オックスフォード・アナリティカ・デイリー・ブリーフ
(Oxford Analytica Daily Brief)
< 2017 年 6 月号 >
1.状況
フィリピンのドゥテルテ大統領がまもなく「一帯一路」国際会議に出席するために代表 団を引き連れて北京を訪問する。ドゥテルテ大統領は 2017 年 5 月 14、15 日に開催される 一帯一路会議(OBOR)に出席する 28 人の国家首脳の一人であり、先だった 4 月の「東 南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議」では初めて議長として会議を取り仕切るなか で、親中国に傾いた彼の外交政策を鮮明にした。2.予想される展開
ドゥテルテ大統領はASEANの持ち回り議長国である期間を国内政策と外交政策の両 面で有効に利用しようとするだろうが、その結果国家連合組織としてのASEANの影響 力と結束を弱めることになるだろう。大統領は「一帯一路」国際会議から「具体的な成果」 を持ち帰る必要があり、もしそうでなければ、大統領が強力にすすめる「中国依存政策」 は彼自身の政権内部やフィリピン国民、東南アジア諸国内部から立ち上る批判に直面せざ るを得なくなりそうだ(ASEAN=「東南アジア諸国連合」の加盟国はインドネシア、 カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャ ンマー、ラオスの 10 カ国:訳注)。3.副次的なインパクト
(1) もし米トランプ政権がASEANの組織において重要な役割を果たさなかったら、 中国の支配力を強めることになるだろう。 (2) 南シナ海の領有権問題はフィリピンが「ASEAN地域フォーラム」(ARF、2017 年 8 月開催)と「東アジア首脳会議」(EAS、2017 年 11 月開催)の議長を務め るとき、重要な問題として提起されるだろう(ARF、EASには域外から日本、 米国、ロシア、中国などが参加する:訳注) (3) フィリピンと中国が二国間関係を緊密にしようとすると、中国に対する懐疑心を 持つフィリピン国民は抵抗を示すだろう。4.分析
2016 年 6 月の大統領就任以来、ドゥテルテ大統領はフィリピンの外交政策を「自分一人 の決定」で左右してきている。アキノ前大統領の外交姿勢を大幅に転換し、中国寄りを鮮〔1〕フィリピン
「ドゥテルテ大統領にとって重大な意味を持つ中国訪問」
(2017 年 5 月 9 日付の OADB)明にし、米国との距離を大きくしてきている。中国との「温かい外交関係」を構築するこ とによって、これまで中国と対立してきた南シナ海領有権問題の処理を容易にできるとい うのがこうした外交政策転換の理由に挙げられる。さらに、ドゥテルテ大統領は中国との 貿易や投資を促進することで、彼が選挙で公約した、フィリピン経済の成長と貧困の撲滅 につながることを期待している。中国はフィリピンの貿易相手国の第 1 位(333 億ドル、2016 年)であり、フィリピンからの輸出先国第 1 位で 162 億ドル(2015 年)となっている。 (1)ASEAN首脳会談 第 30 回ASEAN首脳会談は 2017 年 4 月 29 日にフィリピンのマニラで開かれた。ドゥ テルテ大統領は首脳会議議長として、南シナ海領有権問題を軽く扱うことによって、首脳 会議を「中国回帰」の外交政策を強化する場に利用した。 4 月 30 日、首脳会議は議長声明を発表した。そのなかで、南シナ海紛争に関する表現は 2016 年 9 月の首脳会議で親中国派のラオスが議長国として発表した議長声明よりもさらに 中国をけん制する色彩が薄れた。南シナ海に関する文章の長さはラオス会議の議長声明の 半分以下である。また今回も昨年同様、中国が管轄権を一貫して拒否しているオランダ・ ハーグの仲裁裁判所の 2016 年 7 月の国連海洋法条約(UNCLOS)に基づく判決につい て何も言及していない。判決がフィリピンのアキノ前大統領による中国に対する提訴につ いてフィリピンの主張を全面的に認めたものであるにも関わらずに、である。 さらに、今年の議長声明には 2016 年 9 月の時と異なり、(1)中国による南シナ海の軍事 基地化と埋め立て造成活動に対するASEAN加盟諸国の懸念が生じている(2)こうした 中国による活動の結果、中国に対する「信頼と信用」が失われている(3)南シナ海領有権紛 争は平和的かつUNCLOSの諸規定に従って解決されるべきである―――という3つの 点が取り入れられていない。 