■ 短 報
介護老人保健施設の看取りにおける 看護管理者の実践内容
Efforts made by nurse administrators during end-of-life care at geriatric health service facilities
小野 光美
1Mitsumi ONO
キーワード :看取りケア、介護老人保健施設、看護管理者
Key words :end-of-life care, geriatric health service facility, nurse administrators
本研究の目的は、介護老人保健施設の看取りにおける看護管理者の実践内容を明らかにすることである。看取りを 行っている39施設に勤務する看護管理者39名に質問紙調査を実施した。回収数は36(92.3%)で、全てを有効回答と して分析した。その結果、看護管理者は、入所者と家族の希望や不安を引き出しながら、いつもの日々が安楽で安全 に過ごせるよう、細やかな配慮を行っていた。入所者の経過に伴う家族の揺れる気持ちに寄り添っていた。また、施 設のスタッフの葛藤や不安に対する支援を行っていた。看護管理者はスタッフに対し、看取りを通して死生観を深め て欲しいと願っていた。そのためには、デスカンファレンスの実施や思いを語れる場をつくることの必要性が示唆さ れた。
The purpose of the present study is to clarify the efforts made by nurse administrators during end-of-life care at geriatric health service facilities. A questionnaire survey was provided to 39 nurse administrators working for 39 facilities that provide end-of-life care. A total of 36 valid responses were received(response rate 92.3%)and analyzed. According to the survey results, overall, respondents took meticulous care to ensure that residents live a safe and comfortable daily life, drawing out needs and concerns from residents and their families. The respondents also supported residents’ families when they experienced emotional changes associated with the residents’ changing health conditions. Furthermore, the respondents helped their facility staff resolve emotional struggles and concerns. Finally, the respondents hoped that their staff would develop their own views of life and death through end-of-life care, which suggested the need to organize death conferences or create other opportunities for their staff to share their thoughts and feelings with colleagues.
Ⅰ.はじめに
日本は世界一の高齢社会である。高齢者人口の増加 は死亡数の増加を意味するものでもあり、ピークを越
える2040年には年間死亡者数が167万人になると推
計されている1。高齢者が最期までその人らしく生き、
よかったと思える終焉を迎えるためにはどのようなケ アが求められるのか、終末期ケアの在り方が問われて
いる。
高齢者は、長い介護状態の時間を経て死を迎える場 合が多くあるため、介護施設・事業所は最期までを過 ごす場の選択肢のひとつとなりうる。介護施設で提供 されるケアは医療的ケアよりも生活を支える視点が重 要視されるため、高齢者と家族に対し、その人らしく 生き抜くことを尊重した看取りが可能であると考え る。国は、介護保険施設・事業所における看取りを促 1 島根大学医学部看護学科 School of Nursing, Shimane University
