●国際観光支出額上位10カ国と日本の1人当
たり支出額※世界銀行の17年データより筆者作成
国名 人口1人当たり観光支出額(ドル)
オーストラリア 1,605
ドイツ 1,180
英国 1,086
カナダ 867
フランス 750
韓国 648
米国 535
イタリア 461
ロシア 246
中国 186
日本 143
※16年は203ドルのため約30%減
19年は128回ほど飛行機に搭乗し、国内外を駆 け巡っていた筆者だが、記録を確認すると20年は3 月5日の搭乗を最後にしばらく本拠地である飛騨を 出ることもなく、半年どころか9カ月近く時間が過 ぎた。11月になり、日本の田舎をクールにすると いう自社のミッションに関わる各地への訪問がよう やく再開されつつある。このように世界中に激震を 与えた新型コロナウイルス感染症は、国内では GoToキャンペーンが展開され、旅行する人が増え たりイベントが開催されたりと経済活動が復活し始 めてはいるものの、欧州で再び外出禁止となるなど、
収束にはほど遠いのが現状である。
筆者は地方部の1つである飛騨地域で欧州諸国 からの旅行者に素朴な田園風景を紹介するガイド ツアーを催行する事業者であり、コロナ禍で甚大な 被害を被っている。今年は事業開始10周年の節目 に当たり、拠点地域の衰退にあらがう一手として 飛騨古川の中心市街地の空き地や空き家を取得し、
分散型ホテルを開業するという大きな投資に乗り出
した矢先のコロナ渦であり、想定外の影響のただ中 にいる。観光立国の潮流に乗り、インバウンドツー リズムに従事する国内の事業者の皆さんは私たち同 様の大きな苦難に向き合っている状況と思う。
このような予測不可能な状況に陥り、ウイルスの 拡散を憎み、多くの支援策を求め、早くコロナ禍 前に戻ってほしいと熱望するのは世の常だが、冷静 にいまを俯瞰すると、ある意味、将来的に訪れる であろう社会の姿へと時計の針がかなりのスピード で早送りされた状況ともいえるのではないかと考え ている。かなり前から予測されていた人口減少社 会の到来が、コロナウイルスにより、未来ではなく、
いま眼前に広がっているということである。
人口減少社会においては、顧客の減少による売 り上げの減少とともに、生産年齢人口の減少によ るビジネスに必要な人的資源の枯渇という2つの側 面から、対応の必要性が説かれていた。マーケッ ト全体の規模が縮小し、顧客の数が減るなかで事 業規模を維持・向上するためには、単価の向上が 求められることはいうまでもなく、コロナ禍におい てはその対応を迫られた。
しかしながら、世界銀行の調査によると、17年 の国民1人当たりの観光支出額の世界一はオースト ラリアで1605米ドルであるのに対し、日本人はわ ずか143ドルでしかなく、さらには減少傾向にある。
1.2億人市場の攻略に必要な視点
先送りした課題に いまこそ取り組む
山田拓 美ら地球代表取締役
ニューノーマルで目指すもの
TRAVEL JOURNAL 2020.11.16 TRAVEL JOURNAL 2020.11.16
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新たなチャレンジとし て東海地区初の分散型 ホ テ ル「SATOYAMA STAY」を開業。木造新 築のメイン棟を備える
や ま だ・ た く ●SATOYAMA EXPERIENCEのプロデュースに加 え、地方部における地域資源を活 用したインバウンドツーリズム関連 のさまざまな事業開発に従事。内閣 官房地域活性化伝道師。著書に「外 国人が熱狂するクールな田舎の作り 方」(新潮新書)。
Profile
訪日外国人旅行者に期待できないいま、マイクロツーリズムなど、近場の国内客誘致の必要性が唱 えられているが、訪日旅行者に期待できないからと いって、永らく個人所得が伸び悩む日本人での代 替を目指すには、消費単価の高い小さなマーケッ トに見つけ出す緻密なマーケティング活動が必要と なる。
われわれも国内需要の獲得はこの10年間で全く 成功していない。コロナ禍では、外国人のように単 に里山の風景を楽しむ一般観光客の獲得というよ りは、高単価プログラムにも対応可能なチームビル ディングやオフサイトミーティングなどに向き合う 企業需要を取り込む流れを模索することに新たに 取り組んでいる。
また、2つ目のポイントである人的資源の枯渇に 関しては、機械化やデジタル化による対応が求めら れていたが、観光業界ではあまり進んでいないよう に感じられる。当社では、飛騨地域にあって人材 確保が困難であり、またアクティビティーという ニッチな事業に対応するOTAやASPサービスが 少ないこともあり、かなり前から業務を標準化し、
予約から決済まで自動化するためのシステム投資を 続けてきた。在宅勤務を強いられたり、売り上げ 減少によるコスト削減を余儀なくされたりしている コロナ禍においては、いままで以上にデジタル化を 進めるべきことはいうまでもないのではないか。観 光庁のアドバイザリーボードメンバーに名を連ねる グーグルの陣内裕樹氏は、「プロモーションのみな らず、観光産業のすべての業務分野におけるデジタ ルトランスフォーメーションを推進すべき」と提言 している。
観光立国政策によって訪日外国人旅行者数は順 調に伸びてきてはいるものの、オーバーツーリズム の懸念や観光消費額の伸び悩みが指摘され、業界 全体としての改革・改善の必要性はコロナ到来前 から示唆されていた。また、地方部でのインバウン ドツーリズムの推進もまだまだ限定的であり、強化
の必要性が唱えられていた。コロナ禍においては、
人が接触するコトが制約され、経済活動のみならず 多くの人間の活動が制限された。都市部への人口 集中が極めて高い日本社会において、社会の前提 を大きく狂わせたのではないだろうか。
少し前に「東京圏、初の転出超過」というニュー スが流れた。東京圏の7月の人口は、他の道府県へ の転出が転入を上回るというものだ。その内訳をよ く見てみると、東京から転出する人が増加したわけ ではなく、東京の過密を避け、東京に流入する人 が減少した結果、プラスとマイナスが逆転したとい う状況だった。つまり、地方部への流出が始まっ たという状況にはまだ至っていないことになる。
オンラインツアーやマイクロツーリズムの普及など、
コロナ禍での新たな動きはとても興味深い内容であ ることは間違いない。直面する売り上げ減による事 業計画の見直しはもちろん必要だろうが、一方で 冷静に現状を鑑みると、いま、われわれがなすべき ことは、他の産業と比較して遜色ない所得を得ら れる産業に育て上げ、地方部に新たな雇用や住め る環境を生み出すなど、以前からいわれていたやる べきことを愚直に進めるだけのように感じられるの は、私だけだろうか。
では、どう進むべきか。その道しるべとして、私 自身も委員の1人である、観光庁で推進され始め た持続可能な観光の考え方をデスティネーション全 体として、また業界に身を置く観光従事者として も向き合うことではないかと考え、動きを続ける今 日このごろである。
観光で地方創生の本当の理由
TRAVEL JOURNAL 2020.11.16 TRAVEL JOURNAL 2020.11.16