●症 例
要旨:症例は肺結核の既往がある 69 歳男性,他院にて肺アスペルギローマを疑われ,当院を紹介された.
咳嗽と微熱があり,画像上,菌球の他にスリガラス状陰影が認められ,慢性壊死性肺アスペルギルス症もし くは有症状の肺アスペルギローマとして抗真菌薬の投与を開始した.治療経過中に喘鳴が出現し,アレルギー 性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の合併が疑われた.Rosenberg-Patterson の基準に照らし合わせ,
最終的に ABPA の合併と診断した.吸入ステロイドを使用したところ,喘鳴症状は著明に改善した.肺ア スペルギローマには ABPA を合併する可能性があり,治療の際には合併例に注意する必要があると考えら れた.
キーワード:肺アスペルギローマ,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA),喘鳴,
吸入ステロイド
Pulmonary aspergilloma,Allergic bronchopulmonary aspergillosis (ABPA),Wheeze,
Inhaled corticosteroid
緒 言
肺アスペルギルス症は,既存の肺構造が破壊された呼 吸器疾患の患者に続発することが多く,難治性の疾患と されている.病型としては,肺アスペルギローマの他,
慢性壊死性肺アスペルギルス症,侵襲性肺アスペルギル ス症,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis.以 下 ABPA と 略 す)
などがあり,近年これらの病型が重複した症例が報告さ れるようになってきている.今回,我々は肺アスペルギ ローマに ABPA を合併した症例を経験したので若干の 文献的考察を加えて報告する.
症 例
69 歳,男性.
主訴:咳.
既往歴・合併症:66 歳時に肺結核で入院加療歴あり 高血圧症でアムロジピン内服中.
家族歴に特記すべきことなし.
職業歴:家屋の解体業に従事.
喫煙歴:なし.
飲酒歴:機会飲酒のみ.
現病歴:2009 年 4 月に転倒,右大腿骨折の診断で他 院に入院,手術前のルーチン検査としての胸部 X 線で 左上肺野に異常陰影が認められた.画像上,肺アスペル ギローマが強く疑われ,右大腿骨折の手術後に当院当科 を紹介された.胸部 CT で菌球の周囲に浸潤陰影が認め られ,咳嗽が継続することから,慢性壊死性肺アスペル ギルス症もしくは有症状の肺アスペルギローマを疑い,
2009 年 9 月に加療目的で入院となった.
入院時現症:身長 158cm,体重 42.5kg,BMI 17.0,体 温 37.1℃,脈拍 104!分,整 血圧 166!98mmHg SpO2 97% 胸部聴診では左上肺野の呼吸音の低下が認められ た.心音に異常所見なし.腹部にも異常所見なし.下肢 浮腫もなく,撥指も認められなかった.
入 院 時 検 査 所 見(Table 1):末 梢 血 の 好 酸 球 数 が 1,680!
μL と著明上昇,CRP はわずかに上昇していた.
肝腎障害を示唆する所見なく,電解質異常も認められな かった.
総 IgE 値の軽度上昇があり,特異的 IgE 抗体につい ては,スギ,ハウスダスト,アスペルギルスで陽性所見 が認められた.アスペルギルス抗原はカットオフ値の 0.5 であり,沈降抗体が陽性であった.
呼吸機能検査において肺活量,努力性肺活量は正常範 囲であり,1 秒率の低下も認められなかった.喀痰検査 では細胞診 class II,抗酸菌塗抹・培養陰性で,一般細 菌は常在菌のみ検出された.真菌については,塗抹陰性 であったが,のちに
Aspergillus fumigatus
が培養同定さアレルギー性気管支肺アスペルギルス症を合併した肺アスペルギローマの 1 例
楠本壮二郎 田中 明彦 大田 進 杉山 智英 白井 崇生
山岡 利光 奥田健太郎 廣瀬 敬 大西 司 足立 満
〒142―8666 東京都品川区旗の台 1―5―8
昭和大学医学部内科学講座呼吸器アレルギー内科学部門
(受付日平成 22 年 9 月 24 日)
日呼吸会誌 49(5),2011.