進するために施策を整え始めている。2006年度の介 護報酬改定では介護老人福祉施設に対し「重度化対応 加算」と「看取り介護加算」を、2009年度の介護報酬 改定では介護老人保健施設(以下、老健とする)に
「ターミナルケア加算」、グループホームに対し「看取 り介護加算」が新設された。さらに、2012年度の介 護報酬改定では、老健およびグループホームでの看取 りの対応を強化する観点から、算定要件および評価の 見直しがされている。
老健は、要介護者に対し、施設サービス計画に基づ いて看護、医学的管理の下における介護および機能訓 練、その他必要な医療ならびに日常生活の世話を行う ことを目的とする施設である。病院から自宅に退院す ることが難しい高齢者に対して自宅復帰をめざす機能 や自宅での療養を支援する機能、すなわち病院と自 宅、自宅と自宅を繋ぐ「中間施設」としての役割を 担っている。そのため、老健は何らかの介護が必要と なった時から高齢者と家族の生活を居宅サービス、施 設サービスの提供により支えており、高齢者・家族と 施設スタッフには長い年月をかけて築いてきた関係が ある場合が多く、高齢者・家族の「ここで最期まで過 ごしたい」という要望やケアスタッフ側の「最期まで 看てあげたい」という思いが存在する2, 3。
一方、「中間施設」としての役割を担うことから老 健の看護職や介護職には看取りが本来の役割から外れ ているという思いがあり2‒4、家族が看取ることがで きず、受け入れ先もないならば仕方がないという状況 の中で老健の看取りに意味を見いだせない2という現 状がある。さらに、老健の看取りにおいては、看取り を行う環境や体制が整っていない2, 5, 6、看取りに関す るスタッフの知識や技術が未熟2, 7、苦痛に対する緩 和の不足8、スタッフの葛藤や迷いに対するサポート
の不足2, 6, 9, 10等、先行研究では看取りの良い面よりも
困難や課題が多く報告されている。また、高齢者は複 数の疾患や障害を併せ持つことが多く、心理・社会的 影響も受けやすいためにその「終末期」の経過は極め て多様11で、そのケアについても明らかな指標やコン センサスがないまま現場は対応12しており、「看取り は難しい」という状況が起こっている。
終末期医療に関する調査等検討会13は、終末期の療 養場所として大切なのは生活する人の視点で安心でき る医療や介護の提供体制をどのようにつくっていくか である、と述べている。老健での看取りには、慣れ親 しんだ環境の中で安心して生活を継続できる可能性と 価値があると言える。その基盤には、高齢者と家族に かかわるスタッフが安心してケアに臨める環境づくり やケアの意味づけがなされていることが必要である。
そのための看護管理者の支援は重要であると考える。
老健の看取りにおいて看護管理者を対象とした研究 は、看取りを可能にした要因を明らかにしたもの9, 14、
看取りにおける看護管理者の役割を明らかにしたも の15等があるが、数が少ない。また、これらの研究は 数名の看護管理者に対するインタビューやケーススタ ディによるものであり、複数施設の看護管理者を対象 に具体的な実践を明らかにした調査はみあたらなかっ た。
そこで本研究は、老健の看取りにおいて看護管理者 が入所者や家族、スタッフに対してどのような実践を 行っているのかを明らかにすることを目的とする。
Ⅱ.用語の定義
本研究における「看取り」とは、老健の医師により 終末期と判断された入所者とその家族へのケアであ り、入所者本人と家族の希望にそって、終末期の種々 の症状に対して老健でできる範囲の緩和に取り組みな がら、最期まで本人が自分らしく生きることができる よう提供されるケアとした。
Ⅲ.方法
1.調査対象 1)調査対象施設
調査対象施設は、第19〜21回(平成20〜22年)全 国老人保健施設大会において老健における「看取り」
「終末期」「ターミナル」をテーマに発表を行った施設 および看護・介護・老年医学系の雑誌に実践報告等を 行った施設の計101施設である。まず、対象となった 101施設に対し『施設・看取りの概要に関する調査 票』を配布した。なお、本研究への協力依頼を始めた 直後に東日本大震災がおこったため、被災状況や郵便 事情を考慮し、東北地方、北海道および関東の一部地 域に所在する施設は対象から外した。