ラオスとカンボジアはしばしば、ASEANにおける中国の最も密接なパートナーであ ると理解されており、カンボジアも 2012 年に議長国を務めているが、いずれも議長国のと き、領海領有権問題における中国の望む方針にあまりにもべったり寄り添っていることに ついて批判されてきた。 今回の議長声明は南シナ海に対するフィリピンの外交政策がドゥテルテ大統領の政権下 でどれほど大きく変化したか、さらに中国が「第二のフィリピン」を探していることを明 らかにした。ドゥテルテ大統領の任期は 2022 年まで、在任中は現在のような中国との関係 は続くにちがいない。中国に対して南シナ海領有権問題を抱える「ベトナム」はASEA N内部で「孤立」させられるだろう。 (2)地域機構としてのASEANへの政治的影響 ドゥテルテ大統領はASEANという「国家連合組織」をフィリピンの外交政策の目的を 実現するために利用しており、中国は彼が実行しているこの新しい外交方針を称賛してい る。しかし、フィリピンと中国のように「二国間ベースによる外交」を重視する政策は将 来のASEAN首脳会議と同議長声明に対するASEAN加盟諸国の期待感を引き下げ、 「ASEANという多国間組織」を少しずつ弱体化させていくだろう(中国は「多国間ベ ース」では同盟国がほとんどない、つまり、中国が「モデル」にならないので不利と考え、 問題を「二国間ベース」の解決方法に引き寄せようとしている。「中国人民解放軍政治工作 条例」の「三戦(世論戦、心理戦、法律戦)」のうちの「法律戦」である。この条例は 1963 年 3 月に中共党中央委によって公布されたもので、2003 年に改訂されて「三戦」が人民解 放軍の任務として明記された:訳注)。 また、南シナ海問題はASEAN組織およびその原則である(1)多様性を認めながら統一 を維持し(2)「ASEANの中心性」を維持し(centrality;すなわち重要な地域の問題 やグロ―バルな問題に対してASEAN「共通の立場やアプローチ」によりASEANが 問題解決のイニシアチブ(中心的役割)をとることを意味する。ASEAN憲章は、二国
間ではなく多国間枠組みを発展させる「推進力」としての「ASEAN中心主義」の維持 を、憲章第 1 条 15 項で求めている。この問題は我が国にとっても重要であり、「防衛研究 所紀要 2014 年 10 月号」の庄司智孝論文「ASEANの中心性」を参照されたい:訳注)、 (3)地域内に対する大国の介入を和らげる能力を持つ―――という 3 原則にとって「試金 石」となる問題である。中国の南シナ海における行動はASEAN構成原則に対する最も 深刻なテストであり、「ASEAN文書」のなかで南シナ海領有権問題についての「言及が 減少する」傾向はASEAN加盟国のみならず、国際的には現状がASEAN諸国にとっ て最も「受け入れがたい」結果である「中国圧力に屈した兆候」であると読むことができ る。 こうした現状はASEANが 2017 年に南シナ海領有権紛争に関して効果的な影響力を発 揮できなくなることを意味し、加盟 10 カ国のうちの何カ国かが、自分たちの政治・経済的 優位性や相互の合意・連携を追求する手段として、(加盟国内に)「ブロック」を形成する ことになりそうだ。 今回の第 30 回ASEAN首脳会談の結果に関するメディアの報告によると、ベトナム、 シンガポール、マレーシアの 3 カ国は南シナ海領有権紛争について最も強硬な立場にあり、 すでにASEANは「内部分裂」の状態を示している。 (3)国内のリスク ドゥテルテ大統領は彼自身の政治的生命の将来を「中国中心の新しい外交政策」に賭け ている。 とりわけ、米トランプ大統領がオバマ前大統領時代に緊張した米国とフィリピンの二国 間関係を改善するため 2017 年 4 月 29 日に電話会談で訪米を招待したことに対しても、ド ゥテルテ大統領は現在のところ、どっちつかずの対応をしているし(招待をまだ受け入れ ていない:訳注)、フィリピンのルソン島東部沖の「ベンハム隆起」で中国の調査船の活動 がみられたことについても国民に懸念を与えたままにしている(同大統領はこの懸念を一 蹴して、中国への不満は「取るに足らないものだ」と語ったと伝えられている。