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2.1 光学定数

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(1)

2.1 光学定数

屈折率や光吸収係数は光学定数と呼ばれる。屈折率としてこれからは複素屈折率を導入 する。一方、誘電率や導電率は電気定数と呼ばれる。誘電率として複素誘電率を導入する。

光学定数と電気定数の間には密接な関係がある。複素屈折率の実部nは媒質中を伝搬する 光の速度√c/n(cは真空中の光速)を決める。これは電磁波が伝搬する媒質のインピ ーダンスがε/μ)であることと密接に関係する。複素屈折率の虚部κは消衰係数と呼ば れ、媒質(あるいは物質)を伝搬する光の減衰を表す。消衰係数は光の吸収を表す光吸収 係数αと比例関係にある。光の減衰は媒質中での光エネルギーの損失とみなすことができ る。これば電磁波の媒質中での伝搬損失が、複素誘電率の虚部εで表されることと等価で ある。これはまた、固体(ここでは誘電体)に交流電界を印加したときにエネルギー損失

tanδを表しており、固体の導電率σによるジュール損失をあらわす。従って、消衰係数κ、

複素誘電率の虚部εおよび導電率σは、同じ現象を異なる視点から観て定義される定数で ある。

光学定数と電気定数の関係が次に示すマックスウエルの方程式により求めることができ る。

(1)

(1-1式)では、媒質中に電荷が存在しないために電束密度の発散はゼロになる。(1-

2式)は磁束密度の発散はゼロであることを示す。(1-3)式は電磁誘導を表し、磁束密 度の時間変化による起電力を示す。(1-4)は電流Jにより右ねじの法則により磁界

rot H

が生じることを意味するアンペールの法則を表すが、印加交流電圧より90°位相が進む 変位電流∂D/∂tを含んでいる。ここで電界Eおよび磁界Hは、電磁波としての光のも のを表す。媒質には損失がある。これは媒質中を流れる電流Jによるジュール損を示し、

オームの法則J=σEより導電率σが導入される。

マックスウエルの方程式(1-4)式の両辺を時間で微分すると(2)式が得られる。

(2)

これに(1-3)式の∂H/∂t代入して磁界Hを消去すると(3)式が得られる。

(3)

ベクトル解析の公式

において、

A = ∇

B = ∇

、C=

とすれば

(2)

が得られる(3)式の左辺は電界の位置に関する2階の微分∇2

E

で表され、次の(4)式 が得られる。

(4)

(4)式は電界

E

のみを変数として時間を含む2階の微分方程式であり、これは電界に関 する波動方程式である。

光の電界を、時間を含む次式の平面波(5式)で表す。

(5)

ここでωは光の角周波数であり

は波数ベクトルである。これを(4)式の解と仮定して

(4)式に代入することにより、電界

E

における距離および時間微分の項が消去される。

このとき電界の距離および時間微分をあらかじめ求めておく(6式)

(6)

これらを(4)式に代入することにより(7)式が得られる。

(7)

(7)式は代数方程式である。両辺にかかる

を消去すれば波数

が求められる(8式)。

(8)

(8)式の右辺の平方根中の物理定数は複素数であることがわかる。これは誘電率に対応 するものであり、これを複素誘電率εとして定義する。

ε

= ε

1

– i ε

2 (9)

(8)式と(9)式との対応よりε=ε、ε=σ/ωであることが明らかである。すな わち複素誘電率εは次式で表される。

(10)

電磁波あるいは光が平面波として媒質中を伝搬するときの位相速度

は、角周波数ωと波

k

の比で定義され、

(11)

と表される。

ここ誘電率とで屈折率の関係を考察する。

(i)損失が無い場合、導電率はゼロである(σ=0)。

(12)

(3)

したがって屈折率は、

(13)

と表される。ここで

は真空中での光速、εは真空の誘電率、μは真空の透磁率、

εは比誘電率、μは比透磁率、である。

(ii)損失がある場合、導電率はゼロでない(σ≠0)。同様にして

(14)

