在外邦人選挙権と立法不作為 : 在外日本人選挙権 剥奪違法確認等請求事件最高裁判決
その他のタイトル Inconstitutionnalite de la loi sur les
elections publiques qui ne reconnait pas le droit de vote aux residents japonais a
l'etranger
著者 村田 尚紀
雑誌名 關西大學法學論集
巻 55
号 6
ページ 1723‑1747
発行年 2006‑03‑15
URL http://hdl.handle.net/10112/12214
︹ 判 例 批 評 ︺
在外邦人選挙権と立法不作為
(1 )
在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件最高裁判決││'
事 実 の 概 要 一九九八年法律第四七号による改正前の公職選挙法は︑選挙人名簿に登録されていない者および選挙人名簿に登
録されることができない者は投票することができないものとし︑選挙人名簿への登録は︑当該市町村の区域内に住所
を有する満二0
歳以上の日本国民で︑その者にかかる当該市町村の住民票が作成される日から引き続き三ヵ月以上当 該市町村の住民台帳に記録されている者について行うこととしていた︒このため︑同法のもとでは︑日本のいずれの 市町村においても住民基本台帳に記録されない在外日本人は︑選挙人名簿に登録されなかった︒
その結果︑在外日本人は︑衆議院議員および参議院議員の選挙権を有するにもかかわらず︑これらの選挙が実施さ れる場合︑選挙権を行使することができないことになっていた︒
〔l〕
在外邦人選挙権と立法不作為
村
︱
‑ 1一 五
田
︵一
七二
三︶
尚
紀
〔3〕
︵一
七二
四︶
一九九八年改正後の公職選挙法は︑あらたに衆議院議員および参議院議員の選挙について在外選挙人名簿を調製
することとしたが︑当分の間の暫定措置として︑それぞれの比例代表選出議員の選挙に限って︑在外投票を実施する
右の暫定措置の理由について︑第一四一回国会衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会においては︑①衆
議院小選挙区選挙および参議院選挙区選挙の場合︑投票に当たって︑候補者の氏名・政見・所属政党等が周知されて
いる必要があるところ︑選挙運動期間の︱二日ないし一七日の間にこれらを海外の有権者に周知徹底することは困難
であるのに対して︑政党名を記載し投票する比例代表選挙は︑政党の主張・政策等について現状でもH常的に新聞・
テレビ・ラジオ等を通じて海外にも伝わっており︑特段の方法をとらなくても在外有権者は相当程度の情報を得るこ
とができると考えられること︑②在外公館にとって選挙事務が初めてのことであるので︑在外選挙については︑ま
ず比例代表選挙から実施し︑選挙情報の具体的な周知状況や在外公館の体制をみたうえで︑さらに次の段階として衆
議院小選挙区選挙および参議院選挙区選挙の実施を考慮することとした旨の説明がなされている︒
在外選挙人名簿の登録は一九九九年五月一Hから︑在外投票は二0
0
0年五月一日以降に実施される衆議院議員総
選挙または参議院議員通常選挙から︑それぞれ実施されることとされた(‑九九八年︱二月︱一日政令三八七号︶︒
日本国外に居住する日本国籍保持者のXらは︑右改正公選法の下では︑日本国外での居住を継続するかぎり︑ニ
0 0
0年五月一日より前に衆議院議員選挙または参議院議員選挙が行われた場合︑これらの選挙についていっさいの
選挙権の行使ができない︒またXらは︑右期日以降にこれらの選挙が行われた場合︑衆議院小選挙区選挙および参議 こととした︵四二条一項本文︑附則八項︶︒
〔2〕
関 法 第 五 五 巻 六 号
ニニ 六
〔4〕 院選挙区選挙については選挙権が行使できないことになる︒
一九
九六
年一
0月
二
O
そこで、
Xらは、在外居住者であることを理由として選挙権行使の機会を保障しないことは、憲法―四条一項•一
五条一項•同三項•四三条•四四条、市民的および政治的権利に関する国際規約
(B規約)二五条に違反するとして、
①一九九八年法律第四七号による改正前の公選法が︑
X
らに衆議院選挙および参議院選挙の選挙権の行使を認めて いない点において︑前記憲法および条約違反であることの確認︑②同改正後の公選法が︑
Xらに衆議院小選挙区選
挙および参議院選挙区選挙の選挙権の行使を認めていない点において︑前記憲法および条約違反であることの確認︑
③国会が過失により
Xらの選挙権の行使を可能にするための公選法の改正を怠ったために︑
日に行われた衆議院選挙で選挙権を行使できなかったことによる損害の賠償︑を求めて訴えを提起した︒
第一審
11 東京地裁一九九九︵平成︱‑︶年一
0月二八日判決はおおむね次のように判断した︒
まず
︑
Xらの③③の請求について︑国賠法一条一項違反は︑﹁国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対
して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって︑当該立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべき ものである﹂︑﹁国会議員の立法行為は︑本質的に政治的なものであって︑その性質上法的規制にはなじまないもので あり︑特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から︑あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を 法的に評価するということは原則的に許されない﹂とし︑﹁したがって︑国会議員は︑立法に関しては︑原則として︑
