Toyama Medical Journal Vol. 25 No. 1 2014 50
(受稿2014.9.17)
富山大学 大学院 小児発達医学 教授
多くの子ども達は喘息であるが故に日常診療においてさ まざまな問題点を抱えている。
コントロールレベルに基づく長期管理
喘息の長期管理を行う際には,まず重症度に合わせた 治療ステップから薬物治療を開始し,その後は治療効果 を判定しながら治療内容のステップアップやステップダ ウンを行う。治療の目標は,喘息の病勢や症状をしっか りとコントロールし,その結果として喘息の寛解・治癒 に導くことであるが1),実際の日常診療では表 1 に示す ように一般的なコントロールレベルの評価には臨床症状 が用いられる。しかし,喘息の基本病態は気道のアレル ギー性炎症であり,そのためその表現形である喘息症状 だけを目安にした長期管理には限界がある。そこで,
はじめに
気管支喘息(以下,喘息)などのアレルギー疾患の有 症率は増加傾向にあり,小児の慢性疾患のなかで最も頻 度の高いものである。喘息診療は,吸入ステロイド薬の 開発とガイドラインの普及によって大きく変貌した。
1990年代までは,多くの子ども達が繰り返す喘息発作の ために普通学校に通えず,養護学校を併設した施設への 長期入院を余儀なくされ,さらに小児であっても喘息死 は決してまれなものではなかった。しかし,我が国では 2000年に日本小児アレルギー学会が「小児気管支喘息治 療・管理ガイドライン」を発表し,それによって喘息治 療が標準化されていった結果,今ではほとんどの喘息児 は普通校に通えるようになり,また喘息死も激減した。
このように喘息治療はおおむね成功を収めたが,未だに 総 説
「最近の小児気管支喘息診療
よりよいコントロールレベルを目指して」
足立雄一
Update of management of childhood asthma
Yuichi AdachiDepartment of Pediatrics, Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Science, University of Toyama
要 旨
この30年間で喘息治療は大きく変化し,重症喘息は激減し,現在ではほとんどの喘息児は症状からみ ると軽症型に分類される。その一方で,軽症であるが故に不十分な治療のまま生活の質が十分には保た れていない例が少なくない。喘息のより良いコントロールレベルを目指すためには,喘息の基本病態で ある気道のアレルギー性炎症を評価して適切な抗炎症薬を用いること,またコントロールレベル改善へ の障碍についてもしっかりと対応することが肝要である。一方,軽症化しても多くは寛解や治癒には至 らない。そのため,今後は環境要因など発症に関与する因子を明らかにし,それによって予防法の開発 を進めることが重要である。
Abstract
There has been a big change in the management of childhood asthma during the last 30 years.
Because of the successful treatment, most asthmatic children have not experienced severe exacerbations in these days, but their symptoms are still not controlled completely. To aim better control of asthma, evaluation of airway inflammation, treatment with proper anti-inflammation drugs, and assessment of obstacles such as poor adherence, comorbidities, and environmental factors is essential. Further understanding of the environmental factors associated with the inception of asthma might provide future treatment strategies.