またベン ハム隆起は、水深 40 メートルで 1300 万ヘクタールの広さがある。フィリピン本土を挟ん で南シナ海の反対側の太平洋側で、UNCLOSによりフィリピンの領有が認められてい る。フィリピンの大陸棚に含まれて EEZ200 カイリの内側にある:訳注) しかし、こうした対応はドゥテルテ大統領にとって国内におけるリスクを意味している。 パルサ・アジア社が 5 月 2 日、フィリピンで世論調査を実施したところ、「最も信用できな い大国は?」という質問に対して 63%が「中国」と回答、「中国を信用できる」とする割合 は 37%だった。一方、米国を「最も信頼できる大国」とする割合は 79%で、「信頼できな い」とする割合は 20%だった。 現在、ドゥテルテ大統領の外交政策と国内世論調査の結果とのかい離が、大統領の国民 および議会(国会議員)からの支持率に具体的に反映される状況にはない。ある意味では フィリピンの「国家主権を守ること」は有権者にとって重要な問題だが、国民の間でその ための「強い政治的圧力」が高まるまでにはまだ、至っていないことが理由の一つだろう。 パルサ・アジア社の 3 月の調査では、自国の国家主権の保護が政策の優先順位の1位、ま たは 2 位であると回答した有権者の割合はそれぞれわずか1%で、第3位とする有権者は 3%に過ぎなかった。 しかし、ゲイリー・アレハノ下院議員は 2017 年 3 月、ドゥテルテ大統領に対して南シナ 海問題に「敗北主義的姿勢」を取っているとして「大統領弾劾請求」を提出した。この弾 劾請求はほとんど状況を変える力を持たないが(ドゥテルテの与党「PDPラバン」が下 院の3分の2以上、上院が 24 人中 21 人を占めているため。5 月 15 日付OADB短信によ ると、下院司法委員会は同日、全会一致で弾劾請求を否決した:訳注)、弾劾要請の存在は フィリピン国民の関心を南シナ海問題に対する大統領のアプローチに向けさせることにな るだろう。
さらに、ドゥテルテ大統領は国民の「中国に対する疑念」を減らす行動をとっておらず、 フィリピンと中国の二国間関係が深まるとともに次第に重要な問題となるだろう。パル ス・アジア社の 2016 年 12 月の世論調査では中国を信用する国民の割合が 38%だったが、 2017 年 5 月 2 日の調査では 37%とわずか 1 ポイントであるが低下し、反対に信用できない 派は 61%から 63%に 2 ポイント上昇した。 (4)一帯一路会議 ドゥテルテ大統領は 2017 年 5 月 14、15 日に北京で開催される「一帯一路」国際会議に 出席する。大統領は「自分が出席すれば、フィリピンの開発のために中国がさらに経済的 支援を行う方向に導くことになるだろう」と国民に約束している。 大統領にとっては北京会議の後の二国間会談で習近平国家主席と横に並ぶ会談を確実に 行って、フィリピン経済に対する中国の複数の経済援助協定をフィリピンに持ち帰ること が重要なのである。なぜならば、もしこうしたお土産がなければ、中国の対フィリピン経 済援助の目に見える協定書へのサインがないままに、南シナ海紛争における中国の立場を フィリピンが支援しているようにみえる時間が長ければ長いほど、フィリピン国軍を含む フィリピン国民やいくつかのASEAN加盟諸国から放たれるドゥテルテ非難の弾丸が多 くなってくるのである。 (2017 年 5 月 9 日付の OADB)
1.状況
北京で開催された「一帯一路」国際会議は 28 カ国の首脳が出席し、2017 年 5 月 15 日に閉 幕した。中国政府は今後「一帯一路」構想に 1,240 億㌦の資金を投入する。その資金の多 くはASEAN諸国のサービスとインフラ部門に流れ込む見通しだが、加盟国内には中国 マネーに対する依存度の上昇に居心地の悪さを感じている国がある。2.予想される展開
中国からの投資の第一波は既にいろいろな効果を生んでおり、ASEAN諸国には「一帯 一路」構想のパートナー国が一層拡大する前に、構想に対する説明責任の改善を求める声 が上がっている。しかし、中国のほかに同じ規模の資金を提供してくれる資金源がほとん どないことを主な理由として、ASEAN諸国は中国に期待するしかないだろう。3.副次的なインパクト