国民全体に対する関係において政治的責任を負うにとどまり︑個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負う ものではないというべきであって︑国会議員の立法行為は︑立法の内容が憲法の一義的な文言に反しているにもかか
在外邦人選挙権と立法不作為
一三
七
︵一
七二
五︶
一三 八
わらず国会があえて当該立法を行うといった例外的な場合でない限り︑国家賠償法一条一項の適用上︑違法の評価を 以上のような法的構成に基づいて︑
Xらの③③の請求は︑次のように判断される︒すなわち︑
Xらの衆議院議員選
挙および参議院議員選挙の選挙権が憲法に基づく基本的かつ重要な権利であるにしても︑﹁一方で︑代表民主制の下 における選挙制度は︑選挙された代表者を通じて︑国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されるこ とを目標とし︑その国の事情に即して具体的に決定されるべきものであり︑そこに論理的に要請される一定不変の形 態が存在するわけのものはない﹂︒憲法は︑選挙に関する事項の具体的決定を︑憲法上正当な理由となりえないこと が明らかな人種・信条・性別等による差別(憲法―四条一項•四四条)にあたらないかぎりで、「原則として立法府 である国会に委ねる趣旨であると解される﹂︒在外投票制度については︑﹁世界各国の各地方に居住する在外日本人に ついて︑その所在を把握し︑これらの者に対して当該選挙における立候補者の氏名︑経歴︑政見等を周知させ︑投票 や開票などの選挙の執行作業を行う場合には︑選挙を公正かつ能率的に執行するについて︑国内における場合とは異 なる様々な実施上の問題点が想定されるところであるから︑国会や選挙制度を定めるに当たって︑在外選挙制度を設 けるか否か︑設けるとすればどのような仕組みでどのような時期からこれを実施するかなどの具体的決定は︑国会の 右の裁量に委ねられていると解すべきであり︑衆議院議員及び参議院議員の選挙権が憲法に基づく基本的かつ重要な 権利であるからといって︑原告らの主張するように︑国会には︑在外選挙制度を設けるなどして在外日本人の選挙権 行使を確保すること以外に立法上の選択が許されていないとまではいえない」。したがって、憲法一五条一項•三項、
四三条︑四四条但書︑
︱四条一項が︑﹁直ちに立法府である国会に対して衆議院議員及び参議院議員の選挙のすべて
受けないと解すべきである﹂とする︒
関 法 第 五 五 巻 六 号
︵一
七二
六︶
在外邦人選挙権と立法不作為
これ
に対
して
︑
Xら
が控
訴し
た︒
につき在外日本人の選挙権の行使を可能にする立法をなすべきことを一義的に明白に命じていると解することは困難
xらの③①・②の請求について︑第一審は︑選挙権行使が認められていないとする主張が︑﹁改正前の公職選挙法
又は改正後の公職選挙法において︑選挙権を有する在外日本人一般について⁝⁝各選挙権行使の方法が確保されてい ないという一般的状態を現在の原告らの立場に当てはめて表現したにすぎ﹂ず︑﹁特定の選挙を個別具体的に取上げ て原告らの権利行使が認められていないことを主張するものでもない﹂から︑本件各違法確認請求にかかる訴えは︑
﹁具体的紛争を離れて︑改正前の公職選挙法又は改正後の公職選挙法の違法の確認を求める訴えであるというべきで あり︑法律上の争訟には当たらないと解すべきである﹂とした︒さらに︑かりにこれが法律上の争訟に当たるとして も︑訴えは︑﹁国会の立法権限の不行使に対する不服の訴えにほかならないから︑公権力の行使に関する不服の訴訟 として︑抗告訴訟の類型に属する訴えと解するのが相当﹂であり︑そのような﹁無名抗告訴訟は︑無制限に許容され るものではなく︑三権分立の原則からすれば︑それが適法な訴えとして許容されるためには︑少なくとも︑行政庁が 処分をなすべきこと又はなすべからざることについて法律上鞄束されており︑行政庁に自由裁量の余地が全く残され ていないなど︑第一次判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要ではないと認められることが必要である﹂とこ ろ︑在外投票制度の整備を立法府に命じる一義的な規定が憲法または
B規約上存在しないから︑本件各訴えはいわゆ
る無名抗告訴訟として許容される場合には当たらないとした︒ で
ある
﹂︒
B規約についても以上と同様に判断された︒
ニニ
九
︵一
七二
七︶
半川
旨
これ
対に
して
︑
Xら
が上
告し
︒た
いう二つの理由をあらたに加えて︑第一審と同様の判断を示している︒
︵一
二 七
八︶
( 3 )
︵平成︱二︶年︱一月八日判決は︑⑥③の請求について︑①一九九八年法改正に よって部分的にであれ在外選挙制度が創設されていること︑②
xらが日本国外に居住しているのは︑自己の選択の
結果であって︑﹁右状態に対応した選挙権行使の面における取扱いの区別がされることは︑生来の人種︑性別︑門地 や︑信条︑身分︑財産等により不合理な差別がされることとは︑大きく性質の異なるものと解すべきであること﹂と また、控訴審判決は、③①•②の請求についても、第一審同様、このような訴えが具体的紛争を離れて抽象的・一
般的に法令等の違憲あるいは違法性等に関する判断を求めるものであって︑法律上の争訟に該当しないとした︒控訴
審でX
らは、③①•②の請求を主位的請求とし、予備的請求として衆議院小選挙区選挙および参議院選挙区選挙にお いて選挙権を行使する権利を有することの確認を求めたが︑これも主位的請求にかかる違法確認の訴えと同様︑当事 者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争ではなく︑法律上の争訟に当たらないと判断した︒
二0
