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代謝制御によるポリ−γ−グルタミン酸生産の最適化*1

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(1)

代謝制御によるポリ−γ−グルタミン酸生産の最適化

廣藤祐史

*1

Optimization of the poly-gamma-glutamic acid production by metabolic pathway control

Yushi Hirofuji

液体培地におけるポリ−γ−グルタミン酸(PGA)の生産が非常に不安定である納豆菌を対象として,培養条件 によって代謝を制御し,PGAの生産安定性を向上させることを試みた。養分の枯渇と再投与,温度変動などのスト レスを与えることでPGAの収量が大幅に向上することを見出し,この現象はPGA分解酵素群の抑制によってもたらさ れていることが,γ−グルタミルトランスペプチダーゼ活性の変化から示唆された。

1 はじめに

ポリ-γ-グルタミン酸(以下PGAと略記する)は193 7年に Bacillus anthracis の菌体表面を覆う夾膜の構 成成分として発見された 。その後,PGAは納豆菌を

1 )

Bacillus Bacillus

含むある種の 属細菌とその近縁種(

subtilis , Bacillus licheniformis , Bacillus mega など)によって生産されることが数多く報告さ terium

れてきた 。これらのPGAの多くは数十万から200万程

2)

度の分子量を有するのに対して,本研究が対象とした 納 豆 菌 はD− グル タ ミン 酸と L−グ ルタ ミ ン酸か ら な る,分子量が300万を超える極めて巨大なPGAを生産す る。

PGAは化粧品,医薬品,食品の他に,水質浄化剤,

, ,

コンクリートのひび割れ防止剤 砂漠緑化用保水材料 結露防止剤など幅広い用途が提案されており,近年注 目を集めている 。これらの用途の多くにおいて,分

2)

子量が大きいことは機能性の強化に繋がるうえに,納 豆菌由来のPGAは食経験に裏打ちされた安全性の点で

, 。 ,

も 他菌種が生産するPGAよりも優れている しかし 納豆菌を用いた液体大量培養によるPGA生産は,他菌 種を用いたPGA生産と比較して極めて不安定であり,

実用的な生産方法が確立されていなかった。

PGAはPgsBCAと呼ばれる膜結合酵素系によって生産 されており,PgsBCAをコードする遺伝子は pgsBCA であ る。 pgsBCA はComPフェロモンによるQuorum Sensingの 制御下にあり,対数増殖期の終期から定常期の初期に 発現することが報告されている 。

3)

pgsBCA の直下には D−グルタミン酸とL−グルタミン酸の結合を切断して 分子量10万から50万に断片化するγ−PGA分解

酵素YwtDをコードする遺伝子, ywtD が存在することが 報告されており ,PGAの生産安定性は様々なPGA分解

4)

酵素群が生成することによって損なわれているものと ywtD 考えられる。これに対処することを目的として,

とγ−グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の生 産に係わる遺伝子 ggt を破壊し,PGA高生産株を得る方 法が特許として公開されている 。また,YwtD以外の

5)

分解酵素に着目し,PGAを分子量10万に断片化する 酵素ポリグルタミン酸ハイドラーゼ(PghA)の生産に 係わる遺伝子 pghA と ggt を同様に破壊してPGA高生産株 を得る方法も特許として公開されている 。本研究は

6)

納豆菌内部の代謝を制御する培養条件を見出すことに よってPGA分解酵素群の発現を抑制し,遺伝子破壊等 によらず,納豆菌を用いた高分子量PGAの安定生産手 法を確立することを目的として検討を行った。

2 研究,実験方法 2-1 使用菌株

Bacillus subti 本研究が検討の対象とした納豆菌は

に分類され,PGAの生産に培地中のグルタミン酸と lis

ビオチンを要求することを特徴とする食用発酵細菌で ある 。納豆製造業者の間では,納豆菌は遺伝的に不

7)

安定であり,継代培養によって粘質物生産能を容易に 喪失することが古くから知られている 。このため,

3)

