平成24年度 教科リーダー養成講座(高等学校) 実践記録
意思決定のプロセスから「思考力」を育てる
―2年生家庭基礎「家庭の経済と消費」の授業を通して― 県立新潟北高等学校 内藤 香織 Ⅰ 指導構想 生徒との普段の会話から、消費生活が意思決定を意識的にしていくことで繰り返されていることに 気づかずに、物品の購入等の消費行動を送る様子が感じられる。また、新学習指導要領改訂の要点に おける「各科目の内容の改善」として、「消費者教育と環境教育を推進するために、消費者としての 適切な意思決定に基づいて責任をもって行動できる力を育成する」引用1 とある。このような生徒の実 態や学習指導要領の改訂の内容から意思決定のプロセスに焦点を当てた研究テーマを設定することと した。 本研究は意思決定の大切さを軸に、生徒に自立した消費者としての力を身に付けさせることをねら いとして、授業実践を試みた。具体的な手立てとして、身近な生活課題の解決について考えることか ら、消費者として健全な家計管理を行うために必要な知識を理解させる授業展開を計画した。また、 日々の授業の中で、生徒は与えられた課題について、自ら考え、表現することを苦手としているよう に感じる。したがって、消費生活の意思決定の学習を通して、生徒の思考力の育成を図るため、意見 発表の方法やワークシートの内容の工夫に取り組んだ。 Ⅱ 学習指導案 1 単元名 家庭基礎 (3) 消費生活と環境 ア 家庭の経済と消費 2 対象クラス 2年3組(普通科 男子10名 女子26名 計36名) 3 指導目標 (1) 家庭の経済生活、社会の変化と消費生活、消費者の権利と責任について関心をもち、適切な 意思決定や消費行動について考えようとしている。 【関心・意欲・態度】 (2) 消費者として、主体的な判断をするために、消費者の権利と責任について考えを深めている。 【思考・判断】 (3) 生涯を見通した生活における経済の管理や計画について考えることができる。【思考・判断】 (4) 消費生活の現状と課題や消費者の権利と責任について理解させ、適切な意思決定に基づいて 行動できる。 【技能・表現】 (5) 家計の管理、家庭経済と国民経済との関わりについて理解している。 【知識・理解】 4 指導と評価の計画(全7時間 本時1/7) 時 学習内容 学習活動 【評価】と〈評価方法〉 1 消費行動と意思決定 ・消費者として、日々の意思 ・消費生活について主体的に考え、 決定の連続が家計を作って 意思決定することができる。 本 いることを知る。 【思考・判断】 ・意思決定のプロセスについ 〈ワークシート、自己評価シート〉 時 て、意見交換を行いながら ・消費行動における意思決定のプロ 学ぶ。 セスについて理解している。 【知識・理解】 〈ワークシート、自己評価シート〉 2 経済計画と家計管理・ ・資料「Aさんの1か月の家 ・資料を見ながら、自分の将来の家 計」から、経済計画と家計 計管理について考えることができ 3 管理について学ぶ。 る。 【思考・判断】〈ワークシート〉 ・資料の具体例から、家計管理に必 要な情報を整理することができる。 【技能・表現】〈ワークシート〉4 複雑化、多様化する消費 ・多様化する現代の消費生活 ・多様化する現代の消費生活の実態~ 生活の現状と課題 の実態を学ぶ。 を知ろうとしている。 6 VTR「油断大敵!悪質商 【関心・意欲・態度】 法」(財団法人日本消費者協 〈ワークシート、視聴シート 〉 会)、「はじめての金融ガイ ・販売方法や支払い方法について理 ド」(金融庁)を視聴する。 解している。 〔内容〕 【知識・理解】 ①販売方法・支払い方法の 〈ワークシート、視聴シート〉 複雑化・多様化に伴い、 生じる身近な消費者問題 について。 ②消費者問題を未然に防ぐ 方法や解決方法について。 7 消費者政策と消費者の権 ・わが国の消費者政策、消費 ・消費者としての権利と責任につい 利と責任 者の権利について学ぶ。 て考えを深めることができる。 【思考・判断】〈ワークシート〉 ・わが国の消費者政策、消費者の権 利について理解している。 【知識・理解】〈ワークシート〉 5 単元の評価規準 Ⅰ 関心・意欲・態度 Ⅱ 思考・判断 Ⅲ 技能・表現 Ⅳ 知識・理解 ・生活における経済の計 ・消費生活についての ・自立した消費者として ・生活における経済の 画、消費行動と意思決 課題を見いだし、そ の家庭経済の計画・管 計画、消費行動と意 定、消費者の権利と責 の解決を目指して思 理に関する基礎的・基 思決定、多様な販売 任などに関心をもち、 考を深め、適切かつ 本的な技術を身に付け 方法や支払い方法、 意欲をもって学習活動 主体的に判断するこ ている。 