高齢者・障害者の生活の質を高める支援技術に関する研究
人間工学的評価手法を用いた快適な車椅子シートの設計
*1 *1
西村博之 石川弘之
Study on Supporting Technology to Improve Quality of Advanced & Handicapped Life
A Design of the Comfortable Wheelchair Sheet Using the Human Engineering-Evaluation Technique Hiroyuki Nishimura , Hiroyuki Ishikawa
電動車椅子のシートに関してはサイズや強度などの規格はあるものの、座り心地などの機能性の評価方法が確立 していない。そこで本研究では,電動車椅子乗車時のシートの快適性を評価するために,電動車椅子乗車実験を行 い、乗車中の脳波及び体圧分布を測定した。これらのデータの解析結果と乗車時のシートの快適性に対する主観評 価とを比較検討した結果,脳波データのアルファ波含有率と主観評価との間に相関性が認められた。また、体圧分 布の解析結果と主観評価の間にも相関性が認められた。したがって、昨年度行った静的状態での座り心地評価手法 が、電動車椅子乗車時の動的状態でも再現性があり有効であることが確かめられた。
1 はじめに
我が国は65歳以上の人口比率が7%から14%までわずか 24年というかつて前例のない急速な高齢化と,小子化,
核家族化による高齢者家族の増加により,高齢社会に おける医療・福祉関連分野の対応技術確立が喫緊の課 題となっている。
しかしながら,未だ高齢化による身体的あるいは生 理的機能の低下を始め,体型の変化や行動科学的デー タが未整備のため,産業構造の変化による今後成長が 期待される15分野のトップに位置づけされながら,現 実には機能の低下した高齢者の活動を補助し自立した 快適な生活を支援する用品の開発はあまり実現してい ないのが現状である。
なかでも、車椅子のシートに関してはサイズや強度 などの規格はあるものの、座り心地などの機能性の評 価方法が確立していない。
1)そこで、本研究においては、高齢者・障害者の快適 な車椅子生活を支援するために、電動車椅子シートの 人間工学的手法を用いた快適性評価技術の確立及びそ の技術を用いたシートの設計を目的とする。シートの 機能評価が確立されていない中で、快適社会環境を実 現するシートの開発に向けて、その客観的評価が可能 となり、機能評価の標準化が図られる。
本報告では,脳波のアルファ波含有率と主観評価に
よる評価から,電動車椅子シートの乗車時の座り心地 の検討を行い,この座り心地とシートの物性値との相 関について検討を行った。
2 実験方法
2−1 シート素材の圧縮試験
電動車椅子シートの物性を数値で評価するために,
表-1に示す3種類のウレタンについて,圧縮試験を行っ た。
表-1 シート素材仕様
シート1 シート2 シート3
名 称 標準シート ECK 組合せ
サイズ 45×40×6㎝ 45×40×8㎝ 45×40×8㎝
特 性 電動車椅子 一般用途 一般、低反発
標準品 性の組合せ
重 量 950g 340g 460g
圧縮試験は下記の条件で行い,その際の加圧量と圧 縮量の関係をグラフ化した。
<試験条件>
室内の温湿度:23℃±5℃ 60%±10%
試料サイズ:400×400㎜
圧縮押圧版:200φ
加圧量:314N(1N/㎝ =10kPa)
2圧縮速度:100㎜/min
加圧時間:30sec
*1化学繊維研究所
2−2 脳波測定
シートの物性値の違いが電動車椅子乗車中の人体に どのような影響を及ぼすかを検討するために,9人の被 験者に対して表-1の3種類のウレタンと木の板をシート 素材としてそれぞれ使用し,脳波測定を下記条件にて 行った。それぞれの被験者とも30分乗車してもらい乗 車前に1回、乗車中は10分毎に3回の計4回脳波を1条件 につき測定した。条件と条件の間は20分間の休憩を行 い4回実験を行った。
<実験条件>
実験場所:工業技術センター周囲の屋外 被験者:20歳代 男性9名
属性は表-2に示すとおりである。
測定データ:脳波 13点
使用器具:今仙技研製電動車椅子ECM-210型(図-1) 実験時間:1条件につき10分間×3回の30分間乗車
<実験パターン>
20 1 10 1 10 1 10 1 安 脳 体 電 脳 体 電 脳 体 電 脳 体 静 波 圧 動 波 圧 動 波 圧 動 波 圧 開 測 測 車 測 測 車 測 測 車 測 測 眼 定 定 椅 定 定 椅 定 定 椅 定 定
・ 子 ・ 子 ・ 子 ・ 主 走 主 走 主 走 主 観 行 観 行 観 行 観
評 評 評 評
価 価 価 価
表-2 被験者の属性
被験者 性別 年齢 身長 体重 A 男 23歳 176㎝ 78㎏
B 男 24歳 173㎝ 67㎏
C 男 22歳 165㎝ 55㎏
D 男 24歳 171㎝ 59㎏
E 男 23歳 172㎝ 78㎏
F 男 25歳 165㎝ 66㎏
G 男 25歳 171㎝ 54㎏