0五年九月四日最高裁大法廷判決は︑原判決の予備的請求に関する部分と国賠請求に関する部分を破棄自判し︑
xらが次回の衆議院小選挙区選挙および参議院選挙区選挙の際に︑在外選挙人名簿に登録されていることにもとづい
て投票することができる地位にあることを確認するとともに︑
Xらに対する賠償を命じた︒その判旨は︑おおむね次
のとおりである︒ 印]控訴審
11
東京高裁二0
0 0
関 法 第 五 五 巻 六 号
︱四
〇
在外邦人選挙権と立法不作為 以上のような合憲性判断基準に基づいて︑ る ﹂ ︒
︱ 四
選挙権は︑﹁国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として︑議会制民主主義の根幹を成すものであ
一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである﹂︒そのような 趣旨に鑑みれば︑﹁自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として︑
国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず︑国民の選挙権又はその行使を制限するために は︑そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである﹂︒ここ にいう﹁やむを得ない事由﹂がある場合とは︑﹁そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選 挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合﹂をいい︑このことは︑﹁国が 国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が選挙権を行使するこ とができない場合についても︑同様である﹂︒在外国民も﹁憲法によって選挙権を保障されていることに変わり はなく﹂︑﹁国には︑選挙の公正の確保に留意しつつ︑その行使を現実的に可能にするために所要の措置を執るべ き責務があるのであって︑選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能ないし著しく困難で
あると認められる場合に限り︑当該措置を執らないことについて上記のやむを得ない事由があるというべきであ り︑民主国家においては︑
い在外邦人選挙権行使の制限の合憲性
一九九八年改正前の公選法の合憲性は︑次のように判断される︒同
多数意見の法的構成と判断はおおむね次のとおりである︒ ①
多 数 意 見
︵一
七 二
九︶
条但書に違反する︒ は実現されなかったものである︒この間︑﹁国会が︑
10
年以上の長きにわたって在外選挙制度を何ら創設しな
改正前公選法が在外選挙制度を設けていなかったのは︑そのために必要な在外公館の人的・物的体制の整備の実 現に﹁克服しなければならない障害が少なくなかったためである﹂と考えられるが︑
︵一
七三
0 )
内閣が︑﹁我が国の国際関係の緊密化に伴い︑国外に居住する国民が増加しつつあることにかんがみ︑これらの 者について選挙権行使の機会を保障する必要がある﹂として︑衆参両院の選挙全般についての在外選挙制度の創 設を内容とする公選法改正案を第一〇一回国会に提出するにいたった︒結局同法案は第一
0五回国会まで継続審
議とされながらも廃案となり︑本件選挙が実施された一九九六年一
0月
二
0日にいたるまで在外選挙制度の導入
いまま放置し︑本件選挙において在外国民が投票をすることを認めなかったことについては︑やむを得ない事由 があったとは到底いうことができない」ので、本件改正前の公選法は憲法一五条一項•三項、四三条一項、四四 一九九八年改正後の公選法の合憲性については︑次のように判断される︒同改正後公選法が衆議院小選挙区選
挙および参議院選挙区選挙について在外投票を認めていない点に関しては︑﹁投票日前に選挙公報を在外国民に 届けるのは実際上困難であり︑在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達するのが困難であるという状況 の下で︑候補者の氏名を自書させて投票をさせる必要のある衆議院小選挙区選出議員の選挙又は参議院選挙区選 出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めることには検討を要する問題があるという見解もないで はなかったことなどを考慮すると︑初めて在外選挙制度を設けるに当たり︑まず問題の比較的少ない比例代表選 出議員の選挙についてだけ在外国民の投票を認めることとしたことが︑全く理由のないものであったとまでいう
一九八四年四月二七日には
関 法 第 五 五 巻 六 号
︱ 四
閲確認の訴えについて
ことはできない﹂が︑しかしながら︑﹁本件改正後に在外選挙が繰り返し実施されてきていること︑通信手段が 地球規模で目覚ましい発達を遂げていることなどによれば︑在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達す ることが著しく困難であるとはいえなくなったものというべき﹂であり︑さらに二
000 年︱一月一日の公選法 改正によって︑﹁参議院比例代表選出議員の選挙の投票については︑公職選挙法八六条の三第一項の参議院名簿 登載者の氏名を自書することが原則とされ﹂︑二
0 0一
年・
ニ 0
0四年に在外国民についてもこの制度に基づく
