燃料価格の変動による自動車社会への影響の分析 04D8101033F 伊藤 圭
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室 2008 年 3 月
あらまし:本研究では,燃料価格および自動車に関 するデータを用いてモデルを構築する.さらに,価 格弾力性を求めることで燃料価格の変動が自動車社 会にもたらす影響を分析する.
キーワード:回帰分析,最小二乗法,時系列分析,
燃料価格,価格弾力性 1 はじめに
現在,燃料価格が高騰している.燃料価格の変動 は,自動車社会に大きな影響を与える.そこで,本 研究では,燃料価格の変動が運送業界や一般家庭な どの自動車社会に与える影響を分析する.
2 回帰分析・時系列分析 2.1 回帰分析
回帰分析とは,従属変数 Y と独立変数 X との関係 を説明する統計的方法である.回帰方程式は,
i i
i X u
Y =β1+β2 +
(1)
である.
uiは誤差項である.ここで,
β1, の値 を推定するために,最小二乗法を用いる.
β22.1.1 最小二乗法
最小二乗法は,誤差項の二乗和である,
∑
∑ = − +
= u
i2{ Y
i(
1 2X
i)}
2S β β (2)
(2)式に示す S を最小とする
1, をパラメータ の推定値とする考え方である.
β ˆ β ˆ2
2.1.2 決定係数
決定係数は,モデルのあてはまりのよさを示す.
決定係数
R2は,
∑ ∑
−
= −
22 2
) (
ˆ ) (
Y Y
Y Y R
i
i
(3)
と表し, 1 に近いほどあてはまりがよい.また, は
Yˆ
iY の回帰値, Y は Y の標本平均である.
2.2 時系列分析
時系列分析とは,時間経過に沿って記録された時 系列データを扱うための分析手法である.本研究で は,これを回帰分析と組み合わせて分析を行う.
) ( ) ( ) ( ), ( ) ( ) (
) ( )
( ) ( )
(
) ( ) ( )
(
1 1
2 1
s t u t u t u s t r t r t r
n t u b t u m t r a t r
t r t x t
y
q
n n p
m m
−
−
=
−
−
=
−
− +
−
=
+ +
=
∑
∑
= =β
β
(4)
r(t) は回帰方程式 y(t) の残差である.この残差を求め るのに,時系列分析の ARIMA モデルを用いる.
ARIMA モデルは自らの過去の値を利用する AR (自
己回帰)モデルと,誤差項の過去の値を利用する MA(移動平均)モデルを組み合わせ,さらに非定 常データに対応するために階差をとるという考えを 利用したモデルである.このとき,ARIMA( p , s , q )モデルと表す. p , q は AR および MA 部分の次 数, s は階差の次数, は自己回帰係数, は重み,
u(t) はホワイトノイズ(誤差項)を表している.また,
ARIMA モデルのパラメータの推定方法として,最
小二乗法や最尤法がある.
a
mb
n2.3 季節性次数について
ARIMA モデルを用いて季節性を除去するために
は,その周期分の階差をとる必要がある.季節性次 数 1 の大きさは周期分の非季節性次数の大きさと同 等である.周期が 12 のとき,季節性次数 1 の階差 をとるには, 12 期前のデータに対して階差をとれば よい.季節性次数を Sp,Ss, Sq とした場合,季節性 次数を用いた ARIMA モデルを ARIMA(p,s,q)
(Sp,Ss,Sq)モデルと表す.
3 モデルの構築
燃料価格の変動がもたらす影響を分析するための モデルを構築する.モデルのパラメータは,回帰方 程式の定数項の有無別にモデルを構築したとき,有 意水準を満たし,独立変数の係数の符号が実情に適 しており,決定係数が最も高いものを採用する.レ ギュラーガソリン市場価格(ガソリン価格)と軽油 市場価格(軽油価格)を図 1 に示す.両方とも, 2004 年以降価格が上昇していることが分かる.
