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サイエンティスト冨田勝 1
2019 年 10 月 20 日
佐々木 達郎 石井 美季 牧 兼充
5学者宜しく世間の嘩(かまびす)しきを憚らず、異端妄説の譏(そしり)を恐るることなく、
勇を振て我思う所の説を吐くべし。(福澤諭吉)
1. イントロダクション 10
2019 年 9 月、冨田勝は自身 4 つ目の博士号となる博士(政策・メディア)の学位授与式に参列し ていた。冨田は専門であるコンピュータサイエンスと生物学を融合させた学際領域で新たな研究を 始めるにあたり、コンピュータ・サイエンス、工学の博士号に加えて、医学の博士号も取得してい た。これは学際領域のそれぞれの博士号を持つ専門家として指導することで、学生に不安を与えな いという配慮に基づくものであった。
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鶴岡の地で全く新しい研究所を立ち上げてから 20 年が経とうとしている。これまでも画期的な 研究成果を国際学会で発表し、有名な雑誌に論文を掲載してきた。優秀な学生たちを育てて送り出 し、大学の研究所所長としての役割は十分果たしてきた。しかし、山形県や鶴岡市、地域の中小企 業経営者や高校生たちと接していく中で、地域を発展させていくには社会的課題が山積しているこ とを実感するようになった。鶴岡を活性化させるために自分に何が出来るか。冨田は 4 つ目の博士
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を取得する決意をし、「鶴岡サイエンスパークの創造と地方創生」という博士論文をまとめた。冨 田は 4 つ目の博士号と共に、研究所で育んできたイノベーション実現の組織文化を地方創生につな げる方策に知恵を絞っていた。
1 本ケースは、早稲田大学ビジネススクール准教授牧兼充監修のもと、早稲田大学ビジネス・ファイナンス 研究センター科学技術とアントレプレナーシップ研究部会と、JST-RISTEX「スター・サイエンティストと 日本のイノベーション」が共同で開発したものである。本ケースの執筆は、JST-RISTEX「スター・サイエ ンティストと日本のイノベーション」の助成を受けて行われた。本ケースは、佐々木達郎(政策研究大学院 大学専門職、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員)、石井美季(早稲田大学ビジネ ススクール牧研究室)、牧兼充(早稲田大学ビジネススクール准教授)が共同で執筆した。インタビューにあ たっては、宮地恵美 (早稲田大学ビジネススクール非常勤講師、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究 センター招聘研究員)が協力した。本ケースは、クラス討議の基礎資料として作成したものであり、経営・
運営の巧拙を例示しようとするものではない。
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2. 冨田勝のバックグラウンド1)
冨田は音楽家である両親の長男として生まれ、幼稚舎より大学までを慶應義塾で過ごすとい う、いわゆる受験戦争に無縁で自由な幼少期を過ごした。冨田は自分が面白いと感じたものに熱中 して実行する少年で、慶應義塾普通部(中学校)3 年間の夏休み自由研究課題が「5000 回ポーカー をやって算出した手の強さと確率の関係」「五目並べ必勝法の探索」「プラパズル 779 通りの解の
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発見」というユニークな内容であった。レポート用紙 100 枚以上に及ぶこともあった研究論文は先 生からほめられ、3 年連続で特別賞を受賞することとなった。自分が面白いと感じたことを徹底し て研究し、その成果がほめられるとまた次の研究テーマを探すという研究者としての行動規範はこ の頃から芽吹き始めていた。小学校・中学校時代は将棋に熱中し、大人が集まる将棋道場に毎週通 い詰めて腕を磨いた。詰将棋を解くために数時間も黙々と考え込む姿は両親が心配になるほどだっ
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たという。
大学時代は当時社会的に大流行していたインベーダーゲームに熱中した。ゲームセンターに通 い詰めて練習を重ね、その技量は足だけでプレイしても高得点が出せるくらいの達人の域に及んで いたという。やがて市販されているゲームを遊ぶだけでは飽き足らず、独学でプログラム言語を学 び、オリジナルのコンピューターゲームを作って販売するまでに至った。さらに冨田はゲーム製作
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で培った技術を磨いて、コンピューターで漢字と仮名を出力できるシステムを開発した。当時、日 本語はカタカナがようやく使えるくらいで、漢字と仮名は業務用の大型機でしか使えなかった時代 である。開発したシステムは世界初といくつかの雑誌でも取り上げられて話題を集め、販売契約金 は 100 万円の王台に乗ったという。このように冨田は興味を持つものがあると徹底的にのめり込 み、実現するだけでなく、どうしたらお金に繋がるかという経済的な面までを常に考えていた。
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大学での研究では人工知能をテーマとした。少年時代に熱中した将棋と、大学時代に身につけ たプログラミング技術でコンピューター将棋の開発に取り組んだが、当時の技術では将棋のルール があまりに複雑すぎることがわかった。しかし、コンピューター将棋開発の過程で思考過程を考え 抜いたことで、人工知能に強い関心を抱くようになった。当時、人工知能は「失敗した学問」とい う烙印を押されていた時代であったが、自分が面白い・楽しいと感じるテーマであり、本場アメリ
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カに渡って研究を行うこととした。
これまでは自分の好きな科目だけを勉強してきた冨田であったが、この大学院の受験ばかりは 試験のスコアが必要であり、必死になって苦手な科目の勉強に集中したという。苦学の末にカーネ ギーメロン大学の合格をつかみとり、人工知能の第一人者であるハーバード・サイモンに師事する こととなった。膨大な数の課題論文と博士号資格筆記試験の難関を乗り越え、人工知能を用いた自
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動翻訳の研究を専門に進めた。1985 年に博士号を取得した後、カーネギーメロン大学の助手とし て研究に従事し、米国立科学財団(NSF)から大統領奨励賞を獲得した。この受賞により、冨田は人 工知能研究者の中でも一目置かれる存在となっていった。
1990 年に帰国し、慶應義塾大学環境情報学部助教授として着任した。勤務先である湘南藤沢キ ャンパス(以下、SFC)はコンピュータ環境が非常に充実しており、キャンパスネットワークが構
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築されて電子メールや電子掲示板も利用されていた。1990 年代になってからヒトゲノム計画が本 格化し、SFC でもゲノム解析にコンピュータを活用するバイオインフォマティクスの重要性が高ま っていた9)。人間の生命の設計図でもあるヒトゲノムは 30 億個の塩基対から構成されているが、
これは 30 億文字の暗号を処理する情報科学と捉えることができる。情報科学者の目から見た時、
生命は細胞 1 つでコンピュータよりも迅速に情報を処理する優秀なシステムに見えたのである。高
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校までの生物は暗記科目でつまらないと感じていた冨田であったが、分からないことが沢山あり、
生命の本質に迫ることができることに引き込まれるようになった。そして本格的に分子生物学を学 ぶために現役の大学教員の立場でありながら、1994 年に医学研究科博士課程に入学したのであ る。
米国の有名大学に於いて博士号を取得するまで専門的な人工知能研究を続けた研究者が、30 代
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後半ばで生物化学へ 180 度転換するという一般的に「あり得ない」経歴は、冨田の興味を実現する 行動力を表している。
3. 慶應義塾大学先端生命科学研究所の創設2),3)
慶應義塾大学先端生命科学研究所(Institute for Advanced Biosciences, Keio University、
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以下 IAB)は 2001 年に山形県・鶴岡市・慶應義塾の三者合意により創設された。