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Table 1 Laboratory findings on admission
Complete Blood Count Serology
WBC 8,400/μl β-D gulcan <0.5 pg/ml
neut. 56.0% Candida Ag (−)
lym. 20.0% Aspergillus Ag 0.5 (+)
eosino. 20.0% Aspergillus Ab (+)
mono. 3.5% IgE RIST 315 IU/ml
baso. 0.5% RAST
RBC 375×104/μl Japanese Cedar class 2
Hb 11.7 g/dl Der- p class 1
Ht 35.7% Aspergillus class 1
Plt 33.3×104/μl
Sputum culture Aspergillus fumigatus Laboratory data
TP 7.0 g/dl Spirometry data readings %predict (%)
Alb 3.5 g/dl VC (L) 3.39 102.4
BUN 15 mg/dl FVC (L) 3.39 104.6
Cre 0.61 mg/dl FEV1.0 (L) 2.62 100.4
UA 8.6 mg/dl FEV1.0% (%) 77.29 95.8
T-bil 1.2 mg/dl PEF (L/s) 4.22 47.8
AST 14 IU/l TLC (L) 6.27 122.9
ALT 6 IU/l RV (L) 2.88 160.9
LDH 148 IU/l RV/TLC (%) 45.9 130.8
CK 62 IU/l FRC (L) 4.38 107.9
CRP 0.67 mg/dl
れた.
入院時画像所見(Fig. 1):胸部単純 X 線:左上肺野 の不均一な透過性低下があり,内部に球状陰影が認めら れた.
胸部 CT:左上葉に菌球形成をともなう空洞,及び周 囲の浸潤陰影が認められた.また,左舌区と左 S6 には スリガラス状陰影と線状陰影が認められた.
入院後治療経過:入院後,9 月 11 日から抗真菌薬(Mi- cafungin:MCFG 150mg!日)の投与を開始した.9 月 18 日から咳の増加,22 日から 37.8℃ の発熱をきたし,喘 鳴も伴うようになり,混合感染を考えて抗菌薬(Tazo- bactam!Piperacillin:TAZ!PIPC 9.0g!日)を併用とし た.すみやかに解熱し,血液検査の炎症反応(WBC,
CRP)も低下したが,咳,喘鳴は改善しなかった.喀痰 の細胞分画検査を行ったところ,好酸球が 18% を占め ており,呼気中一酸化窒素(Fe-NO)レベルも 48ppb と高値を示したことにより,気管支喘息の可能性を考え て salmeterol!fluticasone 1,000μg!日の吸入を行った.
その結果,喘鳴は翌日より著明に改善した(Fig. 2).入 院時(2009!9!8)と喘鳴出現後(2009!9!29)の胸部 CT を比較したところ,左 S6 のスリガラス状陰影の一部が 線状に変化していることや S10 に新たなスリガラス状 陰影が出現していることから(Fig. 3),ABPA を疑っ た.喘鳴は改善したものの,咳症状は持続,喀痰中の細 胞分画で,好酸球が認められていた.全身性ステロイド
については,既存するアスペルギルス感染を増悪させる 可能性があると考え,使用しなかった.肺アスペルギロー マに対する根治的な外科治療をすすめたが,患者本人の 強い希望で内科的治療を行うことになった.抗真菌薬と して itraconazole 200mg!日の内服加療を加え,10 月 23 日に退院,外来経過観察となった(Fig. 4).退院後に皮 内反応用アスペルギルス抗原で皮膚反応試験を行ったと ころ,発赤腫脹は 2 相性であり,即時型,遅延型反応と もに陽性と評価した.Rosenberg-Patterson の診断基準 において,1 次基準 7 項目中 6 つ[①気管支喘息 ②末 梢血好酸球増加 ③アスペルギルス抗原に対する即時型 皮膚反応陽性 ④アスペルギルス抗原に対する沈降抗体 陽性 ⑤血清総 IgE 値の上昇(外来経過観察中に 459U!