選挙権の行使がされていることから︑﹁遅くとも︑本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参 議院議員の通常選挙の時点においては︑衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙につい て在外国民に投票をすることを認めないことについて︑やむを得ない事由があるということはできず﹂︑﹁公職選 挙法附則八項の規定うち︑在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定す る部分は︑憲法一五条一項及び三項︑四三条一項並びに四四条ただし書に違反するものといわざるを得ない﹂︒
控訴審における主位的確認請求のうち一九九八年改正前公選法が
Xらに衆議院選挙および参議院選挙における
選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴え︵第一審における一③①の請求︶は︑
﹁過去の法律関係の確認を求めるものであり︑この確認を求めることが現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本 的な解決のために適切かつ必要な場合であるとはいえないから︑確認の利益が認められず︑不適法である﹂︒
次に︑控訴審における主位的確認請求のうち一九九八年改正後公選法が
Xらに衆議院小選挙区選挙および参議
院選挙区選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴え︵第一審にお 在外邦人選挙権と立法不作為
︱四
三
︵一
七三
一︶
ける一③②の請求︶
関 法 第 五 五 巻 六 号
︱四
四
︵一 七三
︶ 二 は︑﹁他により適切な訴えによってその目的を達成することができる場合には︑確認の利益 を欠き不適法であるというべきところ﹂︑本件においては︑﹁予備的確認請求に係る訴えの方がより適切な訴えで あるということができるから︑上記の主位的確認請求に係る訴えは不適法であるといわざるを得ない﹂︒
控訴審における予備的請求にかかる訴えは︑﹁公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴 えと解することができる﹂︒﹁選挙権は︑これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず︑
侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから︑その権 利の重要性にかんがみると︑具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有 することの確認を求める訴えについては︑それが有効適切な手段であると認められる限り︑確認の利益を肯定す べきものである︒そして︑本件の予備的確認請求に係る訴えは︑公法上の法律関係に関する確認の訴えとして︑
上記の内容に照らし︑確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである︒なお︑この訴えが法 律上の争訟に当たることは論をまたない﹂︒予備的請求にかかる訴えは︑
Xらが﹁次回の衆議院議員の総選挙に
おける小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において︑在外選挙人 名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとし て適法な訴えということができる﹂︒確認請求については︑﹁前記のとおり︑公職選挙法附則八項の規定のうち︑
在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は︑憲法一五条一項 及び三項︑四三条一項並びに四四条ただし書に違反するもので無効であって﹂︑
Xらは︑﹁次回の衆議院議員の総
選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において︑在外
在外邦人選挙権と立法不作為
を認容すべきものである︒
︱四
五
選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあるというべきであるから﹂︑これ
﹁国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは︑国会議員の立法過程における行 動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって︑当該立法の内容又は立法不 作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり︑仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するも のであるとしても︑そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない﹂︒
しかしながら︑﹁立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであるこ とが明白な場合や︑国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが 必要不可欠であり︑それが明白であるにもかかわらず︑国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合な どには︑例外的に︑国会議員の立法行為又は立法不作為は︑国家賠償法一条一項の規定の適用上︑違法の評価を 受けるものというぺきである﹂︒X
らも﹁国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障され ていたのであり︑この権利行使の機会を確保するためには︑在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが 必要不可欠であったにもかかわらず︑前記事実関係によれば︑昭和五九年に在外国民の投票を可能にするための 法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの︑同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで一