山形県鶴岡市・酒田市を含む庄内地域は日本海に面した人口 30 万人余の地域である。そこでは 4 年制大学が山形大学農学部に限られることから、地域の大学進学率が低いという課題に直面して いた。そこで庄内地域内に 4 年制大学を創設して地域の活性化をはかることを期待して自治体と大 学が協議した結果、公設民営大学として東北公益文科大学の創設が決定された。酒田市に学部、鶴
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岡市に大学院を創設することとなったが、学部と大学院では学生数に大きな差があることが問題視 された。鶴岡市になんらかの研究所も併設することになり慶應義塾大学が研究拠点 (後に IAB と名 付けられる)を創設することとなったのである。
この研究拠点招致に尽力したのが当時鶴岡市長であった富塚陽一6)である。1991 年に市長に当 選して市政を担ってきたが、農業を中心産業としている鶴岡市にも今後は知識産業が到来すると意
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識していた。「生命を科学し育てる力が地域の力である」という理念は現在に到るまで引き継が れ、IAB に対する鶴岡市の継続的な支援の礎となっている。
研究拠点開設は決定したものの、自ら率先して東京を離れて山形県鶴岡市に赴任して拠点責任 者になろうと手を挙げる教員は現れなかった。そんな時、当時 42 歳の冨田に白羽の矢が立ち、高 橋常任理事から「世界が振り向くような面白い研究をしてほしい」と、所長への就任を打診され
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た。冨田であればこの職務をやり切ると見込んだ大抜擢であった。
初代 IAB 所長となった冨田はこの研究所を「統合システムバイオロジー」の世界的センター・
オブ・エクセレンスとすることを目指した。「統合システムバイオロジー」とは、様々な生体分子 を網羅的に分析し、得られた膨大なデータをコンピュータによって高速で解析することで、生命現
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象を理解しようとするパラダイムである。冨田には「今後の生命科学には膨大なデータの解析結果 から仮説を生み出す研究方法が必要になる」という確信があったのだ。しかし、先に仮説を立てて 実験データで検証するという従来のアプローチに真っ向から対立する発想であり、当時の生物学者 からは「そんなものは生物学ではない」と反感を買うこともあった。
しかし「研究については私の思う通りにやらせてほしい。世界の研究所に伍して成果を出すた
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めには、所長の判断でスピーディに物事を決めることが不可欠」という条件の元に引き受けた所長 職であり、自身が面白いと熱中するものに集中して取り組む性格ゆえに、研究所の立ち上げ・テー マ設定・人選は冨田の判断でスピーディーに決断されていった。
4. 研究所の運営体制2),3) 10
研究を継続するためには安定した財源が必須である。IAB は山形県・鶴岡市・慶應義塾の合同 プロジェクトであり、運営予算については山形県及び鶴岡市が提供していた。研究所に公費を支出 することに対して反対意見を持つ県議会・市議会議員も現れたが、富塚市長(当時)は農業中心の 庄内地域が 30 年先にも存続していくためには、世界が振り向くような研究所を持って新たな産業 を興すことが大切なのだと訴えた。今生活している市民ではなく、次の世代につながるような産業
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のタネを仕込んでおくことが必要であるという信念は譲らなかった。鶴岡でしかできない研究を確 立することが優秀な研究者を誘致する方法であり、地域の産業に貢献して人口の流出を食い止める 手段でもあるとし、2001 年の設立以来山形県が 55%、鶴岡市が 45%の分担で継続的に毎年 7 億円 程度を IAB に支出している3)。
研究所が研究費・運営費を獲得するには、研究所が所属する組織の予算から支出してもらう
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か、国の大型競争的資金を獲得することが一般的である。後者の場合、大半の大型予算は国の特定 の政策に基づいたテーマを実現することを目的としている。研究テーマも採択された研究プロポー ザルに書いたことを実行することが求められ、実施報告の義務や予算の使用用途制約も多い。限ら れた期間で当初の計画に沿った成果が求められ、社会実装を要求されがちな国の大型競争的資金 は、自由な発想をベースにして長期的な基礎研究に取り組むには不向きであった。
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それに引き換え山形県・鶴岡市は、長期にわたって人件費にも支出しうる運営費を供与した。
これは、基礎研究所の運営において柔軟性を確保する源となった。協定書4)においても IAB の取り 組みを「世界的なバイオ研究拠点の形成に向けた研究教育活動の展開」を第 1 に挙げており、2 番 目として地域活性化のための産学官連携・IAB の知的財産活用・人材育成を通じた地域貢献と定め ている。つまり、研究成果を地元企業が事業に応用して収益を上げることや雇用を増やすといった
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直接的な経済効果はそもそもの目的としていないのだ。卓越した研究成果を世に送り出すことで IAB の知名度を上げ、新たな産業の中心となることで庄内地域が存続していく可能性に賭けたの だ。設立以来、IAB ではトップジャーナルに掲載されるような研究成果を出し続け、優秀な学生を 一流の研究者に育て上げることで、地域の理解と新たな研究者の獲得に成功した。「優秀な人材は
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首都圏でないと集まらない」という定説を覆し、「鶴岡の研究所は面白い」と思わせた実績と言え る。
IAB 内の運営に目を向けると、研究活動については指導担当教員を中心とした「研究室」単位 でではなく「プロジェクト」単位をとっている5)。学生が一度研究テーマを決めると、その分野を 扱う担当教員の研究室に所属し、途中で研究室を変えることができないという一般的に見られる自
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然科学系研究室制度とは異なっている。担当教員ごとに予算や学生を割り当てるというやり方を採 用していないのは、研究によって得られた知識を研究室で狭く囲い込むことを防ぎ、多くの研究者 と交わる機会を増やして知識を広く研究所内で還流させるためである。学生は自分が興味を持った プロジェクトに自由に応募してメンバーとして参画し、実験を行って研究成果を生み出す方式を採 用している。研究室単位で担当教員が決めた研究テーマに沿って実験を行うのではなく、自分がや
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りたいと思ったプロジェクトに加わって実験をしながら研究所内を渡り歩くことをよしとしてい る。学生が与えられた特定のテーマに制約されることなく、自由な発想で様々なプロジェクトに参 加できる環境作りを担保している。
学生が既存のプロジェクトには収まらない新しいテーマをやりたいと提案してきたとき、冨田 は一緒に研究に取り組みたいという賛同者を 2 人探して来るように伝えている。起案者はその研究
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テーマの面白さや意義を研究所内でプレゼンテーションすることで勧誘を行い、それに共感する共 同研究者を確保できれば、プロジェクトとして予算化するという。冨田はできるかできないか、成 功するかしないかではなく、学生がどのくらいその研究に没頭できるかを基準に選抜し、承認して きた。
IAB の研究者は原則有期雇用である。研究者には研究プロジェクトで世界中のどこよりも早く
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成果を出して、実績を上げていくというスピード感が求められている。また、現場を支える技術員 は 3 年任期で延長はないが、半年経つと再度応募ができるため、周辺の時給より高いという理由で 再雇用を志願する者が多い。
また、IAB では学生・研究者がリフレッシュできる設備を充実させている5)。雪の多い鶴岡では 冬の間は外に出て気分転換をすることは難しいためである。実験に疲れたらトレーニングジムやラ
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ンニングマシンで汗を流し、大きなバスルームで体を温められる設備が整っている。また学生・研 究者が気軽に談話ができるような部屋も随所に揃っている。このように気分転換をしながら交流を 行うことで、お互いを理解して協力を促す仕組みが取り入れられている。このような本格的なリフ レッシュ施設を大学構内に設けることには反対意見も多く、当初は承認されなかった。そこで冨田 は高橋常任理事が出張する際に新幹線の隣の席に座って、移動中にずっと研究所にリフレッシュ施
