微分積分学
I中間試験解答と講評(上)
2007年6月12日 浪川 幸彦
問題1
1)数列{an}n∈Nが「ある数aに収束しない」ことの厳密な定義を(「収束する」に倣って)
述べよ。
2)数列an= 1(n, 偶数),=−1(n, 奇数)は発散することをこの定義に従って示せ。
解
1)∃ε >0s.t.∀N ∈N, ∃n > N s.t.|an−a| ≥ε.
ある正数 εがあって,いかなる自然数 N に対しても,N より大きな自然数 n が存在して
|an−a| ≥εとなる。
cf. aに収束する⇔ ∀ε >0, ∃N ∈Ns.t.∀n > N |an−a|< ε.
2)a ≥0の場合を考える。このとき|a−(−1)| ≥1に注意する。ε= 1とする。いかなる自 然数N に対しても,それより大きい奇数nが存在する(例えばN + 1, N+ 2のいずれか)。
このnに対し|a−an|=|a−(−1)| ≥1.
a≤0の場合も同様(上の奇数を偶数に変え,|a−1| ≥1を用いる)。
講評
[1)5点,2)15点,計20点満点,平均5.4点]
最も基本的な問題であるが(それゆえに?)惨憺たる出来であった。多くの方達は「収束」
「発散」の意味を理解していないように見える。もう一度教科書とノートとプリントを読み 返してほしい。
1)で,「収束する」ことの定義を述べて,「〜でない」とした(苦し紛れの?)解答がかな りあったが,それは点を上げられない。実際その否定の意味を解答のようにきちんとしなけ れば,2)は証明できない。
その解答は,形式的には実に易しい。∀と∃をひっくり返して,最後のところだけ否定に変 えればよい。実際「すべてのxがP である」を否定するには,「あるxがP でない」ことを 示せばよいし,「あるxが存在してP である」を否定するには,「すべてのxがP でない」こ とを示さねばならない。
また1)で「∞に発散する」定義を書いた人がかなりあった。これが普通の「発散」と異な ることは講義で注意したはずである。
2)では不十分な「解答」が出回っていたようで,類似の誤答が沢山あった。最も多かった パターンは,まず「aに収束する」ことの定義を述べた後に,条件|an−a|< εをnが奇数
と偶数の場合に書き換え,これがすべてのεについては成り立たないから矛盾だ,というも のである。この解答は二つの点で不十分である。まずnがどんな条件をみたすのかが分から ない。1)を示すのであるから,どんなN に対しても,それより大きい偶数と奇数が存在 し,そのnについて言うのである。次に最後の「すべてのεについては成り立たない」とい うのも,それはそのようなεの存在を示さなければダメで,今の場合は1より小さい任意の 数を挙げさえすればよい。
他の人の解答を参考にすることは構いませんが,自分できちんと理解するようにしましょう。
問題2
1)「上限公理」を述べよ。
2)a1 > b1 >0を2実数とする。an+1 = an+bn
2 , bn+1 =√
anbn, n∈Nで定められる数列 {an}, {bn}は同じある値に収束することを示せ。
解
1)実数R内の部分集合Aが上に有界ならば,Aの上限が存在する。
2)幾つかのステップに分かれる。また複数の解法がある。
ステップ1.a1 ≥a2 ≥ · · · ≥an ≥an+1 ≥ · · · ≥bn+1 ≥bn≥ · · · ≥b2 ≥b1,
Proof. 仮定からa1 > b1 >0,n≥2に対しては定義と相加相乗平均の不等式からan ≥bn. an+1 = an+bn
2 ≤ an+an 2 =an, bn+1 =p
anbn ≥p
bnbn=bn.
Remark. 実はa1 > b1 から帰納法で,上の不等式はすべて>で置き換えて良いと分かる。
[解法1]したがって数列{an}, {bn}はいずれも有界単調数列だから収束する。その極限を それぞれα, β とする。定義より
0 = lim
n→∞
an+1−an+bn 2
= lim
n→∞an+1−1 2 lim
n→∞an− 1 2 lim
n→∞bn=α− 1 2α−1
2β= 1
2(α−β).
すなわちα =β.
[解法2]ステップ1は同じ。
ステップ2.an−bn →0 (n → ∞).
Proof.
an+1−bn+1 ≤an+1−bn = an+bn
2 −bn = 1
2(an−bn).
よって帰納法により
0≤an−bn <
1 2
n−1
(a1−b1) (n≥2).
1 2
n
→0 (n → ∞)(練習問題1問題4)だから,挟み打ちの原理によりan−bn →0 (n → ∞).
[ステップ2の証明終わり]
区間縮小法の原理により,共通の極限である実数が一つ定まる。
[解法3]ステップ1,ステップ2は同じ。
ステップ1より, 数列{an}は有界単調であるから,収束して極限値αを持つ。
ステップ2と併せてbn =an−(an−bn)→α−0 =α (n → ∞).