消費者の権利と責任 に取り組んでいる。 とができる。 などについて理解し ・多様化する現代の消費 ・自分の将来の家計管 ている。 生活の実態を知ろうと 理について考えるこ ・適切な意思決定に基 している。 とができる。 づいて責任をもって 行動するために必要 な、基礎的・基本的 な知識を身に付けて いる。 6 本時の計画(1/7時間) (1) ねらい ① 消費行動における意思決定について理解する。 ② 生活情報を活用し、消費者として主体的に判断できる。 ③ 消費行動における意思決定のプロセスを理解する。 (2) 本時における「研究テーマ」に迫るための指導の構想 本研修の「高等学校における家庭科の課題と授業改善の視点」の講義の中で、高等学校家庭 科の課題として、講義中心の授業形態の場合、多くを伝えようとする教師側からの一方的な授 業になりがちなことがあげられた。この授業形態の改善を図り、実験・実習以外でも、生徒と 教師の双方向の学習活動を通して、生徒の考える力を育てたいと考えた。生徒は、日頃の授業 で、教師が黒板に書いたことや教科書に書いてある語句を抜き出し、ワークシートに書き込む ことはできるが、「~について考えをまとめなさい。」という記述部分になると、書いている手 が止まってしまう。このような場面で生徒にまとめ方を支援すると、課題について考えている ことが確認できるが、それを言葉に表現できない生徒もいる。 本時の「意思決定のプロセス」によって、生徒が「考えるおもしろさ」を知る一つのきっか けになり、思考力を身に付けるために、具体的な問題を用いて、自分なりの意思決定の理由を 考えられるワークシートを工夫した。また、生徒が意見を表現しやすくすることと、その意見 を授業に反映させることを目的に、意思表示のカードを教具として使用した。
(3) 展開 時間 学習活動 教師の働きかけと ○支援、留意点 (分) 「予想される生徒の反応」 【評価】・〈評価方法〉 導入 ・「消費生活と環境」 ・「消費生活と環境」という新しい分野 ○消費生活の身近な事が 5分 の学習内容とその目 の学習に入ること、この分野ではどの らや社会問題などに目 的を知る。 ようなことを学ぶのか確認する。 を向けさせる。 展開 ・「ニーズ」と「ウォ ・ワークシートの内容「ニーズ」と「ウ ・自分にとって本当に必 35分 ンツ」の違いについ ォンツ」 について説明。 要な物は何か考えるこ て学ぶ。 自分が欲しいものは、「ニーズ」なの とができる。 ・「意思決定のプロセ か「ウォンツ」なのか考てみよう。 【思考・判断】 ス」を学ぶ。 〈ワークシート〉 ・問題を考えながら意 ※ニーズ=本当に必要な物 ・意思決定について、自 思決定について学 ウォンツ=ただ単に欲しい物 分の考えをまとめるこ ぶ。 とができる。 「買い物するときに迷う場面があるな」 【思考・判断】 「何を条件にほしい品物を選んでいるの 〈発表、ワークシート〉 かな」 皆さんは買い物をするときに、意思決 ○ワークシートに自分の 定をしています。さて、意思決定はど 考えを記入できない生 のように行われているか、ワークシー 徒に考え方の例を紹介 トの〔問題〕を使って考えていきます。 する。 ・ワークシートの〔問題〕について、自 分の考えをまとめ、発表する。他者の 発表を聞いて、意思決定のために、再 度、自分の選択について考える。 ・意思表示はA・Bの意思表示カードを 利用することを指示する。 ・A・Bそれぞれの数を生徒に知らせ る。 まとめ ・本時の振り返り。 ・自己評価シート<今日の学習の振り返 ・意思決定の大切さを理 10分 り>を記入。本時について自己評価し 解できる。 ながら、学習内容をまとめる。 【知識・理解】 ・生徒が記入した、ワークシートと自己 〈自己評価シート〉 評価シートを集める。 (4) 評価 ① 消費行動における具体的な事例を通して、主体的に考え、意思決定することができる。 【思考・判断】 ② 消費行動における意思決定のプロセスについて、理解している。 【知識・理解】 Ⅲ 授業の実際 生徒は本時の学習内容にしっかりと 取り組んでいた。意思表示カードの使 用により、挙手をする時よりも、生徒 が意思を示しやすく反応がよかった。 しかし、本時の指導案を時間内に収め ようとしてしまい、机間巡視の実施や 生徒の意見を十分に聞くことができな [授業の様子] [意思表示カード] かった。