一部の大手業者を除き,国内における納豆生産には種 菌業者(成瀬発酵化学研究所,高橋祐蔵研究所,宮城 野納豆菌製造所など)が供給する種菌が使用されてい る。本テーマでは,市販納豆から分離した保存菌株の 胞子を使用し,10

6

cfu ml / となるように,PGA生産培地 に接種した。

*1 生物食品研究所

(2)

2-2 培養装置

丸菱バイオエンジMDL300型(槽容積3 )及びMSJ-U2 l -50L型(槽容積50 )ファーメンターを用いた。 l 2-3 培地組成

PGA生産培地組成を表−1に示した。メイラード反 応による培地の褐変を防止するため,A培地とB培地を 別々に加圧蒸気滅菌(121℃,20分間)したものを無 菌的に混和して生産培地とした。納豆菌によるPGAの 生産は,炭素源を原料としてTCA回路のα−ケトグル タル酸から生成したグルタミン酸が使われ,培地中の

, グルタミン酸はPGAの生成に直接は関与しないものの

。 PGAの合成を大幅に促進することが報告されている

8)

本研究が採用した培地組成も,同様の理由でPGAの生 産原料であるグルコースとPGAの生産を促進するグル タミン酸を含む構成とした。

表−1 培地1 当たりの組成 l

A培地(900ml)

g

グルタミン酸ナトリウム1水和物 20.0

g

リン酸2水素カリウム 2.5

g

リン酸水素2ナトリウム12水和物 1.7

g

塩化ナトリウム 0.5

B培地(100ml)

g

グルコース 20.0

g

硫酸マグネシウム7水和物 0.5

mg

ビオチン 0.1

2-4 培地粘度の測定

培地中のPGA蓄積量の指標として培地の見掛け粘度 を測定した。粘度はB型粘度計(東京計器,BL型)に よって測定し,測定回転数は30 rpm に固定してNo.2ロ ーターを使用した。No.2ローターの測定限界を超える 粘度の培養液についてはNo.3ローターを用いた。

2-5 培養に伴う培地組成の時間変化の検討

MSJ-U2-50L型ファーメンターを用いて,培養温度37

℃におけるグルコースとグルタミン酸ナトリウムの濃 度変化を検討した。グルコース濃度はグルコースCⅡ

−テストワコー,グルタミン酸濃度はヤマサL−グル タミン酸測定キットを用いて測定した。攪拌翼には2

, ,

段6枚羽根ディスクタービンを採用し 培養液量35 l 攪拌回転数110 rpm ,通気速度30 l/min の条件で80時間 に渡って培養を行った(pH制御は行っていない 。 ) 2-6 流加培養の検討

MSJ-U2-50L型ファーメンターを使用して,流加培養 がPGA生産に与える影響を検討した。培養の進行に伴 って消費されるグルコースを補給するために29時間経 過時点で濃度2.0%相当量のグルコースを流加した。

攪拌翼には2段6枚羽根ディスクタービンを採用し,

培養液量35 ,培養温度は37℃,攪拌回転数120 l rpm , 通気速度30 / l min の条件で培養を行った(pH制御は行 っていない 。 )

また,炭素源がPGA生産に与える影響を検討するた め,同様の培養条件においてグルコースが完全に枯渇 しpHが上昇した状態 65時間30分及び137時間 で 2. ( ) , 0%相当のグルコースを流加した。

2-7 納豆菌の至適培養条件の検討

属細菌によるPGAの生産は37℃で行われる Bacillus

のが通例であるが,市販納豆の製造は40℃前後の高温 で行われる。納豆菌の至適培養条件を定めることは培 養効率を向上させるために重要であるため,納豆菌の 至適生育温度を検討した。至適生育温度の検討はMDL3 00型ファーメンターによって行い,攪拌翼には2段6 枚羽根ディスクタービンを使用して培養液量2 ,攪拌 l

, , , ,

回転数120 rpm 通気速度2 / l min の培養条件で 35 40 45,50℃の培養温度において,培養開始からpHが低下 を始めるまでの経過時間を調べた。