ml まで上昇)⑥一過性または固定性の肺浸潤]2 次基 準 3 項目中 2 つ(①
Aspergillus fumigatus
培養陽性 ② アスペルギルス抗原に対する遅延型皮膚反応陽性)を満 たし,ABPA の合併と診断した.現在,外来経過観察 中であり,咳嗽や喀痰症状は継続しているが,発熱や喘 鳴などの症状は軽微な状態にある.Lymphocyte Stimulation Test(LST):アスペルギル スに対する免疫学的反応を調べるため,皮膚反応試験に 先立って,患者の末梢血からリンパ球を採取し,Lym- phocyte Stimulation Test(LST)を行った.その結果,
558.1% と高値を示し,アスペルギルス特異的 IgE 抗体 を有していない健康な成人男性 3 名の結果と比較しても
Fig. 1 Chest X-ray film on admission shows a heterogeneous opacity in the left upper area of the lung.
CT scan of the thorax on admission shows a cavity containing a fungus ball, infiltrative opacities around the cavity in the left upper lobe, linear and ground-glass opacities in the left lingular segment and lower lobe of the lung.
Fig. 2 Clinical course of initial antifungal treatment
明らかに高値であった.
考 察
①肺アスペルギローマと ABPA の合併の可能性につ いて
ABPA は Gell-Cooms の I,III,IV 型のアレルギーが
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Fig. 3 Compared with the findings on admission, CT scan of the thorax on September 29 showed that a part of ground-glass opacity in left S6 changed to an irregular linear opacity, but ground-glass opacity appeared in left S10.
Fig. 4 Clinical course after administration of inhaled corticosteroids
病態に深く関係していると考えられているが,詳細は不 明である1)2).肺アスペルギローマの ABPA 合併例は症 例報告として散見される程度であり,希少と考えられて いるが3)4),肺アスペルギローマと ABPA は免疫学的に 共通する反応を示すことが報告されており5)6),疾患とし て重複する可能性は十分にあり得る.本症例でも,皮内 反応以外に,LST でも陽性反応が認められていた.合
併の頻度について,Jewkes らは,有症状の肺アスペル ギローマ 85 名のうち ABPA の合併が 10 名(11.7%)に 認められたとしており7),実際には診断がなされていな い症例も多く存在すると推察される.本症例では,画像 上,菌球以外の部分で肺野の陰影が軽度であるが変化し,
新たな陰影の出現もみられたことから慢性壊死性肺アス ペルギルス症,もしくは有症状の肺アスペルギローマと
して,抗真菌薬を用いた治療を行ったが,経過中に喘鳴 を生じ,画像上変化があったことで初めて ABPA を疑っ た.患者本人の話によると,咳,痰などを含めた喘息症 状は肺結核の治療をした 66 歳以降に初めて経験したが,
肺結核の後遺症と考えて我慢していたとのことであっ た.本症例では肺結核の遺残空洞にアスペルギローマが 形成され,アスペルギルスに対する特異的免疫反応を獲 得したことで後天的に気管支喘息を発症し,その後も持 続的な抗原刺激を受けて ABPA に進展したと考えられ た.
②肺アスペルギローマと ABPA の合併例に対する治 療について
ABPA は難治性の疾患であり,増悪,寛解を繰り返 して,不可逆な呼吸機能の障害をきたす例も多く,治療 の第一選択は全身性ステロイドとされている.しかし,
本症例のように,アスペルギローマという明らかな真菌 感染が併存する場合には,長期内服によって感染が増悪 することが予想され,治療薬として選択するのは困難で ある.今回,このような背景から,全身性ステロイドに 先立って,吸入ステロイドを使用したところ,喘息症状 は著明に改善した.ABPA に対する治療薬としての,
吸入ステロイドの位置づけについては,高用量の吸入に より,全身性ステロイドの減量や喘息症状の改善が得ら れた報告はあるが,あくまで補助的な役割にすぎないと されている8).その一方で,急性期も含めて吸入ステロ イドによる治療が有効であった症例も少数ながら報告さ れており9)10),本症例のように全身性ステロイドの使用 が困難な場合や喘息症状が軽度な場合,選択肢となる治 療法の一つと考えられる.また抗真菌薬については,経 口 itraconazole が ABPA に対し全身性ステロイドの投 与量を減量し得る薬剤で,肺アスペルギローマにも一定 の効果を示すとされており11)12),本症例においても選択 された根拠となっている.短期間での効果は明らかでな く,今後の治療経過を観察する必要がある.