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設が欠かせないことを説得し続けるという驚異の粘り強さを発揮した。ついに根負けして設置が許 可されたが、自由な発想で研究ができる環境を整備するという冨田の執念が見えた一幕であった。
子育て中の研究者・職員向けには IAB の拠点内に保育園が整備されている。生後 3 か月から入 所が可能であり、専門の保育士がついて対応している。子どもに何か異変があったときは保育士が 内線で親を呼び出すことになっている。保育料は地域の保育園と比較して高めと言われているが、
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職場敷地内にあり、子どもに何かあるたびに仕事に穴を開けなくてすむことから研究所に勤める技 術職員の間でよく利用されている。
5. 人材育成・採用
冨田は学生が自由に研究することを「放牧」と呼び5)、自分が面白いと感じるテーマについて
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自由に研究をすることを最重要視してきた。従来の研究室であれば教授がいくつかのテーマを設定 し、それを学生が分担し研究として論文にまとめる方式が一般的であった。そうすれば研究室的に も研究テーマが進んで安泰であり、学生もテーマ設定に悩まずに研究を進めて学位がとれるという 算段である。しかし、このように人に決められてプレッシャーをかけられてやらされる研究では、
学生から自由な発想や奇抜なアイディアが生まれないし、壁にぶち当たったときに粘りがなくて簡
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単に諦めてしまう。逆に、自分が面白いと感じてワクワクするようなテーマであれば、それを解決 するためには労を惜しまないし、さまざまな工夫をして壁を乗り越えようとする。結果としてその 実験アイディアでは思うような結果が得られなかったとしても、その研究の過程で学ぶものは多 く、それは評価に値する。冨田は人材育成において、福澤諭吉の「学者宜しく世間の嘩(かまび す)しきを憚らず、異端妄説の譏(そしり)を恐るることなく、勇を振て我思う所の説を吐くべ
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し。」をモットーにしている。自分が本当にやりたいと思ったことであれば、周りから否定されて も堂々と議論をすることができ、そこから研究が発展していくのである。
IAB では「普通に努力すれば出来そうなこと」「誰でも思いつきそうなアイディア」と言った 研究計画に対しては、「それは普通だね」と評価される。冨田の基準からすれば普通とはすなわち 0 点であり、取り組む価値がない5),7)。逆に、これまで誰もやったことがないこと、有名な先生が
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口々に反対していること、企画段階で成功の目処が立っていないこと、など意欲的なアイディアに 磨き込まれて初めて評価されることになる。もちろん、ただの無鉄砲な突拍子のないアイディアで はなく、学生本人が面白くて自分でやりたいというテーマであることが大前提である。このように 冨田は熱意を持って自由な発想で研究テーマに取り組むことを推奨し、研究所内でも実践してき た。この「普通ではない、ワクワクすることに取り組む」という価値観は IAB の中で行き渡ってお
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り、学生の間でも「それは 0 点だ」という言葉が飛び交っている。
若手に積極的な役割を担わせることに、冨田の指導力は際立っていた。「教科書の勉強のしす ぎは金の卵を凡人にする」「わかっていることを覚えるだけの勉強はつまらなくて疲弊するだけ」
が持論で、偏差値重視の高校教育に一石を投じるべく、地元高校生を研究所の助手として採用する 制度や「特別研究生」として高校生自ら研究を進められる場を設けている。答えのない問題に挑戦
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する中で生まれるアイディアと行動力が重要と考え、このような能力を鍛えるためには実際に研究 をすることが良いと冨田が考えているためである。IAB へは、隣にある県立鶴岡中央高校から生徒 が放課後に研究助手としてアルバイトに来ている5),8)。SFC の学部生・大学院生が研究結果を学会 発表する場合にも共同研究者として名を連ねるケースが多いが、高校生の研究助手が共同著者とし
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てまとめた研究成果を学会で発表し質疑を受けることもあった。このような研究活動体制は年功主 義をとらず対等な研究者として若手を処遇する冨田の方針を示すものであり、早くから先端的な研 究に参加させることで科学への関心を植え付けることが重要であるという考えの現れでもあった。
冨田は常に「教育で大切なのは教えることではなく面白さを伝えること」だと説いていた。良い研 究をするためには教科書で既存の知識を取り入れるだけでなく、自分が面白いと思うテーマで研究
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して分からないことを解き明かしていくその過程が重要という理念に基づいている。このように高 校生を実験助手として受け入れることができたのは、IAB での研究領域が学際的で、高校までの知 識で実験を企画できる分野であったことも影響している。専門的な知識・技術を必要とするテーマ ではなく、農作物などの植物や昆虫を対象とし、その中で未発見のテーマに取り組むことが可能で あった。冨田は高校生助手として研究に携わった生徒たちに、慶應義塾大学 SFC の AO 入試の受験
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を積極的に勧めている。自分が研究の中でどのような新たな発見をしたか、それがどのくらい画期 的で面白いかをしっかりアピールする能力も非常に重要と考えているためだ。実際に助手として研 究に携わった高校生が慶應義塾大学に合格し、大学生として再び IAB に戻ってくるというケースも 現れている12)。
また、冨田の指導方法の例として、IAB に参画する新入生に「学生アドバイザー」と呼ばれる
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先輩をつけている5)。先輩たちは自分の研究内容を新入生の前でプレゼンし、興味を持った新入生 がアドバイザーを依頼するというシステムだ。先輩学生は成果を出すために優秀で意欲的な後輩に 自分のプロジェクトに加わって欲しいと思っているので、いかに自分の研究内容が面白くて成果の インパクトが大きいかを熱烈にプレゼンテーションする。一方で、新入生は自分が興味を持ってや りたいと感じた研究プロジェクトに加わって、優秀なアドバイザーについて研究したいと考えてい
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るので、狙った先輩学生に対して熱烈なアプローチをする。自分のスキルやモチベーションをアピ ールし、研究プロジェクトの論文を読んで先輩学生相手にディスカッションを積極的に行うことも 珍しくない。このように競争原理を取り入れて新入生・先輩学生がお互いの希望を出してマッチン グを行うことで、全員がやりたいと思えるテーマに集中して取り組めるようにプロジェクトメンバ ーの選考が行われているのである。
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めでたく相思相愛になった場合のみアドバイザー関係が成立するのだが、こうして研究テーマ を決めたら少なくとも 2 年位はその研究を進め、やはり違うと思えば別のアドバイザーに変更、も しくはプロジェクトそのものをやめる場合もある。冨田が学生ごとにテーマ設定のアドバイスをす るというよりは、この学生アドバイザー制度を採用することによって各々のグループ間の競争に任 せていると言える。その結果、新入生は研究そのものや過程などを先輩から学ぶのはもちろん、先
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輩学生は後輩を指導することで自らの研究の探求や振り返りに役立たせることができる。まさに福 澤諭吉の「半学半教」精神が実現しているのである。
一方、IAB 立ち上げに際しての教員の人事採用も冨田に一任されていた。後にメタボローム研 究の中枢を担うこととなる曽我朋義は、科学雑誌で IAB 設立の記事を見て所員に応募したが、SFC 内に勤務するものだと誤解していた。偶然にも既に曽我を採用候補者リストに入れていた冨田は、
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先端研の主要ミッションである「統合システムバイオロジー研究の一環として E-cell による全細
