性別,健康保険負担感(かなり有り・
支払い困難),交通手段(自家用車無し),
大病院までの距離(1∼2 km2∼5 km),
居住期間(10∼30 年未満30 年以上)で あった。健康保険負担感や居住期間について はおおよそ予想通りの結果といえるが,興味 深いのは大病院までの距離について,1 km 未満では他のカテゴリーに比べてかかりつけ 医を持つ確率が低くなっている点である。こ の点に関しては,大病院の近隣に居住すると,
そうした医療機関を受診しやすいが故に,か えってかかりつけ医の必要性が認識されにく くなるのではないかと推測される。
一方,65 歳未満については,医療アクセス に関する要因と健康保険負担感は有意とはな らず,性別,従業上の地位(無職・その他),
居住期間(10∼30 年30 年以上)がそれ ぞれ有意な変数として現れた(表8)。これ
らのうち,従業上の地位に関して,フルタイ ム労働者でかかりつけ医を持ちにくいこと は,生活時間に由来する部分もあるものと思 われる。すなわち,フルタイム労働者の多く は,平日の昼間に医療機関を受診することが 難しく,また,日中は居住する地区外で過ご すと考えられるため,特定の医療機関にかか りつけ医を持つことが難しいものと予測され る。この点は,女性の方がより多くかかりつ け医を持つ傾向があることとも関連していよ う。
次に,医療機関の選択で大病院を選ぶ確 率(13) についてみると,65 歳以上では,性別,
大病院までの距離(1∼2 km2∼5 km),
診療所数,かかりつけ医の有無が有意な変数 として析出された(表9)。ここでも医療ア クセスに関する要因が有意なものとなってお り,大病院から離れるほど,また,近隣の 診療所数が増えるほど診療所を選択する 確率が高い。65 歳未満については,診療所 数は有意とはならなかったものの,大病院 までの距離について,1∼2 km 未満は1%
水準で,2∼5 kmは5%水準で有意な結果
が得られた(表 10)。従って,医療機関の選 択には,他の変数を統制した上でも,大病院 までの距離が影響しているということができ る。
ところで,Ⅲ章3節で述べたように,内科 の医療体制に対する満足度は,大病院を選 択する者で,また,通院時間が長い者で有意 に下がる傾向が認められた。だとすれば,大 病院から遠方に居住し,なおかつ大病院 を選択する場合に通院時間が長くなり,その 結果として満足度が低下するという作用経路 の存在も想定されうる。この点について図
表8
かかりつけ医の有無に関する二項ロジスティック回帰 分析の結果(65歳未満)
調整済オッズ比 (95%信頼区間)
性別
男性 1.00 〈reference〉
女性 1.38 (1.14-1.67)**
無回答 0.85 (0.54-1.34)
従業上の地位
フルタイム(自営業除く) 1.00 〈reference〉
非正規労働 1.25 (0.97-1.61)
自営業(農林漁業含む) 1.29 (0.96-1.76)
学生・無職 1.53 (1.19-1.97)**
無回答 1.25 (0.93-1.69)
現住所居住期間
10年未満 1.00 〈reference〉
10∼30年未満 1.25 (1.01-1.55)* 30年以上 1.67 (1.28-2.17)**
nigerkerke r2=0.063 n=2519
**:1%水準有意 *:5%水準有意
注)性別年齢階層世帯人員子どもの有無健康保険負担 感従業上の地位大病院までの距離診療所数交通手 段5市別現住所居住期間の各変数を投入し,有意な結果 が得られたもののみ表記。
表9
大病院の選択に関する二項ロジスティック回帰分析
の結果(65歳以上)
調整済オッズ比 (95%信頼区間)
性別
男性 1.00 〈reference〉
女性 0.58 (0.45-0.75)**
無回答 0.84 (0.51-1.39)
大病院までの距離
1 km未満 1.00 〈reference〉
1∼2 km未満 0.66 (0.45-0.97)* 2∼5 km未満 0.63 (0.43-0.94)*
5 km以上 0.70 (0.45-1.09)
診療所数 0.976 (0.957-0.995)* かかりつけ医有無
有り 1.00 〈reference〉
無し 2.04 (1.51-2.75)**
nigerkerke r2=0.095 n=1353
**:1%水準有意 *:5%水準有意
注)性別年齢階層世帯人員子どもの有無健康保険負担 感従業上の地位大病院までの距離診療所数交通手 段5市別現住所居住期間かかりつけ医有無の各変数 を投入し,有意な結果が得られたもののみ表記。
2・図3をもとに確認すると,65 歳以上・65 歳未満とも,当然ながら大病院までの距 離の増大に伴って通院時間が長くなる傾向が あるが,その一方で診療所への通院時間 の増大の程度は緩やかである。換言すれば,
大病院と診療所の通院時間の差は,
大病院からの距離の増大に応じて大きく なっており,このことが通院時間を介して満 足度を低下させる側面があるものと推測でき よう。
なお,図 2・図3で興味深い点として,ケー ス数は多くないものの,大病院からの距離が 1 km 未満1∼2 km 未満のカテゴリー でも大病院への通院時間が15∼30 分
30 分以上という回答があったことが挙げ
られる。最近隣の大病院に対する何らかのネ ガティブな認識が存在し,そのことが他の大
病院を選択させ,結果的に医療体制への不満 が増している可能性もありうる。このこと は,前章で述べたズレにも関わるものと 考えられ,医療アクセスを客観的側面だけで なく,住民にとっての利用しやすさの観点か ら把握する必要性(Comber et al. 2011)を示 唆していよう。
以上の検討から,医療アクセスおよび受療 行動と満足度との関係について,次のように 解釈しうる。すなわち,65 歳以上に関して,
大病院の近隣すなわち医療アクセスの良 い居住地では,そうした病院が近隣にあるが 故にかかりつけ医が持たれず,また,一部で は他の大病院が選択され通院時間が長くな り,これらの結果として医療体制への満足度 が下がるという作用経路があると推測され る。この意味では,医療アクセスによる満足
表10
大病院の選択に関する二項ロジスティック回帰分析
の結果(65歳未満)
調整済オッズ比 (95%信頼区間)
年齢階層
20-29歳 1.00 〈reference〉
30-39歳 1.27 (0.78-2.08)
40-49歳 1.67 (1.02-2.73)* 50-59歳 2.76 (1.67-4.56)**
60-64歳 3.45 (2.03-5.87)**
大病院までの距離
1 km未満 1.00 〈reference〉
1∼2 km未満 0.64 (0.47-0.87)**
2∼5 km未満 0.67 (0.49-0.92)*
5 km以上 0.77 (0.53-1.13)
かかりつけ医有無
有り 1.00 〈reference〉
無し 1.53 (1.24-1.88)**
nigerkerke r2=0.229 n=2451
**:1%水準有意 *:5%水準有意
注)性別年齢階層世帯人員子どもの有無健康保険負担 感従業上の地位大病院までの距離診療所数交通手
段5市別現住所居住期間かかりつけ医有無の各変数
を投入し,有意な結果が得られたもののみ表記。