調査票は41施設(40.6%)から返信があった。その うち、2施設は看護管理者を対象とした『看取りにお けるケア実践内容に関する調査』については協力が難 しいという旨の連絡があり、最終的に本調査に協力し た施設は39施設(38.6%)であった。
2)調査対象者
調査対象者は、調査協力が得られた39施設の看護 管理者39名である。対象者に調査票を配布し、回収 数(回収率)は36(92.3%)であった。返信された全 ての調査票を有効回答とした。
2.調査方法および期間
1)施設・看取りの概要に関する調査
調査対象施設の施設長または看護管理者に対し、記 名式の質問紙調査を実施した。調査内容は、施設の概 要(設置主体、開設年、入所定員等)、看取りの現状 や取り組み(死亡者数、ターミナルケア加算の算定有 無、環境、意思確認等)であった。
2)看取りにおけるケア実践内容に関する調査 調査対象者に、以下の内容について、無記名自記式 の質問紙調査を実施した。
(1)対象者の基本属性
看護職としての経験年数や老健での経験年数、年 齢、性別、他施設での勤務経験の有無を尋ねた。
(2)看取りにおけるケア実践状況
これまでの看取りを振り返ってもらい、以下の内容 について尋ねた。
看取りにおける入所者、家族、スタッフに対するか かわりの程度について、「十分にできた」「ほぼできた」
「あまりできなかった」「できなかった」または「積極 的」「やや積極的」「やや消極的」「消極的」の4件法で の回答を求めた。また、看取りにおいて看護管理者の 果たす役割や責任について自由記述で尋ねた。看取り において行った医療処置や管理(複数選択)を尋ねた。
看取りに関する研修会の企画やデスカンファレンスの 開催状況について「ある」「ない」の2件法で回答を求 め、その内容(自由記述)を尋ねた。老健での看取り の質について「非常に高いと思う」「まあ高いと思う」
「あまり高いとは思わない」「まったく高いとは思わな
い」の4件法での回答を求め、その理由(自由記述)に
ついても尋ねた。最後に、看取りにおける多職種の連 携・協働の状況について「うまくいっている」「やや うまくいっている」「あまりうまくいっていない」「う まくいっていない」の4件法での回答を求め、その理 由(自由記述)についても尋ねた。
以上の質問項目は、先行研究2‒7, 9, 14, 15や全国老人保 健施設大会演題集を参考に、筆者が独自に作成した。
3)調査期間
2011年3月〜7月に実施した。
3.分析方法
各設問について単純集計を行った。ケアの実践状況 では、「十分できた」「ほぼできた」を『できた』、「あ まりできなかった」「できなかった」を『できなかった』
として分類した。同様に、「積極的」「やや積極的」を
『積極的』、「やや消極的」「消極的」を『消極的』とし て分類した。老健での看取りの質は高いと思うかにつ いては、「非常にそう思う」「ややそう思う」を『そう 思う』、「あまりそう思わない」「まったくそう思わな い」を『そう思わない』として分類した。また、看取 りにおける多職種の連携・協働については、「うまく いっている」「ややうまくいっている」を『うまくいっ ている』、「あまりうまくいっていない」「うまくいっ ていない」を『うまくいっていない』として分類した。
自由記述によって得られた回答の分析は、記述内容の 類似性に基づき分類整理した。
4.倫理的配慮
本研究は、まず調査対象施設の施設長または看護管 理者から研究協力の承諾を得た。施設長または看護管 理者に対し、本研究の趣旨・目的および倫理的配慮を 明記した研究協力の依頼文書を添え、『施設・看取り の概要に関する調査票』を郵送した。協力していただ ける場合には『施設・看取りの概要に関する調査票』
への回答を依頼し、返送をもって研究協力の承諾とみ なした。研究協力の承諾を得た後、調査対象者に本研 究の趣旨・目的および倫理的配慮を明記した文書を添 えて『看取りにおけるケア実践内容に関する調査票』
を郵送した。
調査対象者には、調査への協力は自由意思であり回 答は任意であること、協力の如何が今後の勤務におい て不利益を被ることは一切ないこと、得られたデータ や結果は研究目的以外に使用することはないこと、調 査票は無記名でありデータは統計処理することによっ て個人や施設が特定されることは一切ないこと、回収 した用紙は研究終了後に確実に破棄すること等を説明 した。また、研究者の連絡先を明記し、研究対象者の 問い合わせに応じることを保障した。調査票は、調査 協力への自由意思を反映しやすいように施設を介さず 調査対象者が個別に投函する方法で回収し、用紙の返 送をもって調査への同意とした。なお、東日本大震災 の影響を考慮し、関東地方の施設に対しては対象者へ の調査票の配布時期を遅らせる等の配慮を行った。