Key words: childhood asthma, control level
足立:「最近の小児気管支喘息診療よりよいコントロールレベルを目指して」 51
まり 知 られておらず,また 加 圧 噴 霧 式 定 量 吸 入 器
(pMDI)ではゆっくりと深く吸うことが吸入効率を高 めるが,ドライパウダー定量吸入器(DPI)ではむしろ 力強く深く吸った方が吸入効率が上がるなどの知識を しっかりと患児ならびに保護者に伝える必要がある7)。
2 .合併症
喘息の発症や増悪要因にはいろいろなものがあり8), 我々は 今 までそのうちのいくつかについて 検 討 してき た。肥満と喘息の関係については主に欧米で報告されて いるが,食生活や人種の異なるアジアではその関係につ いて十分な検討がなされていなかった。国際標準の質問 表を用いた我が国における大規模全国調査では,幼児
( 4 - 5 歳),小 学 生( 6 - 7 歳),中 学 生(13-14歳),高 校 生(16-17歳)のいずれにおいても,肥 満 であること は喘息の有症率を有意に引き上げていることが明らかに なった(図 1 )9,10)。肥満によって喘息が増悪する機序 に関しては,蓄積した脂肪による肺への物理的な圧迫 や,脂肪組織から産生されるいくつかのアディポカイン のバランスが崩れるために生じる慢性炎症などが考えら れ,減量によって喘息のコントロール状態を改善できた との報告もある11)。
同じアレルギー疾患の中でも鼻炎は喘息と同じく気道 のアレルギー炎症を主な病態としており,以前よりone airway one diseaseとも言われ,相互に関係していると される。我々の調査では,鼻炎があると喘息の有症率は 増し,さらに鼻炎の重症度が強いほど重症喘息である率 が 高 くなることが 示 されている(図 2 )12)。そのためア レルギー性鼻炎を治療することで喘息のコントロール状 態を改善できるとの報告もあり,喘息診療においては下 気道ばかりでなく上気道の状態にも注意を払うべきであ 我々が喘息のコントロール状態を臨床症状でチェックす
る質問表(Childhood Asthma Control Test)の結果と,
スパイロメトリーを用いて測定した気道狭窄の程度,呼 気一酸化窒素(FeNO)を指標とした気道炎症の程度と 比較検討したところ,臨床症状によるコントロールレベ ルと肺機能は有意な相関を認めたものの,気道炎症レベ ルとは相関を認めず2),臨床症状に基づくコントロール 状態の評価には限界があると考えられた。このことよ り,より良いコントロールレベルを目指すには,定期的 にスパイロメトリーばかりでなくFeNOの測定が必要で あるが,小児において,特に低年齢児においてはこのよ うな生理機能検査は行うのが難しい。例えば,FeNO測 定で世界的に用いられている機種(NIOX MINO®)で は,正しく測定するためには10秒間一定の流速で呼気を 続ける必要があるが,我々は 6 秒間の呼気でも10秒間と 同等の結果が得られ,より低年齢児でも測定可能となる ことを示した3)。また,測定の際に最大努力呼出を必要 とするスパイロメトリーとは別に,安静換気下で気道抵 抗を測定することにより,小さい子どもでも測定可能な オッシレーション法による呼吸機能検査の有用である4)。
コントロールレベル改善への障碍 1 .アドヒアランス
コントロールレベル改善への障碍としては,まず治療 へのアドヒアランス不足が挙げられる。実際の治療を継 続してもらうためには,医師−患者間の問題意識の共有 や患者教育の重要性が言われている。さらに小児の場合 には,吸入手技が不適切であるために十分に肺内に薬物 が到達していない可能性があり,コントロールレベル改 善のためには適切な吸入指導が欠かせない5)。例えば,
啼泣すると吸入薬は十分に肺内に到達しないこと6)はあ
表 1 喘息コントロールレベルの評価 評価項目
コントロール状態 良好
(全ての項目が該当) 比較的良好 不良
(いずれかの項目が該当)
軽微な症状1 なし
1 回/月以上 かつ 1 回/週未満
1 回/週以上
明らかな喘息発作2 なし なし 1 回/月以上
日常生活の制限 なし なし(あっても軽微) 1 回/月以上
β2刺激薬の使用 なし
1 回/月以上 かつ 1 回/週未満
1 回/週以上
1 軽微な症状:運動や大笑い、啼泣の後や起床時に一過性にみられるがすぐに消失する咳 や喘鳴、短時間で覚醒することのない夜間の咳き込み
2 明らかな喘息発作:咳き込みや喘鳴が昼夜にわたって持続あるいは反復し、軽い呼吸困 難を伴う
※コントロール状態を最近 1 か月程度の期間で判定する。
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン 2012
