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同位体化学分析を実施する ための事前調査

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Academic year: 2021

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76 奈文研紀要 2013

1 はじめに

 奈良文化財研究所と東京大学は、藤原宮跡から出土し た馬の同位体化学分析に関する連携研究をおこなってい る。本稿では、その連携研究の中で同位体化学分析を実 施するための事前調査について報告する。

 遺跡から出土した動物遺存体は、埋没中に堆積土壌の 汚染によって、その動物が生体時に有していた生化学的 情報を失ってしまうことがある。汚染を受けた動物遺存 体は、化学分析を実施したとしても有効な結果を得るこ とが難しくなる。

 もし化学分析に適切な試料を選定することが可能であ れば、むやみな文化財の破壊を避けることができる。そ こで、今回の連携研究では、本格的な同位体化学分析 1)

(以下、「本分析」とする)を実施する前に、適切な試料を

選別するための事前調査をおこなった。

2 化学分析における事前調査

 事前調査は、本分析の内容に応じて適切な調査を実施 する必要がある。動物遺存体に対する化学分析は、分析 対象によって有機物分析と無機物分析に大別することが できる(図98)。

 放射性炭素年代測定や食性分析(骨の同位体化学分析)

といった有機物分析では、骨に含まれるコラーゲンが分 析対象となる。しかし、遺跡から出土する骨の保存状態 によっては試料中にコラーゲンが全く残っていない場合 もある。そこで、本分析を実施する前に、ごく少量の試 料からコラーゲンの残存量を評価することによって、有 機物分析に適していない試料を本分析の対象から外すこ とができる 2)

 一方、無機物分析としては、歯のエナメル質を用いた 安定同位体化学分析がある。この分析により、動物遺存 体の移動履歴や雑穀類の摂取率推定 3)など生態学的な 情報を検討することが可能となる。この分析に対する事 前調査では、歯の元素濃度や結晶構造 4)を測定し、生 体時に哺乳類がとり得る範囲を逸脱していないかを検討 して、無機物分析に適した試料であるかを判断する。

3 藤原宮跡出土動物遺存体の事前調査

 藤原宮跡から出土した馬の同位体化学分析を実施する にあたって、コラーゲンの残存量評価とエナメル質の元 素濃度および結晶構造解析を事前調査として実施した。

 まず、事前調査をおこなう動物遺存体について、写真 撮影と計測をおこない、本分析によって失われる可能性 のある情報を記録した。

 そして、コラーゲンの残存量を評価するために、元素 分析計を用いてタンパク質の構成成分である窒素の含有 率を測定した。その結果、骨中に窒素が1%以上含有し ており、本分析に必要なコラーゲン量がほぼすべての試 料から抽出できることを確認することができた。

 次に、エナメル質のストロンチウム濃度を測定し、生 体時にとり得るストロンチウム濃度から逸脱していない か評価をおこなった。その結果、藤原宮から出土した動 物遺存体は、ストロンチウム濃度が現生哺乳類の範囲(50

~700ppm)から逸脱しない試料が多く認められたが、い

くつかの試料において、分析に適さない試料も検出され

同位体化学分析を実施する ための事前調査

-破壊分析における事前調査の有効性-

図₉₈ 事前調査の工程

分析により失われる可能性がある情報の記録

(観察、写真撮影、計測など)

事前調査 有機物分析

・コラーゲン残存量の推定

・DNA残存量の推定など

無機物分析

・元素濃度測定

・結晶構造解析など

分析に用いる試料の選定

本分析の実施

(2)

Ⅰ 研究報告 77 た。また、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて、エナ

メル質の結晶構造を評価した(図99)。その結果、エナメ ル質の主要成分であるハイドロキシアパタイトの特徴と いえるリン酸基(PO43-)の特徴を示す波形結果が得られ、

ストロンチウム濃度の結果と同様に、現生哺乳類の範囲 から逸脱した試料と逸脱しなかった試料の両者が検出さ れた。

4 ま と め

 藤原宮跡から出土した動物遺存体の同位体化学分析に 用いる試料を選定するための事前調査をおこなった。そ の結果、藤原宮跡出土の動物遺存体は、有機物および無 機物ともに同位体化学分析に適する試料が得られる可能 性が高いことが示された。そして同時に、分析に適さな い試料の存在も把握することができた。こうした試料は、

本分析をおこなわないことによって、不必要な破壊を避 けている。

 「破壊分析における事前調査」は「本発掘調査におけ る試掘・確認調査」と同じ意義をもつ。化学分析は、分 析の破壊や非破壊のみが問題とされることが多い。しか し、必要な分析が破壊をともなわざるを得ない場合で

も、やみくもに破壊してよい訳ではない。破壊をする前 にどのような記録を残し、どのようにして最小限の破壊 で抑えるのかという議論が必要であろう。

(山㟢 健・覚張隆史/東京大学・降幡順子・石橋茂登・米田 穣

東京大学

1) 覚張隆史「同位体生態学からみたヒトと動物との関わり」

『考古学ジャーナル』625、2012。

2) Brock,F., Higham,T., Ramsey,C.B.,“Pre-screening techniques for identification of samples suitable for radiocarbon dating of poorly preserved bones,” Jounrnal of Archaeological Science 37-4, 2010.

3) Pechenkina,E.A., Ambrose S.H., Ma,X., Benfer,R.

A.Jr.,“Reconstructing northern Chinese Neolithic subsistence practices by isotopic analysis,” Jounrnal of Archaeological Science 32-8, 2005.

4) Weiner,S. and Bar-Yosef,O.,“States of preservation of bones from prehistoric sites in the Near East: A survey,” Jounrnal of Archaeological Science 17-2, 1990.

図₉₉ 歯エナメル質の結晶解析 100

98

96

94

92

90

4000 3000 2000 1000 400

Wavenumber [cm

-1

3568.63cm-1ー 3448.1cm-1− 1538.23cm-1− 1458.89cm-1− 1048.09cm-1− 980.377cm-1− 875.524cm-1− 670.142cm-1− 601.682cm-1− 563.112cm-1

PO  由来の吸収ピーク43-

%T

参照

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