本研究は、島根大学医学部看護研究倫理委員会の承 認を得て実施した。
Ⅳ.結果
1.調査対象施設の概要(表1)
施設の所在は、「関東」が10施設(25.6%)で最も多 く、次いで「近畿」9施設(23.1%)であった。施設の 設 置 主 体 は「医 療 法 人」が24施 設(61.5%)で 最 も 多 く、 施 設 の 開 設 年 は「2000年 以 前」が26施 設
(66.7%)であった。入所定員は「100人以下」が32施 設(82.0%)、入所者の平均要介護度は3.4±0.3(範囲 2.7〜4.0)であった。「ディケア」「ショートステイ」「居 宅事業所」を併設機関にもつ施設が7割を超えてい た。また、17施設(43.6%)が「病院」をもっていた。
1年間(平成21年4月1日〜平成22年3月31日)に 老健施設内で看取った人数は「5人以下」が16施設
(41.0%)で最も多かった。同時期に老健から病院へ 移動し、病院で亡くなった人数は「1〜5人」が17施 設(43.6%)で最も多く、次いで「6〜10人」が12施 設(30.8%)であった。また、施設から自宅に帰られ、
自 宅 で 亡 く な っ た 方 が1名 以 上 あ っ た の は6施 設
(15.4%)だった。
ターミナルケア加算については37施設(94.9%)が 算定した経験があり、33施設(84.6%)が看取りに関
する施設のケアマニュアルを作成していた。
これまでの看取りの事例で、最期の場所について高 齢者本人の意思の確認があった例は「なし」が最も 多 く16施 設(41.0%)、 次 い で「1〜3割」が15施 設
(38.5%)であった。一方、主介護者・キーパーソン に対しては25施設(64.1%)が「8割以上」意思確認を
行っていると回答した。
2.対象者の基本属性(表2)
対象者の基本属性を表2に示す。対象者は、全員が 女性で、平均年齢は54.4±7.5歳(37〜64歳)であっ た。 看 護 職 と し て の 平 均 経 験 年 数 は30.2±8.0年 表1 調査対象施設の概要(n=36)
単位は施設数、( )内は%
所在地 関東 10(25.6)
甲信越 2(5.1)
東海 2(5.1)
近畿 9(23.1)
中国 7(18.0)
四国 4(10.3)
九州 5(12.8)
設置主体 医療法人 24(61.5)
社会福祉法人 6(15.4)
社団法人 4(10.3)
財団法人 2(5.1)
その他 3(7.7)
開設年 ~1990年 4(10.3)
1991~1995年 10(25.6)
1996~2000年 14(35.9)
2001~2005年 9(23.1)
2006年~ 2(5.1)
入所定員 ~50人 2(5.1)
51~100人 30(76.9)
101~150人 5(12.8)
151~200人 2(5.1)
入所者の平均要介護度 3.4±0.3(2.7‒4.0)
併設機関(複数回答可) ディケア 32(82.1)
ショートスティ 30(76.9)
居宅事業所 30(76.9)
病院 17(43.6)
訪問看護ステーション 14(35.9)
診療所 9(23.1)
その他 13(33.3)
施設内で看取った入所者数(H21.4.1.~H22.3.1.の1年間) 1~5人 16(41.0)
6~10人 6(15.4)
11~15人 6(15.4)
16~20人 7(17.9)
21人以上 6(15.4)
介護報酬の加算(ターミナルケア加算)の有無 あり 37(94.9)
なし 2(5.1)
看取りに関する施設のケアマニュアルの有無 あり 33(84.6)
なし 5(12.8)
無回答 1(2.6)
これまでの看取りの事例の中で、最期の場所について 入所者本人に意思確認を行った割合
8割以上 2(5.1)
5~8割 3(7.7)
3~5割 2(5.1)
1~3割 15(38.5)
なし 16(41.0)
無回答 1(2.6)
これまでの看取りの事例の中で、最期の場所について 主介護者・キーパーソンに意思確認を行った割合
8割以上 25(64.1)
5~8割 2(5.1)
3~5割 4(10.3)
1~3割 8(20.5)
なし 0(0.0)
(11.0〜47.2年)、老健での平均勤務年数は8.8±5.9年
(0.4〜21.5年)であった。これまでに「病院」で勤務 したことがある者は9割を超え、特別養護老人ホーム