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(light detection and ranging)システムを 用 いて 黄 砂 の飛散量を測定し,富山県内の基幹病院に喘息発作で入 院した子ども達の数を黄砂飛散があった日となかった日 で比較すると,黄砂飛散日から 1 週間の間で入院するリ スクが有意に高くなっていた(図 3 )16)。特に,学童以 上の男児でその傾向は強く(図 4 ),屋外にいる時間が 関係すると考えられた。過去においては,我が国におけ る大気汚染と喘息の関係は四日市喘息など公害との関係 で注目されていたが,その後の国による排気ガスの規制 によって大気の環境がかなり改善され,大気汚染は最近 まではあまり問題視されなくなってきた。しかし,大気 の環境は地球規模で変動し,黄砂ばかりでなく,最近話 題のPM2.5など大気汚染と喘息との関係が再び着目され てきている17)。現在,全国10万人の妊婦をリクルートし,
る13)。
3 .環境
種々の環境要因が,アレルギー疾患の発症ならびに増 悪に関与していることが知られている。我が国では,以 前スギの植林が盛んに行われ,その結果花粉飛散量が増 してスギ花粉症が増加しているとされる。都道府県別の スギ花粉飛散量と小中学生におけるアレルギー疾患の有 症率を検討したところ,スギ花粉の飛散量が比較的多い 県では小学生と中学生における鼻炎の有症率に大きな差 はなく,一方飛散量が比較的少ない県では鼻炎の有症率 は小学生では低く中学生ではスギ花粉飛散量の多い県の 有症率に近づくことが明らかになった。このことより,
スギ花粉への曝露量が多いと,より早期から鼻炎を発症 させる可能性が伺える。さらに,鼻炎の有無を交絡因子 として多変量解析を行っても,スギ花粉飛散量と小学生 の喘息有症率に有意な正の相関を認めたことより,花粉 が鼻炎を介さずに直接喘息に関与している可能性も示唆 される14)。このようなことから,鼻炎単独例において感 作されている花粉を用いて免疫療法を行うと,その後の 喘 息 発 症 を 有 意 に 減 らすことができたとの 報 告 もあ る15)。
また,近年越境汚染などの言葉で表されるように中国 からの 黄 砂 の 影 響 についても 検 討 している。LIDAR
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
4-5歳 6-7歳 13-14歳 16-17歳
期間喘息有症率(%)
やせ 普通 肥満
*
*
*
*
) 9 9 6 , 4 3
= n
( (n=40,623) (n=46,383) (n=52,111)
*: p<0.05
図 1 各年齢別の体格による喘息有症率9,10)
0 5 10 15 20 25
6~7歳 13~14歳 16~17歳
全くなし 少し 中程度 大いに
(n=3946) (n=3502) (n=3357) (%)
鼻症状の日常生活への影響
OR=1
OR=1
OR=1 1.73*
2.31*
3.66*
1.47 1.88*
2.55*
1.10 1.26 1.87*
*:p<0.05, 地域、性、肥満の有無で補正 重
症 喘 息 の 割 合
図 2 鼻炎を合併した喘息児における鼻炎の重症度と 重症喘息の関係12)
図 3 黄砂飛散日から 1 週間以内に喘息発作で 入院する相対リスク16)
Lag
(日)オッズ比
95%信頼区間
図 4 黄砂飛散と喘息入院の関係
(上段:年齢別、下段:性別)16)
足立:「最近の小児気管支喘息診療よりよいコントロールレベルを目指して」 53 6 .Murakami G, Igarashi T, Adachi Y, et al: Measurement
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吸入療法
3
: 58–62, 2011.8 .足立雄一:喘息の発症因子と増悪因子.30th 六甲カン ファレンス 2010年における気管支喘息の全て(足立 満,森川昭廣,秋山一男,大田 健,東田有智 編):23- 28,ライフサイエンス出版,東京,2011.
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11.足立雄一:小児の肥満と喘息.アレルギー・免疫 20:
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生まれた子どもを13年間フォローすることで,環境が子 どもの健康にどのように影響するかを調査する大規模プ ロジェクト「子どもの健康と環境に関する全国調査(エ コチル調査)」が進行している。富山大学もユニットセ ンターのひとつとして参加しており,今後いろいろな角 度から環境と喘息との関係について新たなデータが出て くることが期待される18)。
おわりに
喘息をはじめとするアレルギー疾患の発症率は,第二 次世界大戦以降急増した。このような増加は遺伝子の変 化によるとは考えられず,環境の変化,そして環境と遺 伝の相互作用などがその要因と考えられている。そのた め,今後はこのような発症に関与する因子を明らかに,
それによって予防法の開発を進めることが重要である。
謝 辞
共同研究者である東京都立小児総合医療センターアレ ルギー科の吉田幸一先生,赤澤 晃先生,京都大学大学 院医学研究科健康情報学の金谷久美子先生,中山健夫先 生,そして本学公衆衛生学の浜崎 景先生,稲寺秀邦先 生に深謝申し上げる。
文 献
1 .足立雄一:小児気管支喘息の寛解と治癒.日本小児アレ ルギー学会誌 21: 271–280, 2007.
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