③今後の病状経過や治療について
吸入ステロイドを使用することで,喘鳴は著明に改善 したものの,咳症状は残存した.喀痰中の好酸球も依然 として高値を示しており,今後の病状進行や治療につい て課題が残った.ABPA の病型分類として,中枢性気 管支拡張を伴う ABPA-CB(central-bronchiectasis)と 伴わない ABPA-S(seropositive)に分ける考え方があ り13),Greenberger ら は,ABPA-S を ABPA の 初 期 段 階もしくは病勢の穏当な病型と推察している14).また,
Wark らの報告によると,喀痰中好酸球数は ABPA-CB で 有 意 に 多 い と さ れ て い る15).さ ら に Kumar ら は,
ABPA-S,ABPA-CB に加え,ABPA-CB に他の肺野病 変(アスペルギローマを含む)が存在する病型を ABPA-
CB-ORF(Other-Radiologic-Feature)と名付け,ABPA- S,ABPA-CB,ABPA-CB-ORF の順に閉塞性障害が高 度になると報告している16).本症例は,中枢性気管支拡 張が明らかでなく,呼吸機能検査では閉塞性障害を認め ず, 病型として ABPA-S の範疇に入ると考えられるが,
喀痰中好酸球が増加している上,肺野病変をともなって おり,単純な ABPA-S とは評価し難く,今後の病状進 行に注意を払う必要がある.菌球による持続的な抗原刺 激が ABPA 発症に関与していると仮定するならば,抗 原刺激のもとになっている菌球を切除することが,本症 例での根治療法となるはずである.また,肺アスペルギ ローマ自体の治療の第一選択も切除術であり,推奨すべ き治療と考えられるが12),患者本人の強い希望で外科療 法ではなく,内科的治療の継続となった.今後,内科的 治療にも関わらず,病状の進行が認められる場合は,積 極的に外科療法を検討する必要があると思われる.
以上,肺アスペルギローマの治療経過中に喘息症状を きたし,ABPA の合併であると診断し,治療を行った 1 例を報告した.肺アスペルギルス症は多彩な病態を含ん でおり,既存の認識されている病型が併存している可能 性がある.今後,このような症例の蓄積がなされ,病態 の解明とともに 1 つの病型に捉われない治療法の探索が 必要と思われる.
本論文の要旨は第 157 回日本結核病学会関東支部会・第 188 回日本呼吸器学会関東地方会合同学会(2010 年 東京)
において発表した.
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Abstract
A case of pulmonary aspergilloma concomitant with allergic bronchopulmonary aspergillosis
Sojiro Kusumoto, Akihiko Tanaka, Shin Ohta, Tomohide Sugiyama, Takao Shirai, Toshimitsu Yamaoka, Kentaro Okuda, Takashi Hirose, Tsukasa Ohnishi and Mitsuru Adachi
Division of Allergology and Respiratory Medicine, Department of Internal Medicine, Showa University
A 69-year-old man with pulmonary aspergilloma was admitted to the hospital because of persistent cough and slight fever. Antifungal agents were administered on a diagnosis of chronic necrotizing pulmonary aspergillo- sis or symptomatic aspergilloma. Despite the antifungal treatment, wheezing developed, suggesting a complica- tion of allergic bronchopulmonary aspergillosis (ABPA). Finally, a definitive diagnosis of ABPA was made using the Rosenberg-Patterson criteria. Inhaled corticosteroid therapy reduced his wheezing. This case study indicates that there is a possibility that aspergilloma might coexist with ABPA. Therefore, we should pay attention to the possible complication of ABPA when treating pulmonary aspergilloma.