0年
以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから︑このような著しい不作為は上記の例外的 な場合に当たり︑このような場合においては︑過失の存在を否定することはできない﹂︒国家賠償請求認容︒
い国家賠償請求について
︵一 七三 三︶
金銭賠償になじまないものといわざるを得ない﹂︒
泉徳治裁判官の反対意見
えよ
う﹂
︒
︵一 七三 四︶ 多数意見のうち国賠請求の認容にかかる部分に反対する泉徳治裁判官の反対意見は︑おおむね次のとおりである︒
﹁一般論としては︑憲法で保障された基本的権利の行使が立法作用によって妨げられている場合に︑国家賠償請求 訴訟によって︑間接的に立法作用の適憲的な是正を図るという途も︑より適切な権利回復のための方法が他にない場 合に備えて残しておくべきであると考える︒また︑当該権利の性質及び当該権利侵害の態様により︑特定の範囲の国 民に特別の損害が生じているというような場合には︑国家賠償請求訴訟が権利回復の方法としてより適切であるとい しかしながら︑﹁本件で問題とされている選挙権の行使に関していえば︑選挙権が基本的人権の︱つである参政権
の行使という意味において個人的権利であることは疑いないものの︑両議院の議員という国家の機関を選定する公務 に集団的に参加するという公務的性格も有しており︑純粋な個人的権利とは異なった側面を持っている︒しかも︑立 法の不備により本件選挙で投票をすることができなかった上告人らの精神的苦痛は︑数十万人に及ぶ在外国民に共通 のものであり︑個別性の薄いものである︒したがって︑上告人らの精神的苦痛は︑金銭で評価することが困難であり︑
﹁本件国家賠償請求は︑金銭賠償を得ることを本来の目的とするものではなく︑公職選挙法が在外国民の選挙権の 行使を妨げていることの違憲性を︑判決理由の中で認定することを求めることにより︑間接的に立法措置を促し︑行 使を妨げられている選挙権の回復を目指しているものである︒上告人らは︑国家賠償請求訴訟以外の方法では訴えの 適法性を否定されるおそれがあるとの思惑から︑選挙権回復の方法としては迂遠な国家賠償請求を︑あえて付加した
〔2〕
関 法 第 五 五 巻 六 号
︱四
六
在外邦人選挙権と立法不作為
こと
の理
由に
つき
︑
ものと考えられる﹂が︑﹁本件で求められている在外国民に対する選挙権行使の保障についても︑今回︑上告人らの 提起した予備的確認請求訴訟で取り上げることになった﹂︒﹁このような裁判による救済の途が開かれている限り︑あ
横尾和子裁判官・上田豊三裁判官の反対意見
横尾和子裁判官・上田豊三裁判官の反対意見は︑おおむね次のとおりである︒
︱四
七
選挙制度の仕組みの具体的決定に当たっては︑﹁公正︑公平な選挙が混乱なく実現されるために必要とされる事項 を考慮しなければならない﹂︒﹁在外国民が選挙権を行使する︑すなわち投票をするに当たっては︑国内に居住する国 民の場合に比べて︑様々な社会的︑技術的な制約が伴うので︑在外国民にどのような投票制度を用意すれば選挙の公 正さ︑公平さを確保し︑混乱のない選挙を実現することができるのかということも国会において正当に考慮しなけれ ばならない事項であり︑国会の裁量判断にゆだねられていると解すべきである﹂︒この点は︑﹁我が国の主権の及ぶ我 が国内に居住している国民の選挙権の行使を制限する場合とは趣を異にするといわなければならない﹂︒
一九九八年改正後の公選法附則八項が﹁両議院の比例代表選出議員の選挙に限って在外国民に投票の機会を認めた
︱二日ないし一七日という限られた選挙運動期間中に在外国民へ候補者個人に関する情報を伝達 することが極めて困難であること等を勘案したものであると説明されている﹂︒﹁国会のこれらの選択は︑選挙制度の 仕組みとの関連において在外国民にどのような投票制度を用意すれば選挙の公正さ︑公平さを確保し︑混乱のない選 挙を実現することができるのかという︑国会において正当に考慮することのできる事項を考慮した上での選択という
〔3〕 えて金銭賠償を認容する必要もない﹂︒
︵一
七三
五︶
い 泉 反 対 意 見 に つ い て
④福田博裁判官の補足意見 理由とする国賠請求は棄却すべきである︒ 平 技術的な制約の伴う中でそれなりの合理性を持ち︑国会に与えられた裁量判断を濫用ないし逸脱するものではなく︑ ことができ︑正確な候補者情報の伝達︑選挙人の自由意思による投票環境の確保︑不正の防止等に関し様々な社会的︑
成一
0年に至って新たに在外選挙人名簿の制度を創設し︑それまではこのような制度を設けていなかったことをも
含めて︑いまだ上告人らの主張する憲法の各規定や条約に違反するものではなく︑違憲とはいえないと解するのが相 当である﹂︒主位的確認請求にかかる訴えは不適法︑予備的確認請求にかかる訴えは適法であるが︑予備的確認請求 は理由がない︒また︑在外選挙制度を設けなかったことなどの立法上の不作為が違憲ではないと解するので︑それを 泉反対意見、横尾•上田反対意見に関連して述べる福田博裁判官の補足意見は、おおむね次のとおりである。
﹁代表民王制を基本とする民王主義国家においては︑国民の選挙権は国民主権の中で最も中核を成す権利であり︑
いやしくも国が賠償金さえ払えば︑国会及び国会議員は国民の選挙権を剥奪又は制限し続けることができるといった 誤解を抱くといったような事態になることは絶対に回避すべきであるという私の考えからすれば︑選挙権の剥奪又は 制限は本来的には金銭賠償になじまない点があることには同感である﹂︒しかしながら︑第一に︑﹁在外国民の選挙権 の剥奪又は制限が憲法に違反するという判決で被益するのは︑現在も国外に居住し︑又は滞在する人々であり︑選挙 後婦国してしまった人々に対しては︑心情的満足感を除けば︑金銭賠償しか救済の途がない﹂︑第二に︑﹁代表民主制
