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Vol.18 , No.2(1970)084佐藤 成順「引文からみた十往生経と山海慧菩薩経」

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Academic year: 2021

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十 往 生 経 は、 つ ぶ さ に は 十 往 生 阿 弥 陀 仏 国 経 と 称 し、 武 周 録 以 来 の 経 録 に よ る 限 り、 中 国 で 選 述 さ れ た 数 多 い 偽 疑 経 の 一 つ で あ る。 こ の 経 典 に 説 く、 阿 弥 陀 仏 が 二 十 五 菩 薩 を 遣 わ し て 念 仏 の 行 者 を 擁 護 す る、 と い う い わ ゆ る 二 十 五 菩 薩 随 逐 擁 護 の 所 説 は、 中 国 ・ 日 本 の 浄 土 教 の 文 献 に し ば し ば 引 証 せ ら れ、 浄 土 教 の 現 世 利 益 的 信 仰 と し て 広 く 流 布 し て い る。 浄 土 宗 二 祖 辮 阿 辮 長 は、 十 往 生 経 を ﹁ 浄 土 傍 依 経 典 ﹂ と 位 置 づ け て お り、 疑 経 と は い う も の の 浄 土 教 思 想 史 の 上 で は 重 要 な 経 典 で あ る。 十 往 生 経 に は 異 本 が 現 存 す る。 開 元 録 に は、 阿 弥 陀 仏 覚 諸 大 衆 観 身 経 一 巻 十 往 生 阿 弥 陀 仏 国 経 一 巻 と 井 記 し、 二 経 の 関 係 に つ い て、 た だ、 前 広 後 略、 す な わ ち 阿 弥 陀 仏 覚 諸 大 衆 観 身 経 が 広 説 で あ り、 十 往 生 経 が 略 説 で あ る、 と い う 差 の み で ほ か に 異 な り が な い、 と 述 べ て い る。 阿 弥 陀 仏 覚 諸 大 衆 観 身 経 の 名 は、 さ か の ぼ つ て、 武 周 録 に も 記 さ れ て あ る。 矢 吹 慶 輝 博 士 の 将 来 し た 山 海 慧 菩 薩 経 ( ス タ イ ン 文 献 二 五 三 八、 大 正 八 五) の 巻 頭 の 品 名 の 上 に、 武 周 録 ・ 開 元 録 に 掲 げ る 阿 弥 陀 仏 覚 諸 大 衆 観 身 経 な る 経 名 が 附 さ れ て あ り、 阿 弥 陀 仏 覚 諸 大 衆 観 身 経 は 山 海 慧 菩 薩 経 の 別 称 で あ る か ら、 山 海 慧 菩 薩 経 が、 十 往 生 経 の 異 本 で あ る こ と は 明 ら か で あ る。 ま た、 別 の 異 本 と し て、 ス タ イ ン ・ ナ ン バ ー 三 五 〇 六 本 が 後 半 の 部 分 の み で あ る が ス タ イ ン 文 献 の 中 に 現 存 す る。 こ れ ら の 三 本 を 比 較 す る と、 ま ず、 十 往 生 経 と 山 海 慧 菩 薩 経 と は、 経 典 の 全 体 的 な 構 成 は 類 似 し て お り、 文 の 一 致 し て い る 部 分 も あ る が、 広 略 の 差 が あ る と 指 摘 さ れ て い る ご と く、 山 海 慧 菩 薩 経 の 方 が 詳 説 の 部 分 が 多 く、 し か も、 そ の 部 分 に、 一 閾 提 不 往 生 の 主 張 や 浬 葉 常 住 の 説 な ど、 十 往 生 経 に は み ら れ な い 教 説 が 含 ま れ て い る。 一 方、 山 海 慧 菩 薩 経 と、 ス タ イ ン 三 五 〇 六 本 の 阿 弥 陀 為 諸 大 衆 説 観 身 正 念 解 脱 三 昧 経 と は、 語 字 に 少 し の 相 違 が あ る 程 度 で 文 体 は 一 致 し て い る。 つ ま り、 十 往 生 経 と 山 海 慧 菩 薩 経 と は い わ ば 系 統 を 異 に す る 引 文 か ら み た 十 往 生 経 と 山 海 慧 菩 薩 経 ( 佐 藤) 四 〇 五