の関係式が得られる。

複素誘電率に対応する屈折率として、複素屈折率を定義する。

(15)

ここで、nは屈折率、κは、消衰係数である。(10)式より次の関係式が得られる。

(16)

(16)式の角辺を2乗して、

(17)

が得られる。(17)式の実部および虚部を比較して、

(18)

の関係式が得られる。また、屈折率と誘電率の関係は次のように表される。ただし、常磁 性体を考えるためにμr

=1

とする・

(19)-(21)

(4)

(18)式より複素比誘電率の虚部ε2rと導電率には比例関係があり、これは次式で表さ れる。

(22)

ε2rは誘電体における導電性を示すものであることがわかり、誘電体に電界を印加すれば 電流が流れることによりエネルギーの損失(ジュール損)が生じることが示された。以上 より、屈折率と消衰係数は、比誘電率の実部と虚部および導電率を用いて次のように表さ れる。

(23)

この式は、光学定数である複素屈折率(屈折率および消衰係数)と電気定数である誘電率 および導電率を結びつける重要な式である。

ここで光吸収係数について考察する。

2.2 光の吸収

物質中での光の吸収について考察を行う。良く知られているように、物質あるいは媒質 への入射光は、界面で反射と透過をする。透過光強度は物質中で光の進行と共に指数関数 的に減衰する。この減衰の程度を示すために光吸収係数αが用いられる。

図2.2.1に示すように、位置

において、

+d

の間で光吸収が生じ、光強

dI

に減少したと考える。

dI

<0である。-

dI

は、光強度

dx

に比例 するから-

dI

Idx

である。比例定数をαとおけば、-

dI

=α

Idx

となる。

dI

=-α

Idx

(24)

変数分離の為、(24)式の両辺を

I

で割ると次式を得る。

dI

=-α

dx

(25)

(25)式を積分すれば、

lnI

=-α

constant

(26)

となる。従って、

=0での入射光強度を

とおけば、光強度

は、

exp(-α

(27)

と表される。この関係を図2.2.2に示す。また、光強度が1/e倍に減少する表面か らの距離1/αは光の侵入長(侵入深さ)と呼ばれる。これは、高周波電流が導体の表面

(5)

近くに流れやすい表皮効果と同じ減少であり、表皮深さ(skin depth)に対応する。光吸収 係数αは距離の逆数の次元(m-1)を持つが、常用的にcm-1(日本では“カイザー”と 呼ばれることがある)が用いられている。正確には、

inverse centimeter

と呼ぶことが望ま しい。直接遷移型半導体の多くは最大で10cm-1程度の光吸収係数を持つが、このとき の光の侵入長1/αは10-5cmであり、これをわかりやすくすれば0.1μm(100

nm)である。バンドギャップが1.43eVのGaAsに波長が514.5nm(hν=

2.41eV)のアルゴンイオンレーザ光を照射した場合がこれに対応する。従ってレー ザ光は殆どがGaAsの0.1μmの表面領域で吸収されることになる。光励起を用いる 実験では光の侵入長がおよそ深さ方向の評価領域になることに注意したい。光吸収係数α は物質の固有の物理量であり、光波長すなわちフォトンエネルギーの関数である。半導体 では、通常バンドギャップ以上のフォトンエネルギーに対して吸収係数αは増加する。バ ンドギャップ以下のフォトンエネルギーではαの値は小さい。

次に光学定数としての光吸収係数αを異なる方法で導く。これは光を電磁波として取り 扱い、光吸収係数αと消衰係数κおよび導電率σの関係を導き、2.1節で示したように 光学定数と電気定数の関係としての説明を行う。

まず、光を波と見なした場合、光強度

は光の電界

の2乗に比例する。光の電界

平面波で表し角周波数をω、波数を

とする。これらを表す式を以下に示す。

(28)

ここで波数

は媒質の複素屈折率を用いて表されている。これは一般的に、媒質中では光 の速度が屈折率に反比例して遅くなるためである。上式で時間の項を考慮せず、波数

複素屈折率であらわせば、光の電界は以下のように表される。

(29)