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胞シミュレーションを可能にするメタボロームの定量解析をしたい」、と鶴岡勤務を躊躇する曽我 を熱く説得した。その情熱に動かされてとりあえず 5 年間働くことを決意したのだが、翌年には CE-MS 法によるメタボローム解析技術の開発を成功させ、2002 年に特許を取得、現在も鶴岡の自然 と文化に親しんで定住している。必要な人材を見極め、確実に獲得する冨田の人徳で金井昭夫、板 谷光泰を含めた創立メンバーを迎えて準備を整えていった。山形県鶴岡市に著名なトップ・サイエ
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ンティストに直接来てもらうことはまず無理だったので、著名なサイエンティストの研究室のスタ ッフや学生などを紹介してもらいメンバーを増員していった。
6. IAB におけるベンチャー創業6),10),14)
冨田は研究所内で自分が面白いと感じてワクワクするテーマに取り組むように促してきた。こ
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れは取り組むテーマを必ずしも基礎研究に限定するものではなく、学生が技術の応用や事業化に興 味を見出した場合にはベンチャーを創業することも支援した。
IAB での研究内容を応用するバイオベンチャーに加えて、IAB での人の繋がりがきっかけとなっ てヤマガタデザインのような不動産・農業・人材ベンチャーも生まれており、研究から地域貢献へ と IAB がハブとして果たす役割も大きくなっている様子がうかがえる。
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① ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
IAB 創設からわずか 2 年後の 2003 年に、ベンチャー・キャピタリストの大滝義博の強い勧めも あり、冨田は曽我と共同でヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社(以下、HMT 社)
を創業した。慶應義塾も 100 万円出資したが、大学としてはこれが初めてのベンチャー投資であっ
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た。2007 年 12 月に行った第 3 者割当増資では、地元金融機関や、東北地区のベンチャー・キャピ タルとともに追加の出資を行っている。初代の社長には大滝が就任した。IAB に技術はあっても創 業実務を担える経営人材がいなかったからである。
HMT 社のビジネス基盤となるメタボローム解析技術とは、細胞内に数千種類あるといわれる代 謝物質の総体「メタボローム」を短時間で一斉に測定する分析技術である CE-MS(Capillary
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Electrophoresis-Mass Spectrometry:キャピラリー電気泳動-質量分析計)法を活用したもので ある。
大学・製薬企業・食品企業からの依頼を受注して着実に事業を成長させ、2013 年には東京証券 取引所マザーズ市場に上場を果たしている。しかし、将来の事業成長を考えると、受託ビジネスだ けでは限界があるため、メタボローム解析技術を使ったバイオマーカー開発事業への投資を継続し
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ている。人は病気になると代謝物の構成が変わることが知られており、代謝物質の量や種類の変化 を捉えることができれば客観的に疾患と判定することができる。このようなデータに基づく指標を バイオマーカーと呼び、HMT 社でも将来の事業の柱として疾患・治療効果の確認・投薬の副作用確 認といった用途にバイオマーカー開発を進めている。精神疾患領域である大うつ病の血液マーカー
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としてリン酸エタノールアミン(PEA)を発見し、2015 年には「大うつ病性障害バイオマーカー」
関連特許の通常実施権をシスメックス株式会社に付与する契約を締結した。積極的な海外展開を図 り、2012 年の米国の販売子会社の設立に次いで、2017 年にはオランダに欧州の拠点を設立した。
米国、欧州、アジアの 3 拠点による海外展開を加速させ、特に 2019 年 3 月期には中国市場参入と アジア市場のさらなる市場開発活動の強化を目指している。
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冨田および曽我が開発した、陰イオン性代謝物質の解析手法の特許を同社にライセンスした 他、共同研究を通じて発明された複数の特許の共願を行ってきている。HMT 社としてビジネスの中 で研究開発を進めたことに対し、曽我は「良いことづくめだった」と述懐している。研究資金の使 用用途に自由度が高いことで申請書類作成などに煩わされる時間が減り、顧客との打ち合わせの中 で具体的なニーズを直接知ることができたことは研究者の視野を広めることになったという。IAB
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との利益相反の観点から、HMT 社の上場のタイミングに合わせて冨田と曽我は取締役を退任してア ドバイザーとなっている。
②Spiber 株式会社
人工クモ糸を合成する Spiber 社は 24 歳のときに SFC の学生であった関山和秀が 2007 年に創業
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した。クモの糸は強度・軽さ・伸縮性に優れた理想的な繊維材料であるが、クモは肉食であるため 家畜化してクモ糸を大量生産することはできなかった。そこでクモ糸遺伝子を解読し、バクテリア に遺伝子を組み込むことでクモ糸を大量に生産するというアイディアが持ち上がったのだ。世界中 のどの組織も人工クモ糸の合成を実現できておらず、大学生が手がけるには大きなテーマであっ
20 た。
クモ糸の研究を開始したばかりの頃、関山が SFC のビジネスプランコンテストに出た時、「競 合は NASA と US アーミー」と発言して会場の失笑を買う結果となった。なかには「指導教員の冨田 の顔に泥を塗る気か!」と叱る者もいたと言う。そのような状況でも、冨田は「おれはお前の研究 を面白いと思っているから頑張れよ」と関山を激励し続けた。人工クモ糸開発の競争は激しく、ク モ糸タンパク質の合成まではできても、それを繊維状にするためには分子デザイン技術や紡糸技術
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が必要とされていた。大学の研究室で行うよりも、ベンチャーを立ち上げて資金を調達してスピー ド感を持って取り組む方がふさわしいテーマと言えた。
冨田は関山が起業する目的について、徹底的に議論を重ねた。「その起業は冨田の基準で面白 いことなのか?」「世の中が振り向くようなテーマなのか?」「そのために何をしたいのか?」ベン チャーで成功して、イグジットして大金を得ることは冨田基準では全く面白くない。何にチャレン
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ジすべきかを話し合った結果、鶴岡で技術的シーズをしっかり見出して事業化する方向性が定まっ た。デュポンや NASA でも失敗している人工クモ糸をテーマとし、起業までには紆余曲折が多かっ たという。関山は博士課程 1 年のときに Spiber 社を創業したが、何度も挫折しそうになる局面 で、冨田は「気のすむまでやったら?」という言葉で励ましてきた。冨田自身が指導教員から「あ あ、面白いね」と背中を押して自由な発想を膨らませてくれたように、冨田も「放牧」という方法
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で若い関山を見守っていた。
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12 年間の研究開発の末、Spiber 社は世界に先駆けてクモ糸の事業を展開し、構造タンパク質素 材に関連する新産業のグローバルなイニシアチブを確固たるものとするべく、総額約 220 億円の資 金を調達した。2013 年のパイロットスケールの試作研究棟に続き、2015 年には研究開発拠点およ び新型パイロットラインを設置した本社研究棟が竣工している。同社が生産する人工構造タンパク 質には、繊維としてアパレル素材への加工はもちろん、樹脂、フィルム、ゲルへの加工、また、既
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存樹脂に混ぜるなど複合材料への展開も可能である。素材には石油などの枯渇資源が含まれていな いので、持続可能な循環型社会の実現に貢献できる素材として世界中から注目を集めている。ま た、アウトドアのトップブランドである THE NORTH FACE(株式会社ゴールドウィン)とのコラボ レーションにより、合成クモ糸繊維「QMONOS」を用いた世界初の製品プロトタイプ「MOON PARKA」