2-8 ストレスの組み合わせがPGA生産に与える影響 納豆菌の至適培養条件を検討したところ,生育至適 温度とPGA生産至適温度が相違していたことから,PGA の生産が開始される対数増殖期後期から定常期初期ま では至適生育温度である45℃で培養し,その後培養温 度を37℃に変更することによって,PGA分解酵素群の 生成を抑制することを試みた。また,合わせてグルコ ース流加とpH制御を行い,PGA生産量と生産速度の改 善を試みた。培養はMSJ-U2-50L型ファーメンターで行 い,攪拌翼はフルゾーン翼を使用して培養液量35 , l 攪拌速度80 rpm ,通気速度30 / l min の条件で行った。pH 制御はアルカリの流加のみで行い,1 N NaOH水溶液に よりpH=6.9に制御した。

2-9 ストレスが分解酵素活性に与える影響の検討

炭素源の枯渇と再投与や温度変動などの外的ストレ

スが,実際にPGA分解酵素の活性に影響を与えている

かを確認するため,酵素活性を測定した。納豆菌が有

するPGA分解酵素としてはYwtD,PghAとGGTの3種が報

告されている。YwtDとPghAは膜結合型酵素であり,単

離・精製に成功した例がなく,測定が困難である。GG

Tは培地中に分泌される酵素であり測定が容易である

ため,培地中のGGT活性で分解酵素活性の変化を検討

した。GGT活性はγ−グルタミル−p−ニトロアニリド

基質法によって測定した 。

9)

(3)

3 結果と考察

3-1 培養に伴う培地組成の時間変化

図 − 1 に 培 養 の 進 行 に 伴 う グ ル コ ー ス の濃度 変 化 を,図−2にグルタミン酸ナトリウムの濃度変化を示 した。グルコース濃度は対数増殖期後期にあたる12時 間経過時点から低下を始め,約70時間で全量が消費さ れた。グルタミン酸ナトリウムは対数増殖期後期に急 減するものの,以後消費されず一定の濃度を保った。

グルコースが枯渇するとグルタミン酸の消費が開始さ れ,pHの上昇を伴いながら濃度が低下した。

図−1 培養の進行に伴うグルコース濃度の変化

図−2 培養の進行に伴うグルタミン酸濃度の変化 これらの結果は, Bacillus subtilis IFO3555は炭 素源の存在下ではグルタミン酸を消費しないが,グル タミン酸の存在がPGAの生産量を著しく増強するとい うKuniokaの報告と一致する 。Kuniokaはまた,PGA

8 )

が培地中のグルタミン酸からではなく,炭素源から菌 体内で合成されたグルタミン酸を原料として合成され ることを報告しており,納豆菌についても同様の機序

。 , でPGAの生産が行われていることが推察される なお 80時間経過時点の培養液の見掛け粘度は80 mPa・s であ った。

3-2 流加培養がPGAの生産に与える影響

グルコース濃度を維持することを目的として流加培 養を行った場合の経過を図−3に示した。29時間経過 した時点でグルコースを流加した場合,70時間経過後 の見掛け粘度は60 mPa・s であった。

これに対して,一旦グルコースを枯渇させた後にグ

0 5 10 15 20 25

0 20 40 60 80 100

time[h]

Glucose[g/l]

0 5 10 15 20 25

0 20 40 60 80 100

time[h]

Na-Glutamate[g/l]

図−3 グルコース流加培養の経過(その1)

ルコースを流加した場合の経過を図−4に示した。1 回目の流加を行った時点で培養液粘度は10 mPa・s であ ったが,2回目の流加直前の粘度は215 mPa・s ,190時 間経過後の粘度は1,810 mPa・s に達した。この結果は,

PGA蓄積を阻害していたPGA分解経路がグルコースの枯 渇によってさらに強く発現し,グルコースの流加によ って逆に強く抑制されたため,結果としてPGA合成経 路が優勢となり,高濃度のPGA蓄積をもたらしたこと を示唆するものと考えられる。

図−4 グルコース流加培養の経過(その2)