(19.4%)や訪問看護ステーション(16.7%)、他の老 健(8.3%)で働いた経験がある者もいた。
3.入所者、家族、スタッフに対するかかわりの程 度(表3)
入所者、家族、スタッフに対するかかわりの程度に ついて「できた/積極的」と回答した者の割合が8割 以上の項目は、13項目中9項目あり、看護管理者は
様々な面から積極的にかかわっていることが明らかに なった。一方、「できた/積極的」と回答した者の割 合が5割以下の項目は、「l. 外泊の機会をつくる・支 援する」(38.9%)、「m. 看取り後に、家族に対しグ リーフケアを行う」(47.2%)、「e. 入所者本人に対し て最期の場所についての確認をする」(50.0%)であっ た。最期の場所について、「家族」に対して「できた/
積極的」と回答した者の割合は94.5%となっており、
入所者本人よりも家族に確認している状況が明らかに なった。
表2 対象者の属性(n=36)
単位は人、( )内は%
性別 女性 36(100.0)
男性 0(0.0)
年齢 平均±標準偏差 54.4±7.5歳
範囲 37~64歳
看護職としての経験年数 平均±標準偏差 30.2±8.0年
範囲 11.0~47.2年
介護老人保健施設での看護職経験年数 平均±標準偏差 8.8±5.9年
範囲 0.4~21.5年
他施設の経験 病院 34(94.4)
訪問看護 6(16.7)
特別養護老人ホーム 7(19.4)
他の介護老人保健施設 3(8.3)
開業医 1(2.7)
看護学校 1(2.7)
表3 入所者・家族・スタッフに対するかかわりの程度(n=36)
単位は人、( )内は%
できた/積極的 できなかった/消極的 a 自身の高齢者観や看取りへの考えをスタッフに語る 32(88.9) 4(11.1)
b 看取りに関するスタッフの考えや思いを表出させる 31(86.1) 5(13.9)
c 医師を看取りに巻き込んだケア体制づくりをする 32(88.9) 4(11.1)
d 勤務時間外においてスタッフへの対応を行う *(n=35) 28(80.0) 7(20.0)
e 入所者本人に対して最期の場所についての確認をする 18(50.0) 18(50.0)
f 家族に対して最期の場所の確認をする 34(94.4) 2(5.6)
g 家族の揺らぎ(苦悩、葛藤など)の本質を捉え、対応する 32(88.9) 4(11.1)
h 例えば入所者の苦痛などを考慮し、生活の場の変更(入院など)を提案する 30(83.3) 6(16.7)
i ご家族に対し、今後、予測ができることを説明する 34(94.4) 2(5.6)
j 部屋の調整を行う 30(83.3) 6(16.7)
k 外出の機会をつくる・支援する *(n=35) 18(51.4) 17(48.6)
l 外泊の機会をつくる・支援する 14(38.9) 22(61.1)
m 看取り後に、家族に対しグリーフケアを行う 17(47.2) 19(52.8)
4.看取りにおいて看護管理者として果たす役割や 責任
「老健での看取りにおいて、入所者や家族が最期ま で心地よく過ごせるために、看護管理者の果たす役割 や責任はどのようなものだと考えますか」という質問 に対し、「施設利用開始時から家族との関係づくりを 意識している。家族には、できることとできないこと をはっきり伝えている。そのうえで選択した家族の気 持ちは揺れ動くものと捉え、一緒に悩み、後悔しない よう今やるべきことは今やるとスタッフに伝えてい る」、「家族の面会時には必ず声をかけ、労い、現場の ケアに満足しているか、不安はないか傾聴している。
スタッフでは忙しくてつくれない時間をつくり、コ ミュニケーションをとっている」、「入所者の状況を家 族が納得できるように働きかけている。家族間(遠方 の身内を含め)で意見の違いがないよう、悔いの残ら ない選択ができるよう面談している」等、入所者や家 族へのかかわりについて多くの記述がみられた。ま た、「職員全体で統一したケアが提供できるよう指導 を行う」、「看護職も看取りの経験が少なかったため、
自分が直接入所者や家族にかかわり指導した」、「入所 者が最期まで安楽に過ごせるようなケア、家族の心の ケアができるためにはスタッフが死生観を養うことが 大切であり、そのための教育を行うこと」、「スタッフ が安心してかかわり続けられるように、困っていない か、負担感はないか声をかけ、気持ちを言葉に出せる ようにサポートした」、「スタッフの意見が分かれた時 の調整」、「看護や介護職以外の医師、相談員、リハ 職、栄養職のスタッフとの連携の中核になること」等 の記述がみられ、スタッフが安心してケアに携われる ためのサポートや環境を整えることを役割と考えてい た。