の試作に成功し、近日中に市場投入の計画である。Spiber 社の事業展開へのグローバルな評価も
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高まり、2015 年以降は外国人社員が増加している。日本における地方創生の成功モデルとして政 府内での認知度も高まっている。
③株式会社サリバテック
株式会社サリバテックは全てのがんの早期発見を使命として 2013 年に設立された。同社は検体
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採取の際に身体的な負担の少ない唾液をメタボローム解析することによって、がんなどの疾患の早 期発見につながる事業を実施している。検査対象が唾液であることを活かして、どこでも手軽で簡 単に、かつ、高頻度に検査が実施できる検診システムの構築を目指している。
特にすい臓がんは、他のがんと比べて 5 年生存率が圧倒的に低く、様々な検査方法や治療方法 が開発されているにも関わらず、ここ数十年間改善が見られていない。とりわけ初期段階で無症状
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であるために、約 80%の方々がステージ IV(がんが全身に転移)の段階で見つかることが主要な原 因であると考えられている。ステージ IV の平均余命は 1 年以下と見積もられ、年 1 回の検診では 頻度そのものが不十分である。早期発見のためには、日常的にセルフチェックできる検査法が望ま しい。同社の唾液を用いたがん診断技術は、これらの問題点を解決できる可能性を秘めている。
2015 年には衛生検査所の認可を取得し、2016 年から有償検査サービスを開始した。2018 年 12
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月段階で、全国 40 カ所程度の医療機関にて人間ドッグのオプション等で使用されており、2019 年 度中には個人での唾液検査を開始する計画である。同社と IAB は、唾液検体の保存条件や測定の安 定性、精度の向上、および大規模評価について、山形県の助成金支援事業や経済産業省の事業支援 等を活用して共同研究を実施している。
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④株式会社メタジェン15)
ヒトの便から腸内細菌叢の DNA および腸内代謝物質を抽出し、それらを網羅的に解析する独自 技術「メタボロゲノミクス」を用いて、腸内環境に基づく新たな健康評価、健康維持、および疾患 予防の方法の開発事業を提供しているのが株式会社メタジェンである。同社は 2015 年に設立さ れ、2015 年度共同研究シーズ事業化支援助成事業バイオ技術事業化促進助成事業において IAB と
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11
共同研究を実施し、基盤技術であるメタボロゲノミクス評価法を確立した。2016 年度には腸内デ ザイン研究開発プラットフォーム「腸内デザイン応援プロジェクト」を発足させた。20 社以上の 企業等が加盟し、10 件の共同研究が実施され、業績も順調に増収増益となっている。冨田は特別 顧問として様々な面でアドバイスを行なっている。
実験動物用マウスの腸内環境が未知であった 2008 年頃、村上慎之介(現執行役員 COO)は冨田
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直轄で腸内環境の研究を始めた。研究プロジェクトを円滑に進めるために、実働部隊の指導者候補 を Google 検索するところから始め、当時理化学研究所に所属していた福田真嗣(現代表取締役社 長 CEO)を冨田が発見した。福田のプロフィールを見てみると、趣味の項目に「上皮細胞剥離」と 書いてあったことから、冨田は「この人は絶対普通じゃない!」と確信して熱心に説得することに なったという。福田は 2012 年に特任准教授として IAB に着任し、2015 年のメタジェン創業までは
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IAB 内で研究を続けていた。
⑤株式会社メトセラ
心不全治療効果の高い「VCAM1 タンパク質を発現する心臓由来の線維芽細胞」を発見した岩宮 貴紘(当時 IAB 研究員)が 2016 年に株式会社メトセラを設立した。同社は線維芽細胞に関わる技
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術基盤をもとに、重症心不全患者の心臓移植に代わる新たな再生医療等製品の開発を主たる事業と する研究開発型ベンチャーである。心不全の治療効果についてはラットおよびブタでその有効性を 確認しており、2017 年度に「心臓細胞培養材料」について特許の権利化(特許第 6241893 号)を 行なっている。
2014 年に東京女子医科大学で博士号を取得した岩宮は、メトセラの事業化と助成金獲得を考え
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ていた。面談で「岩宮の脱優等生的な風貌は普通じゃない」と感じた冨田は、再生医療チームリー ダーとして IAB で雇用した。メトセラ創業後も IAB 特任助教(非常勤)を兼任し、学生の研究を指 導している。岩宮の専門である再生医療と線維芽細胞に関する知見を活かして、がん線維芽細胞を 対象とした、がん転移メカニズムの解明に着手した。本研究成果を学会発表および論文投稿するこ とで、IAB のがん研究の発展に貢献している。
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⑥株式会社 MOLCURE
データドリブンによって「分子をプラモデルのように設計すること」をビジョンに掲げて事業 に取り組んでいる。次世代シーケンサーと人工知能を駆使したビッグデータ解析技術を融合させ て、製薬・バイオ企業における抗体医薬品探索をサポートする創薬スクリーニングサービス
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「AbtracerTM」を提供している。設立は 2013 年で、2016 年より鶴岡市先端研究産業支援センター 内に抗体スクリーニング実験が実施可能なラボを立ち上げて、常駐研究員が生物実験を行ってい る。2019 年時点で IAB 所属教員と MOLCURE との共同研究プロジェクトが5本遂行中である。
MOLCURE 創業者の小川隆は学部 1 年の頃から冨田の下で生命活動をコンピューター上で再現す る研究に取り組んでいた16)。CSO(最高科学責任者)の玉木聡志も IAB 出身の研究者で、小川と共
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に冨田の下で博士号を取得した。遺伝子工学など MOLCURE の技術開発に必要な基盤知識は IAB のラ
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ボの中で学んでいったという。創業準備は東京を拠点として事業を行っていたが、脱優等生的な二 人を気にかけていた冨田から鶴岡を研究拠点にするように誘われ、2016 年の鶴岡ラボ設立に至っ た。冨田からの有形・無形の支援が研究開発と事業化に役立つとの判断に基づくものであった。
⑦ヤマガタデザイン株式会社
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2013 年に冨田の紹介で、Spiber 社の関山と出会った山中大介は、サイエンスパークで奮闘する 若者に強く心を動かされ、Spiber 社に転職した。その2ヶ月後、大手不動産開発会社にて大規模 商業施設の開発や運営に従事していた経験を活かし、不動産開発の側面から支援するためにヤマガ タデザイン株式会社を設立した。その後、サイエンスパークから庄内地方全体に活動の範囲を広 げ、社会課題を持続可能な事業を生み出すことで解決することを目指す街づくり会社へと成長して
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いった。
2018 年 9 月には、「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(ショウナイホテルスイデンテラス)」
を、同年 11 月には、全天候児童遊戯施設「KIDS DOMESORAI(キッズドームソライ)」を開業し た。この 2 施設は世界的な建築家として知られる坂茂氏のデザインによるもので、国内外から注目 を集めている。