この式は光の電界が媒質中で指数関数的に減衰することを示している。減衰項には消衰係 数κが含まれていることに注意する。よってこれを光強度で以下のように表せる。

(30)

(6)

一方で、光吸収係数の定義より(31)式を導いた。

exp(-α

(31)

両式は、同じ形をしていることから、指数を比較すれば消衰係数κは光吸収係数αに比例 していることがわかる。これらより以下の関係式が導かれる。

(32

a

光では角周波数ωより波長λを用いることが一般的である為、光吸収係数αと消衰係数κ の関係を次式で表す。

(32b)

また、(18)式より消衰係数κと導電率σの関係が以下のように表されている。

(33)

複素比誘電率の虚部と消衰係数の関係は(22)式より以下のように表されている。

これらの関係より、光学定数としての光吸収係数αと消衰係数κ、電気定数である導電率 σと複素比誘電率の虚部ε2rの間の関係が示されたことになる。これらの定数はいずれも 波としての光のエネルギーの損失を表していることを再度確認されたい。

光の吸収を表す定数が他にも多くあり、これらが光学や分光学の実験結果を表すために 用いられているが似た名称で呼ばれている為に読者は整理してこれらを用いることが必要 とされる。

透過率 transmissivity

T

吸収率 absorptivity k

吸収度 absorbance A

光学密度(吸光度)optical density (OD値) αlog10

e

(7)

(34)

光学密度

(OD

)

は光吸収体における吸収量に対応する。光学フィルターを例にあげればロ ングパスフィルターの不透明波長域でのOD値が5であればその波長で10-5の光が透過 する。

半導体の光物性では通常は光吸収係数αを波長あるいは光子エネルギーに対して測定す る。αの測定法には、光の透過率と反射率の測定の解析や、偏光解析法(エリプソメトリ ー)から求める方法がある。また後で述べるが、反射率スペクトルの測定のクラマスクロ ーニッヒ解析により誘電関数を求め、εr2より算出する方法がありこれは

1960

年代に広く 用いられていた。最も多く用いられる手法は、光の透過率と反射率の測定である。このと き、反射スペクトルが波長に対して変化が少ない場合、反射率を一定と仮定することが多 い(R=0.3)。極端な場合、反射率を無視し、ゼロと置く場合もあるが、これは絶対値 でなく相対値で議論をする場合に用いられ、透過率測定のみにより、吸収係数の概算値が 求められる。

多重反射を考慮した光の透過率

光の透過率と反射率の測定から光吸収係数αを求める方法について説明する。図2-1 には空気中で厚さ

の試料に入射光

が入射し、反射光および透過光が測定されることを 示している。空気と物質間での反射率を

とする。入射光

のうち

RI

が反射し、(1-

が試料内に入射する。試料内では光吸収により、光強度はexp(-α

)の指数 関数で減衰する。試料の裏面での光強度は(1-

exp(-α

)となる。この光が裏面に達する と、裏面と空気の間で反射が生じ、反射率

に比例 した強度

(1-

exp(-α

)の光が-

方向に反射し、残りの(1-

)に比例する強度

(1-

exp(-α

)の光が試料から空 気へと透過する。裏面での反射光が入射面に達する とそこで透過と反射を再び受け、これを繰り返すこ とになる。これは光の多重反射と呼ばれている。 次 式で示す初項と公比の等比級数の和次式で表せる。

d Io

IoR

1-R 1-R 1-R 1-R R

R R

R R R R

(1-R)2exp(-αd)I0 (1-R) 2R2exp(-3αd)I0 (1-R)2R4exp(-5αd)I0

(1-R)2R6exp(-7αd)I0 1-R

R 1-R 1-R 1-R

d Io

IoR

1-R 1-R 1-R 1-R R

R R

R R R R

(1-R)2exp(-αd)I0 (1-R) 2R2exp(-3αd)I0 (1-R)2R4exp(-5αd)I0

(1-R)2R6exp(-7αd)I0 1-R

R 1-R 1-R 1-R

図1 多重反射を考慮した光の反 射、吸収と透過

(8)