関 法 第 五 五 巻 六 号
︱四
八
︵一 七三 六︶
〔l〕
在外邦人選挙権と立法不作為
評
釈
⑯横尾•上田反対意見について
︱四
九
一般
的な
の根幹を成す選挙権の行使が国会又は国会議員の行為によって妨げられると︑その償いに国民の税金が使われるとい うことを国民に広く知らしめる点で︑賠償金の支払は︑額の多寡にかかわらず︑大きな意味を持つというべきであ る﹂︑これら二つの理由から︑泉反対意見に共感しつつも︑法廷意見に賛成する︒
﹁国会は︑平等︑自由︑定時のいずれの側面においても︑国民の選挙権を剥奪し制限する裁量をほとんど有してい ない︒国民の選挙権の剥奪又は制限は︑国権の最高機関性はもとより︑国会及び国会議員の存在自体の正当性の根拠 を失わしめるのである︒国民主権は︑我が国憲法の基本理念であり︑我が国が代表民主主義体制の国であることを忘 れてはならない﹂︒﹁在外国民が本国の政治や国の在り方によってその安寧に大きく影響を受けることは︑経験的にも 随所で証明されている﹂︒﹁代表民主主義体制の国であるはずの我が国が︑住所が国外にあるという理由で︑
形で国民の選挙権を制限できるという考えは︑もう止めにした方が良い﹂︒それゆえ︑﹁在外国民の選挙権の剥奪又は 制限は憲法に違反せず︑国会の裁量の範囲に収まっているという考えには全く賛同できない﹂︒
問題の所在
一九九八年改正前公選法が︑国外に居住していて国内の市町村区域内に住所を有していない日本国民︵以下︑在外
邦 人
︶ の選挙権の行使を認めていなかったこと︑また同改正後公選法が在外邦人の選挙権の行使を衆議院および参議 院の比例代表選挙に限って認めていることが憲法に違反しないか︑さらにその点が違憲と判断される場合︑立法の不
︵一 七三 七︶
後公選法は︑ともに憲法違反となろう︒
< ゜ 〔2〕 作為が違憲といえるか︑以上の二点が︑本件の憲法上の争点である︒
︵一 七三 八︶ 在外邦人に選挙権があることについて︑本件第一審から上告審に至るまで︑まった<争いがない︒争いがあるのは︑
選挙権の現実の行使が憲法上保障されているのかという点と現実の行使の保障についての立法裁量がどの程度認めら れるのかという点である︒これらの点が︑公選法の合憲性にかかわって問われているのである︒
選挙権の法的性格
選挙権に関しては︑解釈論上︑その法的性格をめぐって二元説・権利説の対立がある︒この問題は︑本件の中心的 な論点ではないので深く立ち入らないが︑泉反対意見がこの問題にかかわる内容を含んでいるので︑若干検討してお 投票すること自体を選挙権の内容と解する権利説によれば︑在外邦人に選挙権の現実の行使を認めていなかった一
九九八年改正前公選法︑衆議院小選挙区選挙・参議院選挙区選挙における選挙権の現実の行使を認めていない同改正 他方︑二元説にはヴァリエーションがあるため︑これらの公選法の合憲性判断は分かれうるように思われる︒﹁権
(4 )
利行使をつうじて国政に参加するという﹁公務﹂にかかわる性格﹂を選挙権の特性と考え︑日本国憲法上の公務概念 を﹁これあるがゆえにあらゆる国民が差別されることなく平等に参加する権利として保障されなければならないとい
(5 )
う︑すなわち国家の自由裁量性を否定する根拠として︑はたらかざるを得ないのである﹂と解する見解によれば︑
( 6 )
﹁技術的裁量のはたらく余地﹂はあるにしても︑﹁海外在住者にも可能なかぎり選挙権行使の機会を実体化すべきで
関 法 第 五 五 巻 六 号
一五
〇
在外邦人選挙権と立法不作為
これに対して︑選挙権が﹁公務員という国家の機関を選定する権利﹂であることから︑﹁純粋な個人権とは違った
(9 )
側面をもっている﹂とし︑﹁そこに公務としての性格が付加されている﹂と解する見解は︑なお﹁公務﹂の意味に曖
( 1 0 )
昧さを残しているが︑投票する行為自体を端的に権利内容と解しているようにはみえない︒このような見解からすれ 一九九八年改正前公選法が在外投票を認めていなかったことおよび同改正後公選法がそれを不十分にしか認めて いないことは︑ただちに憲法違反とはならないであろう︒
本件では︑選挙権の法的性格をめぐる以上のような論点はとくに扱われていない︒したがって︑ここでは︑もはや 公務か権利かという二項対立の図式は克服され︑無意味になっているかのようにもみえる︒たしかに少なくとも学説 上は︑それが趨勢となっているようにみえる︒判例上も︑そのような論点がはっきりと表面化することはない︒しか しながらなお︑権利説とはもちろん権利説的二元説とも区別すべき後者の二元説︵非権利説的二元説と呼ぶことにす る︶のアンビヴァレントな問題性は︑選挙権が﹁両議院の議貝という国家の機関を選定する公務に集団的に参加する という公務的性格も有しており︑純粋な個人的権利とは異なった側面を持っている﹂として︑
Xらが一九九六年の衆
議院選挙で現実に投票できなかったことにによる精神的苦痛が金銭賠償になじまないとした泉反対意見にあらわれて , . ー ︑ ` ご ︑ を
権利
説的
二元
説と
呼ぶ
︶︒
一 五
( 7 )
ある﹂ということになり︑権利説と結論上の差はないようにみえる︒権利説といえども︑選挙権の後国家性を全否定 することはできないであろうから︑﹁技術的裁量﹂の余地を認めざるをえないであろう︒そうであるとすれば︑権利
( 8 )
説を﹁権利一本槍の憲法論﹂と評するのは妥当ではないであろう︒こうしてみると︑以上の二元説と権利説との間に 径庭はないというべできあろう︒実際︑以上の二元説は︑二元説というラベリングを拒否する
︵以下︑以上の二元説
