-求められる為替レート・金利・資本移動の自由化からなる三位一体改革-
問われる中国における金融政策の有効性
シニアフェロー 関 志 雄
-2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
外貨準備の増分
資本・金融収支 経常収支
誤差・脱漏
(億米ドル)
(年)
中国における国際収支の双子の黒字と外貨準備の増加
(注)外貨準備の増分=経常収支+資本・金融収支+誤差・脱漏
(出所)中国国家外為管理局より野村資本市場研究所作成
元/ドル
ドルの供給
ドルの需要
介入による外貨準備の増分 =国際収支黒字
ドル高 元安
ドル安 元高
(輸出など)
(輸入など)
管理変動制の下 での市場レート 均衡レート
金額(ドル)
外貨準備増加のメカニズム
(出所)野村資本市場研究所作成
対外収支黒字
外貨準備↑、ベースマネー↑
マネーサプライ(M2)↑
物価↑、資産価格↑
介入 公開市場操作
(狭義の不胎化)
信用乗数 総量規制/
預金準備率↑
流動性効果 利上げ
QDIIなど対外投資の 自由化
輸出抑制・輸入促進 人民元の切り上げ
金融引き締め
(広義の不胎化)
対外収支黒字 の削減策
流動性の膨張のメカニズム・影響・対策
(出所)野村資本市場研究所作成
変動幅(Band)
– 当局は、毎日、取引が始まる前に基準となる中間レートを発表し、一日当たりの変動幅を制限する。
– 当初、市場レートは、中間レートの上下0.3%に制限されたが、2007年5月21日から上下0.5%に、2012年4月16日に上下
1.0%に拡大された。
通貨バスケット(Basket)
– 対ドル安定に為替政策の軸を置きながらも、他の主要貿易相手国の通貨の対ドル変動をも考慮し、人民元レートを調整 する。
– 人民元とドル以外の主要通貨との連動性が極めて薄いことから判断して、ドルが依然としてウェイトの大半を占めていると 見られる。
クローリング(Crawling)
– ある方向性を持って為替レートを微調整する。
–
2005年7月にドルペッグ(ドル連動制)から「管理変動相場制」に移行して以来、人民元はドルに対して約30%上昇してい
る。
為替レートを当局が決める変動幅内に収めるために、当局は日々介入を繰り返さなければならない。
BBC 方式に基づく「管理変動相場制」
-4 -2 0 2 4 6 8 10 12
7 5
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
(前年比、%)
CPI →
←人民元の 対ドルレート
(年、月) 元高
インフレ率と連動する人民元の対ドルレート上昇率
(注)人民元の対ドルレートは月中平均
(出所)中国国家統計局、中国国家外匯管理局より野村資本市場研究所作成
金額 割合 金額 割合 金額 不胎化比率
(億元) (b/a、%) (億元) (c/a、%) (億元) ((b+c)/a、%)
2004 16,098 8,047 50.0 3,475 21.6 11,523 71.6
2005 16,200 9,217 56.9 3,498 21.6 12,715 78.5
2006 22,221 9,445 42.5 8,651 38.9 18,096 81.4
2007 30,808 4,729 15.3 26,270 85.3 30,998 100.6
2008 34,456 11,311 32.8 15,803 45.9 27,113 78.7
2009 25,530 -3,716 -14.6 20,388 79.9 16,673 65.3
2010 31,612 -1,567 -5.0 40,224 127.2 38,657 122.3
2011 25,622 -17,161 -67.0 37,093 144.8 19,933 77.8
2012 4,281 -9,457 -220.9 8,956 209.2 -501 -11.7
年 介入規模(a)
(億元)
中銀手形発行残高の変化分(b) 法定預金準備金の変化分(c) 計(b+c)
不胎化の手段としての公開市場操作と預金準備率操作
(注)1.介入規模は、中国人民銀行のバランスシートの資産側に計上されている「外匯」の増分。
2.各変数の変化分は各年12月の値の前年比。
3.法定預金準備金は預金×(大手銀行に適用する)法定預金準備率により計算。預金は中国人民銀行「金融機構人民幣信 貸収支表」の「各項存款」。
(出所)中国人民銀行より野村資本市場研究所作成
5 10 15 20 25
(%)
法定預金準備率 預金準備率(超過準備を含む)
3 4 5 6
1 2
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 13
(倍)
(年、月)
信用乗数
預金準備率と反比例する信用乗数
(注)「法定預金準備率」は銀行の規模によって異なり、ここでは大手銀行に適用される準備率を使っている。これが中小銀行より高い ことを反映して、銀行部門全体の(超過準備金を含む)預金準備率は、(大手銀行を対象とする)法定預金準備率を下回る場合がある。
(出所)中国人民銀行およびCEICデータベースより野村資本市場研究所作成
インフレ率と逆相関する実質貸出基準金利
(注)貸出基準金利は一年満期。実質貸出基準金利=名目貸出基準金利-CPI(前年比)
-4 -2 0 2 4 6 8 10
5 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 13
( % )
(年、月)
CPI (前年比) 名目貸出基準金利
実質貸出基準金利