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-846-引 文 か ら み た 十 往 生 経 と 山 海 慧 菩 薩 経 ( 佐 藤) 四 〇 六 異 本 で あ り、 山 海 慧 菩 薩 経 と 阿 弥 陀 為 諸 大 衆 説 観 身 正 念 解 脱 三 昧 経 と は 同 系 の 異 本 で あ る。 二 中 国 の 浄 土 教 家 の な か で、 十 往 生 経 を 最 初 に 引 用 し た の は、 お そ ら く 道 緯 で あ ろ う。 そ の 著 安 楽 集 第 十 二 大 文 に は、 経 初 の 対 告 衆 の 部 分 と、 未 尾 の 流 通 文 に 相 当 す る 一 節 を 除 い た 約 全 文 を 引 用 し て あ る。 ま た 善 導 の 往 生 礼 讃 ・ 観 念 法 門 ・ 観 経 疏 散 善 義 な ど に 引 文 が あ り、 懐 感 の 釈 浄 土 群 疑 論 に も、 さ ら に 宗 暁 の 楽 邦 文 類 に も 引 用 さ れ て い る。 こ れ ら の 諸 論 に 引 く 経 文 は、 経 文 の 前 後 が 入 れ 替 わ つ て い た り、 途 中 を 省 略 し た 引 文 も あ る に は あ る が、 し か し 大 体 に お い て 現 今 の 十 往 生 経 の 文 と 一 致 し て い る。 と こ ろ が、 日 本 の 浄 土 教 関 係 の 諸 論 に 引 用 す る 経 文 の な か に は 現 今 の 十 往 生 経 と は 文 体 に か な り の 相 違 が あ り、 む し ろ、 異 本 の 山 海 慧 菩 薩 経 に 近 似 す る、 と い う 現 象 が み ら れ る。 従 来、 経 典 の 原 文 と 諸 師 の 引 用 文 と の 間 に は、 し ば し ば 相 違 の あ る な ど、 あ る い は、 同 一 経 典 の 同 一 個 処 を 引 用 し て い て も、 人 に よ つ て 経 文 が 異 な る、 と い う 現 象 が 指 摘 せ ら れ て い る が、 諸 師 が 経 文 を 引 用 す る 場 合 に、 記 憶 で 引 用 し た り、 経 の 原 文 を 改 作 し て 引 用 す る 傾 向 の あ る こ と が、 そ の 一 つ の 原 因 で あ ろ う が、 ま た、 そ れ に 加 え て、 写 本 の 種 類 そ の も の の 相 違 と い う こ と も 考 慮 に 入 れ る 必 要 が あ る と 思 う。 中 国 の 諸 師 の 用 い た 十 往 生 経 と、 日 本 に 流 伝 し て い た そ れ と の 間 に は、 写 本 の 種 類 そ の も の に 相 違 が あ つ た の で は な か つ た か、 と 懸 念 さ れ て、 こ の 点 に 問 題 が 生 ず る。 そ こ で、 先 徳 の 披 見 し て い た 十 往 生 経 が い か な る 種 類 の も の で あ つ た か、 と い う こ と に つ い て 考 証 し て み た。 写 本 の 種 類 と い つ て も、 現 存 の 文 献 を 基 準 と す る 限 り、 結 局 は 山 海 慧 の 系 統 か、 十 往 生 の 系 統 か、 と い う 問 題 に 限 定 さ れ る。 日 本 の 浄 土 教 関 係 の 著 述 に、 十 往 生 経 の 引 用 の 事 例 を 尋 ね る と、 智 光 の 無 量 寿 経 論 釈 ( 恵 谷 隆 戒 博 士 複 元 本)、 降 つ て、 良 源 の 極 楽 浄 土 九 品 往 生 義、 さ ら に、 千 観 の 十 願 発 心 記、 禅 喩 の 阿 弥 陀 新 十 疑、 静 照 の 四 十 八 願 釈 な ど の 諸 論 に は ま だ 引 用 を み な い。 源 信 の 往 生 要 集 に 至 つ て 始 め て 引 文 が あ る。 そ の 後 の 著 述 に は か な り の 引 用 例 を 数 え、 約 四 十 四 回 の 引 用 例 を 集 輯 し た。 そ れ ら 引 文 の 多 く は、 中 国 の 論 書 か ら の 孫 引 で あ る が、 な か に、 直 接 原 典 か ら 引 用 し た と 見 徹 し 得 る も の 十 一 例 を 検 出 し 得 た。 と こ ろ で、 引 文 を と お し て、 日 本 の 先 徳 が 用 い た 写 本 の 種 類 を 考 証 す る 場 合 に は、 中 国 の 諸 師 の 引 文 か ら の 孫 引 は、 資 料 と し て 用 い る に は 不 適 当 で あ る ゆ え、 ま ず、 個 々 の 引 文 に つ い て、 孫 引 か 否 か を 調 査 し、 孫 引 で な い 引 文 を 選 出 し た。 し か し、 た と え、 原 典 か ら 直 接 引 い た 引 文 で あ つ て も、 そ の