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その後、庄内全体の街づくり会社として事業内容を多角化させた同社は、農業と人材紹介業に 着手している。農業については、①野菜の生産(ハウス 21 棟での循環型農業)②人材の育成(行 政、JA、県内学術機関と連携)③ハード開発(フル換気型連棟ハウス、多段生産システム、温度管 理センサーなど)の 3 事業を推進している。人材紹介業については、志高い全国の優秀な人材を山 形庄内に UIJ ターンさせるポータルサイト「ショウナイズカン」の運営を通じ、地域企業の活性化
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に寄与している。
2017 年 12 月に IAB と教育研究を通じた地域活性化の推進を図ることを目的に、相互連携協力 に関する協定を結んでおり、KIDS DOMESORAI の立ち上げの際や、サイエンスプログラムの提供な どに関して緊密に連携を図ることとなっている。また、SUIDEN TERRASSE では、サイエンスパーク を会場に行われる Keio Astrobiology Camp や、学会などで宿泊場所を提供しており、教育、滞在
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環境の向上に寄与している。
7. IAB における企業との共同研究6),10),14)
IAB は産官学連携も活発に取り組んでおり、2011 年度から産官学連携コーディネーターを配置 している。IAB の研究成果を活用した事業化や共同研究で IAB と企業が連携できるように、ニーズ
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調査や事業内容のマッチングを積極的に行っている。IAB は県が進める「山形県バイオクラスター 形成促進事業・共同研究シーズ事業化支援助成事業」の中核拠点となり、IAB で生まれた技術シー ズを山形県内企業が活用できるような支援を行っている。2019 年では約 40 社と研究を進めてい
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る。学生・研究者・会社員と立場の違うメンバーが議論を重ね、IAB から生まれた技術を社会実装 していくプロセスは地域貢献にも人材育成にも寄与する形となっている。
連携する産業としては農産物メーカーが多いことが特徴的である。IAB のメタボローム解析技 術は、体内の代謝によって生成される成分を一度に測定するために開発された技術であるが、これ は食品の味や風味に関連する成分を分析することにも応用することが可能である。庄内地域では
5
「つや姫」などの有機栽培米、柿・メロン・セイヨウナシ・スイカのような果物、だだちゃ豆やダ イズ、ニラなどの地域の伝統野菜など、豊かな自然の中で質の高い農産物が生産されている。これ らの味の成分を IAB で培ったメタボローム解析技術を使うと、味の決め手となる成分を低コストで 発見することができる。また、農産物の生産や調理方法を変えたときの影響を科学的なデータで把 握することで、より品質の高い美味しい農産物を生産することも可能となってくる。このような地
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域の生産企業と IAB の技術が連携することで、食品素材の付加価値を高めることに貢献している。
IAB における企業とのコラボレーションは、必ずしも研究テーマのマッチングによるものだけ とも限らない。偶然にも冨田と高校の同期であった当時の損害保険ジャパン日本興亜株式会社(以 下、損保ジャパン)の西澤社長は、「今は安泰な保険業界も 20 年〜30 年後を考え、何か新しい構 想をもたなければならない」と冨田に相談を持ち掛けた。元々固い金融業という枠の中で何事もき
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っちりこなす優秀な社員がほとんどであるが、例えば自動運転など進歩する自動車技術や、カーシ ェアリングに現れる車の保有概念の変化に伴って、保険というものを進化させる革新的なアイデア を生み出す社員がいないことが不安のタネであった。そこで冨田は損保ジャパンの社員 2 名を鶴岡 へ派遣する提案をし、先端科学技術で社会課題を解決するビジネスラボで研究と人材育成を実施す ることを勧めた。これは IAB と損保ジャパンの包括連携協定の締結という形で 2018 年 3 月に公表
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されることになった。
このバイオ技術の IAB が保険会社と連携するという取り組みは一躍話題となった。新聞記事を 読んだ第一生命保険株式会社(以下、第一生命)が IAB に対して同じような連携を求めてきたた め、冨田は交渉に際して第一生命の幹部が直接鶴岡を訪問することを要請した。第一生命の会長を 迎えた際、冨田はこんな形で切り出した。「今の日本に必要なのは 20 年後を見通せるような若
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者。将来の幹部候補となる 30 代を IAB に送って現在の会社のロジックにはまらないことを経験さ せてほしい。」冨田が勧めた文理融合プログラムでは文系の人間にメタボローム解析などの理系の 実習や農業体験、ベンチャーでのインターンなど、他ではできないような体験をさせる。その「他 ではできない体験」を通して 20 年後の会社のビジョンを生み出す構想である。賛同した第一生命 は先端研発ベンチャーであるメトセラに 1 億円の投資をすることで、包括連携協定を結ぶことにな
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った。このように冨田は、大企業とベンチャーの橋渡しをし、資金面ではもちろん、IAB の知名度 も上げていった。
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8. 鶴岡の活性化6),10),14)
山形県鶴岡市は農業と観光を基幹産業としているが、大手企業は進出しておらず、地域内の大 学も IAB が進出するまでは山形大学農学部のみで、経済を成長させる起爆剤となる拠点が存在しな い状況であった。地方自治体が行う地域振興として、税制等の優遇策を提案することで大手企業の 工場を誘致し、地域内の雇用や投資を直接的に増加させて経済を発展させていくことを考えるケー
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スが多い。しかし、山形県鶴岡市は民間企業を連れてきて経済的便益を求めることをしなかった。
逆に、短期的には経済効果が生まれなくても、30 年後の産業につながる基盤を構築することを狙 って、大学の研究所を誘致することにしたのである。
そのため遠方から赴任してきた研究者たちが IAB で実験を行って優れた研究成果を論文として まとめるだけでは、設立時に課せられたミッションを達成したとは言い難い。「次世代のための種
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まき」を託された冨田にとって、学術界だけでなく山形県・鶴岡市に貢献する道を模索しなくては ならなかった。
冨田が積極的に取り組んできたことは、庄内地域の住民に対して IAB の研究成果や教育成果を 分かりやすく周知することであった。冨田自ら広報に力を入れ、IAB の業績を広く発信してきた。
最新の研究成果をいち早く論文にまとめて投稿するだけでなく、新聞などのメディアに取材しても
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らい研究成果を分かりやすく発信することにも務めてきた。地域のシンポジウムでの講演も快く引 き受け、地域で生活する住民や企業に対して丁寧に IAB の成果を説き続けた。これらの下地がある からこそ、地域農産物メーカーとの共同研究や事業化が促され、IAB の成果を活用する契機となっ た。
人材育成の観点では高校生が最新の研究に携わる機会を提供することに成功した。大学がない
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地域では、大学生は遠方に行ってしまうため、地域の高校生との接点がなく、研究に触れる機会も 存在しない。しかし IAB では高校生を助手としてアルバイト採用することで、研究に携わって学会 発表する機会も提供している。これによって地域の高校生は IAB での経験を活かして進学しても研 究の道を進むという将来が見えるようになった。IAB の研究者や共同研究企業担当者の赴任による 人口増、技術スタッフの新規雇用、鶴岡での投資などを集計すると、鶴岡市では年間約 30 億円の
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経済効果を生み出しているという。
「自然や食、歴史文化だけでなく、庄内をスポーツでも世界に発信できる街にしたい」と考え た冨田は、自ら代表となって一般社団法人世界バドミントン U15 推進協議会を設立し、2019 年 6 月にバドミントンの 15 歳以下世代の世界一を決める「世界バドミントン U15 庄内国際招待 2019」