5.看取りにおいて行った医療処置や管理の状況(図1) 老健の看取りにおいて、「吸引」(100.0%)、「点滴」
(97.2%)、「酸素吸入」(91.7%)が高い割合で実施さ
れている状況が明らかになった。また、「疼痛緩和の ための麻薬以外の薬の使用」(38.9%)、「疼痛緩和の ための麻薬の使用」(13.9%)となっており、疼痛に 対する医療的なかかわりが少ない状況がみられた。自 由記述では、「医師の理解が得られず、必要以上の輸 液や抗生剤の使用がある。200〜500 ml/日の輸液で 十分と思われるのに1,500 ml/日の輸液をしたり、抗 生剤を朝夕で使う時があり辛い」、「安楽を優先に考え 呼吸を少しでも楽にと酸素を使用することがある。し かし、1 ℓ/分投与で24時間行うと1日1万円の持ち出 し(施設負担)になる」等、苦慮している様子が記述 されていた。
6.看取りに関する研修会の企画やデスカンファレ ンスの開催状況
看取りに関する研修会や勉強会を企画した者は29 名(80.6%)であった。テーマは、「看取りの方針やケ アマニュアルの説明」、「死に向かう身体の変化、起こ る症状とそれに対するケア」、「家族への配慮」、「死生 観、人生について」、「死後のケア」、「事例を用いた振 り返り」等であった。デスカンファレンスの開催につ いては15名(41.7%)が「している」と答え、半数に 満たないことが明らかになった。
7.老健における看取りの質
「これまでの老健の看取りの質は高いものだと思い ますか」という質問に対し、「そう思う」と回答した者
は29名(80.6%)であった。本調査の対象者は、自身
が勤務している老健における看取りの質は概ね高いと 捉えていることが明らかになった。質が高いと思った 理由として、「住み慣れた場所に近い老健で、できる 限り本人や家族の希望を取り入れながら過ごすことが できる」、「認知症のある方については環境の変化だけ でもかなりのストレスになるため、慣れ親しんだス タッフによるケアは安心して過ごせることになる」、
「モニターも点滴も、処置もカテーテルもなく、最期 図1 看取りにおいて実施した医療処置や管理
まで口から食事を摂ることや入浴ができ、いつもの日 常が続く中での看取りとなった時はいいケアができた と感じる」、「思い出の場所に行きたいという希望に応 え、外出ができた。本人や家族の思いに応えることが できる」、「褥瘡も拘縮も進まず、綺麗な身体で穏やか に最期を迎えられた」、「家族とともにゆっくり過ごせ る部屋を提供できる」等が記述されていた。また、「最 期まで食べたいものを召し上がり、排泄もトイレです ることを諦めず、外出まで実行でき やった でき た 嬉しい をケアの現場で共有し、スタッフは日々 の小さな達成感を積み重ねることができた。入所者や 家族と真剣に向き合うことで職員の心の成長となって いる」等、多職種でかかわることができていることや スタッフの成長についての記述もみられた。一方、質 が高いとは言えない理由では、本人の意思が不明瞭で 取り組みが表面的になる傾向があること、スタッフの ケアレベルが統一されていないこと、忙しくて十分な かかわりができていると思えないこと等が記述されて いた。
8.看取りにおける多職種連携・協働の状況
勤務している老健の看取りにおける多職種の連携・
協働について、「うまくいっている」と回答した者は 33名(94.3%)であった。その理由として「看護や介 護を中心としてケアを行っていくが、施設全体で協力 していく姿勢がある」、「外出の支援を多職種全員で 行った」、「お互いの気持ちを察し、メンタルフォロー ができている」等、協力しながらケアに携わっている 様子が記述されていた。また、「医師や看護師がいつ でも対応できる体制にある」、「リハスタッフが拘縮予 防や呼吸リハ、安楽なポジショニングを実施してい た」、「栄養士が工夫を凝らして食事を提供していた」、
「相談員が今後の希望を家族にきちんと聞いていて情 報提供をしてもらえている」等、把握した各専門職の かかわりや様子についての記述もみられた。一方、
「相談員にもう少し介入して欲しい」、「OTやPTのか かわりが少ない。もっと身体を触ってもらいたい」等 の要望も記述されていた。また、「多職種参加による デスカンファレンスを開催したい。振り返る場をもつ ことでより連携協働を強化したい」といった多職種に よるデスカンファレンスを課題にあげていた。