-5 0 5 10 15 20 25 30 35
1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 45
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
(前年比、%)
CPI
マネーサプライ(M2)
(年、月)
マネーサプライとインフレ率の動向
(出所)中国国家統計局および中国人民銀行より野村資本市場研究所作成
自由な 独立した 固定為替
資本移動 金融政策 レート 例
資本規制 × ○ ○ 人民元改革前の中国
通貨同盟 ○ × ○ 香港、ユーロ圏内
変動相場制 ○ ○ × 日本、オーストラリア
管理変動相場制 △ △ △ 現在の中国
国際金融のトリレンマ説
(出所)野村資本市場研究所作成
現行の「管理変動相場制」の下では、当局が為替レートの決定に極めて強い影響力を持っている。
人民元相場は、市場での需給関係の変化を反映して「変動」するというよりも、当局によって「管理」されると いう側面が依然として強い。
金融改革の有効性を高めるために、「完全変動相場制」への移行が必要
変動幅が拡大されてきたが、これは必ずしも人民元レートがより市場での需給関係を反映するものになるこ とを意味しない。
本格的な変動制への移行
–
中間レートの発表を中止する
–
為替介入を控える形で「管理」を緩める
–
為替相場水準が均衡レートに近づいた時は、「完全変動相場制」へ移行する好機
人民元改革の今後の見通し
資本取引の自由化を加速すべき理由
– クロスボーダー貿易取引における人民元建て決済の拡大や香港の人民元オフショア市場の育成などに資し、人民元の国 際化に有利。
– 労働集約型産業の海外への移転や、投資収益の増大による消費の拡大などを通じて、中国経済の構造調整に寄与。
– 資本取引を経常取引に装うなどの不法な方法で資本規制を回避する動きが広く見られ、資本取引規制の有効性が低下。
現状認識
– 銀行部門のバランスシートが健全である
– 外貨準備が高水準に達している
– 対外債務、中でも短期債務の水準が低い
– 不動産市場と資本市場のリスクは基本的に制御可能
自由化の順序
– 資本流入が先・資本流出が後
– 長期取引が先・短期取引が後
– 直接投資が先・間接投資が後
– 機関投資家が先・個人が後
資本取引の自由化に向けたロードマップを提示した人民銀行の報告書( 1 )
資本取引の自由化に向けたロードマップ
– 短期目標(1-3年):実需原則の下で直接投資に対する規制を緩和し、企業の対外投資(中国語では「走出去」)を奨励。
– 中期目標(3-5年):実需原則の下で貿易関連の商業融資に対する規制緩和を促し、人民元の国際化を推進。
– 長期目標(5-10年):金融市場の構築を強化するとともに、市場開放のステップについて、資本流入を自由化してから資 本流出を自由化し、海外資本に対して不動産、株式、債券取引への投資を漸進的かつ慎重に開放する。そして、金融市場 の管理方法は徐々に量的規制から価格型管理へと移行。
評価すべき点
– 金融システムの健全化や、変動相場制、金利自由化などの実現は相互促進の形で同時に推進すると提言。
– 改革の適切なシークエンシングにも配慮。
ロードマップが実施される場合、マクロ経済の安定が保たれながら、計画が実現できる可能性は高い。
資本取引の自由化に向けたロードマップを提示した人民銀行の報告書( 2 )
略歴
関志雄(かんしゆう)
野村資本市場研究所 シニアフェロー
学歴・職歴 1957 香港生まれ
1979 香港中文大学経済学科卒
1986 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、東京大学経済学博士(1996年)
1986 香港上海銀行(Hong Kong & Shanghai Bank)入社、本社経済調査部エコノミスト
1987 野村総合研究所入社、経済調査部主任研究員、経済調査部アジア調査室室長など
(1999.9~2000.6 ブルッキングス研究所北東アジア政策研究センター客員研究員)
2001 独立行政法人 経済産業研究所 上席研究員
2004 野村資本市場研究所 シニアフェロー
日本政府委員 経済審議会21世紀世界経済委員会委員(1996-97年)
財務省関税・外国為替等審議会専門委員(1997-99年、2003年-2010年)
内閣府「日本21世紀ビジョン」に関する専門調査会 グローバル化WG委員(2004年)
主な著書・論文 『円圏の経済学』、日本経済新聞社、1995年(アジア・太平洋賞特別賞受賞)
『日本人のための中国経済再入門』、東洋経済新報社、2002年
『中国 未完の経済改革』、樊綱著・関志雄訳、岩波書店、2003年(アジア・太平洋賞特別賞受賞)
『人民元切り上げ論争』、編著、東洋経済新報社、2004年
『共存共栄の日中経済』、東洋経済新報社、2005年
『中国経済革命最終章』、日本経済新聞社、2005年
『中国経済のジレンマ』、筑摩書房、2005年
『中国を動かす経済学者たち』、東洋経済新報社、2007年(第三回樫山純三賞受賞)
『チャイナ・アズ・ナンバーワン』、東洋経済新報社、2009年
『中国二つの罠』、日本経済新聞出版社、2013年
その他 NHK「ラジオあさいちばん」内「ビジネス展望」コーナーにレギュラー出演
ホームページ 「中国経済新論」(http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/index.htm)というホームページを主宰し、
日本の読者向けに発信している。