(以下の式で、公比の-α

は-2α

の間違い以下修正してください)

(35)

従って透過光強度は(初項)/(1-公比)より

(36)

が得られる。 従って透過率Tは、

(37)

で表される。光吸収係数は透過率Tと反射率Rの測定より求められる。試料の厚さ

ときの光吸収係数は

(38)

である

また、上式で表される透過率

においてα

(光学密度)が大きい場合は分母の指数関数 を含む項が無視できるので、透過率

と光吸収係数αは次式のように近似される。

(39)

この式では、光吸収係数αは透過率の低下による第一項と、反射率の補正を行った第2 項の和で表される。従って、光吸収係数αを求める為には光透過率

T

と反射率

R

を求める ことが必要である。通常光吸収係数αはフォトンエネルギー(あるいは波長)の関数α(

h

ν) やα(λ)として光吸収係数スペクトルとして測定される。測定には、白色光を分光器に より単色光とした光源が用いられる。この測定では非常に薄い結晶が必要であり、吸収係 数の値に応じて異なる厚さの試料が必要となることがある。

最近では、分光偏光解析法 (spectroscopic ellipsometry: 分光エリプソメトリー) により

n

およびκが測定可能である。消衰係数κを用いて、

式により光吸収係数αを求めることができる。偏光解析法ではαが小さい場合 には大きな誤差が生じることに注意する必要がある。また、試料の表面処理および解析モ デルには細心の注意が必要である。

(9)

光の反射

複素屈折率を用いて垂直入射における光の(電界の)反射係数γは次式で表される。

(40)

ここでθは、反射位相と呼ばれる。

光の反射率

は電力反射率であるので、光電界反射率、すなわち反射係数γの2乗で表さ れる。よって

とθは以下のように示される。

(41)

複素誘電率に関するクラマースクローニッヒ

(Kramers-Kronig)

の関係

誘電関数の実部

ε

1と虚部

ε

は、因果律に基づいて、互いにクラマースクローニッヒの関 係式により結ばれる。式では積分変換で次式のように表される。分母がゼロにならないよ うに積分経路を選ぶ必要があり、積分には

Caucy

の主値積分が用いられる。これは

「Kramers-Kronig(K-K)変換」と呼ばれることが多い。

(42)

この関係により誘電関数の実部

ε

1あるいは虚部

ε

のいずれかが波長の関数として求めら れれば、K-K 変換により相手が求められる。最近では、バンド計算により、結合状態密度 と遷移確率を用いて

ε

を求めることができる、この

ε

のスペクトルを

K-K

変換すること により

ε

1が計算で求められる。従って電気定数と光学定数の関係を用いれば、

ε

1

ε

n

とκのスペクトルが得られる。これを用いて先の光の反射で示した式

(43)

を用いて、反射率Rと反射位相θを計算することができる。

(10)

複素屈折率に関するクラマースクローニッヒの関係

誘電関数と同様に、屈折率

n

と消衰係数κは互いにクラマースクローニッヒの関係式によ り結ばれる。

(44)

光反射率スペクトルのクラマースクローニッヒ解析

反射率

を十分広い光周波数の範囲で測定すれば、次式で示すクラマースクローニッヒ 解析により反射位相θが周波数の関数として求められる。反射率

と反射位相θを用いる ことにより複素屈折率の実部nと虚部κすなわち光学定数を求めることができる。

(45)