(1)ASEAN諸国に対する中国の投資は今後、受入国側の精査・選別にさらされるこ とになるだろう。 (2)このため、中国企業は「企業の社会的責任(CSR)」を果たすため、追加的な対策 を取る必要がでてくる。 (3)投資を受け入れたASEAN諸国は、仮に中国マネーの流れがASEANから地域 に変わったり投資を減額されたりすれば、政治的に不安定になるだろう。4.分析
中国政府は「一帯一路」構想を売り込むために 2 日間にわたる会議を開催し、900 件のプ ロジェクトについて総額 1 兆㌦の話し合いが行われた。このうち、どの程度のプロジェク トがASEAN諸国に関係するかは明確ではないが、ASEAN諸国は 2020 年までに 1,500 億㌦の「中国企業」による投資を期待している。 2015 年、中国はASEAN諸国にとって第 5 位の外国直接投資国であり、投資額は 82 億 ㌦、全体に占める割合は 6.8%だった。第1位はASEAN域内で 18.4%、EUは 16.7%、 日本は 14.5%、米国は 11.3%である。しかし、中国の数字には香港経由の投資額は含んで いない。 中国からの投資が多いのは次の3つのセクターだ。 ① 金融 2015 年のASEANの金融・保険業界に対する中国からの投資は 35 億㌦で、セク ター全体への投資額の 20%を占めるが、その多くはシンガポール向けだった。 ② 不動産 不動産業界への中国からの投資は総額 18 億㌦で、セクター全体への投資額の 9% ほどを占め、カンボジア、マレーシア、シンガポール、タイが主な投資先だ。 ③ 製造業〔2〕中国
「ASEANに流入する中国マネーが刺激する政治リスク」
(2017 年 5 月 24 日付の OADB)ASEAN地域の製造業への中国からの投資はおよそ 9 億 3,000 万㌦で、日本の 投資額(83 億㌦)に比べるとまだわずかにとどまっている。マレーシアとタイが もっとも大きな割合を占める。 (1)インフラ面での結びつき PwCの予測によると、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、シンガポール、 フィリピンは経済成長を確かにするために、2025 年までインフラ整備に年間合計で 3,695 億㌦を投じることを見込んでいる。 こうしたことは投資家として中国に利益をもたらすだろう。なぜなら、ASEAN域内 に再編される工場同士を結びつけ、また、製品を輸出するためにASEANの港にアクセ スしたりする確かな交通網が求められるからだ。 このような相互依存関係により、中国は今後数十年間、ASEAN地域において、ユニ ークな開発者としての役割を得ることになるだろう。 中国による投資は主に次の 3 つの構想を通じて行われる。 ① 新シルクロード基金 中国が 2014 年に設立した 400 億㌦の「シルクロード」基金は現在、より大きな「一 帯一路」構想に包含されている。「一帯一路」は欧州から中国の東端まで広範につな げる陸のルート(一帯)と中国から東南アジア、南アジア、そしてアフリカも含め て欧州につながる海路(一路)とをあわせた壮大な構想だ。ASEANのジャカル タ、シンガポール、クアラルンプール、ハノイの各都市はそうした巨大な商業圏(経 済圏)のなかでハブとしての役目を担うだろう。 ② アジアインフラ投資銀行(AIIB)による融資 ASEAN加盟国はすべてアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参画している。 AIIBは 1,000 億㌦の初期資金を持ってスタートし、「一帯一路」構想と緊密な連 携が想定されている。 これまでのところ、ASEAN域内では次の2件がAIIBによるプロジェクト 融資として承認されているだけだ。 (ア)インドネシアの都心のスラム環境改善事業(2億 1,650 万㌦) (イ) ミャンマーでの発電所建設事業(2,000 万㌦) ③ 民間投資基金 2009 年に創設された中国ASEAN投資協力基金(CAF)は中国ASEAN基金 として知られており、中国系の銀行、金融機関にバックアップを受けたエクイティ・ ファンドだ。インフラ整備やエネルギー産業、天然資源開発への投資財源を確保する 目的で設立され、その資金枠は 100 億㌦にのぼる。 CAFはインドネシアとカンボジアの通信ベンチャー企業やタイの港湾建設プロジ ェクト、グリーンエネルギー計画などへの投資も承認している。 (2)東南アジアの疑念 中国が自国の経済成長の推進力の中核に位置付ける「一帯一路」構想に対する批判は、 それが中国の地政学的な野心からもたらされているのではないかということと、経済成長 の結果、蓄積された自国の供給過剰分の「はけ口」(負担先)に利用しようとしているので はないかということだ。また、たとえば、東南アジア地域での航空網が発達したり、地域 内のサプライチェーン(供給網)が形を変えたりすることにより、高速道路や鉄道による 巨大ネットワークの実現可能性にも疑いがでてきかねない。 困難が増していることを示すように、最近、いくつかの挫折も生じている。 インドネシアのジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道プロジェクトは総額 51 億㌦の費用を
見込んで始まっているが、事業者側の様々な要因と財政的な問題によって当初の計画より も工事の進捗は遅れている。同様の不和は、別の発電所建設事業のプロジェクトにおいて もみることができる。この発電所プロジェクトでは粗悪な設備や機械の使用により想定し た出力を実現できず、1 年以上も立ち上げが遅れている。しかし、それでも中国は第二の発 電事業計画への参加には意欲的である。 ミャンマーでは 2011 年に中国主導で始まったカチン州ミッソンでの巨大ダム建設事業 (36 億㌦)が電力(天然資源)安売りに対する国民の反中国感情の高まりや建設予定地のカ チン州の民族問題を受けて中止された。ミャンマーは中国とインドの間の 200 億㌦鉄道回 廊計画から撤退したが、最近になって、深海港の建設や別の発電所事業、特別経済地区に 対する中国の投資を承認した。 ベトナムはおそらく中国にとって最も気の進まない投資先であるが、再構築しようとす る試みが始まっている。両国関係は 2014 年に西沙諸島付近で中国による石油掘削活動以降、 ベトナム国内での反中国デモの一部が暴徒化し中国系の工業団地が襲撃されたこと(韓国 系、台湾系の企業も多く被害を受けた)から冷え切っていたが、中国企業がビントゥアン 省で進めており、住民から公害発生の疑いがあるとして申し立てられている、ベトナム最 大の火力発電所建設計画に対し、省当局が介入するなど改善の動きをみせている。 (3)依存関係のリスク 中国がASEANにおいて地域経済に大きな役割を果たすようになったことで幅広い懸 念も生んでいる。 中国が開発の焦点を当てているカンボジア、ラオス、ミャンマーではその資金調達のほ とんどは投資ではなく優先条件付き融資の形で行われており、貧困国にとって長期支払依 存への不安を引き起こしている。 加えて、ASEANが中国の供給ラインに組み込まれるにつれて、ASEANは中国経 済が抱える潜在的な危機に過剰にさらされているという心配もある。たとえば、中国によ るインフラ事業への技術的・経済的投資は 2005 年以来、ラオスではGDPの約 15%を占め ている。カンボジアでは中国がカンボジア債務残高全体の 43%の債権者であり、ほとんど が開発借款の形である。 (4)ずさんな監視 中国の投資家は西欧諸国の投資家に比べてはるかに有利な条件を提示しているが、それ は反面、事業計画や労働者、環境に対する規制を無視する可能性が高いということである。 これは地方公務員の不正行為や住民の強制的な立ち退きなどの人権侵害、プロジェクト をだめにするような見落としにつながりかねない懸念を誘引する。 イメージの問題を明らかに心配して、中国は投資に対してより説明責任を果たそうと約 束してきた。しかし、(投資先の)社会、コミュニティーから寄せられる変化を求める圧力 は高まっており、その声は力強さを増している。 (5)政治的な露出 中国による融資は受益国にとって有益である。なぜなら、政府はその資金を国家の経済 的および制度的な発展のために使うことができ、それは政治的な支持基盤の拡大につなが るからだ。中国の政治体制や姿勢を支持し、政治的に近い国は、資金調達の恩恵をより受 けやすい傾向がある。 しかし、おそらく、中国が諸外国政府に圧力をかけるといった政治的な理由により、融 資を削減したり、変更したり、または中止したりするリスクが存在し、それが国内の政治 的摩擦を招く可能性がある。 (2017 年 5 月 24 日付の OADB)