Ⅴ.考察
1.老健の看取りにおける看護管理者の実践内容 看護管理者は、入所者と家族の希望や不安等を引き 出しながら、いつもの日常が安楽で安全に過ごせるよ う細やかな配慮のあるかかわりを実践していた。その 際、入所者や家族に対し、スタッフではなかなかつく れない 個に対応できる時間 をつくりだし、かかわ ることを行っていた。また、全スタッフの精神面の
フォローをはじめ、多職種が連携・協働できるよう調 整したり、医師を巻き込んだチームづくりを行ってい ることが窺えた。
2.老健におけるよりよい看取りを提供するための 看護管理者の役割
老健における看取りにはたくさんの課題が存在する が、看護管理者のどのような実践が入所者と家族の意 思を尊重し、心地よい状態で生き抜くことを支えるこ とに繋がるのか、以下に考察する。
1)入所者本人の意思を引き出すまたは汲み取る 看取りに携わるスタッフの苦悩のひとつは、最期ま でをどこでどのように生き抜きたいか、入所者本人の 意思がわからない状況が多いことである。全国老人保 健施設協会が行った調査16によると、意思確認が可能 な入所者は7.7%であり、そのうち本人への意思確認 を行った割合は37.8%であったことが報告されてい る。すなわち、意思を表出できる力があるにもかかわ らず、確認されないケースが多々あるということであ る。本調査の結果では、最期の場所について5割の者 が「入所者本人に対する確認」を行っており、看護管 理者は個別に対応できる時間をつくりながら、入所者 本人の意思を引き出す努力をしている様子が窺えた。
日本人は死を否定的な嫌悪の対象として捉える傾向に あり17、スタッフが死を意識するような話を入所者本 人にし難い状況は容易に推察できる。したがって、看 護管理者が本人の意思を確認する役割は大きいと考え る。
一方で、入所者や家族がどのような思いを抱えてい るのかは、直接的な質問からのみ理解できるのではな い。最期までをどこでどのように生き抜きたいか、入 所者本人に直接話しをしていくことは課題であるが、
ひとつひとつの丁寧なかかわりの中で何気ない思いが 表出されるのではないだろうか。また、身体から発信 する声なき声をキャッチし、入所者の意思を汲み取る ことも可能であろう。看護管理者は、全ての専門職が 看取りの時期に入った入所者やその家族に対して一生 懸命にかかわる姿をよくみていた。日常生活の直接ケ アに携わる看護職や介護職だけではなく、かかわる全 ての職種がキャッチしたものをすり合わせることで、
入所者本人の意思を汲み取ることができるのではない かと考える。その話し合いの場をつくることが、看護 管理者の役割のひとつではないだろうか。
2)多職種スタッフがかかわり続けることを支える 本調査の結果から、看護管理者は、スタッフ間を繋 ぎ、入所者と家族を多職種でかかわる体制づくりを実 践していることが明らになった。老健は、何らかの介 護が必要となった時から高齢者と家族の生活を多職種 で支えている。しかし、入所者が看取り時期に入る と、看護職や介護職によるケアの提供が主となり、そ
の他の職種は影をひそめる状況が窺える。コルカバ18 は、コンフォートへ導く4つのコンテクストのひとつ に「社会文化的」側面をあげ、ケアを受ける者の社会 文化的コンフォートを高めるには、スタッフの働きか けや態度、ケアの継続性等が中核になりうることを述 べている。入所者や家族にとって、 状態が悪くなっ ても気にかけてくれる人がいる というのは安心感と ともに、大切で価値ある存在であると感じさせること に繋がるであろう。なじみのあるスタッフがチームで かかわり続けることは、心地よさを提供することであ り、最期までよりよく生き抜くことを支える大切な側 面であると考える。そのために、看護管理者が多職種 を繋ぎ、かかわり続けられるようサポートすることは 重要な役割であると考える。
しかし、死に逝く者にかかわり続けることはそう簡 単なものではない。本調査で看護管理者が実践してい た「看取りに関するスタッフの考えや思いを表出させ る」(86.1%)は、スタッフを支える大切なかかわり であると考える。ケアに携わるスタッフが抱えている 思いをわかり支えることは、スタッフが抱く無力感や 苦悩、葛藤を和らげ、再びよりよい看取りケアを提供 しようとする力をつくりだすであろう。また、本調査 結果においてデスカンファレンスの開催は半数に満た なかった。看取りを終えた後、あらためて事例を振り 返ることは、提供されたケアのありようを確認するだ けではなく、自分自身を見つめ直す機会となる。それ は、スタッフ一人ひとりにとって看取りに意味を見い だすことに繋がるとともに、死生観、高齢者ケア観、