任意の入射角に関しては多くの書籍があるのでこれらを読んで勉強してほしい。

光反射率

は分光測定により比較的簡単に測定可能であるので、古くからこの手法によ

とκを求め、光学定数と電気定数の関係より誘電関数

ε

1

ε

を求めることが行われて きた。近赤外より可視、紫外までの反射率スペクトルにより半導体のバンド構造の研究が 行われる。また化合物半導体では、格子振動性の格子振動の横波(TOフォノン)による 光吸収が生じる。格子振動周波数付近では誘電関数が大きく変化する為、反射率スペクト ルに大きな構造が生じる。後で述べるが、反射率スペクトルからK-K変換で求められた 誘電関数の解析により、極性格子振動の周波数がTOフォノンおよびLOフォノンに対し て求められる。光吸収測定では、光が横波であるため光の電界と相互作用するのは同じ横 波であるTOフォノンであることから、光吸収の最大の赤外光の周波数がTOフォノン周 波数である。なお分極を持たないSiなどの元素半導体や反転対象中心を持つ特定の化合 物では格子振動と遠赤外光との相互作用が無く、反射や吸収で格子振動周波数を求めるこ とが困難である。この場合はラマン散乱測定が有用となる。

(11)

誘電率の起源 (ローレンツモデル)

誘電率を決めるものは、物質に電界をかけることにより物質中に誘起される分極である。

ここでχを感受率という。分極には(1)電子分極、(2)イオン分極、(3)配向分極が ある。これらの分極は、それぞれ、紫外領域、遠赤外領域およびマイクロ波領域で分散を 示す。配向分極は液体や気体で、極性分子が電界を受けて方向を変えることにより生じる。

固体では配向分極が起こることは無いので、これを無視することができ、主にエネルギー 帯構造に関係する電子分極と格子振動に関係するイオン分極を扱うことになる。

物質はいろいろな固有振動数を持つ電気双極子の集合体である。ローレンツモデルでは、

電気双極子を 1.バネで束縛された電荷2.速度に比例する摩擦力を受けながら振動す る調和振動子として取り扱う。図2にローレンツのモデルを図的に示している。以下の運 動方程式を考える。mを質量、qを電荷、ω固有周波数とする。運動方程式は次式で表さ れる。右辺は光による時間的に正弦波で振動する電界による外力を示している。左辺では、

第一項は加速度、第二項は摩擦、第三項はバネによる復元力を示している。

(46)

正弦波電界で系を励振しているため、線形である2階の微分方程式の解は正弦波である。

従って解を次に示す正弦波と仮定し、これを上の運動方程式に代入する。

その結果、時間変化の項が消去され次の式が得られる。

(47)

これから最大振幅Xを求め、次式を得る。

(48)

質量m 電荷q

摩擦:

Γ 0

電界:E=E0

e

iωt

平衡位置

:変位

- ω

02

X f=qE

- Γ

0

(dX/dt )

m(d

2

X/dt

2

)

ω

02

=k/m k

固有角周波数:ω0

質量m 電荷q

摩擦:

Γ 0

電界:E=E0

e

iωt

平衡位置

:変位

- ω

02

X f=qE

- Γ

0

(dX/dt )

m(d

2

X/dt

2

)

ω

02

=k/m k

固有角周波数:ω0

図2 ローレンツのモデル

(12)

これより変位Xは時間変化を含めて、次式で表される。

(49)

このような振動子が、体積V中にN個あるとする。分極は、

(50)

であるから、誘電率は分極を用いて計算できる。

(51)

誘電率の実部と虚部は次のように表すことができる。これらは誘電関数と呼ばれる。

誘電関数の実部ε1と虚部εは、それぞれ

(52)

であり、Soは定数である。複素誘電率の周波数依存性は次の図のように表される。

(13)

ε誘電関数の虚部εは共振周波数でピークを持ち、損失が共振数波数で最大になること を示している。このε(ω)のスペクトルの形状をローレンツ関数という。Γはブロード ニングを表しスペクトルの線幅に対応する。これに対してε(ω)のスペクトルは、共振 周波数付近で大きく変化し、共振周波数以下では正であるが共振周囲波数以上では負に変 化する。ε(ω)はTOフォノン周波数以上で再び正に戻るが、その誘電率の値は低い周 波数での値より低下する。これは振動子(双極子)が高い周波数に追随できなくなり、分 極の誘電率への寄与が無くなったことを示している。図4には複数の共振周波数の異なる 振動子が誘電率に寄与している場合の誘電関数の一例を示している。遠赤外領域では格子 振動によるイオン分極が、また可視から紫外域にかけて電子分極がみられる。全ての分極 が追随できない紫外以上の非常に高い周波数では誘電率εは真空の誘電率εに漸近する。