︵一 七三 九︶
いて
みて
おく
︒
③ 選 挙 権
I I 権利の性格
一 方
︑
Xらは︑﹁各人が本来享有すべき 一般的に法律の憲法適 一般的︑抽象的な権利又は資格に
︵一 七四
O )
いる︒同反対意見では︑権利説的二元説と違って︑公務性が︑その内実を明らかにされないまま︑権利性を抑制する 根拠になっているのである︒投票行為自体に一種の公務性を認めるならば︑公務の意味次第で選挙権の現実の行使が 広範な立法裁量に委ねられることになりかねないという︑非権利説的二元説の問題点がここにあられているといえる︒
そのかぎりでは︑なお二元説批判の意義は失われていない︒
本件で主として問題となったのは︑選挙権の法的性格というよりはむしろ選挙権
I I 権利の性格と意義である︒すな
わち︑憲法が保障する選挙権が権利であるとしても︑それが具体的な権利なのか抽象的な権利ないし選挙人資格にと どまるのか︑またどのような意義ないし重要性を有する権利であるのかという問題である︒ここではまず︑前者につ 第一審で︑被告国側は︑﹁選挙権は︑個々の選挙に際して行使されない限りは︑
とどまるもの﹂であるとして︑
Xらの本件違法確認請求が﹁具体的な紛争を離れて︑抽象的︑
合性又はB規約適合性についての判断を求める訴えに帰するもの﹂とした︒
個別具体的な権利︵選挙権︶﹂が問題になっているとし︑本件が法律上の争訟に当たるとした︒
控訴審でも︑国側は︑選挙権を﹁具体的な選挙において選挙人団の一貝となる資格をいう﹂という公務説に近い見 解を示して︑第一審同様の主張を繰り返している︒これに対して︑
Xらは︑選挙権は﹁権利主体である成年者に対し
て投票の機会を具体的に保障しているもの﹂ととらえるべきであるとし︑﹁どのような方法で在外日本人の選挙権の
関 法 第 五 五 巻 六 号
五 一
挙権
権利の意義にかかわる︒I I
行使を確保するか﹂という点については国会の裁量を認めつつも︑﹁投票の機会が奪われた場合には︑憲法上の権利 以上の点について︑下級審判決は︑上記のように︑国側の主張を認めて︑憲法上の選挙権の具体的権利性を否定し︑
xらの違法確認請求にかかる訴えを法律上の争訟に当たらないとした︒これに対して︑上告審多数意見は︑憲法が選
挙権を保障することの意味を﹁国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず﹂と解して︑
Xら
の 確認の訴えについて法律上の争訟性を認めたうえで︑主位的確認請求については確認の利益がないとして訴えを不適 法とする一方︑予備的請求には確認の利益があるとし︑さらに請求を認容している︒このように︑最高裁が︑選挙権 の行使すなわち投票の機会の保障ないし投票すること自体を憲法上の選挙権の内容と認め︑さらにそれに具体的な権
選挙権
I I 権利が一般的・抽象的な権利ないし資格にとどまらず︑具体的な権利であるとしても︑これがいわゆる後
国家的権利であることは否定しがたい︒そこで︑選挙権の保障に関して︑立法裁量の幅が問題となる︒この点は︑選
xらは︑第一審において︑選挙区の割り振りや投票方法について日本国内居住の日本国民の場合にはない問題が
あっても︑それは﹁技術的問題﹂にすぎず︑﹁そのために選挙権の行使そのものを認めないのは本末転倒である﹂と し︑また在外邦人に対する候補者個人に関する情報の伝達がきわめて困難であるとされる点について︑今日の高度情
在外邦人選挙権と立法不作為
④ 選 挙 権
l I 権利の意義
利性を認めた点は注目に値する︒ 侵害に該当する﹂と主張した︒
一五 三
︵一
七四
一︶
挙権の意義付けは示されていない︒
︵一
四 七
二︶
一④
報化社会においては︑政党に関する情報伝達も候補者個人に関する情報伝達も本質的な差はなく︑情報伝達の困難性 は︑﹁純然たる手続上の問題﹂にとどまり︑﹁投票機会の保障という憲法上の要請に優先する利益とはいえない﹂と論 じている︒このように立法裁量の余地を技術的問題に限って認め︑しかも選挙権の行使の保障がこのような技術的問 題に優先すると解する見解の前提には︑控訴審で
Xらが述べているように︑選挙権が﹁議会制民主主義を実現するた
めの不可欠の手段﹂であり︑﹁そのための国民の最も重要な基本的権利﹂であるという選挙権の意義付けがある︒
これに対して︑国側は︑③にみたように︑選挙権を抽象的な権利ないし資格ととらえ︑﹁憲法上︑在外日本人につ いて特別の制度を設けることにより︑衆議院議員及び参議院議員の選挙のすべてにつき選挙権の行使を容易にすべき 立法義務を一義的に明確にした規定は存在せず︑むしろ︑憲法四四条の規定に照らせば右のような制度を設けるかど うかは立法府の裁量に委ねられているものと解すべきである﹂︵第一審︶︑﹁在外日本人の選挙権の行使を容易にする 制度を設けるか否か︑設けるとして具体的にどのような制度とするかは︑投票の方法その他選挙に関する事項の具体 的決定を原則として立法府である国会にゆだねている憲法第四七条の問題であるから︑国会にこれに関する広い裁量 権が認められていると解すべきである﹂︵控訴審︶と論じている︒国側の見解には︑
Xらの主張にみられるような選
以上の点について︑下級審は︑﹁原告らの衆議院議貝及び参議院議員の選挙権が憲法に基づく基本的かつ重要な権 利であることは原告ら主張のとおりである﹂︵第一審︒控訴審はこれを引用︶としながら︑その具体的保障が︑
1 ) ( 1
にみられるように︑広範な立法裁量に委ねられるとしている︒
Xらが選挙権を﹁国民の最も重要な基本的権利﹂と意
義づけたのに対して︑下級審は﹁基本的かつ重要な権利﹂としているから︑この点においてすでに両者の間には微妙
関 法 第 五 五 巻 六 号
一五
四
あてはめが問題となっている︒ 国家賠償請求事案と同様︑
〔5〕 に評価されるべきであり︑注目に値する︒
一五 五