人生観を養う機会になりうると考える。多忙なケアの 現場においてデスカンファレンスを開催することは、
看護管理者の課題であると言える。
3)入所者の状況から過剰でも過少でもない医療が 受けられるよう働きかける
看護管理者は、入所者の状況の変化に伴い、家族に 対して今後予測できることや老健でできることとでき ないことを伝えていた。老健は、特養やグループホー ムと異なり医師の常勤や看護師が多く配置されている ことが特徴である。しかし、介護保険による施設であ ることから提供する医療費は施設負担であり、提供で きる医療ケアも限られている。そのため、例えば痛み や呼吸苦に対する苦痛の緩和が十分に行えない状況が あり、スタッフの苦悩のひとつとなっている8。本調 査結果からは入所者の安楽を重視し、吸引や点滴、酸 素吸入、疼痛緩和のための薬等が提供されていること が明らかになったが、どうしても苦痛が強い場合は、
生活の場を病院へ移すことも必要ではないかと考え る。その判断は、看護管理者の役割であり、時には 苦痛をとるために入院しましょう と提案すること も大切なのではないだろうか。また、老健で最期まで 過ごすことができるよう国に対して看取りの実態を示
すことにより、老健で行える医療の拡大を求め続ける ことも必要である。一方で、過剰な医療を行う医師が 存在するのも現状である。看護管理者は、デスカン ファレンスに医師も参加するよう促し、老化による身 体の変化に合わせた適切な医療であったかどうかを共 に振り返り、高齢者の終末期に関する理解を深める働 きかけを行う必要性があると考える。
4)自宅で最期を迎えたい意思を尊重し、支える 本調査の結果によると、1年間に「老健から自宅へ 帰られ、自宅で亡くなった方が1名以上いる」施設は 6施設(15.4%)あった。このことは、入所者や家族 の意思に応じて最期を自宅で迎えられる可能性を示唆 する。これまで老健が役割を果たすうえで蓄積してき た「自宅復帰」「自宅療養支援」に関する各専門職の技 や連携・協働が生み出す技は、入所者が看取りの対象 となっても 自宅で過ごしたい という意思を実現に 導くと考える。意思の表明が困難な事例が多い中、受 け取ることができた 自宅で過ごしたい という意思 を尊重したい。看護管理者は、老健の「自宅復帰」「自 宅療養支援」の技が発揮できるよう各専門職に働きか け、調整することが求められると考える。例えば、本 調査の結果からは、入所者や家族の希望に応えるかた ちで自宅への外出や外泊ができていたことが窺えた。
入所者と家族の状況を踏まえると、どのような支援や 準備があれば外出や外泊が可能となるか、全職種で考 え実践することが大切である。数時間でも数日でもよ く、不安なことがあればすぐに相談することや施設に 戻ってくることを保証する対応を行うことも必要であ ろう。外出や外泊によって家で過ごす機会を重ねる中 で、入所者本人や家族が自宅で やっていける 手応 えを少しでも得ることができると、入所者の意思であ る 自宅での最期 に繋がるのではないかと考える。
3.研究の限界と課題
本研究は実際に看取りを行っている老健に勤務する 看護管理者を対象としたため、看取りの取り組みにつ いて発表や報告を行っている施設を抽出した。そのた め、看取りにおいて積極的に入所者や家族、スタッフ にかかわっていることが推察でき、偏った結果になっ ている可能性がある。また、看取りを行っている全国 の老健の実態を的確に表しているとは断言できない。
しかし、よりよい看取りを実践するうえで看護管理者 はどのような実践を行えばよいのか、本研究結果がひ とつの手がかりになりうるのではないかと考える。今 後は、老健における質の高い看取りの提供をめざし、
臨床の場で介入を含めた研究を重ねていくことが課題 である。
謝 辞
本研究に快くご協力いただきました老健の看護管理
者のみなさまに心より感謝申し上げます。また、調査 票の作成にあたりご指導、ご助言をいただきました京 都橘大学看護学部 沼本教子教授に感謝いたします。
助 成
本研究は、平成22〜24年度科学研究費補助金若手 研究(B)(課題番号2279267)の助成を受け実施した ものであり、その成果の一部である。
利益相反
本研究における利益相反は存在しない。
文 献
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