0 20 40 60 80 100 120 140 160
2001年1月 2001年4月 2001年7月 2001年10月 2002年1月 2002年4月 2002年7月 2002年10月 2003年1月 2003年4月 2003年7月 2003年10月 2004年1月 2004年4月 2004年7月 2004年10月 2005年1月 2005年4月 2005年7月 2005年10月 2006年1月 2006年4月 2006年7月 2006年10月 日付(年・月)
価格(円)
レギュラーガソリン市場価格(円) 軽油市場価格(円)
図 1 燃料価格
3.1 貨物輸送における軽油消費量モデル(営業用)
営業用車による貨物輸送における軽油消費量(千
L)を従属変数,軽油価格を独立変数にとり, ARIMA
(1,0,0)(0,1,0)モデルを用いて分析する.
これは,AR 部分に 1 次,階差部分に季節性の 1 次 の次数をとったモデルである.以下に,モデルの式 と決定係数を示す.
モデルの式 :
) ( )) 13 ( ) 1 ( (
* 591 . 0
) 12 ( ) ( ) (
) ( ) (
* 397 . 823 ) (
t u t
r t r t r t r t R
t R t x t
y
+
−
−
−
=
−
−
=
+
−
=
(5)
決定係数 :0.860
(5)式より,独立変数の係数は−823.397 であり,
大きい.決定係数も高く,モデルのあてはまりはよ い.よって,燃料価格が軽油消費量に与える影響は 大きく,運送業者が軽油の消費を節約していると考 えられる.また,図 2 に軽油消費量の実測値(観測)
とモデルによる予測値(適合)を示す.
9
5 月 2006 1 月 2006 9 月 2006 5 月 2005 1 月 2005 9 月 2005 5 月 2004 1 月 2004 9 月 2004 5 月 2003 1 月 2003 9 月 2003 5 月 2002 1 月 2002 9 月 2002 5 月 2001 1 月 2001 月 2001
Number
3,000,000
2,750,000
2,500,000
2,250,000
2,000,000
適合 観測
軽 油消 費量(
貨 物)(
千L)
日付(月・年)
図 2 軽油消費量の実測値と予測値
3.2 1 世帯当り平均ガソリン購入量モデル
一ヶ月ごとの 1 世帯当り平均ガソリン購入量(L)
(購入量)を従属変数,ガソリン価格を独立変数に とり,ARIMA(0,0,1) (1,1,0)モデルを用い て分析する.これは,MA 部分に 1 次,AR 部分と 階差に季節性の 1 次の次数をとったモデルである.
以下に,モデルの式と決定係数を示す.
モデルの式 :
)) 13 ( ) 1 ( (
* ) 425 . 0 (
) ( )) 24 ( ) 12 ( (
* 534 . 0
) 12 ( ) ( ) (
) ( ) (
* 041 . 0 156 . 5 ) (
−
−
−
−
−
+
−
−
−
−
=
−
−
=
+
−
=
t u t u
t u t
r t
r t r t r t R
t R t x t
y
(6)
決定係数 :0.726
決定係数は 0.726 と高く,モデルのあてはまりは よいといえる.また, (6)式より,独立変数の係数 は−0.041 と非常に小さいため,燃料価格が購入量 に与える影響は小さいと考えられる.図 3 より,
2003 年以前は購入量が増加しているが,価格が上昇 する 2004 年以降は増加量が減少し,一定の水準を 維持している.このことから,一般家庭でもガソリ ンを節約する動きがあることがわかる.