格子振動によるイオン分極は

Born

Huang

によって詳細に述べられている。電子分極 は、固体のエネルギー帯構造により決められる。電子分極の誘電関数への寄与を計算で求 めるには、ハンド計算により誘電関数の虚部ε(ω)を計算する。誘電関数の実部ε1(ω)

は、先に述べたクラマースクローニッヒの関係を用いてε(ω)からε1(ω)への変換を 行うことにより求めることができる。一般的な半導体では、擬ポテンシャル法によるバン ド計算から、誘電関数を計算することが多い。

図4 複素誘電率の角周波数依存性

(14)

ε(ω)のスペクトルがローレンツ関数であるため、光学吸収における光吸収係数αの スペクトルはローレンツ関数であらわされる。実際、多くの光学スペクトルがローレンツ 関数であらわされるが、これはブロードニングが真性のライフタイムブロードニングによ るもの(自然幅)であり、吸収が物質内で均質におこっていることを示している(均一広 がり)。これと良く似たガウス関数で光学スペクトルがあらわされることがある。この場合、

振動子の共振周波数(遷移エネルギー)にばらつきがあるとき全体のスペクトルに統計的 な広がりが生じる(不均一広がり)が、このガウス関数における周波数の広がり(半値全 幅)を不均一広がりとよびローレンツ関数の自然幅と区別する。これは、歪みなどで振動 子が不均質にゆらいでいる(歪み広がり)ことでも生じる。吸収スペクトルを実験で求め た場合、それがローレンツ関数かローレンツ関数か判別することが、この吸収の起源の同 定の第一歩である。共振周波数から離れるにつれてガウス関数では指数関数的に吸収が急 激に低下するが、ローレンツ関数では吸収が低下の度合いが低い。従ってローレンツ関数 では、吸収の裾で非常に高い吸収(発熱)が生じることを記憶してほしい。レーザなどの 強力な光を扱うときの光学フィルターにおいて光の周波数付近にローレンツ関数的な吸収 の裾が無いことを確認することが重要である。

図5 複素屈折率の実数部nと虚数部κの角周波数依存性

(15)

光学定数の分散

セルマイヤーの分散公式

Γは一般には小さいからω=ω0の近傍を除くと、ω0Γは無視でき、ε/ε0はほぼ

n

2 等しくなる。透明領域では屈折率は、次式のようにセルマイヤーの分散公式を用いて表せ

n

2

-1 = C + D/ ( ω

02

- ω

2

) = C + D’ λ

2

/ ( λ

2

- λ

02

)

λは真空中の波長、C, D, D’ は物質で決まる定数である。

dn/dω>0

を、正常分散

dn/dω<0

を、異常分散 という。

格子振動による誘電関数と光学定数の変化

イオン性を持つ結晶では、格子振動により分極が生じる。光は横波(transverse wave)で あり、電界が周波数νで振動している。従って分極を生じる格子振動の横波の周波数と光 の周波数が一致するとき、光と格子振動は相互作用をおこし、光が共鳴的に結晶で吸収さ れる。格子振動を量子化した粒子をフォノン(音子)とよび、光と相互作用をおこす横波

TO(Transverse Optical)フォノンとよぶ。このフォノンに対応する格子振動がその振

動方向すなわち分極方向に伝搬する場合、このフォノンを

LO(Longitudinal Optical)フ

ォノンとよぶ。一般的な半導体結晶ではブリルアンゾーンの中心(Γ点)で

LO

フォノンの 周波数が

TO

フォノンの周波数より高くなる。これは

LO

フォノンの伝搬方向に付随する分 極による電界によるものである。光と相互作用するフォノンは、運動量保存の法則より光

図6 いくつかの物質の屈折率の正常分散の例

(16)