Ⅳ 実践の考察とまとめ 1 実践を通して (1) ワークシートについて ① 問題に対して長所・短所を考えて意思決定をする流れであったが、意思決定をしてから長所 ・短所を考える流れの方が、生徒が自分の意見を深めることができたのでワークシートの形式 の検討が必要である。 ② 他の人の意見を聞いて、自分の意見の変化を記入する部分は、人によっていろいろな考え方 や価値観があることを知ってもらうことが目的であったが、意見が変化したかどうかが、目的 のように感じられる点があった。授業のねらいを明確にすることが大切である。 ③ 意思決定を理解するための〔問題〕3つは多かった。そのため、生徒がじっくり考えをまと めたり、生徒の意見を十分に聞くことができなかった。 (2) 発問と意見の取り込み方について ① 発問に対して生徒が答えた意見を、まとめやすいように言葉を変えて板書した。これは、生 徒が自分の意見が反映されていないと感じてしまう。意見を一旦、黒板の他の場所に書き、ま とめをする部分と変えるなどの工夫が、必要である。 ② 生徒のワークシートを確認すると、さまざまな意見が記入されていた。生徒は、それぞれ違 う意見を持っていることに興味を持っていたので、この意見を生徒同士が発表する時間を設定 するとよかった。 2 自己評価シート<今日の学習の振り返りから> いままでの授業では、ワークシートに「自分の意見を書きなさい」と言われると、記入すること が難しかった生徒も、意思決定後、長所と短所を考え、「なぜ自分はこちらを選んだのだろう」と、 自分に向き合って考える手順を踏むことによって、自分の考えをまとめやすくなった。また、他の 人と意見が違ったり、いろいろな考えがあることがわかり、考えることに興味をもち、おもしろさ も感じていることが自己評価シートの記述内容(生徒の感想)から分かった。 生徒は、自己評価をすることで、授業の取組や理解度を確認することができ、本時のまとめとし て有効であった。そして、教師は、生徒の取組や意見・感想などを授業の改善につなげることがで きる。 ■自己評価シート<今日の学習の振り返り>結果 できた 54% 少し できた 43% 無回答 3% 2 自分自身の考えをまとめ、表現する ことができましたか わかった 48% 少し わかった 46% あまり わからな かった 3% 無回答 3% 3 今、自分の周りにあるものが、自分 自身の選択の結果の積み重ねであるこ とがわかりましたか できた 71% 少し できた 26% 無回答 3% 4 意思決定の大切さを感じることがで きましたか わかっ た 97% わからな かった 0% 無回答 3% 1 意思決定を行うとき、人それぞれい ろんな視点や考え方があることがわか りましたか
■生徒の感想 ・自分が思ったことが、他人の考えと違うことがよくわかった。 ・物には、長所・短所があるので、しっかり見比べて、自分にあった物を買った方が経済的に優し いし、エコにもつながるんじゃないのかなと思いました。無意識に物の情報を集めていたことを、 もっとこれから、生かせるようにしようと思いました。 ・自分の意思決定によって、自分の生活を左右していくことが分かった。それが本当に必要かどう かを判断することの大切さが大事だということがわかった。当たり前だと思っていたことが本当 は違うということが分かってよかったです。 ・ワークシートの問題は、自分が大人になったときに起こるかもしれないことだったけれど、どっ ちを選んでいいのか分からなくて困った。 ・きゅうりと車との意見が、友達と違っておもしろかった。 ・いろんな考えが分かってよかったです。きゅうりの時では安さが大切だと思っていたけれど、車 や物件を選ぶ時は、やっぱり安いだけではだめなんだと思いました。 ・物にもいろいろな視点があるんだなぁって思った。人によっていろんな考えもあった。人と意見 交換することも大切。 3 評価について 本時の評価規準の一つめ、「消費行動における具体的な事例を通して、主体的に考え、意思決定 することができる」については、問題により生徒の取組に対する興味・関心が変わると感じた。本 時で取り上げたきゅうりは、身近な問題として適していた。しかし、乗用車や物件に関する問題は、 それらの知識が少ない生徒にとって、提示した情報だけで選択するのは難しい面があった。そのた め、生徒が自分の考えを深められないまま、意思決定することになってしまった。生徒が考えやす いように、問題の設定と資料の工夫が必要である。 