3-3 納豆菌の至適培養条件

培養温度がpHの低下開始時間に与える影響を図−5 に示した。

pHの低下開始時間は培養初期の菌体増殖速度を反

図−5 納豆菌の至適生育温度

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

30 35 40 45 50 55 60

培養温度[℃]

pH低下開始時間[h]

流加

流加 流加

DO

ORP Air

Temp

Agit

pH

DO

ORP

pH Agit

Temp

Air

(4)

映する。納豆菌の至適増殖温度は,今まで採用してき た37℃ではなく45℃であった。しかし,37℃と45℃で PGAの生産を試みた結果,45℃では菌体の増殖は良好 であるものの,PGAが全く蓄積されなかった。

これらの結果は,45℃ではPGA分解酵素系の発現が 増強されるため,PGAが蓄積されないことを示唆して おり,3−2項の結果と合わせて考えれば,適切な段 階で培養温度を45℃から37℃に切り替えることによっ てPGA分解酵素系の発現を抑制し,PGAの生産効率を高 めることを期待できる。

3-4 ストレスの組み合わせがPGA生産に与える影響 培養温度の切り替えとグルコースの流加を組み合わ せて行った場合の培養経過を図−6に示した。

図−6 複合ストレスがPGA生産に与える影響 温度は溶存酸素濃度(DO)が飽和濃度の7割程度と なる培養開始から7時間が経過したときに,45℃から 37℃に切り替えた。グルコースは枯渇に伴うpHの上昇 を指標として37時間が経過したときに流加した。培養 液粘度は27時間で610 mPa・s ,37時間で1,820 mPa・s と 急速に増加し,グルコース流加後も順調に増加して44 時間で2,420 mPa・s ,50時間で3,200 mPa・s に達した。3 -3項で推察したとおり,温度の変動もグルコースの枯 渇と再投与と同様にPGA生産の安定化に極めて有効で あることが確認された。

3-5 ストレスがPGA分解酵素の活性に与える影響 培養条件が培地中のGGT活性に与える影響を表−2 から表−4に示した。表−2に明らかなように,グル コースを流加することによってGGT活性は有意に低下 した。しかし,培養温度の変更はGGT活性を増強する 効果を示した(表−3 。培養温度の変更とグルコー ) スの流加を合わせて行った場合もGGT活性は全体的に 高い値を示したが,グルコースの流加はGGT活性を有

流加

DO

Agit ORP

Air

Temp

意に低下させた。YwtDとPghA活性を評価していないた め,PGA分解酵素群の抑制の裏付けとしては不完全で はあるが,培養条件によってPGA分解酵素の生産が抑 制されていることが示唆された。

表−2 GGT活性の変化

(37℃, 52:05:グルコース流加, 101:00 終了, 120

mPa・s

) 時間[

h:m

] 7:30 11:15 24:00 52:00 56:30 59:30 72:30 1 01:00 >

表−3 GGT活性の変化

(45℃→37℃(7:00), 24:00 終了, 450

mPa・s

) 時間[

h:m

] 7:30 11:15 24:00 GGT[

IU l

/ ] 0.0 0.4 11.9

表−4 GGT活性の変化

mPa・

(45℃→37℃(7:00),34:40:グルコース流加,53:00終了。1,200

s

)

時間[

h:m

] 6:50 8:30 11:30 34:30 38:00 41:30 5 >

4 まとめ

納豆菌によるPGA生産の安定性を向上させることを 目的として,代謝を培養条件によって制御してPGA分 解酵素群の生成を抑制する方法を検討した。PGAの原 料となるグルコースをいったん枯渇させてから再度流 加することにより,PGA分解酵素群の生成を抑制してP GAの収量を大幅に向上させられることが明らかとなっ た。また,培養温度を生育至適温度から生産至適温度 へ変動させることによっても同様の効果が得られるこ とが明らかとなった。両者を組み合わせることによっ て生産効率を大幅に改善することが可能であり,これ らのストレスはPGA分解酵素群の発現を抑制している ことがGGT活性の変化から示唆された。

5 参考文献

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pH

参照

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