を開催した17)。世界 9 カ国から強豪選手 19 名を招待し、地元選手も加わって 32 名が出場した。
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このように中学生が鶴岡で国際交流を行うイベントも手掛けるようになった。
IAB は設立以来、冨田の卓越した組織・人材マネジメント能力により、成功してきたと言え る。大学の研究所でありながら基礎研究に閉じるわけはない。原理を追求する基礎研究、応用を見 据えた技術開発、ベンチャーの創業や企業との共同研究を通した社会実装など、学生や研究者が
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「ワクワクするもの」に熱中する環境を作りながら、IAB 全体として多様な研究ポートフォリオを 構築してきた。このようなバランス感覚も必要だと冨田は言う。
冨田は高校生の人材育成も鑑みた助手採用、地域農産物メーカーとの共同研究、地域住民が将 来を楽しみに感じられるような研究成果の情報発信など、様々な地域振興策を実施してきた。山形 県・鶴岡市から提供される安定した財源によって、失敗を怖がることなく誰もやったことのない画
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期的な基礎研究に邁進することができた。
研究のマネジメントから、研究所全体のマネジメント、さらには地域のマネジメントと冨田が 考えなくてはならないステージが引き上げられ続けている。どのような目配り・人材配置・資源配 分をしていくべきか。冨田は IAB 及び鶴岡の更なる発展を模索していた。
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16
資料 1: 学術論文数推移
(出展: 筆者作成)
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資料 2:冨田勝の主要な学術論文・掲載誌
論文誌 論文数 被引用数
Gene 24 390
PLoS ONE 20 349
Bioinformatics 13 3,044
BMC Bioinformatics 12 252
BMC Genomics 11 248
Metabolomics 10 573
FEBS Letters 10 405
Scientific Reports 9 106
Journal of Proteome Research 8 1,015 Journal of Biological Chemistry 8 789
Analytical Chemistry 7 758
Nucleic Acids Research 7 190
Computing in Cardiology 7
Molecular BioSystems 6 236
Journal of Molecular Evolution 6 97
FEBS Journal 6 91
Proceedings of the National Academy of
Sciences of the United States of America 5 473
Electrophoresis 5 231
RNA 5 125
In Silico Biology 5 115
Molecular Systems Biology 4 3,792
Nature 4 2,670
出所: 筆者作成 (2019 年 1 月 11 日時点)
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資料 3:冨田勝の取得特許一覧
出願日 特許 発明者 出願人
2004 年 2 月 16 日
遺伝子産物の機能同 定方法及び結合物質 同定方法
冨田 勝, 伊藤 文, 曽我 朋義, 大 橋 菜摘
ヒューマン・メタボロー ム・テクノロジーズ株式会 社
2004 年 8 月 25 日
電気泳動測定による イオン性化合物の移 動時間予測方法
杉本 昌弘, 曽我 朋義, 冨田 勝
ヒューマン・メタボロー ム・テクノロジーズ株式会 社
2005 年 5 月 17 日
タンパク質のプロテ オーム定量分析方法 及び装置
増田 豪, 篠田 幸 作, 曽我 朋義, 冨 田 勝, 杉山 直幸
ヒューマン・メタボロー ム・テクノロジーズ株式会 社
2006 年 7 月 31 日
質量分析装置の検出 質量較正方法
曽我 朋義, 嘉数 勇二, 冨田 勝, 石 川 貴正
ヒューマン・メタボロー ム・テクノロジーズ株式会 社
2008 年 8 月 06 日
疾患マーカー、およ び、疾患マーカーの 測定方法
冨田 勝, 篠田 幸 作, 石川 貴正, 曽 我 朋義, 上野 由 希, 榊原 裕仁, 大 橋 由明, 永嶋 淳
ヒューマン・メタボロー ム・テクノロジーズ株式会 社
2009 年 11 月 18 日
ヒト口腔癌検出のた めの唾液の代謝バイ オマーカー
ウォン,デイヴィッ ド, 冨田 勝, 杉本 昌弘, 平山 明 由, 曽我 朋義
ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリ フォルニア, 学校法人慶應 義塾
2016 年 9 月 08 日
糞便試料から物質を 抽出する方法
福田 真嗣, 石井
千晴, 冨田 勝 学校法人慶應義塾 2016 年
11 月 02 日
対象物の使用者を判 定する方法
福田 真嗣, 吉川
実亜, 冨田 勝 学校法人慶應義塾
(出所: 筆者作成)
19 資料 4:冨田勝の関わったベンチャー企業一覧
ベンチャー企業名 創業年 創業者 業務内容 ヒューマン・メタボロー
ム・テクノロジーズ株式会 社
https://humanmetabolome.
com/
2003 年 冨田勝 曽我朋義
メタボローム解析のリーディングカン パニー。
血液や尿、細胞、食品、飲料品などに 含まれる代謝物質の網羅解析や、うつ 病を始め様々な疾患の診断バイオマー カー開発を展開しています。
Spiber 株式会社
https://www.spiber.jp/
2007 年 関山和秀 クモの糸に代表される高機能構造タン パク質を人工的に合成・生産し、次世 代バイオ素材として実用化するための 研究開発を行っています。
株式会社サリバテック https://www.salivatech.c o.jp/
2013 年 砂村眞琴 サリバテック社は唾液を用いた疾患検 査技術を実用化し、がんなど様々な疾 患の早期発見に貢献します。
株式会社メタジェン https://metagen.co.jp/
2015 年 福田真嗣 便からその人の健康や疾患リスクに関 する情報を抽出し、食習慣の改善策を フィードバックすることで、腸内環境 の改善による病気ゼロの社会構築を目 指します。
株式会社メトセラ
https://www.metcela.com/
2016 年 岩宮貴紘 野上健一
臓器細胞の機能性を高める「マイクロ エンバイロンメント」に関する研究開 発を通じ、心不全向けの再生医療製品 の開発を目指します。
株式会社 MOLCURE
http://molcure.com/jp/
2013 年 小川隆 MOLCURE は次世代シーケンシング、バ イオインフォマティクス、人工知能を 統合した独自のバイオ医薬品開発プラ ットフォーム Abtracer™を有するバイ オベンチャー企業です。
(出所:http://www.iab.keio.ac.jp/about/venture.html を整理・追記・改編)
20
資料 5:獲得外部資金
(出所: 冨田勝.(2019).鶴岡サイエンスパークの創造と地方創生. 慶應義塾
5大学 政策・メディア研究科博士論文.表 8-1、表 8-2 から筆者グラフ作成)
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資料 6:博士課程修了後の進路
以下のリストは大学・研究所に就職した人の一部です。他にも多くの分野で活躍している卒業 生がいます。所属は現時点あるいは博士取得直後、またはその両方です。
藤島 皓介 米航空宇宙局(NASA)研究所
谷内江 望 ハーバード大学医学部⇒トロント大学⇒東京大学先端科学技術研究センター 清水 友益 ケンブリッジ大学⇒ハーバード大学⇒オランダFOM研究所
斎藤 輪太郎 カリフォルニア大学サンディエゴ校 (UCSD) 鈴木 治夫 コーネル大学
小知和 裕美 カリフォルニア大学サンフランシスコ校 (UCSF) 高橋 恒一 米モルキュラーサイエンス研究所⇒理化学研究所
福田 陽子 東京大学医科学研究所⇒マックスプランク研究所(ドイツ)
渡邉 由香 マックスプランク研究所 (ドイツ)⇒慶應大学医学部分子生物学教室 篠田 幸作 カリフォルニア大学サンフランシスコ校 (UCSF)
池田 香織 シンシナティ大学 戸谷 吉博 大阪大学情報科学研究科 藤森 成雄 東京大学医科学研究所 柚木 克之 東京大学理学系研究科
黒木 あずさ 東京大学新領域創成科学研究科 松崎 由理 東京工業大学情報理工学研究科
谷内江 綾子 慶應義塾大学医学部医化学教室⇒トロント大学 小川 雪乃 慶應義塾大学医学部解剖学教室⇒筑波大学 荒川 和晴 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 佐野 ひとみ 慶應義塾大学環境情報学部