H 男 24歳 156㎝ 51㎏
I 男 24歳 171㎝ 65㎏
図-1 電動車椅子(EMC-210型)
2−3 体圧分布測定
シートの物性値の違いが体圧分散性及び最大体圧値 にどのような影響を及ぼすかを検討するために、脳波 測定の実験パターンに示すように1条件につき4回の体 圧分布測定を行い、4条件での測定を行った。
2−4 主観評価
シートの善し悪しや乗車後の体調などの「主観的座 り心地」を評価するために,図-2に示す主観評価票に 乗車前、乗車中に2回、乗車後の計4回記入してもら い,主観評価を行った。
この評価票は,乗車中や乗車後の座り心地や気分を 評価する質問紙で,7問の質問項目で構成されている。
乗車中や乗車後の「主観的座り心地」を問うもので、
得点が高いほど座り心地が良かったと判定される。
図-2 主観評価票
硬い 痛みのある 苦痛な 不快な 疲れる 圧力の大き い
柔 らかい 痛みのない 安楽な 快適な 疲れない 圧力の小 さ い 姿勢が
定ま ら ない
姿勢が 定ま る 0
- 3 + 3
主観評価票
3 結果と考察
3−1 シート素材の圧縮試験結果
表-1の3種類のシート素材について圧縮試験を行った 結果を図-3に示す。
この圧縮・加圧曲線においては,曲線の勾配が急で あるほど,加圧量が増加しても圧縮量が変化しないた め硬い素材である。逆に,勾配がなだらかであると僅 かな加圧量の変化で圧縮量が大きく変化することから 柔らかい素材である。
図-3 シート素材の圧縮試験結果
圧縮試験結果から,10kPa加圧したときの圧縮量はシ ート1が18㎜,シート2が45㎜,シート3が53㎜となって いる。シート1はシート2・3と比較すると勾配が急で硬 い素材である。シート2・3は加圧初めから、なだらか な勾配が続き柔らかいが,加圧が15〜20kPa以上になる と急勾配となり硬くなっている。
3−2 脳波測定結果
脳波を周波数解析し、シータ波、アルファ1波、
測定した
アルファ2波、ベータ1波、ベータ2波に分け、使用データと した。各経過時間後のデータと、コントロールとした着座直後 のデータの差である変化量データのシート間比較を行った 結果、主観評価値と体圧分散性が最も優れていたシート2 が他のシートよりもアルファ2波含有量、含有率ともに高い傾 向にあった。特にシート間の差が顕著であった右後頭部の T6部位の結果を図-4に示す。
0 10 20 30 40 50 60
0 10 20 30 40 50 60 70 80 圧縮量(mm)
圧力(kPa)
シート1
シート3 シート2
図-4 T6部位アルファ2波のシート間比較結果
一般的にアルファ波はリラックス状態と関連があるとされて おり、シート2は快適性が高かったことにより心理的にリラッ クスでき、それが脳波のアルファ波として表出したと考えられ る。また、時間経過と共にシート2のアルファ2波が高い頭皮 上の部位において減少していったが、右後頭部においては 持続的に差が顕著であったことより、この部分は快適性に何 らかの関連性があると考えられる。
3−3 体圧分布測定結果
表-1の3種類のシート素材と木の板について30分乗車後 の体圧分布測定を行った結果を図-5〜図-8に示す。
図-5 シート1の体圧分布測定結果
図-6 シート2の体圧分布測定結果
-0.2 -0.15 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15
10分後 20分後 30分後
含有率
シート1 シート2 シート3 木の板
0-2 2-4
4-6 6-8
8-10 10-12 12-14 14-16 16-18 18-20 20-22 22-24 24-26 26-28
0-2 2-4 4-6 6-8 8-10 10-12 12-14 14-16 16-18 18-20 20-22 22-24 24-26 26-28
図-7 シート3の体圧分布測定結果
図-8 木の板の体圧分布測定結果
この結果から圧縮試験で比較的柔らかいシート2,
3はシート1と比較すると最大体圧値が低く、体圧分 散性の良い事が分かる。比較条件である木の板は、最 大体圧値も非常に高く体圧分散性も悪くなっている。
ただし、体圧分散性を良くしすぎると、体の保持がで きなくなり安定感が無くなるため、電動車椅子のシー トに用いる際には注意が必要である。脳波データと主 観評価の結果と合わせて検討してみると、体圧分布性 の良いシートは脳波のアルファ波含有率も高く、主観 評価の得点も高い傾向にある。
3−4 主観評価結果
全7項目における主観評価値のシート間比較を行った。
一例として疲労感に関する評価値のシート間比較結を 図-9に示す。
主観評価の全項目においてシート2が最も評価値が 高い傾向にあった。また、シート2以外のシートは時 間経過とともに著しく評価値が低下する傾向にあった が、シート2は乗車時の評価値を維持する傾向にあっ た。
0-2 2-4 4-6 6-8 8-10 10-12 12-14 14-16 16-18 18-20 20-22 22-24 24-26 26-28