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-847-引 用 個 処 が、 十 往 生 ・ 山 海 慧 両 経 の 間 に 相 違 の な い 部 分 か ら の 引 用 文 は、 両 経 の う ち ど ち ら の 系 統 の 写 本 を 用 い て い た か と い う 疑 問 を 判 明 す る 資 料 と は な ら な い の で、 両 経 の 間 に い わ ゆ る 広 略 の 差 の あ る 部 分 か ら の 引 文 を 選 出 し て、 そ れ を 現 今 の 三 本 の 原 文 と 比 較 対 照 す る。 こ の よ う な 手 つ づ き と 方 法 で 写 本 の 種 類 に つ い て 考 証 を 試 み た。 し か し、 こ こ で は そ の 全 過 程 の 解 説 と 資 料 の 紹 介 は 省 略 し 結 果 の み を 記 す る。 さ て、 源 信 の 往 生 要 集 か ら 懐 音 の 諸 家 念 仏 集 に 至 る 諸 論 を 通 覧 し た 結 果、 孫 引 で は な い と 見 倣 し 得 る 引 文 を 十 一 例 検 出 し た。 そ し て 十 一 例 の 中 の 八 例 は、 十 往 生 ・ 山 海 慧 の 二 経 の 経 文 に 相 違 の あ る 個 処 か ら の 引 文 で あ つ て、 し か も、 八 例 と も す べ て 山 海 慧 菩 薩 経 の 文 に 相 当 し て い る の で あ る。 そ の 八 例 と は、 往 生 要 集 に 一 例 ( 浄 土 宗 全 書 一 五. 一 二 二 一 二 三)、 安 養 集 に 四 例 ( 西 教 寺 本 巻 一 ・ 八 七 右 ー 左。 巻 五 ・ 一 七 右 ー 左。 巻 七 ・ 三 四 右。 巻 十 ・ = 二 右)、 往 生 要 集 義 記 に 一 例 ( 浄 土 宗 全 書 一 五 二 一 四 〇)、 往 生 拾 因 私 記 に 一 例 (浄 土 宗 全 書 一 五 ・ 四)、 釈 浄 土 群 疑 論 探 要 記 に 一 例 ( 浄 土 宗 全 書 六 ・ 三 七 三) で あ る。 こ の よ う に、 日 本 の 浄 土 教 諸 論 に み る 引 文 に は、 十 往 生 経 の 文 と は 相 違 し、 異 本 の 山 海 慧 菩 薩 経 に 相 当 す る 引 文 の あ る こ と を 確 認 し た。 こ の 事 実 か ら 推 し て、 日 本 に 山 海 慧 菩 薩 経 の 存 し た こ と は 明 ら か で あ る。 し か し な が ら、 引 文 に 際 し て は、 常 に ﹁ 十 往 生 経 ﹂ と 称 せ ら れ て い て、 ﹁ 山 海 慧 菩 薩 経 ﹂ と は 呼 ば れ て い な い。 十 往 生 経 と い う 称 呼 は、 中 国 の 浄 土 教 家 の 間 で、 す で に 一 般 化 し て い た の で、 日 本 の 諸 師 も こ れ を 継 承 し、 山 海 慧 の 系 統 本 を 用 い な が ら、 そ れ を 十 往 生 経 と 呼 ん だ も の と 思 わ れ る。 十 往 生 経 と は 称 す る も の の、 実 は 山 海 慧 菩 薩 経 で あ つ た の で は な か ろ う か、 と 推 考 さ れ る。 し か し、 そ う は い う も の の、 先 徳 達 が 披 覧 し た 写 本 が 現 今 の 山 海 慧 菩 薩 経 と ま つ た く 同 一 の 種 類 の も の で あ つ た か 否 か に は な お 疑 問 が 残 る。 あ る い は、 山 海 慧 菩 薩 経 の 文 が 十 往 生 経 に 混 入 し た 写 本 が 流 伝 し て い た、 と い う 可 能 性 も あ り 得 る の で あ る。 本 邦 に お い て、 十 往 生 経 が 現 存 す る こ と は ま き れ も な い 事 実 で あ る が、 山 海 慧 菩 薩 経 は い ま だ に 発 見 さ れ て お ら ず、 現 存 す る こ と を 聞 か な い。 し か し そ れ に も か か わ ら ず、 日 本 の 先 徳 が 引 用 す る の は 山 海 慧 菩 薩 経 の 系 統 本 で あ る。 一 方、 中 国 に お い て は、 徽 煙 文 献 の 中 に、 山 海 慧 と そ の 系 統 本 が 現 存 し た が、 十 往 生 経 は、 今 日 な お 発 見 ・ 紹 介 さ れ て い な い。 し か し 中 国 の 諸 師 が 引 用 す る の は 十 往 生 経 で あ る。 つ ま り、 日 本 の 諸 師 は 日 本 で 発 見 さ れ て い な い 山 海 慧 菩 薩 経 を 引 用 し て お り、 逆 に、 中 国 の 諸 師 は 彼 土 で 発 見 さ れ て い な い 十 往 生 経 を 引 用 し て い る。 か よ う に、 文 献 の 現 存 の 事 実 と 引 文 と が 逆 の 現 象 を 提 し て い る。 し か も、 山 海 慧 の 系 統 本 を 十 往 生 経 と 称 し て い る。 こ れ は、 や は り、 現 存 の 文 献 と、 先 徳 の 著 述 の 中 に 伝 わ る 引 文 と の 間 に 生 じ た 注 意 す べ き 問 題 点 で あ る。 引 文 か ら み た 十 往 生 経 と 山 海 慧 菩 薩 経 ( 佐 藤) 四 〇 七

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