本時の評価規準の二つめ、「消費行動における意思決定のプロセスについて、理解している」に ついては、意思決定のプロセスの説明だけではなく、ワークシートの問題を実際に考えることによ り、生徒の理解が深まったと感じた。生徒が授業の内容をより深く理解し、実践につなげるために は、大切なキーワードの説明だけではなく、実際の生活に生かせる問題について考えることが、効 果的であった。 4 まとめ 本時の授業中に生徒が、「どちらを選んだのか」・「理由は」といった意見交換をしている様子が 見られた。また、生徒が提出したワークシートの記述内容から、「意思決定のプロセスから『思考 力』を育てる」という本研究のねらいはおおむね達成されたと感じる。本研究から、日頃感じてい る以上に、生徒は考える力や、他の人の意見を聞く力を持っていることに気づいた。しかし、教師 による一方的な講義形式の授業では、生徒が考える時間や意見を発表する時間を奪っていることに も気付かされた。 「思考力」を育てることは、一斉授業だけではなく、生徒が考えや意見を出し合い、学び合う授 業を取り入れていくことが大切であると感じた。生徒が持っている「思考力」をいかに引き出し、 育てるかを重点に据えた授業づくりに努めていきたい。 Ⅴ 参考文献 ・引用1:高等学校学習指導要領解説家庭編平成22年5月文部科学省p5 3改訂の要点(3) 各科目の内容の改善より
Ⅵ 配布資料 家庭基礎 授業日: 月 日( )
2年
組
番
氏名
Ⅲ
第1章
消費生活と資源・環境
消費行動と意思決定(教科書「家庭基礎 出会う・かかわる・行動する」教育図書 P156~157) あなたにとって本当に必要な物・・・ 欲しいものはたくさんあるけれど、お金には限りがある 1 <あなたにとって本当に必要なもの> ニーズ :わたしたちがよりよい生活をしていく上で本当に(① )なもの ウォンツ:ただ単に(② )もの ☆ニーズ・ウォンツは、その人の価値観の違いによって異なる。 消費生活は日々の「③ 」の連続である。 何を買うのか、買わないのか。どれを選ぶのか・・・。 それらの積み重ねによって、あなたの生活が作られている。 自分の身の回りを見てみよう。 今、使っているものはあなたが選んだから、そこにある。2
<意思決定のプロセス>
問題の認識 情報収集 比較検討 決定・評価3
<意思決定の練習>
次の問題を考えながら、将来、自分自身で収支のバランスのとれた健全な家計を営むことが できるように、消費生活に関わる意思決定の練習をしてみよう。 次の場合、自分ならどちらを選択するか、考えてみよう。 〔問題1〕 今日の夕飯の料理でサラダを作ります。きゅうりが1本必要です。スーパーマーケットにきゅうりを 買いに行くと、2種類のきゅうりがありました。あなたはどちらのきゅうりを購入しますか。また、A ・Bを選択した理由を考えてみましょう。 A きゅうり1本50円 B きゅうり5本200円 新潟県産 本日朝収穫 新潟県産 本日朝収穫 長所 比較・検討 長所 短所 短所 決 定 選択する理由 他の人の意見 ☆他の人の意見を聞いた後の決定 → はじめに選んだものと変わったか、変わらなかったか。また、その理由は? 変わった ・ 変わらない 理由〔問題2〕 乗用車を新車で買うことになりました。貯金が100万円あります。あなたはA・Bどちらの乗用車 を購入しますか。また、A・Bを選択した理由を考えてみましょう。 A 90万円の軽乗用車を B 200万円の普通乗用車を 現金で購入する。 ローン(借金)で購入する。 長所 長所 比較・検討 短所 短所 決 定 選択する理由 他の人の意見 ☆他の人の意見を聞いた後の決定 → はじめに選んだものと変わったか、変わらなかったか。また、その理由は? 変わった ・ 変わらない 理由
〔問題3〕 就職し、一人暮らしをすることになりました。あなたの1か月の収入は13万円です。職場に近く、 所在地がほぼ同じところに2つの物件があります。あなたはA・Bどちらの物件を選択しますか。また、 A・Bを選択した理由を考えてみましょう。 A 家賃40000円 B 家賃60000円 風呂とトイレは別 風呂とトイレは一緒 築20年 築1年 2階 1階 エアコン無し 比較・検討 エアコン有り 都市ガス オール電化 長所 長所 短所 短所 決 定 選択する理由 他の人の意見 ☆他の人の意見を聞いた後の決定 → はじめに選んだものと変わったか、変わらなかったか。また、その理由は? 変わった ・ 変わらない 理由
家庭基礎 授業日: 月 日( )