(出所: Keio SFC journal Vol.15, No.1 (2015. ) ,p.8- 21 「SFC バイオと先端
5生命科学研究所の歩み」表 1 から引用)
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資料 7:IAB の研究分野
基盤技術
Genomics
生命活動にはたくさんの遺伝子の働きが必要です。生 物のもつ全ての遺伝子(ゲノム)を対象にして、その 機能を解析します。また、有用なゲノムのデザインを 目指しています。
Transcriptomics
最近さまざまな機能の存在が判明してきた"もう一つの 核酸"である RNA に注目し、情報科学や分子生物学を駆 使して、遺伝子制御の新しいパラダイムに挑戦しま す。
Proteomics
全てのタンパク質(プロテオーム)に対して発現解 析・定量解析ができる手法を独自に技術開発し、プロ テオーム解析を行うことによって生命現象の解明に取 り組みます。
Metabolomics
当研究所が開発した細胞内の物質を短時間で一斉に測 定する技術を、さらに高感度・高速測定技術を開発 し、医療・食品・環境などさまざまな分野に応用しま す。
Bioinformatics
上記のような網羅的解析手法(omics)で得られた膨大 なデータを用いて、生命現象の包括的な理解を目指し ます。このためにコンピュータ上で細胞をシミュレー ションするためのソフトウエア「E-CELL(電子化細 胞)システム」を開発しています。
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資料 7:IAB の研究分野 (続き)
医療バイオ
がん医療
がんの発生や増殖に関わる様々な代謝物質をすべて解析 し、がん細胞の代謝動態を明らかにし、新しいタイプの抗 がん剤の開発をめざします。
鶴岡みらい コホートプ ロジェクト
鶴岡市民1万人のご協力のもと、生活習慣病のメカニズム を明らかにし、効果的な予防方法を確立するための「鶴岡 みらい健康調査」(鶴岡メタボロームコホート)を平成 24 年に開始しました。鶴岡市や地域の保健・医療機関と連携 し、メタボローム解析技術を駆使して行われる世界初の調 査で、未来の市民検診に役立てられます。
人体常在菌
腸内や皮膚、涙液中など、からだの至る所に生息している 人体常在菌とわれわれの健康との関係を明らかにし、これ ら人体常在菌の制御による疾患予防・先制医療システムの 構築をめざします。
環境バイオ
オイル産生 藻
軽油成分を細胞に蓄積する緑藻類の代謝機構を明らかに し、石油代替燃料を産生する新しいシステムの開発をめざ します。
環境微生物
地球上の様々な環境に多様な微生物が生息していますが、
これまでの科学ではその 1%程度しか調べられていないと考 えられています。温泉や土壌などの環境中に生息する微生 物を解析し、それらが地球環境に与える影響や生物の多様 性を明らかにしていきます。
食品バイオ
伝統野菜の メタボロー ム解析
さまざまな農産物(伝統野菜や果実を含む)について、そ の呈味成分や栽培条件との関連性、加工・保存法につい て、メタボローム解析を用いて研究を行っています。
お米の特徴 の解析
山形県産米である「つや姫」をはじめとする美味しいお米 の特徴を解析し、未来のお米に活かす研究をしています。
日本酒の醸造工程での特徴を明らかにする研究にも取り組 んでいます。
(出所:http://www.iab.keio.ac.jp/about/venture.html を整理・改編)
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資料 8:IAB の職員数推移
(出所: http://www.iab.keio.ac.jp/about/member.html および過去データを
http://web.archive.org/から抽出して職員数を算出して筆者作成)5
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資料 9:冨田勝の経歴
1957 年 東京に生まれる。
1981 年 慶應義塾大学工学部数理工学科卒業
1983 年 カーネギーメロン大学コンピューター科学部大学院修士課程修了 1985 年 同博士課程修了 Ph.D.(in Computer Science)
1986 年 カーネギーメロン大学自動翻訳研究所副所長(-1990 年)
1988 年 カーネギーメロン大学コンピューター科学部准教授(-1990 年)
1990 年 慶應義塾大学環境情報学部助教授
1994 年 京都大学より工学博士号授与。論文博士。Sentence Analysis Techniques in Speech Translation(音声翻訳における文解析技法について)
1994 年 現職助教授のまま、慶應義塾大学医学研究科博士課程入学 1997 年 慶應義塾大学環境情報学部教授
1998 年
慶應義塾大学医学研究科博士課程修了医学博士(分子生物学)Introns and reading frames:Correlation between splicing sites and their codon positions(イントロン挿入部位と読み枠との相関について)
2001 年 慶應義塾大学先端生命科学研究所教授および所長に就任
2003 年 慶應義塾が出資した初のバイオベンチャー『ヒューマン・メタボローム・テク ノロジーズ社(HMT 社)』を創設。取締役に就任。
2005 年 慶應義塾大学環境情報学部学部長(-2007 年)
2012 年 慶應義塾評議員に就任
2014 年 第 10 回国際メタボローム学会年会長 2015 年 第 2 回星新一賞最終選考委員。
(出所: https://ja.wikipedia.org/wiki/冨田勝 から引用)
526
参考文献リスト
1) 冨田勝.(1991).ゲーム少年の夢 講談社.
2) 石田英夫.(2011). 慶應義塾大学先端生命科学研究所(A) アカデミック・アンドレプレ
5
ナーシップ . 慶應義塾大学ビジネス・スクールケース教材
3) 西澤昭夫.(2015).「鶴岡の奇蹟」と産学連携 大学技術移転協議会会報『UNITTE J:ユニ ット・ジェイ』第 10 号、2015 年 6 月 1 日発行 31~42 ページ所載.
4) 慶應義塾並びに山形県及び鶴岡市の第5期協定書(平成 31 年 3 月 23 日締結)
https://www.pref.yamagata.jp/ou/shokokanko/110002/kagaku-gijutsu/bio-
10
cluster/keiou_ken_shi_kyoutei/5th.keio.kyotei.pdf(最終アクセス:2019 年 9 月 12 日)
5) 2019 年 3 月 15 日実施 冨田勝氏へのインタビュー記録
6) 髙橋健彦(2013)「地方から世界水準のイノベーション~慶應大先端生命科学研究所とスパイ バー社の挑戦~」、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング季刊『政策・経営研究』、2013 Vol.3 地方から世界水準のイノベーション
15
7) 山形新聞(2018).「先端研究の求心力 鶴岡サイエンスパーク4 大学発の活性化リード /
「普通は0点」冨田イズム 学問を尊ぶ風土に根付く」. 2018 年 1 月 7 日 山形新聞 1-2 面 8) 冨田勝.(2011).慶應鶴岡タウンキャンパスの新・英才教育--自由な気風と豊かな自然が、
独創的な研究者を育む (特集 科学教育のすすめ). 三田評論,(1145),26-34.
9) 冨田勝.(2015).SFC バイオと先端生命科学研究所の歩み. Keio SFC Journal,15(1),
20
8-21.
10) 石田英夫.(2011). 慶應義塾大学先端生命科学研究所(B) 研究所発のバイオベンチャ ー. 慶應義塾大学ビジネス・スクールケース教材
11) ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社.(2018).有価証券報告書
12) 荘内日報(2011). 真の教育とは 鶴岡から日本の教育改革を 冨田所長インタビューシリーズ
25
2011 年 10 月 23 日
13) 慶應義塾大学先端生命科学研究所(2018).パンフレット
14) 冨田勝.(2019).鶴岡サイエンスパークの創造と地方創生. 慶應義塾大学 政策・メディ ア研究科博士論文.
15) 2019 年 9 月 17 日実施 冨田勝氏・村上慎之介氏・大橋由明氏・関山和秀氏へのインタビュ
30
ー記録
16) NEWSPICKS 創 薬 の 最 先 端 。 AI で 新 た な 医 薬 品 候 補 を 発 見 し 、 新 薬 を 生 む https://newspicks.com/news/3549451/body/(最終アクセス:2019 年 10 月 17 日)
17) 荘内日報(2019). 強豪国から選手集い鶴岡で初開催 世界バドミントン U15 2019 年 6 月 12 日
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