Remark. 公式は 数列{bn}の収束も言っていることに注意。
講評
[1)5点,2)15点,計20点満点,平均6.1点]
この極限は算術幾何平均と呼ばれる有名なものである。これを十代の頃から深く研究した のがガウスで,彼は数値計算によりある算術幾何平均が特別な値になることを見出し,それ が保型関数論と呼ばれる数学の深い理論を生み出すきっかけとなった。
1)で「単調増加数列が上に有界なら収束する」とした解答が多かった。これは上限公理 から導かれる大切な系の一つであり,2)で本質的に用いられる。したがってこれには部分 点を与えた。
また単に集合と書いて,実数の部分集合であることを明示せず減点された者も少なくな かった。上限公理を上限の定義と勘違いしている答案もあった。折角持ち込みを許したのに,
こうした勘違いは残念。
2)の平均点が低いのは,無解答が多かったからで,解答した者はある程度できていた。
区間縮小法と言いながら,an−bn→0 (n → ∞)を示さない者が何人かいた。これも理解が 不十分。もう一度見直してほしい。
問題3
y= 1/xがx6= 0で連続であることを定義に従って直接示せ。
またε= 1とするとき,連続性を示すδはa6= 0に依存して変わり,特に有界ではないこと を示せ。
訂正とお詫び
この問題の後半は意味が不明瞭でしたのをお詫びします。正確にはδの最大限界値が0に いくらでも近いことを指します。この意味での正しい解答もなかったので,この部分は採点 せず,すべての配点を前半部分に向けることとしました。
解
a 6= 0 を一つ定める。任意の正数 ε に対し,正数 δ が存在して,|x− a| < δ ならば
1 x − 1
a
< εとなることを示す.
δ = a2ε 1 +|a|ε と置く。|a| −δ = |a|
1 +|a|ε >0に注意すると,|x−a|< δ ならば ,
1 x − 1
a
= |x−a|
|a||x| < δ
|a|(|a| −δ) =ε.
[別解]δ1 = 12|a|と置くと,|x−a|< 12|a|ならば,|x|> 12|a|だから,
1 x
< 2
|a|. さらにδ2 = 12|a|2εとして,δ= min{δ1, δ2}と置けば,|x−a|< δ のとき
1 x − 1
a
= |x−a|
|a||x| < 1
2|a|2ε· 1
|a| · 2
|a| =ε.
講評
[20点満点,平均9.1点]
これも広まっていた「模範解答」に問題があったようで,期待していたよりもかなり悪 かった。その解答パターンは「x > aすなわち1
x < 1
a の場合は,δ = a2ε
1−aε と取り,x <
aすなわち1
x > 1
a の場合は,δ = a2ε
1 +aε と取る」というものである。この解答は三つの欠陥 がある。まず「x > aすなわち1
x < 1
a」というのはxa >0を仮定しており,一般に正しくな い。小学生レベルの間違いである(よくある間違いであることは確かだが)。次に(これと 関係して)上の定義ではδが負になったり,あるいは ∞になったり(つまり定義式の分母 が0になる)場合がある。最後に(原理的にはこれが一番重い間違いであるが)このやりか たではδがa, εだけでなく,xにも依存して変わる。これは許されない。もしδがいずれの 場合も正になっているとすれば,二つのうち小さい方を取らなければならない。実際そうし た形で注意深く行えば,上の解答と同じことになる。
次に多かった解答パターンは,「g(x)が連続ならば1/g(x)も連続」の証明を繰り返して,
「g(x) =xは連続だから」とするものである。これは「定義に従って」という要請からすれ ば,「g(x) = xは連続関数である」ことも定義に従って証明しなければならず減点の対象に なった(一人だけそれを実行した解答があった)。しかもこのように具体的にした場合,証明 で使われているδ1, δ2はその実際の値がすぐに分かる。抽象的な存在である必要はない。そ れに従った解答が上の[別解]である。こうすることで,抽象的な証明の仕組みを具体的に 見て理解することができる。最初の直接的な解答と比べてほしい。
総評
「公式や定理を使って問題を解くことはできるが,概念の定義そのものが必要になる問題 になるとできなくなる」というのが,最近の学生さん達の傾向であり,トップクラスである はずの皆さんがまさに同じ傾向を示した。概念を「理解」することなく,「使う」ことしか考 えない,という入試対策型学習の弊害である。一日も早く,そうした傾向から脱却されるこ とを望みたい。
他の人の解答を参考にすることは構わない。だがその場合最低限,解答を「理解」して自 分のものとする習慣を付けたい。上にあるような小学生クラスの間違いを多くの人が看過し たということは,みなさんがその解答を自分の頭で理解していないことの証拠である。
これに関連して最近の傾向でとても気になるものがある。質問に来て,「ここが分かりませ んから教えてください」というのではなく,「この解答で合っているかどうか見てください」
という人が増えた。解答の仕方がおかしくないかどうか,足りないところがないかどうか,
自分で批判的に検討する力を付けてほしい。
これは皆さんが人の命を預かる職業に将来就くからこそ強調しておきたい。治療を「マ ニュアルに従って」行うことは必ず重大な誤りにつながる。自分の経験を豊かにして,必ず 自分の目で見,耳で聞き,手で触れ,頭で考えて判断しなければならない。
その意味で,今は間違いを畏れてはいけない。数学で間違っても人の生命には関わらない。
むしろ間違ったときに,どうして間違ったのかをもう一度振り返り,そこからより深い理解 を得ることで,誤りを将来に活かすという学び方を身に付けてほしい。
再試験のお知らせ
次週に残りの部分の返却,講評と共に(全員に)再試験を実施します。
・時間は1時間;
・出題は3題。うち2題は今日採点返却した内容に関連する話題。もう1題はテイラーの公 式に関するもの;
・今回は持ち込みなし;
・得点は30点満点(各問10点)とし,得られた得点は中間試験の得点に加算する。
得点分布
得点 人数
51点以上60点以下 0名 41点以上50点以下 3名 31点以上40点以下 14名 21点以上30点以下 29名
20点以下 52名