一九九八年改正前の公選法が在外邦人に衆参両院選
一九九六年衆議院選挙で
Xら
が
な違いがある︒それにしても︑憲法の文言や立法技術的な問題は︑﹁基本的かつ重要な権利﹂の行使が原則として立 法裁量に委ねられるとする理由として十分なものとはいえまい︒
上告審多数意見は︑これに対して︑選挙権を﹁国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として︑議会制民 主主義の根幹を成すもの﹂︵二①い︶と述べ︑﹁最も重要な基本的権利﹂とは述べていないが︑
Xらの主張に近い見解
を示したといえる︒このような選挙権の意義付けは︑すでに議員定数配分規定違憲大法廷判決︵最大判一九七六年四 月︱四日民集三
0巻三号二二三頁︶以来行われているとはいえ︑本件下級審の判断にもみられるように︑必ずしも立
法裁量を制約する根拠として機能していなかった︒したがって︑上告審多数意見が︑選挙権の意義をふまえてその行 使の制限を原則として許されないとし︑制限には選挙の公正確保というやむを得ない事由が必要とした点は︑積極的 立法不作為の違憲性と国家賠償責任
国会がX
らの選挙権の行使を可能にするための公選法の改正を怠ったことにより︑
選挙権を行使できなかったことについての国家賠償請求に関して︑本件では︑従来の立法不作為の違憲を理由とする
( 1 2 )
一九八五年のいわゆる在宅投票制度訴訟最高裁判決︵以下︑八五年判決と呼ぶ︶の法理の
xらは、第一審において、八五年判決を前提に、憲法一五条•四四条但書
•B
規約が成年の国民に対して等しく国 政選挙の選挙権が与えられるべきことを規定していることから︑
在外邦人選挙権と立法不作為
︵ 一 七 四 一 ︱ ‑ ︶
︵ 二
① 団
︶ ︒
一般に憲法の文言が一般
一︵
七四
四︶
挙の選挙権の行使を認めていない状態は憲法および
B規約の一義的な文言に違反しているとし︑また一九八四年以来
国会が問題を認識し︑是正が求められていることを認識しながら﹁一
0年以上も特段の措置をとってこなかった﹂と
し︑﹁憲法における選挙権の重要性﹂を考えれば︑このような長期間にわたって問題を放置しておいたことは許され ないと主張している︒控訴審では︑
Xらは︑八五年判決を前提としつつも︑同判決が﹁立法行為に対する国家賠償請
求の可能性を事実上閉ざすものであり︑合理的解釈を施す余地は十分ある﹂として︑﹁憲法解釈上明らかに違反して いると解される場合﹂も憲法の一義的文言違反に該当するとの見解を示している︒
これに対して︑下級審の判断は︑八五年判決の法理を繰り返し︑本件の立法不作為が憲法の一義的な文言に反する ものではないとするにとどまっているが︑上告審多数意見は︑本件の立法不作為が﹁著しい不作為﹂で︑国賠法一条 一項違反の評価を受けるべき﹁例外的な場合﹂に当たるとした 多数意見は︑この判断が八五年判決と同趣旨であることをわざわざ断っているが︑はたしてそうであろうか︒
周知のように︑八五年判決は︑﹁国会議員の立法行為は︑立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもか かわらず国会があえて当該立法を行うというごとき︑容易に想定しがたいような例外的な場合でない限り︑国家賠償 法一条一項の適用上︑違法の評価を受けないものといわなければならない﹂と論じている︒立法不作為の違憲性と国 賠法一条一項の違法性とを区別し︑﹁容易に想定し難いような例外的な﹂甚だしい違憲性を後者の成立要件とする法
( 1 3 )
理は︑学説上﹁立法不作為の違憲審究を否認するにひとしい﹂という批判を受けてきた︒
的・抽象的であることからすると︑憲法の一義的な文言に違反するという事態は︑容易に想定しがたいというよりは むしろ事実上ないといえるから︑これは当然ともいうべき批判であった︒
関 法 第 五 五 巻 六 号
一五
六
〔6〕
在外邦人選挙権と立法不作為
ができるように思われる︒
一五
七
︵ 一
七四
五︶
多数意見は︑﹁国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合﹂︑﹁憲法上保障さ れている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠﹂︑﹁それが明白であるにもかかわ らず︑国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合﹂が八五年判決にいう一義的文言違反の意味をパラフ レーズするものにすぎないと念を押しているつもりであろう︒たしかに︑明白な権利侵害の有無にせよ︑権利行使の ための所要の立法措置の必要不可欠性にせよ︑選挙権の場合には︑容易に認定しがたいと思われるが︑少なくとも一 義的文言違反に比べれば︑緩和された要件であるといえよう︒また︑国会の長期間の惟怠が認められる場合というの も︑長期間の程度が問題ではあるが︑客観的な要件として機能する可能性をもつ︒したがって︑立法不作為の違憲を 理由とする国家賠償請求の法理に関して︑本件上告審判決は︑単に一義的文言違反の意味をパラフレーズするにとど まったのではなく︑学説からの批判に控えめに応えて八五年判決を読み替え︑事実上の判例変更を行ったとみること 本判決の意義
本件最高裁判決は︑七件目の法令違憲判決として注目され︑また立法不作為の違憲を理由とする国家賠償請求を初 めて認容した判決としても注目されよう︒むしろその意義は後者にあるというべきであろう︒
下級審判決には︑立法不作為の違憲を理由とする国家賠償請求を認容した事例がある︒そのうちの︱つで確定した
( 1 4 )
ハンセン病訴訟熊本地裁判決は︑﹁一連の最高裁判決が﹃立法の内容が憲法の一義的な文言に違反している﹄との表 現を用いたのも︑立法行為が国家賠償法上違法と評価されるのが︑極めて特殊で例外的な場合に限られるべきである