1
世 帯 当り ガ ソリ ン 平 均 購 入 量 55
50
45
40 10
7 月 2006 4 月 2006 1 月 2006 10 月 2006 7 月 2005 4 月 2005 1 月 2005 10 月 2005 7 月 2004 4 月 2004 1 月 2004 10 月 2004 7 月 2003 4 月 2003 1 月 2003 10 月 2003 7 月 2002 4 月 2002 1 月 2002 10 月 2002 7 月 2001 4 月 2001 1 月 2001 月 2001
適合 観測 1
世帯 当り ガソ リ ン 平 均購 入 量( L)
日付(月・年)
図 3 購入量の実測値と予測値
また,その他に,輸送量や燃料販売量,走行距離 などのデータに対するモデルを構築した.燃料価格 が上昇するにつれ,軽油に関するモデルは値が減少 し,ガソリンに関するモデルは値の変化量が少ない 傾向があることがわかった.なお,表 1 にその他に 構築したモデルのパラメータおよび決定係数を示す.
また,1 行目の貨物輸送量から 3 行目の軽油販売量 までは軽油価格を,それ以降はガソリン価格を独立 変数として使用している.
表 1 その他のモデルのパラメータ及び決定係数
従属変数 パラメータ 決定係数
貨物輸送量(営業用) (1,0,1) (0,1,0) 0.871 走行キロ(営業用) (0,0,2) (0,1,0) 0.835 軽油販売量 (1,0,1) (0,1,0) 0.733 ガソリン消費量(営業用) (2,0,0) (0,1,0) 0.806 ガソリン販売量 (0,0,0) (1,1,0) 0.864 1 世帯当りガソリン支出 (0,0,1) (1,1,0) 0.945 旅客輸送量(自家用) (1,0,1) (0,1,0) 0.573 旅客輸送量(軽・自家用) (1,0,1) (0,1,0) 0.947 ガソリン消費量(自家用) (1,0,1) (0,1,0) 0.791
4 価格弾力性・輸送効率 4.1 価格弾力性
価格弾力性は,価格が 1%上昇した際に,対象が 何%変化するかを示す値である.価格弾力性 X は,
D を需要, P を価格として,
P P
D X D
/ d
/
= d (7)
と表す. X>1 のとき,弾力的であるといい, X<1 の
とき,非弾力的であるという.通常,贅沢品は弾力 的であり,必需品は非弾力的であるという傾向があ る.なお,弾力的か非弾力的かは価格弾力性が負で あることが前提であり,正である場合は議論するこ とが出来ない.価格弾力性を求めた結果の一部を表 2 に示す.自動車貨物輸送量(輸送量)は営業用車 によって輸送された貨物の量(千トン),自動車貨物 走行キロ(走行キロ)は荷物の有無にかかわらず営 業用車が走行した距離(千 km)を表している.
表 2 価格弾力性
独立変数 価格弾力性
X弾力的 輸送量 軽油価格 −0.236 × 走行キロ 軽油価格 −0.139 × 軽油消費量 軽油価格 −1.054 ○ 購入量 ガソリン価格 +0.089 −
表 2 より,輸送量,走行キロ,軽油消費量の価格 弾力性が負の値になっており,燃料価格が上昇する と減少する傾向があることがわかる.特に,軽油消 費量は弾力的であり,燃料価格の上昇以上に軽油消 費量が減少していることがわかる.このことから,
運送業者による燃料消費の効率化が効果を上げてい ることがわかる.また,購入量の価格弾力性が正の 値であるが,これは 2003 年以前に購入量が増加し ているためだと考えられる.
4.2 輸送効率
輸送量の値を走行キロで割った値を輸送効率(ト ン/キロ)として定義する.これは,1km 走行する 際にどれだけの貨物を輸送できるのかを表している.
輸送効率 X は,T を輸送量,D を走行キロとして,
D
X = T
(8)
と表される.輸送効率を求めた結果を図 4 に示す.
0.017 0.018 0.019 0.020 0.021 0.022 0.023
2001年1月 2001年4月 2001年7月 2001年10月 2002年1月 2002年4月 2002年7月 2002年10月 2003年1月 2003年4月 2003年7月 2003年10月 2004年1月 2004年4月 2004年7月 2004年10月 2005年1月 2005年4月 2005年7月 2005年10月 2006年1月 2006年4月 2006年7月 2006年10月 日付(年・月)
輸送効率(トン/キロ)