の運動量と同じ大きさの波数を持つ。フォノンの波数はq=2π/λであり、格子振動周 波数に対応する波長は遠赤外(10μm=105

Å以上)にある。光と相互作用するフォノン

の波数はブリルアンゾーンの大きさ2π/a (a=5Å程度)と比べれば非常に小さい値(10-4 程度)である。これらの考察より、光と相互作用をおこすフォノンの波数の大きさは、ブ リルアンゾーンの中心(Γ点)にある、すなわち

q≈0

とおいてさしつかえない。

フォノンには分極が生じない光学振動、一つの元素からなる結晶(例えば

Si)の光学格

子振動、陽イオンと陰イオンが同位相で振動することによる音響フォノン(TA

Transverse Acoustic, LO:Longitudinal Acoustic)などがあるがこれらは光と相互作用をしない。

光学フォノンと光の相互作用は、前述のローレンツモデルで良く記述されることがわか っている。従って誘電関数の実部ε1(ω)は周波数の増加に対して正から負へ変化し、虚 部ε2(ω)はローレンツ関数で表されフォノンの周波数で吸収ピークを生じる。これらよ り光の吸収スペクトルのピーク波長より

TO

フォノンの周波数が求められる。また、反射率 スペクトルは、

より求められ、反射率スペクトルの解析より

TO

および

LO

フォノンの周波数を求めること ができる。図7に

CdS

の赤外反射スペクトルを示す。反射率

R

の最大点はおよそ

TO

フォ ノンの周波数に、最小点が

TO

フォノンの周波数に対応することが知られている。図8に一 例として

CdS

の光学フォノンによる誘電関数ε1(ω)、ε2(ω)、と光学定数

、κのス ペクトル(光周波数依存性)を示す。反射率

R

の最大点はおよそ

TO

フォノンの周波数に 対応し、この周波数でε2(ω)とκは最大、ε1(ω)は最小となる。またε1(ω)がゼ ロとなる周波数は

LO

フォノンの周波数に対応し、これが反射率スペクトルの最小点に対応 していることがわかる。解析法としては反射率スペクトル測定により

R(ω)を求め、

Kramers-Kronig

の 関 係 よ り ε1

(ω)とε2(ω)のスペクトルを 求める。光学定数(n,κ)は先に述べ た方法で誘電関数より求められる。

ε2(ω)の最大点より

TO

フォノ ン周波数を求める。また理論式を ε1(ω)にフィッティングするこ とにより

LO

フォノン周波数を得 ることができる。この場合、CdS

TO

フォノンは

240cm

-1

LO

ォノンは

300cm

-1である。

図7CdSの赤外反射スペクトル

(17)

また、直流の誘電率ε0と光学誘電率εには

Lyddane-Sachs-Teller-黒沢の式と呼ばれる重

要な関係式があり、TOフォノン周波数ωTO

LO

フォノン周波数ωLO を用いて次のよう に表される。

(ωLO/ωTO2

0

光学誘電率εはフォノンの分極が追随できない高い周波数の誘電率であり、通常は近赤外 から可視光の周波数での誘電率(但しバンドギャプ以下)で代用される。従って、半導体 ではバンドギャップ以下の周波数での光の透過領域(光吸収が無い領域)での屈折率nを 測定すれば、ε

= n

2 の関係により光学誘電率εを近似的に推定することができる。光 学誘電率ε

Lyddane-Sachs-Teller-黒沢の式の代入することにより直流の誘電率を得る

ことができる。逆に直流の誘電率の値がわかっていれば光学誘電率εを求めることができ る。

8 CdS

の光学定数(n,κ)、誘電関数(ε1

,

ε2

)、の遠赤外での光の周波数依存性。

周波数は波数

cm

-1

=1/λで記述している(極性フォノンによるイオン分極)

参照

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